◆−時の旅人 64:消失の波紋−羅城 朱琉 (2007/9/26 23:38:20) No.18341
18341 | 時の旅人 64:消失の波紋 | 羅城 朱琉 | 2007/9/26 23:38:20 |
こんにちは。始めましての方、はじめまして。何だかもうとっくの昔に忘れ去られている気がしないでもない羅城 朱琉です。 やっと、ようやっと第6部、始まります。 仕事が不規則なため更新も超・不規則になりそうですが・・・・。 では、どうぞ! 時の旅人 64:消失の波紋 風が吹く。 決して強くはない、しかし、遥か遠くまで吹き渡る風が。 彼の者の最後の言葉を乗せて、風は遠く吹き渡っていった。 * * * * * 吹く風は優しく、天気は上々。行く道を祝福するかのような心地よい天気の中、一行の最後尾を黙々と歩いていたフェリセは、ふと足を止めた。 その耳元を、ふわりと風が掠める。それだけで、フェリセは全てを悟った。 (そういうところが嫌いなんですよ、陛下。) 声に出さずに悪態と、心の中で溜息をつき、風が渡る空を見つめる。 爽やかな青い空の中に、『星天の紡ぎ手・ステラ=ウェリン=フェリセ=ディアライト』だからこそ見える『もの』を見つけて、今度こそ実際に大きく溜息をついた。 「どうかしましたか?」 レンシェルマが、彼にしては少々固い声音で問いかける。警戒されていることはわかっていたので、フェリセは特にそれに頓着する事無く、苦笑を浮かべた。 「ごめん、ちょっと用事を思い出したわ。悪いけれど、先に行っていてもらえる?」 我ながら白々しいな、と思いつつも、そう言ってフェリセは一行を見渡した。 リナとルピナスが、同時に口を開こうとしたが、それを遮ってフェリセは続ける。 「大丈夫よ。空間移動くらい出来るし、本当にすぐ終わる用事だから・・・・さ。」 「あんた、こんなときに何を・・・・」 「わかりました。」 苛立ったような声を上げたルピナス。それを止めたのは・・・・レンシェルマだった。 「心配は無用だと思いますが・・・・お気をつけて。」 そう言って軽く頭を下げるレンシェルマを見て、フェリセのほうこそ驚いていた。 「・・・・きっと、あなたが一番止めると思ってたんだけど。」 ぽつりと言うと、レンシェルマは顔を上げて穏やかに微笑んだ。 「さあ?・・・・行かせてやれと、風に言われましたもので。」 含みを込められたその一言で、フェリセは、理解した。 レンシェルマも、受け取ったのだ。 風に乗せられた、あの一言・・・・『託したよ』という、あの声を。そして・・・・ 今、『語り部』が消えたのだ、と。 だから。 「・・・・そう。じゃあ、お言葉に甘えて。」 そうとだけ言って、フェリセは空間を移動する。 目指すは、語り部がいた、あの小屋。 * * * * * 空間を渡り現れたその小屋に、語り部の姿はなかった。 代わりに残っていたのは・・・・よく似た、二つの『時』の気配。 「やっぱり・・・・ね。」 フェリセの手が、スッと空間を撫でる。その細い指に絡まるように、一本の細く長い糸が存在していることを見て、フェリセは深く息を吐いた。 「ありえたはずの未来を見せてる間、何かコソコソやってると思ったら・・・・こんな仕掛けを残してたのね。 『よすがの糸』・・・・か。糸だの紐だのリボンだのは、私には確かに使い慣れてる形ではあるけれども・・・・こんなあざとい仕掛け残すより、私に託さなくてもよくなる方策を採って欲しかったよ。いくらなんでも、『託したよ』は無責任ですって。」 手にした糸にふっと息を吹きかける。すると、糸は靡く端から溶け消えて、世界に同化していく。・・・・と。 「・・・・・・・・っ!」 唐突に頭を押さえて、フェリセが膝をついた。 「・・・・っ痛ぅ・・・・。『時』のネットワーク引き継ぐだけで、ここまで負担になるとは・・・・。」 酷い偏頭痛を患ったように、鈍い頭痛が脈打つ。それでも何とか痛みから意識を逸らし、フェリセは先ほどの糸の先を辿って意識を集中した。 今はフェリセを起点に伸びる銀糸のネットワーク。その所々に、純白の光を放つ点がある。 「これは・・・・『白紙のページ』を持つ者たちね。」 語り部が最後に発動した術。それは、この『白紙のページ』と俗に呼ばれる素質を持つ者を集めるためのものだったようだ。 『白紙のページ』とは、『運命を変えうる可能性』のこと。それを持つ者を、いかようにも話を綴れる、という意味をこめて『白紙のページ』を持つ、と言うのだ。 「まあ、狙いはわからなくないし。 癪だけど、これでアリエスが助けられるなら・・・・運命が変わるなら、乗せられてやろうじゃない。」 そう言って、フェリセは身を起こす。まだ頭痛は続いていたが、耐え切れぬほどではない。 今、やれることはやった。 あとは再び、歩き続けるだけだ。 * * * * * 勝手にフェリセを行かせてしまった事で、レンシェルマは少々居心地の悪い思いをしていた。とはいえ、語り部の最後の声を受け取ってしまった以上、同じくそれを受け取った・・・・そして、実際に『託された』ものを取りに行ったフェリセを妨げるわけにはいかなくて。さてこれからどう説明しようか、と考えあぐねていた。 しかし、次に発せられた声は、レンシェルマを糾弾するものではなかった。 「『不動の放浪者』ルートレス、『死と滅びの精霊』リコリス、あと・・・・『矯正の鈴音』ファリウ、だったわね。」 そう呟いたリナは、そのまま顎に手を当てて考え込む。 「正直、あたしはこの中の誰も知らないんだけど・・・・なんか、あんた達には心当たり有るようなことを言ってたじゃない?」 ちらりとルピナスを見たリナは、ルピナスが首を傾げているのを見て、先ほどの会話をなるべく正確に思い出す。 「『『不動の放浪者』ルートレスか、『死と滅びの精霊』リコリス・・・・無理なら『矯正の鈴音』ファリウに、つなぎを取るといい。ルートレスとは接点がないかもしれないが・・・・リコリスは、異界の神族エイレン=マイセリアルの元にいる。ファリウは、フィッツ=シュトラールに会えば呼び出せるはずだ。』・・・・とか何とか。」 「ああ。 フィッツなら知っている。ただ・・・・今どこにいるかは、解らないけどな。」 一度口調が変わって以来、そのまま定着してしまったルピナスが、考え込む素振りを見せて言った。 「フィッツとは、一時期一緒に旅をしていたが・・・・正直、考えがよく解らなかったからな。時々いなくなるし、突然現れる。打つ手無し、だ。」 小さく溜息をつき、視線を前に戻すと・・・・・・・・ 「そう思われていたとは、心外。」 フィッツが、いた。 「・・・・・・・・・・何故?」 思いっきり間の抜けた声で呟いて、ルピナスは呆然とフィッツを指差す。 「呼ばれた。探して、いたのでは?それと、指を刺すのは、失礼。」 相変わらず訥々と語り、フィッツは後ろで何が何やらわからない、といった顔をしているリナ達に向けて小さく一礼して、言った。 「申し、遅れた。名前は、フィッツ=シュトラール。光を司る、幻神族。」 「げん、しん?」 胡乱げに呟いたのは、ルピナス。 「人の思いが生み出した、神。・・・・言って、なかった?」 「聴いてない!」 叫ぶルピナス。フィッツは黙ってことん、と首を傾げる。 「・・・・・・・・忘れてた。 まあ、いい。用件、わかってる。・・・・・・・・ファリウを、連れて来た。」 しゃん、と、金属の触れ合う音がした。 「・・・・・・・・誰だ?」 『彼女』を見て、ルピナスが問う。 『彼女』は笑った。 「ファリウ。ファリウミュシカ=ヴィ=フーア。貴方達の探している者よ。」 あとがき・・・・をカットして、いきなり次回予告。 希望は儚く潰え、しかし、それは新たな道標となる。 再び歩き始めたその先には、遠近すら解らぬ放浪の道。 新たな希望の姿を求め、留まる事無く歩む。 それは、ただ、ひとりの乙女のために・・・・ 次回、『時の旅人』65話、『今、新たなる1歩を』 |