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◆−ドラスレ! 16−とーる (2010/10/27 21:03:50) No.35207
 ┣ドラスレ! 17−とーる (2010/12/18 21:01:55) No.35211
 ┃┗Re:ドラスレ! 17−kou (2010/12/19 16:08:23) No.35212
 ┃ ┗Re:あわわわわ!!−とーる (2011/5/30 16:58:07) No.35216
 ┣ドラスレ! 18−とーる (2011/5/30 17:09:20) No.35217
 ┣ドラスレ! 19−とーる (2011/5/30 17:18:47) No.35218
 ┣ドラスレ! 20−とーる (2011/5/30 17:28:02) No.35219
 ┣ドラスレ! 21−とーる (2011/6/2 18:29:51) No.35220
 ┣ドラスレ! 22−とーる (2011/6/6 16:49:20) No.35221
 ┣ドラスレ! 23−とーる (2012/5/19 21:24:25) No.35228
 ┣ドラスレ! 24−とーる (2012/5/19 21:49:37) No.35229
 ┣ドラスレ! 25−とーる (2012/5/19 21:58:57) No.35230
 ┣ドラスレ! 26−とーる (2012/5/19 22:03:59) No.35231
 ┣ドラスレ! 27−とーる (2012/5/19 22:09:54) No.35232
 ┗エピローグ−とーる (2012/5/19 22:12:51) No.35233


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35207ドラスレ! 16とーる URL2010/10/27 21:03:50


 




第十六話





「あの男、裏でどんなことやってるんだ?」

「知ってるでしょう? あるものを探してる」

「――じゃあ、魔王シャブラニグドゥを復活させようとしてるのは、
 お前の方じゃなくてあいつの方だったのか?」


俺が尋ねると、ゼルガディスはきょとんと目を瞬かせた。


「シャブラニグドゥ……? なんのこと?」

「ん……?」

「あいつが私たちに命じさせて探させていたもの――こうなったら
 言ってしまうけど、実はかの有名な“賢者の石”ってやつよ」

げ。
俺は盛大に顔をしかめて絶句した。


「そ……それじゃあ……?」


アメリアの声に、ゼルガディスは小さく頷いた。


「貴方たちが持っている神像、あの中に“賢者の石”が入ってる」


賢者の石――。

魔道をやっている者なら知らぬ者はいないだろうし、
たとえ魔道方面にそういう知識がなくとも、そこいらの協会や道端の
伝説や御伽話などで聞き知っているものは多いだろう。

古代の超魔道文明の遺産、世界を支える“杖”の欠片……。
まあ色々と説はあるものの、それが魔力の増幅器であることは確か。
それも、すこぶる強力な。
多分話として一番有名なのは、一人の見習い魔道士の手によって
一国が滅んでしまったという史実だろう。

レゾのように、伝説に近くも実在する物質。
まさかこんな風にお目にかかることになろうとは――。


「……だ……だが、あいつはそんなものを手に入れて、一体何を……」


“赤法師レゾ”が流れている噂通りのやつであるならば、
今更そんなものを手にしなくても充分強いだろうに。
俺の否定したがるような言葉に、ゼルガディスはふと目線を落として
ゆるりと首を横に振る。


「レゾが前に言ったことがある。『ただ、世の中が見てみたいだけ』と――」

「……世の中が……?」

「そう。噂通り、レゾは生まれつき盲目だった。あいつは自分の目を
 開かせるためだけに白魔術を習い始めた。目を治療する実験台として、
 諸国の様々な患者を救って。でも、何故だか自分の目だけは
 開かせられなかった。そこで考えたのさ、何かが足りないんだとね。
 レゾは精霊魔術や黒魔術にも手を出し、それらを白魔術と組み合わせて
 高度な魔術をも生み出した。それでも目は開かない。そんな時に、
 あいつが目をつけたのが――」

「伝説級のシロモノ、“賢者の石”ってことですね」


ゼルガディスは頷き溜息をつく。


「――私はあいつを邪魔するのではなく、倒したい。それにはどうしても
 “石”が必要だ。悔しいけれど、今の私にはあいつを倒す力がない……
 だから貴方に襲撃をかけた」


その酷く悔しげな、苦しげな表情からして、話すことを決めた
ゼルガディスは嘘をついてるわけではなさそうだった。
ガウリイお嬢ちゃんにはともかく、俺を上回るほど剣を扱える奴が
『かなわない』と認めている。
評されるレゾは当然、かなりのものに違いない。


「あいつを倒す――って、やっぱり、そんな体にされたからか?」


かなり直球な俺に対して、ゼルガディスは睨むように目を細め、
むきだしの掌をじっと見つめる。
しかし、瞳の奥にあからさまな憎悪をこもらせ、冷たい声色で肯定した。


「――ある日、あいつが言った。私の手伝いをするのならお前に力を
 与えてやろうと。私は……頷いた。それが何を意味するかも知らずに」

「――レゾと知り合ったのは、いつなんですか?」


雰囲気を変えようとしたらしいアメリアの質問に、ゼルガディスは
少し驚いた表情をしでアメリアを見やる。
けれどすぐに気まずそうに視線を外し、自嘲めいた笑みを浮かべつつ
やや間をおいてから答えた。


「――私が生まれた時から――あいつは私の爺さんか、ひい爺さんに
 あたるはずでね……よくは知らないし、知りたいとも思わないけれど」

「……え!?」

「ああ見えても、百年かそこらは生きてるみたいね。とにかく、
 私の中にはレゾの血がいくらか流れてるってこと」

「訊いてはいけないことでしたね……すみません」


きまりが悪そうにアメリアが目を閉じる。
やはり不思議そうな目をしたゼルガディスは、珍しいものを見るかのように
アメリアに視線を戻して、どことなく悲しげに首を振った。

うーむ、やりきれないなあ……。





NEXT.

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35211ドラスレ! 17とーる URL2010/12/18 21:01:55
記事番号35207へのコメント

 




第十七話





俺はかなりやりきれない空気に内心辟易しながらも、
つとめて明るい声で言う。


「……とにかく、これで大体のところは分かったな」

「ええ、そうね」


ガウリイお嬢ちゃんもひとつ頷く。
……いや、お嬢ちゃん、その言葉に俺は不安を感じるが。

すると今まで俯いていたアメリアが勢いよく顔を上げて、
ぎゅっと拳をかたく握る。
それを見た俺は顔をしかめた――これはまさか。


「おのれ、赤法師レゾ! 己が願いに他者を欺き、その果てに
 魔王復活を目論むなどという何とあくどい所業! 何も知らぬ
 皆々に賢者と崇められようとも、このアメリア、真実という
 正義の下において悪の心根を決して許しはしません!」

「……!?」

「あー、あれはあいつの一種のクセだから。気にすんな」

「って……」


がっつりポーズを取りながら燃えているアメリアに、
目を瞬かせて驚くゼルガディス。
やっぱりこうなったかと思いながら、ぱたぱたと軽く手を振りつつ
俺は呆然とするゼルガディスにそう言う。
最近になってきてよーやく、俺はアメリアの『正義スイッチ』が
入る前の空気を掴めるようになった。
まあ、突発に入るってことも時々あるけどさ。


「ゼルガディスさん!」

「な、何?」

「たとえレゾが強敵であろうとも、僕とリナさん、ガウリイさんは
 共に戦います! 貴女一人が適わなくとも、四人の力を合わせれば
 きっと出来ることはあるはずです!」


破顔一笑。

そこに何の根拠もあるわけではないだろうに、アメリアは笑顔で
自信たっぷりゼルガディスに言い放つ。
束の間、呆気にとられていたゼルガディスが少しだけアメリアを
眩しそうに眺める。
まあ、今までのあいつの様子からじゃアメリアみたいな猪突猛進で
明るいタイプは周りにはいなかったんだろう。
そんなタイプが、アメリアの他にもいたらいたですごいが。


「それと、すみません。……勝手にフードと口布を取ってしまって」

「……ああ」


アメリアに言われたゼルガディスは、今初めて気がついたように
口元に手を当ててベッドの上にあるマントに目線を移す。


「……驚かせたようね。悪かったわ」

「はい……まさか貴女が女性だと思っていなくて。僕としたことが」

「……ん?」


マントを手に取って苦く笑うゼルガディスに、アメリアは肩を落とす。
だが、アメリアが悄然と言った言葉に、ゼルガディスは耳を疑い、
不思議そうな表情をして、眉をひそめた。

分かる、分かるぞ、お前の気持ち。

怪訝そうにするゼルガディスに気づかず、アメリアは頭を下げた。


「あんなにきっちりフードと口布をしていましたし……出来るなら
 隠しておきたかったんですよね? すみませんでした!」

「……え、いや、別に性別を隠そうとしたわけじゃなくて……
 私はこのキメラの体を隠していただけで」

「体を? どうしてですか?」

「は――」

「とても綺麗なのに……隠すなんてもったいないですよ」


晴れやかな笑顔を見れば、本気だと分かるアメリア。
絶句したあと、複雑そうな表情を赤紫に染めるゼルガディス。
思わず唖然とした俺。
ガウリイお嬢ちゃんは相変わらずのほほん。

そりゃあ、ゼルガディスとしては複雑だろうなあ……
あんな体にされたからこそレゾに復讐しようとしてきたのに、
その体を真っ直ぐに綺麗だとか言われたら……。

ぱくぱくと物言えぬ口を開閉していたゼルガディスだったが、
にっこりと笑っているアメリアに何を言おうと無駄だと
悟ったらしく、やがて疲れたように大きく肩を落とした。

俺はそれが会話の切れ目だと感じ、軽く背伸びをする。


「とりあえず、明日のために少し寝ておいた方がいいだろ。
 ゼルガディスも少し寝たら? 疲れてるだろ?」


そう訊けば、ゼルガディスは軽く首を振る。


「確かに、疲れてはいるけど……起きたばかりだし、寝込みを
 襲われたらことよ。ベッドの上ででも見張りをしておくわ。
 ――しばらくしたら起こすから、その時に替わってもらうわね」

「じゃあ、僕もお付き合いしますよ」


アメリアがそう言い、俺は手をひらりと振った。


「りょーかい。じゃあ先に、俺とガウリイお嬢ちゃんで休むから。
 おやすみ」

「二人とも、おやすみなさい」


俺はマントを外して毛布代わりにくるまり横になり、お嬢ちゃんは
剣を抱えて壁に背もたれ、目を閉じた。
心地よい眠りに飲み込まれるまで、さしたる時間は必要としなかった。





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35212Re:ドラスレ! 17kou 2010/12/19 16:08:23
記事番号35211へのコメント

お久しぶりです。とーるさん。第十七話、待ちかねておりました!
>「ゼルガディスさん!」
>
>「な、何?」
>
>「たとえレゾが強敵であろうとも、僕とリナさん、ガウリイさんは
> 共に戦います! 貴女一人が適わなくとも、四人の力を合わせれば
> きっと出来ることはあるはずです!」
>
>
>破顔一笑。
>
>そこに何の根拠もあるわけではないだろうに、アメリアは笑顔で
>自信たっぷりゼルガディスに言い放つ。
>束の間、呆気にとられていたゼルガディスが少しだけアメリアを
>眩しそうに眺める。
>まあ、今までのあいつの様子からじゃアメリアみたいな猪突猛進で
>明るいタイプは周りにはいなかったんだろう。
>そんなタイプが、アメリアの他にもいたらいたですごいが。
 まあ、悪い人間じゃあない。悪い人間じゃあ……。ちょっと迷惑かもしれないが……。
>
>「それと、すみません。……勝手にフードと口布を取ってしまって」
>
>「……ああ」
>
>
>アメリアに言われたゼルガディスは、今初めて気がついたように
>口元に手を当ててベッドの上にあるマントに目線を移す。
>
>
>「……驚かせたようね。悪かったわ」
>
>「はい……まさか貴女が女性だと思っていなくて。僕としたことが」
>
>「……ん?」
>
>
>マントを手に取って苦く笑うゼルガディスに、アメリアは肩を落とす。
>だが、アメリアが悄然と言った言葉に、ゼルガディスは耳を疑い、
>不思議そうな表情をして、眉をひそめた。
>
>分かる、分かるぞ、お前の気持ち。
>
>怪訝そうにするゼルガディスに気づかず、アメリアは頭を下げた。
>
>
>「あんなにきっちりフードと口布をしていましたし……出来るなら
> 隠しておきたかったんですよね? すみませんでした!」
>
>「……え、いや、別に性別を隠そうとしたわけじゃなくて……
> 私はこのキメラの体を隠していただけで」
>
>「体を? どうしてですか?」
>
>「は――」
>
>「とても綺麗なのに……隠すなんてもったいないですよ」
 口説いているのか! お前は!
 なんというか、恋愛フラグが立ちまくっているような気がする。しかも、天然で……。なんというか、女の子なら可愛いのに男でこうだと……。しかも、王子。なんか、勘違いした姉ちゃんが有象無象に現れそうだ。
 などと思ってしまいます。
 なんというか、急激に寒くなってきましたがとーるさんも風邪を引かないようにお気をつけください。
 以上、kouでした。

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35216Re:あわわわわ!!とーる URL2011/5/30 16:58:07
記事番号35212へのコメント

 
こ、こんにちは、Kouさん。
お返事が本気で遅くなってごめんなさぁぁぁい!!
新年はただ忙しかっただけですが、三月からこっち……
あまりにも色々とあったもので……。
Kouさんは地震、大丈夫でしたでしょうか。

> 口説いているのか! お前は!

あはは、やっぱりそう取れますよねー。
アメリアの口説き文句(笑)は、NEXTを参照しております。

> なんか、勘違いした姉ちゃんが有象無象に現れそうだ。

きっとまったく気づかないんでしょうね、アメリアは。
ゼルガディスがヤキモキしてればいいと思います←
それを見てリナとガウリイが笑ってればいいと思います←←←

本当にお返事遅れてすみませんでした……。
ありがとうございます!

とーる

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35217ドラスレ! 18とーる URL2011/5/30 17:09:20
記事番号35207へのコメント

 




第十八話





俺は目を覚ました。

眠ってからそれほど時間は経ってないようだ。
陽の傾き具合と体の回復の度合いとで、それくらいは分かる。
それに、見張りの交代に起こされたわけでもない――
俺が目を覚ましたのは、小屋を取り巻いている殺気のせいだ。
それも一人二人じゃない。
俺も十人くらいまでなら、魔道を使わなくても相手の気配だけで
人数を言い当てることが出来るが、今は出来ない。
すなわち、敵の数がそれ以上だということ。


「囲まれたよ」


あっさりとゼルガディスが言う。
別段、声を殺そうなどとはしない。
まあ、居場所が知られているのに、そんなことをしても全く無駄だからな。


「相手は誰でしょうか?」

「トロルが二、三十匹ってとこね。レゾは来ていないようだし、
 何とかなると思う」


アメリアの問いに、気楽に答えるゼルガディス。
しかし、本当に大丈夫なんだろーか。

先ほどよりはだいぶ回復したらしいゼルガディスは立ち上がり、
マントを羽織って真っ先に小屋の外へ向かう。
俺たちもすぐに後を追って外に出た。


「さあて。――決着をつけようぜ、ゼルの姐御」


聞き覚えのある声がした。
ゼルガディスの言う通り、木々の間にちらほらとトロルたちの姿が
見え隠れしている。
俺は意識して大きな声を出す。


「よう、ディルギアさん。大変だな、わざわざこんな所まで遠征とは」


俺の言葉に、一人の獣人が意外と近くの木の陰から現れた。


「名前を覚えておいてくれたとは……こいつぁ光栄だな」

「忘れるかっ! ゼルガディスから聞いたぞ、今までさんっざん
 ザコけしかけてきたのはお前だとっ! この恨み、必ずこの俺に代わって
 ゼルガディスが晴らしてくれるに違いない! さあ行け、ゼルガディス!
 世界が君を待っている! いよっ、美人っ! がんばれっ!」

「……あんた……その性格、何とかならないの……」

「なんない」


ゼルガディスがジト目でこっちを見るが、俺はきっぱりと言う。
別に好きこのんでやってるわけじゃない。
これは、あくまでも敵の気を殺ぐための言動だ。

……本当だっつーの。


「――ディルギア、貴様、この私に忠誠を誓ったのではなかったのか?」


冷たくゼルガディスが言う。
言葉の奥底に、ごりっとしたコワイものが潜む。
しかし、その言葉を獣人は鼻先で笑い飛ばした。


「俺が忠誠を誓ったのは“ゼルガディス”じゃねえ、“赤法師が創った
 狂戦士”に対してだ。貴様がレゾ様を裏切った以上、もはや
 俺にとって貴様は敵以外の何者でもないわ!」

「……ほう……」


獣人の笑い声に、すうっとゼルガディスの目が細まった。
こーゆー表情をするとこの女、いかにも“魔戦士”といった風である。


「獣人風情がこの私に勝てるとでも、思っているのではないだろうな……」

「ではその獣人風情の力、とくと見せてやる。――かかれ!」


吠えるディルギア。
武装したトロルの群れが、一気に間合いを詰めてくる。

――馬鹿が。
ゼルガディスは小さな笑みを浮かべながら、右手を高々と差し上げた。
目には見えぬ何かを右の掌に持ったまま、それを勢いよく大地へと
叩きつけるような動き。


「ダグ・ハウト!」


げげっ!

すぐに察したアメリア、そして俺は剣を構えていたガウリイお嬢ちゃんの
手を引っ掴んで、慌ててゼルガディスの傍に駆け寄る。
水面のごとく大地が脈動し、流れ、激しく波打つ。


「ハッハァ!」


ゼルガディスはパニックに陥るトロルたちを見て狂気の笑みを浮かべながら、
右手を再び大きく振り上げた。


「大地よ! 我が意に従え!」


岩が、土が、ゼルガディスの呼びかけに応える。
大地はまたたく間に無数の錐と化し、トロルの群れを真下から突き上げ、
貫き―― 一瞬の勝負だった。

多くのトロルが錐に貫かれる凄惨な光景だが、俺もあまり他人のことを
言えた義理もない。
『リカバリィ』の応用でトロルをしばき倒したのはつい先日のことだ。
アメリアも何か言おうとしたのだろう。
口を開くが、結局、言葉を飲み込むしかなかった。





NEXT.

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35218ドラスレ! 19とーる URL2011/5/30 17:18:47
記事番号35207へのコメント

 




第十九話





「……さあ」


氷の笑みをはりつかせたまま、ゼルガディスは言う。


「早いとこ見せてもらおう。お前の力ってやつを。――それとも
 今ので腰でも抜かした?」

「……さすがに“レゾの狂戦士”だけのことはあるな。
 貴様に精霊魔術がある限り、この俺に勝算はないか……」

「へえ。それじゃあまるで、剣なら私に勝てるとでも?」

「そう言ってるのさ」


獣人は背負ったかなり長めのシミターをズラン、と抜いた。
巻き込まれるのはごめんだと、俺はさっさと身を引く。
ついでに、止めようとするアメリアも。
ガウリイお嬢ちゃんは剣という言葉が出た時にはすでに、身を引いていた。
お嬢ちゃんは俺たちとは違ってれっきとした剣士であるがゆえ、
ゼルガディスたちの戦いに手を出そうとはしないのだろう。


「リナさん、ゼルガディスさんがっ!」

「あっちは大丈夫だろ。アメリア、俺たちはこっち」

「え?」


トロルの残骸の向こう側に、初めて見る顔がいくつかある。
うち一人は明らかに魔族の奴。
ディルギアとトロルたちを俺たちに向ける第一軍とするならば、
魔族と『その他大勢』がいる第二軍ってことか。


「……たいそうなお出迎えね」


ガウリイお嬢ちゃんが剣を構えなおしながら、その軍勢を見据える。
ちらりと後ろを見れば、未だ剣をぶつかり合わせるゼルガディスたち。
とはいえ、俺の目から見ても腕はゼルガディスの方が上なので、
それほど長くは続かないだろう。
逆に言えば、魔族のいる第二軍の方がやっかいだ。

おーし、やったるわいっ!

俺は口の中で、低く呪文の詠唱を始めた。


「ファイアー・ボール!」


俺の放つ一撃が、戦闘開始の合図になった。
完全に不意をついた形となり、オーガたち『その他大勢』を炎に巻き込む。


「ディグ・ヴォルト!」

「ダム・ブラス!」


一気になだれ込んで来る敵に、俺とアメリアが攻撃呪文を叩き込む。
それを逃れた奴らをガウリイお嬢ちゃんが斬っていく。
一応俺は先頭の魔族を狙ったのだが、あっさりと交わされてしまった。
代わりに背後にいたバーサーカーを一人葬るが、これはかえって
魔族の注意を俺に引きつける結果になってしまった。
案の定、魔族は俺の方に進路変更。

えーい、来るなら来い!


「エルメキア・ランス!」

「かあっ!」


ギリギリの所で攻撃を避け、速度を増した魔族と間合いが一気に詰まる。
下級とはいえ、さすがは純魔族。
その掌から炎のムチが伸び、俺は冷気の呪文を放って空中で薙ぎ払う。
しばしの距離を置いて、対峙する。


「……このゾロムにちょっかいを出すとは、いやはや元気のいい
 坊ちゃんじゃ」

「……このリナを相手にするとは、いやはや命知らずな魔族だな」


負けじと言い返す俺に、ゾロムは低く笑う。

ぶっちゃけた話、ここで俺の大得意の魔法をお披露目して
すぐさまこの戦闘を終わらせてもいい。
ただそうなると魔法の威力上、『その他大勢』だけではなく、
ガウリイお嬢ちゃんたちをも巻き込むことになる。

そしてここを退けたとしても、レゾが遅れて登場した場合を考えると
魔力の残りがまずいことになる。

……はあっ。
こんなことならラ・ティルトを真面目に習得しとくべきだった……。


「わしから行くぞ!」


ゾロムの額がぱっくりと割れ。
そこから何条かの銀光が俺に向かって駆る。
――早い!



キィン!



銀の針が乾いた音と共に地に落ちる。
素晴らしいタイミングで剣を振るうは――


「大丈夫? リナ」


ウインク一つ。


「ガウリイお嬢ちゃん!」

「ほう……あの軍勢を抜けられる仲間がいたか」


ゾロムの問いに、お嬢ちゃんは首を振る。


「『仲間』じゃないわ。私はこの人の『傭兵』よ」

「ふむ……まあ、何でもよいわ。とにかくわしとお前は敵同士、
 ということになるのだろう?」

「そうなりますね、ご老体」

「なら、ぬしから倒してやろうぞ」

「できるかしらっ!」


言うなり、お嬢ちゃんが走る。
ゾロムから繰り出される炎のムチと銀の針をたやすく交わし、
一気に間合いを詰める。
剣が一閃した。

速い!!





NEXT.

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35219ドラスレ! 20とーる URL2011/5/30 17:28:02
記事番号35207へのコメント

 




第二十話





ガウリイお嬢ちゃんの剣技をじっくりと見るのはこれが初めてだったが、
これほどの腕を持っているとは、思っていなかった。
何せ、はたで見ていて太刀筋が見えない。
俺も並の戦士よりは剣が使えるが、お嬢ちゃんは格が違った。

一瞬にしてゾロムの頭を断ち斬る。


「はっ!」


背後から飛ぶ銀光を見事に払い落とす。


「ほう……若いわりにはやりよるわい……」

「ああ、魔族なの……」


何事もなかったかのようなゾロムに、これまたこともなげに
お嬢ちゃんが言う。
しかし、お嬢ちゃんは状況を理解しているのだろうか?


「しかし若いの、それでこのわしを斬ることなぞできんぞ」


ゾロムの言う通りだ。
レッサー・デーモンだの半魔族ならともかく、こいつのような
純魔族はアストラル・サイドに属する存在。
それを物質で滅ぼすことは出来ない。
お嬢ちゃんが持つのは結構良い剣ではあるのだが、俺の短剣のように
護符が組みこまれているわけでもない普通の剣。

しゃーない、これは俺が少し本気を出して……。


「――斬れるわ」


あっさりとガウリイお嬢ちゃんが言う。
おいおい分かっとんのか、このお嬢ちゃんは!?

しんそこ馬鹿にした口調でゾロムが笑う。


「ほほう……ならば、斬ってみてくれるか? できるものなら、の」

「では、お言葉に甘えて」


お嬢ちゃんはなにを思ってか、剣をパチンと鞘に納め、
代わりに懐から一本の針を取り出す。
右手に持った針で、左手でささえた剣の柄をつんっと突く。

……うん?

刀身を柄に固定する、留め金のある場所である。
つまるところお嬢ちゃんは、柄と刀身を分解した――ということに?
針を懐にしまい、お嬢ちゃんは微笑む。


「――こうするんですよ。分かっていただけましたか?」


何がだ!
分かるかい、そんなもん!

しかしガウリイの落ちついた態度、よほど自信があるか、
アホのどちらかだ。
ゾロムもそう思っているのか、怪訝そうにしている。


「これで――行きますよっ!」


右手を柄にかけて、お嬢ちゃんが突っこむ!
嬢ちゃんはゾロムから現れた数十本の矢を全て避け、
間合いを一気に詰める。
すごいっ!

……って、あほかっ!

傍観を決め込んでいた俺は、慌てて呪文詠唱を始める。


「光よ!」


ガウリイお嬢ちゃんが叫ぶ。
俺は目を見張り、ゾロムが硬直する。
硬直したまま、真っ向から両断されるゾロム。
悲鳴すら上げる暇もなく、虚空に崩れ去る。

ガウリイお嬢ちゃんが持った剣――刀身を抜いたはずの剣に、
煌々と光の刃が生まれていた。


「光の……剣……」


そう――俺の目の前にあるそれは――お嬢ちゃんの右手に燦然と輝く
それは――まぎれもなく、伝説の“光の剣”だった。
お嬢ちゃんが抜いた刀身は、光の剣の鞘の役割を果たしていたのだ。


「お……お嬢ちゃん……」


やっとのことで俺は声を出すが、かなりかすれている。
お嬢ちゃんは光の剣をゆっくりと“鞘”におさめ、
静かに俺を見て、にっこりと微笑んだ。

俺は駆け出す。
全力で、お嬢ちゃんのもとへ。

彼女の前で立ち止まり、じっとその微笑みを見下ろす。


「お嬢ちゃん……」

「リナ……」

「――その剣くれっ!」


こけけっ!

ガウリイお嬢ちゃんが大げさに突っ伏す。
だが、そんなことはどーでもいい。


「なーっ、お願いっ! それくれっ! なっ! なっ! なっ!」

「あ……あのねえ……」


お嬢ちゃんは疲れたように起き上がる。


「私はまた、心配して駆け寄ってきてくるものだとばっかり思って……」

「心配は後でするから、とりあえずそれ、くれっ! ――いや、
 タダでなんてあつかましーことは言わない。――五百!
 五百で売ってくれ!」

「あーのーねー! 五百って、レイピア一本買えないじゃない!」

「じゃあ思いきって五百五十! 持ってけどろぼー!」

「ドロボーはリナよっ!? もう、どこの世界に“光の剣”をそんな
 値段で売り渡す人がいるのよ……」

「ここの世界」

「リナ!」


何を言うか。
自分の払う金は銅貨一万でも大金である。
――やっぱ俺は、商売人の息子だ。





NEXT.

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35220ドラスレ! 21とーる URL2011/6/2 18:29:51
記事番号35207へのコメント

 




第二十一話





「第一、これは私の家に代々伝わる家宝の剣。いくらリナがお金を積んでも、
 売るわけにはいかないの!」

「――じゃあ俺ン家で家宝にして、代々伝えてやるから、タダでくれっ!
 それならいいだろっ、なっ! なっ!」

「だ……だああっ! どーいう理屈をこねまわしてるのよっ!?
 あげないったらあげないっ!」

「ううっ、ひどい! そんなにつれなくするなんて! あんまりだ!
 俺泣くぞっ! しくしくっ!」

「泣きなさいっ!」

「――とまあ、冗談はこれくらいにして」


いきなり真顔に戻った俺についてゆけず、再び突っ伏すお嬢ちゃん。


「な――何なの、それは!」

「いいから。ゼルガディスたちの援護に行くぞ」


言うと、俺は駆け出した。
ゼルガディスとディルギアの一対一の勝負ならば、何も心配することはない。
だが、魔族と戦ってる間に打ちもらしたオーガや『その他大勢』たちが、
ゼルガディスたちの方に向かっていったのだ。
これほどの数の敵に囲まれることもないだろうアメリアも、
そろそろ一人きりで戦うのはきついはず。

それでも駆けつけてみると、取り巻きたちのほとんどは片付けられていた。


「助けに来たぞーっ!」

「リナさん!」


形勢が一気に逆転し、全員が目を見張る。
じりじりと退がり始めたオーガやバーサーカーたちに、ディルギアが呻く。


「んっ?」


今度はゼルガディスが怪訝そうな声を上げ、足を止める。
ディルギアは後ろを振り返り、喜悦の表情を浮かべた。


「ロディマス! よく来てくれた!」


そう――。
そこにはロディマスと、初めて見る顔のかなり美形の中年剣士がいた。

ロディマスは颯爽とディルギアに近づいた瞬間。
問答無用で、殴り倒した。
ディルギアはものの見事に吹っ飛び、近くの木にド派手な音を立てて
ぶつかり――それきりピクリとも動かなかった。


「ロ、ロディマス……?」

「ふん」


思わず唖然とするゼルガディス。
のっしのっしとロディマスはゼルガディスに歩きより、庇うように立つ。


「わしが忠誠を誓ったのはゼルガディス殿。赤法師なんぞという輩に
 義理立てする謂れはない!」

「貴様ぁ!」


逆上して突っかかる奴もいたが、ロディマスが大きく振り切った
槍斧でズッパリと両断される。
あまりの迫力に、残りのザコたちが蜘蛛の子を散らしたのは言うまでもない。


「――助かった。しかしお前たち、いいの? 本当に」

「なぁに、構うものですか」


伺うようなゼルガディスに剣士が笑う。
しかし……はて、この声はどこかで……。


「すまない、ロディマス、ゾルフ。つまらないことに付き合わせて」


ぞ……ぞ……ぞるふっ!?
――ということは。
この剣士があのミイラ男の正体、ということなのだろーが……
信じられんっ!
あれの中身がこんな美形とは……。


「何にせよ、この場を征することができましたね! リナさん、
 ガウリイさん、大丈夫でしたか?」

「まあな」

「私たちは大丈夫よ、アメリア」


アメリアは頷くと、ぐっと拳を握りしめた。


「援軍も駆けつけ、僕たちには追い風が吹いています! さあ、ここで
 ぐずぐずしている暇はありません! 僕たちにはなすべきことが
 まだ残っています!」

「まったく――このお兄さんのおっしゃる通りですよ」


声がした。

にっこり笑っていたアメリアが、青ざめて硬直する。
暗い森の影からいつのまにかひっそりと姿を現し、何の音も気配もなく
アメリアの背後をとった人物。


「……レゾ……」


ガウリイお嬢ちゃんがその名を口にする。
どうしてアメリアが逃げないのかと思ったが、俺はすぐに理解した。
立ち尽くすアメリアの首の後ろに、レゾが軽く手を当てている。


「ご無沙汰でしたね。――しかし、堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。
 用件は、言うまでもなく分かっているはずですね、皆さん」

「“賢者の石”でしょう」

「ガウリイさんでしたね、ええ、そうです。――あ、変な気を
 起こさないで下さいね。このひとの首筋にさしこんだ針を
 もう一押しすれば、私は人殺しになる」


――げ!
俺たち、特にアメリアは自分の置かれた状況を知って息を呑んだ。





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35221ドラスレ! 22とーる URL2011/6/6 16:49:20
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第二十二話





ハッタリと思いたかった。
けれど、レゾの浮かべる場違いな笑み、アメリアの青ざめた顔からして
信じられるわけがない。
それにレゾがハッタリをかますような人間かどうか、
一番よく知っているはずのゼルガディスが声を失っているのだ。


「何故――これが要るの?」


ガウリイお嬢ちゃんが問う。


「ゼルガディスが説明したのでしょう? 目が見えるようになりたい――
 ただそれだけですよ」

「何で――これほどまでにして……?」


アメリアがこわごわ口を開いて尋ねる。


「説明した所で、貴方たちには理解してはもらえないでしょう――
 目の見える人には、ね。さあ――石を」


俺がちらりとお嬢ちゃんに視線を送ってみると、お嬢ちゃんは頷き、
懐からオリハルコンの神像を取り出した。


「ほら」


神像が弧を描いて宙を舞う。
レゾの右手が伸び、それをしっかりと受け止めた。


「確かに――受け取った!」


レゾの口調が変わる。邪悪な歓喜が言葉のうちにひそむ。
トン、とアメリアが突き飛ばされ、正面にいたゼルガディスが受け止めた。
俺はさっと近寄り、アメリアの首筋から生えた細い針を一気に引き抜く。


「っ……!」


ぞくっと震えたアメリアだったが、痛みはなかったらしい。
針を見てみると、親指と同じ位の長さ。
……よくこれで死ななかったもんだ。
つまり、それだけの技量をレゾは持っている。



パキン!



レゾの手の中で、神像が砕け散る。その中から出てきたのは、
小さな黒い石――あれが、かの“賢者の石”。


「おお……まさしくこれよ!」


レゾは迷うことなく、石を飲み下した。



ごうっ!



突然、強い風が吹きつけてくる。
いや、風ではない。
風に煽られて、唐突にこみ上げてくる吐き気。
物質的な力さえ持った強烈な瘴気だ。

レゾは瘴気の渦の中心で一人哄笑し、狂ったように叫ぶ。


「おお――見える、見えるぞ! くはははははっ!」


レゾの双眸は赤い色をした闇――。
完全に目が見開いた瞬間、レゾの体が異質なものに変わりゆく。
そして、俺は気づいた。レゾの正体、レゾの閉じられた瞳により、
封じ込められていたものが何であったかを。

今やレゾの顔は、目の部分に紅玉をはめ込んだ、白い石の仮面と化している。
その全身を覆う赤いローブもまた、硬質の何かに変わっていた。


「――まさか」


ゼルガディスが呻く。
彼女もまた気がついたのだ。
“赤眼の魔王”シャブラニグドゥがこの地に再臨したことを――。





「選ばせてやろう。好きな道を」


しばしの静寂のあと。
悠然と立つ、レゾだったもの――レゾ=シャブラニグドゥが口を開いた。


「再び生を与えてくれたそのささやかな礼として。従うならば天寿を
 全うすることもできよう。それが嫌だというのなら仕方ない。
 “北の魔王”――もう一人の私を解き放つ前に、相手をしてやろう。
 ――選ぶがいい、好きな道を」


とんでもねーことを言い出した。
かつての戦争で封じられた“北の魔王”を解き放つということは、
この世界を破壊に導くという意思表示だ。
それが嫌なら自分と戦えと――“魔王”と戦えと。


「たとえ魔王に協力しようとも、世界の破壊を導けば、善悪を超えて
 そこに待つは総てに等しき“死”のみ! 命惜しさに尊き未来を
 捨てることなど、出来るはずがありません!」


決まっていた応えを、立ち上がったアメリアが叫ぶ。
ゼルガディスが呆気としてアメリアを見るが、すぐに呪文を詠唱し始める。
俺の前に一歩進み出たお嬢ちゃんも、剣を抜いて構える。

そして俺は、笑った。


「『負けると分かってるけど戦う』ってこんじょーは捨てろよ?
 勝てる確立が1パーセントほどだとしても、そーいうつもりで戦えば、
 ゼロになる。――俺は絶対死にたくない。だから戦う時は必ず、
 勝つつもりで戦う! ――そういうことだ」


魔王は静かに俺たちの様子を見ていた。


「そうか――決まったか――」





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35228ドラスレ! 23とーる URL2012/5/19 21:24:25
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第二十三話





「奢るな! お前が時間の裏側に封印されていた間、人間も進歩している!
 旧時代の魔王など、このゾルフが片付けてくれる!」


事態をさっぱり理解していないらしいゾルフが、果敢にも――
いや、この場合は無謀にも俺たちより一歩前に出て叫んだ。
思わず溜息をつこうとした俺。
だが、その後に続いた言葉に息を呑んだ。


「黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの――」


――ドラグ・スレイブだと!?

黒魔術の中では最強とされる攻撃魔術。
対ドラゴン用として造られた魔法で、小さな城くらいならば
軽く消し去ることが出来る。
まさかこのゾルフがドラグ・スレイブを使えるとは……。
言っちゃ悪いが、何でゾルフ程度の男がゼルガディスの直属を
やっているのか不思議だったが、ようやく謎が解けたとゆーもんだ。

しかし――ドラグ・スレイブでは奴を倒すことは出来ない。


「やめろ! ムダだ!」



ドゴゴリュッ!



俺の渾身の蹴りがゾルフの背中に決まり、地面にめり込む。
危ない危ない……。
あと少し遅かったら、結界が強まって介入出来なくなった所だ。


「ほう……」

「あ……」


魔王は関心したように頷く。
唖然としていたゼルガディスは目を見開いた。

気づいたのだ、俺が何故止めたのか。


ドラグ・スレイブは黒魔術であり、しかも力の源となっているのは
今目の前にいる“赤眼の魔王”なのだ。
お前を殺すのを手伝ってくれ、なんて、ナンセンスすぎる。


「ロディマス、ゾルフを連れて逃げなさい!」

「わ、分かりました」


自分では手が出せないことを悟ったのだろう。
ゾルフはゼルガディスの言葉に素直に従い、気絶したゾルフを
しっかりと背負って前線を離脱する。

それが戦闘の始まりだと、魔王も受け取った。

手にした杖でトンと軽く地面を突く。
すると、無数の蛇となった木々の根が這い出てきた。


「……意外とつまんない芸だな。ほい、ゼルガディス」

「ダグ・ハウト!!」


ゼルガディスは瞬時に俺の意図を汲み取り、地面を揺らす。
ダグ・ハウトで、木の根が這い回る地面にズレを生じさせて
断ち切ったのだ。

俺は片手に光の球を生み出し、魔王に向かって放る。
周りを不規則に飛び回っている光球を気にする様子もなく、
魔王は落ち着いた声で言う。


「アレンジされているのか。だがファイアー・ボールなど、
 直撃されたとて痛くもかゆくもないぞ」

「ブレイク!」

「なにっ!」


魔王が杖を振りかざすと同時に、俺は指を鳴らす。
光球が分裂し、螺旋を描いて魔王の周りに降り注ぐ。
さしもの魔王も予想していなかったらしく、俺の攻撃をまともに受けた。
炎と砂塵とが一瞬その姿を覆い隠す。


「ガウリイ、お前の番だぞ!」

「ええっ!」


ガウリイお嬢ちゃんが光の剣を携え、走る。


「滅びなさい!魔王!」


“赤眼の魔王”は小さく笑った。


「光の剣――か。まさかこんな所にあるとは思ってもいなかったが、
 衰えたりとはいえ、この魔王に通用すると思わないでいただきたい。
 さすがに少し熱いがな……」


魔王はあろうことか、光の剣を素手でにぎりしめていた。
ある程度の魔族なら一撃で滅ぼせるはずの伝説の剣を、
素手で止めた上に、しかも少し熱いだけで終わらせるのか。

多少魔王の言い方に対して俺は引っかかりを感じたが、
そんなことは気にしていられない。


「剣の腕は達者のようだが……こんなものか」

「くっ――きゃああっ!」


魔王が横なぎに手を振るう。
お嬢ちゃんが吹っ飛んで、地面に叩きつけられた。


「ガウリイッ!!」

「――だ……大丈夫よ……」


どう見ても無事には見えない格好で地面に這いつくばったまま、
お嬢ちゃんは弱々しく答える。
すると俺の後ろからゼルガディスがアメリアが駆け抜け、
二人同時に叫んだ。


「「ラ・ティルト!!」」



ゴウっ!



まばゆく青い火柱が魔王を包みこむ。

ラ・ティルトは精霊魔術で最強の攻撃呪文だ。
アルトラル・サイドから相手を滅ぼす技で、生き物に対しての
攻撃力はドラグ・スレイブにも匹敵する。

それをダブルでなんて、一体いつのまにタイミングを合わせたのやら。





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35229ドラスレ! 24とーる URL2012/5/19 21:49:37
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第二十四話





「……ふ」


小さな笑い声。
青い火柱の向こうで、魔王がゆったりとした動作で錫杖を振るえば、
火柱は瞬時にかき消える。

ダブルのラ・ティルトでもムダか――。


「くあっ!?」

「ゼルガディスさん!」


いきなり炎に包まれそうになったゼルガディスを、
アメリアが咄嗟にかばう。


「ゼル、アメリア!」

「なぁに、奴は岩の体。これくらいで死にはせん――最も、
 かばった奴は知らないがな」


俺に向かって一歩、魔王が歩みを進める。
と、その時。

目の前に飛んできた何かを、俺は反射的に掴んだ。
剣の柄――光の剣!?


「ガウリイ!」

「――使って、リナ! 剣の力に黒魔術の力を乗せて!」

「愚かな! 光の力に闇の力が上乗せできるものか!」


ガウリイお嬢ちゃんの叫びに、魔王が馬鹿にしたように言う。
その通りだ――けれど。
俺はしっかりと柄を握りしめて、高々と振りかざした。


「剣よ! 我に力を!」


瞬間、光の刃が生み出される。
お嬢ちゃんの時はロング・ソードサイズだった刀身が、
俺の手の中ではバスタード・ソードなみの長さになっている。
――やっぱりな。

俺は呪文の詠唱をはじめる。
形式はドラグ・スレイブとほぼ同じだが、呪文を捧げるのは
この世界の暗黒を統べている“赤眼の魔王”シャブラニグドゥに
対してではない。

その部分を――魔王の中の魔王、天空より堕とされた
“金色の魔王”ロード・オブ・ナイトメアに置き換える。

他の魔王から借りた力でなら、“赤眼の魔王”にダメージを
与えることが出来る。


――闇よりもなお暗きもの 夜よりもなお深きもの

  混沌の海にたゆたいし 金色なりし闇の王


「き……貴様っ! 何故、何故お前ごときがあの方の存在を
 知っているっ!?」


俺の呪文を聞いた魔王が、動揺の色を浮かべる。


――我ここに 汝に願う 我ここに 汝に誓う

  我が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに

  我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを!


俺の周りに、夜の闇より深い闇が生まれる。
決して救われることのない、無明の闇。
暴走しようとする呪力を、俺は全神経を集中させて必死に抑える。

これが俺の秘技中の秘技――ギガ・スレイブ!

あまりにも魔力の消耗が激しい上に、失敗するれば生体エネルギーを
吸い尽くされて死ぬという、危険極まりない魔法である。
魔力も体力も万全の状態じゃないからか、知っているとはいえ
制御するだけでもわりときつい。

俺は闇と光が打ち消し合うことを知っていた。
多分、それ以上のことも。

――やってみるっきゃないだろ!


「剣よ! 闇を食らいて刃と成せ!!」


俺の叫びに、ギガ・スレイブによって産み落とされた闇が、
手にした剣に向かって収束していく。

思った通り、『光の剣』は人の意志力を具現化するものなのだ。
意志力は強いが魔力を持たないお嬢ちゃんが手にした時に比べて、
意思のコントロールに慣れた俺が扱っている時の方が
具現率が大きいことが証拠だ。


「こざかしいっ!」


魔王が錫杖を構え、呪文の詠唱をし始める。
まずい――こうなってくると、闇をすべて剣が吸い取るまで
耐えうるかどうか――。

ギガ・スレイブをコントロールしている時なら、強力な攻撃でも
完全に防いでしまうのだが、全力投球となると!

奴を倒すのに、あとひとつ何かが――!


「やめて!!」


声が響く。
アメリアに支えられたゼルガディス。


「もうやめて! ――貴方があんなにも見たがってたこの世界なのに!
 それを――どうして壊すって言うのよ! レゾ!」


かなり混乱しているらしく、おそらく何を口走っているのかすら
ゼルガディスは分かっていないだろう。

だが――呪文が止まり、魔王の杖から赤い光が消える。
レゾ=シャブラニグドゥは静かに、ゼルガディスを見つめる。

見つけた――あとひとつ!

その瞬間手にした暗黒の剣が完成する。
俺は大きく振りかぶりながら叫んだ。


「赤法師レゾ!!」





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35230ドラスレ! 25とーる URL2012/5/19 21:58:57
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第二十五話





我に返ったシャブラニグドゥは、俺を振り返る。


「選ぶがいい! このままシャブラニグドゥに魂を食らい尽くされるか!
 あるいは自らのかたきをとるか!」

「おお……」 歓喜の声と――

「馬鹿な!」 焦りの声とが――


同時に口を突いて出た。


「剣よ! 紅き闇を打ち砕け!」


俺は剣を振り下ろす!
黒い光が、魔王に向かって突き進み――黒い火柱が天を衝いた。



ズヴゥン!



「リナ!」


柄の光が消え、俺はがくりと地に膝をつく。
流れ落ちる汗を拭えずに、火柱の中に蠢くものの姿を見つめた。


「く……くっ……くははははははっ!」


ゆらりと火柱から進みいでた魔王は嘲笑し、俺を見下ろす。


「全くたいしたものだ……まさか人間風情にここまでの
 芸があるとは――」


――駄目か……!
ぴしりと、小さい音がした。


「気に入った……お前こそ真の天才の名を冠するにふさわしい存在だ」


褒めてくれるのは嬉しいのだが、喜んでる余裕はない。
ギガ・スレイブのせいで魔力も気力も、俺はほとんど使い果たした。
地面にへたり込んで、肩で荒い息をするのがやっとだからな。


「しかし……残念だ……もう二度とは会えぬ。――いかにお前が
 稀代の魔道士と言えど、所詮は人間」


ぴしり。
また小さな音がした。


「歴史がどううつろうかは分からんが、お前の生あるうちに
 別のわしが覚醒することは、まずありえまいて……」


ぱきっ。


「え――」


俺は魔王の言葉に目を見開き、そして気がついた。
魔王シャブラニグドゥの体中を走る、無数の小さな亀裂に。
これは――。


「長い時の果てに復活し、もう一度お前と戦ってみたいものだが……
 それはかなわぬ望み――お前自身に敬意を表し、滅びてやろう……」

これで眠れます――


シャブラニグドゥの声と、赤法師レゾとの声が重なる。


――ありがとう――すまない――

「本当に……」

本当に――



ぱきん。

ぱりんっ。



笑いながら崩れ、風と砕けて宙に散っていく“赤眼の魔王”。
俺はただ呆然と眺めるだけしか出来なかった。
楽しげな哄笑だけが、いつまでも風の中に残っていた――。





「終わった――の?」


ぽつりとガウリイお嬢ちゃんが呟いたのは、シャブラニグドゥが
完全に消失して、かなり経ってからのことだった。

俺は頷いて、きっぱりと言う。


「――ああ、レゾのおかげでな」

「レゾの……?」


滅びたことが未だに信じ難いのか、魔王が最後に立っていた場所を
じっと見つめながら、ゼルガディスが問う。
俺はゼルガディスを見やり、もう一度頷いた。


「あれの中に、まだレゾの魂が残ってたんだ。長い年月をかけて
 魔王に蝕まれながらも残っていた、あの人のひとかけらの
 良心が――俺の生み出した闇を自ら受け入れたんだ……。
 本来、悪い人じゃなかったんだろ」

「そう……だったの」


ゼルガディスが溜息にも近い呟きを落とす。


「……それにしてもリナさん、さすが……」


俺の方を振り返るアメリアは絶句した。
ガウリイお嬢ちゃんとゼルガディスも同じく。
俺の栗色の髪が、まっさらな銀色に染まっているのを見て。

生体エネルギーの使いすぎによって引き起こされる現象なのだが、
まあ、あまり見られる光景ではない。


「リ……リナさん……その髪……?」

「ああ、これか? 大丈夫、ちっとばかり力を使いすぎただけだから。
 疲れてはいるが――あんたたちは?」

「私は――平気よ」

「少なくとも死んじゃいないわね」

「はい、僕も大丈夫です」


アメリアに支えられていながらも、くすりと笑うゼルガディスは
多少はしっかりとしている。
ただ、よろよろと身を起こしているガウリイお嬢ちゃんは、
とても平気には見えない。
とはいえ、思いきり地面に叩きつけられたんじゃ仕方ないか。


「そうか――ともかく無事で良かった」


俺は微笑んでそう呟くと、体が傾くままにまかせて大の字に寝っ転がった。
これだけ疲れたことってないんじゃなかろーかと思うぐらい、疲れた。

俺は心地よい睡魔にそっと身を委ね――。





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35231ドラスレ! 26とーる URL2012/5/19 22:03:59
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第二十六話





「はーい、リナ♪ 久しぶりね♪」



いつのまにそこにいたのか。
金髪の少女が、俺の目の前でにこにこと笑っている。

以前は魔道士のような黒い服装の女性の姿をしていたのだが――
今日は何故だか、ガウリイお嬢ちゃんよりも背が小さく、
幼い少女の姿をしていた。
服も同じくサイズが小さくなっている。


「気分よ、気分♪」


その考えを読み取り、少女はくすくすと笑う。
俺は特に驚きもせずに溜息をつく。


「久しぶりって言ったって――前に一度だけ会っただけだろ」

「そうねえ。確かリナが死の入江を作った時かしらね♪」

「う――」


あの時のことを言われ、俺は口をつぐむ。

それは、俺が以前にギガ・スレイブを使った時のことだ。
俺はある依頼を受けて鬱憤が溜まってしまい、依頼を終えた時に
色々な感情を込めて浜辺にギガ・スレイブを放った。

あの時は精神が極限状態で、制御だとかコントロールだとか、
本当に無意識だった。

ギガ・スレイブの虚無によって造られた入江。
そこには今でも魚一匹寄り付かず、水ゴケも生えないと噂で聞いた。
『死の入江』と呼ばれているのだとも。

その時も生体エネルギーを酷使し、銀髪になった俺は倒れ――
彼女と出会ったのだ。


「懐かしいわね」

「……それで、今回はどうしたんだ?」


以前現れた時はギガ・スレイブのこととか、その本質のこととか、
一方的に色々と聞かさておかげで、頭がパンクしそうになったもんだ。
今までの常識がひっくり返った気がして、何も言えなかった。


「そんなに邪険にしなくったっていいじゃないのよ」

「邪険っていうか……どういう反応したらいいか分からないんだよ」

「久しぶりー♪ とかでいいのよ?」

「…………出来ないって」


彼女の性格というか……。
俺に対するフレンドリーかつ遠慮のない接し方でさえ、
本気で受け取っていいものかどうか、俺には判断しかねる。


「とにかく、リナだったらあたしの呪文も結構使えるんだから、
 どんどん使っちゃって構わないって言ってるのに」

「勘弁してくれ……ブースターもないんじゃ、精一杯だっての」

「そこは根性よ、根性♪ 頑張ればやれるわよ♪」


俺はがっくりと肩を落として、溜息をつく。
そして目覚めるまで彼女――ロード・オブ・ナイトメアと
延々と話をするのだった。





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35232ドラスレ! 27とーる URL2012/5/19 22:09:54
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第二十七話





数日のあと――。
俺たちはアトラス・シティの目前まで来ていた。

遠くに見える街並みに目をやりながら、俺は声を上げる。


「おー、見えてきたな。アトラス・シティ」

「本当ですね!」

「これで今夜はうまいものが食べられて、ふかふかのベッドで
 ゆっくり眠れるってもんだ」


何だかんだで野宿ばっかりだったもんなあ……ここ最近……。
特に襲撃が頻繁になってきたあとは。
やっぱりいち人間としては、うまいものをたくさん食べて、
ぐっすりと眠るのが何より大事なことだろ。

さすがに俺の髪の色はまだ、もとの栗色には戻ってはいないものの、
疲れの方は完全に回復している。
ガウリイお嬢ちゃんがくすりと笑った。


「えらく長い旅になっちゃったわね」

「そうだなー」

「さて――それじゃあ私は、そろそろこの辺で退散させてもうとするわ」

「――え?」


唐突なゼルガディスの言葉に、俺とお嬢ちゃんの声がハモる。
ゼルガディスは肩をすくめてみせた。


「私は今までにも色々やらかしてきてるし、顔もそこそこ知られてる。
 ああいう大きな町はちょっとね。――目立つ風貌だし」


ああ、確か『白のゼルガディス』とか言ったっけか。
俺は頭の片隅にあった情報を思い返し、頷いた。


「そっか……じゃあ、どうすんだ? お前はこれから」

「ひとまず、ロディマスとゾルフを探して合流しないといけないわ。
 それからは――」

「僕も一緒に行こうと思います」

「えっ?」


にっこりと笑うアメリア。
今度は俺とお嬢ちゃんとゼルガディスの声がハモった。

ぎょっとしているゼルガディスの驚きからして、そういうことは
何も相談してなかったことらしい。
ただの思いつきなのか、考えていたことなのか――。
いやまあ、確かにアメリアは俺たちの方についてくるもんだと
思ってたけど……何となく……。


「確かにゼルガディスさんはお強いですけど、女性の一人旅は
 何かと危ないですし。せめてお二人と合流するまでは、
 ゼルガディスさんにお供させて下さい!」

「ちょっ、待って――そんな」

「ね、ゼルガディスさん」


慌てて断ろうとしたゼルガディス。
だが、アメリアの素晴らしく輝いた笑顔を向けられてしまう。
あまりにも純粋なそれにゼルガディスは何も言えなくなり、
さすがに負けたようだった。

あーあ……ああやって、いいひとっぷりを全面に押し出されると、
なかなか断れないんだよなあ……。
俺もそんな経験がある。

大きな溜息をついたあと、ゼルガディスは俺の方を振り返った。


「それで、どうすんだ?」

「一人できままに――とは言えなくなったみたい。とりあえず、
 何とかやっていくわ。貴方たちには色々と迷惑をかけたわね……」


照れているのか、少しだけ視線をずらす。


「お互い、生きていたら、またいつかどこかで会いたいものね……
 まあ、貴方たちには迷惑かもしれないけど……」


俺はその前に右手を差し出す。
ゼルガディスも微笑し、右手で優しくにぎり返す。


「またいつか――な」

「――またいつか」


不思議と暖かな右手を離す。


「リナさん、ガウリイさん、お元気で! また会いましょう!」

「ゼルガディスもアメリアも元気でね」

「ええ、貴方たちも――」


ゼルガディスはそう言うと、そのまま背中を向ける。
アメリアは笑顔で大きく手を振ったあと、ゼルガディスのあとを追った。





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35233エピローグとーる URL2012/5/19 22:12:51
記事番号35207へのコメント

 




エピローグ





しばらく二人の背を見送っていた俺たちだったが、
二人が遠く霞んだ所でアトラス・シティの方を振り向いた。


「あの人に利き手で挨拶させるなんて――リナにホレたのかしらね?」

「ばかなこと言うなよ」


ガウリイお嬢ちゃんの言葉を、俺は笑って受け流す。


「――ところで、リナ?」


隣で歩くガウリイお嬢ちゃんは俺を見やる。

そういえばこのお嬢ちゃんは、いつからか俺が『お嬢ちゃん』と
呼ばなくなってることに気づいているのだろーか。
いや、気づいてないかもしれないな。


「アトラス・シティに着いたあとはどうするつもりなの?」

「んー、そーだなぁ……」


俺はしばし考えて。
ふと、あることに気がついた。


「そうだ、それよりガウリイの“光の剣”を俺にくれるって話、
 あれどうなったんだ?」

「誰がそんなこと言ったの! 誰が!」

「あ……くれないのか……」


ガウリイお嬢ちゃんが怒り、俺は瞬いた。


「当たり前よ」

「残念だなー。それがあれば俺はほとんど無敵だし、魔道の研究も
 はかどるだろーし……」

「だめなものはだめ」

「――そうか、分かった」


俺はあっさりと頷いた。


「……え?」


ガウリイお嬢ちゃんが面食らう。


「これで決まったな。当面の行き先が、な」

「――どこなの?」


容量を得ない顔で、お嬢ちゃんが聞き返す。


「お前さんの行くところ、だ」

「……はぁ?」

「光の剣を譲ってくれる気になるまで、ずっとお前さんの追っかけを
 やらせてもらうからな」


くしゃりと、金髪を撫ぜる。
ぱちぱちと瞬きしていたガウリイお嬢ちゃんは、ようやく意味を
呑み込めたのか、疲れたような呆れたような溜息をこぼし、苦笑する。


「とにかく――行くか」


言って、俺は歩き出した。
アトラス・シティへと――。





END.


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