◆-流れる雲を追って  1-wwr(10/21-23:25)No.5442
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 ┗流れる雲を追って  3-wwr(10/21-23:46)No.5444
  ┣Re:流れる雲を追って  -なな(10/22-02:46)No.5446
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  ┗感想!流れる雲を追って  -アキ(10/22-03:01)No.5447
   ┗アキさん、ありがとうございます-wwr(10/22-11:44)No.5451


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5442流れる雲を追って 1wwr 10/21-23:25

こんにちは、こちらでは始めましてですね。wwrといいます。
え〜と、ガウリイの昔のお話です。
ご用とお急ぎでない方は、どぞ読んでみてやってください。




「流れる雲を追って」

―剣だ―
―光の剣だ―
―あいつが持ってるよ―
―あいつなんかが持ってるよ―

さわさわさわさわ。
鬱蒼と茂る木々の間から、瘴気とともに気配がわきだす。

―なんにも知らないくせにね―
―なんにも持っていないくせにね―

さわさわさわさわ。
踏みしだいた草の間から立ちのぼる、悪意に満ちた気配。

―つぶれるよ―
―自分で―

「あの瘴気の森を抜けていくんなら、気をつけるんだな」
昨夜泊まった宿屋のおやじの言葉を思いだす。
「妙な気配につかまって、おかしくなっちまう奴もいるって話だ」

―つぶされるよ―
―自分に―

にじみだした汗で、髪が首筋にへばりつく。
うっとうしい。

―斬ったんだよ、あの剣で―
―殺したんだよ、あの剣で―

さわさわさわさわ。
さわさわさわさわ。

姿の見えないざわめきが、体にしみついた記憶をよびさます。
剣で切りさいた肉の手応え。
むせかえるような血の匂い。
断末魔のあえぎ声。
そして、支払われた金貨のにぶい輝き。

さわさわさわさわ。
さわさわさわさわ。

ゆらり。
目の前で、瘴気がゆっくりと形をとって、オレの前に立ちふさがった。
「ガ…ウ…リイ…」
腹から流れる血も、折れた剣も、オレが斬ったそのままの姿で立つ、昔の仲間の形をしたもの。
―よぉ、久しぶりだな…ギフォード―
後悔だとか、恐怖だとか、そんなものは浮かんでこなかった。
オレは、オレの前にたちふさがったそれに、ただ剣を振りあげ、振りおろした。
あの時と同じように。


瘴気の森を抜けたオレの目の前に、ふいに白い街並みがひろがった。神聖樹フラグーンに守られるようにしてにぎわう街、サイラーグ。
昨夜宿屋で手に入れた「傭兵募集」の貼り紙をもって、オレはサイラーグの役場へ向かった。
「…で、仕事ってのは?」
「あぁ、この街の近くに、盗賊団が住みついていましてね。その盗賊退治です」
「ふ〜ん、報酬は?」
「金貨10枚。宿と食事はこちらで用意しますよ」
「う〜ん……」
小さい仕事だが、悪くはない。
フトコロもさみしくなってきたところだし、メシと宿がついてるっていうのは、ありがたいよな。
「いいぜ、引き受けよう」
役人にしては愛想のいいそいつは、、ペンと書類を差し出した。
「そうですか、では、ここにサインを」
「ああ」
さらさら書いて、書類を返す。
「ガウリイ=ガブリエフ?…あの英雄と同じ姓ですね」
「いやぁ、はははっ」
とりあえず笑っておこう。
「では、実行は明朝。早くに街道沿いの見張り塔に来てください」
「ああ」
「それから、傭兵用の宿舎は今いっぱいでしてね、あなたには、ここの神官長さんの家に泊ってもらいます。なにかありましたら、連絡をください。私はモーガンといいます」
「わかった」
「ではよろしく」
役場を出たオレは、教えられたように、神官長さんとかの家を探しはじめた。
が……。
「どこだ、ここは…」
ものの見事に迷っちまった。
オレは、方向感覚は悪い方じゃないが、このサイラーグの街は、まるで迷路だ。
とんっ。
んっ!?
背中に何かあたった感じがしてふりむくと、足元に栗色の髪のぼうずがころがっていた。
「なんだ、大丈夫か?」
「うん。ごめんよ、お兄ちゃん」
「なーに、気にすんな。そうだ、ぼうず。お前、神官長さんの家って知ってるか?」
ぼうずは少しむくれて答えた。
「おれの名前はサーニン。ぼうずじゃないよ」
「そうか、おれはガウリイっていうんだ」
ひょいっとそいつを持ち上げて立たせてやる。
「じゃあサーニン、知ってるか?」
「うん、知ってるよ」
「どっちだ?」
「あっち、ついてきなよ。連れてってやるからさ」
そう言うと、サーニンは元気に走りだした。
オレはあわててその後を追いかけた。
店が並ぶにぎやかな通り。道を一本はずれれば、曲がりくねった細い路地が迷路のように走る。そこをサーニンが、小犬のようにかけていく。やがてオレたちは、街外れの瀟洒な家に辿りついた。
「ここだよ」
「そうか。ありがとう」
「お兄ちゃん、神官長さんに何の用なの」
「ん、ここですこしばかり、世話になるんだ」
「ふうん…。じゃあね」
「おうっ、ころぶなよー」
オレはまた、元気よく走っていくサーニンに手をふり、門をくぐった。
コンコン。
「はい」
ノックに応えて扉を開けたのは、長い黒髪のなかなかの美人。
「あの、どなたでしょうか」
首をかしげる彼女に、笑顔で答える。
「オレはガウリイ、こんど役場でやとわれた傭兵だ。こっちに行くように言われたんだが…」
「あぁ、はい。伺っていますわ。どうぞ、ガウリイさん」
彼女はにっこり微笑んで、オレを家の中に招き入れた。
「わたくし、シルフィールと申します」


「あ〜、食った、食った」
シルフィールが出してくれた昼食をたいらげて、オレは中庭に出た。メシもうまいし、悪くない仕事かもしれないな、今度のは。
「さて…と」
木陰にすわって、手入れがてら剣を抜いてみる。一点の曇りもなく、冴えわたる剣。
「なんで、『光の剣』なんて言うんだろうな」
オレの家に代々伝わってきた家宝の光の剣。
確かに切れ味も、バランスも申し分ない…が、どう見ても普通の剣だ。
ただオレは、ガキのころからなんとなく感じていた。この剣がもつ力の脈動のようなものを。
なんで、オレなんだろうな…。
この剣さえなかったら…。
「ガウリイ兄ちゃんっ」
んっ!?
いきなり元気な声に呼ばれて顔をあげると、さっきのぼーずが塀によじのぼって、手を振っていた。
「よお……」
え〜っと、あいつ名前はたしか…。
思い出そうとしているうちに、ぼーずは塀を乗り越えようとして…。
ころんっ。
足をすべらせた。
うわわっ!!
慌てて駆けより、間一髪で抱きとめる。
「まったく、お前はっ!、ひやひやさせやがって!」
「おれはサーニンっ、お前じゃないっ」
お、そうか。サーニンだっけ。
口もとが緩んでくるのを、わざとにらんで言い聞かせる。
「なんだって、あんなとこに登ったんだ?危ないだろうが」
「ん〜〜、あ、あった」
サーニンはオレの腕から飛び下りると、放り出したままの光の剣に駈け寄っていった。
「あ、おいっ」
「かっこいいよなぁ、ねぇ、ちょっとさわらせてよ」
「だめだ」
剣を拾いあげて、鞘に納める。
「なんでぇ、いいじゃん、ちょっとだけ」
「だ・め・だ。子供がさわるもんじゃない」
「ちぇっ、け〜ち」
諦めきれない顔で、サーニンがオレを見上げる。
「ねぇガウリイ兄ちゃん、しってる?昔、この街に光の剣をもった英雄がいたんだよ」
「…ああ、聞いたことがある」
耳にタコができるくらい、聞かされたなぁ、ガキのころ。
「かっこいいよなぁ、おれも大きくなったら、うんと強くなって、魔獣や悪いやつをやっつけるんだ」
「そうか…」
ぽんぽん。
サーニンの頭に手をおく。その手をサーニンが掴んで、ぐいぐいとひっぱった。
「ねぇ、おれに剣をおしえてよ」
「う〜ん、そうだなぁ」
「ねぇってばぁ」
「ガウリイさんを困らせては駄目よ、サーニン」
振り向くと、シルフィールが立っていた。
「ガウリイさんは、明日お仕事なんだから」
「ふ〜ん、あ!盗賊退治だろ。でも、トクベツリョウキンはらえばおそわれないって…・・」
「サーニン…」
困ったような顔でシルフィールがたしなめる。
まぁ、よそ者のオレには聞かれたくない話なんだろうな。
「お茶にしませんか?ガウリイさん」
「ああ、いいな」
中庭に置かれたテーブルに、シルフィールが茶の用意を整えはじめた。カップを並べ、手際よく香茶をいれるその手元から、サーニンが菓子をつまんで口にほうり込んむ。
「まぁ、サーニン。お行儀が悪いわよ」
「へっへー」
木洩れ日の中で、シルフィールが微笑む。
サーニンがはしゃいで駆けまわる。
久しぶりに見た、平和な情景。
悪くない仕事かもな、こんどのは。


翌朝、まだ白い朝もやがのこる街並みをぬけ、オレは見張り台に向かった。着いてみると、もう10人近い奴らが集まっている。
互いを値踏みの目で見る傭兵の集まり。
次に出会うときは、敵か味方か。いや、生きてまた出会う時があるのか。そんな傭兵たちの中から、短い黒い髪、黒い瞳の奴が声をかけてきた。
「よぉ、あんたもお仲間かい?」
「あぁ」
「俺はガンツってんだ、よろしくな」
年は俺と同じぐらいか。いくつもの傷跡が残る腕を、そいつがさしだす。いくつもの修羅場を生き抜いてきた奴の腕だ。
「ガウリイだ」
オレは、その腕をとらずに答える。
「ちょ…まぁいいさ。ところであんた…」
苦笑しながら、ガンツが言う。
「街の連中に何か聞いたかい?」
「なにをだ」
「この盗賊団のことに決まってんだろ」
「べつに…」
「ふ…ん」
胡散臭そうな目を向けるそいつに、今度はオレが聞く。
「なぜオレに声をかけた?」
にやっと笑ってガンツが答える。
「この中じゃ、あんたが腕がたちそうだからさ」
「……」
「ま、こんなチンケな仕事でケガでもしちゃつまらんしな。お互い気をつけようぜ」
そう言うとガンツは、さっさと歩き出した。
盗賊退治は、拍子抜けするくらい簡単だった。
見張りもいない、アジトというには貧弱な谷あいの小屋。
新米の兵士に毛がはえたぐらいの雑魚ども。
こんなんで、ちゃんと盗賊やってこれたのか?
他人事ながらあきれる。まぁ、真面目にこつこつと盗賊稼業にはげまれても困るが。
子分どもは、もうあらかた片付いた。あとは、親玉を残すのみ。が、こいつが手強い。
ぐいぃんっ。
子供の背丈ぐらいあるバトル・アックスを軽々と振り回して、近寄る隙がない。
「畜生っ!!あの野郎っ、裏切りやがったなっ」
ざすっ。
力まかせに振りおろされたバトル・アックスが、足元の地面をえぐった。
飛びのいてそれをよけ、脇を駆け抜ける。
前かがみになったそいつの、腹を狙って剣で横に薙ぐ。
ぎゃりぃぃんっ。
「さんざん俺らを利用しやがってっ!!」
そいつは片手で斧をつかんで、オレの剣を受けとめた。
―はやいっ―
見かけによらない素早い動きに、剣を構え直す。
振りかぶった斧をよけようと、後ろにとびさすり…。
とっ。
足をなにかにとられてオレはよろめいた。
「死にやがれっ!!」
―まずいっ!―
ざいんっ。
「が…あっ…」
バトル・アックスが地面に転がった。
肩から背中をざっくりと斜めに斬られて、地面に倒れたそいつの後ろに、不敵な笑いを浮べて立つ人影。
「ガンツ…」
「よお。大丈夫かい、ガウリイ」
ごろり。
ガンツは、もう動かない親玉の体を、かかとで蹴ってあお向かせた。冷静な目が、息の根が止まっていることを確認する。
「なぜ殺した?ガンツ」
「おいおい、それが命の恩人にいうセリフかい?」
「役人に突き出せばすむことだろう」
「同じことだろうが」
死体をはさんでにらみ合うオレたちの耳に、悲鳴が響いた。
「シドーーーっ!!」
、魔道士のマントをはおった女が、ガケの上から舞いおりた。そして女は糸が切れたように地面に落ちて、親玉の体にとりすがる。
「起きてっ、ねぇ、起きてよっ。シドっ」
もう動くことのない大きな体を、細い腕がゆさぶる。
オレは前にも見たような気がする、こんな光景を。
かちゃり。
ガンツが、剣の柄を握りなおした。
「よせ…」
「甘いぜガウリイ。この女も盗賊の一味だ」
「オレはここに魔道士がいるなんて聞いちゃいないぜ。それに…」
不審の目をむけるガンツに言葉をつづける。
「ばあちゃんの遺言なんだ。女子供には、やさしくしろってな」
一瞬きょとんとした顔をして、ガンツが苦笑した。
「まったく、しょーがねーな。あんたってヤツは」
オレは、血に染まったバトル・アックスを拾い上げた。
「こいつを証拠に持ってけば、役人連中も納得するだろ?雑魚どもも、とっ捕まえたわけだしな」
あとはうまいメシを食って報酬をもらえば、それで今度の仕事は終りだ。
「まあ…な」
泣きくずれる女魔道士を、横目で見てガンツがつぶやいた。
「行こうぜ」
「おう…」
生き残った雑魚をまとめてひっくくり、オレたちは、盗賊団のアジトだった場所をあとにした。



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5443流れる雲を追って 2wwr 10/21-23:31
記事番号5442へのコメント

「ん〜、うまい。シルフィールって料理うまいよなぁ」
「そんな、たくさん召し上がってくださいね。ガウリイさん」
はぐはぐはぐ。
その日の夕メシは、えらく豪勢だった。が……。
「なんでお前がここにいるんだ?ガンツ」
「いいじゃないかよ。こんな美人の手料理を一人占めする気か?」
「まあまあ、ガンツさんも盗賊退治に協力してくださったわけですから…」
エルクさんが、慌ててとりなす。まぁ、かまわんか。
「半年ぶりに、街の皆も枕を高くして眠れます。ありがとうございました」
「あの盗賊たちも、当分くさいメシを食うわけかぁ」
何気なく言ったオレの言葉に、エルクさんは首をふった。
「いえ、すでに全員処刑されたそうです」
そりゃまた、ずいぶん早いな。
「もう?でもまだ取り調べもすんでいなかったのではありませんの?」
驚きの声をあげるシルフィール。
もくもくと料理をたいらげるガンツ。
「調べるといっても、盗賊だということは、はっきりしているのだからと、モーガンさんが強く言われたそうでな」
「そんな……」
へぇ、モーガン?どっかで聞いたような…。
「あの…ガウリイさん」
「ん?」
「私、お聞きしたいことが…」
ためらいがちにシルフィールが言いかけたその時。
キケン!!!!
頭の中に鳴り響く警戒音。
「ふせろっ!!」
オレは、シルフィールを抱えてテーブルの下に転がり込んだ。
次の瞬間。
どごごごごぉぉぉんっ。
窓に無数の火の玉がぶつかり爆発した。
「きゃぁぁっ」
悲鳴をあげるシルフィールを抱えて、炎につつまれる部屋から廊下に飛び出す。
今のは火炎球、魔道士の襲撃かっ!?
「ガンツっ、そっちはっ!?」
「大丈夫だっ」
ガンツがエルクさんに肩を貸して走り出てきた。
「シルフィール、消火の呪文はっ?」
「使えます」
「よしっ、こっちは頼むっ」
オレは屋敷の外に飛び出した。
夜道にひるがえる黒いマントの魔道士姿。
「おいっ、お前!」
走りだしたそいつを追って、サイラーグの街を駆け抜ける。
逃げるってことは…あいつがやったんだなっ!!
やがて追いついてきたガンツとオレは、小さな家が並ぶ街の一角にそいつを追いつめた。
「もう逃げられないぜ。お前、何者だっ!」
ゆっくりと振りむいて、そいつはフードをはずす。憎しみのこもった瞳でにらむその顔は、盗賊のアジトで見た女魔道士だった。
「へぇぇ、勇者様が二人もおそろいとはね…」
「何の真似なんだ、これは」
「決まってるじゃない。見逃してくれたお礼に来たのよ」
唇だけが笑みの形にゆがむ。
「礼?…」
「ちっ」
横でガンツが舌打ちをする。
「やっぱりあの時、たたっ斬っておけばよかったぜ」
「なにさっ、偉そうに。人を斬って、金貰って…あたしたちと同じじゃないっ!!」
ずいっ。
ガンツが剣を抜いて一歩前に出る。
「言っとくがな、俺はガウリイとはちがうぜ。女だろうが容赦はしねえっ」
おびえる様子もなく、彼女は短剣を抜いた。
なんのつもりだ?
「おいおい、そんなんで俺らを相手にする気かよ?」
「はっ、まさか。これはこう使うのよっ!!」
そう言うと彼女は自分の手首を切り裂き、高々とその腕を掲げて叫んだ。
「我が血、我が肉、我が魂を贄として、出でよ闇の獣達っ!!」
ぐぅるるるるる。
言葉に応えて、彼女の背後にいくつもの影が生まれる。
赤く光る目。
黒い巨体。
あたりの空気を闇より黒い瘴気で染めあげるそいつらは。
「レッサーデーモンかっ!!」
一匹や二匹ならともかく、この数のレッサーデーモンを二人で相手にするのは、かなり苦しい。それに場所が悪すぎる。
「ガンツ…魔道士協会の場所はわかるか」
オレはレッサーデーモンたちから目を離さずに、ガンツに声をかけた。
「ああ、じゃ、ひとっ走りして、魔道士どもをたたき起こしてくるとするか」
「たのむ」
オレは剣をぬいて、一歩前に進み出る。
「俺が戻るまで、死ぬなよ」
ガンツのつぶやきと、走りさる足音を背中で聞いて、オレはレッサーデーモンたちと向かい合った。
「逃がすんもんかっ、行きなっ、お前たちっ!!」
血に染まった腕を振りあげて、彼女が叫ぶ。
ぐわぁぁぁっっっ!!
彼女の流す血と、たぶん怒りと悲しみに反応して、レッサーデーモンたちが動き出した。
あいつら相手に半端な傷をつけるような攻撃は逆効果だ。やるなら、一撃で倒すしかないっ!!
たんっ。
大きく前に跳ぶ。
オレは一匹のレッサーデーモンの喉元に、ふかぶかと剣を突き立てた。
ぐぎゃぎゃぎゃぁぁっ。
振り払おうとするそいつの腕をよけ、そのまま剣で首を切り裂く。
ぐぎゃぁぁっ。
一瞬赤く光る目がオレをにらみ、そいつは地面に倒れた。
「へえ、結構やるじゃない」
声のする方に目をやると、家の屋根から、彼女がオレを見下ろしていた。
月の光に照らされた、血の気のない白い顔。
憎しみだけに支えられて、やっと立っている細い体。
「でも、いつまで持つかしらね」
がきっ。
後ろから振りおろされた太い腕を剣で受けとめる。
レッサーデーモンの黒光りする爪が、剣をつかんだままオレの目の前に迫る。
お前らと力くらべする気はないぜっ!
ふり払おうと、剣を横にひねって力を入れた瞬間。
ぱきぃぃん。
刃が折れた。
「なっ!?」
とっさに地面を転がり、レッサーデーモンの一撃をさけた。そのまま物陰にとびこんで、身をかくす。
「うそだろ…」
手の中の折れた剣を呆然と見る。伝説の剣が、こんなに簡単に折れていいのかよ。
「どこに隠れたのさ、出といでっ!!」
そう言われてもなぁ。
「出てこないんなら…。お前たち、やりなっ!!」
!?……。
物陰から様子を見ると、レッサーデーモンたちの間に気がふくらみ、そして数え切れないほどの炎の矢があたり一面に放たれた。
きしゃぁぁぁぁっっ!!!
ぼんっ。
肩を寄せ合うようにして並ぶ、ちいさな家が炎につつまれて、みるみるうちに、あたりは火の海になる。
「火事だぁっ」
「逃げろぉぉっ」
飛び出してきた人たちに、レッサーデーモンが襲いかかる。
「うわぁぁっ!!」
デーモンたちのうなり声の中に、悲鳴がとびかう。
「きゃぁぁっっ、助けてぇぇっ」
―まずいっ―
オレは物陰から飛び出して、一匹のレッサーデーモンの背中に、折れた剣を突き立てた。
「逃げろっ、早くっ!」
「あーーーっはははははっ」
うずまく炎と煙の中に、笑い声が響く。まるで泣いているような笑い声が。
「みんな…燃えてしまえ…」
折れた剣を引き抜いて振りあおぐと、あの女魔道士の体が屋根の上でゆれていた。
「あの人を殺した奴も、この街も、みんな…みんな…」
以前聞いたことがある。術者が自分の力を使い果たしたり、自分の精神をコントロールできなくなった時、よびだされた存在は暴走する、と。
「あはは・は・は・は……」
くたりと彼女が座りこんだ屋根に、レッサーデーモンの放った炎の矢がふりそそぐ。
「逃げろぉぉぉっ!!」
ごおおぉぉっっ。
ふきあげる炎につつまれて、彼女の体はもう見えない。
「くそっ」
なんでこんなことにっ。
折れた剣で、必死にレッサーデーモンたちの攻撃を避ける。
が、このままじゃ時間の問題だ。せめて剣があれば…。
炎と煙に追い立てられて、にげまどう人の流れ。その中から、ふいに聞き覚えのある声が響いた。
「ガウリイ兄ちゃーん」
レッサーデーモンたちの間をすり抜けて、必死に走ってくる小さな人影。
「ガウリイ兄ちゃんっ!!」
「くるなっ、サーニン!!」
助けを求めて、精いっぱいに手をのばすサーニンの姿が、一瞬レッサーデーモンの巨体にかくれて…。
ばしいぃっ。
ぽぉぉぉん。
小さな体は石畳に叩きつけられて弾んだ。
「サーニンっ」
夢中でかけよって、抱きおこす。
「しっかりしろっ、今…」
言いかけて息をのむ。赤く染まったサーニンの体は、もう動かなかった。
すこしずつ冷たくなっていく小さな体。
―オレは……―
抱いた腕のあいだからこぼれおちていく命。
―オレは、なにをしたんだ……―
ばしいぃっっ。
レッサーデーモンの一撃に、オレは抱えたサーニンごとふっとばされた。
「がふっっっ」
壁に叩きつけられて、一瞬意識がとおのく。
かすむ目で見れば、炎上するサイラーグの街を背に、レッサーデーモンたちの黒い巨体が、幻のようにうごめいている。
口の中に、血の味がした。
―なにをしているんだ…オレは…―
サーニンの体をそっと物陰に横たえる。
―オレは…なんのために…―
立ち上がって、折れた剣を見る。
熱い。
今までは、ただぼんやりと感じていた剣の脈動を、今ははっきりと感じる。
熱い。
熱い。
血が……熱い。
「光よ……」
しゃきぃぃん。
オレのつぶやきに応えるように、折れた刃ははじけとび、輝く光の刃がほとばしった。
あぁ、そうか。これが……光の剣なのか。
伝説の、家宝の、光の剣。
だから…どうだっていうんだ?
オレは……………。
遅いんだよっ!!
「うおぉぉっっっ!!」
レッサーデーモンの群れに向かって突進する。
ざいんっ。
振りかぶった光の刃で、真一文字に切り付ける。
があぁっ。
レッサーデーモンの巨体は、真っ二つになり地面に倒れた。
ぐるらぁぁぁっっ。
仲間の死に興奮したレッサーデーモンたちが、つぎつぎに襲いかかってくる。
なにもかもが、ひどくゆっくりと見えた。
吐き出された炎の矢をかいくぐり、レッサーデーモンの腕を斜め下から切り飛ばす。
血が熱い、なのに胸の奥はどうしてこんなに冷たいんだろうか。
血の熱さのままに、オレはただ剣をふるう。いくら斬っても胸の冷たいものは、溶けてはいかない。斬れば斬るほど胸の奥が凍りついていくようで。
だがオレには、斬ることしかできない。
ざむっ。
光の刃が、レッサーデーモンの首を叩き斬る。
昔、英雄はこの剣で魔獣を倒して、人々を救ったという。
だが、オレは?
斬って、斬って、斬って……そして?
もうなにも感じない。なにも考えない。
オレは目の前のレッサーデーモン達を、切り倒し、薙ぎ払い…気がつくと、夜は明けていた。
朝の光の中、まだ煙のくすぶる焼け跡に、いくつものレッサーデーモンの死体がころがっている。
「…さん、ガウリイさん」
振り向くと、心配そうな顔をしたシルフィールが立っていた。
手にした剣からは、もう光の刃は消えている。
「ガウリイさん、お怪我の手当てを…」
「ケガ?…」
リカバリー治癒をかけてくれるシルフィールの手元を、オレはぼんやりと見つめた。
「あの、ガウリイ…さま、ありがとうございます」
「え…」
「街を、みんなを助けてくださって」
感謝と憧れに満ちたまっすぐな瞳が、オレをみつめる。
オレは……君が思っているような奴じゃない。
「シルフィール…」
「はい」
「朝メシは、なにかなぁ?」
オレは、たぶん笑顔で言えたと思う。
「いやですわ。ガウリイさまったら」
おかしそうに笑うシルフィールとオレは、シルフィールの家に向かって歩き出した。



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5444流れる雲を追って 3wwr E-mail 10/21-23:46
記事番号5442へのコメント

その後サイラーグの街中で、いろいろとごたごたあったらしい。
オレも足止めをくらって、役人たちにいろいろ聞かれたが、ガンツやシルフィールの証言してくたれこと、そして「光の剣」を持っていたことで、なんとか解放された。
やっと街が落ち着きを取りもどしはじめたころ、オレは役場を訪れた。
「よお、あんたも報酬の金を受け取りに来たのかい、ガウリイ」
役場のモーガンの部屋の前で、知った顔が出迎えた。
「お前もか。ガンツ」
「まあな、でもケチくさいぜここの連中はよ。あんな騒ぎがあったってのに、これっぽっちじゃな」
「そういう契約だったからな」
「契約か。ガウリイ」
「なんだ?」
おしころした声で、ガンツがつぶやく。
「俺たちは傭兵だ。深入りするんじゃないぜ」
「……」
それには答えず、おれはモーガンの部屋に入った。
ノックもせずに入ったオレを、モーガンはあの人当たりのいい笑顔でむかえた。
「これはこれは、ガウリイさん。ご苦労様でした、これがお約束の報酬です。」
じゃらり。
無造作に小さな革袋が机に置かれる。
オレはそれに視線をおとし、それからモーガンを見た。
「どうしました?」
「あんた、だったんだな」
「なんのことでしょうか」
モーガンは笑顔をくずさず問い返す。
「あんたが、黒幕だったんだな」
「何を言っているのか、分かりませんな」
やわらかな物腰と、人の良さそうな笑顔のむこうに、傲慢さと自信が見え隠れする。
がちゃり。
オレは剣の柄に手をかけた。モーガンの顔から笑みがすっと引く。
「…なんの…つもりですかな」
なんのつもりもない。オレはただ思い出していた。
盗賊の親玉のこと、名前も知らない女魔道士のこと、そしてオレの腕の中で冷たくなっていった小さな体のこと。
ぎりりっ。
剣を握った指に力がこもる。
低い声がオレの口から洩れた。
「……あんた…だったんだな……」
「ひっ」
モーガンがひきつった声をあげる。
こいつは、なにをそんなに怖がっているんだろうな…。
「な、なるほど。少しは頭があるようだな。だが、傭兵に頭はいらんよ。ほら、これが欲しいんだろう?」
そう言うとモーガンは、ずっしりとした革袋をふところから取り出した。
「なぜだ…」
「ふっ、役人の給料なんて知れたもの。私はただ自分の役職に見合った収入を得ていただけのことだ」
「盗賊連中を利用して、か?」
「いけないかね?」
「だ、そうだ。シルフィール」
かちゃり。
扉を開けて入ってきたシルフィールが、モーガンの前に進み出る。
「お話はすべてお聞きしました。モーガンさん」
「ぐっ……」
にらみつけるモーガンに一歩も退かず、シルフィールは凛とした声で言葉をつづける。
「あなたのしたことは、とうてい許せるものではありません。法の裁きをうけていただきます」
シルフィールの後ろから入ってきた役人たちが、モーガンの肩をつかんで、引きたてていく。
「ふっ、いいだろう」
モーガンは不敵な笑いをうかべて、連行されていった。
「あれでよかったのか?シルフィール」
「ええ、ありがとうございます。ガウリイさま」
「いや、オレは…」
オレはなにもしていない。
以前から、モーガンに「特別料金」を支払えば、盗賊に襲われない、という噂があったらしい。逆に支払いを断った商人が、街道で襲われたという噂も。
そして、半年以上も盗賊退治の要請を放っておいたモーガンが、急に熱心に盗賊退治を始めたことを、シルフィールは不審に思っていたんだそうだ。
あの事件の後、街の人たちから情報を集め、オレの話とつなぎ合せ、モーガンが全ての黒幕だったのでは、とシルフィールは確信を持った。が、証拠はない。それでオレに相談をもちかけて、この役割を決めたというわけだ。
オレがモーガンに口を割らせる。
シルフィールが役人と一緒にそれを聞き届けて証人になる。
全部シルフィールが考えたことだ。オレはなにもしていない。
「あいつは、これからどうなるんだ?」
「取り調べを受けて、法の裁きを受けることになるでょう。でも…」
「でも?」
「モーガンさんには、有力な親族がついていますから……」
そう言うとシルフィールは唇をかんだ。
「そうか……じゃあ、オレはこれで」
「ガウリイさまは、これからどちらへ?」
「ん〜、また腕を磨きながら、あちこちまわってみるさ」
「そんな、ガウリイさまはお強いですわ、とっても」
「シルフィール……」
「はい…」
好意に満ちた瞳。
かすかに染まった頬。
オレが受け取ってはいけないもの。
「メシ、うまかったぜ。ごちそうさん」
「いえ…」
少し寂しそうに微笑むシルフィールに、オレは別れを告げた。
「じゃ、元気でな」
―ごめんな…―


夜。獣の爪のように細く鋭い三日月が、オレの足元におぼろな影を作る。
サイラーグへ続く裏街道。それでも昼間は、行きかう人や馬車があるが、こんな真夜中に通るものはいない。
いるとすれば、よほどの急ぎの用事のある奴か、人目を忍ぶ奴らだけだ。
ガラガラガラッ。
サイラーグの街の方角から近づく馬車の音。
やっぱり来たか。
オレはゆっくりと街道の真ん中に歩み出た。
ガラガラガラッ。
ひゅっ、ひゅっ。
馬の足元を狙って、小石を弾く。
ひひぃぃぃぃぃんっ!!
驚いた馬は棒立ちになり、馬車から男たちが飛び下りた。
「何者だっ!!」
「盗賊かっ!?」
きんっ!きぃんっ!!
答えのかわりに剣を一閃する。
刃が月光をうけてきらめく。
どさっ。
地面に倒れた奴等の間を通り、馬車に近づいたオレの前に立ちふさがるもの。
「どけ、ガンツ」
「やれやれ、深入りするなと教えてやったのにな。ガウリイ」
そう言って、すらりとガンツは剣を抜く。
「いつから、こいつに雇われている?」
「始めっからさ。邪魔になった盗賊連中を片づけたいが、妙なことをべらべらしゃべられちゃまずい。だから『盗賊退治』の名目で殺っちまおうってのが、モーガンの旦那の狙いだったってわけだ」
世間話でもするような調子でしゃべりながら、ガンツは剣を構えた。
「最初から、皆殺しにするつもりだったのか」
「まあな。あの時、あの女もたたっ斬っときゃ、きれいに片がつくはずだったんだが……。あんたの甘さは計算外だったぜ。ガウリイ」
ひたりっ。
剣を正眼に構えてガンツと向き合う。
ガンツの剣の切っ先が、さそうように上下にゆれる。
ざわり。
夜風が木々をゆらす。
気が満ちる。
―来るか―
次の瞬間、ガンツはだらりと剣をおろした。
「…何のつもりだ。ガンツ」
「おいおい、俺は傭兵だぜ。あんた相手にあれっぽっちの報酬じゃ割にあわん」
けろりと言うとガンツは剣を納め、馬車に向かって声をかける。
「そういうことだ。悪いが俺はこれで降ろさせてもらうぜ」
「お、おいっ、待てっ」
馬車の中から響くあせったような声には耳も貸さず、ガンツはすたすたと歩き出す。
「あばよガウリイ。あんた、この稼業にゃむいてないぜ」
振り向きもせずにそう言って、ガンツは夜の街道を去っていった。
オレはそれを無言で見送り、馬車の扉に手をかけた。
「こんな夜中にどこへ行くんだ?モーガン」
扉を開けると、引きつった笑いを浮べたモーガンが、へたりこんでいた。
おおかた有力な親族とかのコネで、裏から手を回して釈放されたんだろう。あとはどこかに身を隠して、ほとぼりが冷めるのを待つ。
よくある話だ。
「な、なんだ。ガウリイ。お前とはもう何の関係も…」
衿首をつかんで、モーガンを馬車からひきずりおろす。
「どこへ行くんだ?モーガン」
「ひっ、か、金か?金ならやる。だっ、だから見逃してくれっ」
あたふたと懐を探るモーガンに、オレは昼間受け取った報酬の革袋を放った。
「返すぜ」
「え…」
反射的に手を伸ばすモーガン。
金貨を撒きちらしながら、革袋が弧を描いておちる。
オレは、それに向かって剣を振り下ろした。
チャリーン。
チャラチャラチャラ。
倒れたモーガンの体から流れる血が、地面に黒い染みをつくる。
あたりの闇よりまだ暗い、オレが作った黒い血だまり。その中にちらばった金貨が、月の光をうけてにぶく光る。
オレは血でぬれた金貨を一枚拾いあげた。
これが、オレの受け取るものだ。
伝説の剣を血で染めて、人を殺して、この手に残るものは……。
きっと他の生き方は、オレにはできないんだろうな。
この剣だけを持って、家を飛び出したあの時から。
オレは、街道に転がるいくつもの体を見渡した。
斬って、殺して、いつかオレも誰かに斬られる日がくるんだろう。
どこかの戦場か道端にオレの体が転がって、誰にも知られずに冷たくなっていく日が。
まぁ、悲しむ奴がいるわけじゃなし、それもかまわんさ。
「オレには……」
なにもない。なにも持たない。それでいい。
ただ……、この胸の冷たいものは、溶けることはないんだろうか……。
リーリーリリリリリリー。
チリリリリ・チリリリリ。
辺りの草むらから、虫の声が響く。
細い三日月は雲にかくれ、あたりは闇に包まれた。
リーリーリリリリリリー。
チリリリリ・チリリリリ。
虫の声は、いつまでも夜の街道に響いていた。


「よおっ、ガウリイじゃないか。どうだったい?サイラーグでの仕事は」
顔なじみの食堂に入ったオレを、気のいいおやじが、いつもの笑顔でむかえてくれた。
「ああ、まあまあだったぜ。メニューのここからここまで頼む」
「おうっ」
おやじは、注文した料理と酒をテーブルに置くと、そのまま座り込んでしゃべりだした。
「なんだよ、噂じゃレッサーデーモンが街で大暴れしたっていうじゃないか」
「へぇ〜」
はぐはぐはぐ。
子羊の香草焼き。川魚のムニエル。小エビのサラダ。
「おまけに、それを退治したのが、あの伝説の光の剣を持った勇者だったって話じゃないか。お前さん見なかったのかい?その勇者様をよ」
「見なかったなぁ、勇者なんて」
はぐはぐはぐ。
くるみ入りのパン。鶏肉と野菜のゼリー寄せ。野菜のグリル・トマトソース掛け。
「それによ…」
おやじが声をひそめてこそこそとささやく。
「盗賊団とつるんでたらしい役人が、街道で殺されてたって話だぜ。大方、盗賊の生き残りか流れの傭兵にでも殺られたんだろうがな」
ごきゅごきゅごきゅ。
つぼから酒を直にあおる。
「ぷはぁっ。……どう違うんだろうなぁ」
「何がだい?ガウリイ」
「盗賊と、傭兵と、勇者と…」
ぶははははぁっ。
オレの背中をばしばし叩いて、おやじは大笑いした。
「まったく、お前さん剣の腕はいいのになぁ。全然違うだろうがよ」
「いたいなぁ」
オレは笑ってコップに酒を注ぐ。
「のむかい?おやじさん」
「あんたっ、いつまで油売ってるんだいっ。さっさと料理運んどくれっ!」
おかみさんに怒鳴れて、おやじは肩をすくめて席を立った。
「ま、ゆっくりしてってくれよ。ガウリイ」
「ああ」
ごくり。
酒をひと口流しこむ。

―盗賊も―
『なにさっ、偉そうに。人を斬って、金貰って』

―傭兵も―
『傭兵に頭はいらんよ』

―勇者も―
『ありがとうございます。街を、みんなを助けてくださって』

―どう違うんだろうな―

コップの酒を飲みほして、席を立つ。
「おやじさん、勘定ここに置くぜ」
「おう、また来てくれよ」
おれは軽く手をふって店を出た。
にぎやかな街。
楽しげに歩く人々。
簡単にこわれてしまう、平和な情景。
「きゃははははっ」
「こっちだよ〜っ」
小犬のようにじゃれあいながら、子どもたちが駆けていく。
ふと足をとめて、オレはそれを目で追った。

『ねぇ、おれに剣をおしえてよ』
オレが守りたかったもの。

『ガウリイ兄ちゃんっ!!』
オレが守れなかったもの。

見上げれば、青く広がる空に白い雲が流れていく。
―空が……高いな……―
オレは流れる雲を追って、また歩き出した。


「オレはガウリイ。見てのとおり、旅の傭兵だ。きみは?」
「―あたしはリナ。ただの旅人よ」


流れる雲は、もう追わない。


―流れる雲を追って・終り―



読んでいただきまして、ありがとうございます。
楽しんでいただけたら、嬉しいです。 wwr

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5446Re:流れる雲を追って なな E-mail URL10/22-02:46
記事番号5444へのコメント

いつもお世話になってます。ななです。
読ませていただいたです。
すごく、良かったです。うまいこと言えないのが悔しいのはいつもですが、やっぱり今回も悔しいです。
ぐわっと来たです(何がや)ちょっと水でたです(笑)
ガウさん、やさしいと思ったです。視線が、なんだかんだ言って、やさしいの。
それだときっと、本人、辛いのに。わかってねぇんだろうな〜(笑)(←ひとりの世界(死))

リナと会えて、良かったね。あってくれて、良かった。あわせてくれて、ありがとうって感じでした。
冷たい塊は、溶けたよね。
兎に角、ガウさんラヴラヴパワーがテメェの中で勝手に大爆発でした(おいっ)
悶え喜んだのとは違うけど(笑)、凄くいいもん見たって気がしてるです。

くそ−、なんでうまいこといえねぇんだ自分−っっ
仕方ないのでありとあらゆる機会にご奉仕することでこの気持ちを表しま・・・<ばきぃっざっくざっくざっくどかっざららららららぽんぽん(←埋められた)

ほんとにどうもありがとうございました。
また、機会があったら是非是非、wwrさまの作品を読ませて頂きたいです。

ふ・・・ガウさん・・・やっぱ好きだ−−−−−−−−−−−−−っっっ
(場違いだコラ)

かなりメイワク的書き込みになっちまいました(笑)←笑うんじゃねぇ
ではです。ほんと良かったです−



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5450ななさん、ありがとです。wwr 10/22-11:16
記事番号5446へのコメント

>いつもお世話になってます。ななです。
>読ませていただいたです。
ありがとうございますぅ。チェックが早くて、驚きました。(笑)ここなら見つからないかな〜と、思ったんですが・・・(汗)

>すごく、良かったです。うまいこと言えないのが悔しいのはいつもですが、やっぱり今回も悔しいです。
>ぐわっと来たです(何がや)ちょっと水でたです(笑)
あう、ささ、このハンカチをお使い下さいまし。

>ガウさん、やさしいと思ったです。視線が、なんだかんだ言って、やさしいの。
>それだときっと、本人、辛いのに。わかってねぇんだろうな〜(笑)(←ひとりの世界(死))
そですね。ガウリイ優しいです。
ひとの傷には敏感で(というか、勘でわかっちゃうんでしょうね)
んでも、自分の傷には鈍感です・・・・・・お馬鹿です(爆)
傭兵なんて、稼業をしながら優しさをもち続けるなんてことは、普通の人間は、しないし、できないでしょうね。
それをやっちゃうところが、ガウリイなんでしょうねぇ。

>リナと会えて、良かったね。あってくれて、良かった。あわせてくれて、ありがとうって感じでした。
>冷たい塊は、溶けたよね。
はい、溶けすぎて、クラゲになっちゃいました。(笑)

>兎に角、ガウさんラヴラヴパワーがテメェの中で勝手に大爆発でした(おいっ)
>悶え喜んだのとは違うけど(笑)、凄くいいもん見たって気がしてるです。
ガウリイは・・・一番よくわからないキャラだったんですが、某所で皆様が熱く語っているのを見て、「ああ、こーゆー奴なのかなぁ」と、自分なりに考えてみたです。(汗)

>くそ−、なんでうまいこといえねぇんだ自分−っっ
>仕方ないのでありとあらゆる機会にご奉仕することでこの気持ちを表しま・・・<ばきぃっざっくざっくざっくどかっざららららららぽんぽん(←埋められた)
さくさくさく(掘り返した)
だ・め。埋まらせてなんて、あげないですぅ。

>ほんとにどうもありがとうございました。
>また、機会があったら是非是非、wwrさまの作品を読ませて頂きたいです。
う・・・・・・いつになるかは、分からんですが、気長に待ってやってください。(汗)

>ふ・・・ガウさん・・・やっぱ好きだ−−−−−−−−−−−−−っっっ
>(場違いだコラ)
私もガウリイ好きよーーーーーーっ!!
でも、ゼルガディスも好きーーーーーっっっ!!!

>かなりメイワク的書き込みになっちまいました(笑)←笑うんじゃねぇ
>ではです。ほんと良かったです−
はい、どうもありがとうございました。

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5447感想!流れる雲を追って アキ E-mail 10/22-03:01
記事番号5444へのコメント
ガウリイ過去編楽しませていただきました。はぁ、いろんなものを抱えながら
引きずりながら、それでも、少年を守ろうとする。本当に優しいです、この
ガウリイ。魔道士の女性を助けようとしたことが、かえって彼女を追いつめて
守りたかった少年が死んでしまう。やりきれないそんな思いをかかえながらも
それでも生きていく。ああ、優しくって、強い。好きです、このガウリイ。
黒幕を倒して、それでも自分に問い掛けるのをやめない。自分から逃げない。
いつもリナといて、つい見逃しがちですが彼も強い人ですねぇ。
それから、同じ傭兵としてでてくるガンツさん、おとなですねぇ。こういう
したたかな大人の人っていいですねぇ。はぁ。(溜め息)
すてきなお話をありがとうです!某所でもよろしくおねがいいたします。
私は「オルスリートの銀の小枝」も好きです!つい、書いてしまった。失礼します。

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5451アキさん、ありがとうございますwwr 10/22-11:44
記事番号5447へのコメント
アキさん、感想ありがとうございます。

>ガウリイ過去編楽しませていただきました。はぁ、いろんなものを抱えながら
>引きずりながら、それでも、少年を守ろうとする。本当に優しいです、この
>ガウリイ。魔道士の女性を助けようとしたことが、かえって彼女を追いつめて
>守りたかった少年が死んでしまう。やりきれないそんな思いをかかえながらも
>それでも生きていく。ああ、優しくって、強い。好きです、このガウリイ。
ガウリイは、守るものを持つことで、強くなるタイプの人なんじゃないかなーと、思います(生まれついての保護者)
このお話のころのガウリイは、まだ未熟で、二者択一でどっちか選ばなくちゃいけないときに、両方まもろうとして、どっちも守れなくて、自分も傷ついて・・・・。
んでも、なんとか生きていって、今の絶大な包容力を身につけていった・・・。そーゆー人です、うちとこのガウリイは。


>黒幕を倒して、それでも自分に問い掛けるのをやめない。自分から逃げない。
>いつもリナといて、つい見逃しがちですが彼も強い人ですねぇ。
とっても強い人です。でなきゃ、あのリナちゃんの保護者なんて、やれませんもん。
自分の出来ること、自分にはできないこと。自分の一番大事なものを今のガウリイは、分かってますから。強いです。

>それから、同じ傭兵としてでてくるガンツさん、おとなですねぇ。こういう
>したたかな大人の人っていいですねぇ。はぁ。(溜め息)
彼は、正しい傭兵なんです。(笑)
腕一本で世の中を 渡っていくんだから、自分の腕と、仕事の内容と、報酬とを秤にかけて、ぬけめなく生きていく。
絶対に深入りしないし、自分の損になるような真似はしない。
でも、ちょっと間抜け。お前,シルフィールが役人連れてきたとき、なんで止めなかったんだぁぁっっ!


>すてきなお話をありがとうです!某所でもよろしくおねがいいたします。
いえ、こちらこそよろしくですぅ。

>私は「オルスリートの銀の小枝」も好きです!つい、書いてしまった。失礼します。
あ〜いいですよねぇ。私も好きですぅ。(嬉)
>