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35248Re:原作寄り:ゼルガディスとアメリアが出会って翌日の朝食みか 2017/8/3 08:39:41
記事番号35165へのコメント

スレの世界観そのままですね!
読んでてすごく楽しかったです!

35247Re:原作寄り:ゼルガディスとアメリアが出会って翌日の朝食みか 2017/8/3 08:39:37
記事番号35165へのコメント

スレの世界観そのままですね!
読んでてすごく楽しかったです!

35246彼女の理由(ゼロリナでヴァルフィリ)人見蕗子 2016/7/23 22:20:28


「書き殴り」様への投稿はひっさびさでございます。
ヴァルガーヴが書きたい人見蕗子です。

この小話(小説っていうのもおこがましいので、自作のことを小話と呼んでいる)はピクシブにのせていたのですが、人見蕗子名義の活動を終了したので削除しちゃったけどお気に入りだったゼロリナでヴァルフィリ話です。










彼女の理由 


その日、フィリアはお茶の用意をしなかった。
 約束の時間が近づいてもティーセットを出さず、着替えもせずにぼんやりと食卓に腰かけている様子をみかねたヴァルガーヴがいいのか、と声をかけるが、いいのと冷たく返す。
 だからリナが到着したとき、そこは客人を出迎える場にはなっていなかった。
「久しぶりなのに冷たいわね、フィリア」
「ゴキブリは嫌いです。ゴキブリとつるんでる人も嫌いです」
「そう言わないでよ、久々なんだから。ねえ自慢のお茶でも入れなさいよ」
 リナが椅子に腰かけると、ようやくフィリアは立ち上がり薬缶を火にかけた。
「飲んだら帰ってくれます?」
「そんなにツンツンしなくてもいいじゃない。だいたいあんたの男だって似たようなモンじゃないのよ」
「・・・ヴァルガーヴは、違います」
「よく言うわよ」
「ヴァルガーヴと、ゼロスは、違います」
「ああそう。ほら、薬缶が吹いてるわよ」


 リナが突然姿を消した、というアメリアからの手紙を受け取った時、丁度リナはフィリアの目の前で紅茶を啜っていたのだった。ちょっと薄いわよ、などと文句を言いながら。
 どういうことですか、と詰問するフィリアに、
「今、ゼロスと居るのよ」
 とリナは告白した。
 もちろんフィリアは怒り狂い、紅茶が不味いのは味覚まで魔族になってるからじゃないですか!?とリナを怒鳴りつけた。
 リナがフィリアを訪ねてくるのは、それ以来のことになる。
 

「フィリア、あんたは幸せそうでいいわね」
 紅茶を啜りながら、リナがつぶやく。
「どうしたんですか」
「あたしは、最近わからないのよ。自分が幸せなのかどうか」
「魔族なんかと一緒にいるからですよ」
「やっぱり?」
「どうして・・・どうしてゼロスがいいんですか!?」
「じゃああんたは、どうしてヴァルガーヴがいいのか説明できる?できないでしょ?
 そーゆーもんなのよ」
「・・・リナさん・・・私、今幸せじゃなくなりました・・・」
「へ?」
「聞こえませんでしたか?」
「何が?」
「茶碗を洗ってるヴァルガーヴが、私のお気に入りのティーカップを割った音ですよ・・・!!」


 泡だらけのヴァルガーヴの手から滑り落ちたティーカップは、無残な姿となっていた。
「やっべ、割れちまった・・・」
「キャーまっぷたつ!!!!!」
「そんくらいでモーニングスター出すのやめなさいよ・・・大事なものは自分で洗う!フィリア!」
「は、はい・・・」
「なあ、魔術で直せねーの?」
「あたしはできないわ」
「天才美少女胸なし魔導士、リナ=インバースでも?」
「あんた・・・ついにあたしのこと胸なし言うたわね・・・!!
フィリア!!やっちまいな!!」
「さっきと言ってること全然違うじゃねーか」
「うっさいわね!!
なんならこの家ごとドラグ・スレイブでぶっ飛ばすわよ!!」
「それはやめろ。この家で何かあったら街から憲兵が飛んでくるぞ」
「ど、どういうこと?」
「ここに住んでるのがドラゴンだって街の連中は知ってるからな」


ある日街に出たフィリアはチンピラの軍団に囲まれ、ブチ切れた彼女は市場のど真ん中でレーザーブレスを吐き、チンピラといくつかの商店といくつかの住居を壊滅させたのだった。
 幸いチンピラ達はこの当たりを騒がせている窃盗団だったためフィリアにお咎めはなかったが、監督不行き届きということでヴァルガーヴは一晩留置所に入れられてしまった。
(長く生きてきたがブタ箱にブチ込まれるのは初めてだな)
 独房の冷たい床に座ってそんなことを考えていると、見張りの憲兵が気安く声をかけてきた。
「君たち夫婦のことは街でも噂になっててね。どこかのお嬢様と流れ者の傭兵が駆け落ちしてきたって話だったけど・・・まさかお嬢様がドラゴンだったとはね」
「・・・すんません、俺もドラゴンです」
「えっ!?じゃあ君も火ぃ吐いたりする!?」
「いやっ!!俺はあーゆー下品な真似は!!」
 ヴァルガーヴは必死で否定したが、
「そうか、じゃあ夫婦喧嘩ともなれば火の海ってことか・・・」
 憲兵の顔は明らかにひきつっている。
「いやっ!!そういうことは!!」
「今は人間に化けてるってことだよね?」
「はあ・・・」
「じゃあ突然でっかいドラゴンに戻ってこの街を破壊したりもできるってことか!?」
「いやっ!!だからそういうことは!!」
そんな問答を一晩繰り返し、
「君たち・・・仲良くね」
 憲兵は、翌朝そう言ってヴァルガーヴを送り返したのだった。


「だから、ここで異常事態が発生すればすぐ憲兵が飛んでくるぞ」
「フィリア・・・あんたなんちゅーことしてんのよ」
「多勢に無勢でああするしかなかったんです!!それに窃盗団逮捕に貢献したとのことで、感謝状をいただきました・・・」
「ヴァルガーヴ捕まってちゃ駄目じゃん!!」
「うっ、そ、そうですよね・・・」
「俺はなかなか面白い体験だったぞ」
「あのヴァルガーヴが人生に対して『面白い』だなんて!!感慨深いわ!!」
「ですよね!!あのヴァルガーヴが!!」
「あの、って・・・おい・・・」
「なんか、安心したわ。仲良くやってるみたいで」
「リナさんも早く私を安心させてください」
「どういうこと?」
「魔族とは早く縁を切ってくださいって言ってるんです」
「だから、そう簡単にはいかないんだって」
「ガウリイさんたちの前から姿を消しても、私たちには姿を見せるのはどういうことですか」
「あんたが好きだからよ、フィリア」
「私はゴキブリが嫌いです。ゴキブリとつるんでる人も嫌いです」
「さっきも聞いたわね、それ」
「どうして―――」
 ついにフィリアは泣き崩れ、リナは困ったように笑った。
 遥か昔、フィリアと初めて会った時と寸分変わらぬ、少女の顔で。





35245三流魔道士に憑依? したと思ったら目の前に魔王がいた件についてフィーナ 2016/3/31 23:19:56


まず一言だけ言わせてほしい。

……ごめん。

なんぞこの状況?










気がついたら、っといったほうがいいのか。

それとも『思い出した』というべきか。

強い風にさらされた後、唐突にこみ上げてきた吐き気の中――おそらくは瘴気だろう――

死んだはずの『自分』がなんでこんな森の中にいるのか。

死因はわからないが、死んだことははっきりと自覚している。

自分自身のことはなぜかあいまいで、家族や友人といった親しかった人々の姿は霞がかったかのようにぼやけて霧散して。

自分が誰だったかわからない状況に混乱して。

自分が動ける肉体があることに困惑して。

思わず手を見たら記憶にある私の手とはちがう、筋のあるゴツい男の手。

……あれ?

感じた違和感に首をかしげる。

もしかして、いやいやまさか。

ひょっとして私って女だったのかっ!?

愕然としながら他にも何か情報がないかと周りを見渡せば、知らないはずなのに知っているような既視感のある面子。

まず私の横にいるのは、騎士のように中世っぽいかんじの鎧を着込み、でっかい槍に斧がついた重量のありそうな武器――多分ハウルバードだろう――をかまえている中年男性。

その少し前に白いフードをかぶり何かつぶやいて――いや、これは唱えているのか――険しい雰囲気で前方をにらみつけている、体型からしておそらく男性だろう。

その更に前。

……うん。

現実逃避したくなってきた。

私自身やその周辺の人々に関するものは薄れてきているというのに、以前住んでいた国や雑学。

それに、生前の私が趣味嗜好の赴くまま集めた数々のグッズや雑誌など黒歴史のものはどうしてこんなにも鮮明に覚えているのか!

羞恥といたたまれない気持ちでのたうちまわりたい!

……周囲に人がいるからできないけれど。

悶え苦しむ内心を何とか抑え、問題の人物たちをうつろに眺める。

長い金髪がなびき、すらりとした長身でほどよく鍛えられた体躯。

かまえているのはロング・ソード。

ただ『それ』が普通の剣でないことは私も知っている。

服装は…といっていいのか、物々しい装備をしているところをみるにあたり。

やっぱりという、どこか諦観した気持ちが生まれてくる。

先ほど述べた中年男性のような、中世西洋で使われていたようなブレスト・プレート。

生前の私がいた国では、コスプレかよ! と、一笑にふすのだが……

小さくかぶりを振る。

現実逃避もここまでのようだ。

物質的な力を伴った、強烈な瘴気の中心地。
                                  ・ ・ ・
たまらない吐き気に口を押さえながら、前方にいる そ い つ を睨んだ。

高らかに哄笑し続けている赤いローブをまとった男。

……そう。

私はこいつを知っている。

そして、私が『誰』に憑依してしまったのかを。

……どうやら私、三流魔道士のゾルフに憑依してしまったよーです。

先ほどから私と違う記憶というか意思が統一・流出されて融合を果たしているような、殴りつけてくるような瘴気とは別の不快感がこみ上げてきてつらいとです。

ゼルガディスに対する忠誠心も、積み上げてきた魔道に対する自信も……って、まてまて!

昔買い漁った参考書の説明文とゾルフの解釈の仕方がおかしい!

本当に三流だったんだな。

そういや原作でリナがゾルフに三流いったとき周囲は大爆笑してたっけ。

あのゼルガディスさえ肩を震わしてたし。

やーい三流三流ゾルフの三流はっはっはっっ!

……って、今私がゾルフじゃねーですか!?

……どちくしょう……

そういえば、『私』はこんなにノリのいい性格だったのか?

なんとなく、なんとなくだが……まさかゾルフと意思の統一でこんな面白おかしい思考回路になっているのか!?

私が脳内突っ込み満載中のなか、事態は着々と進んでいた。

「シャブラニグドゥ!」











その声を認識したとき、認めたくなかった。

私が置かれている状況に。

私がいるのはスレイヤーズの世界。

そして憑依してしまったのはゾルフという三流魔道士。
            ルビーアイ
そして目の前には 赤眼の魔王 シャブラニグドゥ。

……もうしばらく現実逃避させてくれ。

ナンデヨリニヨッテコノバメン。

高笑いする金髪ねーちゃんの姿が不意に脳裏に浮かんだものの、それ以上考えると、精神衛生上とてもよろしくないので頭を激しく振って思考をリセット。

……うん。

私ナニモオボエテナイヨー。
  それはともかく
……閑 話 休 憩。

記憶の統一がもう少しで終わるという確信がある。

私が知り得る知識と、ゾルフ――わしの魔道技術。

これから起こり得る最悪の可能性をさせないための一手。

さきほどの声の主を見つめる。

この戦い。それから先へのキーパーソンであり主人公。

高らかに響く、凛とした少女特有の高い声。

おそらくこの場においての(外見的性別的意味合いで)唯一の紅一点。

外見的特徴からいえばまず美少女ではある。

大きくつぶらな瞳。

愛らしい顔立ちで、華奢な体つきはある種の男の庇護欲をそそるだろう。

……但し書きで、黙っていればと注釈がつくだろうが。

栗色の髪に、意志の強さを宿した瞳。

外見だけはいいのだ。

……性格がアレだが。

たとえば舌先三寸で相手を丸め込み、憂さ晴らしで盗賊団を壊滅させて溜め込んでた宝を根こそぎ強奪し。

魔道の実験と称して、森林破壊にいそしむ。

実績より悪名がとどろき、悪人はおろか一般人も恐れ慄くその名は――

――リナ=インバース――

……うん。

傍観者として遠目から見る分にはいいが、かかわりたくない人物ではあるわな。

今の状況客観的に問われたらこう答えるしかない。

……もうガッツリ関わってますがなにか?












さあ、そろそろ現実逃避は終わりにしよう。

これから私がとる行動は、ある種の悪あがきだ。

「選ばせてやろう。好きな道を」

静寂を破ったその声にひるみそうになる。

それでも決めたのだ。

死を経験し、何の因果か再び肉体を得た意味を。

「このわしに再び生を与えてくれたそのささやかな礼として。
――このわしに従うなら天寿を全うすることもできよう」

知りえた未来でわしが消され、殺される未来。

私もわしもその情景を思い浮かべ強く願った。

――死にたくはない!

魔族の王の言葉が続く。

「しかし、もしそれがいやだと言うのなら仕方ない。水竜王に動きを封じられた『北の魔王』――もう一人のわしを解き放つ前に相手をしてやろう。――選ぶがいい。好きな方を」

死への恐怖と同時に沸き起こる純粋たる生への渇望。

そしてそれ以上に沸き起こる魔王に対する怒り。

北の魔王を解き放つ。

それはすなわち世界の破滅を意味する。

彼女の知識から得た情報は、この場において圧倒的なアドバンテージを誇る。

なにしろ彼女が集めた媒体の中のげえむというもののなかで、呪文の詠唱をしゃべるものがあるのだ。

スレイヤーズろいやる2だ。

そして、あにめと呼ばれる媒体では、多くの呪文の詠唱が登場し、羊皮紙とは違う質のいい紙で綴られた物語では、魔道に対する考察など興味深いものが数多くあり、今まで停滞していた魔道技術に多大なる貢献を……

話が脱線した。

ともあれ、私がすべきことは決まった。

すなわち――
 ドラグ・スレイブ
「 竜 破 斬っ!」

宣戦布告である。


35244白魔術都市狂想曲 アトガキフィーナ 2016/3/14 23:36:58
記事番号35241へのコメント


というわけで、これにて白魔術都市狂想曲は完結とさせていただきます。
リナの一人称が大半でしたので、彼女が勘違いまたはミスリードされたところもあって、なぞの部分も残っていたりします。

いろいろなフラグも回収でき、多くの感想をいただき、作者として完結までこぎつけられたのはひとえに皆さんのおかげだと思っています。

長い期間をあけましたが長い間ご愛読いただきありがとうございました。

またいつか会える日を願って。

                   フィーナ

35243白魔術都市狂想曲 130 完フィーナ 2016/3/14 23:26:54
記事番号35241へのコメント


鬱蒼と茂る森の中、いまあたしたちはサイラーグまで続く道の途中にある宿場町で休憩を取っていた。

宿場町といっても規模は、町というより旅人が利用するような携帯食料などを売っている道具屋や、宿泊できるような酒場と宿屋が兼任されているまあ、ありきたりな施設がいくつかある辺鄙な場所である。

そんなとこにあるカフェのテーブルのひとつであたしはシルフィールをジト目でみつめる。

「んで、なんでガウリイには結婚の話を知らせて、あたしには知らせなかったわけよ」

あたしの視線を受けても、シルフィールは動揺するわけでもなく涼しい顔をしていた。

あたしたちがセイルーン・シティで厄介ごとを片付けている間、シルフィールは念願だった神官の資格を獲得していたらしく、ごたごたが一段落したころに彼女からサイラーグまでの護衛を頼まれたのだ。

復興の手伝いをしたいと頼む彼女に否とはいえず、とある事情も重なっていたのもあってその依頼を引き受けたのだ。

そして、ある町にある魔道士協会のメッセージ・センターでシルフィールが結婚すること、そしてそれをあたしには知らせずガウリイには事前に知らせていたことが明らかになったのだ。

・・・・・・まあ、あの男は例によって「そんなことあったっけ?」とぬかして、シルフィールの目を点にさせたが。

「セイルーンでのごたごたがあって、急がしそうでしたから・・・・・・というのは駄目ですか?」

「いっとくけどガウリイみたく忘れてたとかいわせないわよ。いうチャンスはここ数日でいくらでもあったはずだし」

「婚儀のことはセイルーンにいるあいだ決めたことですし、きっかけはありましたけど」

そういいながら、彼女は苦い笑みを浮かべた。

「・・・・・・そうですね。リナさんにお話しするのは些かためらったからですね」

「ためらった?」

鸚鵡返しでたずねるあたし。

運ばれてきたオレンジ・ジュースを一口すする。

「ええ。リナさんはセイルーンで私の近況を知ったらどうしていました?」

「どうって、知らない仲でもないし派手に祝福したわよ」

あたしが『派手に』と答えた途端、シルフィールの表情がわずかに引きつったのを、むろんあたしは見逃さなかった。

「それは、なるべく遠慮したいといいますか」

「なんでよ」

「あれから聞き込みをしてしっているんです」

「な・・・・・・なにがよ」

あんまりにも深刻そうな表情から、おもわず身を乗り出す。

「リナさんがそのテの業界では名の知れた縁切り業界のトップ3。
赤い糸切りのリナといったら未婚カップルたちにとって恐怖の代名詞で有名じゃないですか」





ずげしゃ





その場に突っ伏すあたし。

「ちょっとまてぇぇぇぇぇっ!」

思わず声をあらげる。そんなあたしを意に介さず、シルフィールは思い出すように語る。

「聞いた話では婚礼間近の婚約の仲介をして、破滅していった婚約者たちのかずしれず。
そのため婚礼の要注意事項としてパンフレットに載せられているという」

あたしはがばりと起き上がり、

「どこの町だそりゃぁぁぁっ!
風評被害で慰謝料たっぷりふんだくる!」

あさっての方向に親指立てて、そうかたくちかったのだった。



















それからなんやかんやといろいろあって、数日後。

森を抜けた先にぽっかりと切り取られたかのような荒野が広がり、栄華を誇った都市の面影はなく、ぽつぽつと建築された建物が建つばかり。

護衛の依頼を完了させたあたしたちは依頼料をもらい、数日間滞在することにした。

ライゼール帝国領サイラーグ・シティ。

それでもそこは都市として、交通の要としてあったこともあり、商品を運ぶ商人やそれを護衛する傭兵や魔道士などなかなかの賑わいを見せていたりする。

その中のひとつ。尊厳なたたずまいの白亜の教会。

天気は快晴、気温は穏やか。

まさに良き旅立ちにぴったりのシチュエーションである。

そして教会のドアがゆっくりと開かれて姿を現す一組の男女。

周囲の人々の歓声に新婦の女性は、新郎の男性を見上げてはにかんだ笑みを浮かべた。

新郎の男性は穏やかそうに目を細め、新婦の女性にそっと手を差し伸べた。

途端沸き起こる更なる歓声。

その様子を、あたしは少し離れた場所から伺っていた。

そしてそのまま踵を返し、

「もういいのか?」

「ええ」

かけられた声の主を見上げ、小さく答えた。

そう。サイラーグまでの護衛の依頼はすでに完了し、シルフィールの結婚式も見届けて。

そして・・・・・・

ため息を吐きたくなるのを何とかこらえ、再びシルフィールたちに目を向けた。

色とりどりの花のシャワーが降り注ぐ光景に、しばし目を奪われる。

「なあリナ」

「なによ」

「オレたちも結婚するか」

今日の昼飯なんにする? というような自然な問いに軽く流しそうになったあと、言葉の意味を捉えるのに時間がかかり、ばっと振り仰いだ。

そこにいたのは、とぼけた頭脳と賢さが退化の一方をたどる脊髄反射剣士の相棒の姿。

あいかわらず、天然なのかとぼけてるのか判断できないのほほんとした顔を眺め。

「・・・・・・気が向いたらね」

そうそっけなくかえす。

「そうか」




ごぉぉぉぉん!




教会の鐘の音が鳴り響き、あたしとガウリイのふたりは再び足を動かした。

祝福の声が上がる教会を背に、あたしたちは歩み始める。



















まあ、そう簡単に問屋をおろすのは、何かに負けた気がするんで。



















サイラーグにある宿の一室。

あたしは、ここ数日の間に感じる胸のときめきが、日を重ねるごとに増していくことを自覚していた。

それはここへくると決めたときから。

それは酒場を兼任している宿屋から聞いたときから。

ようやくここまでこぎつけたのだ。

幸いにとでもいうべきだろうか。

彼は気づいてはいなかったようだが、あたしはもう我慢の限界である。

ぐっと両手を握り締め、お守り代わりのそれを包み込むように覆い隠す。

もう、後戻りはできない。

軽いノックの音。

そして開かれる扉。

部屋にいたのは、ガウリイ。

「どうしたんだ? こんな夜遅く」

「ちょっと・・・・・・いい?」

上目遣いで、見上げる。

「あっ? ・・・・・・あ、ああ」

こくこくうなずき、あたしを招き入れる彼。

心なしか、見上げた彼の顔が赤くなっていたような気がしないでもないが、それはこの際関係なくなる。

「あの・・・・・・ね?
いいたいことがあるんだけど、言っていい?」

「おう。なんだ」

安心させるようにか、ぽんと頭に手を置くガウリイ。

あたしはいった。

はっきりと。
 スリーピング
「 眠  り 」



ばた



ゆっくりと崩れ落ちるガウリイを支え、なんとかベッドに押し込める。

・・・・・・ふっ。

計 画 通 り 。

「いったい・・・・・・なにを」

「いやぁ。実はここに来る前にオリヴァーさんをはじめ、宿の人からサイラーグ方面の物資と合わせて盗賊さんが大量発生してるってきいてね。
盗賊いぢめもシルフィールの依頼とあわせていけば一石二鳥だし? ならば乗るしかないんじゃないかなって」

「呪文・・・・・・唱えて」

おそらく呪文を唱えていないはずなのに、なぜって思ってるんだろーな。

「これ」

いって見せたのをみて、ガウリイはそれとあたしを交互に眺め。

「不意打ちとは・・・・・・卑怯だ・・・ぞ」

そう言い放ち、深い眠りについたのだった。
マジック・アイテム
魔 法 の 道 具 の一種で、呪文をこめたらその効果をストックできるそれを、ガウリイの部屋に来る前にかけていたのだ。

「さーて。待ってなさいよねまだ見ぬお宝と盗賊さんたちっ!」

言いつつ呪文を唱え。
 レイ・ウイング
「 翔 封 界 !」

颯爽と空を飛び、聞き込みをして割り出した盗賊のアジトに向かって突き進む!



とどろく攻撃呪文が鳴り響き、そして今日もまた盗賊団は壊滅の一歩を迎えたのだった。



35242白魔術都市狂想曲 129フィーナ 2015/12/24 20:52:20
記事番号35241へのコメント
「では世話になったね。ゼル君」

「・・・・・・ああ」

オリヴァーさんに君付けで呼ばれ、若干イヤそーな表情でこたえるゼルガディス。

ぶっきらぼうなその様子に堪える様子もなく、彼はその傍らで馬車を引いた馬に手を伸ばしているアレンに声をかけた。

「君も時間がかかると思うけど、きをつけるんだよ?」

「う?」

きょとんとしたまなざしで、アレンは首をかしげる。
                              マジック・アイテム
その彼の首元と、両手首には淡い輝きを放つ 魔 法 の 道 具―――

がそこにあった。

アレンにかけられている、北の魔王の呪い。

その呪いは確実に彼を蝕み、自我を崩壊させ浸食しつつあった。

もしそのままだったら、確実に手遅れであっただろう。
                             ヘルマスター
・・・・・・ひょんなことから、高位魔族の一人である 冥 王 フィブリゾが滅び、神の力がこの大陸に届くことがわからなければ・・・・・・

アレンが商人のオリヴァーさんや魔道士協会、そのほかの機関に手渡した技術を試行錯誤の上に完成させたひとつに、かけた呪文の特性を一時的にもたせるものがあった。

あたしが貰い受けたのもその一種である。
                             アストラル・サイド
たとえば何の変哲のないショート・ソードに、 精 神 世 界 面 に干渉を及ぼす呪文をそのアイテムに組み込めば、一般の兵士でも下級の魔族に手傷を負わせることでできるのである。

無論それなりの技量は必要になるが。

ただ以前立ち寄ったレイスン・シティのときは、そこまで持続時間が長くなく、逆に出力がそれなりのものだった。

ようするに本来の術の威力には遠く及ばないが、不意をつくなどのいわゆる奇襲にはもってこいの代物なのだ。

そして、呪文の威力が高すぎると壊れる。そんな品物だったのだ。

『だった』・・・・・・そう、過去形である。
            マジック・アイテム
アレンがつけている 魔 法 の 道 具。

呆れることに一個につき、水竜王以外の神の力の呪文がひとつずつ丸ごと収まっているのだ。

そして呪文の効果は微弱なモノながら、その半面持続時間はイヨーに長いという。

・・・・・・ルークが持っていた吸魔の剣でも、そこまでブッ飛んだ性能じゃなかったぞ。

そして当然のごとく、あたしはこの場所に来るまでに安い値段で吹っかけ・・・・・・もとい、交渉を続けてみたのだが。

「あいにくこれは特別製だそうでね。詳しい原理は僕にもわからないし、現物はこの三つのみ。
そしてこの三つは、いわばアレン君の生命線とも言える、曰くつきの代物ときたもんだ。君ともあろう者が、まさか呪いに蝕まれている人間に命綱を切るような非道なことはもちろん言わないよね?(意訳)」

というようなことを、オリヴァーさんにイイ笑顔で言われて断腸の思いで泣く泣く断念したのだった。

そんな彼は今、新しい顧客を得るため、あたしたちと途中の道でわかれラルティーグ王国まで足を伸ばしていた。

そしてあたしたちはというと。

「それじゃ、元気でねゼル」

「お世話になりました。元の体に戻れる日を楽しみにお待ちしていますね」

「そうなれる日も、そう遠くないんじゃないか?」

ガウリイの台詞に、ゼルガディスは口元を小さな笑みの形に浮かべ、

「そうだな」

と、小さく囁くように言った。

いまだ深いフードをかぶってはいるが、その肌の色は彼が忌み嫌っていた岩の色ではなく―――

それに隠れるような色ではあるが、健康的な肌色をしている。

ミックス・ジュースを完全なオレンジ・ジュースに戻すことはできなくても、オレンジ・ジュースに限りなく近いミックス・ジュースを作ることはできる。
                                           キメラ
いまゼルガディスがやっているのは、コピー・ホムンクルスによる 合 成 獣 化。

よーするに、ゼルの岩肌コピーに多数の人間の肌色コピーを移植するよーなもんである。

合成しすぎると、ゼル本人の面影がなくなりそうなもんだが、事前にゼルコピーに実験を施したらしい。

そんで、いまの状態のゼルコピーもストックしてあるとのこと。

本人はレゾと、簡単にコピーは眼が開いた腹いせに、魔族と合成させられたコピーレゾを思い出したのか複雑そーな表情でいっていたが。

たしかにこれなら、ほぼ完璧な人の姿に戻ることはできるだろう。

ほぼっていった以上、完全な人の姿には戻れないのではないかと、ゼルに問いかけてみたのだが。

「この方法を取れたのは、不本意だがレゾがおれの外見をほとんど弄らずに固定化させたからできる手段だそうだ」

繰り返し合成する以上、顔のパーツの造形も崩れたり別人の顔になったりする恐れがあったが、固定されているおかげで多少の無茶なこともできた。よほど魔道技術の高い人間があなたをそうさせたんでしょうね―――

・・・・・・呆れと戦慄と感嘆と。

非常に複雑かつ肩身の狭そうな表情で、彼は言い切ったそうだ。

随分とお茶目でふざけた面倒くさい性格の人だ、と。

ゼルガディスは、アレンの護衛でこの分岐点の片方。

カルマートのレイスン・シティへといたる道へ。

そしてあたしたちはというと。

「柄でもないがいわせてもらう。
・・・・・・結婚おめでとう。シルフィール」

「ありがとうございます」

照れているのか、ややぶっきらぼうで早口ではあったが、柔らかな口調で祝いの言葉を口にしたゼルガディスに、シルフィールははにかむような、満面の笑みでそう返したのだった。

・・・・・・そう。

あたしたちが進むもう片方の道は、かつて魔獣ザナッファーに百年以上前に壊滅されたのを抜きにして数えてみても。

これでもか!ってくらい、不幸のオンパレードといってもいい不憫な町で、今現在は復興の兆しが見え始めている・・・・・・因縁深い場所でもある。

シルフィールの故郷であるサイラーグ・シティであった。


35241白魔術都市狂想曲 128フィーナ 2015/7/3 20:24:16


セイルーンの王都。

その少し離れているある貴族の屋敷のひとつ。

そこは、つい先日。
    ・ ・
とある天災魔道士によって壊滅させられた屋敷だった。

そこには廃墟と化した面影はなく、建造されて間もない特有の佇まいがある。

その屋敷の一室――執務室にて手元の書類を眺めていた男は、報告を聞いて目を細めた。

「どうやら出し抜かれたようだな」

報告をしていたもう片方の男も、静かに首肯した。

「とんだ狸だな。あの商人も」

「そうっすね」

男――マーシュ卿は、傍らに控えている青年に声をかけた。
     ・・・
「どうだカイル。体の不調は?」
                              マジック・アイテム
「もう平気っすよ。しかし便利なもんっね。あの 魔 法 の 道 具 は。
コピーにやらせといていうのもなんなんすけど、マーシュの演技もさすがだったっす」

「・・・・・・もうこれでお前は子爵の地位もなく、アルベルトとの確執に煩わせることもなくなった」

ひたりと、カイルと目線を合わせる。

「本当にいいんだな? ここしばらくは忙しくなるぞ」

「もとより覚悟の上っすよ。
貴族の俺は死に、今後は影(諜報員)として働く。
それに、ああでもしなけりゃガキたちはスラム堕ちしちまう」

「フィリオネル殿下と拝見できたのは行幸以外にないな」

「そのへんは同意っす」

これから行う事業に関しての、王家からの予算振込み。

そして予定していた人員――あの施設に入れられていた戦災孤児など――の大量確保。

大体は計画通りに進んだ。

だが、誤算もあった。

「・・・・・・アレンを手中に収められなかったのは痛手だな」

「そうっすね。あの人の知識は馬鹿になんないっすよ。
・・・・・・まあでも、他の貴族にとられるよりかは幾分マシっすけど」

「王族も陰から横槍していたみたいだがな」

それを聞いたカイルは、思い出したかのように肩を震わせて。

「アメリア殿下が、アレンさんを糾弾してくれたおかげでそれも水の泡ってなったときには、笑っちまったっす」

愉快そうに嗤うカイルに、マーシュ卿は軽くため息をついた。

「口を慎め。誰かに聞かれたら不敬罪に問われるぞ」

「すんません」

マーシュに謝りつつも、彼の瞳のその奥にくすぶる王家に対する嫌悪は、隠しきれていなかった。

「今後は俺らの居場所を奪わせたりはしないっすよ・・・・・・絶対に」

「・・・・・・お前も大概だな」

呆れたようにいって、マーシュ卿は表情を改める。

それにあわせ、カイルも顔を引き締める。

「アレンから提供された情報と知識をもとに、はじめるぞ」

「飢えで死者が出ることのない世界と、優秀な人材の育成のために」

それは、王政を執っている為政者にとって、この上のないほどの嫌がらせと脅威となる。

通常裕福な商人や貴族でしか受けられない、高度な教育。

それを一般層やスラムの人間が受ければどうなるか。

彼らは絶対と信じていた存在に疑問を抱くだろう。

思考し知恵をもつのが人間なのだから。

たとえば悪政を強いた領主・貴族がいた場合、力をもたなかった民たちは、ときに授けられた知識を知恵へとふりしぼり牙を剥く。

無論善政をしいているのがわかっていれば、こんなことはまず起きない。

弱者と侮るか否かは、その為政者しだいだろう。

彼らが行うのはその下準備。

そしてこれは、第一王位継承者であるフィリオネルも合意のことだ。

平和主義を名乗っているとおり、彼は争いを好んでいない。

だが、父王であるエルドランが病で伏せ、貴族の暴走が目に余り始めた。

思えば、彼の甥のアルフレッドも、半分は彼自身の性格もあったが。

貴族の何割か甘言して唆していた節があった。

でなければ、重鎮たる文官たちがああも易々と殺されたりはしなかっただろう。

それからフィリオネルは、苦悩と葛藤を得て、この下手をすると王家の血筋が途絶えかねない策に便乗した。

民から信頼され、支えられるような王となるために。

そして娘たちや、その子孫が道を踏み外すことのないように。

狂想曲のように、一定の形式がなく自由で機知の富む標のように。

親として、そして時期国王としての愛情と尊厳を持って彼は願うのだった。

35240時計の世界シャネルスーパーコピー URL2013/12/7 23:18:11


時計の世界には二重価格というものがあって、定価の9割引なんてのはザラ。
シャネルはもともと時計メーカーでは無いですし、J12は遊び心がありすぎて、オンでは間違いなく付けれません。
良い子悪い子普通の子で言えば、ちょうど「ふつお」ぐらい。

35239白魔術都市狂想曲 127フィーナ 2013/9/25 13:04:26
記事番号35153へのコメント


王宮内にある不透明な部分は、決して表に出てくることなく、彼の身柄は身内のものが引き取ることになった。

そこでもまた、セイルーン内で養生させるべきだという意見が出てひと悶着あった。

(意訳)自国で監視し、手元においておきたい

ならば誰の手元に? と、争点がすりかえられ、ならば我も我もと名乗りを上げはじめ・・・・・・収拾がつかなくなりそうな論争が起きたようだが。

そこはフィルさんの「家族や身近なものの傍の方がリフレッシュできるだろう」と、いう一言でその場はなんとか収まった。

収まったものの、それはフィルさんの言葉に胸を打たれてという心温まる理由ではなく。

病状に臥せっている、エルドラン現国王の代理で政務をこなしている第一王位継承権の発言だったからに他ならない。

ほとんどの国が王制を敷いているのは、あたしたちこの世界の住人なら誰でも知ってる周知の事実。

フィルさんは代理とはいえ、国内で最大の発言権を持つ。

例えばの話だが、いくら公爵の位を持つ発言権の高い貴族であろうと、フィルさんの決定に真っ向から逆らう意見を発したらどうなるか・・・・・・

まあ・・・・・・碌な目にあわないわな。

ともあれ、アレンの引渡しは近いうち内密に行われる。

ゼルガディスは、不測の事態に備えその護衛として、しばらくセイルーンに留まるそうである。

アレンの他国への引渡しが、これほど早く決定されたのには理由がある。

そうするほどの事態が、これまでの過程の中であったからなのだ。







いくら国の決定とはいえ、不穏分子は排除すべきだという過激派はやはり存在する。

・・・・・・現に時折、刺客が送り込まれたし。

そのときのことを思い出すと、柄にもなく憂鬱な気分になった。

場所は人目がそれなりにある王宮の中。

談笑していた文官や貴族たちが次々と倒れていった。

どうやら飲んでいた香茶のなかにしびれぐすりが入っていたらしい。

暗殺者たちが殺到し、その場はからくも迎撃・撃退したものの、暗殺者の数名はあたしたちにはめもくれず、しびれて動けない彼らを手にかけようとしたのだ。

彼らはアレンを擁護していた派閥で、アレンの知識や応用力を高く評価していた。

一人ならともかく、彼ら全員をかばいながら戦うのは、さしものあたしたちも厳しく、防戦一方にならざるを得ない状況だった。

正規の兵士たちが機転を利かし、動けない彼らを一箇所に集めてくれなかったら正直危ない場面がいくつかあった。

襲撃の報せを受け、王宮は貴族たち暗殺の可能性の危険を重く受け止め、二の舞を踏まぬように出した結論がそれだった。
               ヴィジョン
王宮から魔道士協会に 隔 幻 話 によるつなぎをつけ、アレンの身内がいるレイスン・シティに連絡を取り。

そして、都合のついた更に数日後。

「そんじゃ、いこっかアレン君」

「う?」

にっこにこと、自然なほど人好きのする笑顔で、アレンに語りかける壮年の男性。

「うん。君が根回しをしてくれてたおかげで、僕も自由に動くことができた」

「うーあー」

わしゃわしゃとアレンの頭を撫で回し、彼は頬を綻ばせた。

「さて、ひさしぶりだね」

こちらに視線を向け、先ほどアレンに向けた柔らかな笑みとは違う。

不敵ともいえる笑顔を目の前の男は浮かべた。

「久しぶりですオリヴァーさん」

「どうも」

そう。あたしたちの前にいるこの人は、アレンの親戚でありマジック・アイテムを扱っている商人のオリヴァー・ラーズそのひとだった。

35238きらりと、光る。 1 (ゼロリナ)みい 2013/6/8 17:57:46


こんちゃー。みいでっす。
過去ログを漁っていてふと気付きました。
私がこちらにお世話になるようになってから、もう10年も経っているんですね。
昔書いた私のss達は幼くてむず痒く、「偶然」に至っては色んな意味で
怖くて読み返せないです(苦笑

今の私はといえば、中学も高校も卒業し、ラノベ作家を目指して某学院の
ノベルス科に通い、卒業するも道には挫折、結局フリーター、と。
そこそこ幸せな毎日を送っています。
まだ苗字は変わっていませんが、薬指にはきらりと光る大切な“証”もあります。
スレイ原作が手元に無くて、色々とあやふやですが……
今の私が書ける、穏やかな物語をお届けしたいと思います。


@@@@@@@@@@@@@


 きらりと、光る。



 人間でありながら、魔族を好いているというのは、やはり異端なのだと思う。
 生きとし生けるものの敵。そう捉えられている彼ら。
 多くの人の目に触れる魔族と言えばレッサーデーモン等の亜魔族だし、
仕方が無いことなのだけど。
 むしろ、高位魔族と何度も対峙しているという事実の方が、既に、よっぽど、
人間としては異端なのかもしれない。
「ねえ、ゼロス」
 虚空に問いかけても返事はない。
 なぁんだ、今日は近くにいないのか。
 ――いや、この場合「近く」という表現は妥当ではないのかもしれない。
 彼の所属は精神世界面であり、文字通りこちら側とは次元が違う。
 あたしが何の気なしに掛けた声を、彼はどうやって拾っているのだろうか。
 “気まぐれ”という言葉が、一番しっくりくる。
 きっと、呼びかけは全部聞えているのだろう。でなければ、呼んですぐに
姿を見せるなんて芸当、そう何度も見せてくれはしないはずだ。
 そして、毎度必ず姿を見せてくれる程、心は近くにはないのだろう。
 ……おや。「近くにいない」を否定していたはずなのに、結論は肯定か。
 さくさくと草を踏み締めながら、何でもない言葉遊びを脳内で続ける。
 時刻は夕暮れ、逢魔が時。
 そして、場所は森の中の街道から脇に逸れた獣道。
 何かの気配に一本だけ炎の矢を仕掛けるつもりで小さく唱え、
――すぐに打ち消し烈閃槍(エルメキア・ランス)を口の中で転がす。
 破壊神だのと言われるあたしだって、無闇に山火事を起こしたい訳ではないのだ。
 低く唸りながら近付いて来るデーモンは、ひぃふぅみぃ、よぉ……っておいおい。
 こちらを囲むように、ざっと15体くらいか。全方位からの包囲ではないので、
逃げやすいように一部に的を絞って光の槍を放つ。
 街道までは今来た獣道をしばらく戻らなければならないので、予定通り
獣道を走る。
 すぐに完成した翔封界(レイ・ウィング)で炎の矢を避けつつ獣道を奔り、
ほどなくして当初の目的地である洞窟へと到着した。
「ゼロス! ゼーロース!!」
 呼べど喚けど、やはり出てこない。
 ここに写本がある、とあたしに伝えたのは他でもないあいつだ。
 そして、彼があたしにそれを見られてもいいと判断したのなら、その写本の
内容は十中八九金色の魔王についてだろう。
 何たってあたしは一度、異界黙示録そのものに触れて、それについての知識
を得ている。そして、魔族はあたしが混沌についての知識を増やすことを歓迎
しているのだろう。
 しかし。
 ふ、と空気が重くなった。辺りの気温が下がった気がする。
 決して夕暮れのせいではない。
 瘴気。こんなに強い瘴気を出せるのは、亜魔族ではあり得ない。
 やはり、一本の木の向こうから、ゆっくりと魔族が姿を現した。
 人のような形をとっているが、バランスが妙である。
 頭と胴体のバランスだけ見れば、まるで子供のようだ。しかし、腕が極端に
短く、脚は長すぎる。
 純魔族としての力の強さは中の下、といったところか。
「お前、人間。我の姿を、見て、何故、恐怖しない」
 問われて少し噴出してしまった。確かに、緊張はするが怖いとは思わない。
「残念ながら、あんたよりもっと高位の人型魔族と何度もやりあってるのよね」
 これは良くない慣れなのかも知れないが。
「しっかし、こんなとこでそこそこ力のある魔族が何してんの」
「お前には、関係、ない」
 ふむ。まあ、最初からストレートに教えてくれるとは思ってなかったけど。
「えー? 仮にも人型取れる純魔族様が、たかだか人間の小娘一人に
秘密にしなきゃいけないことなんてあるの?」
「秘密にした、わけでは、ない」
 ほーらね。案外簡単なのだ。低級魔族との腹の探り合いは。
 奴らの自尊心をほんの少しくすぐってやればいい。
「じゃあ何なのよ」
「その先の、本が。人間の手に、渡せない。守る」
 ……守る、と来たか。
「ちなみに、あたしがはいそーですかってここで帰ろうとしたら、見逃して
くれるの?」
「食事は、認められている」
 なるほど。上司の命令を受けてここにいて、近づいた人間は奴専用の
お食事としてなぶられて殺されるわけか。
 ――四界の闇を統べる王
   汝の欠片の縁に従い
   我に更なる力を与えよ
 剣を抜き構えながら、早口で魔力許容量をまず増幅する。
 魔血玉を口にしたあの時以来、身振りはいらなくなった。
 ――凍れる森の奥深く 荒ぶるものを統べるもの
   滅びをいざなう汝の牙で 我らが前を塞ぎしものに
   我と汝が力もて 滅びと報いを与えんことを
 飛び来る光球を避けながら距離を取り、
「獣王牙躁弾(ゼラス・プリッド)!」
力ある言葉で光の帯を解き放つ!
 その切っ先は迷うことなく目の前の魔族に向かい、
「おっと」
そのたった一声と間に割って入った杖の一振りで、胡散霧消してしまった。
 魔族の前に唐突に現れた見慣れた杓杖。
「すみませんね、リナさん。少々遅くなってしまいました」
 そして、聞きなれた声。
「ゼロス……あんたねぇ」
 あたしが呆れた声を出すのと、彼が姿を現したのは同時だった。
 最初から全身現しておけばいいものを……やはり変なところで演出好きだ。
「ゼロス様、何故」
「ああ、あなたは下がっていなさい。取るに足らない低級魔族といえど、
全体が減ってしまった今は一体でも惜しいんです。
 ――こちらは、あなた程度じゃ到底太刀打ちできませんよ」
 心なしかダメージを受けたように一瞬姿がブレ、魔族は何も言わず消えていった。
「随分買いかぶってくれるじゃない」
「はっはっは、ご謙遜を。魔王様を二度も混沌へ送った貴女が何を言うんですか」
 そう言いながらも、口元はいつもの仮面よりも深く笑みを刻んでいる。
 買いかぶった表現をしたのはわざとなのだろう。
「……で? わざわざ守らせていた写本を、あたしには見せてくれるのよね?」
「さあ、それはどうでしょうね」
「はぁ? じゃあ何でここの話をあたしにしたのよ」
「それはまあ、色々とありまして」
「大体呼んでもすぐ来ないし」
「リナさんの呼び声は聞えていたんですけどね。こちらにも、お仕事があったので」
「ふぅん」
 面白くない、と顔に書いて見せ付けてやると、ゼロスは苦笑して洞窟へと
一歩踏み出した。
「取り敢えず、ご案内しますよ」


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

穏、やか……?
ええっとすみません、ゼロスさんほとんど出てきてないっていうw
もうちょっと続きます!

35237銀幕(下)みい 2013/6/6 01:09:18
記事番号35123へのコメント


さて、どう風呂敷を畳んだものか……。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



 突き立てた剣は、鞘ごとオリハルコンの幕を貫通していた。
 俺は力任せに剣を下ろし、幕を破る。
「ゼロス、貴様ァ……!」
 こんな時は、傷付きにくい自分の肌が便利だと思う。
 裂け目から奴を睨みつけながら、素手で幕をさらに広げて室内へと
入り込んだ。
「おやおや」
 いつも通りの笑みの仮面をこちらに向け、ゼロスは一瞬で距離を取った。
 リナは、……おい!
「リナ、リナ!?」
 彼女は何とも危なっかしい角度で俯いていた。
 肌蹴られた襟元から覗く細い首が、長い髪に引っ張られる頭を
重そうに支えている。
 いつも力強く輝く瞳は、人形の硝子玉(それ)の様に空ろに光を
反射しているだけだ。
「リナっ」
 頬を濡らす雫を拭うと、ひくりと頭を震わせて、緩慢な動きでこちらを
見上げる。
「ぜる? ごめん、ね」
 無理やり口角を上げても、それは笑みに見えなかった。
 思わず引き寄せて抱き締め、痛々しい表情を見ないようにする。
「うーん。ちょっとやりすぎちゃいましたかねー。
 まあお二人の感情はとっても美味しかったので、僕としては
嬉しかったんですけど。
 リナさんが壊れちゃうのはこちらとしても困るので、じゃあ
ゼルガディスさん後は宜しくお願いしますねっ」
 ことさらおちゃらけた声でゼロスは言い放ち、さっさとその場から
消えてしまった。
 俺がこの手で消したい、とは思ったが、このままいても負の感情を提供する
だけのような気がして、どこか納得している自分もいた。
 あんな奴よりも、リナだ。
「ぜる、くるしい」
 そりゃあ、岩肌で強く抱き締めたら苦しいか。
 苦笑して腕を緩め、頭を撫でながら顔を覗き込む。
「泣くな」
「な、泣いてないわよ」
「強がらなくていい」
「どっちよ……」
 強張っていた表情から力が抜けて、もう一度頭を撫でる。
「それでいい」
「……偉そう」
「お前に言われたくない」
 間髪入れずに言い返すと、リナがふっと息を漏らした。
 とても不器用に、笑っていた。

 ☆ ☆ ☆

「つまり、お前さんの責任なんてどこにもないじゃないか」
 ゼルがいなかった間のことを掻い摘んで説明した後、彼の第一声は
それだった。
 ちなみに場所は未だお宝ちゃん達の部屋である。
「だってそうだろう。
 友に呼ばれて行ったら自殺幇助を頼まれた。生かしてやる道はどこにも
なかっただろう。手を貸すのがそいつの為だ」
「でも」
「そいつが、最後は人としての自分でいられるようにと手伝うことの、
何が悪い。
 一度魔王を受け入れてしまったら、後は魔族に利用されるだけだ。
 降魔戦争の再現を、お前もその男も嫌ったのなら、それが最善の道だ。」
 言い切られて、言い淀む。
「お前さんは、彼を守ったんじゃないのか」
「……“守った”」
「賢いんだから、わかってるだろう」
 頭を撫でられて、「ん?」と首を傾げるゼルを見つめる。
 彼の手は硬いけれど、とても優しい。
 その、まなざしも。
「自身が持てないなら何度だって言ってやる。
 お前さんは最善を尽くした。お前さんしかできないことだった。
 感謝してるだろうよ」
 ルークの顔が、ふっと浮かぶ。
 苦しげなものでない、おだやかな表情(かお)が。
「いいの、かな」
「いいんだろ。
 むしろ、そいつが今のリナを見たら怒るんじゃないか?」
 ――いつまでクヨクヨしてやがる、らしくもねぇ!
 そう、ルークの声が聞えた気がした。
「いいの、かな」
 胸につかえていた何かが、すっと解けた。
 彼とはもう会えないけれど。
「殺したんじゃない。お前さんが、見送ってやったんだ。」
 ぼろぼろと、目から雫が零れた。
 きっとこれが、一番欲しかった言葉。
「よく頑張ったな」
 不覚にも、声を上げて泣いてしまった。

  ☆ ☆ ☆


「あの、ところで、ゼル?」
「どうした?」
「だから、その」
 ゼロスが去ってからずっと、俺はオリハルコンの壁によりかかり座っていた。
 リナを、膝に乗せたまま。
 段々と冷静になってきたのだろう、胸元に垂れている俺のケープを小さく
握りながら、もじもじと俯いている。
 案外可愛いところがあるじゃないか。
 そう思う自分にも、もう吹っ切れていた。
 わかりやすい話だ。まさか自分が、とも思うが、この一件で気付いて
しまったのだからしようがない。
「リナ?」
 耳元で低く囁いてみれば、大きく身体を震わせてから涙を浮かべて
こちらを睨む。
 赤面しているから、効果は別の意味で抜群なんだが。
「もう、大丈夫」
「俺は離したくないが」
「ぜっ……!?」
 ふむ。面白い。
「嫌か?」
「いやじゃなっ……い、けど」
「ならいいだろう」
 澄まして言ってやれば、絶句したようでただぱくぱくと口を開いては閉じている。
「お前さん、案外可愛いな」
「ななななに言って!」
「女らしい反応もできるんじゃないか」
「それは! 普段ガウリイがレディとして扱ってくれないからでしょっ」
 なるほど。確かに旦那の言動は「女子供は大切にしろ」の、子供扱いに見える。
「俺は別段、お前さんを子供扱いした覚えはないが」
「知ってるわよ、ちゃんと女の子扱いしてくれてたって。だからす、……」
 うっかり口が滑った、とでも言いたげに視線を逸らし、口元を覆い、それからすっくと立ち上がる。
 俺の腕はそのままだったので彼女の体のラインに触れたことになるが、
意思とは無関係だと主張しておこう。
「す、なんだ?」
「何でもないっ」
「解らないだろう、言ってみろ」
「解らなくていーいーっ」
 リナはすたすたと財宝の山へ近づき、持って帰れる分だけを纏めるため物色を始めた。
 赤くなっている耳を弄ってやりたい衝動に駆られるが、我慢しておいてやろう。
「もう、大丈夫だな?」
「うん。……ありがと、ゼル」
 くしゃりと頭を撫でると、見えない顔が微笑んだ気がした。




@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

お、終わっ、た……?

強引ですし、しばらく書いてなかったので「文才何それ美味しいの?」な感じですが
最後までお付き合い頂きましてありがとうございますー!
タイトル活かしきれなかったなぁ……。
ではでは、またいつかお目にかかれる日までっ。
みいでした☆

35236銀幕(中)みい 2013/6/5 15:38:34
記事番号35123へのコメント

うわ、さ、3年越し……。
どーも、こんちゃっす。みいでーっす。
さてさて、構想とかもう完璧に忘れてるけど続き書いてみますw
面白くなったらいいなぁ。


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@




 ――情けないことに、俺は泣きそうだった。

 きらりと光る岩壁でできた一室には、馬車を使っても絶対に
一度や二度では運び出せない量の金銀財宝に、分厚い書物達があった。
 リナは諸手を挙げて跳ねる様に室内に駆け込み、
その瞬間、大きな岩が頭上から転がり落ち、入り口を塞いだのだった。
 室内は石畳が敷き詰められているようだったし、踏むと作動する
簡易な仕組みのトラップだろう。
 場馴れしているからこそのミスだ。
 ――しかしリナらしくも、
そう思いかけて、リナが平生の状態ではないことに思い到った。
 ガウリイの旦那がした最初の目配せ。そして、ふとした拍子に漏らした、
「俺じゃ役に立たん」の一言。
 そうだ。今日のはしゃぎ様は、以前よりやけに幼い印象を受けた。
 旦那は声を上げて笑うリナを見て、心底安心した様に微笑んでいなかったか。
 出会ってからずっと、リナを一言で表すとしたら「強か」に尽きると思っていた。
 しかし、その強かさが揺らぐ何かが、あったというのだろうか。
 そんな彼女が今、こんなミスをした。
 いつもだったらこんなトラップ、難なく避けているだろう。
 しかし、今は?
 “最悪”が脳裏にちらつき、粟立たない筈の硬い皮膚に焦燥が走った。
 ――リナ。
 頭上に漂わせていた明かりを足元に寄せ、“最悪”の証拠を探す。
 ――大丈夫だ、まさかリナが。
 その想像を打ち消そうと思うのに、彼女の笑顔がチラついて、
余計に不安が煽られている。
 地面の境からは、マントも髪の一房も勿論血の一滴だって覗いてはいない。
 手をひたひたと境目に合わせながら確かめて安堵し、肩の力を抜いたときだった。

「あほかぁぁああああ!」

 小さく、反響して聞き取りづらいが間違いなく彼女の声だ。
 そうだな、確かに阿呆な想像だった。息を吐いて苦笑して、
俺は頭をごつんと大岩に当てた。
 いや待て。俺の想像が、岩の向こうのリナに伝わる訳がないのだから
この突っ込みは俺宛であるはずが無い。
 落ち着け。何をこんなに慌てているんだ。
 リナが、……いくら、大切な仲間だからと言って。
「〜〜わぁぁあああああああ!」
 また、リナが大きな声で何か叫んでいる。
 苦手なナメクジでもいたのだろうか。
「おい、リナ、どうした?」
 岩を叩きながら声をかけども、反応する様子はない。
 彼女の声は聞えているから、中でも脱出の糸口を探しているのだろうか。
 ……いや、中の声はリナだけではない。聞き取りづらいが会話が成されている。
 では一体誰が?
 突っ込みの声は大分親しそうだった。
 誰か、かつての仲間が偶然にもいたというのだろうか。
 アメリアは考えられないだろう。では、俺の知らない誰かだろうか。
 しばらく会っていない間、別の人間と旅を同行していたようだったし。
 ともかく。
 一抹の焦げ臭い感情は見なかった振りをして、大岩に改めて向き合う。
 こんな大岩越しに声が聞えるということは、どこかに穴があるのだろう。
「リナ、おい、聞えるか!?」
 声を掛けながら、大岩にひび割れなどが無いかまず確認し、それから大岩が当たった壁のあたりにほころびが無いか確認する。
 ……待てよ?
 リナも出口を探しているのだろうから、明かりを使っているだろう。
 俺は手元に寄せていた明かりを、先ほど来た通路の方へと押しやった。
 案の定。大岩と壁の間、膝くらいの高さから、明かりが漏れている。
 俺はそこに顔を近づけ、大き目の声で声をかけた。
「リナ、おい、……リナ!」
「ゼルっ、ゼルガディス、聞える?」
 反応はすぐに来た。ほっとしながら、髪を数本引き抜いて穴に差し入れる。
「リナ、ここだ」
 少し振ってやれば、中の明かりを反射して見つけやすくなるだろう。
「ゼロス?」
 声は更に近づいたが、聞えた名前に思わず眉をしかめた。
「リナ? ゼロスがいるのか?」
「ええ、さっき助けてくれたんだけど」
 大岩に潰されないように、だろう。
 どうせその後おちゃらけて、リナに突っ込まれていたんだろうが。
 しかしどんなに阿呆なことをしていたとしても、相手は高位魔族だ。
「……で、あんたは一体何のために?」
 問うリナの声色も、幾分かかたくなっていた。
「リナさんの様子を見に、ですね」
 ゼロスの声は聞き取りづらい。リナと離れているのか。
「何のためにか、訊いてるのよ」
「心当たりがないわけじゃあないでしょう? リナさん。
 なんたって、この世界だけじゃなく異界の王の血まで
その身に溶けているんですから」
 少しずつ大きくなるゼロスの声。しかしそこは問題ではない。
「何だと……?」
 異界の王の血? 王の血、とゼロスが言うのだからこの場合は
魔王の――つまり賢者の石のことだろう。
 リナが賢者の石を手にしていたのはいい。だが、何のために飲んだんだ?
 待てよ、異界の王? リナはそんな呪文を使っていなかったか。
 ……四界の闇を統べる王、我と汝の縁に従い、我に更なる力を与えよ?
 呪符! ゼロスから買い取ったと言っていたあの4つの呪符が、
それぞれ魔血玉だったのか……。
 リナが、その賢者の石を飲むほどの窮地に、陥ったのだろうか。
 ガウリイが呟いた「役に立たん」の一言は、その時のことか?
 二人の会話は続いている。焦るリナの声に、楽しそうに返すゼロス。
「人間にあるまじき、強大な魔力ってところかしら?」
「ええ。かつて冥王が考えていたアレを、今度は完璧に実行できる可能性があります」
「おい、まさか……!」
 リナに、混沌を召還させるわけにはいかない。
「まあ、まだそんな命令は受けてないんですけど。
 やっぱり僕ら魔族としては、強大な力と認めざるを得ないんですよねぇ。
 欠片とはいえ、2回も魔王様を倒した存在っていうのは」
「馬鹿な、2回、だと……?」
 ちょっと待て、どういうことだ。
 1度ならば、それは俺も一緒にいたあの時だろう。出会ってすぐの、レゾの件だ。
 その後に、もう一度、魔王の欠片を倒したというのだろうか。
 ――だから、賢者の石を飲み込んだ?
「だから、監視してるの?」
「ええ。そして、その時になるまでは生きていて頂きます。
 ……とはいえ、こちらも大痛手なんですよね。
 この間の一件で、魔族間での諍いなんて下らないものもありましたし。
 今まともに動けるのは、獣王様と海王様のみ。
 一度冥王が失敗した策を持ち出してくるには、準備が整いません」
 何故だ。
 魔竜王と冥王は確かに滅びたが、覇王はどうした?
「そうね、一番策を弄すのが得意だったのが冥王だったんだっけ?」
 こともなげに頷くリナは、覇王の顛末も知っているのだろうか。
「獣王様も不得意ではないんですけどね。
 ともかく、今すぐっていう動きはないと思いますよ。でも」
「ひぅっ」
「どうした!?」
 ――小さな悲鳴は、年相応に可愛らしかった。
 思考が横に逸れて、頭を振る。リナが対峙しているのは、高位魔族だ。
「個人的には、今のリナさんにとっても興味があります」
 先程の悲鳴と相俟って、まるで男女の睦言のように聞えてしまう。
 そんなわけはない。そんなこと、あるはずが無いのに。
「前回は、はっきり敵対してでしたけど、今回は仲間との対決でしたものね。
 リナさんがルーク・シャブラニグドゥ様の正体を知った瞬間、是非その場に
居合わせたかった。
 今よりももっと複雑で美味しい負の感情を出されてたんでしょう?」
 仲間? リナと行動を共にしていた“ルーク”という男が、
シャブラニグドゥとして目覚めたというのだろうか。
 離れている間に一体何が……くそ、こんなことなら離れなければよかった。
 手を付いていた大岩を殴ろうとし、その向こうにリナがいることに気付く。
 どうして俺はじっと耳をそばだてているんだ。
 この大岩をどけるのが先だろう!
「地精道(ベフィス・ブリング)っ!」
 大岩をがりがりと削っていく。しかし、穴は開かない。
 何度試しても術は突き抜けず、大岩がただ薄くなっていくのみだ。
「僕が怖いですか、リナさん。
 案外今のリナさんに揺さぶりをかけたら、世界を滅ぼすのも簡単かも
しれませんね。
 自覚なさってますか? 今、ガタガタ震えてらっしゃいますよ」
 ゼロスの楽しそうな声が聞えて、ぐっと強く拳を握る。
 貫通しなくても、薄くすればそれだけ望みは広がる。
 もう一度、地精道!
「ああ、いいですね。美味しいです」
 ――ああもう、どうして言いなりになっているんだ!
「リナ、どうした!?
 おい、ゼロス! お前リナに何をっ!」
 岩はほとんど消え、術を阻んだ金属越しに、二人の影が見えていた。
 そう、二人の影はほとんど重なっている。
 こんな至近距離で一体何をしているんだ!
「僕ですか? リナさんに何を? ……うーん、そうですねぇ。
 襲ってます」
「ふざけるなぁぁあああ!!」
 思わず剣に手が伸び、思い直す。
 目の前の金属は、どうせオリハルコンだろう。柔らかい金属とは言え、
剣とは相性がよろしくない。
「嫌ですねぇ、ふざけてなんていませんよ。
 では言葉を変えましょうか。
 ねちねち言葉攻めしてリナさんの美味しい感情で食事してます。
 いいじゃないですか、負の感情くらい。リナさんだって無抵抗ですよ?」
 無抵抗、だと!?
「リナ、どうしたんだ! 何かされてるのか!?」
「いいえ、僕は何もしてません。」
 何でゼロスが答えるんだ!
「そもそもゼルガディスさん。こちらの室内がこんなにも明るいんですから、
影がそちらから見えるでしょう?」
 見えているからこそ、もどかしい。どうしてリナは動かない?
「リナ、おい、しっかりしろ!」
「でもリナさん、しっかりしろだなんてよくそんな無責任なことが言えた
もんだと思いません?
 ゼルガディスさんはルーク様を知らない。
 覇王様との戦いも、ルーク様との戦いも知らない。
 いいえ、ガウリイさんだって本当は知らないんですよね。
 北の魔王様から伺いましたよ。
 ルーク様を最後に屠った時、ガウリイさんは倒れていて、あなた一人だったと」
「あ……」
 リナがぴくりと身じろぎをした。
 ちょっと待て。その口ぶりじゃ、――
「あなたが、かつて仲間だったルーク様を、」
「やめろぉぉぉおおおおおおお!!!!」
 剣を鞘ごと、目の前の銀幕に叩き付けた。
 ゼロスの言葉を掻き消したくて。
「魔王様と同化されたルーク様を、殺したんですよね、リナさん」

 やめろ。
 リナの心はもう
 こんなにも、傷ついているじゃないか。




@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

はい、上編があまりにも解りづらかったので、ゼルサイドからもう一度。
ゼルやんはまだ、リナちゃんに対する心をはっきりと自覚しては
いなかったみたいですね。
だからテンパるテンパるw
テンポが悪くて読みづらいですが、次はどうにかなるはずっ!
今しばらくお付き合い下さいませ。
みいでした☆

35235白魔術都市狂想曲 126フィーナ 2013/3/31 16:31:56
記事番号35153へのコメント


すべてを赤く染める夕暮れが、聖王都と呼ばれる都市を照らす。

まるで焼き尽くす炎のように。

王宮の片隅にある、何の変哲もない一軒家。

兵士たちを退けさせて、あたしと彼女――アメリアは向かい合うように座っていた。

「・・・・・・それで、大体あんたの思惑通りってことでいいわけ?」

きりだしたあたしのせりふに、彼女はほのかに微笑む。

「単刀直入ね」

「そこがあたしの美徳なんでね」

互いに笑みを浮かべつつ、軽口の報酬を交わすあたしたち。

「それで? さっきの質問の答え、沈黙は肯定と取るけど」

「わたしとあなたの仲なら、先ほどのやりとりでわかるとおもうけど?」

浮かべた笑みを崩さないまま、そういう彼女。

・・・・・・ふむ。

「それにしても、ヴラさんが火竜王様だったなんて・・・しばらくはきづかなかったわ」

「それについては同感ね」

「今思い返したら、納得できる部分もあったのに」

「そういえば、ヴラにちょっかいかけた人たちは?」

あたしの投げかけた質問に、アメリアはしばし考えた後、

「ヴラさんと出会う前後の記憶が、スパーンと抜け落ちてるわ。
・・・・・・長期療養の名目で、避暑地に向かうことが議会で決定されたわ」

名目上の建前で、王宮の議会で決定だと断言した以上は・・・・・・

・・・・・・うん。

ちょっかいかけた連中。

社会的にしろ、身体的にしろ終わったな。

「王宮に顔出しできるころには、ついてた役職に戻れるのは絶望的ね」

「・・・・・・『ほぼ』ね。付け加えると」

訂正を加えるアメリア。

どちらにせよ、表舞台から退場いただくことに間違いないだろう。

「それで、議会のほうは?」

本題を切り出す。

「あの部屋にある書物の没収と、国外追放よ」

アメリアは淀みなくそう答えた。

「家の没収は控えたみたい」

「なんでまた」

「一部・・・いえ半数近くの貴族の人たち、期間限定でいて欲しかったみたいでね」

「期間限定の国外追放? それはまた・・・・・・」

眉間を寄せ、ため息をつく。

「キャッチ&リリースじゃあるまいし」

「いい得て妙ね」

感心した様子でつぶやくアメリア。

「厄介後とか面倒くさい話はいらないが、おいしい話は手放したくないって、子供のわがままか!」

「それだけの価値はあるのよね〜」

「あんたたちが欲しいのは個人じゃなくて情報だけでしょーが」

しみじみとうなずきながら言う彼女に、あたしは投げかけた。

「情報はもちろんだけど、アレンさん本人も捨てがたかったのは本当よ。
セイルーンで培った治療のノウハウとか、後任の育成に関してもわかりやすいと評判だったのよ」

「しんないわよそんなの」
      あの人たち
「だいたい 貴 族 、アレンさんが復帰できる以前にあんな状態なのに本気で戻ってこれると思ってるのかしら」

「さあ・・・・・・ね」

こちらに言葉を投げかけた彼女に、軽く肩をすくめてみせる。







・・・・・・あのあと。

切り取られた空間の消滅から、あたしたちが戻ってきて少したった後。

昏睡状態だったアレンの目がゆっくりと開かれた。

その知らせを受け、兵士たちや治療を受け持っていた神官。

物々しい厳戒態勢がしかれた。

帯刀していた剣を突きつけられ、アレンは不思議そうに剣を向けた兵士を見つめた。

・・・・・・まるで赤子のような、無垢な瞳で。

言葉を発するのも、「あー」だとかの発音のみ。

念入りに調べられた結果。

アレンの精神はなんらかの異常をきたし、赤ん坊レベルまで知能が低下。

そして今までの人格に戻ることはないだろうと診断され、協議の結果今に至るというわけである。

しかしあたしは言わなかった。

王宮にはもちろんのこと。

あたしの目の前にいるアメリアにもである。

理由は知られれば、まず間違いなく狙われるからだ。

それこそ国を挙げて。

あの空間の中、マジック・アイテムに宿ったヴラの残留思念と呼ぶべき存在はこういった。

『わすれる』と。

言葉どおりに受け取ると、ガウリイのように大事なことさえ忘れたままだという、人としてはなんともいろいろと本末転倒な可能性もある。

だがある魔道士の研究の中に、忘れたはずのことがふと思い出されたとき。

それは感情に強く残ったことが、押入れのようにしまっていた様々な記憶から連想させたものを引き出すからだと唱えた論文が発見されている。

・・・・・・その魔道士もミイラになって発見されたが。






閑 話 休 憩 
それはともかく。

アレンの場合も今は思い出せないだけで、何かの拍子で『おもいだす』可能性もないわけではないのだ。

あたしがなぜ言わなかったのかは、セイルーン王宮とことをかまえる可能性がいかに高いか考慮して。

組織の中には大まかに三種類の派閥みたいなものが存在する。

穏便に済ませようとする穏健派。

我関せず、あるいは様子見の中立派。

そんで壁があれば壊せばいいじゃないの過激派。

過激派の中で武力行使もいとわない好戦的な連中もいるわけで。

彼の知識の豊富さはまさに歩く図書館だった。

小競り合いを続ける国や、発展途上にある弱小の都市に、それが渡り急激に成長したら?

いつか自分たちを脅かすわからないものをほうっておくのを見ていられるか。

国のことを思うあまり、疑心暗鬼で暴走するなんてこともありうるのである。

要約すると『国家間のごたごたに付き合いきれん』

いかにあたしが天才的な魔道の使い手であり、頭の回転が速いといっても個人と組織でできる幅は大きく異なる。

盗賊団なら遠慮なくつぶせるが、それが大国ともなると。
 ドラグ・スレイブ
  竜 破 斬  ぶちかましても、伝言他国に知らしめて指名手配の出来上がり。

難易度の高さのほど、おわかりいただけるであろう。

いまのは無論たらればの、Ifのはなしである。


35234白魔術都市狂想曲 125フィーナ 2012/10/3 13:25:14
記事番号35153へのコメント


「千年の時間ってやつは皮肉なもんで、多かれ少なかれ生ある存在を変質させてしまうらしい。
まあ、この世に生を受けた以上、変化があるのは当然の理なんだが。俺たちが治めている地は、こちらと違って魔族の脅威もほとんどなくてな」

ヴラは苦笑の色をにじませた。

「それによって人間たちの魔術は、衰退しているといったほうがいいな。それと併用しての新しい技術が発展した」

「衰退・・・ね。
その技術と魔術を組み合わせた新しい技法ってわけ?」

「いいや。魔術に代わりそちらの技術のほうが台頭している。
人が魔術を行使する際、呪文と『力ある言葉』を正しく発音できなければ発動しないし、魔術は魔力と、それを御することの精神力が求められるだろう?」

「そうなのか?」

「まあ・・・・・・ね」

ガウリイの問いにあたしは軽く頷いた。

人にとって千年は長すぎる。

水竜王が治めていたこの地に住まうあたしたちは、迫りくる魔族の脅威に備えるため。

あるいは自らを守る自衛のために、千年たった今でも魔術についての研究が盛んに行われている。

だがヴラたち竜王が治める地では、彼らが守護する土地ゆえ魔族が牙をむくことも少ないのだろう。
     カオス・ワーズ
また 混 沌 の 言 語 は、ヴラの言ったとおり発音の難しい部分がある。

あたしのように魔道を扱う人間ならともかく、一般の人で高度な攻撃魔術をビシバシ使う姿なぞ、みたこともない。

ならば千年たった今。ヴラたちの世界で、魔術が口伝などで伝えられたとしても、魔術を修得できるものは減少しているといっていいだろう。

「付け加えると、この地は神封じの結界によって、魔力の密度が濃い場所でもあったからな。
この地に住まう人の魔力総量は、平均しても俺らが治める人のそれとは比べようにならないほどだ」

・・・・・・ん?

あたしは、引っかかるものを感じ、ヴラに問いかけた。

「ちょっとまって。
この地にあった神封じの結界が解かれた以上、もう魔力の高い人間は生まれてこないってこと?」

「いいや。魔力の濃い場所に長い間居たんだ。
その環境に適応できるように積み重ねてきたものは、そう簡単には消えはしねぇよ」

数百年経ったらわからんがな。と、ヴラはそう言葉を重ねた。

あたしたちの会話を、ほけっと聞いてたガウリイは、ぽむっと手を打ってやおらこういった。

「そういや、こいつはトカゲのおっさんの力を借りたやつを使ってたような気がするんだが」

いって指差したのは、アレン。

「誰がトカゲだこのやろう」

「よくわからないんだが、リナが普段よく使ってるやつと違うやつだろ?」

なにげなくさらりといわれ、ヴラはうめいた。

「なんで、そう思う?」

「・・・・・・なんとなくなんだけどな。
無理やり引き出す感じじゃなくて、なんていうか流れに沿うような、そんな自然な感じがしたんだよ」

「・・・・・・なんつーか。おめぇほんとに人間か? それを短い時間で感じ取るとかどんだけだよ。
よっぽど感覚が鋭敏な類な人種だな。眷属やエルフでさえ、それを感じ取れるのは時間がかかるってのに」

呆れとともに、賞賛の言葉をガウリイにおくるヴラ。

要領の得ない彼の言葉に、あたしは怪訝な表情をしていたのだろう。

ガウリイに頭をぽんぽんと撫でられる。

「どういうことよ? あんたが言いたいことは、竜王の力を使った術と、あたしが使う魔術の規模が違うってことでしょ」

認めるのはちょいと業腹だが、アレンが使っていた魔術は威力や効果範囲など、今ある既存の魔術とは比較にならないほど強大なものが多い。

例を挙げると以前アレンが使用した、地竜王ランゴートの癒しの術。

その範囲は建物をすっぽりと覆いつくし、収容されてた怪我人の怪我や魔族の因子に苛むものの体力を癒し、そこに漂っていたはずの瘴気さえも浄化してしまうという規格外な力の一端を見せられているのだ。

補足させてもらうと、呪文の詠唱も短い。

いや。あれは呪文の詠唱というよりも――詩。

強弱のある聞き慣れないそれは、音に乗せて流れる旋律だった。

「根底から違うな。お前たちが魔術を行使する際使う呪文の詠唱。
魔とは、本来この世にあらざる力。詠唱によって世界の理の一部が崩れ、そこで初めて力は具現される。
この地に住まう人が使う魔術と、俺らの力を借りた術はその辺は同じだ。だが、その力の引き出し方が異なるものなのさ」

異なるもの。

力の引き出し方。

力のありよう。

魔術の行使。

精霊魔術などは呪文によって、世界の理を崩し具現された力。

では、竜王の力もまた世界の理を崩し・・・・・・

いや、まてよ。

竜王たちは、元は赤の竜神スィーフィードの分身と呼ぶべき存在で、世界が創られ、ともに存在した魔王と世界の存続をかけ覇権を競い合った。

・・・・・・世界の存続。

世界と共に在った存在。

世界と『近しい』・・・親和性のある存在。

「世界という、大きな力の流れ?」

「ほう?」

ヴラは、人知れずつぶやいたあたしのセリフを聞いて、にやりと笑った。

それは・・・・・・つまり。

「竜王の力は、精霊魔術のように力を『引きずり出す』のではなく、力の流れに『逆らわずにゆだねる』のが俺たちの力を借りた術の正体だ」

あたしの推測を裏付けるよう、ヴラはそう付け加えた。

水にたとえると、押し寄せてくる濁流に向かい合い抵抗して進もうとするのと、逆にその流れに逆らわずに居るのとは、断然違うことなのだ。

「その人間が俺たちの力を使えたのは、皮肉なことにシャブラニグドゥにかけられた呪いがあったことだといえる。
人間が物事を徐々に忘れるようになっているのは、脳の情報量がそれ以上入りきらない情報を処理しきれないからだ。
奴がラーディにかけた呪いは、奇しくもラグラディアがガーヴを人間に転生させたのと似てるがな。違うのは、強く残った記憶・感情がより濃く残されることか」

「強く残った?」

「怒りや悲しみといった負の感情だな。もちろんそれ以外の記憶もあるが」

「アレンがあんたたち竜王の力を借りた術を使えたのも、初代の記憶のおかげ?」

「大部分はそうだが、それを人間が使えるように改良したのは正直驚嘆したよ。
執念というべきか。知識はもちろん、それを活用させる知恵や度胸もなきゃできん芸当さ」

「それで、このあとこいつどうなるんだ?」

ガウリイの問いに、ヴラはそっけなくこういった。

「・・・・・・わすれる」

35233エピローグとーる URL2012/5/19 22:12:51
記事番号35207へのコメント

 




エピローグ





しばらく二人の背を見送っていた俺たちだったが、
二人が遠く霞んだ所でアトラス・シティの方を振り向いた。


「あの人に利き手で挨拶させるなんて――リナにホレたのかしらね?」

「ばかなこと言うなよ」


ガウリイお嬢ちゃんの言葉を、俺は笑って受け流す。


「――ところで、リナ?」


隣で歩くガウリイお嬢ちゃんは俺を見やる。

そういえばこのお嬢ちゃんは、いつからか俺が『お嬢ちゃん』と
呼ばなくなってることに気づいているのだろーか。
いや、気づいてないかもしれないな。


「アトラス・シティに着いたあとはどうするつもりなの?」

「んー、そーだなぁ……」


俺はしばし考えて。
ふと、あることに気がついた。


「そうだ、それよりガウリイの“光の剣”を俺にくれるって話、
 あれどうなったんだ?」

「誰がそんなこと言ったの! 誰が!」

「あ……くれないのか……」


ガウリイお嬢ちゃんが怒り、俺は瞬いた。


「当たり前よ」

「残念だなー。それがあれば俺はほとんど無敵だし、魔道の研究も
 はかどるだろーし……」

「だめなものはだめ」

「――そうか、分かった」


俺はあっさりと頷いた。


「……え?」


ガウリイお嬢ちゃんが面食らう。


「これで決まったな。当面の行き先が、な」

「――どこなの?」


容量を得ない顔で、お嬢ちゃんが聞き返す。


「お前さんの行くところ、だ」

「……はぁ?」

「光の剣を譲ってくれる気になるまで、ずっとお前さんの追っかけを
 やらせてもらうからな」


くしゃりと、金髪を撫ぜる。
ぱちぱちと瞬きしていたガウリイお嬢ちゃんは、ようやく意味を
呑み込めたのか、疲れたような呆れたような溜息をこぼし、苦笑する。


「とにかく――行くか」


言って、俺は歩き出した。
アトラス・シティへと――。





END.

35232ドラスレ! 27とーる URL2012/5/19 22:09:54
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第二十七話





数日のあと――。
俺たちはアトラス・シティの目前まで来ていた。

遠くに見える街並みに目をやりながら、俺は声を上げる。


「おー、見えてきたな。アトラス・シティ」

「本当ですね!」

「これで今夜はうまいものが食べられて、ふかふかのベッドで
 ゆっくり眠れるってもんだ」


何だかんだで野宿ばっかりだったもんなあ……ここ最近……。
特に襲撃が頻繁になってきたあとは。
やっぱりいち人間としては、うまいものをたくさん食べて、
ぐっすりと眠るのが何より大事なことだろ。

さすがに俺の髪の色はまだ、もとの栗色には戻ってはいないものの、
疲れの方は完全に回復している。
ガウリイお嬢ちゃんがくすりと笑った。


「えらく長い旅になっちゃったわね」

「そうだなー」

「さて――それじゃあ私は、そろそろこの辺で退散させてもうとするわ」

「――え?」


唐突なゼルガディスの言葉に、俺とお嬢ちゃんの声がハモる。
ゼルガディスは肩をすくめてみせた。


「私は今までにも色々やらかしてきてるし、顔もそこそこ知られてる。
 ああいう大きな町はちょっとね。――目立つ風貌だし」


ああ、確か『白のゼルガディス』とか言ったっけか。
俺は頭の片隅にあった情報を思い返し、頷いた。


「そっか……じゃあ、どうすんだ? お前はこれから」

「ひとまず、ロディマスとゾルフを探して合流しないといけないわ。
 それからは――」

「僕も一緒に行こうと思います」

「えっ?」


にっこりと笑うアメリア。
今度は俺とお嬢ちゃんとゼルガディスの声がハモった。

ぎょっとしているゼルガディスの驚きからして、そういうことは
何も相談してなかったことらしい。
ただの思いつきなのか、考えていたことなのか――。
いやまあ、確かにアメリアは俺たちの方についてくるもんだと
思ってたけど……何となく……。


「確かにゼルガディスさんはお強いですけど、女性の一人旅は
 何かと危ないですし。せめてお二人と合流するまでは、
 ゼルガディスさんにお供させて下さい!」

「ちょっ、待って――そんな」

「ね、ゼルガディスさん」


慌てて断ろうとしたゼルガディス。
だが、アメリアの素晴らしく輝いた笑顔を向けられてしまう。
あまりにも純粋なそれにゼルガディスは何も言えなくなり、
さすがに負けたようだった。

あーあ……ああやって、いいひとっぷりを全面に押し出されると、
なかなか断れないんだよなあ……。
俺もそんな経験がある。

大きな溜息をついたあと、ゼルガディスは俺の方を振り返った。


「それで、どうすんだ?」

「一人できままに――とは言えなくなったみたい。とりあえず、
 何とかやっていくわ。貴方たちには色々と迷惑をかけたわね……」


照れているのか、少しだけ視線をずらす。


「お互い、生きていたら、またいつかどこかで会いたいものね……
 まあ、貴方たちには迷惑かもしれないけど……」


俺はその前に右手を差し出す。
ゼルガディスも微笑し、右手で優しくにぎり返す。


「またいつか――な」

「――またいつか」


不思議と暖かな右手を離す。


「リナさん、ガウリイさん、お元気で! また会いましょう!」

「ゼルガディスもアメリアも元気でね」

「ええ、貴方たちも――」


ゼルガディスはそう言うと、そのまま背中を向ける。
アメリアは笑顔で大きく手を振ったあと、ゼルガディスのあとを追った。





NEXT.

35231ドラスレ! 26とーる URL2012/5/19 22:03:59
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第二十六話





「はーい、リナ♪ 久しぶりね♪」



いつのまにそこにいたのか。
金髪の少女が、俺の目の前でにこにこと笑っている。

以前は魔道士のような黒い服装の女性の姿をしていたのだが――
今日は何故だか、ガウリイお嬢ちゃんよりも背が小さく、
幼い少女の姿をしていた。
服も同じくサイズが小さくなっている。


「気分よ、気分♪」


その考えを読み取り、少女はくすくすと笑う。
俺は特に驚きもせずに溜息をつく。


「久しぶりって言ったって――前に一度だけ会っただけだろ」

「そうねえ。確かリナが死の入江を作った時かしらね♪」

「う――」


あの時のことを言われ、俺は口をつぐむ。

それは、俺が以前にギガ・スレイブを使った時のことだ。
俺はある依頼を受けて鬱憤が溜まってしまい、依頼を終えた時に
色々な感情を込めて浜辺にギガ・スレイブを放った。

あの時は精神が極限状態で、制御だとかコントロールだとか、
本当に無意識だった。

ギガ・スレイブの虚無によって造られた入江。
そこには今でも魚一匹寄り付かず、水ゴケも生えないと噂で聞いた。
『死の入江』と呼ばれているのだとも。

その時も生体エネルギーを酷使し、銀髪になった俺は倒れ――
彼女と出会ったのだ。


「懐かしいわね」

「……それで、今回はどうしたんだ?」


以前現れた時はギガ・スレイブのこととか、その本質のこととか、
一方的に色々と聞かさておかげで、頭がパンクしそうになったもんだ。
今までの常識がひっくり返った気がして、何も言えなかった。


「そんなに邪険にしなくったっていいじゃないのよ」

「邪険っていうか……どういう反応したらいいか分からないんだよ」

「久しぶりー♪ とかでいいのよ?」

「…………出来ないって」


彼女の性格というか……。
俺に対するフレンドリーかつ遠慮のない接し方でさえ、
本気で受け取っていいものかどうか、俺には判断しかねる。


「とにかく、リナだったらあたしの呪文も結構使えるんだから、
 どんどん使っちゃって構わないって言ってるのに」

「勘弁してくれ……ブースターもないんじゃ、精一杯だっての」

「そこは根性よ、根性♪ 頑張ればやれるわよ♪」


俺はがっくりと肩を落として、溜息をつく。
そして目覚めるまで彼女――ロード・オブ・ナイトメアと
延々と話をするのだった。





NEXT.

35230ドラスレ! 25とーる URL2012/5/19 21:58:57
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第二十五話





我に返ったシャブラニグドゥは、俺を振り返る。


「選ぶがいい! このままシャブラニグドゥに魂を食らい尽くされるか!
 あるいは自らのかたきをとるか!」

「おお……」 歓喜の声と――

「馬鹿な!」 焦りの声とが――


同時に口を突いて出た。


「剣よ! 紅き闇を打ち砕け!」


俺は剣を振り下ろす!
黒い光が、魔王に向かって突き進み――黒い火柱が天を衝いた。



ズヴゥン!



「リナ!」


柄の光が消え、俺はがくりと地に膝をつく。
流れ落ちる汗を拭えずに、火柱の中に蠢くものの姿を見つめた。


「く……くっ……くははははははっ!」


ゆらりと火柱から進みいでた魔王は嘲笑し、俺を見下ろす。


「全くたいしたものだ……まさか人間風情にここまでの
 芸があるとは――」


――駄目か……!
ぴしりと、小さい音がした。


「気に入った……お前こそ真の天才の名を冠するにふさわしい存在だ」


褒めてくれるのは嬉しいのだが、喜んでる余裕はない。
ギガ・スレイブのせいで魔力も気力も、俺はほとんど使い果たした。
地面にへたり込んで、肩で荒い息をするのがやっとだからな。


「しかし……残念だ……もう二度とは会えぬ。――いかにお前が
 稀代の魔道士と言えど、所詮は人間」


ぴしり。
また小さな音がした。


「歴史がどううつろうかは分からんが、お前の生あるうちに
 別のわしが覚醒することは、まずありえまいて……」


ぱきっ。


「え――」


俺は魔王の言葉に目を見開き、そして気がついた。
魔王シャブラニグドゥの体中を走る、無数の小さな亀裂に。
これは――。


「長い時の果てに復活し、もう一度お前と戦ってみたいものだが……
 それはかなわぬ望み――お前自身に敬意を表し、滅びてやろう……」

これで眠れます――


シャブラニグドゥの声と、赤法師レゾとの声が重なる。


――ありがとう――すまない――

「本当に……」

本当に――



ぱきん。

ぱりんっ。



笑いながら崩れ、風と砕けて宙に散っていく“赤眼の魔王”。
俺はただ呆然と眺めるだけしか出来なかった。
楽しげな哄笑だけが、いつまでも風の中に残っていた――。





「終わった――の?」


ぽつりとガウリイお嬢ちゃんが呟いたのは、シャブラニグドゥが
完全に消失して、かなり経ってからのことだった。

俺は頷いて、きっぱりと言う。


「――ああ、レゾのおかげでな」

「レゾの……?」


滅びたことが未だに信じ難いのか、魔王が最後に立っていた場所を
じっと見つめながら、ゼルガディスが問う。
俺はゼルガディスを見やり、もう一度頷いた。


「あれの中に、まだレゾの魂が残ってたんだ。長い年月をかけて
 魔王に蝕まれながらも残っていた、あの人のひとかけらの
 良心が――俺の生み出した闇を自ら受け入れたんだ……。
 本来、悪い人じゃなかったんだろ」

「そう……だったの」


ゼルガディスが溜息にも近い呟きを落とす。


「……それにしてもリナさん、さすが……」


俺の方を振り返るアメリアは絶句した。
ガウリイお嬢ちゃんとゼルガディスも同じく。
俺の栗色の髪が、まっさらな銀色に染まっているのを見て。

生体エネルギーの使いすぎによって引き起こされる現象なのだが、
まあ、あまり見られる光景ではない。


「リ……リナさん……その髪……?」

「ああ、これか? 大丈夫、ちっとばかり力を使いすぎただけだから。
 疲れてはいるが――あんたたちは?」

「私は――平気よ」

「少なくとも死んじゃいないわね」

「はい、僕も大丈夫です」


アメリアに支えられていながらも、くすりと笑うゼルガディスは
多少はしっかりとしている。
ただ、よろよろと身を起こしているガウリイお嬢ちゃんは、
とても平気には見えない。
とはいえ、思いきり地面に叩きつけられたんじゃ仕方ないか。


「そうか――ともかく無事で良かった」


俺は微笑んでそう呟くと、体が傾くままにまかせて大の字に寝っ転がった。
これだけ疲れたことってないんじゃなかろーかと思うぐらい、疲れた。

俺は心地よい睡魔にそっと身を委ね――。





NEXT.

35229ドラスレ! 24とーる URL2012/5/19 21:49:37
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第二十四話





「……ふ」


小さな笑い声。
青い火柱の向こうで、魔王がゆったりとした動作で錫杖を振るえば、
火柱は瞬時にかき消える。

ダブルのラ・ティルトでもムダか――。


「くあっ!?」

「ゼルガディスさん!」


いきなり炎に包まれそうになったゼルガディスを、
アメリアが咄嗟にかばう。


「ゼル、アメリア!」

「なぁに、奴は岩の体。これくらいで死にはせん――最も、
 かばった奴は知らないがな」


俺に向かって一歩、魔王が歩みを進める。
と、その時。

目の前に飛んできた何かを、俺は反射的に掴んだ。
剣の柄――光の剣!?


「ガウリイ!」

「――使って、リナ! 剣の力に黒魔術の力を乗せて!」

「愚かな! 光の力に闇の力が上乗せできるものか!」


ガウリイお嬢ちゃんの叫びに、魔王が馬鹿にしたように言う。
その通りだ――けれど。
俺はしっかりと柄を握りしめて、高々と振りかざした。


「剣よ! 我に力を!」


瞬間、光の刃が生み出される。
お嬢ちゃんの時はロング・ソードサイズだった刀身が、
俺の手の中ではバスタード・ソードなみの長さになっている。
――やっぱりな。

俺は呪文の詠唱をはじめる。
形式はドラグ・スレイブとほぼ同じだが、呪文を捧げるのは
この世界の暗黒を統べている“赤眼の魔王”シャブラニグドゥに
対してではない。

その部分を――魔王の中の魔王、天空より堕とされた
“金色の魔王”ロード・オブ・ナイトメアに置き換える。

他の魔王から借りた力でなら、“赤眼の魔王”にダメージを
与えることが出来る。


――闇よりもなお暗きもの 夜よりもなお深きもの

  混沌の海にたゆたいし 金色なりし闇の王


「き……貴様っ! 何故、何故お前ごときがあの方の存在を
 知っているっ!?」


俺の呪文を聞いた魔王が、動揺の色を浮かべる。


――我ここに 汝に願う 我ここに 汝に誓う

  我が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに

  我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを!


俺の周りに、夜の闇より深い闇が生まれる。
決して救われることのない、無明の闇。
暴走しようとする呪力を、俺は全神経を集中させて必死に抑える。

これが俺の秘技中の秘技――ギガ・スレイブ!

あまりにも魔力の消耗が激しい上に、失敗するれば生体エネルギーを
吸い尽くされて死ぬという、危険極まりない魔法である。
魔力も体力も万全の状態じゃないからか、知っているとはいえ
制御するだけでもわりときつい。

俺は闇と光が打ち消し合うことを知っていた。
多分、それ以上のことも。

――やってみるっきゃないだろ!


「剣よ! 闇を食らいて刃と成せ!!」


俺の叫びに、ギガ・スレイブによって産み落とされた闇が、
手にした剣に向かって収束していく。

思った通り、『光の剣』は人の意志力を具現化するものなのだ。
意志力は強いが魔力を持たないお嬢ちゃんが手にした時に比べて、
意思のコントロールに慣れた俺が扱っている時の方が
具現率が大きいことが証拠だ。


「こざかしいっ!」


魔王が錫杖を構え、呪文の詠唱をし始める。
まずい――こうなってくると、闇をすべて剣が吸い取るまで
耐えうるかどうか――。

ギガ・スレイブをコントロールしている時なら、強力な攻撃でも
完全に防いでしまうのだが、全力投球となると!

奴を倒すのに、あとひとつ何かが――!


「やめて!!」


声が響く。
アメリアに支えられたゼルガディス。


「もうやめて! ――貴方があんなにも見たがってたこの世界なのに!
 それを――どうして壊すって言うのよ! レゾ!」


かなり混乱しているらしく、おそらく何を口走っているのかすら
ゼルガディスは分かっていないだろう。

だが――呪文が止まり、魔王の杖から赤い光が消える。
レゾ=シャブラニグドゥは静かに、ゼルガディスを見つめる。

見つけた――あとひとつ!

その瞬間手にした暗黒の剣が完成する。
俺は大きく振りかぶりながら叫んだ。


「赤法師レゾ!!」





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35228ドラスレ! 23とーる URL2012/5/19 21:24:25
記事番号35207へのコメント

 




第二十三話





「奢るな! お前が時間の裏側に封印されていた間、人間も進歩している!
 旧時代の魔王など、このゾルフが片付けてくれる!」


事態をさっぱり理解していないらしいゾルフが、果敢にも――
いや、この場合は無謀にも俺たちより一歩前に出て叫んだ。
思わず溜息をつこうとした俺。
だが、その後に続いた言葉に息を呑んだ。


「黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの――」


――ドラグ・スレイブだと!?

黒魔術の中では最強とされる攻撃魔術。
対ドラゴン用として造られた魔法で、小さな城くらいならば
軽く消し去ることが出来る。
まさかこのゾルフがドラグ・スレイブを使えるとは……。
言っちゃ悪いが、何でゾルフ程度の男がゼルガディスの直属を
やっているのか不思議だったが、ようやく謎が解けたとゆーもんだ。

しかし――ドラグ・スレイブでは奴を倒すことは出来ない。


「やめろ! ムダだ!」



ドゴゴリュッ!



俺の渾身の蹴りがゾルフの背中に決まり、地面にめり込む。
危ない危ない……。
あと少し遅かったら、結界が強まって介入出来なくなった所だ。


「ほう……」

「あ……」


魔王は関心したように頷く。
唖然としていたゼルガディスは目を見開いた。

気づいたのだ、俺が何故止めたのか。


ドラグ・スレイブは黒魔術であり、しかも力の源となっているのは
今目の前にいる“赤眼の魔王”なのだ。
お前を殺すのを手伝ってくれ、なんて、ナンセンスすぎる。


「ロディマス、ゾルフを連れて逃げなさい!」

「わ、分かりました」


自分では手が出せないことを悟ったのだろう。
ゾルフはゼルガディスの言葉に素直に従い、気絶したゾルフを
しっかりと背負って前線を離脱する。

それが戦闘の始まりだと、魔王も受け取った。

手にした杖でトンと軽く地面を突く。
すると、無数の蛇となった木々の根が這い出てきた。


「……意外とつまんない芸だな。ほい、ゼルガディス」

「ダグ・ハウト!!」


ゼルガディスは瞬時に俺の意図を汲み取り、地面を揺らす。
ダグ・ハウトで、木の根が這い回る地面にズレを生じさせて
断ち切ったのだ。

俺は片手に光の球を生み出し、魔王に向かって放る。
周りを不規則に飛び回っている光球を気にする様子もなく、
魔王は落ち着いた声で言う。


「アレンジされているのか。だがファイアー・ボールなど、
 直撃されたとて痛くもかゆくもないぞ」

「ブレイク!」

「なにっ!」


魔王が杖を振りかざすと同時に、俺は指を鳴らす。
光球が分裂し、螺旋を描いて魔王の周りに降り注ぐ。
さしもの魔王も予想していなかったらしく、俺の攻撃をまともに受けた。
炎と砂塵とが一瞬その姿を覆い隠す。


「ガウリイ、お前の番だぞ!」

「ええっ!」


ガウリイお嬢ちゃんが光の剣を携え、走る。


「滅びなさい!魔王!」


“赤眼の魔王”は小さく笑った。


「光の剣――か。まさかこんな所にあるとは思ってもいなかったが、
 衰えたりとはいえ、この魔王に通用すると思わないでいただきたい。
 さすがに少し熱いがな……」


魔王はあろうことか、光の剣を素手でにぎりしめていた。
ある程度の魔族なら一撃で滅ぼせるはずの伝説の剣を、
素手で止めた上に、しかも少し熱いだけで終わらせるのか。

多少魔王の言い方に対して俺は引っかかりを感じたが、
そんなことは気にしていられない。


「剣の腕は達者のようだが……こんなものか」

「くっ――きゃああっ!」


魔王が横なぎに手を振るう。
お嬢ちゃんが吹っ飛んで、地面に叩きつけられた。


「ガウリイッ!!」

「――だ……大丈夫よ……」


どう見ても無事には見えない格好で地面に這いつくばったまま、
お嬢ちゃんは弱々しく答える。
すると俺の後ろからゼルガディスがアメリアが駆け抜け、
二人同時に叫んだ。


「「ラ・ティルト!!」」



ゴウっ!



まばゆく青い火柱が魔王を包みこむ。

ラ・ティルトは精霊魔術で最強の攻撃呪文だ。
アルトラル・サイドから相手を滅ぼす技で、生き物に対しての
攻撃力はドラグ・スレイブにも匹敵する。

それをダブルでなんて、一体いつのまにタイミングを合わせたのやら。





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35227白魔術都市狂想曲 124フィーナ 2012/5/7 19:25:08
記事番号35153へのコメント

「そもそもこっちのほうに来たのは視察といったが、俺んところの眷属やらが魔族の脅威を実感せず過信してるんだよなぁ」

困ったことにな。と、ゆーうつそうに吐き捨てるようにつぶやいた。

「何か問題でもあるのか?」

「千年前からの交流が途絶え、忌まわしい神封じの結界に阻まれ、結界内と外――つまり俺らが統治する土地とで違いが生じた」

「違い?」

「技術の発展・・・まぁ、文化や環境における進化の過程だな」

あたしの問いに、ヴラはそうこたえた。

「あたしたち人間からしたら千年は長いわよ。
結界の中と外。別の過程をたどっても不思議じゃないわ」

「んー。そーゆーのとは少し意味合いが違うんだよなぁ。
この結界の中では、下っ端中の下っ端魔族による被害が俺らんとこより圧倒的に多い。割合で言ったら1:9だ」

「そんなにっ!?」

思わず声を上げるあたし。

にわかには信じられない話ではある。

「それには勿論いくつか理由がある。一つは俺ら竜王の存在」

「まあ、それは妥当な線ね」

「それとこれが大半を占めていた理由なんだが・・・・・・
物事や事象には、表や裏といったふうに、それに伴う二面性がある。
たとえば――壁についてはどう解釈する?」

試すような口調――いや、実際試しているのだろう。

「壁・・・ね」

「そう。壁だ」

「ここいらにある建築物とか、通路の壁とかじゃないよな」

ガウリイはそうはさんだが、それも一つの答えであり役割であることには違いない。

「質問の仕方を変えよう。壁の役割はなんだとおもう?」

あたしはヴラのセリフから、壁の役割についての表と裏。

すなわち、壁についての二面性をこう答えることにした。

「外的から身を守るもの。逆に危険なものを閉じ込めるもの」

「ほう・・・」

面白そうな、満足そうな様子で笑みを浮かべた。

「シャブラニグドゥの腹心たちが張った結界は、目には見えない『壁』の役割を果たした」

・・・・・・なるほど。

「魔族の視点から言えば、水竜王の顕在時は後者。それ以降は前者といったように壁の役割が変容したってことね」

「御明察。頭の回転も悪くない」

それは何の他意も感じられない、純粋な賞賛の言葉だった。

今の発言から、あたしはある確証を得た。

やはりヴラ――火竜王が結界の中へ入ってきたのは、観光の意味合いが強いといっていたが、ヴラ本人が言うように視察の意味も込められていたのだ。

「それで? あたしたちはあんたたち竜王・・・いえ、竜王の眷属からみてどう映るとおもう?」

我ながら意地の悪い聞き方をしてみる。

「・・・・・・あー。やっぱこの隔離された空間といい、あからさまだったか」

「ヴラが気にすることはないわ」

バツの悪そうな様子で言うヴラに、あたしはそういってやった。

ガウリイは話がつかめず、不思議そうな表情でこちらを見ている。

「ここにはいない火竜王本人も、どちらかというと放任主義者みたいだったし」

「まぁ。この空間は放っておいても、そのうち切れるから。
・・・・・・ああ時間のほうは、あちらのほうは全然経過してないから安心していいぜ」

「なあ、リナ。もしかしてここって魔族の結界のようなところなのか?」

「そうよ」
             アストラル・サイド
魔族と同じように、 精 神 世 界 面 。

そして物質世界に、その身を深く置く存在である以上、空間を歪め、あたしたちだけをここに招待するのはそれほど難しいことではないだろう。

「なんだってそんな、まわりくどいことしたんだ?」

「あー。尻拭いはてめぇでやれっつっても、きかねぇ若い連中が多いっつーか」

「・・・・・・中間管理職みたいなセリフね」

「否定はできんなぁ」

「つまりはどういうことだ?」

「ぶっちゃけていうと、トチ狂った竜族がケンカ売りに来るかもしんないけど、俺は一切ノータッチでノーコメントっつーことだっ!」

「なにぃぃぃぃっ!?」

「ぶっちゃけすぎだわぁぁっ!」

ガウリイの驚愕の声と、あたしのツッコミの声がその場に響いたのだった。

35226白魔術都市狂想曲 123フィーナ 2012/4/28 19:09:47
記事番号35153へのコメント

「んー。やっぱ人間の作ったものが媒体じゃ、これが限度かねぇ」

「あんた・・・・・・もしかしなくても、ヴラなの?」

「おうよ!」

こきこき首を鳴らしながら、ベッドの上――正確に言うとアレンの胸の辺りでふんぞりかえるヴラ。

ただその姿がどう見ても、

「・・・・・・トカゲ?」

「トカゲだよなー」

そう。

あたしたちの目の前に現れたのは、体長十センチほどの赤いトカゲ(断言)である。

「トカゲいうな! わかってても腹立つわ!」

器用に尻尾をこちらにびしぃっ! と突き出し抗議の声を上げるヴラ。

「どうみたってトカゲじゃないか」

抗議の声も何のその。

ガウリイはのほほんと頬をかきながらそういった。

「竜王目の前にして、そーゆー酷い発言する人間初めて見たぞ」

「駄目よガウリイ、そんなにボロクソいっちゃあ。
こんなんでも、いちおーカミサマとか呼ばれてる存在なんだから」

「・・・引っかかる言い方だがまぁいっか」

「爬虫類の王様でもあるんだから、もうちょっと敬うフリとかしなさいよね!」

「前言撤回! てめぇの発言のほうが酷いわっ!」

ガウリイのフォローにはいったあたしに、なぜかヴラが噛み付いた。

・・・・・・ふむ。

せめてサラマンダーの上位種といったほうがよかったかもしんない。

「もうなんでもいいや。時間が押してるんでサクサク用件いくぞ」

「用件?」

オウム返しで尋ねるあたし。

「いまお前らの前にいる俺は、そのマジック・アイテムを媒体に具現化した分体みたいなもんだ」

「じゃあ本物のあんたは」

「とっくに他の地にいる」

ガウリイの問いに、ヴラはそう答えた。

「ってことは、いまあたしたちの前にいるあんたは、ヴラの残留思念ってこと?」
          俺                                                       この俺
「少し違うな。 本体 の意思や思考を同時に共有しているが、火竜王とは異なる意志を持つのが マジック・アイテムから具現した姿 だ」








ヴラはおもむろにアレンの頭のほうまで近づき、額同士を重ねるように合わせた。

「・・・・・・なにやってんだ?」

「巣くっている呪いの状態を検索してんだよ」

「一瞬でできないの?」

「本体ならできるが、そもそも力は使わないぞ」

「なんでだ?」

ガウリイの質問に、ヴラはその状態を維持したまま

「神の力はそれ自体が強大な力だからさ。湖に一石を投じてできる波紋のように、周辺に良くも悪くも影響を与えちまう――姿に関してもそうだな」

「姿って?」

「地上に降りる際は、様々な制約と多くの制限をかけて人の姿で降り立つ。理由は以下同文」

「大変なんだなー」

他人事のように言うガウリイ。

・・・・・・実際他人事だが。

「・・・魔族の力に対抗する力は何だと思う?」

唐突に放たれた問いに、あたしはしばし考えて、

「・・・・・・魔族の力を超えるには、それより高位の魔族か、神の力をもってするのみ」
                 クレアバイブル
以前ある事情で知りえた 異 界 黙 示 録 よりもたらされた知識を答える。

「そう。そして魔王の力に対抗できるのは、俺たち竜王と呼ばれる神の力あるいは――すべての混沌を生み出せし金色なる母なる存在」

アレンと額を合わせながらそういったヴラの視線だけは、射抜くようにこちら――あたしをみていたのだった。

35225白と茶と緑の来訪者と金色に消えた存在たちFkou 2011/10/4 19:52:16
記事番号35222へのコメント

k お久しぶりです。kouです。最近、pspを買いました。
L もう、二十代になったというのにゲーム機を買うなんてね。
k なんとでも言ってください。これで、ヒーローズファンタジアを勝ってプレイが出来るんです! そのためだけにわたしは買ったんです! リナのゲームソフトなんです! オーフェンまで出るんです!
L まあね。今のところ、スレイヤーズで出るのがわかっているのは、リナとガウリイだけなのよね。
k 今から楽しみで楽しみで、息が出来なくなりそうなぐらいですよ。
L ……それ、死ぬんじゃないの?
k とにかく、それでは白と茶と緑の来訪者と金色に消えた存在たち
L スタート!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「とにかく、逃げ回るわけにも行かないな。どうにかしないとな」
 物陰に隠れた状態で言うクウにリナも頷く。
「たしかに、このままというのも困るわね。
 で、どうするの?」
「なんとかしてやろうか?」
 突如として聞こえた声を聞いてリナは目を見開いた。
「久しぶりだな。リナ、ガウリイ。まさか、またお前達に会うことがあるなんて思ってなかったよ」
 そう言ったのは、深紅の髪をしたつり目の青年。リナはかすれるような声で、その人物の名を呼んだ。
「……ルーク」
「久しぶりだな。お二人さん」
 そう言って笑うルークにあたしは、
「死ねやこらぁぁぁ」
 殴り飛ばしていた。
 ずごろしゃぁぁぁ! という音がして倒れる中、
「なにしやがる」
「やかましい! よくもまあ、おめおめとあたしの前に顔を出せたわね!」
「うるせえな。ガキなら俺が保護しているよ。あいつらも俺とまともにやり合えないからな。それから、状況だって説明できるぞ」
 あたしの言葉にルークは顔をさすりながらそういう。
 その言葉にあたし達は顔を見合わせて、とにかくルークに案内されることになったのだった。

35224白魔術都市狂想曲 122フィーナ 2011/9/21 18:24:13
記事番号35153へのコメント


気配の希薄な白を基調にしたその一室。

様々な薬草をブレンドした、あの独特のにおいがその部屋にはあった。

そこにいたのはあたしとガウリイ。

眠るように昏睡しているアレン。

・・・・・・そして・・・・・・

暁のようにまばゆい光を放つ。

灼熱の・・・・・・竜。


























少し前まで時間はさかのぼる。

オリヴァーさんに連れ添って、あたしたちは医療施設の一室―――

アレンのいる部屋にいた。

道中すれちがう神官たちと、挨拶がてらさりげなく情報を引き出してみたりしながら。

ゼルは何か思うところがあるらしく、別行動を起こしている。

「どうガウリイ。なんかあった?」

「ああ。そこそこ腕の立つやつらが色々かぎまわっていたぞ」

部屋にいたガウリイに、様子を聞いてみたが、やはり貴族たちの子飼いの密偵が動いているようである。

「不穏な動きを、誰かしてた?」

「んー・・・」

彼は少し考え込み、

「たいていのやつらが、静観してるか情報を集めてたが、時折殺気を滲み出してた奴らがいたな。
武器はともかく毒を持ち出してる奴がいてな。何かと物騒なもんだったから、縄でしばって役人に突き出しといた」

「そう」

やはりガウリイを、番犬代わりに置いといたのは正解だった。

暗殺の可能性も考慮に入れたのは、不利益な情報をもたらす前に殺してしまえという、短絡的な思考をしている奴が少なからずいるからである。

何故あたしがその考えにいたったかというと、答えは単純明快。

エルドラン国王の不在による、治安の悪化である。

ただでさえ、国王が病気で臥せっているときで、フィルさんが代行で政務を取り仕切っているとはいえ。

代行はあくまでも代行である。

大国というのは、大勢の人が集まり決断して動かしているもの。

いうなれば、時計の歯車のようなものだといっておこうか。

いくつもある小さな歯車が、噛み合いながら時を刻んでいるのと同じことである。

国王という動力によって歯車が何とかうまく機能していたが、もしそれが起動しなくなったとしたら?

以前あたしたちが、とある事情でお家騒動に巻き込まれたときのことを思い出してほしい。

お家騒動は、家督争いとも呼べる。

家督とは、相続すべき家の主人としての地位。またはその跡継ぎをさす。

お家騒動とは、すなわちそれを継ぐ跡継ぎたちによる相続争いとも呼べるだろう。

セイルーンは国であり、この場合は次期国王争いとも言うべきか。

次期国王というのは当然のことながら、大きな権力という野心家にとっては魅力的な要素もあり、それを巡っていくつもの派閥も存在している。

あの騒動の犯人はアルフレッドであったが、彼はフィルさんの暗殺未遂以外にも。

――第一王位継承者を支持する重臣たちの暗殺も確かに行われたのだ。

無論クリストファも、なんらか一枚かんでたみたいだが。

アルフレッドも、王位継承権を持っていた。親のクリストファは、第二王位継承者。

たらればの話になるが、あの時何らかの理由でフィルさんが亡くなり。クリストファが国王になり、退位した後王位に近いのはアルフレッドだったということになる。

そしてアルフレッドを王位に就かせ、次期国王にしようとした派閥もあってもおかしくはない。

あのアルフレッド。以前あったあたしの印象として、典型的な自己陶酔型だと評価したことがある。

あーゆータイプの人間は、男、女に関わらず付き合うと苦労するが、のせてやりさえすれば扱いやすいのだ。

王宮では常に腹の探りあいをしており、陰謀や暗躍の場数を踏んだ古だぬきと呼ばれる人種が横行闊歩している。

連中にとって見れば、アルフレッドはまさに御しやすい相手だっただろう。

国が機能している以上、派閥は決してなくならない。

利害関係がある以上、そういった連中は王宮とは切っても切れない関係なのだから。

「さてと。彼等の目の届かないうちに、終わらせようか」

オリヴァーさんは、昏睡しているアレンを横目に、マジック・アイテムを手に弄びつつそう宣言した。

刹那―――


こぉぉぉ・・・


無音にも似た圧力と共に、ストック・ジュエルから不意に放たれた閃光があたり一面を染め上げた!

あまりの光量に、とっさに目を閉じるあたしたち。

目をくらませるほどの光から、やっと目が慣れあたりを見渡すと。

・・・・・・そこに先ほどまでいたオリヴァーさんや、治療に当たっていた神官たちが姿を消していた。

かわりにいたのは・・・・・・

「よう」

気さくな感じで、こちらに声をかけるヴラの姿があった。

35223Shall We Dance?(ゼルアメ風味リーフ 2011/6/30 15:40:39


満月が煌々と夜空を照らす。
 どんな隠しごとも一切許さない月光は、彼女をある行動にかりたてた。その行動とは盗賊にとっての死活問題、彼女にとってはうさ晴らしという名の大事な収入源。
 柔らかな長い髪を夜風になびかせ、黒いマントをはおる彼女は世間一般で言うところの美少女。もちろん、そんな美少女には美男という保護者は付きもので、彼女の後ろには金髪長髪の青年が所在なさげに立ちつくしていた。
「さぁさぁ、今日もうれし楽し盗賊退治。今日は、どんなお宝があたしを待ってるのかっしらぁ」
 満面の笑みでスキップでもしそうな彼女に、保護者はあきれたように頭をかく。心配など一ミリも感じさせない盗賊殺しでも、保護者からしたら目が離せない保護対象という名目で、彼の胸をこがすひとりの女の子に過ぎない。本音を言えば、夜くらい大人しく寝てほしいのだが、守銭奴……もとい金銭欲求は昼夜問わずらしい。
 夕方に目星をつけた盗賊のねぐらを目指し、さて出発と意気込んだふたりは視線を感じ、その先を見上げた。
「お、ゼル」
 術のライトと月明かりに照らされた合成獣が、宿の2階から本を片手に見下ろしていた。少女が彼に手をあげる。
「やっほー、ゼル。ゼルも一緒に盗賊退治行く? あ、もちろん戦利品はあたしのだからね」
 彼は読んでいた一文に指を当て、大きく息をはいた。
「遠慮する。あんたらのそれには付き合ってられん」
「あっそ。んじゃ、行ってくるわね」
 銀色の髪を持つ彼は、栗色と金髪が小高い丘にのぼっていくのを一瞥してから本に意識を戻す。今日はことさらに月が明るいため、それと明り(ライティング)だけで十分だった。いすを引き寄せて座り没頭していく。
 先日、入手した古書の類に入る書籍の回りくどい文章をときおり、辞書に照らし合わせて解読していく。そこに書かれているのは求めるものではないが、魔術体系を体系付ける意味合いが書かれている。そこからは混沌とした魔術の原初を垣間見ることが出来た。過ぎた歴史から学べるものは多い。
 どれくらい文字を追っていたのだろうか。いつの間にか術で作った灯りが落ち、手元を照らすのは頭上の女神だけになっていた。
 しおりに適当な紙を挟み、それをイスに置く。猫背になっていた背を伸ばすため、窓わくに手を置いて、背を伸ばした。
 真っ白な月はあいかわらずだが、彼はある光景に一瞬目を奪われた。
「……アメリア?」
 目をすぼめて宿屋の屋根を見つめ、名を口にする。
 一人の少女が、月光が降りそそぐストレート屋根に立っていたのだ。漆黒の髪に純白の巫女服……ではない。くるぶしが隠れる長いドレスを身にまとっている。
 ドレスを着ていなければ、いつもの正義魂に火がついて高所にのぼったのだろうと納得できたが、彼は顎に指を当てて考えた。
 正義オタクな彼女も、やはり多感な年頃。月がきれいな夜には詩吟のひとつやふたつ口ずさんでみたく……想像してみたもの実感がともなわない。まだヒロイックサーガを朗読しているほうが似合う。ならば、夢遊病か。それならば早々に確保しなければ。
 などと頭脳派がどこか的外れなことを考えていると、少女は誰かに向かって優雅におじぎをする。彼からは彼女しか見えない。そして少女は腕を見えない誰かにさしだして、裾をさばき、ステップを踏みはじめた。
 何やってるんだ。
 浮かび上がった疑問を解消する呪文はひとつ。
『浮遊(レビテーション)』
 重力の戒めから解放され、彼は宿の屋根に降り立った。
「おい」
呼びかけてみる。やはり部屋から見えたとおり彼女しかいない。
腕を曲げて突き出した彼女が目を見開いて見つめてきた。両腕をぱっとさげる。
「ゼルガディスさん! いつから見てたんですか。もー、いやらしいですねぇ」
「おまえがおかしなことしているからだろう。いったい何やってたんだ? それにその服」
指さされた服を彼女がつまんでみせた。
「社交ダンス(ボールルームダンス)の練習です」
「ボールルームダンス?」
 聞きなれない言葉を聞いて、彼が渋い顔をする。
「そうです。これでも一応、お姫様なんで流行のダンスは全部マスターしておかないといけないんです」
「なるほど。それでその服ってことか」
「いつもの服でもいいんですが、長さがないですからね。本当は靴もこれじゃダメなんですけど、そこまでは出来ませんから」
「おまえも大変だな」
「慣れてるから平気です」
 彼女から了承を得てから、ふせられていた教本を手に取り、ぱらぱらとめくってみる。折り目がつけられ、はしばしに彼女の丸い字が書きこまれていた。『目を合わせると次も踊る合図になる』とか、『言葉をかわすのは厳禁』など、ステップには関係ないことまでも書かれていた。あきれ半分で、彼は本を元に戻す。
「そういえばリナさん、いつものあれに出かけたんですね」
「ああ。めずらしいんじゃないか? アメリアが行かないなんて」
 正義をこころざす彼女は、金銭欲にかられ出かけた彼女とちがい、純粋に正義をなすために盗賊を討伐する。標的になった盗賊からすれば、その動機がなんであれ災難にはかわりない。ともあれ、正義をなす機会をみすみす逃すのはめずらしいと思った。
「あ。あー…っと、今日は良くない日なんです」
 苦笑いをした彼女に、彼は青い肌に朱をのせて頬をかく。適当にあいづちをうち、ダンスを見学するため屋上に座りこんだ。それを知って彼女の眼が少しためらうように泳ぎ、決心したように足を踊らせた。
 音楽もなく月に照らされた少女がひとり踊る。かたわらに座りこんだ異形の青年がすがめる。
 ロマンティックとは異なる幻想的な雰囲気の中、ふいに彼女の足が止まり、迷うみたいに左腕を上下させた。思い出すように目線を空に向けて、小声でつぶやいている。
「あーなってこうなって……。ゼルガディスさん、二十三ページの五番目の腕どうなってるか見てくれますか?」
「ちょっと待ってろ。……ああ、これか。『右腕はわきに流し、その際指先はたおやかにするべし。左腕は上にあげて殿方のリードに任せてターンすべし。……この時目をあわせてはいけません!』とお前の注意書きだ」
 棒人形の絵が書かれた下の文章を読みあげた。その棒人形の密接具合にいらぬ配慮をしてしまう。
「あ、そうでした。ここはあげるんでした。ありがとうございます、ゼルガディスさん」
 彼女は、彼の言うとおりの動きを再現してみせる。そのまま留まることなく軽やかにまわり、スカートが舞う。
 ひとり踊る彼女は、見知らぬ貴族のために月光を浴びる。それを見るのは罪人の合成獣。
踊る彼女と踊らない彼の間には、明確な線引きが存在していた。
 彼がどれほど彼女を守り守られ、助言を与え、苦楽をともにしても何も変わらない。取り戻したいのであって、変革を求めているのではない。だから線引かれた深さをのぞきこんでも感慨は生まれない。
「どうですか、ゼルガディスさん」
 ひとつのダンスを終えた彼女が息を整えながら、彼に感想を求めてきた。それにどう答えろと言うのだろう。
「どうですかと言われてもな」
「んもー。そういう時はお世辞でも、上手くらい言ってくださいよぉ」
 腰に手を当てて彼女がふくれっ面をしてくる。幼い顔立ちにはよく似合っていた。
「比較対象がないから、アメリアのそれが上手いかどうか判断つきかねる」
「じゃ今度、比較対象がいるとこ一緒に行きます?」
 彼女の誘いに彼は一瞬思案した。それはいわゆると。思いついた場所に、彼は冷めた目で見返した。
「そりゃ、俺にダンスパーティーへ出ろって言ってるのか?」
「そこだったら比較対象がわんさかいますよ」
「あのなあ」
 この岩の皮膚に鉄線のような髪を持つ自分が、ダンスパーティーにどんな顔して出ろというのだ。しかも肩書きが王孫という彼女の言うことだ。いくら世間慣れしているからといって、村祭りで催される気楽なダンスパーティーなどさしているわけではないだろう。上流階級で行われるものを言っているのだろうと察しがついた。
「自分からさらし者になるほど酔狂じゃないぞ、俺は」
「あ、大丈夫です! ああいうところは皆さん、自分の周りに精一杯なんで誰もゼルガディスさんなんか気にしませんよ」
 なんだか失礼なことを言われた気がして、じろりと彼女を睨む。
「気にされなくても行かんぞ」
「残念です〜。ゼルガディスさんと踊れたら楽しそうなのに」
 何気なく言われたセリフに、わけも分からず期待してしまった。無邪気な彼女の言葉ひとつひとつを考え込んだら、そこで負けだ。だから彼はそのわけを彼女に聞くことにした。
「なんで、俺とだと楽しいと思う?」
「それはもちろん」
「……もちろん?」
「舞踏武術が出来るからです! それはあまりに難しい技のため半ば伝説と化しているんです。息の合ったペアがダンスを踊るようにまわりをなぎ倒していく古来の武術ダンス! わたしとゼルガディスさんならマスターできます! ええ、そうです。舞踏武術で正義の心を伝えるんです!」
 こぶしを握り締め月に向かって吠えている彼女は、彼の予想をまったく裏切らなかった。それでも脱力はする。
 彼は声たかだかに正義を唱える彼女を尻目に、さっさと部屋へ戻ろうと術を口ずさんだ。風が彼のキメラの体を浮かす。
 それをすかさず目にした彼女が声をあげた。めんどくさそうに彼が呆れ顔で振り返る。
「今度はなんだ。正義の口上ならひとりでやってくれ」
「あ、えーと。その……」
 彼女が照れたように頭をかく。
「ゼルガディスさん、わたしも一緒に連れて行ってくれませんか?」
「はぁ?」
「だから、ゼルガディスさんのお部屋に連れて行ってください」
 頬を染めた彼女が近づいて、絶句している彼を見上げてくる。
 それはつまり。
 だけど相手はあの、あの彼女だ。
 まぬけに開いていた口を閉じてから、彼女を見下ろした。
 不謹慎、ではないが不用意な言葉はこの間柄を壊しかねない。彼は息を飲んで言葉を吐いた。
「……それは、どういった意味だ?」
「そのまんまですよ。わたし、ここに来るのにはしごからのぼってきましたが、なにせこのスカートです。何度ふんづけたと思います。一度なんて落下しちゃったんです。だから、ゼルガディスさんが術で戻るなら便乗させてもらおうかなって」
 案の定、彼女の思惑には男女うんぬんなど一ミリもかすっておらず、彼はそれに安堵しておきながら、一抹の不満も感じていた。
 ひとなでの不満はさておき、彼は渋々承諾する。彼女に手をさしだすと、にっこり笑って手を置いてきた。
「ありがとうございます。あ、どうせだったらわたしの部屋に降りてくれても構いませんよ」
「それは図々しいぞ」
「えへへへ」
 消え去った風をもう一度つむぎなおして、彼と彼女は重力から解放された。その瞬間、彼はにやりと笑い、軽くなった彼女をそっと横抱きにしてやった。とたんに真っ赤な顔で彼を見上げて名前を呼んでくる。
「どうした? 何か不都合でもあるのか」
「え、いえ、……なにもないです」
 これくらいの不謹慎くらい許されるはずだ。
 彼女を抱いて、いつもより速度を緩めて宙を飛んだ。
 どうして、何故、という疑問は解放された重力と共に空へと舞い上がっていった。
 どうして彼女が赤いのか。
 何故、不謹慎なのか。

35222白と茶と緑の来訪者と金色に消えた存在たちkou 2011/6/11 12:41:12


「なんなのよ! この街は!」
 リナは思わずそう叫んでいた。
「静かにしろよ。お前が狙われているんだぞ。俺は、特に怨まれても居ないのに……」
「やかましい! あたしが悪いように言わないでちょうだい! そもそも、あたしは魔族に好きでケンカを売った覚えは無いわよ!」
 ……魔族じゃなければあるのでしょうか? と、マントは思ったが黙っておいた。
「しかし、たしかにこの街は異常だな。どこもかしこも魔族……それも純魔族だらけだ。しかも、滅んだはずの魔族も居る」
「そうですね。フェブリゾだけではなくラシャートやカンヅェルにアマンダまでも居ました」
 ゼルガディスの言葉をアメリアが肯定する。
「ゼロス。ラシャートやカンヅェルにアマンダは間違いなく滅んでいたのよね?」
 リナがしばらく考えた後ゼロスに尋ねる。ゼロスは慌てて、肯定する。
「ええ。間違い有りませんよ。僕は嘘はつかないんです」
「だましたりはするけれどな」
 ぽつり。と、つぶやいたクウの言葉にゼロスはひききっ! と、頬を引きつらせた。
「となると、商人の仕業?」
「だろうな。偶然、異世界ができて偶然、そこに滅びた魔族が現れた。と、言うのはいくらなんでもあり得ない」
 リナの言葉をクウは肯定する。
「でも、そうなると子供達は無事なんでしょうか?」
「生存確率はきわめて低いですね。魔族の餌となっている可能性や、ただの暇つぶしに殺されている。たとえつかまってなくても、食料を得ることができずに飢えや渇きによって死亡している可能性があります」
 シルフィーユの言葉にマントはきっぱりと言う。
「……マント。あんたさぁ、すこしは人の気持ちを考えていったらどうよ」
「なぜですか? その子供達のご両親ならともかくとしてシルフィーユさんはただのお知り合い。
 年齢差から考えても恋人が友人という関係も当てはまりません。ならその感情を考えて発言を考慮するのは不必要かと……」
 マントの言葉に辺りが沈黙する。そんな中、一番に沈黙を破ったクウがため息混じりに言う。
「マント。お前はもうすこし、人間に関して知るべきだな」
「まだ、情報不足ですか……。人間とは不可解な存在ですね」
「それに関しては同感ですね」
 マントがしみじみと言えば、ゼロスがにっこりと肯定した。

35221ドラスレ! 22とーる URL2011/6/6 16:49:20
記事番号35207へのコメント

 




第二十二話





ハッタリと思いたかった。
けれど、レゾの浮かべる場違いな笑み、アメリアの青ざめた顔からして
信じられるわけがない。
それにレゾがハッタリをかますような人間かどうか、
一番よく知っているはずのゼルガディスが声を失っているのだ。


「何故――これが要るの?」


ガウリイお嬢ちゃんが問う。


「ゼルガディスが説明したのでしょう? 目が見えるようになりたい――
 ただそれだけですよ」

「何で――これほどまでにして……?」


アメリアがこわごわ口を開いて尋ねる。


「説明した所で、貴方たちには理解してはもらえないでしょう――
 目の見える人には、ね。さあ――石を」


俺がちらりとお嬢ちゃんに視線を送ってみると、お嬢ちゃんは頷き、
懐からオリハルコンの神像を取り出した。


「ほら」


神像が弧を描いて宙を舞う。
レゾの右手が伸び、それをしっかりと受け止めた。


「確かに――受け取った!」


レゾの口調が変わる。邪悪な歓喜が言葉のうちにひそむ。
トン、とアメリアが突き飛ばされ、正面にいたゼルガディスが受け止めた。
俺はさっと近寄り、アメリアの首筋から生えた細い針を一気に引き抜く。


「っ……!」


ぞくっと震えたアメリアだったが、痛みはなかったらしい。
針を見てみると、親指と同じ位の長さ。
……よくこれで死ななかったもんだ。
つまり、それだけの技量をレゾは持っている。



パキン!



レゾの手の中で、神像が砕け散る。その中から出てきたのは、
小さな黒い石――あれが、かの“賢者の石”。


「おお……まさしくこれよ!」


レゾは迷うことなく、石を飲み下した。



ごうっ!



突然、強い風が吹きつけてくる。
いや、風ではない。
風に煽られて、唐突にこみ上げてくる吐き気。
物質的な力さえ持った強烈な瘴気だ。

レゾは瘴気の渦の中心で一人哄笑し、狂ったように叫ぶ。


「おお――見える、見えるぞ! くはははははっ!」


レゾの双眸は赤い色をした闇――。
完全に目が見開いた瞬間、レゾの体が異質なものに変わりゆく。
そして、俺は気づいた。レゾの正体、レゾの閉じられた瞳により、
封じ込められていたものが何であったかを。

今やレゾの顔は、目の部分に紅玉をはめ込んだ、白い石の仮面と化している。
その全身を覆う赤いローブもまた、硬質の何かに変わっていた。


「――まさか」


ゼルガディスが呻く。
彼女もまた気がついたのだ。
“赤眼の魔王”シャブラニグドゥがこの地に再臨したことを――。





「選ばせてやろう。好きな道を」


しばしの静寂のあと。
悠然と立つ、レゾだったもの――レゾ=シャブラニグドゥが口を開いた。


「再び生を与えてくれたそのささやかな礼として。従うならば天寿を
 全うすることもできよう。それが嫌だというのなら仕方ない。
 “北の魔王”――もう一人の私を解き放つ前に、相手をしてやろう。
 ――選ぶがいい、好きな道を」


とんでもねーことを言い出した。
かつての戦争で封じられた“北の魔王”を解き放つということは、
この世界を破壊に導くという意思表示だ。
それが嫌なら自分と戦えと――“魔王”と戦えと。


「たとえ魔王に協力しようとも、世界の破壊を導けば、善悪を超えて
 そこに待つは総てに等しき“死”のみ! 命惜しさに尊き未来を
 捨てることなど、出来るはずがありません!」


決まっていた応えを、立ち上がったアメリアが叫ぶ。
ゼルガディスが呆気としてアメリアを見るが、すぐに呪文を詠唱し始める。
俺の前に一歩進み出たお嬢ちゃんも、剣を抜いて構える。

そして俺は、笑った。


「『負けると分かってるけど戦う』ってこんじょーは捨てろよ?
 勝てる確立が1パーセントほどだとしても、そーいうつもりで戦えば、
 ゼロになる。――俺は絶対死にたくない。だから戦う時は必ず、
 勝つつもりで戦う! ――そういうことだ」


魔王は静かに俺たちの様子を見ていた。


「そうか――決まったか――」





NEXT.

35220ドラスレ! 21とーる URL2011/6/2 18:29:51
記事番号35207へのコメント

 




第二十一話





「第一、これは私の家に代々伝わる家宝の剣。いくらリナがお金を積んでも、
 売るわけにはいかないの!」

「――じゃあ俺ン家で家宝にして、代々伝えてやるから、タダでくれっ!
 それならいいだろっ、なっ! なっ!」

「だ……だああっ! どーいう理屈をこねまわしてるのよっ!?
 あげないったらあげないっ!」

「ううっ、ひどい! そんなにつれなくするなんて! あんまりだ!
 俺泣くぞっ! しくしくっ!」

「泣きなさいっ!」

「――とまあ、冗談はこれくらいにして」


いきなり真顔に戻った俺についてゆけず、再び突っ伏すお嬢ちゃん。


「な――何なの、それは!」

「いいから。ゼルガディスたちの援護に行くぞ」


言うと、俺は駆け出した。
ゼルガディスとディルギアの一対一の勝負ならば、何も心配することはない。
だが、魔族と戦ってる間に打ちもらしたオーガや『その他大勢』たちが、
ゼルガディスたちの方に向かっていったのだ。
これほどの数の敵に囲まれることもないだろうアメリアも、
そろそろ一人きりで戦うのはきついはず。

それでも駆けつけてみると、取り巻きたちのほとんどは片付けられていた。


「助けに来たぞーっ!」

「リナさん!」


形勢が一気に逆転し、全員が目を見張る。
じりじりと退がり始めたオーガやバーサーカーたちに、ディルギアが呻く。


「んっ?」


今度はゼルガディスが怪訝そうな声を上げ、足を止める。
ディルギアは後ろを振り返り、喜悦の表情を浮かべた。


「ロディマス! よく来てくれた!」


そう――。
そこにはロディマスと、初めて見る顔のかなり美形の中年剣士がいた。

ロディマスは颯爽とディルギアに近づいた瞬間。
問答無用で、殴り倒した。
ディルギアはものの見事に吹っ飛び、近くの木にド派手な音を立てて
ぶつかり――それきりピクリとも動かなかった。


「ロ、ロディマス……?」

「ふん」


思わず唖然とするゼルガディス。
のっしのっしとロディマスはゼルガディスに歩きより、庇うように立つ。


「わしが忠誠を誓ったのはゼルガディス殿。赤法師なんぞという輩に
 義理立てする謂れはない!」

「貴様ぁ!」


逆上して突っかかる奴もいたが、ロディマスが大きく振り切った
槍斧でズッパリと両断される。
あまりの迫力に、残りのザコたちが蜘蛛の子を散らしたのは言うまでもない。


「――助かった。しかしお前たち、いいの? 本当に」

「なぁに、構うものですか」


伺うようなゼルガディスに剣士が笑う。
しかし……はて、この声はどこかで……。


「すまない、ロディマス、ゾルフ。つまらないことに付き合わせて」


ぞ……ぞ……ぞるふっ!?
――ということは。
この剣士があのミイラ男の正体、ということなのだろーが……
信じられんっ!
あれの中身がこんな美形とは……。


「何にせよ、この場を征することができましたね! リナさん、
 ガウリイさん、大丈夫でしたか?」

「まあな」

「私たちは大丈夫よ、アメリア」


アメリアは頷くと、ぐっと拳を握りしめた。


「援軍も駆けつけ、僕たちには追い風が吹いています! さあ、ここで
 ぐずぐずしている暇はありません! 僕たちにはなすべきことが
 まだ残っています!」

「まったく――このお兄さんのおっしゃる通りですよ」


声がした。

にっこり笑っていたアメリアが、青ざめて硬直する。
暗い森の影からいつのまにかひっそりと姿を現し、何の音も気配もなく
アメリアの背後をとった人物。


「……レゾ……」


ガウリイお嬢ちゃんがその名を口にする。
どうしてアメリアが逃げないのかと思ったが、俺はすぐに理解した。
立ち尽くすアメリアの首の後ろに、レゾが軽く手を当てている。


「ご無沙汰でしたね。――しかし、堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。
 用件は、言うまでもなく分かっているはずですね、皆さん」

「“賢者の石”でしょう」

「ガウリイさんでしたね、ええ、そうです。――あ、変な気を
 起こさないで下さいね。このひとの首筋にさしこんだ針を
 もう一押しすれば、私は人殺しになる」


――げ!
俺たち、特にアメリアは自分の置かれた状況を知って息を呑んだ。





NEXT.

35219ドラスレ! 20とーる URL2011/5/30 17:28:02
記事番号35207へのコメント

 




第二十話





ガウリイお嬢ちゃんの剣技をじっくりと見るのはこれが初めてだったが、
これほどの腕を持っているとは、思っていなかった。
何せ、はたで見ていて太刀筋が見えない。
俺も並の戦士よりは剣が使えるが、お嬢ちゃんは格が違った。

一瞬にしてゾロムの頭を断ち斬る。


「はっ!」


背後から飛ぶ銀光を見事に払い落とす。


「ほう……若いわりにはやりよるわい……」

「ああ、魔族なの……」


何事もなかったかのようなゾロムに、これまたこともなげに
お嬢ちゃんが言う。
しかし、お嬢ちゃんは状況を理解しているのだろうか?


「しかし若いの、それでこのわしを斬ることなぞできんぞ」


ゾロムの言う通りだ。
レッサー・デーモンだの半魔族ならともかく、こいつのような
純魔族はアストラル・サイドに属する存在。
それを物質で滅ぼすことは出来ない。
お嬢ちゃんが持つのは結構良い剣ではあるのだが、俺の短剣のように
護符が組みこまれているわけでもない普通の剣。

しゃーない、これは俺が少し本気を出して……。


「――斬れるわ」


あっさりとガウリイお嬢ちゃんが言う。
おいおい分かっとんのか、このお嬢ちゃんは!?

しんそこ馬鹿にした口調でゾロムが笑う。


「ほほう……ならば、斬ってみてくれるか? できるものなら、の」

「では、お言葉に甘えて」


お嬢ちゃんはなにを思ってか、剣をパチンと鞘に納め、
代わりに懐から一本の針を取り出す。
右手に持った針で、左手でささえた剣の柄をつんっと突く。

……うん?

刀身を柄に固定する、留め金のある場所である。
つまるところお嬢ちゃんは、柄と刀身を分解した――ということに?
針を懐にしまい、お嬢ちゃんは微笑む。


「――こうするんですよ。分かっていただけましたか?」


何がだ!
分かるかい、そんなもん!

しかしガウリイの落ちついた態度、よほど自信があるか、
アホのどちらかだ。
ゾロムもそう思っているのか、怪訝そうにしている。


「これで――行きますよっ!」


右手を柄にかけて、お嬢ちゃんが突っこむ!
嬢ちゃんはゾロムから現れた数十本の矢を全て避け、
間合いを一気に詰める。
すごいっ!

……って、あほかっ!

傍観を決め込んでいた俺は、慌てて呪文詠唱を始める。


「光よ!」


ガウリイお嬢ちゃんが叫ぶ。
俺は目を見張り、ゾロムが硬直する。
硬直したまま、真っ向から両断されるゾロム。
悲鳴すら上げる暇もなく、虚空に崩れ去る。

ガウリイお嬢ちゃんが持った剣――刀身を抜いたはずの剣に、
煌々と光の刃が生まれていた。


「光の……剣……」


そう――俺の目の前にあるそれは――お嬢ちゃんの右手に燦然と輝く
それは――まぎれもなく、伝説の“光の剣”だった。
お嬢ちゃんが抜いた刀身は、光の剣の鞘の役割を果たしていたのだ。


「お……お嬢ちゃん……」


やっとのことで俺は声を出すが、かなりかすれている。
お嬢ちゃんは光の剣をゆっくりと“鞘”におさめ、
静かに俺を見て、にっこりと微笑んだ。

俺は駆け出す。
全力で、お嬢ちゃんのもとへ。

彼女の前で立ち止まり、じっとその微笑みを見下ろす。


「お嬢ちゃん……」

「リナ……」

「――その剣くれっ!」


こけけっ!

ガウリイお嬢ちゃんが大げさに突っ伏す。
だが、そんなことはどーでもいい。


「なーっ、お願いっ! それくれっ! なっ! なっ! なっ!」

「あ……あのねえ……」


お嬢ちゃんは疲れたように起き上がる。


「私はまた、心配して駆け寄ってきてくるものだとばっかり思って……」

「心配は後でするから、とりあえずそれ、くれっ! ――いや、
 タダでなんてあつかましーことは言わない。――五百!
 五百で売ってくれ!」

「あーのーねー! 五百って、レイピア一本買えないじゃない!」

「じゃあ思いきって五百五十! 持ってけどろぼー!」

「ドロボーはリナよっ!? もう、どこの世界に“光の剣”をそんな
 値段で売り渡す人がいるのよ……」

「ここの世界」

「リナ!」


何を言うか。
自分の払う金は銅貨一万でも大金である。
――やっぱ俺は、商売人の息子だ。





NEXT.


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