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    タイトル : 白魔術都市狂想曲 128
    投稿者  : フィーナ
    投稿時間 : 2015年7月3日20時24分16秒

セイルーンの王都。

その少し離れているある貴族の屋敷のひとつ。

そこは、つい先日。
    ・ ・
とある天災魔道士によって壊滅させられた屋敷だった。

そこには廃墟と化した面影はなく、建造されて間もない特有の佇まいがある。

その屋敷の一室――執務室にて手元の書類を眺めていた男は、報告を聞いて目を細めた。

「どうやら出し抜かれたようだな」

報告をしていたもう片方の男も、静かに首肯した。

「とんだ狸だな。あの商人も」

「そうっすね」

男――マーシュ卿は、傍らに控えている青年に声をかけた。
     ・・・
「どうだカイル。体の不調は?」
                              マジック・アイテム
「もう平気っすよ。しかし便利なもんっね。あの 魔 法 の 道 具 は。
コピーにやらせといていうのもなんなんすけど、マーシュの演技もさすがだったっす」

「・・・・・・もうこれでお前は子爵の地位もなく、アルベルトとの確執に煩わせることもなくなった」

ひたりと、カイルと目線を合わせる。

「本当にいいんだな? ここしばらくは忙しくなるぞ」

「もとより覚悟の上っすよ。
貴族の俺は死に、今後は影(諜報員)として働く。
それに、ああでもしなけりゃガキたちはスラム堕ちしちまう」

「フィリオネル殿下と拝見できたのは行幸以外にないな」

「そのへんは同意っす」

これから行う事業に関しての、王家からの予算振込み。

そして予定していた人員――あの施設に入れられていた戦災孤児など――の大量確保。

大体は計画通りに進んだ。

だが、誤算もあった。

「・・・・・・アレンを手中に収められなかったのは痛手だな」

「そうっすね。あの人の知識は馬鹿になんないっすよ。
・・・・・・まあでも、他の貴族にとられるよりかは幾分マシっすけど」

「王族も陰から横槍していたみたいだがな」

それを聞いたカイルは、思い出したかのように肩を震わせて。

「アメリア殿下が、アレンさんを糾弾してくれたおかげでそれも水の泡ってなったときには、笑っちまったっす」

愉快そうに嗤うカイルに、マーシュ卿は軽くため息をついた。

「口を慎め。誰かに聞かれたら不敬罪に問われるぞ」

「すんません」

マーシュに謝りつつも、彼の瞳のその奥にくすぶる王家に対する嫌悪は、隠しきれていなかった。

「今後は俺らの居場所を奪わせたりはしないっすよ・・・・・・絶対に」

「・・・・・・お前も大概だな」

呆れたようにいって、マーシュ卿は表情を改める。

それにあわせ、カイルも顔を引き締める。

「アレンから提供された情報と知識をもとに、はじめるぞ」

「飢えで死者が出ることのない世界と、優秀な人材の育成のために」

それは、王政を執っている為政者にとって、この上のないほどの嫌がらせと脅威となる。

通常裕福な商人や貴族でしか受けられない、高度な教育。

それを一般層やスラムの人間が受ければどうなるか。

彼らは絶対と信じていた存在に疑問を抱くだろう。

思考し知恵をもつのが人間なのだから。

たとえば悪政を強いた領主・貴族がいた場合、力をもたなかった民たちは、ときに授けられた知識を知恵へとふりしぼり牙を剥く。

無論善政をしいているのがわかっていれば、こんなことはまず起きない。

弱者と侮るか否かは、その為政者しだいだろう。

彼らが行うのはその下準備。

そしてこれは、第一王位継承者であるフィリオネルも合意のことだ。

平和主義を名乗っているとおり、彼は争いを好んでいない。

だが、父王であるエルドランが病で伏せ、貴族の暴走が目に余り始めた。

思えば、彼の甥のアルフレッドも、半分は彼自身の性格もあったが。

貴族の何割か甘言して唆していた節があった。

でなければ、重鎮たる文官たちがああも易々と殺されたりはしなかっただろう。

それからフィリオネルは、苦悩と葛藤を得て、この下手をすると王家の血筋が途絶えかねない策に便乗した。

民から信頼され、支えられるような王となるために。

そして娘たちや、その子孫が道を踏み外すことのないように。

狂想曲のように、一定の形式がなく自由で機知の富む標のように。

親として、そして時期国王としての愛情と尊厳を持って彼は願うのだった。


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