◆-ありがちガウリナ書きました-山塚ユリ(8/3-01:06)No.3750
 ┣『クラリアスの醜聞』前編-山塚ユリ(8/3-01:08)No.3751
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  ┗Re:『クラリアスの醜聞』-松原ぼたん(8/3-16:44)No.3760


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3750ありがちガウリナ書きました山塚ユリ 8/3-01:06

とってもありふれたネタの小説もどきです。
「どっかで同じような話読んだ」「2番煎じだ〜」「ぱくりじゃねえかこれ」等々叫びながら読んでくだされ。

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3751『クラリアスの醜聞』前編山塚ユリ 8/3-01:08
記事番号3750へのコメント
クラリアス・タウン。
クラル湖を抱え、その湖から採れる水産物と温泉目当ての観光客をおもな収入源にしている町である。
…いや、していた、と言ったほうがいいだろう。

「おっちゃーん。この店の名物料理、端から端まで5人前ずつね〜」
リナとガウリイがここ、クラリアス・タウンに来たのは、もちろんクラル湖で採れる水産物を使った料理目当てである。
「なあ、この町の名物ってそんなにうまいのか?」
「もちろん。まずクラル湖名産クラル海老。これが生でよし、焼いてよし、つー美味なのよねぇ。
それからレピテスっておさかなも今が旬だったわね。
でもなんて言ってもミノ貝。これを食べなきゃ…
「あの〜お客様」
ウエイターがリナのセリフをさえぎった。
「今のところ、肉がメインの料理しかできないんですが…
どうしても魚料理とおっしゃるのでしたら、塩鮭ならありますが…」
「塩鮭〜?なに言ってるのよ。レピテスはどうしたのよ。ミノ貝は!クラル海老は!ロナウの卵は!」
「申し訳ありません。ここ数日不漁でして、魚が採れないものですから…」
「じゃあ別の店行っちゃうわよ」
「どこへ行っても同じだと思います…魚が採れないのはうちの漁師だけではないので…」
「どーゆーこと?それ。説明してもらいましょうか」
つめよるリナ。おびえまくるウエイター。
「…誰にも言わないでくださいよ…観光客来なくなっちゃいますから…
湖に化け物が出るってうわさなんです…もう漁船が何隻も沈められたとか…
漁師もおびえちゃって…どうせ漁に出ても魚は採れないし…で、養殖された馬鹿高い値段の魚しか出回っていないんです今この町には」
すまなそうに言うウエイター。思わず顔を見合わせるリナとガウリイであった。

「全然釣れないわね」
「つーか、魚の気配もしないっつーか…」
リナとガウリイは湖の岸で釣り糸を垂れていた。
入れ食いの呪文をかけているにもかかわらず、雑魚一匹かからなかったのである。
「なんか変よね…化け物の話、あるいはほんとなのかも」
「だって、さっき漁師捕まえて聞いてみたけど、知らないって言ってたじゃないか」
「そりゃ湖に化け物が出るなんてうわさ広まったら、漁業と観光で成り立ってるこの町には大打撃だもの。
よーし。潜って調べてみるわ」
「おいおい」
「ちょっと様子を見るだけよ」
そう言うとリナは、風の結界ごと湖に飛び込んだ。

「ほんと…魚いないわね」
湖の中をただよいながら独り言を言うリナ。
にごった水を透かして見ても、魚影1つ見えない。岩をどかしてみても、海老一匹、貝ひとつ出てこない。
「こんなことってあり…?あ、あれなんだろ」
なにかが沈んでいるのを発見して、リナはそっちに漂っていった。
「これは…」
リナが見たものは、湖の底に沈んだ漁船の残骸と、そのあたりに散らばった、人間の骨であった。

「なんということだ。化け物の話は本当で、漁師はみんな死んでいただと?」
湖で白骨回収をする船を岸から見ながら、町長は言った。
「死んでいた、じゃなく、殺されて…いや、食われていた、と言うべきね」
町長が振り向くと栗色の髪の見慣れぬ魔導士風の少女と金髪の傭兵らしき男が立っていた。
もちろんリナとガウリイである。
「君は…?」
「リナ・インバース。船と白骨の発見者よ」
「おお…ところでその話、役人以外には話してないだろうな?化け物が出るなんて話が…」
「広まったら観光客が来なくなるっていうんでしょ?でもそんなこと言ってる場合?
奴はこの湖の魚を食い尽くしたのよ!そして今度は漁船を襲い、漁師を食っている。
これで漁師が怯えて船を出さなくなったら、次は誰を襲うかわかんないのよ。
湖には何も知らない観光客が釣りしたり、ボート遊びしたりしているんだから」
リナは町長に食ってかかった。
「わ…わかった。湖は立ち入り禁止にする」
「そうね。そうすれば化け物は腹をすかせて…」
「どこかに行っちまうわけだな」
「なに楽観的なこと言ってるの。奴が水から上がれないって保証はどこにもないのよ。湖から餌を求めて上がってきたら…」
「その時は衛兵全員で攻撃してやる。とにかく湖は立ち入り禁止にして、周囲と河川に四六時中見張りを置く。
それでいいだろう。ご協力を感謝する」
そう言うと町長は、さっさと部下の方へ行ってしまった。
「なによ、なんで一言『高名なリナ・インバース殿に化け物退治をお願いしたい』って言えないのかしら」
「湖ごと消滅させると思ったんじゃないか?」
すぱーんっ
ふところから出したスリッパでガウリイをはたくリナ。
「さて、聞き込みに行くわよ」

白骨発見の話は、漁師たちに衝撃を与えていた。
「やっぱり俺の見た化け物に食われちまったんだボルトたちは」
「落ち着けよおい」
「その化け物の話、聞かせてもらえるかしら」
漁師たちの話に割り込むリナ。一斉に口を閉ざす漁師たち。
「あたしは観光客じゃないわ。町長からこの事件の調査を依頼された魔導士よ」
大嘘である。後ろでガウリイが目をまるくしているが、もちろんリナは相手にしない。
「町長がやっと化け物の話を信じてくれたのか」
「そりゃ白骨死体が見つかっちゃったらね。だから話して。どんな奴だったの」
「岸から見たんではっきりしないが…最初、水面から緑色の人間の頭が浮かび上がったんだ。髪は生えていなかった。手はかまきりみたいに鎌になっていて、下半身はとかげみたいになっていて、船の横腹をぺたぺた登って船に乗り込んだんだ。そして、ボルトや他の漁師を鎌で襲って、湖に放り込んでいったんだ…。
そのうち船もなんだかぐずぐずと壊れていって…俺がボートを出して行った時には、船も、10人はいたはずの漁師も、化け物もいなくなってた…」
「そう…水から出られるんだ」
「役人に話したが信じちゃくれなかった。そのうち、テリイの船も、ベスティアンの船も…」
「俺はおまえを信じていたぞ。なあ」
話を聞いていた漁師が声をかける。
「こうなりゃ仲間の敵討ちだ」
盛り上がる漁師たちを残して、リナは歩き出した。後をガウリイがついて行く。
「なんか化け物の正体に心当たりは?」
ガウリイが尋ねる。
「ないわよそんなの。魚や人を食べるんだから純魔族じゃなさそうだけど。人為的に作られたキメラかもしれないわね」
「で…この事件、首つっこむのか?依頼人がいるわけでもないのに」
「そうね、らしくないかな。まあしいて言えば」
リナはくるっと振り向いた。
「未知の物に対する、飽くなき探求心ってとこかな?」
「…はいはい」

それから3日。
役人と衛兵、そして漁師たちが交代で湖の周辺を見張っていたが、化け物は姿を現さなかった。
「奴が漁船を襲う周期を考えると、そろそろ空腹になっているころだわ」
「だから奴が湖を出てくるのをこうして待っているんだろうが」
巡回中、リナにつかまった町長は、渋い顔でリナに答えた。
「甘いわね。大の大人10人あっさり湖に放り込んで漁船まで沈めるような奴なのよ。こんな包囲網、簡単に突破されちゃうわ」
「じゃあどうしろと言うのだ」
「この状況で船を出したら、絶対襲って来るでしょうね」
「おとりか。しかしおとりになる奴なぞ…」
「もちろんあたしがやるわ」
リナはあっさり言った。
「そのかわり、湖でまた漁ができるようなったら、食べ放題でもてなしてくれるってことで」
こうして契約は成立した。

湖の上を漁船がゆっくりと進んでいる。乗っているのは漁師の格好をしたリナとガウリイ。
なにせ敵は水中妖怪。相手の本拠地に出向いての勝負は避けたいところである。
「来たぞ!真下だ」
ガウリイが押し殺した声で叫んだ。
「気づかないふりして。あいつが乗り込んでくるのを待つのよ」
リナが答える。やがて漁船のへりから緑色の顔がのぞいた。髪がないのと、色が緑であることを除けば、かなりの美人といってもいい女性の顔であった。
船べりを越えて体があらわれた。緑色の女性の体にとかげの体が続く。ようするにケンタウルスのとかげバージョンプラスかまきりである。
なにか腐食性の粘液でも分泌しているのか、彼女が登ってきた船べりは変色し、崩れていく。
「待ってたわよ化け物さん」
身構えるリナ。
ぶんっ
いきなり鎌が振られた。リナはあっさりかわす。
「ほほう。ただの漁師ではないようだねえ」
「しゃべれるのかおまえ」
驚くガウリイ。
「あんたより知能高いかも」
「ほっとけ」
「とにかくっ。この湖のレピテスやアローム鯉やミノ貝やクラル海老を食い尽くし、漁師まで襲ったのはあんたね」
「ほほほ。この湖の餌のことかいな」
「あたしのごはんの邪魔をするなんて、化け物のくせにいい根性してるじゃない。このリナ・インバースが成敗してあげるわ。覚悟しなさい!」
「…思いっきり私怨じゃねえか…」
ツッコミを入れるガウリイ。
「エルメキア・ランス!」
リナの放った光は、のたのた動く彼女の体を直撃した。
「ほっほっほ。なんの真似かの」
「でええっ効いてない!」
彼女が甲板を侵食しながらリナに近づく。
「ファイヤー・ボール!」
間合いを取るリナ。
「こりゃ接近戦は不利だわ。ちょっとガウリイもなんとかしなさいよ」
「しっかし…あの体切ったら、俺の剣溶けないか?」
「知るか。ダイナスト・ブレス!」
リナはいきなり湖面に向けて魔法を放った。船の周囲の水面が凍りつく。
「なんの真似だ?リナ」
「なんかこの船もちそうもないわ。あたしはこいつと一緒に沈むのも、こいつに逃げられるのもごめんなの。
ブラスト・アッシュ!」
彼女は尾でそれを受けた。
「ぎゃあああ」
「さすがに効いたらしい…あれ?」
黒い霧にやられたはずのしっぽが、いつの間にか生え変わっていた。
「とかげのしっぽ切りか」
「なまはんかな攻撃は効かない。きつそうな攻撃はしっぽで受けて切り離すか。やるじゃない」
「ほっほっほ。今のはちと痛かったぞえ」
鎌が振られた。
「ひええっ」
縦横無尽に振り回される2本の鎌をかわす2人。鎌とともに粘液が飛んでくる。借り物の漁師の衣装が白煙を上げた。
「はああっ」
ガウリイの剣がひらめく。その剣を彼女は尾で受けた。予定通り尾は切れて飛んだ。が、
「うぎゃああっ」
返す刀でガウリイは彼女の鎌を半分斬り落としていた。
「く…この敵は必ず…」
彼女は崩れかけた船べりから身を躍らせた。
「逃がすもんですか」
氷上に飛び降りるリナ。
彼女は氷の上に這いつくばっている。
「この氷の上をどこに逃げようっての」
彼女が振り向いてにやりと笑った。その足の下から煙が上がっていた。氷が腐食しているのだ。
「水中に逃げるつもりだぞ」
ガウリイが叫ぶ。
「させるもんですか。ラグナ・ブレード!」
黒い剣を振るうリナ。が、彼女が氷の下に潜り込む方がわずかに早かった。
そのため、彼女のからだを真っ二つにするはずの剣は、彼女の顔を裂いただけだった。
「ぐわあああっ」
悲鳴を残して彼女は水に潜った。
「しまった」
「あっちだリナ!」
湖の沖。氷の層が途切れた水面に、緑色の顔が浮かんでいた。黒い液体を滴らせながら。
「よくも…よくも私の美しい顔を傷つけてくれたな…怨む…怨んでやる…リナ・インバース…」
顔は水中に沈んだ。
「レイ・ウイング!」
風の結界とともに、リナは彼女のいた湖面に飛びこんだ。
そこには、なにもいなかった。
魚がいないのはもちろんだが、たった今潜ったはずの彼女の姿はどこにもなかった。彼女の血らしき黒い液が水を濁らせているだけであった。

「せっかく追いつめた化け物を逃がしちまったって、町長怒っていたな」
宿で夕食の食卓を囲みながら、ガウリイが呑気に言う。
「なにが追いつめたよ。ただ見張っていただけじゃない」
口の中に食べ物を詰め込みながら返事をするリナ。器用である。
「ま、化け物も怪我をした上に餌にはありつけなかったし、近いうちまた出てくるんじゃないか?」
「リターンマッチってわけね。望むところよ」
夜はふけていった。化け物の恨みの深さを、まだリナは知らない。

続く

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3752『クラリアスの醜聞』後編山塚ユリ 8/3-01:14
記事番号3750へのコメント
もう日も高いというのにリナが起きてこない。朝食もとらずに寝ているというのはどう考えたっておかしい。
「おいリナ、いるんだろ」
ガウリイがリナの部屋の戸を叩いた。戸には内側から錠がかけられている。
「どうしたんだリナ。具合でも悪いのか?」
「来ないでガウリイ」
「来ないでって…なにかあったのか」
「いいから!あたしのことはほっといて」
リナの不自然な態度に不安を覚えたガウリイ。
「入るぞリナ」
ガウリイは剣の先を扉のすきまに入れて錠をはずした。
部屋の中は薄暗かった。窓のよろい戸が下りている。
そして、ベッドの上に毛布で覆われた大きな塊があった。
「来ないで!あたしを見ないで!」
リナの声。近づいたガウリイは毛布をひっぱがした。
毛布の下からあらわれたのは、変わり果てた姿のリナだった。
体の幅は普通の2倍。ただし太ったというより、平たくなったと言ったほうがぴったりくる。服を着られるサイズではないので体にシーツを巻いていたが、シーツに隠れた体、腕、足、そして顔は不気味な茶色いいぼに覆われてしまっている。首はいぼだらけの肩にめりこんでしまっていた。
そして手足の指の間には水かきとしか見えない膜。
幅が2倍になってしまったため、目と目の間が離れてしまったその顔は、とてもリナには見えなかった。
しかし、それは間違いなくリナであった。
「リナ…」
「いやっ」
リナはガウリイの手から毛布を奪い取り、体を隠すように潜り込んだ。
「…どうしたんだいったい…」
「…たぶん…きのうのあいつの呪いだと思う…」
「呪い?」
「あいつ…あたしのこと怨んでやるって言ってたから…」
「どうすれば元に戻れるんだ?回復魔法とか」
「かけたわよっ!でも駄目なのっ」
「じゃあ…」
「たぶんあいつを倒せば呪いは解けると思う…でも…」
「わかった。必ず元に戻してやるから。待ってろよ」
ガウリイはそう言うと部屋を出ていった。
「安請け合いして…あの広い湖のどこにいるかもわかんないのに…」
毛布の中でリナがつぶやいた。

「…何も食ってないじゃないか…」
夕方。湖から帰ったガウリイはためいきをついた。リナが一歩も部屋から出ようとしないため、食事はリナの部屋の戸の外に置いておいたが、それはそのまま冷たくなっていたのだ。
「入るぞ」
「駄目っ」
激しい拒否。
「…夕飯持ってくるからな…食わなきゃ駄目だぞ」
返事はなかった。

次の日の夜。ガウリイが夕食をリナの部屋に運んできた。
「開けるぞ」
戸を開けるとあいかわらずほとんど手をつけられていない昼食が置いてあった。
「それ持って出てって」
暗い部屋の中。ベッドの上の毛布の塊から声がした。
「リナ…」
「ごめん。でもガウリイにこんな姿見られたくないの」
戸がしまる音がした。リナはためいきをついた。
「もし…ずっとこのままだったりしたら…どうしよう」
「そうだな。そん時ゃ人の来ない山奥か無人島で、2人で暮らすってのはどうだ?」
声はリナの頭の上からした。
「ガウリイ!」
「オレの気配に気づかないなんて、そうとう深刻だなおまえ」
ガウリイは毛布をめくった。平べったいリナの顔がうつむいている。
「あのねえ。こんなかえるの化け物みたいな姿にさせられて、深刻にならない人がどこにいるっていうのよ」
「そっかあ?別にオレは平気だぞ」
「男と女は違うのよ」
「大丈夫だって。オレが化け物退治して元に戻してやっから」
リナはガウリイの顔を見上げてはっとした。
「ガウリイ…」
その顔は、ここ2日、ろくに食べず、休まず、昼も夜も湖の周りを歩き続けたためにやつれていた。
あたしのために…。リナはうるんだ目をふせた。
「ごめん…ガウリイ。あたし、自分のことしか考えていなかった…」
「気にすんなよ。オレは全然気にしてないから」
ガウリイがリナの頭をぽんぽん叩いた。
「あの緑の化け物のことだけどな」
いきなり口調がまじになる。
「町ん中でいけす作って魚育てていたじいさんがいたんだけどな。今日、いけすの魚が消えた。じいさんはいけすの中で骨になっていたそうだ」
「あいつのしわざ?」
「だとしたら大変なことだな。町長は誰か見張りをサボっていた奴がいるんじゃないかって怒鳴り散らしているよ」
「見張りの人は無事だったの?」
「普通は見張りを倒して湖を抜け出した、って思うよな。でも見張りの衛兵や漁師はみんな無事だった。疲れ果ててはいたけど。
それに、そのじいさんの家は湖からそうとう離れているんだ」
「あのよちよち歩きで昼間歩いていたら一目につかないわけないわ」
「だからオレ、明日湖に潜ってみようかと思って」
「ちょっと、そんな危ないこと…」
「いつまでもリナにそんなかっこさせとくわけにいかないだろ。それにほっとくと今に蝿かなんか採って食いそうだし」
「誰がンなもの食うかあああっ!」
張り倒されるガウリイ。
「たはは…やっといつものリナらしくなったな。じゃあ、また見回りに行ってくっから。
あ、飯はちゃんと食えよ。でないと明日の朝は蝿とって来るからな」
「遠慮しとくわ」
部屋を出ていくガウリイを見送るリナ。そのうるんだ目には、決意の色が浮かんでいた。

再び朝が来た。
朝食の盆を持ったガウリイがリナの部屋をノックした。
「飯、ここ置くぞ」
「入っていいわよガウリイ」
「?!」
部屋に入ると、よろい戸の開いた窓から差し込む朝の光の中に、シーツをつなげて作った簡単な服を着たリナが立っていた。
「やっぱ暗い部屋に閉じこもっているのは性に合わないや」
てへへ、と笑うリナ。
「なんかゼルの気持ちが分かったような気がするわ。あ、そうそう、ゆうべ考えたんだけど」
ベッドに腰掛けて朝食をとりながらリナはガウリイに話しかけた。水かきのついた手で器用にフォークを操っている。
「湖から離れたところに化け物が出たって言ったわね」
「誰も見たわけじゃないけどな」
「もしかしたらあいつ、水から水へ渡れるんじゃないかしら」
「水から…なんだって?」
「ほら、空間を渡る魔族っていたでしょ。あれと同じで水のあるところから水のあるところへ飛べるんじゃないかしら。
そしたらおととい、あたしが潜って行った時にあいつがいなかったってのも説明つくし」
「冗談じゃないぞ、それじゃいくら湖見張ってたって意味ないじゃないか。そんな奴、どうやって倒すんだよ」
「そうかな、あたしは逆に倒しやすくなったと思うけどな」
リナは微笑んだ。
「あのね、ガウリイ。湖なんて潜らなくていいから、町中にうわさを流して。
あのリナ・インバースが化け物の呪いで二目と見られない化け物の姿になって、宿に閉じこもって泣き暮らしているって」
「おいおい、本気かよ」
「あいつのことだから、自分の呪いが効果を発揮したか知りたがっているはずよ。そういううわさを聞けば、きっとあたしを嘲笑いに出てくるわ。そしたら今度こそ決着をつけてやる」
ガウリイを見上げたリナの目に、強い光が宿っていた。
リナがたとえどんな姿になっても、この光があるうちは、どこまでもリナについて行ける。ガウリイはそう思った。
「わかった。町中大騒ぎになるぞ。あのリナがガマがえるの親玉みたいになっちまったってな」
「…不本意なうわさだけどね…。ま、今さら悪名が1つ増えたってどうってこともないか。あ、ついでにモーニングセットおかわりね」
「はてぇ?落ち込んでいるんじゃなかったっけか?」
「あんたが食べたことにすりゃいいのよ」
2人は顔を見合わせて笑った。

夜の闇に紛れて、大浴場に入ってきた影があった。タオルを巻いた、歩くより這ったほうが似合いそうな体。リナである。
ぽちゃり。なにかが、いくつかある湯船の1つ、水風呂で揺らいだ。
「誰かいるの?!ライティング!」
明かりに照らされた水風呂から、緑色の体が上がってきた。
「湖に…いるはずなのに…」
「ほほほ。驚いたかね。
それにしても、醜悪な姿になったものよのう」
「いやいやっ」
脱衣所に逃げるリナ。浴場の床から白煙を上げながら、化け物が後を追う。
「あんたのせいよ、あんたのせいであたし、こんなになっちゃったじゃない。もうみっともなくて人前に出られないわ、どうしてくれるのよぉ」
脱衣所の床に泣き伏すリナ。その姿はでっかいガマがえるそのものであった。
「ほほほほほ、泣け、わめけ。私の顔を傷つけてくれたむくいじゃ。ほーほほほ」
黒い裂け目を見せて、緑色の顔が笑い声を上げた。
「なーんてね」
リナが顔を上げた。笑っている。
がくぜんとする化け物。
「うわさ聞いたんでしょ。あたしがみっともない姿になって泣いてるって。そりゃ見たいわよね、大切な顔を傷つけてくれた憎い相手が泣いてるところ。
もう1つうわさ聞いたでしょ。人目にさらされるのを避けて、あたしが今夜この大浴場借り切ってお風呂に入るって」
「…はかったな」
「さっそく現われてくれてありがたいわ。さて、この姿にしてくれたお返しをしなくちゃね。ヴァン・レイル!」
氷の蔦にからまれ、動きが鈍った彼女に、なにを考えたかリナが素手でつかみかかった。
「なんの真似だ」
「さあ、何かしらね」
粘液に冒されて白煙を上げるみずかきを痛そうに押さえ、それでもリナが攻撃を続ける。
「ダム・ブラス!」
「ぐおおおおっ!」
彼女はそれを尾で受け、粉砕された尾を根元から切り離した。が
「しっぽが、新しいしっぽが生えてこない!」
「さっきさわった時、生態回復力を弱めさせてもらったわ。もう尾を盾にはできないわよ」
「く…」
片方だけの鎌がいきおいよく振られた。
「おっとっと」
慌てて避けたリナをかすめて飛んだ粘液が、脱衣所の壁を灼いた。
戦況不利と見たか、そのすきに逃げ出す彼女。浴場に下りると
「やーすみませんねえお客さん。もう営業時間おしまいなんで水も湯もきれーに抜いちまいました」
ガウリイが湯船から顔を出した。
「そういうわけで、水のあるところへ逃げるってのは駄目だかんね。覚悟はいい?」
「…そこまで気づいたか…この化け物!かえるのできそこない!人間ガマ!いぼだるま!」
「…言いたいことはそれだけかしらあ」
リナがゆらあっと近づく。額のあたりの血管がぴくぴくしているのが夜目にもわかる。
「来るなあああっ」
彼女が体を震わせて粘液を撒き散らした。リナは風の結界でそれをはじいた。
「顔には傷つけないでいてやるわ。感謝しなさい。ラグナ!ブレード!」
リナの黒い刃が彼女の胴を、ガウリイの剣がとかげの胴を薙いだ。
「ぎゃああああああ!」
黒い血と悲鳴を撒き散らして彼女の体は空の湯船に落ちた。自分の粘液に冒されたか、その死体から白煙が上がる。ガウリイが底をのぞき込むと、緑色の美しい顔が憤怒の形相をとどめて彼を睨み付けていた。
それが化け物の最後だった。
「終わったなリナ」
剣を収めて振り向くガウリイ。
「ちょっと、こっち見ないよ」
リナが浴場の床に座り込んで、みるみる変化する体に、必死でタオルを巻きつけていた。
体の幅が半分になり、手足のみずかきがなくなっていく。首が細くなり、全身のいぼが消えて白い肌が闇に浮かび上がる。元の姿に戻るのに1分とかからなかった。
「人間に戻れたか。よかったよかった」
ガウリイがリナの横にしゃがみこむ。
「やだ、じろじろ見ないでよ」
「完璧に元に戻ったんだろうな」
リナの胸のタオルを引っ張り、中をのぞき込んだガウリイは、例によってリナに張り倒された。

湖には、いけすで養殖されていた稚魚が集められ、放された。
「何年かかるかわからんが、ここをきっとまた元通り豊かな湖にしてやるぞ。そしたらあの魔導士たちにおいしい魚料理を食べてもらおう」
町長が湖面を見ながら一人うなずいていた頃。リナとガウリイは…
「ちょっとお。あたしはクラル湖の化け物を退治した功労者なのよ。なんでこんなことしなきゃなんないのよ」
「そんなこと言ったって宿の人見てなかったもんな…あ、そこも床に穴開いてるぞ」
「ああもう。やればいいんでしょやれば」
焼け爛れた大浴場の修理をさせられていた。

めでたしめでたし。

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3760Re:『クラリアスの醜聞』松原ぼたん E-mail 8/3-16:44
記事番号3752へのコメント
 面白かったです。

>「塩鮭〜?なに言ってるのよ。レピテスはどうしたのよ。ミノ貝は!クラル海老は!ロナウの卵は!」
 詳しいね、さすがリナ。
>「未知の物に対する、飽くなき探求心ってとこかな?」
 食い物の恨みじゃないのか?
>しかし、それは間違いなくリナであった。
 しゃべんやなきゃわかんないだろーな。うーん、恨みは恐ろしい。
>「町ん中でいけす作って魚育てていたじいさんがいたんだけどな。今日、いけすの魚が消えた。じいさんはいけすの中で骨になっていたそうだ」
 うわ、大変。
>「…不本意なうわさだけどね…。ま、今さら悪名が1つ増えたってどうってこともないか。あ、ついでにモーニングセットおかわりね」
 リナ、えらいねー。
「何年かかるかわからんが、ここをきっとまた元通り豊かな湖にしてやるぞ。そしたらあの魔導士たちにおいしい魚料理を食べてもらおう」
 結構いい人なんですね。
>焼け爛れた大浴場の修理をさせられていた。
 お気の毒。

 本当に面白かったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。