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    タイトル : 初恋・・・かもしれない(前編)
    投稿者  : 希 悠  mytilus2010-coterie@yahoo.co.jp
    URL    : http://blogs.yahoo.co.jp/fmxjq295
    投稿時間 : 2012年5月3日21時34分10秒

とっても久々に、ゼルアメな小説っぽいものを投稿してみます。
よろしくお願いします。
またしても、なんとなく二部構成。


___________________________________

初恋・・・かもしれない 


聖王国第一王位継承者フィリオネル=エル=ディ=セイルーンの次女、アメリア王女には最近、悩み事が出来た。
一応、恋愛がらみの悩み事、と言えるだろう。
ただし、“好きな男性が出来た”というような艶っぽいものではない。
アメリアは手元に届いた書類を眺めながら「はふぅ」と気の抜けた息をついた。
「恋愛って、どうすれば出来るのかしら?」
その呟きは傍に控えていた女官にもばっちり聞こえるものだったが、既に何度も聞いた台詞に顔色も変えなかった。
アメリアは尚も真剣な眼差しで書類を眺める。
それは、お見合い写真&添え書きというものだった。
アメリアは数ヶ月前まで城を出て旅をしていた。それは父フィリオネルにも許可をもらったもので、期間も半年ほどとそう長いものではなかったのだが、旅に出たことで後継者問題を考える高官達に危機感を与えたらしい。
王宮に帰還したアメリアには次から次へとお見合い話が持ちかけられるようになった。
おかげで今までさっぱり考えてこなかった“結婚”について頭を悩ませる日々。アメリアとて、王族として育ち、いずれは聖王国を共に支えていく人と結婚するんだろうとは考えていたが、ここに来て怒涛の勢いで勧められるお見合い話に唖然としていた。
まあ、いずれはする事なのだ。時期が早まり、勢いが良いくらい大したことではない。
そう思って、お見合いに取り組むことを承諾したのだが、その時、父に言われた言葉が原因でアメリアは悩む事になるのだった。
「王族として、国の為を第一に考えるのは当然のこと。しかし、その為に自分を犠牲にしてはならない。国の為に自分を犠牲にしてやったのだ、と考える者は国を傾ける。責任を国、国民に押し付けていることになるのだ。国を治めるものが、その為に不幸になっては、国を不幸にする。逆もまた然り。国を治めるものが心穏やかに、幸せにあれば、国も安らかになるだろう。アメリアも見合いや結婚を国の為と考えず、自分が真に愛するものを伴侶としなさい。」
“真に愛する人”・・・。ってどんな人?
純粋培養の王族の教育の為か、周りに対象となる男性が殆ど居なかった為か、アメリアはこれまで恋愛と言うものをしたことが無かった。身近にいる同じ年頃の男性といえば、従兄弟のアルフレッドだけだったし、アメリアの周りに居るような高官や上級近衛兵はそれなりに経験を重ねたツワモノばかりで年齢的にはずっと上だ。はっきり言って、そういう対象ではないし、恋愛感情を持ったことも無い。
というか、恋愛感情ってどんなものか分からないというのが正しい。
そんなときに、“真に愛するものと〜”なんて言われたものだから一体どんな人が良いのか分からなくなってしまった。
それから何度かお見合いをし、相手にあってきたのだがやっぱり分からない。
アメリアだって1人の女の子。時々侍女や女官たちから聞くようなドキドキする恋をしてみたいと思わなくも無い。物語で語られるようなそんな恋愛にあこがれてもいる。
お見合いを始めるまでは、ここで噂に聞く運命の出会いがあるかもとか乙女チックなことも考えたりした。一目会った瞬間に恋に落ちる、そんな相手がいるかも。
とりあえず、これまであった人の中にはいない。・・・・・・たぶん。
「恋ってどんなもの?」
深いため息と共に、そんな言葉がアメリアの口から零れ落ちる。
さすがにいつもの元気の無いアメリアが気になったのか、気の毒になったのか、休憩時間にお茶を運んできた年嵩の侍女と女官がアメリアの相談相手をはじめた。
「どんなもの?と言われましても・・・。」
女官は困ったように笑い、後ろでお茶の用意をしている侍女に視線を投げる。
侍女もその視線に気付き、苦笑していた。
「こう、となかなか口で言えるものではありませんわ。」
「姫様が好きと思える殿方って、どんな方がいらっしゃいますの?」
女官がどこか期待するような表情で興味深げにそう尋ねた。
「好きな男の人?まずは父さんね!後は、じい(クロフェル侯)でしょ、武術師範、あ、警備隊長のラゼスも結構好きね。融通が利かないこともあるけど仕事に真面目だし、なにより正義と国を愛する心を持ってるわ。他には神官長に、料理長に・・・」
指折り数えながら“好き”な男性を上げていくアメリアだったが、つらつら両手の拳が何回か開閉され、相手が門番に至ると「もー結構です・・・。」と止められた。
「じゃあ、その中に顔を見るだけでうれしくなったり、ドキドキしたり、ぼぅっと見つめてしてしまったりする方はいらっしゃいますか?」
「みんな元気に会えればうれしいわよ?ドキドキ・・・は父さんとかじいとか高官たちに出来た書類を見せて評価を待っている時とか、武術稽古で意気込んだ時はするわ。ぼぅっとは・・・あんまりしないわね。」
「・・・っ、そうですか。」
あんまりな答えに侍女たちは顔を見合わせ、こっそりとため息をついた。
「旅をしている間に出会った男性方にも、いませんか?」
言われて、懐かしい旅の仲間を思い浮かべる。
「旅をしている間?うぅ〜ん。ガウリイさんもゼルガディスさんも好きだけど、そんなことあったかしら?」
あの旅の道中は始めての経験ばかりで、常にドキドキしていたような気がするが、果たして侍女たちが期待するようなドキドキだろうか?と考えをめぐらす。
結局、アメリアは侍女たちに深い深ーいため息をつかせただけで、悩みはますます深くなるのだった。

そんな時だった。彼が聖王国にやって来たのは。
お悩み相談をしながら侍女たちが用意したお茶で一息ついているとなにやら外が騒がしい。
コンコン。と扉が叩かれ、近衛兵の1人が入ってきた。
「どうしたのですか?」
「は、城門にアメリア様に取り次いで欲しいという怪しい旅の男が来ておりまして・・・。」
近衛兵はなにやら歯切れ悪く言いにくそうだ。
「怪しい?・・・誰ですか?」
「えーっと、ゼ・・ゼガル、ディス?とか名乗っておりました。」
「!!ゼルガディスさん!?」
「あ、そんな名前だったかも。」
アメリアの勢いにびっくりした近衛兵は、思わず間抜けな返答をした。アメリアは勢いよく扉の前まで走りより、近衛兵に掴みかからんばかりに詰め寄った。
「どんな、どんな風体でしたか!岩肌でした!?」
「は、全身白尽くめで、フードとマスクで顔を隠している怪しい男で、僅かに除く皮膚は確かに岩っぽかったかも・・・。姫様!?」
近衛兵の「かも・・・」はたぶんアメリアには聞こえていなかっただろう。その前にアメリアは城門に向かって走り始めていた。
侍女たちと旅の頃の話をして、懐かしい思いが湧き出してきたところにちょうどよく現れた彼に、アメリアは走りながら一気に旅の頃の記憶が甦ってきた。

最後に分かれるとき、「聖王国王宮の一般には公開していない図書室や王族所有の書物が見れるように取り計らいましょうか」と聞いたら「その内、聖王国の近くによることがあったら頼む。」とだけ言ってアメリアとは反対の道へ行ったゼルガディス。

アメリアが城門に到着すると、そこには背の高い白尽くめを囲むように近衛兵たちが集まっていた。普通なら怯んでもおかしくないような兵たちの警戒心も露な対応に対して、何事も無いようにたたずむ男。その男はアメリアの姿を見つけると軽く片手を上げた。
「よお。久しぶりだな。」
その軽い反応に姫を敬愛する近衛兵たちは軽く殺気立つ。
「な、姫様に対してぶ・・・」
無礼であろう。と言いたかった様だが、その前にアメリアが兵たちを押しのけて男の前に立った。別れた時と変わらぬ姿、態度、その様子に旅をしていた頃の感覚が一気に甦る。
「姫様。そのような怪しい者に妄りに近づいてはなりません。危険です!」
隊長格と思しき近衛兵が男に近づこうとするアメリアを制止しようと近づく。
その近衛兵にニッコリと笑みを返すと、アメリアは断言したのだった。
「心配ありません!彼は怪しい・・・かも知れませんが、危険人物ではありません。共に正義を行った私の仲間、ゼルガディスさんです!!!」
「俺は正義を行った覚えはない。」
素気無いゼルガディスの言葉に、ガクリッとアメリアがこける。
「えぇー。そこは合わせてくださいよー!それに一緒に魔族を倒したじゃないですか。それすなわち正義!」
ぐっと握り締め、胸の前に力強く添えられる拳。
「俺は単に俺の目的を果たすのに、邪魔をする奴を倒しただけだ。正義なんて思っちゃいないし。」
「結果、正義を行っていれば問題なし!です。」
「そういうもんなのか?まぁ、別に俺には関係ないが。」
「もー。そういうところ、全然変わってないですね。とりあえず、こんなところで立ち話もなんなんで、応接室にどうぞ。」
アメリアはゼルガディスを先導し、城の奥へ進んで行った。
後に残された兵士たちはボーゼンとそれを見送ったのだった。

「俺は、すぐにでも書物を調べたいんだが。」
「分かってますって。でも、ゼルガディスさんイキナリ来るんですもの。父さんとか、図書室の管理者に話を通してくるので、その間、応接室で待っててください。」
しばらくして、アメリアが滞りなく手続きを終えて戻って来た。再びゼルガディスを先導して歩く。
図書室までの道すがら、アメリアは色々話した。戻ってからの聖王都での事、リナとガウリイは今頃どうしているのだろうか、そして、お見合いのこと。
その間ゼルガディスは殆ど口を挟まず、相槌のみで済ませていた。お見合いの話になって、彼の顔が僅かにしかめられた。それは本当に僅かな変化で、前を見ながら話し続けるアメリアには気付かれなかったが、さらに彼の口数が減ったのは明らかだ。
その反応を、自分のことばかり話しているために彼が不機嫌になったと思ったアメリアはあわててゼルガディスのほうに向き直る。
「すみません、なんか、愚痴っぽくなっちゃって。ゼルガディスさんにはつまらないことばかり私が勝手にしゃべってしまいましたね。」
些かしょんぼりしたアメリアに、ゼルガディスの顔は苦笑に変わる。
「別にかまわんさ。これから色々世話になるんだ。愚痴ぐらい付き合ってやるよ。」
肩を竦めながらそう言う彼に、アメリアの顔はすぐに笑顔に戻る。
そうこうしている内に2人の前に大きな扉が現れた。
「さ、着きましたよ。後のことは、管理者に任せてください。」
扉を開け、ゼルガディスを促す。
「ああ。分かった。すまないな、忙しいところ。」
それは、何気ない一言だったのだが、アメリアは一瞬ぽかんとした表情になった。次いで不思議そうに尋ねる。
「へ?忙しくなんか、無いですよ。」
「そうか?疲れているようだったから、忙しいのかと。愚痴りたいことも随分あるみたいだしな。」
「心配してくれたんですか?ゼルガディスさん。」
「別に、心配なんて。」
「ありがとうございます。ゼルガディスさんも資料調べるのに、無理しちゃだめですよ。」
楽しそうにニッコリと微笑み、無理をしがちなゼルガディスに釘を刺すのを忘れない。
ゼルガディスが尋ねてきたと知るまでは、お見合いやら悩み事やらでぐったりしていたのは事実だ。でもそれを表に出すようなアメリアではない。愚痴は多少もらしたが。それで、疲れていると心配するのはゼルガディスが彼女を気にかけているということだろう。
ゼルガディスが自分を気にかけていてくれたことに、アメリアはうれしくなった。

『何で、こんなにうれしいんだろう。』

それは、アメリアの胸の奥に小さな光りが灯った瞬間だったのかもしれない。
或いは、火種はあったのだ。そこに一陣の風が吹き込み光を発し出した瞬間だったとも言える。
アメリアは自分の鼓動がドキドキと早打っていることに、まだ気付いていない。


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