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◆−銀幕(上)−みい (2010/5/29 00:41:35) No.35123
 ┣銀幕(中)−みい (2013/6/5 15:38:34) No.35236
 ┗銀幕(下)−みい (2013/6/6 01:09:18) No.35237


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35123銀幕(上)みい 2010/5/29 00:41:35


どうも! 普段はゼロリナばっかり書いてますが
たまには別のカップリングをということで
ゼルリナを書こうと思ったら
ゼル→リナ←ゼロスとなって首をかしげているみいですこんばんは!
背景的には15巻後となります。
久々にスレパロ書きましたが、やっぱり私の中にリナちゃん達は生きてるみたいです。
ちょっと嬉しかった(*´ω`)
だいぶ弱っているリナちゃんですが、
苦手じゃない方はどうぞご覧下さいまし!


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


  銀幕



「好きですよ、リナさん」
 耳元で囁かれたその言葉に、あたしは思わずしゃがみこんだ。
「ひぃっ! なっ何すんのよ!」
 鳥肌を立てて後ろを見上げると、ゼロスはいつもの笑顔のまま楽しそうに
あたしを見下ろしていた。
「嫌ですねぇ、深夜の密室で男女が二人きり。
 睦言を交わすのが普通でしょう?」
「あんたは阿呆かっ!
 外が見えないから何とも言えないけど、今はどっちかってーと
そろそろ未明の筈だし、そもそもあんた男なの!?
 っていうか睦言って何なのよ!
 それは遺跡に閉じ込められて交わすものか!?」
「嫌ですねぇリナさん。
 リナさん達がこの遺跡に入ったのは月が南天を過ぎる前。
 今は丁度あと少しで南天の頃合ですし、僕はご覧の通り男性形をとってます。
 遺跡の中での睦言も、それはそれでオツでしょう?」
「あほかぁぁああああ!!!」
 どげしぃっ!
 人差し指を可愛らしく立てて(いや実際は可愛くも何ともないが)
得意げに語ったゼロスに後ろ回し蹴りをクリティカルにヒットさせ、
その背中をぐりぐりとかかとでこねくり回す。
 くっ……服越しに伝わる背骨の感触。また下らないことにこだわってるわね!
「あっダメですリナさん、そんなっ」
「気 持 ち 悪 い わぁぁあああああああああ!!!!」
 ぐちっ☆と嫌な音を響かせつつ頭に踵を一つ落として、
ようやく静かになった空間であたしは一人ごちる。
「さて……どうしたもんかしらね」
 目の前には岩戸。壁、床、は石組で、天井に至っては一枚岩である。
 この石室内にはお宝さんたちが山になっているわけだが、脱出経路は目の前
の岩戸のみ。
 かつ、この石室に使われている岩全部がオリハルコンでコーティングされて
いるという凝りようだ。
 あたしとゴキブリ一匹は、どうやら密室に閉じ込められてしまったらしい。


 そもそも、この遺跡にはあたしとゼルの二人で来ていた。
 あたしとガウリイはサイラーグからゼフィーリアへ戻る途中。
ラルティーグ王国を横断してカルマート公国へ入った最初の宿場町で、懐かしい後ろ姿を見つけたのである。
「ゼルっ!」
 久しぶりの懐かしい顔に、あたしもガウリイも、ゼルも喜んだ。
 あたしは、それと同時にどこかで安心もしていた。
 有り得るはずがないのだ。彼が、いや、彼もまた変容するなんてことは。
 それでもルークの一件を整理しきるには時間がまだ足りていなくて。
 ソラリアにも近いこの場所では、思い出すことも多い。
「お前さん……いや、何でもない」
 頭上で交わされたアイコンタクトに、あたしも気づかないふりをした。
 心配してくれている。大丈夫、でも。
 あたしだけの傷ではないから、大丈夫なのだ。

 ガウリイが魔法なんかの話題についていけなくなって寝てから、
ゼルとあたしは情報交換や術式の組立理論なんかで更に盛り上がった。
 そして、この近くに遺跡がありそうだということも。
 ぐっすり寝てしまったガウリイはとっておいた部屋で寝かし、
あたしとゼルは二人でその遺跡へ忍び込んだ。
 久々に、気楽に、知識欲全開で楽しく夜を過ごせる。
 浮かれていたあたしは、目の前で輝いたお宝に走った。
 そしてゼルよりも先にこの部屋に足を踏み入れたのだ。
 一歩。
「危ない!」
 その瞬間に、ぐっと体を引かれた。
「リナッ!!」
 きっとそう叫んだゼルの声は、岩戸が上から落ちてきた音でほとんど
かき消されてしまった。
「えっ……ぜろ、す!?」
 そして、岩戸の内側、あたしを危機から救ってくれたのは、他でもない
このパシリ魔族だったのである。

 そうして今に至るわけだが、器用に頭部へモザイクかけたままぴくぴくして
いるゼロスを見ると、どうにも真剣味が欠けてしまう。
「ゼロス、いい加減起きたら?」
「酷いですねぇ、まったく」
 一瞬で元通りになったゼロスは、お宝の山の隣にある石棺に腰かけた。
「お久しぶり。さて、どういうことなの?」
 あたしは首をかしげて媚を売りながら挨拶してから、上体を壁に預けて
腕を組みゼロスを睥睨する。
「……はあ、命の恩人だって言うのに」
「やかましい。あんたがあたしを助けるのに、裏がないわけないでしょう。
 大体、……この間のことだって――」
 違う。
 こいつに、仲間意識を求めてはいけない。
 やっぱりまだ私は混乱しているらしい。
「おやおや……これはこれは。珍しいですね、リナさん。
 あなたがこんなに複雑な負の感情を見せてくれるなんて」
 心の内まで見透かされた気がして、組んだ腕をぎゅっと体に密着させる。
 一瞬の静寂に、小さく声が響いた。
「……リナ!」
 必死な声。ゼルは、ずっと声をかけていてくれたのだろうか?
「ゼルっ! ゼルガディス、聞える?」
 岩戸に手をついて、隙間を探す。
 岩戸自体も勿論岩なので、継ぎ目部分や上などだ。
「リナ、ここだ」
 ライティングの光に照らされて、岩戸の右隅がきらりと光る。
 針金……いや、ゼルの髪だ。
 たった数pの隙間から入り込んだその優しい光に、少しだけ笑みが漏れた。
「ふむ、気に入りませんねぇ」
「ゼロス?」
「リナ? ゼロスがいるのか?」
「ええ、さっき助けてくれたんだけど」
 まだ、目的は聴いていない。
 左膝を床についたまま、あたしはゼロスを見上げた。
「……で、あんたは一体何のために?」
「リナさんの様子を見に、ですね」
「何のためにか、訊いてるのよ」
「心当たりがないわけじゃあないでしょう? リナさん。
 なんたって、この世界だけじゃなく異界の王の血まで
その身に溶けているんですから」
「何だと……?」
「だっだから何なのよ!」
「おや? 解りませんか? リナさんともあろうお方が」
 いや、解っているのだ。
 普段使っている金色の魔王だけじゃない。
 異界の魔王の力さえも借りて、あの時打てる全力の手をぶつけたのにも関わらず、
あたしの髪は白く染まらなかった。
 生体エネルギーを使うことなく、あの戦いを終えたということ。
 勿論いちいち増幅呪文など使っていなかったのだから、それは噛み砕いた
魔血玉――つまり賢者の石の力に他ならない。
 そして、賢者の石の力を、恐らくあたしは、使い切っていないのだ。
「人間にあるまじき、強大な魔力ってところかしら?」
「ええ。かつて冥王が考えていたアレを、今度は完璧に実行できる可能性があります」
「おい、まさか」
 岩戸の向こうから聞える焦った声。
 そう、今ここに、あの再現をしようと思えばできるゼロス。
「まあ、まだそんな命令は受けてないんですけど。
 やっぱり僕ら魔族としては、強大な力と認めざるを得ないんですよねぇ。
 欠片とはいえ、2回も魔王様を倒した存在っていうのは」
「馬鹿な、2回、だと……?」
「だから、監視してるの?」
「ええ。そして、その時になるまでは生きていて頂きます。
 ……とはいえ、こちらも大痛手なんですよね。
 この間の一件で、魔族間での諍いなんて下らないものもありましたし。
 今まともに動けるのは、獣王様と海王様のみ。
 一度冥王が失敗した策を持ち出してくるには、準備が整いません」
「そうね、一番策を弄すのが得意だったのが冥王だったんだっけ?」
「獣王様も不得意ではないんですけどね。
 ともかく、今すぐっていう動きはないと思いますよ。でも」
「ひぅっ」
 息を吐いた瞬間だったために、顔の横にあったゼロスの手に必要以上の
驚きを持ってしまった。
「どうした!?」
 体温の伝わらない手袋が、あたしの頬と首元に触れている。
「個人的には、今のリナさんにとっても興味があります」
 親指は頬に置いたまま、他の指が耳の後ろからすうっと首筋に添って撫でていく。
「前回は、はっきり敵対してでしたけど、今回は仲間との対決でしたものね。
 リナさんがルーク・シャブラニグドゥ様の正体を知った瞬間、是非その場に
居合わせたかった。
 今よりももっと複雑で美味しい負の感情を出されてたんでしょう?」
 親指は頬を離れ、指先は鎖骨の間を抜ける。
 ふわりと、詰襟が外れた。
 素肌の上を、ゼロスの指先がゆっくりと滑って行く。
「地精道(ベフィス・ブリング)っ!」
 内側がオリハルコンになっているのを知らないゼルが、岩戸に穴を開けよう
としているんだろう。
 微かな振動が伝わるが、穴が開く気配はない。
 いや、確かめられないのだ。
 こんな至近距離に、どんな目的を持っているか解らない高位魔族がいる以上、
よそ見なんてしていられないのだ。
「僕が怖いですか、リナさん。
 案外今のリナさんに揺さぶりをかけたら、世界を滅ぼすのも簡単かも
しれませんね。
 自覚なさってますか? 今、ガタガタ震えてらっしゃいますよ」
 くすくす、楽しそうな声が耳元で聞える。
「ああ、いいですね。美味しいです」
「リナ、どうした!? おい、ゼロス! お前リナに何をっ!」
 響く声は、先ほどより大きくなった。
 地精道で岩戸がだいぶ薄くなったのかも知れない。
「僕ですか? リナさんに何を? ……うーん、そうですねぇ。
 襲ってます」
「ふざけるなぁぁあああ!!」
「嫌ですねぇ、ふざけてなんていませんよ。
 では言葉を変えましょうか。
 ねちねち言葉攻めしてリナさんの美味しい感情で食事してます。
 いいじゃないですか、負の感情くらい。リナさんだって無抵抗ですよ?」
「リナ、どうしたんだ! 何かされてるのか!?」
「いいえ、僕は何もしてません。
 そもそもゼルガディスさん。この室内がこんなに明るいんですから、
影がそちらから見えるでしょう?」
 影? ああ、なるほど。
 薄いオリハルコンの板が内側に貼ってあるのだとあたしは思っていたが、
どうやら本当に高度な技術でこの石室の内側全体、オリハルコンが薄く
コーティングされているらしい。つまり、今あたしが背にしている岩戸だと
思っていたものは、最早オリハルコンの幕でしかないのだ。
 そこに室内からの明かりであたしたちの影が映り、それを向こう側のゼルが
見て影と解るほどにこの幕は薄い物なのだろう。
「リナ、おい、しっかりしろ!」
「でもリナさん、しっかりしろだなんてよくそんな無責任なことが言えた
もんだと思いません?
 ゼルガディスさんはルーク様を知らない。
 覇王様との戦いも、ルーク様との戦いも知らない。
 いいえ、ガウリイさんだって本当は知らないんですよね。
 北の魔王様から伺いましたよ。
 ルーク様を最後に屠った時、ガウリイさんは倒れていて、あなた一人だったと」
「あ……」
 そう。
 何をどう言ったって、
 あたしが、
 ルークに
 とどめを――
「あなたが、かつて仲間だったルーク様を、」
 あらわになった胸元を、指でくすぐられる。
 まるで、心臓を弄ばれているかのように。
 心の表面を、ナイフで撫でられているように。
「やめろぉぉぉおおおおおおお!!!!」
 がつん、と背中に衝撃が走る。
「魔王様と同化されたルーク様を、殺したんですよね、リナさん」

 涙が一筋、頬を伝った。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@





えええええええええ。

どうしましょう、何かゼロスさん激しくS化してますよ!?
そして続いちゃいます。
おかしいな、ゼルリナ書く予定だったはずなのにゼルが動けない不思議!
あれです、ゼロスさんのは
「好きな子ほどいじめたい、むしろ食べちゃいたいくらい好き☆」っていう。
ゼルやんは次回活躍予定。
まだ次回の流れ決めてないけど。
ってかこれ本当に次回で終わるのか!?
そもそもこれ本当にリナちゃんなのか!?
弱い……いくら傷抉られてるからってこれは皆様に許して頂けるのか……。
あああ石はっ石は痛いです投げないで!

そんなわけでお暇します!
なるべく早く続き書きに来れたいいな!
ではでは、みいでした☆

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35236銀幕(中)みい 2013/6/5 15:38:34
記事番号35123へのコメント

うわ、さ、3年越し……。
どーも、こんちゃっす。みいでーっす。
さてさて、構想とかもう完璧に忘れてるけど続き書いてみますw
面白くなったらいいなぁ。


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@




 ――情けないことに、俺は泣きそうだった。

 きらりと光る岩壁でできた一室には、馬車を使っても絶対に
一度や二度では運び出せない量の金銀財宝に、分厚い書物達があった。
 リナは諸手を挙げて跳ねる様に室内に駆け込み、
その瞬間、大きな岩が頭上から転がり落ち、入り口を塞いだのだった。
 室内は石畳が敷き詰められているようだったし、踏むと作動する
簡易な仕組みのトラップだろう。
 場馴れしているからこそのミスだ。
 ――しかしリナらしくも、
そう思いかけて、リナが平生の状態ではないことに思い到った。
 ガウリイの旦那がした最初の目配せ。そして、ふとした拍子に漏らした、
「俺じゃ役に立たん」の一言。
 そうだ。今日のはしゃぎ様は、以前よりやけに幼い印象を受けた。
 旦那は声を上げて笑うリナを見て、心底安心した様に微笑んでいなかったか。
 出会ってからずっと、リナを一言で表すとしたら「強か」に尽きると思っていた。
 しかし、その強かさが揺らぐ何かが、あったというのだろうか。
 そんな彼女が今、こんなミスをした。
 いつもだったらこんなトラップ、難なく避けているだろう。
 しかし、今は?
 “最悪”が脳裏にちらつき、粟立たない筈の硬い皮膚に焦燥が走った。
 ――リナ。
 頭上に漂わせていた明かりを足元に寄せ、“最悪”の証拠を探す。
 ――大丈夫だ、まさかリナが。
 その想像を打ち消そうと思うのに、彼女の笑顔がチラついて、
余計に不安が煽られている。
 地面の境からは、マントも髪の一房も勿論血の一滴だって覗いてはいない。
 手をひたひたと境目に合わせながら確かめて安堵し、肩の力を抜いたときだった。

「あほかぁぁああああ!」

 小さく、反響して聞き取りづらいが間違いなく彼女の声だ。
 そうだな、確かに阿呆な想像だった。息を吐いて苦笑して、
俺は頭をごつんと大岩に当てた。
 いや待て。俺の想像が、岩の向こうのリナに伝わる訳がないのだから
この突っ込みは俺宛であるはずが無い。
 落ち着け。何をこんなに慌てているんだ。
 リナが、……いくら、大切な仲間だからと言って。
「〜〜わぁぁあああああああ!」
 また、リナが大きな声で何か叫んでいる。
 苦手なナメクジでもいたのだろうか。
「おい、リナ、どうした?」
 岩を叩きながら声をかけども、反応する様子はない。
 彼女の声は聞えているから、中でも脱出の糸口を探しているのだろうか。
 ……いや、中の声はリナだけではない。聞き取りづらいが会話が成されている。
 では一体誰が?
 突っ込みの声は大分親しそうだった。
 誰か、かつての仲間が偶然にもいたというのだろうか。
 アメリアは考えられないだろう。では、俺の知らない誰かだろうか。
 しばらく会っていない間、別の人間と旅を同行していたようだったし。
 ともかく。
 一抹の焦げ臭い感情は見なかった振りをして、大岩に改めて向き合う。
 こんな大岩越しに声が聞えるということは、どこかに穴があるのだろう。
「リナ、おい、聞えるか!?」
 声を掛けながら、大岩にひび割れなどが無いかまず確認し、それから大岩が当たった壁のあたりにほころびが無いか確認する。
 ……待てよ?
 リナも出口を探しているのだろうから、明かりを使っているだろう。
 俺は手元に寄せていた明かりを、先ほど来た通路の方へと押しやった。
 案の定。大岩と壁の間、膝くらいの高さから、明かりが漏れている。
 俺はそこに顔を近づけ、大き目の声で声をかけた。
「リナ、おい、……リナ!」
「ゼルっ、ゼルガディス、聞える?」
 反応はすぐに来た。ほっとしながら、髪を数本引き抜いて穴に差し入れる。
「リナ、ここだ」
 少し振ってやれば、中の明かりを反射して見つけやすくなるだろう。
「ゼロス?」
 声は更に近づいたが、聞えた名前に思わず眉をしかめた。
「リナ? ゼロスがいるのか?」
「ええ、さっき助けてくれたんだけど」
 大岩に潰されないように、だろう。
 どうせその後おちゃらけて、リナに突っ込まれていたんだろうが。
 しかしどんなに阿呆なことをしていたとしても、相手は高位魔族だ。
「……で、あんたは一体何のために?」
 問うリナの声色も、幾分かかたくなっていた。
「リナさんの様子を見に、ですね」
 ゼロスの声は聞き取りづらい。リナと離れているのか。
「何のためにか、訊いてるのよ」
「心当たりがないわけじゃあないでしょう? リナさん。
 なんたって、この世界だけじゃなく異界の王の血まで
その身に溶けているんですから」
 少しずつ大きくなるゼロスの声。しかしそこは問題ではない。
「何だと……?」
 異界の王の血? 王の血、とゼロスが言うのだからこの場合は
魔王の――つまり賢者の石のことだろう。
 リナが賢者の石を手にしていたのはいい。だが、何のために飲んだんだ?
 待てよ、異界の王? リナはそんな呪文を使っていなかったか。
 ……四界の闇を統べる王、我と汝の縁に従い、我に更なる力を与えよ?
 呪符! ゼロスから買い取ったと言っていたあの4つの呪符が、
それぞれ魔血玉だったのか……。
 リナが、その賢者の石を飲むほどの窮地に、陥ったのだろうか。
 ガウリイが呟いた「役に立たん」の一言は、その時のことか?
 二人の会話は続いている。焦るリナの声に、楽しそうに返すゼロス。
「人間にあるまじき、強大な魔力ってところかしら?」
「ええ。かつて冥王が考えていたアレを、今度は完璧に実行できる可能性があります」
「おい、まさか……!」
 リナに、混沌を召還させるわけにはいかない。
「まあ、まだそんな命令は受けてないんですけど。
 やっぱり僕ら魔族としては、強大な力と認めざるを得ないんですよねぇ。
 欠片とはいえ、2回も魔王様を倒した存在っていうのは」
「馬鹿な、2回、だと……?」
 ちょっと待て、どういうことだ。
 1度ならば、それは俺も一緒にいたあの時だろう。出会ってすぐの、レゾの件だ。
 その後に、もう一度、魔王の欠片を倒したというのだろうか。
 ――だから、賢者の石を飲み込んだ?
「だから、監視してるの?」
「ええ。そして、その時になるまでは生きていて頂きます。
 ……とはいえ、こちらも大痛手なんですよね。
 この間の一件で、魔族間での諍いなんて下らないものもありましたし。
 今まともに動けるのは、獣王様と海王様のみ。
 一度冥王が失敗した策を持ち出してくるには、準備が整いません」
 何故だ。
 魔竜王と冥王は確かに滅びたが、覇王はどうした?
「そうね、一番策を弄すのが得意だったのが冥王だったんだっけ?」
 こともなげに頷くリナは、覇王の顛末も知っているのだろうか。
「獣王様も不得意ではないんですけどね。
 ともかく、今すぐっていう動きはないと思いますよ。でも」
「ひぅっ」
「どうした!?」
 ――小さな悲鳴は、年相応に可愛らしかった。
 思考が横に逸れて、頭を振る。リナが対峙しているのは、高位魔族だ。
「個人的には、今のリナさんにとっても興味があります」
 先程の悲鳴と相俟って、まるで男女の睦言のように聞えてしまう。
 そんなわけはない。そんなこと、あるはずが無いのに。
「前回は、はっきり敵対してでしたけど、今回は仲間との対決でしたものね。
 リナさんがルーク・シャブラニグドゥ様の正体を知った瞬間、是非その場に
居合わせたかった。
 今よりももっと複雑で美味しい負の感情を出されてたんでしょう?」
 仲間? リナと行動を共にしていた“ルーク”という男が、
シャブラニグドゥとして目覚めたというのだろうか。
 離れている間に一体何が……くそ、こんなことなら離れなければよかった。
 手を付いていた大岩を殴ろうとし、その向こうにリナがいることに気付く。
 どうして俺はじっと耳をそばだてているんだ。
 この大岩をどけるのが先だろう!
「地精道(ベフィス・ブリング)っ!」
 大岩をがりがりと削っていく。しかし、穴は開かない。
 何度試しても術は突き抜けず、大岩がただ薄くなっていくのみだ。
「僕が怖いですか、リナさん。
 案外今のリナさんに揺さぶりをかけたら、世界を滅ぼすのも簡単かも
しれませんね。
 自覚なさってますか? 今、ガタガタ震えてらっしゃいますよ」
 ゼロスの楽しそうな声が聞えて、ぐっと強く拳を握る。
 貫通しなくても、薄くすればそれだけ望みは広がる。
 もう一度、地精道!
「ああ、いいですね。美味しいです」
 ――ああもう、どうして言いなりになっているんだ!
「リナ、どうした!?
 おい、ゼロス! お前リナに何をっ!」
 岩はほとんど消え、術を阻んだ金属越しに、二人の影が見えていた。
 そう、二人の影はほとんど重なっている。
 こんな至近距離で一体何をしているんだ!
「僕ですか? リナさんに何を? ……うーん、そうですねぇ。
 襲ってます」
「ふざけるなぁぁあああ!!」
 思わず剣に手が伸び、思い直す。
 目の前の金属は、どうせオリハルコンだろう。柔らかい金属とは言え、
剣とは相性がよろしくない。
「嫌ですねぇ、ふざけてなんていませんよ。
 では言葉を変えましょうか。
 ねちねち言葉攻めしてリナさんの美味しい感情で食事してます。
 いいじゃないですか、負の感情くらい。リナさんだって無抵抗ですよ?」
 無抵抗、だと!?
「リナ、どうしたんだ! 何かされてるのか!?」
「いいえ、僕は何もしてません。」
 何でゼロスが答えるんだ!
「そもそもゼルガディスさん。こちらの室内がこんなにも明るいんですから、
影がそちらから見えるでしょう?」
 見えているからこそ、もどかしい。どうしてリナは動かない?
「リナ、おい、しっかりしろ!」
「でもリナさん、しっかりしろだなんてよくそんな無責任なことが言えた
もんだと思いません?
 ゼルガディスさんはルーク様を知らない。
 覇王様との戦いも、ルーク様との戦いも知らない。
 いいえ、ガウリイさんだって本当は知らないんですよね。
 北の魔王様から伺いましたよ。
 ルーク様を最後に屠った時、ガウリイさんは倒れていて、あなた一人だったと」
「あ……」
 リナがぴくりと身じろぎをした。
 ちょっと待て。その口ぶりじゃ、――
「あなたが、かつて仲間だったルーク様を、」
「やめろぉぉぉおおおおおおお!!!!」
 剣を鞘ごと、目の前の銀幕に叩き付けた。
 ゼロスの言葉を掻き消したくて。
「魔王様と同化されたルーク様を、殺したんですよね、リナさん」

 やめろ。
 リナの心はもう
 こんなにも、傷ついているじゃないか。




@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

はい、上編があまりにも解りづらかったので、ゼルサイドからもう一度。
ゼルやんはまだ、リナちゃんに対する心をはっきりと自覚しては
いなかったみたいですね。
だからテンパるテンパるw
テンポが悪くて読みづらいですが、次はどうにかなるはずっ!
今しばらくお付き合い下さいませ。
みいでした☆

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35237銀幕(下)みい 2013/6/6 01:09:18
記事番号35123へのコメント


さて、どう風呂敷を畳んだものか……。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



 突き立てた剣は、鞘ごとオリハルコンの幕を貫通していた。
 俺は力任せに剣を下ろし、幕を破る。
「ゼロス、貴様ァ……!」
 こんな時は、傷付きにくい自分の肌が便利だと思う。
 裂け目から奴を睨みつけながら、素手で幕をさらに広げて室内へと
入り込んだ。
「おやおや」
 いつも通りの笑みの仮面をこちらに向け、ゼロスは一瞬で距離を取った。
 リナは、……おい!
「リナ、リナ!?」
 彼女は何とも危なっかしい角度で俯いていた。
 肌蹴られた襟元から覗く細い首が、長い髪に引っ張られる頭を
重そうに支えている。
 いつも力強く輝く瞳は、人形の硝子玉(それ)の様に空ろに光を
反射しているだけだ。
「リナっ」
 頬を濡らす雫を拭うと、ひくりと頭を震わせて、緩慢な動きでこちらを
見上げる。
「ぜる? ごめん、ね」
 無理やり口角を上げても、それは笑みに見えなかった。
 思わず引き寄せて抱き締め、痛々しい表情を見ないようにする。
「うーん。ちょっとやりすぎちゃいましたかねー。
 まあお二人の感情はとっても美味しかったので、僕としては
嬉しかったんですけど。
 リナさんが壊れちゃうのはこちらとしても困るので、じゃあ
ゼルガディスさん後は宜しくお願いしますねっ」
 ことさらおちゃらけた声でゼロスは言い放ち、さっさとその場から
消えてしまった。
 俺がこの手で消したい、とは思ったが、このままいても負の感情を提供する
だけのような気がして、どこか納得している自分もいた。
 あんな奴よりも、リナだ。
「ぜる、くるしい」
 そりゃあ、岩肌で強く抱き締めたら苦しいか。
 苦笑して腕を緩め、頭を撫でながら顔を覗き込む。
「泣くな」
「な、泣いてないわよ」
「強がらなくていい」
「どっちよ……」
 強張っていた表情から力が抜けて、もう一度頭を撫でる。
「それでいい」
「……偉そう」
「お前に言われたくない」
 間髪入れずに言い返すと、リナがふっと息を漏らした。
 とても不器用に、笑っていた。

 ☆ ☆ ☆

「つまり、お前さんの責任なんてどこにもないじゃないか」
 ゼルがいなかった間のことを掻い摘んで説明した後、彼の第一声は
それだった。
 ちなみに場所は未だお宝ちゃん達の部屋である。
「だってそうだろう。
 友に呼ばれて行ったら自殺幇助を頼まれた。生かしてやる道はどこにも
なかっただろう。手を貸すのがそいつの為だ」
「でも」
「そいつが、最後は人としての自分でいられるようにと手伝うことの、
何が悪い。
 一度魔王を受け入れてしまったら、後は魔族に利用されるだけだ。
 降魔戦争の再現を、お前もその男も嫌ったのなら、それが最善の道だ。」
 言い切られて、言い淀む。
「お前さんは、彼を守ったんじゃないのか」
「……“守った”」
「賢いんだから、わかってるだろう」
 頭を撫でられて、「ん?」と首を傾げるゼルを見つめる。
 彼の手は硬いけれど、とても優しい。
 その、まなざしも。
「自身が持てないなら何度だって言ってやる。
 お前さんは最善を尽くした。お前さんしかできないことだった。
 感謝してるだろうよ」
 ルークの顔が、ふっと浮かぶ。
 苦しげなものでない、おだやかな表情(かお)が。
「いいの、かな」
「いいんだろ。
 むしろ、そいつが今のリナを見たら怒るんじゃないか?」
 ――いつまでクヨクヨしてやがる、らしくもねぇ!
 そう、ルークの声が聞えた気がした。
「いいの、かな」
 胸につかえていた何かが、すっと解けた。
 彼とはもう会えないけれど。
「殺したんじゃない。お前さんが、見送ってやったんだ。」
 ぼろぼろと、目から雫が零れた。
 きっとこれが、一番欲しかった言葉。
「よく頑張ったな」
 不覚にも、声を上げて泣いてしまった。

  ☆ ☆ ☆


「あの、ところで、ゼル?」
「どうした?」
「だから、その」
 ゼロスが去ってからずっと、俺はオリハルコンの壁によりかかり座っていた。
 リナを、膝に乗せたまま。
 段々と冷静になってきたのだろう、胸元に垂れている俺のケープを小さく
握りながら、もじもじと俯いている。
 案外可愛いところがあるじゃないか。
 そう思う自分にも、もう吹っ切れていた。
 わかりやすい話だ。まさか自分が、とも思うが、この一件で気付いて
しまったのだからしようがない。
「リナ?」
 耳元で低く囁いてみれば、大きく身体を震わせてから涙を浮かべて
こちらを睨む。
 赤面しているから、効果は別の意味で抜群なんだが。
「もう、大丈夫」
「俺は離したくないが」
「ぜっ……!?」
 ふむ。面白い。
「嫌か?」
「いやじゃなっ……い、けど」
「ならいいだろう」
 澄まして言ってやれば、絶句したようでただぱくぱくと口を開いては閉じている。
「お前さん、案外可愛いな」
「ななななに言って!」
「女らしい反応もできるんじゃないか」
「それは! 普段ガウリイがレディとして扱ってくれないからでしょっ」
 なるほど。確かに旦那の言動は「女子供は大切にしろ」の、子供扱いに見える。
「俺は別段、お前さんを子供扱いした覚えはないが」
「知ってるわよ、ちゃんと女の子扱いしてくれてたって。だからす、……」
 うっかり口が滑った、とでも言いたげに視線を逸らし、口元を覆い、それからすっくと立ち上がる。
 俺の腕はそのままだったので彼女の体のラインに触れたことになるが、
意思とは無関係だと主張しておこう。
「す、なんだ?」
「何でもないっ」
「解らないだろう、言ってみろ」
「解らなくていーいーっ」
 リナはすたすたと財宝の山へ近づき、持って帰れる分だけを纏めるため物色を始めた。
 赤くなっている耳を弄ってやりたい衝動に駆られるが、我慢しておいてやろう。
「もう、大丈夫だな?」
「うん。……ありがと、ゼル」
 くしゃりと頭を撫でると、見えない顔が微笑んだ気がした。




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お、終わっ、た……?

強引ですし、しばらく書いてなかったので「文才何それ美味しいの?」な感じですが
最後までお付き合い頂きましてありがとうございますー!
タイトル活かしきれなかったなぁ……。
ではでは、またいつかお目にかかれる日までっ。
みいでした☆


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