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◆−ドラスレ! 8−とーる (2010/4/29 16:11:18) No.35097
 ┣Re:ドラスレ! 8−kou (2010/4/29 16:36:18) No.35100
 ┃┗Re:こんばんは。−とーる (2010/5/13 20:09:06) No.35107
 ┣Re:ドラスレ! 8−セス (2010/4/30 20:58:32) No.35101
 ┃┗Re:こんばんは。−とーる (2010/5/13 20:14:18) No.35108
 ┣ドラスレ! 9−とーる (2010/5/13 20:30:50) No.35109
 ┣ドラスレ! 10−とーる (2010/5/13 21:41:23) No.35110
 ┣ドラスレ! 11−とーる (2010/5/13 22:48:40) No.35111
 ┣ドラスレ! 12−とーる (2010/6/3 01:01:32) No.35127
 ┃┣Re:ドラスレ! 12−kou (2010/6/3 16:33:56) No.35130
 ┃┃┗Re:こんにちは。−とーる (2010/7/9 15:56:29) No.35148
 ┃┗Re:ドラスレ! 12−井上アイ (2010/6/9 19:55:15) No.35135
 ┃ ┗Re:こんにちは。−とーる (2010/7/9 15:59:26) No.35149
 ┣ドラスレ! 13−とーる (2010/7/9 16:18:50) No.35150
 ┣ドラスレ! 14−とーる (2010/7/9 16:51:03) No.35151
 ┃┗Re:ドラスレ! 14−井上アイ (2010/7/31 17:42:15) No.35176
 ┃ ┗Re:こんばんは。−とーる (2010/8/20 20:30:47) No.35185
 ┗ドラスレ! 15−とーる (2010/8/20 20:48:14) No.35186
  ┣Re:ドラスレ! 15−kou (2010/8/22 20:01:30) No.35187
  ┃┗Re:こんばんは−とーる (2010/10/27 20:36:35) No.35205
  ┗Re:ドラスレ! 15−希 悠 (2010/9/26 22:28:29) No.35202
   ┗Re:こんばんは−とーる (2010/10/27 20:47:19) No.35206


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35097ドラスレ! 8とーる URL2010/4/29 16:11:18


 




第八話





「魔王退治と一緒に、行方不明の兄を探してもいるんですけどね」


そう言って笑ったアメリアというにーちゃんに、
普通はそれが一番の理由だろうと思いつつも何も言わなかった。
とりあえず治療の礼を言って、さっさとアメリアを追っ払うことにした。
もしかしたら正義がどーだの悪が何だのとごちゃごちゃ言って
譲らないだろうとも思っていたら、そういうことに関しては
どうも察しは悪くはないらしい。
にっこりと笑ったアメリアは、お休みなさいと部屋を出て行った。


「あー、面倒なことになったなー」

「リナ……」


じっとりと不満そうな目でガウリイお嬢ちゃんが睥睨するが、
俺はするっと無視した。


「それにしても、リナ、どうしてあんな無茶な値をつけたの?」

「じゃあもしも、俺があいつらに適正な値段で “もの” を売ってたら、
 お嬢ちゃんは俺を褒めたか?」


ガウリイは苦笑して、首を軽く横に振った。
俺はそれに肩を竦めて笑い返しながら、ぐぐんっと腕を伸ばす。


「さーて、今日はもう寝るか。睡眠不足は成長と健康の敵だ」


言うと、ガウリイお嬢ちゃんも頷いて――。

俺は思わずお嬢ちゃんの行動を目で追う。
ガウリイお嬢ちゃんは部屋の扉を閉めて鍵をかけると、
すみっこの方に予備のシーツを広げてゴロンと横になった。


「……おーい、お嬢ちゃーん? ここは俺の部屋だぞー」

「知ってるわ」

「……」


思わず無言になる俺。


「また夜襲をかけられるかもしれないでしょ」

「けどこの部屋にいたって……」

「一人より二人の方が心強いでしょ? だってリナは私の護衛で、
 私はリナの傭兵よ?」


いつからそんなことになったんだろうと俺は思う。
確かに俺を護衛と呼んでここまで引っ張ってきたのは
ガウリイお嬢ちゃんではある。
とはいえ、このほけほけしたお嬢ちゃんは、
本当に危機感ってものが欠落してるんじゃなかろうか。


「……分かった。ならベッドに寝ろよ、俺が床で寝る」

「私が押しかけたのよ、出来ないわ」

「はいはい」


これ以上の説得は無駄だと悟り、俺はお嬢ちゃんとベッドを挟んだ
反対側の床にマントを敷いて横になる。
すると、俺のそんな行動に気づいたガウリイお嬢ちゃんが
怪訝そうに問いかけてくる。


「ベッドで寝ないの?」

「ぬくぬくと眠れると思うなよ」

「……怪我してるのに」

「治った」


いつもの俺ならば、相手が男だろうと女だろうと構わず
ベッドを占領して眠っていたはずだった。
だがさすがに、お嬢ちゃんが相手であるからかそうするのが憚られる。
こういうこと考える俺って、本当に繊細だよな。


「おやすみ、お嬢ちゃん」

「お休みリナ。いつお嬢ちゃんって止めてくれるの?」


俺はお嬢ちゃんの言葉を無視して眠りに落ちた。





翌朝、俺たちは宿を出たあとすぐに町を出る。
何度も同じ町で、面倒な襲撃を受けるわけにもいかないからな。

街道を歩いてしばらくすると、やっぱりというか何というか
バーサーカーの一群に俺たちは囲まれた。
晴れてぽかぽかした陽気の下で争いごとってのは、
あんまり気分は良くないが仕方ない。
ちらりと視線を交わしてお嬢ちゃんと背中合わせになる。

そこに。


「ファイヤー・ボール!」



チュドゴンッ!



いきなり攻撃呪文が炸裂し、バーサーカーたちの間で爆発する。
そのあといくつかの爆発音が響き少しすると
バーサーカーたちは倒れ、中央には青年が胸を張って立っていた。
昨日の、アメリアという正義おたく。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ」


にっこりと笑ったアメリアはこっちに向かってくると、言ってのけた。


「僕と “正義” 、しませんか!?」

「はあ?」


思わず俺とガウリイお嬢ちゃんは目を丸くして異口同音。
正義しないかって、何をとっぴょーもしないことを
言ってくるんだ……このにーちゃんは。
本当に関わらない方が身のためな気がしてきた。


「お二人に会った時、僕には分かりました。何かがどこかで動いている。
 それはどうやらお二人も関わっている――僕は最後まで見届けたい!
 それが悪ならば鉄槌を下すのみ! すなわち、僕はお二人と旅を
 共にする運命にあるのです!」


何だそれ。




NEXT.

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35100Re:ドラスレ! 8kou 2010/4/29 16:36:18
記事番号35097へのコメント

 おひさしぶりです。とーるさん。おまちしていました。
>「魔王退治と一緒に、行方不明の兄を探してもいるんですけどね」
 でるのか!! ナーガ!! つか、男でどんな格好しているんだよ。
 突っ込みどころの多すぎる台詞です。
>
>そう言って笑ったアメリアというにーちゃんに、
>普通はそれが一番の理由だろうと思いつつも何も言わなかった。
>とりあえず治療の礼を言って、さっさとアメリアを追っ払うことにした。
>もしかしたら正義がどーだの悪が何だのとごちゃごちゃ言って
>譲らないだろうとも思っていたら、そういうことに関しては
>どうも察しは悪くはないらしい。
>にっこりと笑ったアメリアは、お休みなさいと部屋を出て行った。
 でも、簡単に引きはがせれないと思うぞ。
 実際に、あとでついて行くことになりましたしね。
 それよりも、ゼル。早くでてこい。
 ナーガ。あんたでるのか!!
 ゼロス こののりなら、あんた女か?
 たぶん、男だシルフィーユ
 出てくるのか。でてこないのか解らない方にいつ出てくるのかどきどきしていたり、出現フラグが急に立った方と楽しみです。

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35107Re:こんばんは。とーる URL2010/5/13 20:09:06
記事番号35100へのコメント

 
どうも、kouさん。
お久しぶりです、こんばんは。
お待たせしてすみません!

>でるのか!! ナーガ!!

某悪の魔道士の出番はあるのかないのか!? ←
リナはこの時、表面通りの言葉を受け取っているので、
アメリアの言葉に何の疑問も抱いてませんが (笑
公式裏設定を知ってる方には驚きな台詞ですね。

>それよりも、ゼル。早くでてこい。

皆さん、ゼルガディスがとってもお楽しみですね (笑
焦らして焦らして申し訳ないのですが、
もうしばらくゼルをお待ち下さいませませ。
どこまでフラグは立てられ、折れるのか (待て

コメントありがとうございました!
ではでは。

とーる



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35101Re:ドラスレ! 8セス 2010/4/30 20:58:32
記事番号35097へのコメント

はじめまして、セスと申します。
>
>
>「お二人に会った時、僕には分かりました。何かがどこかで動いている。
> それはどうやらお二人も関わっている――僕は最後まで見届けたい!
> それが悪ならば鉄槌を下すのみ! すなわち、僕はお二人と旅を
> 共にする運命にあるのです!」
>
>
>何だそれ。

スレイヤーズは、女性陣がやたらとパワフルなので、男になってもあまり違和感無い気がします・・・(笑
続きを楽しみにしております

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35108Re:こんばんは。とーる URL2010/5/13 20:14:18
記事番号35101へのコメント

 
どうも、セスさん。
こちらこそ初めまして、こんばんは。
作者のとーると申します。

>女性陣がやたらとパワフル

仰る通りです (笑
特にアメリアは性格を変えず一人称を“僕”にしただけなので、
外見が見えない台詞だけの時は何も変わらないです(苦笑
時々自分でもアメリアを男にしてることを忘れます ←
その点、ガウリイお嬢ちゃんは書いていてとっても楽しいです。

物語も中盤を越えますので、ぜひお暇つぶしにでも。
コメントありがとうございました。
ではでは。

とーる

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35109ドラスレ! 9とーる URL2010/5/13 20:30:50
記事番号35097へのコメント

 




第九話





「正義をっ愛すーるっ、勇者たちっにーはっ♪」

「アメリア、それ何の歌?」

「 “勇者の祈り” という歌です!」


今日も今日とて。
朝一の襲撃を退けガウリイお嬢ちゃんのぽけぽけした雰囲気と、
アメリアの熱烈正義歌唱を耳にしながら、
俺たちはお昼すぎの街道をほてほてと歩いていた。

そう……。
何だかんだと騒いでた俺たちだったが、アメリアに正義を熱く
語られることにうんざりしてしまった俺とガウリイお嬢ちゃんは、
アメリアが同行するのを結局許してしまったのだ。

まあ、根は悪い奴じゃないからな。
重度の正義オタクなだけで。

俺たちの旅にアメリアが加わったことで、ロディマスたちの
襲撃パターンも変わってくるかと思いきや。
数日経った今でも、相変わらず同じように襲撃されている。
つまりロディマスたちとやらは、こっちに誰が加わろうと関係なし。
俺があいつらの狙う “何か” を持ってる限り、襲撃は続く。

そんな面倒なもんさっさと売っぱらえば……とも思ったりするが、
俺としては真相が知りたいのだ。
そう、ガウリイお嬢ちゃんやアメリアにはまったく言わないが
俺は奴らの狙いが何なのか気になっている。

たとえ雑魚ばかりといえど、俺たちに仕掛けてくる襲撃者を
せっせと集めるのは決して楽な仕事じゃないだろう。
何せトロルたちを集める労力もいれば、魔道士を雇う人件費だって
バカになるはずがない。
なのに、襲撃者の数も力も一向に減らないのだ。

そこまでして奪いたい、俺の持つ “何か” の意味とは?

――まあ、そんな風にカッコつけて考えてみたりしたが、
結局俺はゴタゴタに首を突っこまずにいられないタチなんだな。
郷里にいた時も、兄ちゃんにはさんざん呆れられてたけど。

そんな時、俺は耳をぴくりと動かし、同時にガウリイお嬢ちゃんが
ふっと立ち止まる。
歌うのを止めたアメリアは気配を変えた俺たちにきょとんとしてから
すぐに表情をきりっと引き締めた。

一拍のあと。

少し先の茂みから二つの人影……ロディマスとゾルフが出てきた。
宿屋で襲撃されてからこっち、あいつらが直接襲撃者として
前に出てくることはなかったから、何だか久々のような気がするな。


「よう、久しぶりだな」

「……ああ、そうだな」


俺が軽く挨拶すると、ロディマスは苦虫を噛み潰した表情で答える。
確かにあれほど襲撃を仕掛けた奴があっけらかんとしてちゃ、
そんな顔にもなるか……。
俺が肩をすくめると、隣のゾルフが俺を指差す。


「……悪いがそろそろ決着をつけたいんでね。例のものを渡して
 もらいたいんだが、嫌だというなら直接奪い取ってやる。
 さあ、どうするんだ、ソフィールとやら!」


――?

俺たち三人ははしばし顔を見合わせ。
俺とガウリイお嬢ちゃんが、同時にぽんと手を打つ。
誰のことかと思ったら、なんのことはない。
こいつ、俺が最初に襲撃された時に言ったでまかせの名前を、
未だに本名だと信じてたらしい。
てっきりロディマスから本名を聞いてるものだと。

首を傾げるアメリアは知らなくて当たり前。
あの時は一緒にいなかったんだから。


「俺は、 “リナ” だ」

「……は……?」


ゾルフが俺に突きつけていた指先をへたらせながら、
ぽかんと間の抜けた声を出す。


「リ、ナ。お前に最初に言ったのは、でまかせだ」

「えっと……」

「……言うのを忘れていたな」


リアクションに困って呆然と立ち尽くしているゾルフに、
ロディマスは頭痛がするのか、頭を押さえ、眉をひそめながら言う。
とりあえず、俺の考えた相手の気を殺ぐ作戦は成功だな。
……半分以上が “地” である、という説もあるかもしれないが、
それは禁句だ。


「名前なんざどうでもいいのさ」


後ろから別の声がして、するりと目をやる。
そこに立っていたのは一匹の獣人。
顔がほぼ狼だが体は人間、ナンセンスにレザー・アーマーを着込み、
ぎらりと輝くシミターを手にしてる。
……こいつ、絶対趣味悪い!


「要はこいつから神像をいただけば、それで終わりだろ」

「ディルギア!」

「あ?」


……その上、頭も悪いと。
ロディマスの叱責に、ようやく自分が何を口走ったか気づいたらしい。

「……ああ、そういやこいつらにモノが何か言ってなかったか……。
 まあ、どちらにしろここで死ぬんだから同じことだ」

「勝手なこと言ってくれるよな」


俺はずいっと一歩前に出て、獣人に向かって鼻で笑ってやった。





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35110ドラスレ! 10とーる URL2010/5/13 21:41:23
記事番号35097へのコメント

 




第十話





「あんたがどれほどのものか知らないが、はっきし言って
 俺の敵じゃあないね」

「ほほう……」


獣人はすぅっと目を細める。


「大きいことを言う兄ちゃんだな。ではその力、見せてもらおうか!」

「いいぜ――だが二対二じゃ、あっさり勝負がついて面白くない。
 こっちは一人で充分だ。――さあ行け、アメリア!」

「ええええええええええ!? ちょっ、ちょっとリナさん!!
 何で僕なんですか!? 今のはどう考えても僕じゃないです!!」


俺が獣人に向かってびしっと指を指してやると、
アメリアはおおげさな声をあげて俺を見た。


「何だ? それじゃあアメリア、お前ガウリイお嬢ちゃんに
 行ってほしかったのか?」

「確かにガウリイさんは見た目に反して強いですけど――って、
 だから違います!」

「見た目に反してって……」


わーわーと抗議しているアメリア。
すると獣人は鼻で笑って、肩をすくめてみせる。


「何ももめることはないぜ」


がさりと。
そう獣人が言い終えた直後に、すぐ近くの茂みが揺れる。
現れたのは、剣と簡単な鎧とで武装したトロル、およそ十匹。


「いくらなんでも、十数対一とは卑怯な!」

「リナさんってば!!」

「どうでもいいさ、行くぜ!」


意気込んだ獣人の台詞が戦闘開始の合図で、
アメリアに任せることも出来ず結局三人で戦うことになる。
俺が相対したのはロディマスとゾルフ、ガウリイお嬢ちゃんは
トロルの群れ、アメリアは獣人。

――戦力の差がありすぎるというなかれ。

指揮を担う役目を持つロディマス、三流とはいえ魔道士であり
まだ見せていない技を持っているであろうゾルフを相手にする俺、
体力勝負ではあるがトロルに一点集中出来るお嬢ちゃん、
秘策も何もなさそうな獣人にアメリア。
作戦も前置きも指示もなく無言でやってのけたのだから、
俺としては結構上出来な配分だと思う。

俺がロディマスとゾルフを先に片付ければ加勢に行けるし、
先にアメリアが獣人を片付けても加勢に行ける。
俺たちの攻撃力は魔法では俺、剣技はお嬢ちゃんがだんとつだ。
そして前にも言ったか忘れたが、トロルには魔法があまり効かない。
つまり、俺が頭の二人を破り、アメリアが後ろの一人を取り、
中間の群れをお嬢ちゃんに任せるやり方がベストというわけだ。


「はあっ!」

「ダム・ブラス!!」


お嬢ちゃんがトロルに切りかかり、アメリアが獣人に攻撃魔法を
ぶっ放したのを視界の隅で見やり、俺も目の前の二人に意識を切り替える。
槍斧で突っこんできたロディマスを交わし、俺はにやりと笑う。


「なかなかやるじゃん、おっさん」

「なーに、年の功ってやつさ」

「――!」


ふいに俺は呪文詠唱の声を聞き取り、ロディマスのテリトリーから
即座に飛びのく。
振り向きざまにゾルフに向かって、攻撃を仕掛けた。


「ファイヤー・ボール!」

「フリーズ・ブリッド!」



ちゅどどどどんっ!!



苦い顔を隠そうともせずに、俺はゾルフを軽く睨みつける。
いくらここが外で街道とはいえ、近くには木々や茂みがあるってのに
迷わず炎の呪文を使うか、こいつはっ!
本気で三流なんじゃないだろうな。

まあ、正直に本音を言えばだ。
ここで俺が大得意とする、ある必殺技で全員潰すってのもありだけど
……さすがに今回は俺一人じゃないしな。
っていうか今気がついたけど、ガウリイお嬢ちゃんと会ってから、
あの魔法は使ってないんだよな……俺って……。
あれからすぐにゴタゴタが始まったから盗賊いぢめもしてないし、
何だか調子狂うわけだ。

そんなことをつらつらと考えながらも、俺はロディマスとゾルフの
攻撃を交わしたり、攻撃仕返したりしている。
そんなこんなで隙をついてゾルフをディル・ブランドで地に沈め、
相手はロディマス一人。

正直、こいつらを相手に持久戦にはしたくない。
もちろんトロルの回復力もあれだが、先が見えない襲撃の数々に
魔力を消費し続けるのもどうかと思うわけだ。
とはいえ、これだけペースを落とさずに執拗に追ってくるということは、
ロディマスの一存ということは考えにくい。
こいつらよりも “上” の奴がいて、そいつが襲撃を指示している。
そういうことは明らかだ。

そろそろラスボスさんにご挨拶といきたい所だが――
とりあえずこの場を凌いでからにするか。
それよりも、ゾルフ辺りをとっ捕まえて事情を吐かせてみるのも……。


「――?」


俺は薄ら寒い気配を感じて、ロディマスより一歩下がる。
とたん、ロディマスや獣人が瞳から光を無くして棒立ちになり、
トロルたちの動きがピタリと止まった。
……これは傀儡の術?
これだけの数に一瞬で術に陥れるなんて――。





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35111ドラスレ! 11とーる URL2010/5/13 22:48:40
記事番号35097へのコメント

 




第十一話





「……どうしたの? これは」

「ちょっとした術をね、かけさせていただきました」


ガウリイお嬢ちゃんの戸惑いに答えたのは、俺ではなかった。


「どちらに非があるのかは別の話として、昼間の街道で騒ぐのは
 他の旅人に迷惑ですよ」


一人の僧侶がそこにいた。
いつのまにやってきたのか、トロルたちの向こう側――
茂みの方に静かに佇んでいる。
慈愛の漂う白い顔からは、年齢や性別が分からない。
若いようにも、年老いているようにも、男にも女にも見える。
ただ一つ俺たちに分かるのは、固く閉ざされているその双眸には、
どうも光がなさそうだということ。
しかし一番特異なのはその服装――変哲もない僧侶の服装は、
見事に赤い色で統一されている。
それも爽やかな赤ではなく、毒々しい赤。
暗い所では、血の色にさえ見えるかもしれない。


「ありがとうございます。助かりました!」

「……あなたは?」

「いえ――ただの旅人ですけどね。不審な連中――こいつらが
 貴方たちの跡をつけて街道へ入っていくのを見かけたもので、
 つい首を突っこんでしまったのですが」

「――リナみたいな性格してるわね」


茶々を入れてくるガウリイお嬢ちゃんの言葉を、俺は黙殺した。
一応、ここはシリアスシーンだ。


「この周辺に人払いの魔法をかけたのも?」

「ほう……分かりましたか」


感心したように言う僧侶。
これくらいのことで、俺をなめてもらっては困る。


「あなたも言ったでしょう。昼間の街道だと。これだけドタバタやっても
 街の警備でさえ誰もやってこないっていうことは、そういうこと
 なんでしょう」

「無関係の人間に大勢出てこられて騒がれるのは、面倒ですからね」

「……この件に、あなたも関わりがあると?」


僧侶がパチンと指を鳴らすと、それを合図にロディマスたちや
トロルの群れは、まるで操られるかのように、ゾロゾロと
茂みの方に向かって行進を始める。
その姿が見えなくなった所で、僧侶は口を開いた。


「見たところ、あの連中……ゼルガディスの手のもののようですね」

「ゼルガディス……?」


初めて聞く名前に眉をひそめる。
ゼルガディス――。
それがロディマスたちの “上” にいる奴の名前だろうか。


「ええ。貴方の持つあるものを使って魔王シャブラニクドゥを
 復活させようとしている者――私の敵です」

「魔王シャブラニクドゥ!?」

「し……しゃら……?」


さあ、とんでもないことになってきた。
眉をひそめて黙りこむ俺、目を大きく見開くアメリアとは対照的に、
目を瞬かせてきょとんと首を傾げるガウリイお嬢ちゃん。

「本当か? それは」

「まず間違いありません。ゼルガディスとは人とゴーレム、
 ブロウ・デーモンのキメラとして生を受けた存在です。
 魔王を復活させることによって、より強大な力を手に入れて
 世界を混沌の渦に落としいれようとしているようです」

「何でそんなバカなことを……」


僧侶は哀しげな笑みで首を振る。


「そこまでは……けれど確かなのは、ゼルガディスは貴方たちと
 私の共通の敵である、ということです」


ふーむ……。
いきなり話が進んで大きくなった上、共通の敵とか言われてもな。
そもそも、何でこの僧侶はそんな奴を敵に回したのか。
この僧侶からだと “見過ごせない” という普通の答えで済まされそうだ。
こういった善人はどーも……。


「ふむ……つまり、俺たちに『一緒に戦え』と」

「いえいえ、とんでもない」


僧侶は慌てて首を振り、言葉を続ける。


「察するに貴方たちは、そうとは知らずに “鍵” を手に入れ、
 巻き込まれてしまった――そんなところでしょう」

「まあ、な」

「それでは、私が “鍵” をあずかりましょう。それで貴方たちも、
 つまらぬことに巻き込まれなくなります」

「そんなの駄目です! 一人で戦うことになるじゃありませんか!」


それなら“鍵” など壊してしまえばいい。
そう俺が言おうとしたら、その前にアメリアが憤慨するように叫んだ。
正義おたくのアメリアにとって、さすがに承諾しかねるようだ。


「ご心配なく。この赤法師、決して奴らにひけを取るつもりは
 ありません」

「――赤法師……?」


俺は思わず問い返した。
赤法師って、まさか。





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35127ドラスレ! 12とーる URL2010/6/3 01:01:32
記事番号35097へのコメント

 




第十二話





「赤法師レゾ!」


俺はようやくこの僧侶の正体に気がついた。
アメリアも俺の言葉に息を呑む。

まあ見るからに盲目で赤い法衣を身にまとってる時点で、
早く気づけよ――とは俺も思うものの。
目の前の僧侶は苦笑するに留めるが、否定こそしなかった。


「そんな風に呼ばれることもありますね」


赤法師レゾ――。
その名の通り赤い法衣をまとい、多大なる霊力を持って諸国を回り歩き、
人々に救済の手を差し伸べているという現代の五大賢者の一人。
彼が伝説級の相手であるということは、街にいる五歳ほどの子供でも
普通に知っていることだ。


「では、俺たちも一緒に戦います」

「え」


俺の言葉に驚くレゾ。
すると、アメリアが横から割って入ってくる。


「リナさんの言う通りですよっ! そうと聞いて簡単に、
 あとはよろしくなど言えるわけがありません! それこそ非道です!」

「……お心遣いは感謝しますが」

「いえ、万が一にでも魔王が復活しようものなら、それこそ人ごとでは
 ありません。この私にも魔道の心得がございますし、このガウリイ、
 アメリア、ともに力ある仲間です。決して足手まといになる真似は
 いたしません」


とても困ったようなレゾに、俺は自信に満ち溢れたような
微笑みを浮かべながら胸に手を当てて言い切る。
隣ではアメリアが大きく頷き、ガウリイお嬢ちゃんはぽんやりしてる。
大きく息をついたレゾは、静かに頷いてみせた。


「分かりました。そこまで言われては仕方ありません。
 共に戦いましょう……それでは “鍵” は」

「私たちにお任せ下さい」


俺のきっぱりとした言葉に、レゾは怪訝そうな表情をする。
俺は笑みのまま、言葉を続けた。


「このまま “鍵” が法師様に渡れば、奴らはまた作戦を立て替えて
 くることでしょう。それでは私たちが囮になる意味がなくなって
 しまいます――どうか、このリナをお信じ下さい」


見えないことは承知で、レゾの目の辺りをまっすぐに見やる。
深く苦笑したレゾはこの場で俺を説得しようとすることを諦めたのか、
分かりましたと頷く。
杖をついて、ゆっくりと法衣をひるがえす。


「では――くれぐれもお気をつけて」


穏やかにそう言い残して、レゾは茂みの奥へと進んでいく。
レゾの気配が俺たち以外全て消えたあと。
俺はようやく肩から力を抜いて、深く溜息をついた。


「す、すごいです! これは本当に悪が動きだしているんですね!」

「……まったく」


めちゃくちゃ興奮するアメリアはわあわあと騒ぐが、
俺としてはあまりの話の膨らみ方に疑問を抱くばかりだ。

俺たち魔道士はともかく、一般人にとっちゃ御伽話でしかない
魔王を復活させるだのと……何つー目的を持つ黒幕だ。
すると、置いてけぼり気味だったお嬢ちゃんがようやく俺の傍まで
歩み寄ってきて、くいくいとマントを引っ張る。


「リナ」


真剣な表情をしているお嬢ちゃんだが、俺はガウリイお嬢ちゃんが
何を考えているか――むしろ何が考えられないか分かっている。
ここまで長くもなく短い付き合いだったとはいえ、
それほどお嬢ちゃんに無関心だったわけじゃないからな。


「それで、何が分からないんだ?」

「……全部。」





そのあと、興奮するアメリアを差し置いて、俺はお嬢ちゃんにも
ちゃんと分かるような簡単な例えを使いながら、
魔王シャブラニクドゥのことやレゾについて話してやった。
それで本当に理解してくれたかは不明だが。
レゾのことを話し終えた時、お嬢ちゃんが俺のことを見つめる。


「うん、凄い人なのは分かったわ――でもレゾさんのこと、
 リナはあんまり信用してなかったみたいだけど」


お嬢ちゃんが声を低めて、鋭いことを言う。
そのせいかアメリアは聞こえなかったらしいが、構わないだろ。


「本物だって証拠はないからな。ほとんど伝説に近い人だし」

「レゾの名を騙る、ゼル何とかの仲間かもしれないってことね」

「そういうこと」

「……そうすると、よく私を信用したわね?」

「してないかもな」


悪戯っぽく俺は言う。


「手厳しいわね」

「冗談だよ。こう見えても、人を見る目はあるつもりだからな」

「ありがとう、リナ」


背伸びして俺の頭をなでるお嬢ちゃん。
……普通、反対じゃないか?





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35130Re:ドラスレ! 12kou 2010/6/3 16:33:56
記事番号35127へのコメント

 お久しぶりです。とーるさん。
>赤法師レゾ――。
>その名の通り赤い法衣をまとい、多大なる霊力を持って諸国を回り歩き、
>人々に救済の手を差し伸べているという現代の五大賢者の一人。
>彼が伝説級の相手であるということは、街にいる五歳ほどの子供でも
>普通に知っていることだ。
 となりの、ガウリィは別でしょうけれど…………
>俺たち魔道士はともかく、一般人にとっちゃ御伽話でしかない
>魔王を復活させるだのと……何つー目的を持つ黒幕だ。
>すると、置いてけぼり気味だったお嬢ちゃんがようやく俺の傍まで
>歩み寄ってきて、くいくいとマントを引っ張る。
>
>
>「リナ」
>
>
>真剣な表情をしているお嬢ちゃんだが、俺はガウリイお嬢ちゃんが
>何を考えているか――むしろ何が考えられないか分かっている。
>ここまで長くもなく短い付き合いだったとはいえ、
>それほどお嬢ちゃんに無関心だったわけじゃないからな。
>
>
>「それで、何が分からないんだ?」
>
>「……全部。」
 レゾや魔王全部もだろう。
>「冗談だよ。こう見えても、人を見る目はあるつもりだからな」
>
>「ありがとう、リナ」
>
>
>背伸びして俺の頭をなでるお嬢ちゃん。
>……普通、反対じゃないか?
 同感です。まぁ、原作を沿っているとそうなるよなぁ。
 いい加減、ゼルが出る所ですね。
 楽しみにしてます。

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35148Re:こんにちは。とーる URL2010/7/9 15:56:29
記事番号35130へのコメント

 
どうもこんにちは、Kouさん。
またもや返信が遅れて申し訳ないです。

>レゾや魔王全部もだろう。

そうですね(笑
きっと何も分かってないだろうと思います。
それがガウリイお嬢ちゃんのキャパ。

>同感です。まぁ、原作を沿っているとそうなるよなぁ。
>いい加減、ゼルが出る所ですね。
>楽しみにしてます。

頭を撫でさせるのはリナでもいいかなと思ったのですが、
ここはやっぱりガウリイお嬢ちゃんにしようと。
その方が可愛いと思いました ←
そうですね、ようやく待ちに待った出番です。

ではでは。

とーる

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35135Re:ドラスレ! 12井上アイ 2010/6/9 19:55:15
記事番号35127へのコメント

話が進んでいる!!
かなり、進みましたね。
全部が分からないと言う、ガウリイお嬢ちゃん。
優しく、手取り足取り、教えて挙げたい(笑)
そして、お嬢ちゃんでも、リナの頭を撫でますか。
背伸びまでして……
可愛いじゃないかvvv
ガウリイお嬢ちゃんの虜になりそうです(*´∇`*)

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35149Re:こんにちは。とーる URL2010/7/9 15:59:26
記事番号35135へのコメント

 
どうも井上さん、こんにちは。
またもお返事が遅れて申し訳ないです。

>話が進んでいる!!
>かなり、進みましたね。

そうですね、ようやくここまできました。
ようやく中盤を向かえ、あとは終盤に入ります。
クライマックスも近いですね (早い。

>ガウリイお嬢ちゃんの虜になりそうです(*´∇`*)

何気にガウリイお嬢ちゃんの人気が高くて
驚いていたりしますが、ありがとうございます(笑
頑張ってお嬢ちゃんの魅力を伸ばしたいと思います ←

ではでは。

とーる

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35150ドラスレ! 13とーる URL2010/7/9 16:18:50
記事番号35097へのコメント

 




第十三話





「えっ!? リナさん、信じてなかったんですか!?」


次の日になって興奮がようやく収まってきたのか、
アメリアは俺がレゾのことを信用してなかったことを知って驚いた。
俺は肩をすくめて答える。


「信じられる要素が少なすぎるだろ。たとえ嘘をついてないにしろ、な」

「まあ、確かに……話は聞くわりには、僕も本物の赤法師レゾかまでは
 ちょっと分かりませんでしたけど……」


アメリアは眉をひそめる。
実際に目の当たりにしたレゾの魔道の腕は、天才魔道士である
この俺よりも格段上だということは確かに分かった。
しかし、だからといって丸呑み信用することは出来ない。

むしろあのレゾが本物だとしたら――魔王復活だのという物騒な話を
聞いてしまった今では、伝説級の人物と初めて会えたという事実が
あまり嬉しくないものになる。
ガウリイお嬢ちゃんが、ことりと首を傾げた。


「じゃあアメリアは、魔王を復活させるっていうことも信じてるの?」

「それが事実であれ虚実であれ、何か良からぬことを企んでいる者達が
 いるのなら、僕が阻止せねばならないという心持ちですっ!」


……それが虚実じゃ、阻止もなにもないだろーに……。
たまに矛盾してるよーなことを言うアメリアに呆れつつも、
俺はそのあともぺらぺらと続くアメリアの熱血トークを聞き流し――
ぴたりと、歩みを止めた。
俺と同時くらいにお嬢ちゃんも止まり、アメリアは俺たちにつられて
一緒に立ち止まる。


「……リナ、お客さんみたいね」

「一人らしいけどな」


俺たちがすでに気がついたことに、向こうも気がついたらしい。
一拍おいてから、前方の木の陰から一つの人影が現れる。
体にしっかりまとっている純白のローブと足下まであるマントは、
濃い赤をまとうレゾとはまるで正反対。

深めにフードをかぶり、口元は鼻まで口布で覆われていて、
少しだけ見えている目元以外にはっきりとした容姿は分からなかった。
見た目からで分かるのは、明らかに姿を隠そうとしていることと、
獲物として剣を扱うということ。
切れ味とスピードに重点を置くような、細身の剣を腰から下げている。
けれどローブとマントを見るからに、魔剣士といったところか。


「――リナ=インバース」


放たれたのは、少し低めの凜とした静かな声。


「神像を渡す気は?」


その言葉を聞いて、俺はこの白い魔剣士が誰なのか悟る。


「へえ……ようやくロディマスとゾルフの所の親分さんが……
 つまる所、ラスボスのご登場ってわけか」

「……ラスボス? ふ……確かにこの先お前たちにとっては、
 その方が良いかもしれない」


細まる瞳が、何だか笑っているように見える。
すらりと剣を抜いて、ぶれることなく切っ先を俺へと向けてきた。
それを見たガウリイお嬢ちゃんが俺の一歩前に出て剣を構え、
アメリアも俺の隣へと並ぶ。


「とうとうしびれを切らせて、御大自らご出馬したのね?
 ゼガルディスさん」


お嬢ちゃんが挑発めいたことを言うが――おい。
するとアメリアが首を振る。


「違いますよ、ガウリイさん。ゼディルガスさんですよ」

「いや、それを言うならゼルディガスだろ」


二人の間違いを俺が正す。


「ゼルガディスだ」


本人が再度訂正する。

…………うああっ、空気が白いっ!
せっかくのシリアスな空気が!
しまった、これは何とかフォローしなければっ!


「ゼ、ゼルガディスって言ったぞ、俺は!」

「ぼ、僕もですよ!?」

「わ、私だって……っ!」


アメリアとお嬢ちゃんも負けじと反論する。


「名前なんてどうでもいい」


うんざりしながらご当人が言う。
あれ、こんな台詞って前にもどこかで。


「手荒くするつもりはなかった、あれさえ渡してもらえれば」


ゼルガディスはそう言うが、あれだけ襲撃させておいて
手荒くするつもりはないってどういうことだ。
何か呪文を唱えたのか、ゼルガディスの持つ剣が蒼く光る。
ふん、やっぱりこいつは魔剣士だったか。

そのまま戦闘に突入――
すると思いきや、横手の川からザバリと何かが現れた。
気配もなかったソレに俺たちは驚き、すぐに身構え――驚く。
そこにいたのは手足が生えたどでかい魚だった。

うっ……気持ち悪い。





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35151ドラスレ! 14とーる URL2010/7/9 16:51:03
記事番号35097へのコメント

 




第十四話





魚が岸へ上がるのを見たゼルガディスは、イラついたように舌打ちする。
ぺたり、と一歩前に進み出た魚は、ふとゼルガディスを見やる。
そしてゆっくりと口を開いた。


「ゼル……ガディス、ここで…何してる?」

「何でお前が……っ!」

「おい、この魚はお前の仲間なのか?」

「魚…などと呼ぶな。俺の名は……ヌンサ。お前が持つものを……
 取り返しにきた……刺客……だ」


俺が顔をしかめて立ち尽くすゼルガディスに問うと、
のっぺりとした感じで答えた魚こと、ヌンサ。

ふむ……?
ゼルガディスとヌンサの様子からすると、お互いこの場所に
いるはずじゃなかったってことか?

今まで明確な意思を持つ刺客たちで考えてみると、ディルギアとこいつは
何だかゼルガディスの配下っていう感じには見えないな。


「ゼルガ…ディス……お前やること…違う……お前の…命令は……」

「黙れ、ヌンサ!」


――命令?
俺は二人の会話にどこか違和感を覚えつつ、気づかれないように
戦闘体制を作る。
それにガウリイお嬢ちゃんとアメリアも、俺がそれを言わなくても
自分でちゃんと気がついたらしい。
お嬢ちゃんは俺の斜め前へ、アメリアは俺の横に並んで背後を警戒する。

ゼルガディスは誰かの命令を受けていた。
そう考えるとすると、ラスボスはゼルガディスじゃないってことか?
さっきも “その方がいいかもしれない” なんて言ってたしな。


「まあいい……おとな…しく例のものを……渡せ……」


ヌンサは溜息のようなものをついて、すっと前かがみになった。
刹那、背筋に嫌なものが走り、俺はその場を飛びのく。



ギィンッ!

ガキン!



同じく、鋼のぶつかる音が二つ。
目を向けてみると、お嬢ちゃんとゼルガディスが剣を抜いている。
だが、両者の剣がぶつかっているのではなく、
二人とも何かを払い落としたような構え方をしていた。

俺が先ほどまで立っていた場所には、何かが刺さっていた。
それは薄い楕円の形をしていて、掌ほどの大きさ。
おまけにぬらりとしている。

ガウリイお嬢ちゃんが、驚いたように顔を上げた。


「何、今のは!?」

「それは……俺のウロコだ……仕方、ない……こうなれば」


ヌンサはそう言うとポイっと手にしていた剣を捨てる。
そしてぐっと力をこめて――やばい!



ドドドドドドドドドッ!!



「うわわわわわわ!!」

「うわきゃーっ!!」


思った通り、ヌンサはミサイルのように間髪いれずに
己のウロコをこっちに向かって飛ばしてきた。

魚のウロコとはいえ、かなり硬い。
これで防がずにいようものなら、人間の肌などすっぱり切れるだろう。
かくいう俺も短剣で飛ばされるウロコを弾くのが精一杯で、
術に集中するのは無理がある。


「耐えろ!」


ウロコ攻撃の中、ゼルガディスが叫ぶ。


「もうすぐあいつは――」


ぴたりと。
ふいにウロコ攻撃が止まり、その場に沈黙が流れる。
眉をひそめてヌンサを見やれば、何故か冷や汗を流して
川の方へとゆっくり後ずさりしている。
するとゼルガディスがさっと一歩前に進み出て、剣を構えた。


「前にも言っただろう。そのウロコで攻撃と防御はできるが、
 失くなってしまえばただの魚だと」

「ま……待て……ゼルガ…ディス……お前は……その体を」


その言葉の先を、ゼルガディスはヌンサに言わせなかった。
お嬢ちゃんにこそ及ばないものの、俺よりは上だろう太刀筋で
ヌンサを一刀両断したのだ。

剣を振り払ってから静かに鞘に納めたゼルガディスは、
これで邪魔者はいなくなったというように、清々とした態度で
俺たちの方をゆっくりと振り返る。
そして――がくりと膝をついた。


「?」

「く……っ」


さっきまではマントに隠れて分からなかったが、
よく見れば脇腹の辺りが赤く染まっていて、心なしか呼吸も荒い。


「ぬ、ヌンサにやられたんですか?」


おそるおそるアメリアが問いかけるが、ゼルガディスは何も答えない。
ゆっくりと立ち上がろうとして、そのまま地面に崩れ落ちた。


「リナさん……」

「ったく」


困ったようなアメリアの視線を受けて、ゼルガディスに近寄ってみる。
一体全体、何がどうなってんだか……?





NEXT.

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35176Re:ドラスレ! 14井上アイ 2010/7/31 17:42:15
記事番号35151へのコメント

ルルーさんv待ってました!!
ヌンサは、性別逆転しなかったのですね(´∇`)〜З
ルルーさん登場で、いよいよ、話は佳境に入っていくのでしょうか?
怪我をしたルルーさん。ルルーさんの肌に、傷を付けるなんて、ヌンサ許すまじ!!じゃなくて(笑)そんな鱗、危なくて、誰も近付けません。
そして、ガウリイお嬢ちゃんに、怪我がなくて良かったです(*^ω^*)

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35185Re:こんばんは。とーる URL2010/8/20 20:30:47
記事番号35176へのコメント

 
どうも井上さん、こんばんは。
いつもコメントありがとうございます。

主役がきっちり変わってしまっているので、
あえて敵側たちは性転換せずに書いていきました。
しかしふと考えてみれば、結構濃いキャラ集う
敵側メンバーの中で紅一点のゼルガディスでしたが(笑
これでストーリーもだいたいは中盤を越えて、
あとはクライマックスまで突っ走るのみになりました。
あのあとヌンサはリナたちが美味しく頂きました ←
ガウリイお嬢ちゃんには、このあとでもうちょっと活躍して
頂こうと思ってますのでお楽しみにお待ち下さい。

ではでは。

とーる


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35186ドラスレ! 15とーる URL2010/8/20 20:48:14
記事番号35097へのコメント

 




第十五話





俺たちはそのまま気絶してしまったゼルガディスを抱えて、
休憩用に作られた近くの小屋に移動した。
一応俺もリカバリィぐらいは使えるが、ここは回復魔法に特化した
アメリアに任せるのがいいだろうということで、
俺とガウリイお嬢ちゃんは備え付けられたテーブルに移る。
時刻はすでに夜になり、窓辺からは月明かりが煌々と差している。


「ねえリナ……、あの人どうするの?」

「どうするったって……とりあえず捕まえておくしかないだろ。
 色々と訊きたいこともあるし」


ガウリイお嬢ちゃんの問いに、俺は軽くそう答えた。

ゼルガディスは誰かに命令を受ける立場だった、それは誰からなのか。
レゾが言っていた、魔王復活うんぬん〜は本当なのか。

俺はだんだんややこしくなっていく事態に溜息をついてると、
ふいにアメリアが俺を呼ぶ。


「……あの……リナさん」

「ん? どうした?」

「怪我は治ったんですけど……息苦しいかと思って……その、
 フードと口布を取ってみたら……」


歯切れの悪いアメリアに眉をひそめ、俺は席を立つ。
すると、ガウリイお嬢ちゃんも一緒に俺のあとをついてきた。
俺たちはベッドの方へ足を進め――目を見開いた。

そこに寝ているのは、ゼルガディスで間違いない。
しかしその体は見るからに、人間のものではなかった。

普通なら柔らかい皮膚だろう部分が、全て岩か何か、
それに類する硬質のもので覆われている。
露出している首や指先も同じような岩肌であることから判断して、
きっと全身がそうであることはまず間違いないだろう。

一瞬だけ、魔法で造られたゴーレムだろうかとも思ったが、
先ほどまでのゼルガディスの行動を思い返してすぐに否定する。
主に仕えるためだけに造り出されるゴーレムには、
“自我”というものがないからだ。


「この方……ゼルガディスさんって……女性だったんですよ!!」

「そっちか!?」


アメリアの叫びに俺は思わずコケた。
確かに、顔つきやマントを取った体つきからして、女だと分かる。
考えてみれば、岩にも等しい重そうな身体のゼルガディスを
アメリアが一人でも抱えられたくらいだったからな。


「だって、隠してたってことは見られたくなかったんでしょうし」

「まあ、別に悪気があって見たわけじゃないんだから……
 仕方ないことだとは思うが……」

「……起きたら謝ります」


そう言ってしゅんと落ち込むアメリア。
するとその目前でゼルガディスが眉をひそめ、静かに瞳を開けた。
最初は寝ぼけたようにぼんやりしていたが、ゆっくりと俺たちを
目線だけで見回したあとに重々しく溜息をつく。
そして囁くような声で呟いた。


「腕を試させてもらう――つもりだったのに、こっちの方が
 口ほどにもなかったわけか……」

「あ」


身を起こそうとするゼルガディスに、慌ててアメリアが手を貸した。
一瞬だけ驚いたようにアメリアを見上げたゼルガディスだったが、
おそるおそるといったように手を借りながら上半身を起こす。
俺はそれを待ってから問いかけた。


「それで? こうなったからには事情の説明くらいはあっても
 いいんじゃないか?」

「――そうだな。この状態では私も逃げたりは出来ない……
 それに貴方たちも充分巻き込まれてる。知る権利くらいはある。
 ――さて、どこから話そうか……」

「まず、お前たちに命令してる奴のことからだ。結局、お前が
 ラスボスじゃないんだろ?」

「ああ……私はあいつの手駒にしかすぎないさ」

「――何者だ? そいつは」


ゼルガディスは少し顔をしかめて、ひょいっと肩をすくめた。


「貴方たちだって聴いたことぐらいはあるだろう? そのへんの
 街にいる子供だって知ってる。――現代の五大賢者と呼ばれてる、
 “赤法師レゾ”」

「レゾ――!」


ガウリイお嬢ちゃんとアメリアが言葉をなくす。
そう考えれば結構シンプルな構図だと気づきながらも、
俺はガリガリと頭をかいた。


「レゾ、ね……あいつは本物なのか?」

「やはり接触していたのか……正真正銘、ご当人さ。――世間様では
 君子扱いされているけれど、それがあいつの仮面で、裏はまったく違う。
 昔はそうじゃなかったっていう話も聞くけど、どうだか……」

「『まったく――』って言われても、俺たちには分かんないさ。
 そんな顔見てないからな」


だろうな、とゼルガディスは苦笑した。





NEXT.

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35187Re:ドラスレ! 15kou 2010/8/22 20:01:30
記事番号35186へのコメント

 お久しぶりです。とーるさん。kouです。
>「怪我は治ったんですけど……息苦しいかと思って……その、
> フードと口布を取ってみたら……」
 岩だった……。(ひどい言い方)
>「この方……ゼルガディスさんって……女性だったんですよ!!」
 え! そっち!
>「そっちか!?」
>
>
>アメリアの叫びに俺は思わずコケた。
>確かに、顔つきやマントを取った体つきからして、女だと分かる。
>考えてみれば、岩にも等しい重そうな身体のゼルガディスを
>アメリアが一人でも抱えられたくらいだったからな。
>
>
>「だって、隠してたってことは見られたくなかったんでしょうし」
 隠していたのは、性別じゃなくて岩肌とかじゃないのか?
>「まあ、別に悪気があって見たわけじゃないんだから……
> 仕方ないことだとは思うが……」
 それに、隠していたのは別のことだろう。と言った気分でしょうね。
 アメリアのすっとンきょんな言葉に、笑い転げました。続きを楽しみにしています。以上、kouでした。

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35205Re:こんばんはとーる URL2010/10/27 20:36:35
記事番号35187へのコメント

 
どうもこんはんは、kou さん。
お久しぶりです……お返事遅くなり申し訳ありません。

>え! そっち!

アメリアにとっては、まさかの岩肌であるよりも
女性だったことに衝撃を受けたことだったようですねえ(笑
リナたちも驚いたでしょうが果たしてゼルの反応は……。
反応頂けて嬉しいです(笑

ではでは。

とーる

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35202Re:ドラスレ! 15希 悠 2010/9/26 22:28:29
記事番号35186へのコメント

ども!はじめまして。

希 悠と申します。

ドラスレ!素敵です。

性別逆転のスレイヤーズも何気会話とか違和感あんまり無いですね。
ゼルガディスも合流してついに正義の4人組結成でしょうか?

クライマックスな感じに入ってきた感じで続きが楽しみです。

>「この方……ゼルガディスさんって……女性だったんですよ!!」
>
>「そっちか!?」
>
>
>アメリアの叫びに俺は思わずコケた。
私も読みながら心の中で盛大にズッコケました(笑)。
ナイス!アメリア。

>確かに、顔つきやマントを取った体つきからして、女だと分かる。
>考えてみれば、岩にも等しい重そうな身体のゼルガディスを
>アメリアが一人でも抱えられたくらいだったからな。

やっぱり女性バージョンゼルはアメリアよりかなり細身で小柄なのでしょうか?

・・・もしや!
アメリアにお姫様抱っこされるゼルガディスという貴重なシーンが裏で展開されていた!?
という想像(妄想)も発生しております。


4人で対レゾ戦(っていうか対魔王戦)を楽しみにしております。

以上。拙い感想ですみません。。。

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35206Re:こんばんはとーる URL2010/10/27 20:47:19
記事番号35202へのコメント

 
どうもこんばんは、希悠さん。
初めまして、とーるです。
お返事が遅くなってしまい申し訳ないです。

『ドラスレ!』の閲覧ありがとうございます。
私も最初はどんな風になるかなと思っていたのですけど、
書いてみるとわりと違和感がなくて驚いてました。
楽しく書かせていただいてます。

>やっぱり女性バージョンゼルはアメリアよりかなり細身で小柄なのでしょうか?

女性ゼルとしては、身長はリナより少し小さいぐらいですね。
すらりとしたスタイルのせいか、華奢ではあっても
あまり小柄な印象は受けない感じのイメージで書いてます。

>・・・もしや!
>アメリアにお姫様抱っこされるゼルガディスという貴重なシーンが裏で展開されていた!?
>という想像(妄想)も発生しております

アメリアもゼルが敵だったとはいえど、怪我人を肩に担いだり、
腕に抱えるような荷物運びはしないと思います(笑
魔王戦まであと少しだけ話数がありますが、良ければお付き合い下さい。
ではでは。

とーる


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