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    タイトル : 漆黒に踊り出る5‐2
    投稿者  : 井上アイ
    URL    : http://kibunnya.kakurezato.com/
    投稿時間 : 2010年5月19日06時41分58秒
| そして、ワイヤーが引っ張られた。
 遅い!と思いながらも、心を平常に戻していく。
 ぐんぐん近付くそれは、見知らぬ顔だが、朧気なそれが、はっきりして来ると、焦りがなくなって来る。
 程なく、屋上へと辿り着いた巨体。
 ごちゃごちゃ五月蝿いが、いつもの様に適当に相手をし、さりげなく、分け前を徴収。
 リールを柵から外し、ナップサックに入れ、用意してあった隣のビルへのワイヤーに、グローブの金具を引っ掛ける。
 巨体を回収に来た騒音に、心の中で感謝しつつ、彼女は漆黒の空を、走る様に飛んだ。
 こちらのビルは25階なので、かなりのスピードが出る。
 その流れる景色の下、地上の光が、騒音を追い、大通りへと向かう。
 彼らは、警察をからかうのを、いつも楽しんでいるので、大概が大通りへと向かうのを、知った上での、逃走ルートなので、眼下の光は、なくなっていく。
 それを見届け、彼女はワイヤーにブレーキを掛け、スピードを調節する。
 スピードが乗り過ぎると、屋上に激突してしまうからだ。
 そして、隣のビルへと着地。
 勢いで、数歩歩いたが、抜群の運動神経で、怪我は無い。
 ここで暫く待つか、逃げるか、どちらが得策か?と考えて、
 「気になる……」
 好奇心が、先程の感覚を、確認したくなって来る。
 多少、特殊メイクで、顔を変えてある。入った時と、髪型は違うので、それを取れば、問題ないだろうが。それでも、危険を感じ、彼女は首を横に振った。
 「好奇心は猫を殺す。てね」
 と、自分を戒め、階段を降りた。
 そこは、バイクを止めたビルの敷地で、一回様子を見る為に、道路を覗く。
 
 少し先、丁度地下駐車場の出入口を、パトカーが塞いでいるのが見える。
 彼女の視線の届かない、正面玄関、裏口では人がガードしており、その指揮を取っているのは、ワイザーで、リッチの逃亡と同時に、周りを固める事を、内密に伝えられ、こうなっている。
 「どうなってんのかしら?」
 現場保全の為に、残っているにしては、様子がおかしい。
 地下駐車場の方から、何やら言い争う声が聞こえるのだ。
 その事に、首を傾げた彼女に、背後から声が掛かる。
 「貴女が、忘れ物をした女性ですかな?」
 渋い中年の声に、彼女は振り返った。
 盗聴機で聞いた、その声に。
 「さあ?何の事かしら?」
 「困りましたな。現場から、人が1人消えたとなると、責任問題が発生してしまうのですよ」
 「それは、大変ですわね」
 「何をされていたのですかな?」
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