◆− 雨の中の天使 −浅島 美悠(5/5-14:14)No.9855
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  ┗Re: 雨の中の天使 −浅島 美悠(5/6-11:32)No.9875


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9855 雨の中の天使 浅島 美悠 5/5-14:14





初めて人を殺して、血にまみれた。
怖くて。
悲しくて。
苦しくて。
辛くて。
………。
………。
………。
楽しくて。
面白くて。
…………………………やめられなくて。

ルヴィナガルドの街中。
そこに上がっている戦火。
そして、累々たる屍。
そのなかで、獣将軍(ジェネラル)である少女とその従者の青年はいた。
「お……おめでとうございます! リディス様!」
ぴっと敬礼をとるが、主への感服というよりは、慰めているようにも思える。
「初の初陣を勝利で飾りましたな! とても六歳の身の上とは思えませぬ!!
ゼラス様もさぞやお喜びになるでしょう! お側役のレインも嬉しく存じ……」
「レイン」
それまで黙っていたリディスが、初めて口を開いた。
「…っは?」
「……この男…なぜ、わたしにだきついてきたんだ?」
視線を、下へ移す。
少女と同じくらいの少年。そして、その父親であろう男が、肉塊へ変わろうとしている。
だが、それを見つめているはずのリディスの瞳に、光はない。
わずかな虚ろと悲しみ。負の感情がありありと滲み出ている。
レインはしばらく押し黙ったままだったが……やがて、ゆっくりと話し出す。
「……我が子を守るためでしょう。抱きついている間、逃げるように、と」
「…わが子?」
「はい。父や母は、子供を守るものです」
父?
母?
守るって…誰を? 子供?
「父と、母?」
困惑する少女に、レインは補充するように言葉を紡ぐ。
「誰にでもいるものです。
わからない時、何かを教えてくれたり。
寂しい時、抱きしめてくれたり。
悲しい時、歌ってくれたり。
どんな時でも、想ってくれる……」
「わたしには──」
いないぞ……?

群狼の島。
それは、獣王ゼラス・メタリオムが住まう場。
幼き獣将軍(ジェネラル)の『家』でもある。
「父親?」
金髪の女性──すなわちゼラスは、凱旋後の獣将軍に、いぶかしげな顔を見せる。
「そうだゼラス! レインからきいたぞ! 
ははおやとか……だれにでもいるって…! わたしにはいないのか!?」
小さな足どりで、一生懸命ゼラスの後を追いかける。
その度に、金属の髪が銀の光を放ちながら、しゃらしゃらと鈴にも似た音を出す。
「いろいろおしえてくれたり! 
だきしめてくれたり! 
おもってくれたり! あったかかったりするんだ!!」 
いつもは黒い、彼女の瞳も。
興奮したのか、赤くなっている。
あの娘と同じ、真っ赤な瞳に。
ふ、とゼラスは妖艶な笑みをつくり、そばにあった等身大のクリスタルに手を伸ばす。
「いいわよ。見せて上げても」
その言葉に、ぱあっとリディスの顔が明るくなる。
はちきれんばかりの喜び、期待、嬉しさ。さすがのゼラスも、息苦しくなる。
……すぐにそれは、『食事』に変わることとわかっても。
ぽぉっ…。
クリスタルが光を帯びる。
リディスは、それに食い入るように両手をつけ、少しでも早く見ようとする。
「あなたの父親はね、ここより北──遠い異国の地にいるわ」
「なんでだ?」
わくわくしている、リディスの笑顔。それが、驚愕に染まる瞬間。
「あなたを売ったからよ」
たった一言で、それは実行可能となった。

『あ、ゼル、お帰り』
『リナ! おとなしく寝ていろって言っただろ!?』
『あのねぇ!! 最新のはやり病だかなんだかしんないけど!
あたしがこれしきのことで……けほけほっ!!』
『ほら、言わんこっちゃない。ちゃんと寝てろ、いいな?』

「これが、あなたの父と母。ゼルガディスとリナ・インバースよ」
…父…………父親…?

『………ゼル、これ食べるトコないじゃない!
しかもなにこれ! ニンジンさんと一緒にまな板のカケラも入ってるわよ!?』
『すっ…すまん……不器用で…』
『まあったくぅ〜。やっぱ家事はあたしがいないとダメよね〜。
この間だって、洗濯するつもりで水結球(アクア・クリエイト)やって、びしょ濡れになったじゃない』
『ゔ……』

「この男はね、あなたを娘として…人として認めず、あなたを魔族に売ったのよ」
文句を言いながらも、作った料理を口にするリナ。
気まずそうに頬をかくゼルガディス。
わたしにはあたえられない──あたえることはゆるされない…こうけい…。
ゼラスは、より一層笑みを深くして話を続ける。
「妻のリナには、何でもするし優しいけど。…………まあ…そんなこと…。
どーでもいーのよ。あなたは売られたんだから」
驚愕。
「たとえあなたが死のうが苦しもうが、知ったこっちゃないし」
悲しみ。
「想いもしない」
絶望。
肩が震える。だが、涙は出ない。
「父を憎みなさい! 人を殺しなさい、リディス!! あなたは人間たちに裏切られたんだからね!」

去ってゆく、後ろ姿。
戦場で出していたものとはケタ違いの、負の感情。
リディス様…。
「レイン、わかっているわね?」
ゼラスが真っ赤な唇を開いた。
「はっ…はい!」
びく、と反射的に反応する身体。
「あの子は、大事な実験台なんだから。人間がどこまで、私の力を使いこなせるかってね。
だから………。もし本当のことを…。
あの男がリディスを売ったのではなく、私達魔族がさらったことをバラしたら……」
す、と人指し指を差し出す。その先から、黄金(こがね)の輝きが生まれる。
「消すわよ。あなたも、リディスもね」
それは、けして言葉だけのものだけではなかっただろう。
魔族の中に、情などあるわけがない。
それに、自分を創った創造主に逆らうことはできない。
──レインの主はリディスだが、創ったのはゼラスなのだ。
だから。
「はい」
こう言うしか、なかった。

そうか──
私がこれほど戦場で傷つき──苦しんでいる時に……。
ゼルガディスはあの女を愛し──私は…捨てられたのか…。
…………フン。上等だ。行こう。血塗られた道を。
元より捨てられたこの身──捨てるものなど何もない。
温もりなど……親などいらぬ!! 殺してやる! 焼いてやるぞ! 
人間を!!

紅き堕天使、群狼の白い魔女──

リディス様……。
……戦いに死に場所を求め…心は傷つき翼も真っ赤に染まって──
リディス様……オレは知っているんです。
あなたが赤子の時だって──
『お願い、返して!! 返してー!!』
『や・あ・よ。この子は私の実験に付き合ってもらうわ♪』
『やめろーーー!! そいつは……そいつは俺たちの子なんだ!!』
……そう。子を想わない親などいないと。
だから………。
「フン!!」
ざしゅっ!
だからリディス様…こんなことはもう……。
「天輪(アルティメット)!!」
ゴゥンッ!!

さぁぁぁぁ……。
雨が降る。
静かに、冷たく。──戦場に。
「……雨は、いいな。レイン」
顔を上げる。冷たい雫が気持ちいい。
「何もかも流してくれる。血球……肉塊……。愚かな思想…」
私は……間違っていたのかもしれない…。
翼はそれでも赤い。
「フン……温もりか」
死体の中に、逃げおくれたのであろう一組の男女があった。
あれが……父と母だとしたら…。私はその時……どうするのだろう…。
「小さいころ……他人(ヒト)の父に抱きしめられた時は暖かかったが──
あいつはどうなのだろう……。水晶から出てきた時──私を見てどう思うのだろう…」
いや──
どう思われようと関係ない。
恨まれてもいい。
憎まれてもいい。
何だその薄汚れた翼はと──叩かれたって…殺されたってかまやしない…。
ただ……。

「フン。どうだゼルガディス。今日は西北の精鋭、シュクヴィアル公国を滅ぼしてきたぞ」
手を触れる。いつものように、冷たい感触が伝わる。
「この翼で炎の海を駆け、この手で何千もの命を狩ってきた。
逃げまどう人間の叫びがなかなか愉快だったぞ
クク…はがゆいか?
そこで何もできず、手をこまねいているだけなのがな……。
くっ……ククク…アハハハハハッ!!」
『リディス様…』
「アハハハハハッ……ハハ…」
空っぽの笑い声。
それを反響する黒い空間。
……お父様…あなたはいつも……。
そうやって……黙っているだけで…何もしてくれない……。
………私は、ただ……。
「想って欲しいだけなのに…」
叶わぬ願いが、冷たい水晶に吸い込まれる。
少女は………まだ泣けなかった…。

「これで、お終い」
銀髪の少女は、自分に群れる子供たちにそう宣言した。
セイルーンの王宮テラス。少女は近衛兵団の隊長の任にあった。
話が終わると共に、子供たちは待ってましたとばかりに、少女を質問責めにする。
「えーーー? その女の子どーなっちゃったのー?」
「おとーさんはー?」
「つづきつづきー!」
「はなしてよー! きになっちゃう!!」
「おねがいー!」
ふう、とため息をつく。
子供ってのは、いつも『どうして?』としか言えないのか?
「あー…。その子はな、自分が間違っていたことに気付いて、父を助けようとして…失敗したんだ」
『えーーーーー!!?』
キィィィィン……。
あまりの大音響に、思わず耳を塞ぐ。
「じゃあ、しんじゃったの!?」
「い、いや……その一歩前で助かった」
「ふ〜ん…そっかぁ〜」
「よかったぁ〜」
「じゃあさじゃあさ、いまもどこかで生きてる?」
「おとーさんたすけよーとしてる?」
瞳をきらきらと光らせ、自分の答えを待っている。
腰にさした『剣』から、くすくすと笑みを漏らしているのが『聴こえ』た。
「ああ。その日が来ることを、待ち望んでいる」
フワリと風が吹き抜ける。
ここからだと、セイルーンの町並みがよく見える。少女はそれを、遠い目で見つめた。
「ねぇ!! じゃあこんどはまほーやって!!」
「ハトさん出すの!」
「えー!? ホタルさんがいいよー!」
「ぼく、お空とんでみたいなぁ」
次々と舞い落ちる、子供たちのリクエスト。
それを少女は、困ったような、恥ずかしいような笑顔で受け止める。
「すまないが、これから城壁の巡回に……」
『自分が行きますよ。それぐらいできますから』
『剣』が、少女に話しかける。
「いやしかし……」
「ねーねー! おねがいー!」
「あたしたち! まいにちたのしみにしてるんだよ?」
「やってよ、ねえ!」
『リディスおねーちゃんっ!!』
子供たちが軍服の端を掴む。
………彼らはこーゆー場合、大人は断ることができないと確信しているのだ。
『大丈夫ですよ。アミエラさんにも話しておきますから。
それに、悲しみますよ? この子たち』
「ぁ……」
小さく──本当に囁くほど、小さく呟き、少女は…リディスは苦笑する。
「……頼む」
『はい。では、行って参ります』
直後、剣が消える。それを確認し、リディスはよりかかっていた身体を起こした。
「………じゃあ、何をやろうか」
「うん! ハトさん!」
「だーかーらー!! ホタルさんがいーってばー!」
「お空、飛ぶのがいいー!」
「わかったわかった、順番にな」

あの時……私には、お前の言っている意味がわからなかった。
………でも………。……今なら、わかるような気がする。
仲間って。
仲が……いいって。
「白翼翔(フェアリス・ブリード)!!」
蒼穹に舞い上がる、何百羽という純白の鳥。
わあっと、いくつもの無邪気な歓声が起こる。
なあ………ゼルガディス…。お前も、感じていたのか?
こういう、気持ち。なんていったらいいか、わからないけど。
気分がいいんだ。すごく。
この笑顔を、幸せを守るのって。
好き、なんだ。
「明かり(ライティング)!」
白い光の粒が、周りを飛びかう。それを捕まえようと苦心している、小さき者たち。
………もし…。
もし……私の声が届いているのなら…聞いて欲しい。
「……汝らすべての力持て 我にさらなる力を与えよ」
ゼルガディス、私は──
「飛封翔翼(レイ・リアネル)!!」
私は──生きたい。

穏やかな春の午後、セイルーンの上空に数人の天使が在った。

   
                       雨の日の天使・了

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うみ……あたしもぉ小説書かない方がいいかもしんないでーすわ。
何よこれーーーーー!! リディスの回想シーンばっかしじゃないのですわー!!
ああああああああああああああっっっっ!!!
………などと絶叫しまくっておりましたですわ。
ちなみに、父親から『やかましい』と怒鳴られて……てへっ。ですわ。
どーしよーもない駄文に、お付き合い下さいましてどぅも。ですわ。
感想……書いてくれる人いねーだろーなでーすわ。
でゅわっ! こんどはちゃんとしたゼルリナ書きたいなと思っている&暴走気味の美悠りんでした、ですわ。

                         Miyu Asazima

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9863Re: 雨の中の天使 イーグル 5/5-17:11
記事番号9855へのコメント

読みましたよ、ある意味少年ガンガンのハーメルンのバイオリン弾きをアレンジしたものですか?


リディス=サイザーを連想しました。



リディスは群狼の赤い魔女でサイザーはハーメルンの赤い魔女・・
似ていませんか?


ゼラスは一瞬、ベースを連想し・・・リナはパンドラを連想しました
レインはオカリナ・・で兄はいないんですか?


最後はセイルーンの白い天使ですか?

どうも、イーグルでした・・・・

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9875Re: 雨の中の天使 浅島 美悠 5/6-11:32
記事番号9863へのコメント


>
>読みましたよ、ある意味少年ガンガンのハーメルンのバイオリン弾きをアレンジしたものですか?

はじめまして……ですわよね?
はいそーですわ。やってみたかってんですわ〜〜〜〜〜〜。

>
>リディス=サイザーを連想しました。

大ピンポンっ♪ ですわ。

>リディスは群狼の赤い魔女でサイザーはハーメルンの赤い魔女・・
>似ていませんか?

赤い……なんですわ?
確か白い魔女…ってかいたよーなでーすわ…。

>ゼラスは一瞬、ベースを連想し・・・リナはパンドラを連想しました

友達に見せてもらって『これでゼルリナ子供アレンジやったら…』とゆー。
著作権問題にかかわりそーな妄想を実現しちゃいましたですわ〜。
ごめんなさいでーすわ〜〜(本気で反省)

>レインはオカリナ・・で兄はいないんですか?

おにーちゃんは…ゼル君でーすわ。
レインは、おまけページで見たオカリナ男版をみて……。
根っから主従恋愛ってすきから…ですわ。

>最後はセイルーンの白い天使ですか?

ちっちゃな子供天使と、リディスが飛び回るのを想像して下されば幸いでーすわ。

>どうも、イーグルでした・・・・

どうも〜。
そしてこれからもよろしく。ですわ。(^^;)