◆-闇を抱く者たち-庵 瑠嬌(1/17-20:18)No.6087
 ┣暴走ドライブ(1)-庵 瑠嬌(1/17-20:20)No.6088
 ┃┣暴走ドライブ(2)-庵 瑠嬌(1/17-20:21)No.6089
 ┃┗暴走ドライブ(3)-庵 瑠嬌(1/17-20:23)No.6090
 ┃ ┣にやにや。-理奈(1/18-12:12)No.6095
 ┃ ┃┗楽しんでいただけました?-庵 瑠嬌(1/24-20:08)No.6132
 ┃ ┗Re:暴走ドライブ(3)-水城守(1/26-01:17)No.6147
 ┃  ┗きゃぁっ、水城さまっ!-庵 瑠嬌(1/31-19:08)No.6186
 ┣柔らかき悪夢-庵 瑠嬌(2/7-19:23)No.6223
 ┃┗Re:柔らかき悪夢-理奈(2/8-03:49)No.6233
 ┗乙女の聖戦(1)-庵 瑠嬌(2/7-19:31)No.6224
  ┗乙女の聖戦(2)-庵 瑠嬌(2/7-19:42)No.6225
   ┣きゃぁ〜-理奈(2/8-03:43)No.6232
   ┗楽しませていただきました(^^)-T−HOPE(2/12-11:31)No.6280


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6087闇を抱く者たち庵 瑠嬌 1/17-20:18



 ちょっと前のツリーが大きくなってしまったので、新ツリーを作らせていただきます。
 ゼロリナが基本……のはずですが、リナさんがでてこられません。
 ゼラゼロ――といった方が正確なのでしょうか。
 ちょっと違うような……書いた理由に、グラウシェラー様が書きたかったというのがありますから……。
 ではどうぞ。

∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂

〈闇を抱く者たち〉


 不意に、彼の耳に主の声が聞こえた。
『――ゼロス。いらっしゃい』
 何故かの指令かは分からなかったが、主の命令は絶対である。
 ゼロスは精神世界面を渡った。
「お呼びですか、獣王様」
 顔をあげたゼロスの目に映ったのは、三人の姿。
 真っ先に眼に飛び込んできたのは、真ん中の、豪奢な造りをした椅子に腰掛けている女性だった。
 なめらかな褐色の肌に金糸の髪、長いまつげの奥から見える濃い緑の瞳が、あざやかな華を添える。
 ――獣王ゼラス・メタリオム。獣神官たるゼロスを創りし五人の腹心の一人。
 そしてその右にたたずむ、長い黒髪、がっしりとした体格の、厳めしい顔つきをした男。
 ――覇王グラウシェラー。ゼラスと同じく五人の腹心の一人である高位魔族。
 ゼラスの座る椅子の、左の肘掛けに腰掛けているのは、つややかな漆黒の髪と瞳、愛らしい顔立ちの、少女と見まごう美少年。
 ――冥王フィブリゾ。前の二人と同じく、五人の腹心の一人であり、またその中で随一の実力者。
 呼ばれるままに現れた先に、大物三人組が、いきなりそろっているのを目の当たりにし、不覚にもゼロスは一瞬絶句した。
「ほら、僕の勝ちだね」
「くっ……。ゼロスならば、やるかと思ったが……」
「答えはごらんの通り。グラウシェラーの予想は見事にハズレね」
 意味不明な会話を交わすお三方。
「あ……あの……?」
 遠慮がちに声をしぼり出したゼロスを、フィブリゾがちらりと見やった。
「久しいねゼロス。いや、ちょっとした賭をしていただけだよ。きみでね」
「僕……ですか?」
「お前が人型で現れるか、真の姿で現れるかってね……フィブリゾは人の姿に賭けて、勝ったってわけ」 
 説明するゼラスに、一人苦い顔のグラウシェラー。
「それでは……、グラウシェラー様は、真の姿で現れる方に賭けられたのですか?珍しいですね……グラウシェラー様が、こんな悪ふざけにお乗りになるとは」
「悪ふざけ……って、なかなか言ってくれるね。まあそうなんだけど」
「今度の件に誰が噛むかっていうのも影響しているから、不可抗力だったのよ。――ねぇ、グラウシェラー?」
 ――ただいま、グラウシェラーは苦虫を噛みつぶすのに忙しいようである。
 見るからに機嫌悪そうに黙している彼に、ゼロスは相手をするのは得策ではないと判断し、非常に上機嫌らしいフィブリゾに顔を向けた。
「今度の件――とは?」
「あの謀反者――魔竜王ガーヴを討ち、うまくすればめでたく世界を闇に還すことも可能な計画だよ」
 フィブリゾは非常に楽しそうである。
「この件の実行者は、フィブリゾか、グラウシェラーかで、ちょっと問題だったんだけど――。
 今回の賭で、見事決定したって訳」
 ゼロスは首をかしげた。
「いつもの通り、発案された方が実行されればよかったのでは?」
「発案者は僕さ」
「それなら――」
 当然フィブリゾ様がやるべき――言いかけるゼロスに、続けてフィブリゾは、
「ただ、この計画には手足となって働くものが必要だからね。僕の部下が降魔戦争の時に、みんな滅びているのは知っているだろう?」
「我は多くの部下を創ってあるからな。……まったく――我に任せればいいものを」
「せっかくいい方法を考えたってのに、他人に譲る義理はないね」 
 お互い目つきが鋭くなり始める二人の間でゼラスは、輝くような笑顔で結論を口にした。
「――というわけで、賭となったの。ゼロス、誇りに思いなさい。お前のおかげで、無用の争いが不発に終わったのだから」
「はぁ……。けれど、それで現実問題としてどうなさるんですか?この件では、部下が必要なのでしょう?」
「だから我が……」
「それについては、君に頼むよ」
 グラウシェラーの言葉をさえぎって、フィブリゾはあっさり言った。
「僕に実行権が渡ったのは、君のおかげでもあるんだしね。いちおう君は五人の腹心の次に強いし、なかなか役に立つだろう」
「………。そうですか……」
「よろしく頼むわね、ゼロス。世界を闇に還すためにも」 
「わかりました。……それで」
 彼は細く瞳を開いた。
「その計画とは……?」
「教えない」
 フィブリゾは即答した。
「だけどやることは教えてあげよう、君はこの前クレアバイブルの写本を処分したね。
 その時、人間の娘にタリスマンをだまし取られたらしいけど……」
「……お恥ずかしい限りです……」
 あの時は、なんとなく納得していたのだ。
 今も――なぜか後悔はしていないのだが……まさか正直に口にしたりはしない。
「その時の人間の娘の、護衛をしてもらう」
 ………………。
「はい!?」
「それから、オリジナルのクレアバイブルのもとにも、連れていって欲しいね。……ああ、だけど、もしもあの娘にそれほどの力がないなら……、そこまでやらなくてもいいかな。まあ、それを前提に。頼むよ」
「あの、人間ですか……!?」
「そう、あの人間の娘……リナ・インバース。あの娘が、今回の計画のカギだ」
「はぁ……」
 内心あきれたような思いで、ゼロスは確認を取った。
「人間の護衛……ですね?……ですが、誰から守れと?」
「……うーん……まあ、このくらいは言ってもいいか。魔竜王ガーヴの一派だよ」
「それほど力がなかったならば……見捨てても?」
「まあ、そうだね。力がないなら、意味はないから」
「分かりました……」
 少々不快になりつつも忠実なる『ゼラスの部下』として、彼は大人しくうなずいた。
「じゃあ、早速行ってもらうよ。今あの娘は――……カルマート公国の北の方にいるようだから」
「――御意」
 膝をついて三人の高位魔族に礼を取ると、彼は音もなく姿を消した。
 それを見届けて、グラウシェラーは冷ややかな目で二人を一瞥すると、闇に溶け消える。
 残った二人は、苦笑した。
「しょうがないわね。ゼロスといい、グラウシェラーといい……」
「僕もそろそろ行くよ。――じゃあね」
「計画、成功すると……いいわね。フィブリゾ?」 
 妙に意味深な瞳で、ゼラスは彼を見やった。
「……どういう意味だい?」
「別に?……大丈夫だろうけど。あれでも、このわたしの部下なんだし」 
 主語の欠落した言葉に、フィブリゾが問いかけるよりも早く。
「それより、あなたもう行くんでしょ?」
「あ……あ、うん。そうだよ」
「――じゃ。また……ね」
 美しい微笑みを浮かべて、獣王はフィブリゾを追い出したのであった。

                            *

 金の光が舞う。
 闇の中で、密やかにゆらめく金の影。
 美しく整えられた爪が、一房の髪を梳いた。
 ―――大丈夫だとは、思うけど………
 かすれたつぶやきを落とす紅い唇。
「ゼロス……なぜ、お前はあの方から賜った呪符を――」
 静かに緑の瞳が翳る。
 ――魅入られ始めたのね……
 それでも。
「なんであっても……おまえは魔族、わたしの部下」 
 ――世界の滅びを望むもの。
 どれほど光に惹かれたとしても、その身は闇に在る。
 胸に焼き付けられた、なによりも強い祈りは、心も想いも、すべてを取り込み、喰い尽くしていくだろう。
 闇に住まう魔性。
(我らが永遠の願い――) 
 ―――世界に、滅びを――……
 言葉は形を取ることなく、泡のように儚い雫と成り果てた――……


∂∂∂∂∂∂∂

 以上でした。
 そういえば、グラウシェラー様は、もともとどのような外見を好まれるのか、よく分からなかったんですけれど……。
 とりあえず、ディルス国王陛下の外見を拝借させていただきました。
 それでは、失礼をば――……
                                               ――庵 瑠嬌でした――……  



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6088暴走ドライブ(1)庵 瑠嬌 1/17-20:20
記事番号6087へのコメント


 これはゼロリナでございます。
 ただし、破壊、殺傷等の描写の多い、暴力的な話ではありません。
 ほのぼのした、冗談ゼロリナですわ。
 ……暴走というのは――深くお気にはなさらないよう……。

¢¢¢¢¢¢¢¢

 暴走ドライブ(1)


 どこまで行っても、たいして変わらない周囲。
 何度も通る同じ道。
 ――あたしは道に迷っていた。 
 これは、別にあたしが方向音痴だとか、そういうわけではないのだ。
 悪いのは……、やたら広いこの町と、こんな町に住んでいるゼロスである。
 買ったばかりの車に――といっても中古だけど――傷がつかぬよう、そろりそろりと細道を抜け、あたしはまた十五分前に通った大通りに出た。
「……………」
 いい加減に腹も立っておかしくない頃だろう。
 あたしは信号待ちの車の中、怒りにまかせて叫んだ。
「―――まったくっ!どこに住んでんのよゼロスの馬鹿―――っ!」
「ここにいますけど」
 唐突に後ろから声をかけられ、あたしの背筋は一気に凍った。
 そりゃ神出鬼没な奴だけど、まさか車の中に突如発生するなんて――
「魑魅魍魎かあんたはっ!?」
 首を無理矢理曲げて振り返ると、後部座席に彼はおらず、ただにょきっと横から手が生えていた。
 ぱたぱたと手をふるそれは、間違いなく生存反応アリ――……
「……………!」
 一瞬頭の中がスパークする。
「リナさん?」
 平然と声をかけてくるそれに、パニクりつつ深呼吸を一回。
 シートベルトを外し、体制を整えてから背もたれのわきから覗いてみれば、なんのことはない、窓の外から彼が手を突きだしているだけである。
 ――と、いうことは。
 あたしは窓から後ろを見た。
 にこにこと笑って道路沿いの、歩道に立っているのは、大学の『先輩』ゼロスである。
 ……こいつをまともに先輩と呼ぶのは、あたしのプライドが許さない。
「もうそろそろ信号が青になりますよ、後ろの車の人が怒りだす前に、道の脇かどこかに、車止めた方がいいんじゃありません?」
 ――それもそのとおりである。
 ゼロスの言葉通り、車を止めるあたしに、彼は車を眺めながらいった。
「それより――リナさん免許取ったんですか。そういえば、教習所に通っているって前いってましたね」
「うん。つい先日に取ったの。……で、ちょっと訊くんだけど――」
 ちょっとこれは言いにくい――視線をずらして言葉を紡ごうとするあたしの目に、買い物かごが映った。
「あれ。ゼロスって、独り暮らし?」
「あ、はい。実家が大学から遠いんですよ」
「そっか……で、いま、彼女とか家にいる?」
「はい?」
 間の抜けた声で、ゼロスは答える。
 もーっっ、察しが悪いっ!
「だから……恋人とか家にいないんだったら、その荷物も一緒に、あんたの家に送っていってあげるっつってんのっ!」
「いや、そりゃ、もちろん僕はリナさん一本ですから、恋人もなにもいませんけど……。送ってくれるんですか!?」
 一本って、あーた……。
「ちょっとね。頼みたいことがあんのよ」
「そうですか……。もちろん、リナさんの頼みとあれば、昼までも夜までも、なんでしたら朝までも喜んでつきあいますよ♪」
「なんの話だぁぁぁぁっ!!」
 思わずあたしはわめきちらした。
 …………ったくこいつは……。冗談とも本気ともつかぬ口調で、なにを言いだすんだっ!?
「とにかく、話は行く道で説明するわ。とりあえず乗って」
 あたしは、ジト目でゼロスをにらみつけつつ、有無を言わせぬ口調できっぱり言った。 


「……で……。頼みとはなんですか?」
 ゼロスの住んでいるマンションの、やや広めの一室で、あたしはお茶を御馳走になっていた。
 湯気の立ち昇る、淹れたばかりのダージリン・ティー。
 一口飲んでから、あたしは口を開いた。
「あの……ね。あんたって……乗り物酔い、するタイプ?」
「いいえ。三半規管が発達していますので。それがなにか?」
「……ちょっと……一緒に車に乗って欲しいんだけど」
 ゼロスの右眉が、興味深げにぴくんっとあがった。
 満面の笑顔を浮かべる。
「ドライブですか。いいですねぇリナさん。デートに誘ってくれるんですか?」
「違うわぁぁぁぁっっ!」
 はーっ、はーっ、はーっ。
「高速乗ってみるつもりなんだけど、一人で乗ってもつまんないし、道わかんなかったりするとまずいから、助手席に座っててほしいのよっ!あんた免許もってるから、疲れたら代わってもらえるしっ!」
「そーいうことですか……」
 納得顔で、ゼロスはうなずいた。
「確かに、僕の家に来るだけで、あれだけ苦労してるんですからねー……」
「……なんかいった?」
 ギンッと、あたしはゼロスをにらみつけた。
「いいえ?」
 にっこり微笑むゼロス。
 ――本当にいい性格をしている。
 確かに……確かに、ゼロスのいうことも――事実ではあるけどっ!
 あんな入り組んだ道を進むだなんて、絶対、無理よっ!!
 さっさと行こうと思って、ゼロスの手引きで近道通ったら――やたら複雑で、頼み事の内容を説明するどころではなかった。
 高速ではそう言うことはないと思いたいけど……。もし一人で迷ったりなんかしたら――想像するだけでコワい。
「ほんとはガウリイとか、ゼルとかに頼みたかったんだけどね――」
 ガウリイに道を聞くなど、自殺行為に等しいが、一応免許は持っているらしいから、最悪の場合だったら、彼に運転させて、あたしが地図を見るという手もある。
 ゼルの方は、性格はともかく、頭脳と運転技術はまともだから、頼むのも悪くない。
「――デートらしいのよねえ……二人共」
「ガウリイさんとゼルガディスさんが?」
「そっ」
 あたしは肩をすくめた。
「ガウリイはシルフィールとイタリア料理。ゼルガディスはアメリアと遊園地」
「ゼルガディスさんが遊園地とは……アメリアさんにねだり倒されたようですね」
「基本的にアメリアには甘いもん、あいつ」
 クスリと笑ってあたしは首をかしげた。
「で、あんたはこの前、日曜は予定ない、とかって言ってたから、じゃあ……と思って。一応恋人いたら遠慮しとこうと思ったんだけど……ほんとにいないの?」
「いませんよ。……なんですか、もしかして……、やきもちとか?」
「悪趣味な冗談も、いい加減にしないとはっ倒すわよゼロス。
 ……そうじゃなくて、あんた昔からよく、女物のアクセサリーとか、靴とか……そういうもの選ぶの得意だったじゃない。実際買ってたこともあるみたいだし……彼女へのプレゼントかなって思ってたんだけど。ふ…ん……いないの」
「姉に鍛えられたんですよ。時にいいものを見つけたときは、よく姉に送っていましたし」
 そっか……。
「じゃあ、頼んでいい?」
「はい、もちろん……。って」
 ゼロスの言葉が途切れた。
「日曜って、もしかして今日ですか――!?」 
「うん」
 あっさり。
「そうじゃなきゃ、こんな午前中にあんたんとこ行くわけないでしょ」
 あたしは答えて、上目遣いにゼロスを見上げた。
「やっぱ――駄目?」
「……………」
 目と目が合う。
 二人はしばらく見つめ合った。
 しばしの沈黙。
「…………。つきあいましょう」
「ありがとーっ♪」
 勝ったのはあたしだった。


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6089暴走ドライブ(2)庵 瑠嬌 1/17-20:21
記事番号6088へのコメント


 暴走ドライブ(2)


 高速入ったならばこちらのもの。
 ハンドル切ってアクセル全開。
 前の車は即座に、追いかけ追いつけ追い抜かし。
 カーブはぎりぎりのラインでブレーキをかける。
「り……っリナさんっ!危ないですよっ!」
「黙っててゼロス!歯ぁ食いしばんないと舌噛むわよ!」
「だから危ないですってばっ!!」
 窓の外の景色はどんどん後ろに消えていく。
「……っ!リナさん!トンネルですよっ!せめてここでは減速を―――っ!」
 ゼロスの必死の叫びに、あたしは考えた。
(しょうがないなあ……)
 そう思いつつブレーキを……。
 どびゅぅぅんっ!
「リナさんっ!それアクセルです―――っ!!」
「えっ!?あっ!思わず……まっ、間違えたぁぁぁっ!」
「早く、ブレーキを――っ!」
 キキーッ!
 急ブレーキ。
 全身に衝撃が加わって車は一時停止。後にまた動き始める。
「速度は抑えて速度は抑えて」
 繰り返すゼロスの顔は、このちょっとしたスリルにひきつっている。
 それでも笑顔なのはさすがだが――……。
「誰も、ひいてはいないわよ」
「いつかひきますそんな走り方してたらっ!!」
 どうやら、車上ではあたしもゼロスをペースに巻き込むことは、可能らしい。
「分かったわよ、トンネルでは大人しくするわ」
「トンネルでは!?」
「ほんと、トンネルの中って暗いわねー」
 あたしはしれっと、トンネル内を眺める。
「右もまっくら左もまっくら、おまけに後ろもまっくらで、お先もまっく……」
 ――しまった。
「お先まっくらじゃないですか……?このままだったら……」
 虚ろ――な声。
「や、やぁね、考えてみたら、灯りはついてるし、ヘッドライトがあるから、案外明るいものよ♪」
「リナさんの未来は――?」
「他人のことは他人に任せておきなさいって」
「もしもリナさんがうっかり誰かひき殺しでもしたならば。リナさんは裁判やら賠償金やらで、ついにはまともな職にも就けず、――――」
 なぜか唐突な沈黙。
「…………なによ」
「リナさん」
「だからなに?」
「もしそんなことになったなら……、僕がリナさんをお嫁にもらって、すべて解決してあげますね♪」
「できるかぁぁぁっ!!ひき殺すなんてことはしないわよ絶対にっ!!」
 そんな危ない橋、渡れるか―――っ!!
「とっ……とにかく、スピードは出しすぎないようにするわ」
 ―――なぁんて、言いつつも……。


「リナさぁぁぁんっ!!減速です減速―――っ!」
「なに言ってんのよっ!この程度、アクセル踏んだうちにも入らないわ!」
「制限速度越えてます――っ!」
「バレなきゃいーのよっ!!」
「そーいう問題じゃありません――っ!」
 かなり飛ばしてたりする。
「――もうっ!うるさいわね!急がないと、間に合わないのよっ!!」
 怒鳴りつけるあたしに、ゼロスはふと静かになった。
(あーうるさかった――)
 思うあたしに、冷静な声。
「リナさん」
「あによ。ちゃんと歯を食いしばんないと危ないわよっ――!」
 急カーブ!
 曲がったところで、またゼロスが。
「リナさん――」
「うっるさいわねっ!」
「間に合わないって――なにがですか?」
 ――ぎく。
 あたしは身体を強ばらせた。
「もうちょっと……スピード出すわよ!」
「駄目です。――そうではなくて……なにが間に合わないのです?」
「……………」
 沈黙。
「最初から、あなたはどこかに向かっていた。……目的地があるんですね、リナさん?」
「……行きたいとこが、あんのよ」 
 あたしはつぶやいた。
「急がないと……間に合わないの。行けば分かるわ。……あんたにも……見せてあげるから」
 まっすぐ前を見て、アクセルを踏む。
 ――ゼロスは、もうなにも言わなかった。


 無茶苦茶なスピードで、それでもなんとか事故を起こさずにそこに来たときには、もう日の沈む頃だった。
「間に合った――かな」
 あたしは軽く微笑んで、ゼロスの手を取った。
「――来て。あんたにはかなり迷惑かけちゃったけど……でも、どうしてもみたかったから。――あんたにも見せてあげる……」
「あなたは……なにを見に来たのです?」
「来て」
 あたしが車を止めたのは、切り立った鋭い崖の側だった。
 車からでて、崖の縁に足をすすめて――吹き抜ける風が、あたしたちの肌をなぜていく。
 後ろで、ゼロスが息を呑む音が聞こえた。
「リナ……さん」 
 振り返らずに、前を向いたまま、あたしはその情景を見つめながら言う。
「綺麗――でしょう?」
「これが、あなたの見たかったもの――ですか」
 それは夕焼け……崖に叩きつける大きな波飛沫、そして、遠くに広がる果てのない海――。
 すべてが入り日前の、金色に染まる。 
 耳に入る波の轟音とあいまって、それはとても荘厳で、心を打たれる眺めで。
「見たかったの……本当に、見たかったの」
 あたしはつぶやいた。   
「綺麗……でしょう――?」
 なんとも雄大な風景……天空で地上を照らしつづけた太陽が海に沈む――すべてを陽に染めて。金色に染めて――……。
 金の帯が走る。
 太陽はだんだんと空と海の境界線に沈んでいった――


「さて、帰ろっか」
 しばらくたって、我に返ったあたしは、足早に車に向かった。
 その背中にかかる声。
「リナさん」
「なに?」 
 振り返ったあたしに、ゼロスは一瞬沈黙し――言った。
「リナさんはあの風景を……。『僕と』眺めたかったんですよね」
「……っ……!」
 顔が熱くなる。
 口早にあたしはゼロスに答えた。
「あたしはっ、ただ、免許取ったらあれを見たいなって思ってただけで、それだけでっ……!」
「『僕と二人で』見るために、いままでまったくここに来なかったんでしょう?」
「なっ……!ば……っ!ちがっ……!」
「違いませんよね?」
 にっこり。
 あたしはそっぽを向いた。
「好きなように考えてたらっ!?」
 くすくすと笑い声があたしに応える。
「本当に……リナさんは可愛いですよ」
「……っ!もう…しんないっ!」
 あたしは乱暴に車のドアを開け、……。
「ゼロス……?」
 後ろからあたしの顔をのぞき込んできたゼロスに、あたしは変な気分になって、彼を見つめた。
「リナさん……」
 あたしの名をつぶやくゼロスの夜色の瞳に、身体が動けなくなった次の瞬間。
 何事もなかったように、彼はにっこり微笑んだ。
「リナさん、疲れているでしょう?帰りは僕が運転しますよ」
「あ……そうしてくれる?じゃあ……頼むわ」
 うん、確かにちょっと眠いし……。
 ゼロスが変に見えたのも、そのせいだわ。
 どこかほっとした気分で、あたしは助手席に回った。
 エンジンをゼロスがかけると、車はゆっくりと動き始める。
 揺れる車体の微妙な震動と、時々話しかけるゼロスの落ちついた声。
 あたしは知らぬ間に、眠りに落ちていった……。


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6090暴走ドライブ(3)庵 瑠嬌 1/17-20:23
記事番号6088へのコメント



 暴走ドライブ(終)


 ……耳元で、誰かがささやいてる。
 低音の……耳に心地いい声……。
 ――リナさん……リナさん。
 微睡みの中、あたしはまた深い眠りにつこうと――
 ――リナさん……リナさん……?
 なぜか声に笑みが滲む。
 ――リナさん。
 次の言葉は、異様にはっきりくっきり耳に届いた。
「――襲いますよ」
 ―――――っ!?
 寝ぼけた思考回路がショートする。
 即座に反応できないあたしの耳元で、変わらぬ声が。
「かまわないんですね。では……」
 喉元に触れる指の感触。
 すっとそれは鎖骨をなぞり――

 意識が覚醒した。

「だぁぁぁぁっ!!やめんか―――っ!」
 あたしはわめきつつ起きあがった。
 拍子抜けしたような至近距離の顔を、動揺しつつきっとにらみ、
「あ……んた、いま、いま、なにしようとした……!?」
 厚顔無恥にも奴は、なぜか外れているボタンを必死で留めるあたしに、にっこり微笑んで答えた。
「知りたければ、実地で早速今夜にでも、お教えいたしますが……」
 ――ああもったいない、せっかくボタンを外しましたのに……
「っ!っ!っ!っ!――――っ!」
 なにをのうのうと抜かすか、この男は――――!
 怒りのあまり呆然とするあたしに、さらりと。
「ところでリナさん。僕ってリナさんの家、知らないんですよね。しょうがないので、僕のマンションの駐車場に入れたんですが――。もう夜も更けてきましたし、……僕の部屋で泊まります?」
 車の外から半身を中に入れ、あたしの肩を挟み込むような形で背もたれに手をおいたゼロスは、唇が触れあいそうなほどの距離から、深い夜色の瞳であたしを覗きこんだ。
 心臓が跳ね上がる。身体中の体温が上がったのがはっきりと分かった。
「……どっ……!」
 声が漏れる。
 こ………この男、この男は―――ッ!
「どこまで無体をほざくつもりか――――っ!!」
「おやおや――駄目ですか?」
「当たり前でしょ―――!?」
「それは残念……っと、では、またリナさんの家まで送りましょうか?」
「断るわ!あんたと一緒にいると、自分の正気に自信がなくなってくるっ!」
 思いっきり断ってあたしは立ち上がった。
 いや、立ち上がろうとした。
「?どうしました?」
 ドアに寄りかかるように立つゼロスが、不思議そうにあたしを見下ろす。
「な……なんでもないわ」
 首を振ってもう一回チャレンジ。
「―――――……」
 全身の血がひくのが、はっきりと分かった。
(たてない――っ!)
 すっかり足が萎えている。
 というより、全身に力が入らない。
 おそるおそるゼロスを見上げると、非常に楽しそうに、彼は笑んでいた。
 バレ……た?
 息を呑むあたしにゼロスはにこにこと。
「大変ですねー、立てないんですか」
「あんたのせいよっ!」
 あたしはゼロスをにらみつけた。
「僕のせい?」
「あんたがわけのわかんないこと言うから!こちらの力も抜けてくるってもんだわ!」 
「そう……ですか。で、運転できるんですか?」
「…………」
 言いたくない。だが否定してもしょうがない。
「まず、無理……ね」
「半日以上、ずっと運転してましたからね……緊張が解けて、疲れがでてしまったんでしょうね」
 やたら上機嫌で、ゼロスはあたしに言った。
「で、どうしますか?このままじゃあ、帰れませんよね」
 うぅぅぅ……。
 イヤだけど……すっごくイヤなんだけど――それ以外方法ないもんなぁ……。
「送って……くれない?」
「僕が、ですか?送り狼になってもかまわないならば、喜んで」
「かまうわよっ!……だけど、いまのあたしの状態って、あんたも半分責任あるでしょ!?」
「あるんでしょうかねぇ……。だいたい、ただ送るだけじゃ、つまりませんよ」
 ――楽しくしてくれる気、ありません?
「―――――……っ」
 この男はっ……!
 この日何度目になるか分からないセリフを心中でつぶやいて、あたしはゼロスをきっとにらんだ。
「お願い、送ってって頂戴」
「言ってることと表情がまるで逆ですよ、リナさん」
「これ以上遅くなると、うちの家族も心配するわ」
「人の言うことまったく聞いてませんね……」
「あんたと違って、あたしは節度正しく、まっとうに生きているの」
「僕がまっとうではないとおっしゃるつもりですか?」
「だから家に送ってってちょうだい」
「ほんとに人の言うこと聞いてませんね……」
 視線がぶつかる。
 はっきり言ってかなり必死になっているあたしは、ゼロスの言葉なんぞ聞いていられない。
 あたしがいま受け入れるのは、『是』の返事のみ。
 さあ――答えなさいっ!
 はぁ……。
 挑戦的ににらみつけるあたしにゼロスはため息をついた。
「わかりましたよ。リナさんをあなたの家まで送りましょう」
 よし。
 苦笑混じりの彼の答えにあたしは満足し、助手席に座り直した。
 ――手足に力が入んないんで、ほとんど少し身動きした程度だったけど。


 しばらくたって。
「つきましたよ、リナさん。――車庫はどこです?」
「ああ。えっと……そこ。さすがにガレージも閉じてるわね……」 
 手足、回復してるかな?
 そっとあたしは立ち上がった。
 思わずほっと笑顔になる。
 よかったぁ……もしも、立てなかったら、どうやって家に入ろうかと思ったわ。
 外にでて、ガレージのカギを開ける。
「よい……しょっと」
 うーっ、まだ力入りにくいっ!
 がらがら……と、ガレージを開ける。
「お願ーいっ!」
 ゆっくりと車は車庫の中に入っていった。
「よし、肩の荷が下りたわ」
 つぶやいたあたしに、後ろから声がかかる。
「あなたはいいかも知れませんが、僕はこれから歩いて帰るんですよ?」
「いいじゃない、近いんだから。少々の運動を惜しんじゃいけないわよ」
「本当に……いい性格してますね」
 ゼロスは苦笑した。
「人のこと言えないでしょ。じゃね」
 手をふってきびすを返そうとしたあたしの腕を、ゼロスは妙に自然な動きでつかんだ。
「……?」
「それじゃあ……これはその代償、ということで」
 振り返るあたしに意味不明なセリフ、と……。
「―――――!?」
 ゆったりとした仕草であたしの手を離すと、ゼロスはにっこり微笑んだ。
「それではさようなら」
「……………………!!!」
 ――いっそさわやかとも言える笑顔で去っていく彼の背中を、あたしはゼロスにキスされた唇を怒りにわななかせながら、半ば呆然と見送った――……。

¢¢¢¢¢¢¢¢

 以上でございます。
 一つ申し上げますが、わたくしはまだ十八歳に達しておりません故、当然自動車の免許も持っておりません。 
 わたくしの車関連の知識は、アクセルとブレーキの二語のみ――よって、リナさんの運転の様相は完全に想像に基づいたものですの。
 そのことを言い訳よろしく断ったところで。それでは失礼をば――……
                                                      ――庵 瑠嬌でした――




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6095にやにや。理奈 E-mail 1/18-12:12
記事番号6090へのコメント

うふふふふ、と笑ってる理奈でぇ〜す!!ちっくしょーー(げひん)リナちゃんうらやましぃぞぉ〜!!!ゼロス様とドライブなんてぇ〜〜!!!でもリナちゃんと私って似てるかも。私も結構スピードだしたり、カーブでは、ギリギリで曲がるし。高速なんかでは、とばす、とばす。ふ、でもとなりは、いつも女友達か家族の誰か・・・。男を乗せるのもいいけど、やっぱ乗せてもらうのがいいよねぇん。いいものを読ませてまらいましたぁ、よかったですよぉーん。ちょっと狼になったゼロス様がかっこよくってもーーメロメロでしたぁーー。
であでぁーー。

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6132楽しんでいただけました?庵 瑠嬌 1/24-20:08
記事番号6095へのコメント



> うふふふふ、と笑ってる理奈でぇ〜す!!ちっくしょーー(げひん)リナちゃんうらやましぃぞぉ〜!!!ゼロス様とドライブなんてぇ〜〜!!!

 ゼロスさんの方は、かなりキツかったでしょうけど……。

> でもリナちゃんと私って似てるかも。私も結構スピードだしたり、カーブでは、ギリギリで曲がるし。高速なんかでは、とばす、とばす。

 まぁ、免許もってらっしゃるんですか。
 けれど……危ないのでは……。気を付けて下さいまし。

> ふ、でもとなりは、いつも女友達か家族の誰か・・・。男を乗せるのもいいけど、やっぱ乗せてもらうのがいいよねぇん。

 けれど、わたくしって車に乗っていると、大抵、酔うんですのよね。
 自分で運転すれば、酔うことはない……と、聞いたことが。

> いいものを読ませてまらいましたぁ、よかったですよぉーん。ちょっと狼になったゼロス様がかっこよくってもーーメロメロでしたぁーー。

 ゼロスさんの狼……実は数回、暴走したんですのよね……これでは、ちょっとの段階ですけれど……。

> であでぁーー。

 ありがとうございました……。

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6147Re:暴走ドライブ(3)水城守 1/26-01:17
記事番号6090へのコメント

庵 瑠嬌さんへ

こんばんはー、おもしろかったです。
リナに運転させたら、ホントこんな感じでしょうか?
いやー、水城は教習所でかなり苦労した経験があって・・・
只今、ペーパードライバー街道まっしぐら(笑)
ああ、ゼロスが運転してくれたら、もう言うことないです。


> 車の外から半身を中に入れ、あたしの肩を挟み込むような形で背もたれに手をおいたゼロスは、唇が触れあいそうなほどの距離から、深い夜色の瞳であたしを覗きこんだ。

ここっ、ここ〜!!もう素敵すぎますね。かなりつぼを刺激されました。
かっこいい、ゼロス、かっこいいぞー。
想像して、にやつきました・・・・・めちゃくちゃ(笑)


もう、変なうえに短い感想ですが、すごく楽しかったです。
次回作も、楽しみにしてます。

                                     水城守


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6186きゃぁっ、水城さまっ!庵 瑠嬌 1/31-19:08
記事番号6147へのコメント



>庵 瑠嬌さんへ
>
>こんばんはー、おもしろかったです。

 こんばんは、ありがとうございます。
 わぁ…、大ファンの水城さんにレス頂けるとは……感動。

>リナに運転させたら、ホントこんな感じでしょうか?

 そうだとわたくしは信じております。

>いやー、水城は教習所でかなり苦労した経験があって・・・
>只今、ペーパードライバー街道まっしぐら(笑)

 免許を持っておられるんですかぁ……ペーパードライバーっていっても、免許持っていなければ、なれませんものね。
 ……ああ、まわりは年上の方ばかり……。


>ああ、ゼロスが運転してくれたら、もう言うことないです。

 どんな運転なさるんでしょうかねぇ……。
 でも、リナさんを乗せた帰り道の運転は、間違いなく安全運転だったに違いないと、わたくしは勝手に決めております。

>
>
>> 車の外から半身を中に入れ、あたしの肩を挟み込むような形で背もたれに手をおいたゼロスは、唇が触れあいそうなほどの距離から、深い夜色の瞳であたしを覗きこんだ。
>
>ここっ、ここ〜!!もう素敵すぎますね。かなりつぼを刺激されました。
>かっこいい、ゼロス、かっこいいぞー。
>想像して、にやつきました・・・・・めちゃくちゃ(笑)

 上手く表現できたかなー、と不安だったんですけれど。
 よかったですわぁ……。にやついていただけましたか(笑)。
 このあたりから、暴走しまくっていたリナさんに変わって、今度はゼロスさんが暴走を始めてますの。


>
>
>もう、変なうえに短い感想ですが、すごく楽しかったです。

 いいえっ!書いていただけるだけで。もうもうもうもうH。

>次回作も、楽しみにしてます。

 ……最近、書けないんですのよね……。
 こういうのをスランプと言うのでしょうか……。
 う……、でも、水城さんは頑張ってくださいっ!

>
>                                     水城守
>
>

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6223柔らかき悪夢庵 瑠嬌 2/7-19:23
記事番号6087へのコメント


 これはゼロリナです。
 少なくともゼロリナのつもりですわ。
 ただ……見方によってはガウリナにも、ゼルリナにも……。
 興味を覚えた方は、どうぞお読み下さいませ。
 ――しかし――どうも、タイトルが自分でも意味不明ですわね……。

¢¢¢¢¢¢¢¢

〈柔らかき悪夢〉


「大好きよっ」
 無邪気この上ない様子で、リナは彼に微笑みかけた。
「一番好き、誰よりなにより、あなたが大好き!」
 想いを告げてくれるその瞳……。
 彼はその瞳を見つめて、幸福に酔う。
 抱きしめる腕をしなやかにすり抜けて、なおも少女は笑った。
「大好きよ。ずっと、ずっと……!」
 甘い言葉を口にしながら、彼の腕を逃れるリナ。
 その笑顔は、なによりも愛らしく……汚れがない。
身を踊らせて、なおも少女は言葉を紡ぐ。
「大好きよ、一番。あなたが、あたしは大好き……」
 突如として、あたりが暗くなった。
 柔らかい光を放っていたリナの顔に、陰影が生まれる。
「……好きよ。本当に好き。大好き、あたしはあなたがとても好き……」
 翳る笑顔。
 無邪気な顔に、影が走った。
 ――それは、密やかな足音を立てて、少女の顔をふちどる。
「本当に……好き」
 ささやかれた言葉は、耳元のすぐそばだった。
 いままでからかうように逃げていた身体が、彼の身体に預けられる。
 首に腕をからませ、少女は耳元で、言葉を落とした。
「大好き……」
 続けて唇の形だけが告げる彼の名。
 ヴュンッ……!
 ふと、異質な音が響いた。
 ――大好きよ……あなたが――
言葉は聞き取ることすらかなわず、溶けて虚空に散る。
「…………!?」
腕の中で、少女の身体が黒く変色した。
 溶けていく……柔らかな肢体。
 どろどろに溶け、それはまるでタールのように、彼の身体にまとわりつき、そして落ちる。
「……リ……!」
 少女の名を紡ごうとした彼の唇を、少女のそれの名残がなぞっていった。
――大好きだったわ……本当に――
 切ないほどに、儚い、微かな声。
 透明な、うすいその声は、記憶にすら一瞬かすめる程度で、過ぎ去ってしまう。
ぼたぼたと地面に落ちていったリナの身体は、一吹きした風に流されるかのように風化し、ぼろぼろに朽ち果てた。
「――――――……っっ!!」
 彼が声にならない絶叫をあげたとき――悪夢は終わりを告げた。


「……あんた――なにやってんの?」
 気がついたら、目の前に顔があった。
「もしかして寝ぼけてるわけ?いー加減にしてよね……もうそろそろ出発するんだから。支度、出来てんの?」
 呆れ顔でリナはくるりと後ろを向いた。
 宿屋の一室。少女は彼が泊まっていた部屋のノブに手を掛ける。
「全然でてこないから、心配したじゃないの……。十分後にはでてらっしゃいよね」 
つややかな髪をなびかせて去っていく彼女に、彼は思わず呆然とした。
(なにも、起こっていない……?)
 どうやら自分は夢をみていただけらしい。
 彼の顔に、苦笑が浮かんだ。
 いささかタチの悪い夢だったが……。冒頭の彼女の告白は、自分の望みが具現化したものなのだろうか?
立ち上がって、彼は妙にさっぱりしたようすで顔を上げた。
夢は……夢。
 現実は、現実。
 悪夢の名残を振り払い、彼は前を見据える。
 正直恐ろしかった……あの夢。
 それに対する想いは一つ。
(悪夢を現実にしないこと)
 軽く微笑みを浮かべ、彼は意中の少女に想いを馳せた――……

¢¢¢¢¢¢¢¢

 ……なにゆえ、リナさんしかお名前が書かれてないのでしょうか。
 それは、妹に『魔族って夢見るんですか?』という、至極もっともで、且つ、触れたくなかったことを、指摘されてしまったためですの。
 わたくしったら、ガウリイさんでもゼルガディスさんでも、当てはめられるようなものにしてしまえばいいのだわ、というなんか根本的に間違っているよーな結論を出してしまいまして……。
 あくまでゼロリナを捨てきれないんですのよね……。
 それはともかく、そういうわけですから、ゼロリナだろうが、ガウリナだろうが、ゼルリナだろうが、お好きなようにお取り下さいませ。
 それでは失礼をば――……
                                                       庵 瑠嬌でした――……


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6233Re:柔らかき悪夢理奈 E-mail 2/8-03:49
記事番号6223へのコメント

最初読み始めた時思ったのが、「うわぁ〜、リナちゃんがこんなこと
いってるぅ〜」リナちゃんってあんまし「好き」って言うセリフ言わないから
なんか新鮮でかわいぃリナちゃんが見れたようでした。でもとちゅうでリナちゃん
がいなくなるのを読んで悲しい気持ちになったけどただの夢でよかったぁ。
で、この悪夢を現実にしないと思ったゼロス(私のばあいは、もちろんゼロリナ
で読みました)は、かっこいいなぁ〜と思いました。ゼロス君、リナちゃんを
守ってあげてねぇ、なんて思ったりも。よかったですよぉ〜〜。

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6224乙女の聖戦(1)庵 瑠嬌 2/7-19:31
記事番号6087へのコメント


 さぁて、庵 瑠嬌でございます。
 スランプ状態は多少回復し、一応話を書くことはできるようになったようですが、内容は地を這っているようですわ。
 目指せ、二月十四日完結!
 あなたの心に優しさというものがあるのなら、どうか、情けと思ってお読み下さいませ。

∞∞∞∞∞∞∞

 乙女の聖戦(1) 


 少し焦げた、黄色の卵焼き。
 一つお箸でつまみ、口に入れる。
「んー、おいし(はぁと)」
 今日はいい天気で、絶好のお弁当日和。
 昼食の時間に、この学校の中庭でお弁当を食べるのは、リナの毎日の楽しみである。
 食べ始めて十五分足らず。
 膨大な量のお弁当を約半分ほど平らげた彼女は、いつも友人が元気に駆けてくる方向を見やった。
「――にしても、遅いわね……アメリア」
 朝に『ちょっと遅れて来ますから、先に食べててくださいっ!』といわれ、言葉通り遠慮なく一人で食事をしていたのだが、あまりにも遅い。
「何かあったのかな……?」
 その時である。
「リーナーさぁぁぁんっ!!」
 弾む声。誰なのかは見なくても分かる。
「遅かったわねアメリア。どこ行ってたのよ。……購買部?」
 アメリアのにぎる袋を見て、彼女は上機嫌らしい友人を見上げた。
 リナは座っているのに対し、アメリアが立っているので、目の高さが違うのである。
「はいっ、なんといっても、ここのチョコレートは美味しいって大評判!あしたあさってになれば、混み合うに決まってます!」
「…………は?」
「今度の日曜まで、あと三日ないですからね、準備を怠るわけには……」
「ちょっとアメリア」
燃える彼女に、リナは思わず呆気にとられた表情になった。
「一体なんの話?」
次に呆気にとられるのはアメリアの番である。
「リ……リナさん………、なに言ってるんですか……?」
「なにって……、あんたの言ってることが、よくわかんないんだけど……」
アメリアがエキサイトする理由って言ったら……正義に関することよね……。
 別に今度の日曜が、正義の勇者日だ、なんてことは聞いてなかったと思うし……それ以前にないと思うし……。
頭を巡らすリナに、アメリアは、それこそ信じられない、と言いたげににぎり拳を作った。
「今度の日曜日まで、あと三日ないんですよ!?」
「――だからそれが何なの」
「あああああっ!どーして忘れてられるんですかっ!今度の日曜の日付は……っ!」
ここまで言ってもわからんか、と彼女はバックに波飛沫をしょい、力を込めて叫んだ。
「二月十四日、なんですよ―――っ!」
「二月十四日……?」
 首をかしげたリナは、次の瞬間、やっと得心が入ったようにうなずいた。
「なるほど、バレンタインデーね」
「そうですよっ!なんで忘れてるんですっ!?」
 アメリアの訴えに、リナは苦笑した。
「いやぁ……いつも、あんましかんけーないもんだから……」
「去年まではなかったかもしれませんけど!今年は違うでしょうっ!?なんて言ったってリナさんはいまっ!」
アメリアは腰に手を当て、会話しつつも休まず食べ続けるリナを見下ろした。
「ゼロスさんという、お付き合いしている男の人がいるんですから―――っ!」
「ま、そうだけどね……」
 アメリアの熱血ぶりに、かえって醒めた様子で、リナはつぶやいた。


「とにかく、リナさん本気で、バレンタインデーになにも贈らないつもりじゃないでしょうね?」
 なんとか落ちついて昼食を食べ始めたアメリアは、それでも気になるらしく、猛然とお弁当を食べ続けるリナに尋ねた。
「え?えっと、うーん……」
 微妙に視線をずらすリナ。
「リナさん?」
「だって、よ?」
 食べる手を止めて、リナはため息混じりに言葉を漏らした。
「付き合っているって言っても……あれって、なし崩しに気がついたら、あーなってたよーなもんだし……」
「うっ……」
 思わずアメリアはうめいた。
 同じ高校の先輩であるゼロスが、いかにリナに対し、積極的すぎるほど積極的なアプローチをしたか、アメリアはしっかり目撃している。
あたりの柔らかい物腰で、ひたすら彼は強引だった。
「……つきあい申し込まれたときも、断るタイミングってものがなかったし……」
 にっこり笑顔で『リナさん、僕と付き合いましょう』。疑問符すらついていないその言葉に、自分がなんと答えたか、リナは実はほとんど覚えていなかった。
(対処の仕方がわかんなくなるなんてこと、あんましないんだけどなぁー……)
 どーもゼロス相手はペースが狂う……。
「でっ……でもっ!」
 アメリアは気を取り直すかのように、にぎり拳をつくった。
「もしも嫌だったら、リナさんとうの昔に断っているでしょう!?なんだかんだ言っても、これだけ長い間付き合ってるんですから、それなりに愛情もあるはずですっ!」
「一緒にいて楽しいのは事実だもん。愛情があるのかどうかは、自分でもわかんないけどね」
答えて彼女は、微かな笑みを浮かべた。
「ま、贈るわよ、一応。礼儀みたいなもんでもあるしね」
「礼儀、ですかぁ……?」
「そっ。だからこの話はひとまずおいといて、ご飯食べましょ。どーせ、アメリアは」
 ちらり、とリナは視線をアメリアが握る袋に流した。
「ゼルガディスに贈るんでしょー?」
その顔に浮かぶ笑顔が、どこか人の悪いものに感じられたのは……アメリアの気のせいだろうか。
「ゼルガディス、甘いもん苦手だったよーな気もするけど、まぁ、アメリアが贈ったのだったら、文句言わずに受け取るだろーしねー」
 にこにこ楽しそうな彼女に、アメリアは、面白いほどに赤くなり、早口にまくしたてた。
「そっ……それはっ!やっぱり、勉強とか見てもらってますし、けっこう面倒見てもらってますしっ!ですから、それは贈るべきだとっ……!」
「……そのチョコレート、溶かしてまた作り直すの?」
「はい」
 暗に手作りにするつもりかという意味を込めた問いに、素直にうなずいたアメリアは、さらに顔を赤くした。
「でで、ですからっ……!」
「手作りって言っても、まぁ、そんなもんなんだけどねぇー。でも、そーやってつくったチョコって、たいてい本命にわたすものなんだってね?」
「え、え、えとっ、それはですねっ……!」
 慌ててまた口を開くアメリア。
 ……どうやら、リナの話をズラそうという企みは、成功したようである……。



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6225乙女の聖戦(2)庵 瑠嬌 2/7-19:42
記事番号6224へのコメント


※すいません、前回書き忘れました、これはゼロリナでございます!


 乙女の聖戦(2)


「チョコくださーいっ!」
「あっ!あたしが先に並んでたのよッ!違います、さきにあたしチョコレート二つーっ!」
「えーっっ、いまの絶対よこはいりだわッ!わたしです、三つ、Lサイズチョコっ!」
「きゃーっ!誰かあたしのこと押したーっ!?きィーっ!許せないッ!」
「だっ……誰よッ!どさくさにまぎれて、今あたしの手ェひっかいたのっ!」
 バレンタインデーは、全国共通の乙女の聖典である。
意中の男性の心を射止めるため、少女たちは少しでも美味なチョコレートを求め、噂のあるところへ殺到する。
「――って、言ったってねぇ……っ!」
 怒りを抑えた声で、リナはぶるぶると拳を震わせた。
「いくらなんでも、これは混みすぎよっ!」
「ここの購買部で売っているチョコって、有名な銘柄なんだそうですよ」
異様な混雑を目前にしていらつくリナに、前日の混まないうちにすでに購入したアメリアは、しれっとした口調で、さりげなく観点のずれた答えを返す。
「二日前ともなれば、こういう展開は当然ですね」
「ずいぶんな余裕ね……この中に、ゼルに贈ろうと思ってるコも、けっこういると思うけど?」
「そりゃそうですけど――」
アメリアはまた無意味に拳を力強く握りしめ、
「このアメリア・ウィル・テスラ・セイルーン、誰がライバルになろうとも、絶対に負けはしません!わたしの真実と愛と正義に燃える心は無敵です!」
「この件の場合、一番重要な『愛』が、なにげなく台詞の中でないがしろにされてるわねー」
「それよりリナさんっ、早く人混みに突入しない限り、ずーっとこの混雑を見物することになりますよっ!それじゃあまりに無意味です。さぁ、リナさん、れっつ・ごーですっ!」
「分かってるわよ」
 答えてリナは軽くつま先を、トントンと地面に打ちつけた。
 二、三回、屈伸、伸脚、アキレス腱運動を繰り返したあと、横隔膜と胸腔を意識しつつ深呼吸。
 すぅーはぁー、すぅーはぁー。
「よし」
 こうして、準備を整えたリナは、力強いかけ声で自分を励ますと、少女たちの祈りと欲望のたぎる、購買部に入ったのである。
後に残ったアメリアは十字を切り、胸で手を組んで目を潤ませた。
「リナさん……女の子を傷つけちゃいけませんからね……」


勝利とは大抵、強者が享受するものである。
 その点で言えば、リナは文句無しに、戦い真っ直中の少女たちの中で、トップを張れたかもしれない。
 しかし、不幸なことに、強者と数が争った場合。
 よほど強者が周囲から突出した強さを持っているか、さもなくば、数が足りない場合でないかぎり、数は勝利する。
購買部周辺の少女たちとの戦闘は、苦難を極めた。
 まず、数は圧倒的。しかもバレンタインデーがからむとあれば、乙女は常軌を逸した強さを見せる。
 ――となれば。
 もう一つの手段、リナが周囲から突出した強さを持つしかないのである。
「ちょっとごめん、さき失礼するわよ!……あんた悪いけど邪魔だわ、少しどいて」
 やや小さめの身体をフルに動かし、普通の人なら『ちょっと無理だろう』といったあくろばてぃっくな動き方で人混みをすり抜けるリナ。
ややあって。
「チョコ二つ下さい!」
彼女は、少し息を乱しつつも、余力を残したまま、ゴールに到達したのである……。

¢¢¢¢¢¢¢¢

 断り書き。
 1,わたくしは購買部というものが、どのような形式で成り立っているのか存じません。
 2,今回の話の場合、先の見通しは立っておりません。
   したがって、この話はこのまま、中途半端に止まってしまう可能性もございます。
                                               ―――以上。
 なら最初から書くな!と言われそうですが、それはわたくしの貪欲な自己顕示欲のせいだということで、お赦し願います。
 それでは失礼をば――……
                                                         庵 瑠嬌でした――……

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6232きゃぁ〜理奈 E-mail 2/8-03:43
記事番号6225へのコメント

新作、新作〜〜!!おひさしぶりの理奈です!!きゃぁ〜〜、もう
読んでて顔がニヤニヤ!!アメリアちゃんがかぁわぃいい!!リナちゃん、
無事ゼロス君にチョコわたせるか心配。続きがすっごい楽しみです!!
今回は、すっごい短い感想ですみません。であぁ!

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6280楽しませていただきました(^^)T−HOPE E-mail URL2/12-11:31
記事番号6225へのコメント

こんにちは、T-HOPEです。
たいっへん楽しませていただいたのに、全然レスつけてない〜〜〜ってことで、やってまいりました(^^)

「暴走ドライブ」
いつものこととはいえ、たぁぁぁっぷり、にやけさせていただきました。
ゼロス君・・・いえ、あれがゼロス君ですよね。
・・・それを思うと、帰る前の素敵な(をい(^^;)雰囲気のところで手を出さなかったのが、不思議なくらいで(・・・(--;)
ところで、私も実は免許所持者なんですが(ペーパーだけど(笑)、リナちゃんの運転には笑わせていただきました。
いえ、ゼロス君の気分が、よぉぉぉくわかったもので。
やらされるんですよー。スピード出したらどうなるか・・・とかいって、教官の隣りに座らされ、狭い教習所を・・・(死)
普通の道路ならいざ知らず、せマックるしいくるくる回るところで飛ばされると、青ざめます(笑)
で・・・つい、リナちゃんの運転で、それを思い出しちゃいました(^^)
リナちゃん、あの運転からすると、オートマだろうなぁ。
マニュアルであれ・・・は・・・(^^;)

「柔らかき悪夢」
あの後・・・を想像すると、楽しかったです。
ガウりんとかなら、とーぜん、リナちゃんを前より頑張って守ってくれるでしょうけど。
ゼロス君・・・いっそ自分がとか・・・(すみません、妄想走りました(ーー;)
・・・極悪な思考回路がいけないんです、きっと(^^;)

「乙女の聖戦」
やっぱり、女の子なら・・・ってことなんでしょうか。
・・・範疇に入らない私には、何とも言えませんが(笑)
ゼロス君とリナちゃん、ラブ〜になるんでしょうかね?
続き、とっても楽しみです(^^)

それでは、何か勝手なこと書き連ねただけで終わってしまいましたが・・・これで、失礼致します。
続き、頑張って下さいね(^^)