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    タイトル : ドラスレ! 22
    投稿者  : とーる
    URL    : http://blacktail.blog.shinobi.jp/
    投稿時間 : 2011年6月6日16時49分20秒

 




第二十二話





ハッタリと思いたかった。
けれど、レゾの浮かべる場違いな笑み、アメリアの青ざめた顔からして
信じられるわけがない。
それにレゾがハッタリをかますような人間かどうか、
一番よく知っているはずのゼルガディスが声を失っているのだ。


「何故――これが要るの?」


ガウリイお嬢ちゃんが問う。


「ゼルガディスが説明したのでしょう? 目が見えるようになりたい――
 ただそれだけですよ」

「何で――これほどまでにして……?」


アメリアがこわごわ口を開いて尋ねる。


「説明した所で、貴方たちには理解してはもらえないでしょう――
 目の見える人には、ね。さあ――石を」


俺がちらりとお嬢ちゃんに視線を送ってみると、お嬢ちゃんは頷き、
懐からオリハルコンの神像を取り出した。


「ほら」


神像が弧を描いて宙を舞う。
レゾの右手が伸び、それをしっかりと受け止めた。


「確かに――受け取った!」


レゾの口調が変わる。邪悪な歓喜が言葉のうちにひそむ。
トン、とアメリアが突き飛ばされ、正面にいたゼルガディスが受け止めた。
俺はさっと近寄り、アメリアの首筋から生えた細い針を一気に引き抜く。


「っ……!」


ぞくっと震えたアメリアだったが、痛みはなかったらしい。
針を見てみると、親指と同じ位の長さ。
……よくこれで死ななかったもんだ。
つまり、それだけの技量をレゾは持っている。



パキン!



レゾの手の中で、神像が砕け散る。その中から出てきたのは、
小さな黒い石――あれが、かの“賢者の石”。


「おお……まさしくこれよ!」


レゾは迷うことなく、石を飲み下した。



ごうっ!



突然、強い風が吹きつけてくる。
いや、風ではない。
風に煽られて、唐突にこみ上げてくる吐き気。
物質的な力さえ持った強烈な瘴気だ。

レゾは瘴気の渦の中心で一人哄笑し、狂ったように叫ぶ。


「おお――見える、見えるぞ! くはははははっ!」


レゾの双眸は赤い色をした闇――。
完全に目が見開いた瞬間、レゾの体が異質なものに変わりゆく。
そして、俺は気づいた。レゾの正体、レゾの閉じられた瞳により、
封じ込められていたものが何であったかを。

今やレゾの顔は、目の部分に紅玉をはめ込んだ、白い石の仮面と化している。
その全身を覆う赤いローブもまた、硬質の何かに変わっていた。


「――まさか」


ゼルガディスが呻く。
彼女もまた気がついたのだ。
“赤眼の魔王”シャブラニグドゥがこの地に再臨したことを――。





「選ばせてやろう。好きな道を」


しばしの静寂のあと。
悠然と立つ、レゾだったもの――レゾ=シャブラニグドゥが口を開いた。


「再び生を与えてくれたそのささやかな礼として。従うならば天寿を
 全うすることもできよう。それが嫌だというのなら仕方ない。
 “北の魔王”――もう一人の私を解き放つ前に、相手をしてやろう。
 ――選ぶがいい、好きな道を」


とんでもねーことを言い出した。
かつての戦争で封じられた“北の魔王”を解き放つということは、
この世界を破壊に導くという意思表示だ。
それが嫌なら自分と戦えと――“魔王”と戦えと。


「たとえ魔王に協力しようとも、世界の破壊を導けば、善悪を超えて
 そこに待つは総てに等しき“死”のみ! 命惜しさに尊き未来を
 捨てることなど、出来るはずがありません!」


決まっていた応えを、立ち上がったアメリアが叫ぶ。
ゼルガディスが呆気としてアメリアを見るが、すぐに呪文を詠唱し始める。
俺の前に一歩進み出たお嬢ちゃんも、剣を抜いて構える。

そして俺は、笑った。


「『負けると分かってるけど戦う』ってこんじょーは捨てろよ?
 勝てる確立が1パーセントほどだとしても、そーいうつもりで戦えば、
 ゼロになる。――俺は絶対死にたくない。だから戦う時は必ず、
 勝つつもりで戦う! ――そういうことだ」


魔王は静かに俺たちの様子を見ていた。


「そうか――決まったか――」





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