◆-悠久の風1-Merry(10/10-21:15)No.5290
 ┣悠久の風2-Merry(10/10-21:16)No.5291
 ┣悠久の風3-Merry(10/10-21:18)No.5292
 ┃┗Re:悠久の風3-月華院  彩子(10/14-17:42)No.5352
 ┃ ┗ご指摘ありがとうございます-Merry(10/14-22:40)No.5357
 ┗再掲示君の日常1-Merry(10/10-21:20)No.5293
  ┣再掲示君の日常2-Merry(10/10-21:21)No.5294
  ┣再掲示君の日常3-Merry(10/10-21:23)No.5295
  ┗再掲示君の日常4-Merry(10/10-21:24)No.5296
   ┗しくしくしくしく・・・-T−HOPE(10/10-21:45)No.5297
    ┗Re:どうも-Merry(10/11-21:30)No.5324


トップに戻る
5290悠久の風1Merry E-mail 10/10-21:15

悠久の風1
ゼロリナです。ダークな内容になるので、そういうの嫌いな人は避けて下さい。
祭りの前
ダークスターの脅威から早5年。魔を滅するものとの異名を持つ魔道士リナ=インバースは、今年で二十三歳を迎えていた。紅茶を薄く入れたような髪の色に、不敵に光るルビー色の瞳。そのすべては過去と現在変らぬままで、それこそがリナ=インバースである証となっていた。いま、彼女は、セイルーンで、アメリアの補佐をしていた。
二年ほど前、第二次降魔戦争勃発。人類の存亡を賭けてレジスタンスの中心として活躍しているのが、セイルーン王家であった。即位したばかりの現フィル王と、降魔戦争勃発直前に帰国した、第一王女サーペントのナーガ、こと、グレイシアそして、第二王女アメリア。この三人は、人類の希望の星として英雄に祭り上げられていた。戦争勃発後一ヶ月ばかり経った頃であろうか、ひとりの少女が、金髪の美しい青年と、銀髪のキメラの青年を従えて、セイルーンの王城に入城した。
かつての仲間を歓迎したアメリアは、協力を要請した。もちろんリナたちもそのつもりで来たので、簡単に話しは決まった。しかし、そこで彼らは重要な事実を知る事になる。
魔道士リナ=インバースは、もはや魔法を使う事ができない体になってしまっているという事を。降魔戦争が始まる一年ほど前から、リナ=インバースの体は限界が来ていた。混沌を統べる王であるロードオブナイトメアの力の使い過ぎが原因だった。その頃ちょうど、フィリアと、ヴァルを狙っての魔族の騒動があった。それに介入したリナ=インバースは、初級の魔法すらうてない体になってしまったのだった。
魔法の使えない小娘に用はない。と周囲のものが白眼視していったが、アメリアはそんな奴等には構わずリナに相談を持ち掛けていった。そして、リナはその期待に良くこたえ、着々とみずからの居場所を確保していった。参謀としての地位である。
リナほど魔族と戦った経験の持ち主である人間はこの世にはいない。その経験と、生まれ持った才能であろうか、用兵学についてとかく才能を発揮した。さまざまな戦略戦術を立て、ひとえに人類最後の砦を守りぬいてきたのは、彼女の才能も大きく関わっていた。
リナは、戦場では一番先頭に立ち、勇敢に指揮をとっていた。その、果敢な姿に、兵士達の士気はどれだけ上がった事だろう。リナが先頭に立って戦う事が、絶対の勝利につながると、若い兵士達は軍神のごとく彼女を信仰していた。
「アメリア、今回は遠征するわけだから、補給部隊をもっとも信頼の置ける人物に回したほうがいいわよ」
「どうしてですか?」
「…戦争に勝つために必要な二つの事は?」
「正義と勇気です」
「それでは、負けてしまうわ もちろん何のために戦うのか分かっていたほうがいいと思う でも、戦うのは人間よ 必要なのは、食料とお金」
「正義の心があれば飢えぐらい…」
「アメリア、忘れたとは言わせないわよ 外の世界に行ったときに飢えのあまり動く事もままならなかったはずよねぇ」
「うっ」
「飢えさせたら、兵士達の士気が下がるわ それでは負けたも一緒の事 …それに補給舞台を狙うのには心理的な効果があるわ」
「どういうのです?」
「普通、人間の場合、補給部隊を狙う理由は、兵士の士気を下げるためだけど、魔族が狙うのはね、補給部隊が全滅したと知って、絶望する人間の負の気を食べて、力をつけるためよ そんな事されれば、ますます勝つ事は困難になっていくわね」
「わかりました では、姉さんと、ゼルガディスさんに頼もうと思います」
「そうね、あの2人なら、重要な任務に耐えられるわね それと…」
セイルーンの城内にある大本営で、アメリアと、リナの一週間後から始まる遠征についての最終確認が行われていた。その部屋の明かりが消えたのは、夜がだいぶふけてからだった。


一段落ついたリナとアメリアは、高級士官のみ使用のできる『海鷲の砦』というクラブに入っていった。クラブといっても、落ち着いた色調に、程よくとなりのテーブルとの距離を取られた配置と、何より上品な雰囲気が、そこら辺のやすいクラブとは比べ物にならないほどだった。
リナ達は、セイルーンの軍隊に身を置いている。アメリアは、セイルーン最高司令官の地位にあり元帥の称号をもらっていた、事実上軍事面においての最高職に就いている。そして、リナは、作戦参謀長、位は、大将。ナーガ、ガウリイ、ゼルガディス、急に成長してしまったヴァル、はそれぞれ部隊を預かる隊長の地位に就いていて、中将の称号をもらっている。そして後方担当の、シルフィール、フィリアと彼女たちは、少佐のくらいをもらっている。今までにリナに関わり合いのあったものがここに集まっていた。
今日も夜はふけたというのに、いつものメンバーがここに集まり酒を交えて談笑していた。
「ちょっと、リナ、今度はあたしの活躍の場を作りなさいよね」
入ってきたリナにナーガが第一声をかけた。
「何であんたが活躍しなきゃいけないのよ」
「オーホッホツホッホッホッホッホッホッ この私の美貌の隣にいればあなたなんか霞んでしまいますものね でも、そうはいかなくってよ!」
「ほほう…」
リナの目が、きらりと不敵に輝いた。それを見て取ったアメリアが必死に止める。
「リナさん、姉さんこんなところで騒ぎなんか起こさないでくださいよ 高級士官がこんな事では、部下への示しがつきませーん」
その言葉に2人の動きがわずかに止まった。高い地位にある物はそれなりの責任というものを果たさなければならない事ぐらいこの2人は知っていた。
「そうだぞ、リナ、ここは落ち着いてこれでも食え 結構うまいぞ」
ガウリイが相変わらずの雰囲気で、酒のつまみののっている皿をリナの前に置いた。
「何さクラゲーっ」
リナとガウリイがいつんものように痴話げんかをはじめると、その隣で静かに杯を傾けているゼルガディスが深くため息を吐いた。しかし、その目には、いつもの光景である安心感が宿っていて、2人のやり取りを見ているその顔にはほんの少し優しい表情が浮かんでいた。
「いい加減うるさいぞ」
隣のテーブルにいたヴァルがあきれてリナに向かっていった。
「ほう…誰に向かってそんな口をきいているのかしら?…あんたがおむつ取れなかった頃の失態とか、その他恥ずかしい事を知っているこのあたしにたてつくって言うの?!」
その言葉にぐうの音も出ないヴァル。さすがにそういう事をばらされるのは嫌だった。
「ヴァルを脅さないでください まだ子供なんですからね」
同じく隣のテーブルにいたフィリアがまるで母親口調で言った。
「俺は子供じゃねぇ!!」
「そんな事を言ううちは子供です 大体、急に成長してしまったものだから、精神と体のバランスが取れてないみたいですし…」
ファミリーな会話をフィリアとヴァルが繰り広げているのを横目で見ながら、リナはつぶやいた。
「一生やってろ…」
いつのまにか、シルフィールがガウリイの隣に座り、ガウリイに酒を注いでやっている。その光景を目にしたリナに、アメリアはそっと耳打ちした。
「いいんですか?」
「なにが?」
「だって、リナさん…」
「何度も言うようだけど、あたしとガウリイはそんな仲じゃないの それにあたしは、…」
アメリアは続きをいってもらうよう促そうとしたが、寸前で止めた。リナの瞳に、今まで見た事のない哀愁が漂っていたからだ。やはり、魔法が使えない事はこの人にとってこんなにも影を落としてしまうのだろうか、とアメリアは考えた。その洞察は事の一端を示したに過ぎない。リナは、言葉続けるのにためらったのは、アメリアにいってもいいのか躊躇したからだ。あたしが、魔族を愛しているなどと知ったらこの人はなんて言うだろう。あたしは、人から愛される資格なんて本当はないのに…。罪の意識がリナの中で大きくなり始めていた。


それから約一時間後それぞれ自分の部屋に引き取っていった。リナは、部屋の明かりを消し、カーテンの隙間から漏れてくる、月明かりを便りに床に就いた。リナがゆっくり二十秒ほど数えた頃であろうか、空間が歪み、闇が形を作った。夜空を切り取ったかのような黒髪に、宵の開ける空の色をした瞳。闇から生まれた事を象徴するかのような黒い神官服。肩まで切り揃えられた髪がゆれた。そこに眠る少女を見下ろしたのだ。
「ゼロス、来たの?」
瞳を開けず、リナはつぶやいた。それは劇的な効果となってその影の瞳を見開かせるのに成功した。
「起きていましたか…」
「なんとなく…来るのが分かったからそれに今日はいい月が出ているもの」
「怖がらないのですか?」
「何に?あたしはもう、かつてのリナじゃないわ 魔法なんて唱えられないもの あなたに対抗する術をあたしは持たないから」
起き上がってベッドの端に腰掛けるリナのか細い体を見詰め、ゼロスは一瞬だけ言葉を失った。魔力の無くなった彼女が、脆いガラス細工のように見えたからだ。
「契約しませんか?」
「魔族のあなたと?冗談じゃないわ」
「そんなにはっきり言わなくても…傷つきますよ…」
「あんたが人間の考えがわかんないのと一緒で、あたしは、魔族にはなりたくないの それがあたしである事だもの…何時か死ぬ事が分かっているから一生懸命にいきたいと思うのよ」
「リナさん…」
影は、月明かりに照らし出されて、美しいその姿をあらわした。珍しくその顔に、複雑な表情をたたえて、紅茶色の髪の少女を覗き込んだ。
「あたしとあんたはどうやっても平行線の存在なの 決して交わる事はない…」
ゼロスはそのままリナをかき抱いた。そしてそのまま、ベッドに押し倒し、唇を合わせた。
リナは、暗闇の中でも顔が上気しているのが分かるほど、赤らめながらゼロスから顔をそらして言葉をつづった。
「何かあったでしょ?」
「……何もありません」
「嘘をつくのが下手になったわね あたしを殺せとでも命令された…?」
「そんなことありません」
リナはゼロスの腕から逃れておきあがった。その手をゼロスがつかんだ。
「リナさん」
リナは振り返らない。手を振り払い、ただ静かにゼロスと距離をとり、ベッドの横に立て掛けておいたショートソードに手をかけた。
「帰って 今日の事は不問にしといてあげる ここは、あなた魔族が来ていいとこじゃない あんたは、人類の敵なんだから」
「リナさんにとってはどうなんです?」
「敵よ…あたしには参謀長としての責務があるわ」
「そうやって逃げるんですか?リナさんだって…」
ゼロスは言葉を続けようとして、やめた。リナの目から熱い潤いが頬を伝って流れ落ちていたからだった。
「今日のところは引き取りましょう…」
リナの涙を唇でぬぐって、ゼロスは虚空に消えた。
気配が完全に消えた事を確認してから、リナはつぶやいた。
「もう少し早く…二年、ううん一年前でもいい…早く迎えに来てくれたら…あたしは…」


そして、第二次降魔戦争より二年と六ヶ月目が経とうとしていたとき、アメリア率いるセイルーン正規軍は、いまだ魔族の手によって支配されたままでいるサイラーグに遠征を開始した。それが勝利をもたらすのか否か、生者の中でをれを知りうるものはいない。

続く



こんなの書いていいのでしょうか…。リナ永久に魔法が使えなくなっています。あんまりゼロリナっぽくないし…。次ぎは、集団戦闘メインの話になるので、戦略および戦術の話が嫌いな人はつまらないと思います。私は好きなんですけどね…。
流し読みでもいいから読んでくれるといいなぁ…。

トップに戻る
5291悠久の風2Merry E-mail 10/10-21:16
記事番号5290へのコメント
悠久の風2

万華鏡(カレイドスコープ)
リナたちが戦場を選んだのは、サイラーグに程近い平野だった。視界を遮るものもなく、遠慮せずに魔法をぶっ放せるというので選んだのだ。そしてその平野を囲うようにして森林が生い茂っている。別働隊を動かすには最適の地形といえた。
「敵の様子はどう?」
「あの部隊はグラウシェラーの腹心シェーラの部隊のようです 力押しではなくわれわれと同じように戦術を用いて倒そうとしているようで、頭のよいモンスターばかりそろえているようです」
「そのままの作戦でいくわ、アメリア」
「全軍突撃!!」
アメリアが抜き放った剣を振り下ろすと、歩兵や騎兵達が一目散に駆出した。アメリアが正面決戦をしている間、リナがその後背に回り、敵を挟み撃ちにする作戦だが、リナはこの作戦を敵に気がつかれてしまったら、本体を分けているので数の上で圧倒的に不利になる事を承知の上で行っていた。これを逃せば、サイラーグの人々が餌食になるのは目に見えている。
「はぁっ」
アメリアも勇敢に戦い魔族達を消し去っていく。今は効率よく倒すために魔法剣にして戦っていた。体術だけではどうにもならない事を悟ったアメリアは、ゼルガディスに剣術の稽古をしてもらったのだ。馬上では馬上の戦い方があるという事だった。
白いマントがはためき、さながら白い風となって戦場を駆け巡っていく。その姿は、味方には寄り強い忠誠心と畏怖を、敵には憎悪の対象として映った。
その頃リナは別働隊を指揮して森の中を歩いていた。本来なら作戦参謀は後方にいて戦いの間はひたすら待っていて勝利の報告だけ聞けばよさそうなものだが、それはリナの矜持が許さなかった。自ら別働隊の指揮をしたのだった。
リナは本来は戦略家としてより戦術家としてのきがある。いかに少ない兵力で、効果的に勝利をつかむか、一度ならず考え成功させてきた。その作戦のうちの一つに火力の集中があった。魔法部隊にある一点で交わるように魔法を撃たせピンポイント攻撃をしていくのだ。巨大な魔力が爆発し、それを魔族が巻き込まれ巻き込まれたものが力となりさらに周囲に混乱が発生していく。それだけで下級魔族など吹き飛んでしまう。
アメリアとシェーラ率いる部隊が膠着状態になったのを見計らって、リナは背後から奇襲攻撃を仕掛けた。最初に魔法部隊によるピンポイント集中砲火の後、全軍が一気に総攻撃を仕掛けたのだ。
リナらしい派手な戦法に、アメリアは内心苦笑しつつ兵士達を鼓舞した。
「こっちも負けていられません!全軍突撃!魔族に正義の鉄槌を下してやるのです」
約三時間後、勝敗は決した。


勝利を収め、サイラーグを開放したアメリア達は、街道沿いにある砦にひとまず入城して、一夜を明かす事にした。この時、砦が小さかったためか、アメリア率いる本隊は、そこに泊らず、さらにセイルーンのほうに進んだ先にある砦に入城した。

その頃、後方で、補給担当をしているゼルガディスとナーガのもとに、意外な情報が入った。ゼルガディスが放った使い魔から、魔族が、『リナ暗殺計画』を立てているという事だ。その情報を聞いて、ゼルガディスとナーガは急いでほかのものに代理を務めさせると、呪文を使い砦に向かった。間に合う事を信じて。夜になって、ようやくアメリアの入城した砦に辿り着いた。人間の足で四日はかかるところを一日で飛んだのである。体力はもう限界だった。
「アメリア、リナは生きている?」
出迎えにいった早々こんな事を言われて、アメリアは機嫌を悪くして答えた。
「姉さんの冗談はいつも最悪と思っていましたが、今度のは最も悪い冗談ですね」
「冗談なんかじゃない、実は…」
ゼルガディスから説明を受けて、アメリアは顔を急速に青ざめると、直ちに行動に移した。とりあえず、代理を立てて自らリナの救援にいく事にした。連れて行くのは、正規軍の中でも精鋭ばかりで、二十人前後、そして、ゼルガディスとナーガだった。最初ゼルガディスとナーガを連れて行くのをためらったアメリアだが、2人の意志の強さに負けてついていきく事にした。
大丈夫、大丈夫、今つけているリストバンドは、ダークスターを倒したときにつけていたものだ。あの時だって生き残ったじゃないか。これは幸運のリストバンドなんだ。リナさんは生きているはずだ。アメリアは、下手すれば理性を失ってしまいそうな精神状態に鞭打って、夜の帳の中、馬を走らせた。魔法を使わなかったのは体力を温存させるためだ。


ゼルガディスとナーガが、アメリアの入城した砦についた頃、リナはガウリイと共に、気の知れた何人かの仲間たちとティールームで談笑していた。夕食後の、気楽な会話。それがリナにとっては楽しみの一つとなっていた。やがて、カードゲームにも飽きて、そろそろ部屋に引き取る事にした。リナがさっていくのを仲間たちは敬礼をして見送った。そしてガウリイ達はそのままカードゲームを続けていた。
リナは夜着に着替えて、蝋燭の明かりをベッドのところだけ灯す。窓から月明かりが入り込み、いくらか明るい。ベッドに腰掛けて、寝る前にいつも読んでいる昔物語に手を伸ばした。低血圧気味なのか、どういうわけか最近寝付きが悪く、リナは薬師に頼んで、睡眠誘導の効果のある薬草をもらっていた。それを煎じて飲みながらほんのページを繰った。十ページほど読んだであろうか、眠気が襲ってきたので、リナは蝋燭の明かりを消そうと身を乗り出したとき、外が何だか騒がしい事に気がついた。すぐに扉がノックされた。
「リナ、様子がおかしいんだ、動ける格好をしてくれ」
「何があったのガウリイ?」
「どうやら魔族が奇襲をかけてきたみたいなんだ」
「すぐいく」
物の一分もかからず、セイルーンの正規軍の軍服に着替えると、リナは部屋から飛び出した。腰にはいつも使っているショートソードがかけられている。ガウリイの後について騒ぎのある方に走っていく。さっきのティーラウンジに来てみると、仲間たちが魔族相手に戦っていた。そのうちのひとりが叫ぶ。
「こいつらは、参謀長閣下の命を狙っているんだ!!」
その声に、爆炎で今まで見えなかった前方から、人影が現れた。
「あなたがリナ=インバースですね」
質問というより、確認を取る言い方だった。人の形を取っているなんてかなり高位の魔族かもしれない。リナはそう思った。そう年の変らない少女の格好をしているが、生きた年齢はリナの倍でも足元にも及ばない年月であろう。誰かをほうふつとさせる髪の色が、リナの目を捕らえた。
「逃げるんだリナ!!」
呆然と立ち尽くしているリナの体を、外に向けてガウリイは押し出した。そして、扉の前に、通せんぼをする格好でガウリイは剣をかまえた。
「くっくっくおもしろい、われわれにそんなものは障害でもないが、その熱意に免じて相手をしてやろう」
その黒髪の少女からの攻撃を剣で受けたガウリイは、一歩退き相手に一撃を加えようと振り下ろした。金属の澄んだ音と同時に火花が散った。


アメリアはようやく砦に入城した。その側から、低級魔族達が見境なく攻撃をしてきた。攻撃をやすやすとよけながら、アメリアは考えた。魔族達がまだ去ってはいない。リナさんは生きているという事だと。連れてきた部下達にここを制圧するように言うと、アメリアは、ゼルガディスナーガを伴っておくに急いだ。さらに激しくなる攻撃に、ナーガは立ち止まってアメリアにいった。
「ここは私が引き止めておくわ、あんたたちは先にいく事ね 独りづつなら半人前でしょうけど2人居てどうにか一人前の働きをできるだろうからね」
「でも…姉さん」
「目的を履き違えないで、あんたはリナを助けるために来たんでしょ?あたしはこんなところで死ぬわけないでしょ?」
「姉さん、気をつけて…」
2人がきびすを返して走っていくのを、後ろから狙い撃ちしようとしていた低級魔族をナーガは一撃で粉砕した。
「さぁ、このサーペントのナーガ様に滅ぼされたいおばかさんは誰かしら?」
彼女の不敵な笑いが、室内に響き渡った。



続く

うーん…ゼロスでてこなかった。この次は…次は…何だかかみそり送られてきそうな話になる予定です。考えてしまったものは仕方ないものなぁ…。こんな話でも読んで下さったかたがたありがとうございます。

トップに戻る
5292悠久の風3Merry E-mail 10/10-21:18
記事番号5290へのコメント
悠久の風3

魔を滅するもの(デモン・スレイヤー)還えらず

「リナさーんどこにいらっしゃいますかー!!アメリアです答えて下さい」
小さい砦とはいえ、たった独りの人物を探し出すには、広すぎるし、何より会う魔族すべてが攻撃してくるのでいちいち戦っては倒さねばならなかった。それに砦という事もあるのか分かりにくく入り組んでいるところもある。アメリアは必死に名前を呼びながら、自分にとって大切な人の名前を呼びつづけた。
その頃、アメリアの捜し求める人物は、廊下を歩いていた。こんな時になっても慌てて走り回らないあたしがこの人の性格が表れているといえた。一応安全な場所を考えながら歩いているのだが、どこが安全なのか分からない異常ここも危ないという事も分かっている。
この時、アメリアとリナの距離は直線にして40メートルほどの位置に居たが、当市能力を持たない彼らは、お互いの位置を知るには、いくつもの壁が邪魔をしていた。
リナ自身、死にたいかと問われて、「あまり死にたくない」と答えている。このあまりというのが、リナのゴールの見えない勝負はしたくないという、有名すぎる名台詞の一端をあらわしていた。ここで死んでしまったら、みんなに悪いと思う。こんなあたしでさえそばに居るだけで喜んでくれる人が居るんだからせめてずっとそばに居てやりたかった。
空間から声がかかった。リナは驚きもせず、その声のしたほうに振り返った。
「やっぱりあんただったのね」
「分かっちゃいました?」
「あんたの部下があまりにもそっくりだったからすぐに分かったわ これは獣王直属の部隊だって」
「もう一度言います 僕と契約しませんか? 僕が嫌なら誰か別の魔族とでも…」
「別にあんたが嫌なわけじゃないの あたしは人間でいたいの」
「どうしてそこまで人間にこだわるのですか?! 人間が脆くて弱い事なんて知っているはずなのに」
リナは、苦笑した。
「それでも人間でいたい」
「考え直すなんて事ありませんか?」
リナは返事のかわりに腰に下げていた剣を抜いて、ゼロスに突きつけた。
「物理攻撃がきかないのは分かっているけど…おとなしく殺されてやるいわれはないわね」
「ほう、僕があなたを殺しに来ていた事まで気がついていましたか…」
ゼロスは、後ろに飛びのき、リナとの距離を保った。
「では、お礼に僕が気がついた事もお教えしましょう リナさん、あなたは魔法がまだ使える状態にある そうではありませんか?」
リナのもつ剣先がわずかにゆれた。
「そうよ…といっても、後一回ってとこかしら」
「こんなところで滅びるわけにはいきませんので、安全策を取らさせてもらいますよ」
そういって、彼はリナの右足をエネルギー体で打ち抜いた。よけようとしたが,思うように足が動かなかった。最初に足に何かが当たる感覚がして、次にそこが熱によって熱くなり、最後に痛覚を伴ってやってきた。衝撃に膝をついた。真紅の血が腿からあふれ出ていた。動脈をやられた。リナはなぜか冷静に判断を下していた。マントをちぎり、腿に止血をするように結び付けた。
ふと、ここにアメリア達が居なくてよかったと思った。彼女たちもとばっちりで殺されていただろうから。もし仲間が居れば自分だけは助かったであろうという考えはこの少女にはない。むしろ彼らの手の届かないところでこんな事になってしまった自分の不甲斐なさに、腹が立った。
リナはゆっくり立ち上がった。右手で、壁を支えとして一歩一歩壁を押しながら歩いていった。そうする事で、彼女と親しい人との間に横たわる隔たりをなくすかのように。
リナの脳の一部がぼんやりと考えた。おかしい、こんなに血が流れれば体重は軽くなるはずなのに、ますます重くなっていく。考える事にもすさまじい集中力が必要になってきた。腿に巻き付けられたマントの切れ端は、今では単なる足と床との血の流れの架け橋になっているに過ぎない。
あれ?と思った瞬間、リナは床に膝をついていた。どうやら座り込んでしまったみたいだ。彼女は立ち上がろうと、足に力を入れようとして失敗した。何だか格好の悪い座り方だ。そう思っても、それを直す余力もなかった。そのまま壁に寄りかかった。
デモンスレイヤーリナが、ブラッディリナになってしまった。苦笑したつもりだったが、うまく笑えていないような気がした。だんだん、視界がぼやけてくるようだ。声帯の機能も失われつつあるようだった。だから、彼女が、「ごめんガウリイ、ごめんアメリア、ごめんゼル、ごめんみんな」とつぶやいたのも彼女にしか聞こえなかった、否そう思っただけかもしれなかった。
この世で行う最後の動作。ゆっくりを目をつむり、灰色から漆黒の暗闇へ、無彩色の階段を意識は降りていった。
懐かしい声が、彼女を呼んでいた。
リナ=インバースのときは二十三歳で停止した。


続く

きゃーっ皆さんの反応が恐い…。リナ殺してしまいました。しかも残酷だし、ゼロスの手にかかってるし…。全然ラヴラヴじゃないし…。

トップに戻る
5352Re:悠久の風3月華院 彩子 10/14-17:42
記事番号5292へのコメント
あのお、思ったんですけど、田中芳樹さんのファンですか?
何処をどう読んでも銀河英雄伝説の中に出てくる同盟退役元帥ヤン・ウェンリーの死に際にそっくりなんです。
再掲示君の方も創竜伝の一巻の一番始めなんです。
いや、どう言うことも無いと思うんですけど、私みたいにずううううっと待っている(覚えている)人間はあまり面白くありません。一度読んでますから。
でも、お上手なんです。いやほんとに。
ですから、出来れば御自分の文体で一回書いてごらんになったら良いのではしょうか。
元々ガウリナ派なものですから、いつもは覗くことをまずしないんですが、ちょっと気になってしまいました。
二つとも面白い話なので、面白く?(多分)ゼロス!!とか思いながら読むと思いますが。
しかし、リナが死んだら話どうなるんだろう?
頑張ってくださいね。

トップに戻る
5357ご指摘ありがとうございますMerry E-mail 10/14-22:40
記事番号5352へのコメント
月華院 彩子さんは No.5352「Re:悠久の風3」で書きました。
>あのお、思ったんですけど、田中芳樹さんのファンですか?
ええ、かなりのファンです。ほとんど小説持っているぐらいですし。
>何処をどう読んでも銀河英雄伝説の中に出てくる同盟退役元帥ヤン・ウェンリーの死に際にそっくりなんです。
>再掲示君の方も創竜伝の一巻の一番始めなんです。
>いや、どう言うことも無いと思うんですけど、私みたいにずううううっと待っている(覚えている)人間はあまり面白くありません。一度読んでますから。
>でも、お上手なんです。いやほんとに。
> ですから、出来れば御自分の文体で一回書いてごらんになったら良いのではしょうか。
実は自分の文体で書いて作品もあるのですが、沈んでしまったようなんです。
でも、所詮私は田中芳樹さんファン・・・というわけで、自分の文体も田中芳樹さんそっくりですが。
>元々ガウリナ派なものですから、いつもは覗くことをまずしないんですが、ちょっと気になってしまいました。
そういう方からのご指摘があったほうが私としては嬉しいですよ。ゼロリナ派だからガウリナ小説の感想を書かないよりかはよっぽどいいと思います。
> 二つとも面白い話なので、面白く?(多分)ゼロス!!とか思いながら読むと思いますが。

>しかし、リナが死んだら話どうなるんだろう?
>頑張ってくださいね。
ありがとうございます。

トップに戻る
5293再掲示君の日常1Merry E-mail 10/10-21:20
記事番号5290へのコメント
君の日常


スレイヤーズキャラクターが、現代にいたらという設定で話が進んでいます。


世紀末まで、後数年を残したとある日曜日。今日は春休み最後という日もあって、行楽地へ向かう家族連れが多い。お昼過ぎまで晴れていた天気は突然曇り出し、今は雨が降っている。傘を持っていなかった人々は、いくら外れてもつぶれない気象庁に罵声を内心で浴びせつつ、雨をしのげる場所に非難した。
そういう人々のなかで、紅茶を薄く入れたような髪をした少女と、夜の闇を切り取ったかのような髪を持つ同じ年ぐらいの少女の2人連れが、東名高速道路のインターチェンジで、雨をしのいでいた。彼女たちはここからくるまで二十分のところにあるアスレチックフィールドで、春休みの最後の日曜日を満喫していたのだ。しかし、帰りのバスが、雨でスリップし、ガードレールに突っ込んだ事で、ここまで歩かざるを得なかったのだった。
インターチェンジは、同じように雨をしのごうとする人々でいっぱいで、ようやく見つけた開いているソファーに2人で並んで座った。人々の熱気と、湿気の生でなんだか蒸し風呂にでも入っているかのような室内だった。
「どう?アメリア。何か飲む?」
「いりません。なんかそういう気分じゃなくて」
アメリアと呼ばれた少女は、首を振ってこたえたが、それを質問した少女は彼女の顔色が悪い事に気がついて慌ててもういちどきいた。
「何か顔色悪いよ?どれどれ…」
アメリアの額に自分の手のひらを当てて熱を測った。自分の額と比べてみたが、明らかにアメリアのほうが熱かった。
「熱あるじゃない!この雨の中歩いてきたからねっ。まってて、あったかい飲み物買ってくるから。」
「リナさん…」
いつもは、守銭奴というべく極力お金を使うのを嫌がる少女が、自ら飲み物を買ってきてくれるという、少女らしい気遣いに、アメリアは嬉しくなった。
やっぱり、リナさんはすごい人だ。
そう思うとなぜか胸が温かくなるのだった。そうして五分ぐらいまった事だろう、なかなか戻ってこないリナを心配していると、突然黒服の男たちにアメリアは囲まれてしまった。何者か問う暇もなく、いきなり口と鼻に布切れを押し付けられると、意識が遠くなるのがわかった。
混んでいたスタンドから、2人分のホットコーヒーを買って、アメリアの居たソファーに足を向けたリナは、彼女の姿が影も形もなくなっている事に気がついた。どこにいったのか、近くに居た人に聞いてみると、知らぬ存ぜぬで通すばかりだ。ようやく足取りが分かったのは、赤いスポーツカーを運転していた茶色い髪の女性で、黒服の男の四人組みが、十代半ばの少女を抱えるようにして、黒塗りの車に押し込め、ものすごいスピードでここから去っていった事だった。リナは走り去っていった方向を聞くと、そのままそれを追うかでも言うように走り出した。
アメリアが座っていたソファーの近くに居た人々はこんな会話をしていた。
「誘拐事件じゃないのかね。」
初老の男性の声だ。
「でも、連れ去っていった人たちは警察関係者といっていましたし、ああ見えてあの子犯罪者じゃないのですか?」
リナが居たら顔面を殴り飛ばしていそうな台詞を言ったのは、三十代後半の男だった。


アメリアを連れた黒塗りの車は、高速道路の制限速度を大幅に越えたスピードで疾走している。後部座席にアメリアが居て、その隣に黒服の男が座っている。そして助手席にも同じような黒服の男が居た。運転している黒服の男が、今見たサイドミラーの状況に一瞬びっくりしたが、また見えなくなったので、幻覚かと思っていたら、今度はより近くに見えたので、仲間たちに知らせた。
「人が、女が、追いかけてきている。」
「なんだって?時速200キロは出ているんだぞこの車は?!」
助手席に座っていた男が罵声を浴びせてサイドミラーを見た。そして、ぽかんとOの字に口を開けた。
攫ってきた少女と同じ年ぐらいの、紅茶を薄く入れた髪の色をした少女が、このどしゃ降りの雨の中、髪の毛をなびかせて、ものすごいスピードで疾走しているのだ。とても人間の出せるスピードではない。男がよく見ればそれは疾走しているのではなく、空中を飛んでいるのがわかったが、そんな事を悠長に考えている余裕はなかった。
助手席の男が窓を開け、拳銃を胸のポケットから出すと、狙いをつけて発射した。当たったかのように見えたが、たやすくよけられてしまったようで、なおも少女は車との距離を縮めてきた。
まだ発砲してくる男を素手で殴り飛ばして、車のドアを開けると、不敵にもそのまま腰を下ろして後部座席に振り向いた。瞳には、ルビーのように美しいきらめきに、好戦的な光が輝いていて美しかった。口元に、余裕の笑みが浮かんだ。
「さっさと返してもらいましょうか。大事な友達だし、無事に帰さないとこの子の父親何やらかすかわかんないわよ?」
訳の分からない悲鳴を上げて至近距離で発砲しようとした男の手をすばやくたたくと、口の中で何かつぶやいて、手のひらを向けた。そこから強風が吹き荒れ、男は車の後部座席のドアと共に、高速道路に落ちていった。リナは、ちらりと運転手に視線を向けた。運転手は声にならない悲鳴を上げた後、狂った音程で脅迫まがいの事を言ってきた。
「お…俺に何かしてみろ。この車はガードレールにぶつかって一巻の終わりだ。もちろん車止める気もない。おとなしく…」
男の台詞が途中で終わってしまったのは、リナが後部座席に移動して、アメリアを抱えあげているところを見たからだった。
「別に止めなくてもいいわよ。勝手に降りるから」
悪魔のような微笑みをして、外れてしまったドアからひらりと体を外に投げ出した。道路に叩き付けられ、夜の闇に消えるはずだった少女は、常人ではなかったため、そんな事にはならなかった。さっきと同じように空中を浮いている。
リナは、そのまま高速道路をアメリアをおぶって疾走した。中には、疾走する少女に気がついて目を丸くするものもいたが、リナがそれににこやかな挨拶をしたのと、幻覚というすばらしい現実逃避の言葉があったのでたいした騒ぎにはならなかった。
その後しばらくして、十代の女の子2人ずれの幽霊が出るといううわさがこの高速道路沿線に立ったのだった。


この2人は、東京都中野区にある閑静な住宅街に住んでいる。今の日本の住宅事情なんか無視した大きな家が彼女たちの住んでいる家だった。明治初期に建てられた家で、確かにあちこち古いが、堅牢で、関東大震災のときも倒れなかったというすばらしい家だ。この家の持ち主は、アメリアの父親なのだが、リナは、両親が海外出張、姉が海外留学という生活を送っているので、幼なじみで、昔からの付き合いもあるセイルーン家に下宿しているのだった。
ほかにもこの家には住人がいて、アメリアの父であるフィルが、せっかくの大きい家だから学生に勉学に励んでもらおうと、下宿として何へやか貸していた。今は、リナのほかに2人いて、ガウリィ=ガブリエフと、ゼルガディス=グレイワーズだった。
アメリアを抱えて、大きな扉を開けた。普通の家なら扉の開く音もしそうだが、この家は完全防音になっているのでさほど大きな音はでない。だからこうしてそっと入る事も可能なのだ。アメリアを廊下に寝かせ、ぬれた上着を脱ごうとしていたら、頭上から声がかかった。
「ただいまも言わないつもりか?こんなに帰るのが遅くなって、フィルさんすっごく心配していたぞ。」
月の輝きを思わせるシルバーブロンドに、色の焼けない体質なのか、透き通るように白い肌。三白眼で、瞳の色は、海のように深い色をしている。二十代前半の、女の子が騒がずには置けない容姿の持ち主だ。
「た…ただいまゼル」
リナが薄手のコートを脱いで水を払って、靴下を脱ぎながらいった。
「何かあったんだろ?」
「アメリアはちゃんと守ったから心配しないで」
濡れた髪をうっとおしそうにしているリナに、ゼルはタオルを差し出すと、アメリアを抱えあげた。
「部屋に連れておいておこう。お前もさっさと着替えてフィルさんに事の次第を説明するんだな。」
リナはタオルで髪の水分を拭き取りながら、ゼルの後ろ姿にあかんべーをした。そして、自分の部屋にあがって、濡れた服を脱ぎ捨てて温かい衣服に着替えて部屋の外に出ると、下からいい匂いがしてきた。その匂いが健康な少女の脳神経を刺激して、空腹感を感じさせた。つられるままに下に降りていくと、ダイニングルームには、人影があって、どうやらその人物がリナのために夕食を作ってくれているようだ。
押さえ切れない欲望に、そのままドアを開けた。中では、宵の開ける寸前の空の色をした髪を、肩で切り揃えていて、糸のように細い切れ長の目は漆黒の闇のようで、街を歩けば、たいていの女の子が振り向きそうな容姿を持った男が、ピンク色のフリルのついた、エプロンを着けてスープ皿をテーブルに載せたところだった。
「お帰りなさい、リナさん」
「ただいま。ゼロス」
正直、リナはここに血相を変えたフィルが仁王立ちしているのではないかと考えたが、どうやら予感は外れたらしい。ほっと一息ついて、席に就いた。
「わざわざ、来てくれたの?」
「フィルさんから電話がありまして。心配したんですよ。みんな」
自分の心情を吐露してしまった事に対する、付け足しをしたが、リナには、この従兄弟が本当に自分を心配してくれていた事が分かっていた。まるでお兄さんのようにいつも見守っていてくれる人。今は、セイルーン家に住んでいる人を文化的に支える会、会長を自認している。そろいもそろってセイルーン家に住んでいる人々は、ほかの科目はいいくせに、家庭科の成績が悪いので、少しでもおいしいご飯を食べてもらおうと、リナの従兄弟であるゼロスが休みとなると、おさんどんをやってくれるのである。
リナは、この従兄弟に対して、単なる幼なじみとは言い切れない複雑な心境を持っているのだが、強力なライヴァルがいないのと、こういう事に関しては疎いので、何事も起きずにすんでいる。どうやら、ゼロスもリナの事を思っているようだが、知らぬは当人たちばかりという状態が長く続いていた。
温かいコーンスープを口にすると、冷え切っていたからだの芯まで温まってくのがわかる。ゼロスの料理のうまさに毎回感心しながら、リナはパンをちぎった。
「フィルさんは?」
「今、ガウリィさんがなだめてますよ。」
やっぱり血相変えていたんだ。
リナは首を縮めて、ゼロスのほうを向くと、いつもの人懐っこそうな笑顔を見せて、リナにいった。
「大丈夫ですよ。正直に話せば。」
「…………そりゃあ、そうだろうけど…」
「どうしたんです?」
「恐かった」
「……………………は?」
常識では絶対にいいそうにない言葉をリナが口にしたので、ゼロスは聞き違いかと思って聞き返した。
「恐かったっていってんのよ。あんな事があって」
声を張り上げて訴えた少女を見て、強がってはいてもやっぱり女の子だなとゼロスは思う。そのかすかに震えている少女の髪を優しくなでてあげると、震えはぴたりと止まった。
満腹になった事で多少の心の余裕も出てきたのだろう、リナは、フィルとガウリィのまっているリビングルームに向かった。
部屋に入ると、深刻そうな表情とこれ以上ないくらいの暗い雰囲気で2人は出迎えた。
「あの…えっと」
リナが言葉に詰まっていると、フィルが口を開いた。
「何か、あったのだろう。お前さんや、アメリアが約束を破るなんてことはしないからな」
フィルから寄せられている信頼感にリナは嬉しくなった。
やっぱりこの人は、もう一人のあたしの親だ。
リナはそう思った。彼女の両親は、海外出張が多く、リナはその度にセイルーン家に出入りしていた事があった。いつもフィルは温かく迎えてくれて、アメリアと同じように誉めてくれたり叱ってもくれた。
一度、海外に永住するという話が出たとき、リナは泣いて抗議をしたものだ。ひとつの理由は、このままアメリアとはなれてしまうのが嫌だった事。もう一つは、従兄弟のゼロスと一緒にいられない事。結局、フィルがとりなしてくれて現在に至るのだ。リナは、セイルーン家で、空の青さ、光の尊さ、闇に対する恐怖、その他すべての感情を得た。ここは、もはや彼女にとってもう一つの家で、これからもそうであるはずである。
「実は…」
事の次第をリナはかたった。
「奴等が何者か聞かなかったのは、リナらしくない手落ちだな」
ガウリィがいった。
「どうせ下っ端よ。何も知らされてはいないわ。あたしのする事にいちいち驚いていたもの」
セイルーン家に関わる人々は、人には言えない事があるのだ。超能力とも言うべくおかしな術が使えてしまうのだ。尋常では考えられない運動神経と精神力、生体兵器といっても可笑しくはない。彼らは、普通の人間として演じていたが、どうやらどこかでこれがもれてしまったようだ。従兄弟であるゼロスも、不思議な術が使えた。彼の母親、つまり、リナにとっては、叔母に当たる人が、リナたちの通う学校の理事長だったおかげで、リナたちの身体的な異常をもみ消してくれた事もあった。身体計測なんかがもっともなもので、血液検査を行った結果、彼女たちの血液に含まれる赤血球の量が通常の人間の50倍以上あったのだ。直ちに理事長はそれをもみ消した。特権の行使という、彼女が嫌いとする事を、息子と、その友人たちに対して使った唯一の事だった。
「なんにせよ、その黒幕が、どれほどの大物か、明日分かるというものだ。何せ高速道路で四人の男が負傷しているのだからな。どの程度報道機関を黙らせるか、わかるというものだ。」
フィルの見解にリナたちも肯いた。アメリアを拉致したという事は、誰にも知られないように手に入れようとしたからに違いない。明日の朝刊が楽しみだった。

「それじゃあ、僕はこれで」
リナの無事な姿を見て安心したのか、ゼロスは帰ろうとしていた。彼の家はここから歩いて十五分ほどのところにある。いいとこのお坊ちゃんと見られても可笑しくはない大きな家に住んでいた。
「どしゃ降りだし、時間も遅い、とまっていったらどうかね」
フィルの言葉に、リナは少し頬を上気させた。
何もあたしの部屋に泊まるわけじゃないじゃない。
リナは高鳴る鼓動を押さえようと必死だった。ゼロスは、素直に好意を受ける事にしたらしく、フィルに空いている部屋を聞いていた。
「リナさん」
「は…はい」
突然声をかけられたので、声が上ずっていたかもしれない。そんな心配に気がついていないのか、ゼロスはリナの手を取った。
「ちょっと話があります」
そのままリナを引きずるようにダイニングルームに向かった。
リナの目には、ほほえましそうに笑う、フィルの姿が映った。
つづく




次回はいきなりゼロリナから始まると思います。
楽しみにしていて下さい。(爆)

トップに戻る
5294再掲示君の日常2Merry E-mail 10/10-21:21
記事番号5293へのコメント
君の日常2


ダイニングルームに移動した、ゼロスと、リナは、向かい合うようにして座り、ゼロスの入れた紅茶をすすっていた。紅茶から漂ういい香りが室内を満たしていた。
「どうやら、その時が近づいてきたようですね」
「その時?」
ゼロスはティーカップをテーブルの上に置いた。
「ルナさんが、留学する前に言っていたでしょう、“その時がきたら、あなたたちの一番大事なものを守りなさい”って。当時はなんだかわかりませんでしたけど、今ならなんとなく分かりますね」
「あたしたちが狙われているから?」
従兄妹の鋭い指摘と、打てば響くような会話のやり取りに、ゼロスは満足を得ながらその質問に答えた。
「どういうわけか、今日アメリアさんを狙ってきた人物は、明らかに僕たちの力を知っていた人物が黒幕です。普通、あんなに人の多いところで誘拐なんかしないものです。人々を黙らせる権力のある人、という事は、多少情報も通じているかもしれません。となると、…」
「どこからか、あたしたちの得意な能力を知り、それを欲したってわけね」
「ご名答」
にこやかに笑うゼロスを、リナはあきれたようにつぶやいた。
「茶化さないでよ」
「何にしても、これからは一人で行動しないほうがいいですね。僕もなるべく皆さんと一緒にいるようにしますよ」
「あーぁ、明日はとうとう春休み最後の日かぁ」
リナが伸びをしながら残念そうにつぶやくのを見て、ゼロスは2人のコップに紅茶を注ぎながらいった。
「ま、そうぼやかないでくださいよ」
「あんただって学校でしょ?」
「大学生は楽なんです」
リナは能天気そうに言ったゼロスの言葉に子供みたいに頬を膨らました。そして脳裏にこの間見た光景が浮かんだ。一回だけ、ゼロスの通う大学を見にいった事があるのだ。幼稚舎から大学院まである私立校なのだが、高校と、大学はキャンパスが隣り合っていて、高校にあがったリナは、同じく大学生になったばかりのゼロスを見にいったのだ。そこで見たのは、いつも自分たちと一緒にいるときのゼロスの雰囲気とは違って、とっても大人びた雰囲気で、周りに化粧品の匂いがしそうな奇麗な女の人たちを従えているのを見たのだ。声をかけようとしたが、言葉が出ず、結局影でその様子を見ただけで、黙って返ってきてしまったのだ。
彼女ができたといううわさは聞かない、いつできても可笑しくはないとリナは思っていた。複雑な思いと、多少の心の痛みを覚えながら。
「もう寝るとするわ」
リナが、飲みかけの紅茶をすべて飲んで立ちあがった。
「僕と?」
いけしゃあしゃあと言う従兄妹にリナは手近にあったクッションを投げつけた。
「何馬鹿な事いってんのよ?!」
耳たぶまで赤くして抗議している。ゼロスはというと、平然として投げつけられたクッションをよけて、床に落ちたそれを拾い上げた。
「分かりました。あまり大声出すと皆さん起きてしまいますよ」
いつものにこにこ笑いをして、紅茶のカップを片づけるために立ち上がった。その姿に内心あかんべーをしながら、リナは部屋から出て、浴室に向かった。温かいお湯に、今日一日の疲れを流した後、リナは夢の世界に旅立った。


「さぁ。皆さん、起きて下さい」
朝から元気いっぱいの、はきはきした声がセイルーン家にこだましている。昨夜泊っていった、ゼロスが、休みのときの日課であるセイルーンいっかの家事をやっているのだ。
「起きたら、布団を干して、顔あらって、下に降りてきて下さい。朝食作りますから」
朝から活動的だな、と、セイルーン家の人々は思っている事であろう、しかし、生活を支えてくれるゼロスに罰当たりな事はできないので、仕方なく、眠い目をこすり、布団を干して洗面所にいく。
この家は、洋館風に建てられている事もあって、作り自体が普通の日本人の家屋より大きいのだが、日本人の平均身長を大幅に越える男が2人もいては、その事すら忘れてしまうほどだ。特に、洗面所なんかで、セイルーン家の主と、クラゲ頭の大学生が一緒に使おうものなら邪魔で仕方がないほどだ。狭い洗面所で五人並んで顔を洗う。これも休日のこの家の習慣みたいなものだった。
洗面所から、リビングルームに移動している間、とてもいい匂いが鼻孔を満たす。どうやらゼロスが朝食を作ってくれているようだ。
てきぱきと動きながら、あっという間に六人分の朝食が作り上げられていく。リナが、冗談半分でプレゼントしたひよこのアップリケ付きの、ピンクのフリルのエプロンを着けて、同じ色の三角巾までしている。傍目には、若奥様に見えてしまうのは顔のよさがなせる業なのか。
今日の朝食は、薄切りのパンを、カリカリにまで焼いたトーストと、ゼロス特性のマーマレードと、ブルーベリージャム、ボイルしたウィンナー付きの、スクランブルエッグ、ベイクドトマト、好みにより、紅茶かコーヒーがそれに添えられていた。イギリスの、一般的な朝食が並んでいた。普通、ベイクドトマトなんかは、イギリス人しか食べないようなトマトを焼いたものなのだが、ゼロスが作るおかげで、彼らはすっかり慣らされてしまっている。いつイギリスにいっても、平気で食べれるぐらいに。
「また焼きトマトか…」
ガウリイが、ちょっと引いたような声で言った。
「おや、ガウリィさんが好き嫌いなんて珍しいですね」
紅茶を一口すすって、ゼロスがいった。
「この…なんとも言えない味がな…」
「そうですか?あたしなんだかこのトマトの味、癖になってしまって」
アメリアが、おいしいともまずいとも取れる奇妙な表情をして、ホ−クでトマトをつついた。その横で、平気な顔をして、リナがトマトを食べている。
「好き嫌いをしていては、いかんぞガウリイ君」
豪快にパンを食べた後、フィルがトマトの味にげんなりしているガウリイにいった。
「好き、嫌いって言うか…これ本当にトマト?って感じの味だしなぁ」
隣で黙々と食べているゼルガディスに同意を求めようとしたが、ゼルガディスのトマトののっていた皿が空になっているのを見て、ガウリイはため息を吐いた。
「これでも、おれたちが作る朝食の何倍もマシだ」
ゼルガディスのもっともな意見に、ガウリイはトマトをつつきながらも食べた。

「それじゃあ、掃除しときますから、皆さん邪魔なので、外出ちゃってて下さい。お昼ごろ帰ってくればいいです」
ゼロスが、ピンクのエプロンを着けた姿で玄関まで見送りに来た。二時間の間にこの従兄妹は、全部屋の掃除と、洗濯および昼食のしたくという、主婦顔負けの家事をこなす。当然プライバシーを守るため、部屋の掃除いっても、それぞれの寝室は、床をちょっと奇麗にするだけだし、洗濯は、いくら従兄妹といえど、リナのは洗わないし、当然アメリアのも洗わない、用は、そういう事をおっくうにしてためてしまう男衆のを洗っているのだ。それでも、完璧というほどの家事の腕前で、「いいお嫁さんになれそうですね」と、アメリアに幾度となくいわれていた。
追い出されるように、外に出てきたリナたちは、それぞれ思い思いに時間をつぶす事にした。フィルさんは、知り合いの新聞記者に会いにいったし、ガウリイは、日課のランニングをしにいった。ゼルガディスは、学校の図書館にいくといっていたし、結局やる事がないのは、リナとアメリアだけなのだった。
「どうしましょうか、リナさん」
「どうするも…、映画でも見に行こうか」
近くの映画館で、ちょうど、面白そうなのをやっている事に気がついた2人は、今人気の俳優の出ている、「歴史的スペクタクルロマン」と銘打っている、映画を見にいった。その時はちょうど、女性が割引をされる日で、得した気分で2人は見たのだった。
「…つけられているようですね」
「さえているわね、アメリア、朝からずっとそうよ」
映画を見終わって、そろそろおなかも空いてきたころだから家に帰ろうとしていたとき、人込みの中を歩きながらリナは後ろを振り返らずにいった。いたってまともな服装をしているが、眼光の鋭さと筋肉質な体型を見る限り、力仕事専門といっているようであった。
「ちょっとおちょくってみようか?」
「……何時までもつけられているのはいい気がしませんしね」
話していないように装いながら会話をしていたが、突然2人は駆け出すと、人の少ない裏通りに入っていった。それを追うように、怪しげな男たちが5人裏通りに入った。男たちは、つけまわしていた少女たちが待ち構えているのを見て、少し驚いたが、人目も少ない裏路地という事もあって、多少の暴力が震えるので、舌なめずりをした。天性のサディストといってもいいだろう。
「おじさんたち、どこの人の下僕なわけ?」
瞳に好戦的な輝きを灯して紅茶を薄く入れたような髪をした少女が聞いた。男たちは、その挑発に多少は頭に来たようだが、まだ、冷静さを失ってはいないようだ。
「いたいけな女の子を付け回すとは、それはすなわち悪!そんな事、この私が許さない。正義の鉄槌を受けてみなさい!!」
アメリアお決まりの、指差しポーズをして男たちに胸を張った。男たちは、生け捕りという当初の目的を果たすため、有無を言わさず襲ってきた。年端もいかない女の子2人組みの言う油断もあったのだろう、いつも使っている武器を出さないでの行動だった。しかし、それが後悔につながるのは、わずか一分にも満たない時間の間にあった。
アメリアが、まるで舞を舞っているかのような身軽さで、近づいてきた男を殴り飛ばした。うめき声を発して、後ろに少し吹き飛んだ後、地面に墜落した。
その男を見て、ほかの男たちが躊躇したすきに、リナがぶつぶつと口の中で何かを唱えると、両手を彼らに向けた。
すさまじい轟音と、強風がそこから吹き出した。竜巻のような現象をこの少女は作り出してしまったのだ。今の科学では行えない事が、この少女はできてしまったのだ。恨みがましい悲鳴を残して彼らは遠くに吹き飛んでいった、空高く。
2人はたいした運動にもならなかったと思いながら、アメリアが殴り飛ばして気絶させたため、唯一吹き飛ばなかった男を起こして尋問した。
「さ、どこのどいつがバックについているかはいてもらいましょうか」
男はひえええっ、というなさけない声を出して、ヘビに睨まれているカエルのような表情をしている。リナがこの男の足を軽く蹴ると、気絶寸前までおびえきってしまった。
「いいます…いいます…わたくしめは、ヘルマスター様の配下の者でございます…」
「ヘルマスター??だれよそれ?アメリア知ってる?」
「しりませんよ」
リナは、これ以上この男からえるものがないと分かると、みぞおちをなぐって、気絶させると、アメリアを伴って家に帰っていった。
「今朝の朝刊見た?」
「みました。のってませんでしたね、昨日の事」
「その、ヘルマスターってやつ、結構大物ね」
玄関のドアを開けて、中に入ると食欲をそそるいい匂いがしてきた。リナは、駆け出して食堂に向かった。勢いよくドアを開けると、そのまま踊り込んだ。
「いい匂い」
「お帰りなさい、リナさん。もうできましたよ」
「さっすがゼロスね。相変わらずいいうでしているのね」
「リナさんにそう言っていただけると嬉しいですよ」
ピンクのエプロンを外してゼロスは腰を下ろした。
「ほかのひとたちは?」
「まだ帰ってきてはいないようですよ」
リナは、肯いて腰を下ろした。気まずい沈黙が訪れる。何を話すというでもなく、ただ黙っているのだ。アメリア、なんで入ってこないのだろう。リナは重苦しさに耐え兼ねるようにそう思った。沈黙を破ったのは、ゼロスだった。
「今日の午後、暇ですか?」
「ひ…暇だけど」
リナの声が微妙に上ずっている。その事を意に介した風でもないゼロスは、にっこりと笑っていった。その笑顔が、なぜかリナには眩しく感じて。
「どこか気晴らしに遊びにいきましょう」
「どこいくのよ」
「買い物でもいいですし、リナさん行きたいところは?」
昨日の事と、今日の事で神経が高ぶっている自分を気遣っているのだと気付いたリナは、照れ隠しのために赤くなってしまった顔を背けて、きつい口調で言った。
「あなたのいないところよ」
「そんなこといわれましても…リナさん??」
いぶかしげに聞き返したゼロスは、リナが少し様子が変な事に気がついたようだ。わざわざ席をたってまで、リナの顔を覗き込もうとした。それにつられるようにリナも顔を背けた。ゼロスは、両手でリナの顔を自分のほうに向けさせて覗き込んだ。
「顔赤いですよ。熱でもあるんじゃありませんか?」
「なんでもないわよ」
急に近づけられたゼロスの顔のアップにどぎまぎしながらリナはつぶやいた。声がいつもより少し高くなっている。
「ほんとうですか?」
疑わしげにいいながら、ゼロスは自分の額をリナの額にくっつけた。
リナは、声にならない悲鳴をあげて、離れようともがいたがゼロスにはばまれてしまってそれもままならない。
「昨日雨の中帰ってきたから、風邪でも引いたのではないのですか?部屋で休んだほうがいいですよ。昼食はぼくが後で持っていきますから」
リナは顔を赤くして硬直したままゼロスの話を聞いている。
「立てます?」
ようやくゼロスが離れたかと思ったら、あまりの事にびっくりして腰が抜けてしまったようで、力が入らず立てない。ゼロスは、熱の生で立てないと思ったのだろう、いきなり、リナを抱えあげた。
「ちょ…ちょ…と?!」
ようやく出せた声は、鳥が囀るほどの微量の声で、ゼロスに抗議するのには不十分だった。そのまま、軽々とゼロスはリナを抱えたまま、食堂のドアを開けた。
ドアにごちんと何かが当たる音と、人の悲鳴がした。リナとゼロスが見ると、どうやら立ち聞きしていたらしいアメリアとゼルガディス、そしてガウリィがいた。アメリアにドアが当たったみたいで、アメリアは頭をさすっている。
リナはますます体温が上昇するのが分かった。今、あたしはどんなに赤い顔をしているだろうと、考えながら。ゼロスは悪びれた様子もなく、そのままリナを連れて部屋に向かった。
リナはみんなの視線が痛くて、顔を隠すようにゼロスの胸に顔を埋めた。
……ゼロスの匂いだ。
リナは顔を埋めながらそう思った。嫌な匂いじゃない。小さいころからかぎなれていたからかもしれない。でも、なんだか落ち着く、安心できる匂いだった。
「リナさん……」
ささやくような優しい声が耳元でして、リナは半分だけ顔を上げた。そこには、普段見られないような真剣な表情をしたゼロスが、リナの顔を覗き込んでいた。闇色の瞳に点る優しい光。わずかに藤色を帯びていて、リナはその瞳が好きだった。
リナは、引き付けられるようにその瞳をじっと見つめた。


つづく





トップに戻る
5295再掲示君の日常3Merry E-mail 10/10-21:23
記事番号5293へのコメント
君の日常3


リナは、その藤色帯びた闇色の瞳に魅入られていた。今は、彼の腕に抱き上げられ、自分の部屋の前にいる。明かり取りが少ないので、この廊下は昼間でも少し薄暗い。普段のリナならそんな事意にかえさないのだが、このシチュエーションでは意識せざるを得ない。ゼロスは再びリナにささやいた。
「リナさん…」
「ゼロス…?」
「すみませんが、ドア開けてくれませんか?」
いつものにこにこ顔でいうゼロスにリナは拍子抜けした。そんな事をこんな雰囲気の中で言わなくてもいいのに。ゼロスの思惑はどうであれ、リナはびくびくいっている心臓をおとなしくさせようと懸命に押さえながら、自分の部屋のドアを開けた。
清潔なベッドの上にゼロスはリナを寝かせた。毛布をかけてリナの顔を再び覗き込んで、ゼロスはいった。
「昼食はぼくが持ってきますから、安静にしていて下さいね」
そのまま出て行こうとするゼロスの服のすそをリナがつかんでひっぱた。びっくりしたように振り向くゼロスにリナは不機嫌そうに抗議した。
「知ってるんでしょ?」
「なにがです?」
「あたしが、風邪を引かない体質だって 生まれてこのかた、一度も病気をした事がないって、そして、ゼロスもそうなんだって」
ゼロスは、ベッドの横に腰掛けると優しく言葉を紡いだ。
「知ってます それが、特異な力を受け継いだ僕たちだから起きてしまう事だという事も
でも、病気って体の事をさすだけじゃありませんよ ……リナさんは、昨日の事で、誰よりもアメリアさんの事を心配したのでしょう?」
リナは布団に顔を埋めながら耳を傾けている。
「だからご自分で助けにいかれた そして今日も、昨日の事がないようにわざわざアメリアさんと行動を共にするようにした そんなに周りに気を配っていては神経が疲れた当たり前です 危険を事前に察知しようというのはすばらしいですが、それではいざって時に的確な判断ができませんよ だから休んで下さい」
ゼロスが部屋を出ていく音がした。ドアが閉まる前にリナはつぶやいた。
「ゼロス…ありがとう」
その声は彼風に乗って彼に届いただろうか。
リナはまだ、腕や足にゼロスのぬくもりが残っているような気がした。生まれてからの付き合いのある従兄妹。小さい頃は、リナの後をちょこちょことついて一緒に歩いていたゼロスというイメージがリナの中にはある。事実そのとおりで、近所の子に、「女顔、色白!」
「弱虫!」と、いじめられて泣いていたゼロスを何度もリナが助けに入ったのだ。
「ゼロスをいじめるやつは許さないぞ!!」
「わぁ!ドラまたリナだ!」
その頃からおてんばとしてなをはせていたリナは、あっという間にいじめっ子たちに仕返しをしてゼロスを守っていたのだ。その強い姿を見て涙目をしながらゼロスはいったものだ。
「ありがとう、リナさん 僕大きくなったら、リナさんのお嫁さんになりたいです」
「だめだめ、その頃あたしは世紀の悪女になっているんだから お嫁さんなんかいらないもん」
突然思い出したセピア色の思い出に、リナは苦笑した。懐かしくて、くすぐったいような気分と砂と風の匂いを思い出した。本当にお嫁さんになるわけではないだろうが、ゼロスの家事の能力はリナの能力の一歩上を行く。複雑な思いをはき捨てるようにリナは大きなため息をした。
同時に部屋のドアがノックされた。返事をすると入ってきたのは食欲をそそるいいにおいと、リナのお嫁さんになると宣言した青年だった。
匂いからしてゼロス特製のコーンスープが運ばれたようだ。
「食べますか?リナさん」
「もちろんよ」
起き上がって自分で食べようとするのをゼロスは止めた。
「なにすんのよ」
「まぁまぁ、リナさん」
ゼロスはリナからスプーンを取り上げて、自分でスープをすくい上げると、息をかけて軽く冷ました後、リナの口元に持っていった。
「はい、あーん」
「ちょ…ちょ…とっゼロス」
頬をばら色に上気させて、世紀の悪女になるといった少女は抗議した。
「いいじゃないですか それに、僕一度このシチュエーションやってみたかったんですけど、リナさんたら丈夫なんですから」
「そんなことしてみたいなんて思うなー!!」
「いやですねぇ お嫁さんといえばこういうシーンに憧れるものです 愛しいだんな様に物を食べさせるってシチュエーションに…」
「誰がだんなよ!!…… あんた…!小さい頃のあれ、覚えて…?」
「今ならいいお嫁さんになれそうですよね?家事もばっちりですし」
リナは直接その質問には答えずいった。
「…一回だけよ」
そういって、ゼロスのもつスプーンに口を近づけてスープを飲み込んだ。そしてゼロスからスプーンをひったくると、自分で食べ始めた。顔が赤くなっているのを見られないようにそっぽを向きながら。それを嬉しそうに見つめていたゼロスは、リナの頭をなでると、部屋から出ていった。その時ドアに何かがぶつかる音がしてリナは振り返ると、またしても、アメリアが立ち聞きしていたらしく、頭を抱えて座り込んでいた。
「アメリアさん 立ち聞きは行けませんよ よければ今度は部屋に入ってきてくれてかまいませんよ あぁ、アメリアさんには刺激が強いかもしれませんねぇ」
とんでもない台詞にアメリアとリナは顔を赤くしてゼロスのほうを向いた。リナは枕を投げつける体勢に入ったが、ゼロスがドアを閉めてしまったので、そのままむなしくドアに枕が跳ね返った。アメリアは呆気に取られて、階段を降りていくゼロスの後ろ姿を見守った。
その頃、新聞記者の友人に会いにいっていたフィルが帰ってきた。アメリアが今日あった事をフィルに話している声がリナのところにまで聞こえた。フィルは、その友人に頼んで、報道機関を黙らせてしまうような人物について知識を得てきたようだった。どうやら、今朝、アメリアとリナを襲ったヘルマスターという人物が最有力候補だったらしくて、その人の資料が一般的に公開されている人物辞典のコピーをフィルは取り出して、読んで聞かせた。
フィブリゾという人物で、戦中戦後の混乱期を利用して財界の大物になったという人物で、一応教育者として名前が出ている。しかし実際のところは、日本の政治家や財界などを裏から操る黒幕の存在だった。
「こんな奴等が俺達を狙ってもな」
「しかし、俺達の力を狙っているとしたら厄介だぞ」
「アメリアの例もある、お前さん達気をつけてくれよ」
フィルの言葉に頷いた三人は、何とは無しに顔を見合わせてため息を吐いた。

誰かに狙われているとしても時間は経つわけで、翌日新学期初日を迎えてセイルーン家では、一斉に学校に出ていく学生の姿が見受けられた。四人とも、ゼロスの母親が理事長をしている学校に通っていた。小さいながらも自由な校風の学校で、幼稚舎から大学院まである私立校だった。ガウリイとゼロスは大学部、ゼルガディスとリナ、アメリアは高等部に所属している。何とか遅刻せずにすんだようであったが、ゼロスは珍しく高等部のリナのところまでわざわざ出向いて話があるといってきた。
立ち話も何だからと、お昼休みになったので、食堂にいって話をする事にした。時間が早いのか人はまだ余り多くなく、リナはいつものように三人前の定食を頼んでいた。
「用って何よ」
ゼロスは何か言いにくいのか言葉を濁している。それにいらいらしてリナはまた聞き返したが埒があかない。
「言いたくないのなら呼び出さないでよ」
リナがいらいらするのには、ほかにも原因がある。一つは、ゼロスがとても目立つ存在である事。女性徒の憧れの的はこの人独りに集中しているといっても過言ではない。それほど優れた容姿なのだ。もちろんリナなんかに言わせれば、性格を知らないからそんな悠長な事をいっていられるのよというだろうが。二つ目は、一緒にいるとその女性徒の嫉妬を買う事。嫉妬をするのはかまわないが、数を便りにいじめられても、思いっきり暴力で仕返しの出来ない分ストレスがたまるのだ。一度でいいから正面をきって殴り合いの喧嘩をその女性徒達としてみたいと好戦的なリナは考えてしまうのだが、もし、仮にそうなったとしても、負けるはずはないという自信に満ちていた。
「あの、その、僕、今度お見合いする事になりまして」
リナは口に入れようとしていたとんかつを一切れ落としてしまった。
「は?!」
「だから、お見合いする事に…」
「そんな事は分かってるわよ、だからなんであたしにいちいち報告するの?!」
ゼロスは口をつぐみ、じとめでリナを見つめた。
本当は、リナに嫉妬をしてほしかったのだが、そうはうまくいかないようだった。
「どんな女の人?」
興味津々という表情でリナは目を輝かせて聞いてきた。ゼロスは短くため息を吐いて、自分の気持ちを押え込んだ。そうでもしないと何を口走ってしまうか分からなかったからだ。
「リナさんは、そういう対象として僕を見てくれないのですか?」
ゼロスは、そうはっきりと聞きたかった。しかし、それを喉の奥に押しやって、かわりに出た言葉はこれだった。
「リナさんには、関係ないでしょう」
それはゼロスにとっても予期していない言葉だった。散々考えたつもりだったのに、一番最悪な選択をしてしまうとは。なんて情けないのだろうと、ゼロスは後悔した。リナの目が、開けるだけ見開いたあと、急に目が細くなり、瞳は、まるで炎に映えるルビーの色をしていた。
「な…!!だったら呼び出さないでよ!この馬鹿ぁ!!」
食事のトレイを持ち上げて、歩くのと走るのとの中間の速さで、リナはそこを去っていった。ゼロスは、しまったという表情をしたまま、その小さな後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。

つづく

トップに戻る
5296再掲示君の日常4Merry E-mail 10/10-21:24
記事番号5293へのコメント
君の日常4


リナは、その日、理事長に呼び出された。呼び出されたというよりも、遊びにおいでという誘いだったが、リナにはどうしても呼び出されたと考えてしまうのだ。理事長は、ゼロスの母親であり、リナの叔母に当たる。あんなふうにゼロスと喧嘩してしまったのに会うのは気がひけた。しかし、会わないというわけにもいかないだろう。何といっても、ゼラス叔母様の怖さは、リナが一番よく知っていた。
リナは、お見合いの事は聞かなかった事にして、何食わぬ顔で、理事長室に入っていった。いつもとかわりない、笑顔が叔母の表情から見えて、リナは内心安堵した。ゼラスは、とても二十代の子供がいるとは思えないほど、若く見える。すくなくとも三十で充分通じる肌の艶と張り、白髪など一本もないように見える美しいフレアブロンド。そして、何よりも、太陽の照らす海のようにきらきらと輝き、深い色をたたえた瞳が年齢よりも若く感じさせた。唇には、鮮やかなばら色の口紅が塗られていたが、それが嫌みに見えないのが、この叔母のすごいところであった。
「どうぞ、座って頂戴」
自ら、リナにお茶を入れながら、めで、あいているソファーをさした。
「ゼロスが迷惑かけていないかしら?」
「叔母様、そんな事…」
あります、と答えたいのを、喉の奥に押さえつけながらリナは答えた。こうして、しおらしくしていると、リナが不思議と育ちのいいお嬢様に見えてしまう。
「そう、ならいいわ そう、ケーキを買ってあるの、リナさん食べるかしら?」
「ええ、いただきます」
そこからたわいない世間話が始まる。リナは、ゼロスのお見合い相手がきになったのだが、わざわざ聞くのもなんだし、どうして知っているのかを聞かれたら必然的にゼロスと喧嘩した事も話さなくてはならないだろう。それを知ってゼラスが怒るという事はまずないといえる。しかし、その起こった事に対してゼラスがからかってくるであろう事を予想して、リナは今一つ素直に聞けないでいた。しかし、好奇心がまさったのと、ゼロスが承知した相手とはどんなものかと思い、胸にかすかな痛みを覚えながらなるべく不自然にならないように尋ねた。
「ゼロス…今度お見合いするんですね」
なるべく自然にふるまっていたリナだが、両手が強くこぶしが握られているし、少し声も震えていた。ゼラスは、そんなリナの態度にこらえきれずに笑い出してしまった。
「聞きたいのなら、素直にあの子に尋ねればいいのに まぁ、喧嘩してしまったのなら仕方ないでしょうけど」
「叔母様ご存知だったの?!」
「あなたのその態度で推理したの 私の世間話ほとんど上の空だったでしょ ゼロスの態度も子供っぽいすねかたしていたし リナさんと喧嘩したときの態度あの子は変わらないわね すぐ拗ねるし すぐにぴーんと来たわ、見合いの話だってね」
「それならすぐに教えて下さっても」
「それじゃあ、わたしがつまんないでしょ」
鈴が鳴っているかのように優雅な笑いをゼラスはした。リナが真似したくてもできないと思っている事の一つだ。
「お見合いの話を聞いたときのゼロスの返答知りたくない?どんな相手か知りたくないかしらぁ?」
「知りたくないです」
ここで、拗ねてしまうあたり、リナとゼロスは従兄妹というのがうなずける。リナは、むくむくと膨れ上がる好奇心と、同じように膨れ上がる別の感情に、押し切られて、ついには肯いてしまった。
「あの馬鹿息子ったらぁ、開口一番写真も見ずに、僕はそんな人と、お見合いなんてしたくありませんって言うのよ こっちの都合も考えずに」
「都合ですか?」
「断りきれないところから無理矢理やってきた話なのよ」
この叔母さんが断りきれないなんてどんな人なんだろうとリナは考えた。
「何でも、代議士のオエライ方のひとりで、最近妙にうちの学校に接触してくると思っていたら、インバース家の力とその仲間の力を欲しているようじゃないの」
リナは別に驚きはしなかった。ゼラスは、結婚して名字が変わったが、この人ももとはインバース家の一族だ。不思議な力があって、その力ゆえに悩み事があっただろうし、ゼロスから最近身の回りで起きた事に関する情報も聞いていたに違いない。
「そんな奴等の言う事だから、断ってもよかったんだけど、報復がねぇ…」
「恐かったんですか?」
そんなわけはないのでしょうといいたげなリナの顔つきが、どことなくゼロスに似ている。
「恐くないわよ。でも、報復してきた奴等を思いっきりふっ飛ばしたりしたら、それこそ相手の気を引くってもんよ だから見合いを受けてくれるようにゼロスにいったんだけど…」
ゼラスは、インバース家の血を濃くついているみたいで、人に膝を屈しるのが嫌だった。何より、権力を握り、自分を偉い人間だと誤解して弱者をいじめるようなやからが特に大嫌いで、今までも、この立地条件のよい位置に建っている小さな学院を狙ってやってきた大小さまざまな権力者達の魔手から守ってきたのは、ひとえにゼラスの才幹と、特殊な能力ゆえであった。
「写真見る? 結構かわいい娘なんだけど」
ゼラスの態度が一変して、まるでいたずらっ子のような微笑みをした。
「…みたいですわ」
リナは無理に平然とした態度をとったが、声がわずかに震えている。
ゼラスが見せたのは、お見合い写真というわけではなくて、そこら辺にあるスナップ写真だった。その中央に写っている少女は美人といっても可笑しくないぐらいの少女で、リナよりほんの少し年上という感じだ。
「シェーラっていうのよ あの有名なグラウシェラー幹事長の娘よ」
「そんなお嬢が、ゼロスとお見合いですか?」
不信そうな声をリナが出したのに気がついたゼラスは、音が出そうなウィンクをして言葉を続けた。
「そのくらい、力を欲しているって言う事よ それに、グラウシェラーは明らかにフィブリゾとか言う野郎の、捨て駒だわ 」
「 部下じゃないんですか?」
「部下だったら、わざわざこんなせこい真似させないと思うわ………あぁ、お見合いの事なら安心していいわよ 見合いの後断ってもいいってゼロスにはいってあるから よかったわねぇ、リナさん」
「な…っなんのことですかっ…叔母様!!」
「私だって、こんな軟弱そうな子よりも、しぶといぐらいの娘がほしいわ」
リナのほうを向いて意味深に笑った。
「だって、物分かりの悪い母親になって、結婚の邪魔をしてやりたいし、嫁いびりという事もしてみたいわ…世間のたしなみですものね…」
「…ぞれ全然違いますよ…叔母様…」
自分がゼラスにいじめられている図を想像してしまって、あまりいい気分ではないリナである。しかし、すぐにその考えを振り払った。嫁いびりという事は、ゼロスと結婚するという事ではないかっ。冗談ではない。リナにも、一応理想の男性というものがいて、白馬の王子様というわけでもないが、いつか迎えに来てくれる素敵な人、と夢見る乙女のごとく考えているのだ。それなのに、何が悲しくて、小さい頃からの腐れ縁のゼロスなんかと。
「それでは、叔母様、遅くなりますのでこの辺で」
リナは、これ以上からかわれない様に、あっという間に部屋から出ていった。


リナは、家に向かって、急いでいたが繁華街を通っているときに、裏路地のほうで、聞き覚えのある声と、聞きなれない男の声が数名聞こえてきた。リナは無視しようと思ったが、かなりやばそうな雰囲気を声に感じ取ることができたので、喧嘩した事を一時的に忘れる事にした。
どうやら、従兄妹のゼロスが、厄介ごとに巻き込まれたようで、柄の悪い、不良ですといわんばかりの学生服を来たガタイのいい連中に囲まれていた。一触即発という雰囲気で、全員身構えている。ゼロスが武道に強い事も、不思議な力を持っているからこの程度の人数じゃ傷一つつけられない事も知っているが、要は小さい頃からの習性がいまだに身についてしまっているのである。絶対に勝つと分かってはいても、なぜかリナの脳裏には、幼かったゼロスが半泣きでリナに助けを求めていた頃の事が浮かぶ。大体、リナはひとりじゃ、何にもできないくせに大人数になると、とたんに気が強くなり、どんな事でもしてしまうという輩が、大嫌いだった。
「ちょっと、その人数でひとりをいじめようって、ひどいんじゃないの?」
「何だこのあまぁ?」
リーダー格らしい、無精ひげをはやした男が、普通の女の子だったら腰を抜かすような迫力でいった。
「リナさん…」
「お前の女か?」
ゼロスが、心配そうな表情を少しあらわすと、それを目ざとく見つけて、ほかの男がいった。
「こいつはいい…」
リナに対して、男達が無遠慮な視線を向けた。リナは確かに美少女と通るほどの容姿の持ち主で、ミニスカートから覗くすらりとした足を、男達は気に入ったようだった。
「お前の前でいたぶってやるぜ」
リーダー格の男が、ゼロスに向けて卑下た笑いを向けた後、リナには、欲望に歪み来た表情を見せた。リナはそれを鼻で一笑した。
「どうして悪党って、似たような台詞しか言わないのかしら…頭の程度が知れるわね」
「この女ぁ…やっちまえっ」
最初に飛び込んできた男には、顔の前で両腕を交差させ、パンチを防ぎ、そのままの体制で、男のみぞおちを蹴り上げた。嫌な肉の響きと、男の口から唾液が吹き出し、悶絶しながら地面に倒れた。あまりに見事な体の運び方に、男達は一瞬戦意がそがれた。その隙をリナが見逃すわけはない。あっという間に2人目を沈め、三人目にかかろうとして振り返ったとき、目が合った男から、意味を成さない奇声が発せられ、そのまま腰の骨が砕けたかのように男は地べたに据わり込んだ。リナは、わざと悪魔のような微笑みをして、その腰砕けになっている男の足を軽く蹴飛ばした。それだけで、男はそのまま意識を遠い暗闇の世界にあわせた。
その頃ゼロスも三人目であり、リーダー格の男を気絶させたところだった。
「大丈夫…?ゼロス」
喧嘩しているのが気まずくて、リナは目を合わせないようにそっぽを向いて聞いた。
「大丈夫です でも、リナさんあまり無理しないでください 僕は大丈夫ですから…」
「あんたねぇ、小さい頃の約束を忘れたとは言わせないわよ あんたの事はあたしが守るっていったじゃない」
「そうですけど…」
ゼロスは複雑そうな表情をしている。確かに、あの頃の力関係からすればそれが妥当なような気もするが、今は昔とは違う。ゼロスとしては女の子に、まして好きな女の子を守るのではなくて守ってもらうなんてことは男としてのプライドが許さなかった。
「それに、スカートで派手に喧嘩なんかしないでくださいよ 後ろ回し蹴りをするたびに目のやり場に困ったんですから 蹴られている男達はいい目を見ているようだし…」
ゼロスの台詞に、今更スカートのすそを押さえて、耳たぶまで鮮やかなばら色に染め上げたリナは、ゼロスを半分目に涙を溜めた状態で睨み付けた。
「あんたぁ…乙女の体を何だと思って…」
「あ…?見てませんて…ちょっと、うらやましいなとは思いましたけど…あ…あは…リナさん?」
リナと向き合っていたゼロスは、リナのただならぬ殺気に一歩一歩後ろに下がっていった。
「や…やだなぁ…うらやましくなかったですよ…」
「ほう…このあたしの…うらやましくなかったですってっ!!」
すでにリナの額には青筋が浮かんでいる。
「うらやましいっていったら怒ったじゃないですか………リナさん落ち着いて下さいってば…」
リナが問答無用で、懲りずに蹴り上げようとするのを、ゼロスは紙一重で余裕によけて、言った。
「怒った表情もかわいいですよ 特にその涙目で見られるとね なんでも言う事を聞いちゃいたくなります」
恥ずかしい台詞を、まったく恥ずかしくないかのように平然と言うゼロスの分までリナは顔を赤くした。顔を背けて、リナはつぶやいた。
「じゃあ、今度あたしと遊びにいきなさいよ日曜日暇なんでしょ」
「デートですね…ようやくその気に…」
「勘違いしないでよ、あたしが暇なだけよ」
「わかりました」
返事をするゼロスの顔が、嬉しそうににやけるのを見てリナは、念を押した。
「本当に違うんだから」
それでも、ゼロスのにやけ顔は家に帰るまで続いていた。

トップに戻る
5297しくしくしくしく・・・T−HOPE E-mail URL10/10-21:45
記事番号5296へのコメント
 こんにちは、T-HOPEです。
 「悠久の風」読ませていただきました。
 リナ、死んじゃいましたねぇ・・・。
 ヤン提督が死んだ時も大泣きしましたけど、今もかなり泣けてます。
 しかも、ゼロスの手にかかってだし・・・って、それはいいんですけどね。
 雑魚敵にあっさりやられてたら、それこそ泣き伏すしかできないですけど、ゼロス君の手でだったら、OKです。
 いや、気分的に・・・(笑)
 でも・・・しくしくしく・・・。
 自分ではもう何度も殺してるんですけど、やっぱり・・・泣けるんです〜。
 リナちゃん殺しちゃって、ゼロス君どう出るんでしょう?
 他の人達、どうするんでしょう?
 すごく・・・心配で、楽しみです。
 
 「君の日常」もすごく楽しくて好きですよ〜。
 初々しい(?)二人が可愛いですよね。
 
 ではでは、続きを楽しみにしてます。
 

トップに戻る
5324Re:どうもMerry E-mail 10/11-21:30
記事番号5297へのコメント
T−HOPEさんは No.5297「しくしくしくしく・・・」で書きました。
> こんにちは、T-HOPEです。
> 「悠久の風」読ませていただきました。
> リナ、死んじゃいましたねぇ・・・。
> ヤン提督が死んだ時も大泣きしましたけど、今もかなり泣けてます。
私も、小説読んで、ビデを見て泣いていた口です。でも、本当は皇帝陛下のほうが好き(爆)
> しかも、ゼロスの手にかかってだし・・・って、それはいいんですけどね。
> 雑魚敵にあっさりやられてたら、それこそ泣き伏すしかできないですけど、ゼロス君の手でだったら、OKです。
> いや、気分的に・・・(笑)
> でも・・・しくしくしく・・・。
> 自分ではもう何度も殺してるんですけど、やっぱり・・・泣けるんです〜。
> リナちゃん殺しちゃって、ゼロス君どう出るんでしょう?
今回は純粋魔族ゼロス君なんで、やばい状態になります・・・。
> 他の人達、どうするんでしょう?
> すごく・・・心配で、楽しみです。
楽しみだなんて言ってくれると嬉しいです。
> 
> 「君の日常」もすごく楽しくて好きですよ〜。
> 初々しい(?)二人が可愛いですよね。
「君の日常」とは百八十度違う話ですが、読んで下さってありがとうございます。
> 
> ではでは、続きを楽しみにしてます。
>