◆−もっと強く生きられる? きっと夢は叶う? #18−浅島 美悠(4/16-12:33)No.9604


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9604もっと強く生きられる? きっと夢は叶う? #18浅島 美悠 4/16-12:33




夜ももうすぐ明けようとしているこの時。
セイルーンのアミエラの部屋には、まだ明かりがついていた。
ベットに両腕を預けるようにしているゼルガディスとアミエラに、リナがそっと毛布をかける。
「あなた、リディスのこと好きなんでしょ?」
ベットの傍に掛けている剣──レインに話しかける。
セイルーンの聖なる結界のせいで、人間の姿を保つことが困難になってきたらしい。
『…………はい』
否定するか、照れるかとも思ったが、意外にも素直に答える。
『でも……この方は……好きという……誰かを愛するということを知らないから…』
ふ、とレインが小さく笑ったような気がした。
リナは、ベットで寝息を立てているリディスを見やる。
銀髪はうねるように枕元に広がり、ぴんと伸びたエルフのような長い耳は時々小刻みに動いている。
「娘…か」
呟いて、そっと髪を手で梳かす。
何度も何度も。
撫でるように。
あやすように。
「………この子…天輪(アルティメット)とか…あんな凄い魔法どこで覚えたの…?」
そのまま、レインに問いかける。
『ご自分で。ゼロスやオレから、魔法と剣を。あと……』
ちょっとどもって──再び、レインは答える。
『……ゼルガディスから…詩(うた)を────』

何ひとつ失くして彷徨いの旅路を
誰のためでもなく独り歩む
風の音はいつでも過ぎた日のことばを
枯れ果てたこの地に運び、消える
希望とはいつでも絶望の深くで
その姿初めて明(あか)く光る

「………詩?」
『……水晶に触れると聞こえるんだそうです。いつもいつも同じ詩を繰り返している、と。
オレや……いえ、リディス様以外の者には聞こえないようですが……』
「………」
父と同じで、異なる、銀の流れ。
さらさらとリナの細い指をすり抜けていく。

崩れた街に注ぐ雨は静かに
人の軌跡をたどり流れてゆく
はじけた沫に映るのは
滅んだはずの都

その寝顔は、本当に子供っぽくって。安心しきっているようで。
リナは、知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。
「正直言っちゃってさ、実感ってもんがないのよね」
浅くため息をつく。
「…リディスが自分の………しかもゼルとの子供で…。同じような運命を辿っていた。何て…ね」

枯れた地に生命(いのち)がただ一つ芽生えた
蘇れ緑よ蒼い空に
めぐりゆく運命よ辿り着く所は
始まりか終わりか遠く示せ

『オマエノセイダ……』
『オマエガコロシタンダ……』
『イタイヨ、オネエチャン……』
『アツイヨ…タスケテ……』
「なっ……!」
自分に群がる、腐った死体。眼球が飛び出した者。ごっそりと肉がもげ落ちた者。
わかる。
これは、自分が殺した者達。
『ヒトゴロシメ…』
『オマエガメチャメチャニシタンダ……』
『マゾク…』
『ヨクモオカアサンヲ…』
「ぁ……」
言葉は生まれない。生まれるはずもない。
自分が──多くの人々を殺してきたことは…ゆるぎのない事実なのだ。
『アタシノテヲ……』
『ワタシノアシヲ…』
『オマエニキラレタ…クビヲ…』
『オマエニヤカレタ……コノミヲ…』
「やっ……」
原形を留めていない手を自分に伸ばす。
『カエセ…』
『カエシテ……』
『カエセヨ…』
「やめて…」
『カエセェェェェェ……』
亡者達が、一斉に襲いかかった。

「やめてぇぇぇぇぇっ!!」
叫んだと同時に、目が覚めた。
「………え…?」
まだ夢から覚めた感触がなく、思わず辺りを見回す。
窓からこぼれる、光のカーテン。
横には、ベットに突っ伏して眠っているゼルガディス。
朝。
「大丈夫? ずいぶんうなされていたわよ?」
リナが、リディスに話しかける。
「今、アミエラとレインが食事、持ってきてくれてるって。あ、これ着替えね。
あたしの荷物から、古くなった服を詰めておいたから…サイズ合うかどうかわからないんだけど……」
てきぱきと早口で話すリナ。いや…単に恥ずかしいのか。
「なんか…ね。その……傷、もうほとんど完治しているみたいよ。
包帯変えようとしたんだけど…。起きたらかわいそうだしって…」
少しだけ赤い頬をこりこりとかく。
そんなリナをしばし呆然と見つめながら、リディス。
「お前……寝ずに看病してくれたのか…?」
「あ…当たり前でしょーが! 病人ほっといてすぴすぴ眠れるほど、あたしは残虐じゃないわよ!」
瞳の紅玉(ルビー)にも負けないくらいに、赤くなる頬。
少女はリナを、そしてゼルを見て顔を背ける。
「その……さ、ゼルとか……も。起きてたのよ! 最初はね! でもほら、あんな戦いのあとじゃない?
だから……その…疲れてるはずで…えーと…」
「私は……」
言葉の合間をぬって、リディスがぽつりと呟く。シーツを持つ手が、震えている。
「多くの人間を殺してきた…。父を……お前を誤解していたとしても……罪を犯しすぎた…」
両手で顔を覆う。
「兵士や男ばかりじゃない…。すがるような老人…無力な赤ん坊、子供…それを庇う…母親だって…。
みんな…………みんな斬ってきたんだ…」
指の間から、涙がこぼれ落ちる。
「こんな私が……赦されるわけがない……」
かすかな嗚咽を漏らすリディスと、それを静かに見つめるリナ。
「………なぁ〜んであんたはゼルと同じ根暗性分なのかな〜っ」
髪をかきかき、リナがしょうがないなぁというような口調で言い放つ。
「いい? あんたやゼルは、たまたま不幸が重ねまくった人間なの! そこまではOKでしょ!?」
リナの剣幕に押されてか、リディスが目を丸くした首振り人形と化する。
「でも、人生に不幸ってのは当たり前! 
幸福ばかりの人生なんて必要ないの! ってーかいらない!
だって、ンな人生あったらつまんないでしょ?
あんた達は、それを『運命』だのなんだのって言ってるけど、あたしはそんなの信じない。
気に入らないものがあったらひん曲げなさい。
倒れるんなら、せめて前向いて倒れなさい。
そーゆー不幸も何もかもみーんなひっくるめて、人生楽しむのよ。
ゼルも言ってたじゃない。『生きて償え』って。 
それすらもやってないのに、『赦されるわけない』? 
そんなマイナス思考ばっかり持ってると、そのうちゼルの二の舞になるわよ」
言いたいことを言いまくって疲れたのか、ふぅ、と一息ついて、呼吸を整える。
「……ま、とにかくさ。過去なんかにすがりついてないで、がんばろうよ!」
にっこりと、朝日にも負けないような明るい、眩しい笑顔をつくるリナ。
つられて、ふわりと微笑む。
そこには、やっと打ち解けた母娘の絵があった。


                             #18・了

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次、最終回! ………だと思いまーすわ。
あ、でも#19って……あと一回で#20なのに……ですわ。
今回、初めてリナの母親らしい一面を見せた…と思っているんですけど…。
なんか自信ないですわ……。ゼル君の出番ないし…。
ま、もう少しだけあたしにお付き合いくださいませ。でーすわ。
それと、ゼル君がリディスに向けて歌ったのは、あたしの先輩が作ったものですわ。
勝手に抜き出してごめんなさいでーすわ。(反省)
何かカキコ(できればリナについて)ぷりーずですわ。でゅわ!

                        Miyu Asazima