◆−蒼の記憶 51−フィーナ (2009/5/22 18:00:12) No.34054
 ┣蒼の記憶 52−フィーナ (2009/5/25 15:20:41) No.34059
 ┣蒼の記憶 53−フィーナ (2009/5/25 17:58:14) No.34062
 ┣蒼の記憶 54−フィーナ (2009/5/27 20:36:47) No.34065
 ┣蒼の記憶 55−フィーナ (2009/5/29 16:42:36) No.34070
 ┣蒼の記憶 56−フィーナ (2009/6/2 20:08:51) No.34079
 ┣蒼の記憶 57−フィーナ (2009/6/6 00:05:17) No.34083
 ┣蒼の記憶 58−フィーナ (2009/6/7 19:52:01) No.34086
 ┣蒼の記憶 59−フィーナ (2009/6/9 18:05:09) No.34088
 ┣蒼の記憶 60−フィーナ (2009/6/11 21:35:39) No.34091
 ┣蒼の記憶 61−フィーナ (2009/6/12 19:21:14) No.34093
 ┣蒼の記憶 62−フィーナ (2009/6/14 22:05:44) No.34097
 ┣蒼の記憶 63−フィーナ (2009/6/16 17:25:24) No.34098
 ┣蒼の記憶 64−フィーナ (2009/6/18 22:20:49) No.34102
 ┣蒼の記憶 65−フィーナ (2009/6/19 21:58:46) No.34104
 ┣蒼の記憶 66−フィーナ (2009/6/22 19:26:10) No.34107
 ┣蒼の記憶 67−フィーナ (2009/6/25 23:04:25) No.34113
 ┣蒼の記憶 68−フィーナ (2009/6/26 11:59:11) No.34114
 ┣蒼の記憶 69−フィーナ (2009/6/27 23:31:21) No.34121
 ┣蒼の記憶 70−フィーナ (2009/6/28 22:42:35) No.34125
 ┣蒼の記憶 71−フィーナ (2009/6/29 21:56:22) No.34133
 ┣蒼の記憶 72−フィーナ (2009/6/30 19:13:09) No.34138
 ┣蒼の記憶 73−フィーナ (2009/7/2 21:29:43) No.34152
 ┣蒼の記憶 74−フィーナ (2009/7/4 16:43:08) No.34160
 ┃┗Re:蒼の記憶 74−kou (2009/7/5 21:54:53) No.34167
 ┃ ┗Re:蒼の記憶 74−フィーナ (2009/7/6 12:12:36) No.34169
 ┣蒼の記憶 75−フィーナ (2009/7/6 18:20:28) No.34172
 ┣蒼の記憶 76−フィーナ (2009/7/7 15:57:50) No.34175
 ┣蒼の記憶 77−フィーナ (2009/7/8 20:47:05) No.34181
 ┣蒼の記憶 78−フィーナ (2009/7/11 00:04:42) No.34190
 ┣蒼の記憶 79−フィーナ (2009/7/14 23:18:50) No.34201
 ┣蒼の記憶 80−フィーナ (2009/7/16 20:23:08) No.34206
 ┣蒼の記憶 81−フィーナ (2009/7/18 01:48:35) No.34209
 ┣蒼の記憶 82−フィーナ (2009/7/19 16:12:04) No.34217
 ┗蒼の記憶 終−フィーナ (2009/7/21 03:21:31) No.34223
  ┗お疲れ様でしたv−かお (2009/7/21 07:21:36) No.34224
   ┗Re:ありがとうございました−フィーナ (2009/7/21 16:49:34) No.34227


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34054蒼の記憶 51フィーナ 2009/5/22 18:00:12

遺跡の中は、発見されても分かりにくいように、外壁が普通の岩と同じような塗装でカモフラージュされていた。

一見すると、タダの洞穴にしか見えなかっただろう。

同行を申し出たあたしたちに、アレンは最初渋っていたが戦力は多いにこしたことはないというあたしの説得で何とか首を縦に振らせた。

「いちおー戦力の確認はしておいたほうがいいわね。
あたしは黒魔術や精霊魔術、少しは剣も使えるわ。
ガウリイは剣だけだけど、剣の腕は超一流。アレン、あんたは?」

問われてアレンは微笑を浮かべる。

「・・・・・・俺の場合は、回復と浄化系統の白魔術は一通り。
コ毒の呪法をかけられた相手にも、多少効果を期待できるんじゃないでしょうか」

「なんでだ?」

「エミリアさんにかけられていたコ毒なんですが、複数の低級霊が同居していることと、エミリアさんの精神と直結していることを除けば、アンデッドの類と大差ありません。
ただコ毒の場合は、魂が混在しているため本人の意志が強ければそのまま浄化呪文で強制的に浄化する方法も取れますが余りお勧めできません。
なぜなら、その方法だと精神と直結している分、本人の肉体ないし精神に何らかの悪影響が予想されるからです」

「エミリアの治療はどうやって?」

あたしの質問に、アレンはこう答えた。

「エミリアさんの場合は、彼女よりも複数の霊のほうが勝っていました。
薬草で気力を回復させてから、霊の力を押さえ込み、彼女の意識が弱くなったらまた薬草で意識を取り戻させる・・・・・・その繰り返しです」

「・・・・・・そりは、なんつーか・・・・・・根気要るわね」

「いりますよ」

あっさり肯定する。

「長期戦の思いでかからないと。ひと段落着いたとおもってたら、気を抜いたら支配されていたとかじゃ洒落になりませんから」

そのときの苦労を思い出したのだろう。

どこか遠い目をするアレン。

「白魔術以外では?」
        弟
「・・・・・・ シーゲル から護身用に教えてもらった精霊魔術と、独学で所得した精霊魔法。
体術を組み合わせた杖術・・・・・・それと切り札がいくつか―――そんなところですかね」

「ラディがもっていたジュエルズ・アミュレット。あれもマジック・アイテムよね?」

「ええ・・・・・・オリヴァーが資材を提供して、魔道士協会でアミュレットの製作を行うといった形で。
初級から中級近くの精霊魔術なら、何とか吸収して『力ある言葉』によって解放・発動するという仕掛けです。
・・・・・・黒魔術の類はわかりませんね。やったことありませんし。オマケの効果として、こめられた呪文の属性が付加されます」

「もし強力な魔術をかけたらどうなるの?」

「壊れます。下手すれば呪文が暴発して大怪我するか、死ぬんじゃないですか」

「そーゆうことを、さらっというんじゃない」

「それって、リナも持ってるやつだろう?」

ああ!?

こらガウリイ。よけーなことを!

「・・・・・・どういう意味ですか?リナさん」

ゆらりと、こちらをふりむくアレン。

「あの兄ちゃんの剣にはめ込まれていたやつの、なんとかパターンをよむのにリナに渡したんだっけ?」

「ほほーう?」

じりじりと詰め寄るアレン。

「リナさん・・・・・・秘匿しようとしてましたね。
それはネコババって呼ばれるものですが、当然ご存知ですよね?」

「や・・・・・・やーね、アレンったら。
こんなの俗に言う『乙女心』ってやつにきまってるじゃないの」

「だれが乙女・・・・・・いや、なんでもないです」

横槍を投げたガウリイを、視線で黙殺した後、あたしは胸を張って答えた。

「いいじゃない、べつに。減るもんでもないし」

「開き直りましたね」

ならいったいどないせーと?

「戦力アップのために、必要な処置じゃない」

「またそういう屁理屈を」

「屁理屈も立派な理屈よ!」

アレンは、こめかみの辺りを押さえてうめいた。

「・・・・・・オリヴァーといいあなたといい・・・・・・
仕方ありません。それはしばらくのあいだ、あなたにお貸しします」

「ほんとに!?ラッキー!」

「ただし、貸すだけですからね。
個数も少ないですし、壊さないように扱ってください。壊したぶんの代金はあなたが払ってくださいよ」

「はいはい。わかったわ」

念を押すように言ったアレンに、あたしは二つ返事で同意したのだった。







「ずいぶん凝ったカモフラージュね・・・・・・ずれていなければ」

相手はよっぽど急いでいたのだろう。

いくら似せていても、岩の隙間から光が漏れている。

手で引いてみると、あっさりと動いた。

ヒカリゴケによって人工的な明かりが通路の光源になっていた。

通路は一本道になっていたが、途中いくつか有った部屋の中には『生命の水』によって静かに眠るコピーたちの姿があった。

先ほどのコピーたちは、いわば番犬みたいなものだったのだろう。

「なあ・・・・・・なんでコピーがこんなにいるんだ?」

「八年前の教訓なんじゃないですか?人さらうよりこちらのほうが足はつきにくいみたいですから」

その中に嫌悪の声をにじませて、アレンは部屋を閉じた。

下のほうに続く螺旋階段を下りるあたしたち。

かつーん
     かつーん

無音の中に、靴音のみが鮮明に響き渡る。







さらに歩みを進めると、ひときわ大きな扉に突き当たった。

「だれかいるぞ」

「どうやらゴール地点みたいね」

隣のアレンの顔を盗み見ると、緊張した面持ちで扉を見据えていた。

「ここまできたんだからそろそろ教えてくれる?中に誰がいるのか」

「・・・・・・組織の幹部の一人で、表では役人として。裏では子供をさらって催眠暗示をかけ、組織の資金を募っていた男です」

扉を開けると、広いホールのような場所に出た。

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34059蒼の記憶 52フィーナ 2009/5/25 15:20:41
記事番号34054へのコメント

「・・・・・・では、ここは貴様にとっての遊び場だというのか!」

「そうだヨ?」

ホール並みの広さを誇る部屋、その奥深くから言い争うような声が聞こえてきた。

いや・・・・・・どちらかというと、一方ががなりたてているのを聞き流しているといったほうがいいだろうか。

「サリュート様に忠誠を誓ったのではないのか!?」

「だれがあんなのに忠誠を誓わなければならないのサ。
タダこの場所を好きに使っていいから、少し手を貸せって言われただけに過ぎないんだヨ?」

「ならあの娘は何だ!?あの娘の潜在キャパシティが必要だというのは嘘だったのか!?」

・・・・・・あの娘の潜在キャパシティ・・・・・・

隣のアレンの顔を盗み見ると、顔色を変えていた。
                         実験
「嘘じゃないヨ。あの子のおかげで ボクの玩具作り がうまくいったんだからネ」

「どういう意味ですか、それは?」

ふってわいた第三者―――アレン―――のこえに、一人は驚き・・・・・・もう一人は、事の成り行きを面白そうに振り返った。

「誰だきさま・・・・・・ひっ!?」

あたしの顔を認め、年配の役人は悲鳴を上げた。

「リ・・・・・・リナ=インバース!?どうしてここに・・・・・・確かに撒いたはずなのに!?」

・・・・・・だから、なぜあたしを恐怖の大王が振ってきたような顔で指差す?

「あたしたちがここに来た理由なんてどうでもいいわ」

「・・・・・・いや、俺はあるんですけど」

うしろでぼやくアレンはひとまずおいといて、役人と先ほどの少年―――ディー―――をびしぃ!と指差す。

「ともかく、あんたたちの悪事は聞かせてもらったわ!
痛い目を見たくなかったら、金目の物を差し出してもらいましょうかっ!」

組織がらみと聞いたときにひらめいたこと。

こういった犯罪組織というやつ、役人と組んでいたことから見てもお宝は、かなり溜め込んでいるはずである。

「・・・・・・どっちが悪役なんだ」

「まあ・・・・・・どっちもどっちですね」

外野のガウリイとアレンのセリフは、蹴りを入れて黙らせた。






「・・・・・・それより、まずは俺の用事を済ませてからでもいいですか?」

思ったよりも早く復活して言うアレン。

・・・・・・むぅぅ。

蹴りを入れたときに、もう少しヒネりを加えたほうがよかったか。

その横では、ガウリイもきっちり復活を果たしているのだから・・・・・・

あたしも、まだまだツッコミの修行が足りないみたいである。

・・・・・・いつから、お笑い漫才目指すようになったという質問は却下。

「誰だきさまは!」

再度同じ質問をする。

・・・・・・付き合いのいいやつ。

「あなたが昔さらい、そして催眠暗示をかけた子供の一人・・・・・・そういっておきましょうか」

「バカな!きかなかった奴などいないはずだ!」

「ではこういったほうがいいでしょうか。ソフィア・ラーズを、その手にかけた殺人鬼さん?」

顔を青ざめる役人。

「あ・・・・・・あれは、通り魔の仕業だと公表されたはず・・・・・・っ!」

「ですが、残された遺族・・・・・・オリヴァーは不審を抱いた」

淡々と、静かに語るアレン。

「役人の、あまりにも早すぎる対処に」

「まさか・・・・・・ソフィア・ラーズの横にいた子供?」

「思い出していただけましたか・・・・・・ソフィアの死によって、すべてを思い出した俺は自分を憎みました。
・・・・・・あまりにもふがいなく、無力な自分を―――はなしが逸れましたね」

アレンは、空虚な視線を役人に向けた。

「あなたにはいいたいことがありますが、今聞きたいのはひとつだけです」

ひたりと、見据えてアレンは言った。
         俺の弟
「・・・・・・ シーゲル・クラウン をかえしてもらいましょうか」

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34062蒼の記憶 53フィーナ 2009/5/25 17:58:14
記事番号34054へのコメント

「な・・・・・・なんのことやら」

「役人の配置、ずいぶん偏っていたみたいですけど。あなたの指示でやっていたと裏も取ってあります」

「確かにそう指示を出した。だが、そのあとのことは・・・わたしはなにも・・・しらん!」

「・・・・・・シラをきるつもりですか」

静かな口調の奥に眠る、怒りをにじませるアレン。

「ほ・・・・・・本当に知らんのだっ!
サリュート様がいらっしゃって、あとはそのまま・・・・・・頼む、信じてくれ!」

「どこをとったら、あなたのことを信じられるというのですか・・・・・・っ!」

怒りを鎮めようと、拳を強く握り締めるアレン。

「あははははハッ!あの玩具のことだネ!」

場違いに、笑い始めるディー。

アレンは、その言葉にぴくりと肩を震わせた。

「キミの探しているのは、ボクのお気に入りの玩具の一つサ!」

「どういう意味よ。ディー」

「その名前で呼ばれるのは嫌なんだけド・・・・・・まあいいカ」

ゆっくりと、こちらをみる。

・・・・・・邪気なくアリを、アリジゴクに落として喜ぶ子供のような顔で。

「いっても信じられないとおもうから、実際に見せてあげるヨ」

なんのない虚空から、黒い一本の杖を取り出すディー。

とたん生まれる、禍々しいほどのプレッシャー!


おおぉぉぉおおぉぉん


無数の死霊が鳴き合うようなうめき声が空気を震わせる。

あたしはなんの根拠もなく確信した。

その声が、漆黒の杖から放たれているということを。

「さてト」

「ひ・・・・・・っ!?ひぃぃぃぃっ!?」

本能的に湧き出る恐怖からか、近づかれる杖から必死に逃れようとする男。

―――だが。

「飲み込メ。ツゥドルク」

「かぁぁああぁぁぁっ!ぎゃああぁぁぁああぁぁっ!」

ぽつりとディーがいって、『それ』に触れた男は。

―――気が触れんばかりの絶叫を上げた。






黒い稲妻。

そうとしか表現できないような『何か』は、男の全身を這いずり回る。

あたしも。

そして、ほかのみんなも。

その場を動けずにいた。

自分でも自覚している。

これは恐怖だ。

異形のものへの変貌。

いや・・・・・・そうではない。

いままであった男の精神が、徐々に蝕まれていっているということの。

プラズマがおさまったとき、そこにいた男は『ヒト』ではなかった。








外見は何も変わっていない。

ただ吐き気を伴うような瘴気が、それを裏切っていた。

『イヤダ・・・タスケテグレ』

「知能はまあまあといったところだネ」

彼は、にっこりと笑う。

「ディー・・・・・・あんた」

かすれた声で言うあたしに、彼はふざけたようにお辞儀をした。

「そのお兄ちゃんとは初めましてだネ。改めて紹介するヨ」

狂気を秘めた虚ろな瞳で。
                  覇王様               プリースト
「ボクの名前はディー。 ダイナストのじーさん に仕えている 覇王神官 サ」

『なっ!?』

あたしたちは言葉を失った。

「・・・・・・ちょっとまってください」

アレンは、顔を青褪めたままこういった。

「覇王神官って・・・・・・赤眼の魔王。
・・・・・・シャブラニグドゥの腹心の一人。覇王グラウシェラーが擁する四匹の高位魔族で・・・・・・
―――神官と将軍が二人ずついるっていう、あの覇王神官・・・・・・?」

「へえぇぇっ?詳しいんだネ」

「・・・・・・昔・・・・・・・・・・・・色々あっただけです」

面白そうに目を細めるディーにたいし、アレンは静かに目を伏せた。

「なんなんだそいつ?」

そういったのは他でもないガウリイだった。

「こういったところでつまんないボケかますんじゃないわよ!
あんたにはこういったほうがいいかしら・・・・・・覇王将軍シェーラの同僚よ」

「いや、それは覚えてる。
だけど、以前確かお前さんがグラウとかグロウだっていっていたよーな気がするんだが」
                                  あっち
「アイツならボクとは別件で動いているヨ。上司が アストラル・サイド にひっこんだから、ボクたちの仕事が増えてしょうがなイ」

やれやれといいたげに肩をすくめる。

「コ毒の呪法。あれもあんたが?」

「あの面白い呪法だネ。
前の領主が公衆の面前で燃やしちゃう前に、サリュートという人間が書き写していたみたいだけどネ。
マリルっていう子の潜在キャパシティをコイツに喰わせたおかげで、コイツは威力のコントロールを覚えたんダ」

自慢げに語るディー。

「コイツはツゥドルク。ボクの武器であり、玩具作りのパートナーでもあル。
精神を蝕ませるのはシェーラのドゥールゴーファと似てるけド・・・・・・
アイツのように自我を破壊させるのではなく、心の弱い部分を蝕ませて融合させ憑依させル」

漆黒の杖、魔族ツゥドルク。

「・・・・・・マリーをどうしたんですか?」

「あの子?死んではいないヨ。死んでは・・・・・・ネ」

含みのある言い方をする。

アレンの怒りと、憎悪を煽って食っているのだろう。

「あんたたち・・・・・・今度は何をたくらんでいるのよ」

人知れず、声が低くなるあたし。

「いっただろウ?玩具作りだっテ」

「玩具?」

オウム返しにいうガウリイ。

ツゥドルクをこちらにとめるディー。

「リナ=インバース。キミたちのおかげで、ボクたち魔族も不景気なんダ。
他の部下を創ろうにも、かなりの精神力を使うからネ。でもキミたちがレッサー・デーモンと呼んでいる下っ端は少し違ウ」

漆黒の杖をくるくる回しながら、ディーはいった。

「世界を滅ぼすために、下っ端連中には馬車馬のように働いてもらウ。
だけど知能がスカプーなぶん、たかが人間にいいように扱われる始末だよネ。
もう気づいているよネ?ボクが目をつけたのは、この街にあった面白い呪法と名産のコピーの人形だったのサ」

「・・・・・・コ毒の呪法」

アレンの、絞りだすような声に―――

ディーは・・・・・・嘲った。

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34065蒼の記憶 54フィーナ 2009/5/27 20:36:47
記事番号34054へのコメント

「しっかし・・・・・・ずいぶんといい趣味してるじゃないの。コピーにくわえ、生身の人間にも呪法をかけるなんて」

「キミは気に入らないのかイ?ボクは人形よりも、こういった人間の玩具のほうが楽しいんダ。
精神を徐々に狂わされていく人間の絶望や恐怖は、玩具になっても色濃く残っているかラ。
呪いも人間相手に力加減なんてできないから、強弱によってその出来も違って面白イ」

あたしの皮肉にも、ディーは満面の笑みでこたえた。

「予想外だったのはジェイクっていう玩具。あれも、腕が壊れてたから人形に精神を移し変えてからやってみたら、意志が強かったのか呪いを逆に取り込んじゃったシ・・・・・・あの時はびっくりしたけど楽しかったヨ」

コピーのほうは、単純に簡単な戦力としてということなのだろう。

レッサー・デーモンのように変貌させていないのは、人間が混乱することを見越して。

かんがえてみるとよろしい。ただのコピー・ホムンクルスだとおもっていたら、呪文詠唱なしでフレア・アローがとびかい、並みの精霊魔術じゃ効かないものがいる。

ふつーのデーモンだけでも並みの相手にとって厄介なものを、たまに多少賢い奴が混ざっていたとしたら、並みの魔道士や剣士にとっては十分な脅威である。

「コピーだけでなく、人間にツゥドルクを憑依させる。これは、その人間の負の感情を引き出すためっといったほうが正しいかしらね」

「少し語弊があるヨ。ツゥドルク自身を憑依させるのではなく、低級霊と人間の自我が喰いあっている所に、呼び出した下っ端を憑依させるのサ―――この技法はネ、ほんの少し前に完成させたんダ」

「スポンサーはサリュートってやつよね」

「そうだヨ?」

ディーはあっさりと肯定した。

「そいつもいちおー仲間ってやつに分類されるやつじゃなかったの?」

「価値はもうなくなったから、ボクの好きに使ってもいいって話なだけサ」

かつて役人・・・・・・組織の一員だった男を目で指すあたしに、ディーはこともなげに言い放った。

「ボクの仕事の一環は終わりダ。でも折角のスポンサーだから、もう少しだけこの遊びに付き合ってあげるヨ」

「・・・・・・シーゲルはどこです」

声を振り絞りながら言ったアレンに、ディーは薄い笑みを浮かべた。

「あの玩具?城の中・・・・・・といっておくヨ。
今回は玩具の種明かしだけしてかえるけド、ここにある人形と玩具は招待券のようなものだと思って受け取っテ。次は派手なパーティにしたいからネ」

「歓迎の用意でもしてくれるっていうの?」
                    シェーラ      滅ぼされ
「そうだネー。キミたちには お気に入りの玩具 を 壊され たお礼もしたいし、それなりの趣向も凝らしておくヨ」

「そういうありがた迷惑な趣向は御免こうむりたいんだがな」

油断なく剣を構えていうガウリイに、ディーは獲物を狙う肉食獣のように目を細めていった。

「―――道具だって、玩具を持つ権利はあるだろウ?」
          ツゥドルク
覇王神官は、 漆黒の魔族 と共に虚空へと消えた。

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34070蒼の記憶 55フィーナ 2009/5/29 16:42:36
記事番号34054へのコメント

静寂を破ったのは、男の苦悶に満ちた声だった。

『ガ・・・ガァァッ!たすげでぐれ・・・・・・だのむっ!』

ひとならざる人の声とうめき。

かまえるあたしとガウリイの横を、アレンは通り過ぎる。

「・・・・・・あなたは、ソフィアの命を奪った。俺はそれを許すことは出来ないでしょう」

『タズゲデっ!』

静かな声で、彼は言葉を続ける。

「あなたに、人の心が存在している以上・・・・・・俺は」

錫杖を男に向ける。

「精神面を利用した、いわばキメラのようなもの・・・・・・百パーセント治るとはいいません」

通路の扉から、コピーたちがこちらに殺気を向けながら近づいてきた。

螺旋階段を下りてここまできたのだろう。

その数は、ざっとみて二十といったところか。

「リナさん・・・・・・ガウリイさん。コピーたちのほう・・・・・・お願いできますか?」

「あんたはどうするつもりだ」

ガウリイの言葉に、アレンは苦笑に近い微笑を浮かべた。

「このまま、ほうっておくというわけにはいかないでしょう。多少荒っぽい方法でなんとかしてみせます」

「アレン。そっちは頼んだわ。ほんじゃガウリイ・・・・・・迎撃いってみましょうか」

「おうっ!」

アレン。あんたのおてなみ拝見といきましょうか。





「アクア・クリエイト!」

ばしゃぁっ!

コピーに向けて抽出した水をぶっ掛ける。

虚空から水を出すだけの術である。

ちょっとした確認をするための下準備であって、決して遊んでいるわけではない。

水をかけられても、動じることなくこちらに進んでくるコピーたち。

次の呪文が完成するより早く、コピーのうち何人かがフレア・アローをこちらに生み出す。

時間差をかけて向けられる炎を何とかかわし、あたしの呪文が完成した。

「デモナ・クリスタル!」

地面から突然生まれ出た濃い霧が吹き荒れ、一瞬のうちにコピーたちを凍結させる。

うち何人かは凍りついたが、大半はなおもこちらに殺到してくる。

耐魔能力のあるやつとをふるい落とすためと、水で動きを鈍らせるため。

「おおおぉぉぉっ!」

ガウリイは剣を抜き放ち、スピードを上げ集団に突っ込んでいく。

ひらめく剣の残像と共に、次々倒れていく。

むろんみているだけではない。

こちらに突っ込んできたコピーの体を支点にして回り、ショート・ソードを一閃させる。

ざぁぁっ

斬られたとたん、そのコピーは瞬時に黒い霞となる。

ショート・ソードに組み込んだマジック・アイテム―――名前がないとアレなんで、勝手にストック・ジュエルとよばせてもらう―――にブラスト・アッシュの呪文をこめていたのだ。

いくら耐魔能力に長けていようとも、これはひとたまりもない。

・・・・・・間違っても、自分の術でこうならないように気をつけよう。

「エルメキア・ランス!」

光の槍がコピーに突き刺さり、続けてストック・ジュエルの魔力を解放させる。

「ブラスト・アッシュ!」

『力ある言葉』のみで発動した黒は、コピーふたりを飲み込んだ。

いやー。使い勝手もいいし便利なもんだ。

借り物とはいえ、本気でネコババしてでも―――

冗談抜きで欲しいもんである。






「さきほどもいいましたが、手荒にいきますよ」

杖を片手に呪文を唱え始めるアレン。

そちらに突っ込もうとしたコピーを、ガウリイの剣によって切り倒される。

「エルメキア・ランス」

どうっ!

一撃を受け、倒れる男。

『ぢょ・・・ナンデ?』

「今はあなたの意識が勝っているとはいえ、いつデーモンの意識が表に出るか分かりませんからね。
・・・・・・弱く術の制御はしていますけど、あっさり消滅しないでくださいね?後が大変ですから」

『ちょっ!?』

杖が振り下ろされるのを、かろうじてかわす。

「・・・・・・なんでよけるんですか?」

不思議そうな表情でいうアレン。

『ソレガ神官のすることかっ!?』

「いやですねー。俺は神官である前に人間ですよ?
・・・・・・たしかにあなたを元の姿・・・・・・この言い方は少し違いますね。
コ毒の呪法から、いかに無理なく近づける方法に、ショック療法みたいな奴があるんです。
八年前からコ毒に抗する術(すべ)を試行錯誤して編み出したうちの一つですよ?多少痛いと思いますが、頑張ってください」

笑顔で言い放つアレン。

・・・・・・ぶっそーなやつ。

どことなく、故郷の姉ちゃんほーふつとさせるような。

・・・・・・いや、深くは考えまい。

さすがは、あのオリヴァーさんと親戚なだけはある。

まあ、彼にしてみればソフィア評議長殺したやつに、手厚い介護なんてする義理はないってところか。






コピー集団を片付けたあたしたちは、悲鳴を上げて逃げ惑う男を、生温かいおもいで見守ったのだった。

―――合掌。

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34079蒼の記憶 56フィーナ 2009/6/2 20:08:51
記事番号34054へのコメント
「気は済んだ?」

「・・・・・・ほんとうはまだたりないぐらいなんですけど、これ以上『治療』したら本人の意識がなくなりそうですからね」

手荒い治療を終えらせたアレンは、さわやかな微笑を浮かべて言った。

死んではいないが、よわよわしくうめく―――屍とかした男には見向きもせずに―――

「コ毒の呪法。あれってキメラみたいなものだったのね」

「プロセスはそれにちかいものでしょう。けど覇王神官は、呪法で喰らいあっているそれらに下級の魔族を憑依させていた」

「けどアレン。あんた呪術を中和することができたのね」

「中和ではありませんよ。ようは薄めていっただけです」

「どういう意味だ?」

ガウリイのセリフに、アレンは困ったように苦笑した。

「たとえばミックス・ジュースのなかからオレンジ・ジュースだけを取り出すことなんて、まず不可能ですよね」

「あ?ああ」

「これは人からの受け売りなんですが、コップの三分の一をミックス・ジュースと仮定して、残りをオレンジ・ジュースでたしたらどうなりますか?」

ガウリイは、しばし考える。

「・・・・・・オレンジ・ジュースっぽいミックス・ジュースになる?」

「では、そのミックス・ジュースを三分の一として、さらにオレンジ・ジュースをたしていくと?」

「うーんと・・・・・・さらにオレンジ・ジュースっぽいミックス・ジュースになるよな?」

「そのとおりです。これも人からの受け売りなんですけど、一度混じってしまえば二度と同じものに戻すことは難しいんです」

「それって・・・・・・水と油を混ぜるのに、石鹸水をいれるような?」

あたしの指摘に、アレンはうなずく。

「コ毒の呪法と呼ばれる奴がキメラと似たような原理なら、先ほどの方法で元の形に限りなく近づけることは理論上できるはず」

あくまでも『限りなく』であって、『完全に』元の形に戻ることは難しいということか。

「エミリアのときも、それとおなじ?」

「状況は違えど、似たようなことですね。
ただ彼女の場合は呪術をかけられていたのが浅かったですけど、霊のほうが勝っていたので押さえ込む形になりましたけど」

「なんで魔道士じゃないのに、そんなに詳しいんだ?」

「神官がいる神殿と、魔道士がいる魔道士協会。
いんちきくさいものでも、人間ってやつは目に見える『奇跡』ってやつを信じたがるのよ。
表ではイメージ上仲良くなさそうだけど、実際は治療呪文を協会が研究・開発して裏で神殿に渡す。
・・・・・・それと、神官でも手続きをとれば協会で学べるのよ」

疑問を口に出すガウリイに、いちおー解説するあたし。

「とりあえず、サリュート大臣についての証言も取れたし、ここに長居するのもなんだから戻りましょうか」

「そうだなー」

あたしのことばに二人は同意した。

「そう・・・・・・ですね。ラディにも心配かけたみたいですし」

「ところでアレン」

「なんですか?リナさん」

クラース副評議長の屋敷に戻りがてら、あたしは彼に聞いてみる。

「このマジック・アイテムなんだけど」

「あげませんよ」

しれっといわれた。

「期限付きでお貸ししますが、それが欲しかったら俺じゃなくてオリヴァーと商談に入ってください」

「・・・・・・ケチ」

「もとはラディのものですから、無断で持ち逃げされると・・・・・・俺も困るんですよ」

後半はぽつりとつぶやき、ちかづいてきた町並みを眺める。







「・・・・・・アレン」

「ただいまもどりました。ラディ・・・・・・心配をおかけして申し訳ありませんでした」

屋敷の門前で、ラディはこちらの姿を認めるなりアレンに声をかけた。

「・・・・・・私だけでなく、クラース副評議長も心配されていた」

「・・・・・・すみません」

「・・・・・・そういうことは、直接本人に言え」

「せーんぱーいぃぃぃっ!」


ぐきっ


「ぐえっ!?ちょ・・・首しまって・・・・・・っ!」

間延びしまくってる声と共に、童顔の神官がアレンに突進して抱きついてきた。

「なぁぁんでぼくにー黙っていっちゃうんですかー」

「ひとこえ・・・・・・かけたじゃ・・・・・・ないです・・・・・・っ」


がっくんがっくんがっくん


すさまじい揺さぶりに、アレンは二の句が告げなくなっていく。

「ふぁ・・・・・・ちょっ!」

「ぼくがーどれだけーせんぱいのことをー心配してるとー」


がきょんがきょんがきょん!


「てを・・・・・・はなっ・・・・・・っ!」

「おもってるんーですかぁぁっ!」

あたしたちが呆気にとられてるなか、騒ぎに気づいたのか、ここの屋敷の主クラース副評議長は神官をにらみながら鋭い声をかけた。

「騒がしいから何事かと思えば・・・・・・人の屋敷の前で何をやってるんだ若造」

ぴた。

解放され、顔を真っ青にしてうつぶせに倒れるアレン。

「・・・・・・う・・・・・・くるし・・・・・・っ」

「そういうーあんたもーなーにやってるんですかー?」

クラース副評議長は、それにこたえずあたしたちのほうに向き直った。

「父から大体の事情は聞いた。とりあえず、中に入ってから話をしよう」

彼はアレンを軽々と抱え込んで、屋敷の中へと姿を消した。

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34083蒼の記憶 57フィーナ 2009/6/6 00:05:17
記事番号34054へのコメント

屋敷の広間へ向かう途中、はなしによると神官長は神殿のほうに帰っていったそうだ。

仕事の途中だったらしい。

「だいたい、なんで俺がクラースさんに人前で連行されないといけないんですか!?」

「人の屋敷の前で倒れていると通行の邪魔になるだろう?」

「百歩譲ってそうだとしても、いうに事欠いてお姫様抱っこで運ばれた男の気持ちって考えたことがあるんですか!?
・・・・・・人前で堂々としていたあなたは知らないと思いますが、あれ相当恥ずかしいですよっ!」

「遠目からだと早々分からん。その長髪だと、大柄な女性としても十分通用するぞ」

「余計なお世話です!」

・・・・・・とまあ、アレンとクラース副評議長の言い合いはあたしたちが広間へつくまで繰り広げられていた。

「せんぱーい。そんなこと気にしなくてもー。せんぱいはーじゅーぶん可愛いですよー」

「ファイ。男に可愛いといわれても嬉しくありません」

「おんなにならー。可愛いといわれたいんですかー?」

「そういう問題でもありません!」

不貞腐れるアレンに対し、彼らは示し合わせたかのように顔を見合わせ、

「・・・・・・ふん」

「ぶうー」

すぐに顔を背けた。

・・・・・・この二人、そーとー仲悪いな。この様子じゃ。

「それよりファイ」

「なんですかー?せーんぱい」

名前を呼ばれ、嬉しそうにする神官とは対照的に、クラース副評議長の眉間には不機嫌を表すかのように青筋が浮かんだ。

「エミリアさんの容態はどうですか?」

「・・・・・・うーんとー」

ファイは、すこししょんぼりとしていたが、気を取り直しいった。

「いちおー神官長さまがー。暴れないようにー動きを封じ込めてー。あとはーそのままでーす」

「では、まだ油断は出来ませんね。・・・・・・ラディ」

隣に佇むラディに声をかけるアレン。

「あなたは俺たちの手伝いをお願いします。
マジック・アイテムについて話したいこともありますし・・・・・・コ毒について覚えておいたほうがいい」

うなずくラディ。

「それじゃあ、あたしたちはあのことをはなすわ」

「・・・・・・詳しい話は後で聞こう」

クラース副評議長は、かすかに眉をひそめてそういった。








「あのサリュートって大臣。とんだタヌキね」

出されたハーブティのコップを片手に、あたしは口を開いた。

「・・・・・・どういう意味かね?」

「彼はマクベス公という存在を隠れ蓑にして、ある犯罪組織に所属していたのよ。しかも組織の首領という裏の顔を持っているという」

かたんっ

「犯罪組織・・・・・・ポイズン・ダガーかっ!?」

信じられないというように、驚愕の声を上げる副評議長。

「ええ。タチのわるいことに拠点が城の地下通路。
・・・・・・城の定番である、脱出のとき使われるカタコンベってやつよ」

しかも・・・・・・である。

万が一組織の拠点がそこにあるってばれても、マクベスをスケープゴートに仕立てられるように―――

あの役人。組織の人間の話によると、マクベスに対する不信を植え付けるよう、悪いうわさの情報操作も徹底して行われていたというのだ。

悪いうわさが絶えなかった評議長についても、組織の人間だったから庇っていたというわけではなく、八年前と同じように首謀者に仕立て上げ切り捨てる算段だったというのだ。

「だが、なぜ評議長は殺された?」

「それは評議長が組織の狙い・・・・・・罪を評議長に押し付けようとしているのに気づき、裏切ろうとしたから」

日ごろの行いが悪かったというか、自業自得ではあるのだが。

「・・・・・・それが殺害された動機か」

「そして、問題なのがポイズン・ダガーの潤沢している資金源なんだけど」

「・・・・・・私も副評議長として、魔道士協会という組織に携わっているからわかるが、組織の維持費というのはバカにできないぞ。
サリュートさま・・・・・・サリュートが首領だとして、窃盗だけでまかなえる資金が城の中にあるという話は聞いたことがない」

「副評議長。あなたはこの街の治安はいいほうだと思いますか?」

あたしの唐突な質問に、彼は困惑した。

「なにを・・・・・・いきなり」

「どうおもいますか?」

「・・・・・・どうって、私はふつうだとおもうが・・・・・・
商業の街だからにぎわっているし、ごろつきの類が多いのはちょっとした街なら割と見かける光景だろう」

「収入源は、本当に物取りだけでしょうか?」

「どういう意味かね」

「クラース副評議長。あたしが聞き込みをしていて分かったことなんですが・・・・・・
ここ最近は物取りの被害が増加している一方で、逆にごろつきと呼ばれる連中の数が減っていたそうなんです」

「・・・・・・矛盾してないか?
ごろつきが増えて物取りが増えるのが普通だろう。
・・・・・・なぜ悪人が減っているのに被害が増える」

あたしは本題を切り出した。

「コピー・ホムンクルスはご存知ですよね」

「知っているも何も・・・・・・この間の火事で、デーモンと大勢押しかけてきた・・・・・・」

いいかけて沈黙する。

「・・・・・・コ毒の呪法・・・・・・だと」

姿を消していったごろつきたち。

利き腕を失い、力を求め自分のコピーに精神を宿されたジェイク。

ガンボというコピーにいれられ、オリヴァーさんたちを監視していた流れの傭兵。

事業が傾き姿を消したエミリアの家族。

援助の名目でエミリアに近づいたポイズン・ダガーに所属していた評議長。

コピーの研究が盛んになって、最近になって取り入られてきたコ毒の呪法。

そして、暗躍してコ毒に手を貸していた覇王神官。

「まさか・・・・・・組織はコ毒の呪法を・・・・・・
・・・・・・他国に売り渡そうとしているのか・・・・・・死の商人として」

「たぶんそうだとおもうよ」

降ってわいた言葉に慌てて振り向くと・・・・・・

一体いつの間にそこにいたのやら、オリヴァー・ラーズが少しさびしそうな微笑を浮かべ、ちょこんといすに座っていた。

・・・・・・このあたしでさえも、気配をつかませずにいたとは・・・・・・何者?






「ずいぶんと無用心だねクララ。仮にも副評議長なんだから、もう少しあたりに気を配っていたほうがいいよ」

「やかましいクララいうなと何回言わせるつもりだ」

「なんだリナの知り合いか」

「あほかい!依頼人の顔忘れるんじゃないわよ」

・・・・・・つうかガウリイ。オリヴァーさん気づいてたんなら知らせろよ。

「それよりオリヴァー」

「なんだい?」

「貴様役人に連れて行かれたはずなのに、何でいるんだ」

彼の問いに、オリヴァーさんはにやりと笑い、

「・・・・・・ききたいかい?」

「・・・・・・いや、聞いたら聞いたで後悔しそうな気がひしひしとするんで、私はきかないが」

薄ら寒そうに身をすくませて答える彼に、オリヴァーさんは軽く肩をすくめて見せた。

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34086蒼の記憶 58フィーナ 2009/6/7 19:52:01
記事番号34054へのコメント

「問題は、決定的な証拠がないって事だな」

「どういうことだ?」

難しい表情でいうクラース。首を傾げるガウリイに、あたしは簡単に説明する。

「これは人から聞いた証言であって、直接証拠品があるわけじゃないのよ。
向こうのほうにしてみれば、しらをきってやりすごすことだってできるわ。自分を陥れるための陰謀だってね」

サリュートのうわさというと、たいていが好意的なものが多い。

おそらくこれも、情報をいじくられている部分もあるのだろうが。

「なら城に忍び込んじまって、証拠を押さえちまえばいいだろう?」

乱暴な方法だが、ガウリイの意見にあたしも賛成である。

しかし、副評議長は渋い顔で。

「地下への入り口って言うのもどこにあるのか分からないのでは・・・・・・
それに忍び込んで見つかった場合、城の兵士たちに延々説明しなくてはならなくなる」

「城の案内図なら心配要らないよ。手は打ってある」

オリヴァーさんは、意味深に笑っていった。

「・・・・・・オリヴァー・・・・・・なにを企んでいる」

「企むだなんて人聞きの悪い。
僕のような善良な一般人を、君はそんな目で見てたって言うのかい?」

胡乱げに視線をオリヴァーさんに向けるクラース。

「・・・・・・貴様のどこが善良な市民だと?」

「君やアレン君。それぞれに交わした約束も守って、穏便に事を収めようとしているんだよ?
・・・・・・これ以上ないくらい、善良なことはそうないんじゃないのかな」

「・・・・・・物はいいようだな。
まだ知られたくないことを言われたくなければと、私を脅迫しておいて穏便もクソもあるか」

睨んではき捨てる彼に、オリヴァーさんは満足そうに目を細めた。

・・・・・・わかってはいたが、黒いなー。

「この話に乗った以上、君に拒否権はない。
クラース。その覚悟で乗ったんだろう?君が大切に想っている人を、悲しませないように」

「わかってる。あいつは一度、心を狂わされた。
・・・・・・もう、壊れたあいつを見るのは私が耐え切れない」

「それは僕も同感だよ。
・・・・・・話を戻そう。実は、城の地下通路を知っている人物をここにつれてきてるんだ」

「きくが、それは信用できる相手か?」

「もちろん。ちゃんと釘も刺しておいた」

「だれよ。それ」

「その前に、リナ=インバース君。
僕との間に結んだ契約を覚えているよね」

「おぼえてるわ。事件の解決ですよね」

「そうだよ。城への潜入をしてくれるね」

それは、問いかけというより確認だった。

「もちろんです」

彼の言葉に、あたしは力強くうなずいた。








「それで、その相手は誰なんですか?」

「君たちは一度あっているはずだ。はいってきてもいいよ」

オリヴァーさんに促され、扉が開く。

その姿を認め、あたしは納得した。

「・・・・・・なんでこんなところに」

クラースの、どこか呆気にとられたような、怒っているかのような声と。

「・・・・・・誰だっけ?」

相変わらず事態を飲み込めていない、のほほんとしているガウリイと。

皆の視線を集中的に受けて、『彼』は居心地が悪そうに身をすくませる。

「いつまでもそこに立ってないで、こっちにきたらどうだい?」

オリヴァーさんの言葉で我にかえり、『彼』は居住まいをただした。

「みなさん。ぼくに力を貸してください」

レイスン・シティ領主。

マクベス・ランスロットは、真摯なまなざしをこちらに向け、ふかく頭を下げたのだった。

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34088蒼の記憶 59フィーナ 2009/6/9 18:05:09
記事番号34054へのコメント
マクベスから城の詳細と、その場所の大まかな場所をききだしたあたしたちは、夜になるのを待つことにした。

ほんとうは城に乗り込んだ際、ついでにサリュートもはりたおしておきたいのだが、証拠がない以上、下手につついて混乱を招きたくないというのがオリヴァーさんたっての希望だった。

エミリアの治療を終え、戻ってきたアレンは、それをきいて表情に出してはいなかったが憤った。

シーゲルやマリルさんが城の中にいるのが分かっているというのに・・・・・・

焦りをにじませて言う姿に、クラースさんが潜入する際、あたしたちと同行させるという妥協案を出した。

ただし、シーゲルたちを見つけたら速やかに戻ってくるという条件付で。

そのくらいなら、こちらとしてもさして支障は出ないだろう。

なにしろ、サリュートのバッグには、覇王神官がてぐすねひいてまっているのだから。

あまり楽観できる状態ではないのも事実である。

名前を知っていたぐらいだし、アレンも高位魔族相手にケンカふっかけるという無謀なことはまずしないだろう。

とはいえ、これはあくまでもあたしの希望観測でしか過ぎない。

ディーが・・・・・・というより、魔族にしてみれば人間の命なんかそこいらにある虫となんら変わりないものであり、ただ負の感情を引き出すための餌にしか過ぎない。

たかが人間ごときとたかをくくっているうちに、決着をつけたいものである。

あたしは了承を出し、アレンもそれに同意した。

副評議長の屋敷で腹ごしらえを済ませ、体力を温存させるため、夜になるまで仮眠を取ることになった。






仮眠から目覚め、一階のロビーへと向かう通路を歩くあたし。

あたりはすっかり暗くなってしまっている。

冷えた外気が通路をひんやりとさせた空気を漂わせている。

途中ある部屋の一室から明かりが漏れており、誰かの声が聞こえてきた。

「・・・・・・本当にいくつもりか」

「ええ。シーゲルやマリーが城の中にいる以上、俺は行きます」

なんのきなしに覗き込んでみる。

決意の秘めたまなざしで語るアレンと、フードをかぶり逡巡している様子のラディ。

「・・・・・・アレン。呪いは今もお前を蝕んでいる。
これ以上は私やエターナル・クイーン・・・・・・初代の上司であったあの方でも押さえは聞かないぞ」

あたしの故郷を治める女王陛下の名前が、何でこんなところに出てくる?

アレンはセイルーンに属しているはずである。

ゼフィーリアの王宮と通じているという話は、里帰りしている間、きいたこともない。

聞き耳を立て、そのまま様子を見てみる。

「承知の上です。ラディ。これ以上あなたにも、呪いの負担はかけさせたくない。
これは先代や先々代・・・・・・呪いに苦しみ、抗ってきた人たちにとっても転機となっているんですよ。
毒をもって毒を制す・・・・・・今このときだからこそやってみる価値はある」

「・・・・・・しかし」

なおもいいたげに口を開くラディを、アレンは手で制した。

「それにですね。俺は別に聖人君子でも何でもありませんよ。
ただのアレン・クラウンという人間です。迷いもするし、悩んだりもする」

「・・・・・・お前は、弟と似て相当な頑固者だ」

「よくいわれますよ。シーゲルは似ているといわれるのをいやがって髪を染めていますけど・・・・・・ね」

アレンはラディに向かって、茶目っ気たっぷりにウインクしてみせる。

「・・・・・・無事に戻って来い」

「ありがとうございます。ラディ」

なにやら訳ありの様である。

となると、気づかないふりをして、あとで徹底的につついていじめるというのが人情というものであろう(外道)

音を立てないように気をつけてその場を離れるあたし。






「あれ?はやかったわねーガウリイ」

そこには、すでにガウリイがいた。

「ん?ああ。冷えて便所行ってた」

「あ、そう。地図の間どりとかはガウリイ覚えてないだろうから」

「そうそう」

・・・・・・じぶんでうなずくなよ。ガウリイ。

「と・・・・・・とりあえず、上空からレビテーションで警備が手薄なところから忍び込むから」

「いつもやってるみたいにか?」

「いいじゃない。城に忍び込むのなんて初めてでもないんだし」

「それは心強い」

第三者の声が会話に割ってきた。

「うどわっ!?」

オリヴァーさんは、にこやかに笑って佇んでいた。

・・・・・・心臓に悪い登場をしないで欲しいものである。

「準備はいいみたいだね」

「ええ・・・・・・まあ」

「あとはアレン君が来るのを待つだけか。まだ寝てるのかな」

「起きてますよ。オリヴァー」

扉をくぐり、部屋の中へ入ってくるアレン。

「遅かったね。まさか、ここまできて怖気ついたわけじゃないだろう?」

「そういうわけじゃないんですけどね。それより、オリヴァーたちのほうも準備は大丈夫なんですか」

「仕掛けは上々。あとは手はずどおりだね」

悪い笑みを浮かべるオリヴァーさん。

「・・・・・・あなたを敵に回さなくてよかったですよ。オリヴァー」

「お褒めに預かり光栄だね。では、君たちの健闘を祈るよ」

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34091蒼の記憶 60フィーナ 2009/6/11 21:35:39
記事番号34054へのコメント

城への侵入は簡単だった。

レビテーションで人目のつかない場所に降り立ち、歩哨の兵士の巡回パターンを読んで通路を進む。

とちゅうみつかったらあたしのスリーピングや、ガウリイとアレンの当身で気絶させる。

そんなことをくりかえすうち、ひとつの行き止まりに突き当たった。

レンガ造りの壁と、明かりのともっていない燭台。

さてさて、たしかこのあたりだとマクベスは言っていたが。

「んじゃ、てわけして探してみましょうか」

あたしは壁をたたいていく。

隠し部屋というのは、こういった場所で大体がぽっかりあいた空洞によってできており、壁をたたくと他の壁より違う音が出るというのは定番である。


こんこん

      ビンゴ
どうやら 当たり のようだ。

扉の形に、その壁は他のと違う音を反響させる。

調べていたガウリイの手が、明かりのついていない燭台に触れて―――


ごぐんっ


行き止まりにしか見えなかった壁が、口を開いた。

「あいたな」

「・・・・・・そうね」

人一人が何とか入れるほどの入り口である。

「ライティング」

アレンの放った光量をおさえた明かりが、うずまく闇をぼんやりと照らし出す。

その先にあったのは、地下へと続く階段だった。






駆け下りるアレン。その後にあたし、ガウリイと続く。

よっぽど焦っているのか、アレンはそのペースを上げて降りていく。

不意に―――

前を行くアレンの姿が掻き消えた。

「アレン?」

立ち止まり、後ろを振り向くと、

「・・・・・・ガウリイ?」

あたしのあとをついてきたガウリイの姿も、忽然と消えていた。

下りていたはずの階段はいつの間にやら、平坦な通路になっていて―――

そこには、あたししかいなかった。

「どうやら、一人ずつ分断されたみたいね」

「そのとおりだヨ」

どこからか、ディーの声が響く。

空間を変な風にいじって、三人別々に招待されたのだろう。

「ゲーム盤の上にようこソ。くるころだとおもって楽しみに待ってたんダ」

「お出迎えご苦労様。ディー。それで、あんたはのんきに高みの見物ってわけね」

足を開き、虚空をにらみつけていうあたし。

「そんなところだネ。それにキミたちならこのゲームは喜んでくれると思って張り切って準備したんだヨ?
ゲームをクリアできたら、ボクとお気に入りの玩具がラスボスってやつになル・・・・・・簡単だろウ?」

ディーは、楽しそうな様子で言葉を続ける。

「でもボクが本気で遊んだらあっという間にゲーム・オーバーになっちゃうだろうかラ―――
最初に来たやつと玩具が対戦して、どちらかが壊れたらその時間の半分がボクが少し本気で遊ぶ時間になル。
・・・・・・ちなみにボクが遊ぶ時間制限ハ、その半分の時間でタイム・オーバーしたら次の仕事で別のところへ言っちゃうから頑張ってクリアしてネ」

「ずいぶん親切じゃないの。それにゲームを次々クリアしたら、勝手に手助けするってのはアリなのかしら?」

「ボクはいいけど玩具の場合、手助けするのは無しだヨ。それだとつまらないし、二人め以降は人形で遊んでネ」

言いたい事だけを言って、ディーの声はそこで途絶えた。


ぎいぃぃぃ・・・


あたしの先にある扉が、ゆっくりと開かれる。

さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。

あたしは一歩、前へ踏み出す。

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34093蒼の記憶 61フィーナ 2009/6/12 19:21:14
記事番号34054へのコメント

扉をくぐると長く延びた通路になっていた。

明かりが心もとなくともされており、幾分か薄暗い。

「エルメキア・ランス」

ショート・ソードに組み込んだストック・ジュエルが淡い輝きを帯びる。

「さーて。どんな歓迎が待っているのかしらね」

わだかまった闇が濃い空洞に目を向ける。

気配が近づいてきたのだ。

呪文を唱えるあたし。

「なんだ。だれかとおもったら、リナじゃないか」

「・・・・・・ガウリイ?」

呪文を中断し、まじまじと彼の顔を見る。

「突然いなくなってびっくりしたぞ」

「あんたなんでここにいるのよ」

「なんでって・・・・・・お前さんを探してたんじゃないか」

当然のように言って、こちらに近づく。

意識せず、一歩うしろに下がる。

「アレンは?」

「さあ。オレはみてないぞ」

・・・・・・おかしい。

なにがといわれると、答えようがないのだが・・・・・・

ガウリイが近づくにつれ、あたしの中の警鐘が危険を鳴らすのだ。

「とにかく、先に進もうぜ」

こちらに近づく。

警鐘は、さらに大きくなる。

ガウリイは、ゆっくりとこちらに近づき―――

・・・・・・同時だった。

あたしが後ろに跳び下がるのと―――

彼が剣に手をかけ、こちらに抜刀したのは。

ひゅ

風を切る刃の音と、熱せられた鉄を腹部に押し付けられるような痛みが生まれた。

「・・・・・・っ!」

あたしは痛みに顔をしかめる。

腹部からは、じんわりとした血が流れていた。

「おいおい。だめじゃないかリナ」

リカバリィの呪文を腹部に押し当てて、傷口をふさぐあたしに『彼』は笑みさえ浮かべつつ言った。

「逃げるなよ。こうやってオレが、お前さんを殺してやろうとしてるのに」

「勝手に人を殺さないでくれる?それでもあたしの保護者なのかしらね」

「別にいいだろう?他の誰かに殺されるぐらいなら、お前さんを手にかけるのは、保護者としてのオレのつとめだと思うんだが」

あたしは気づいた。

『彼』にまとっている気配が複数あるということを。

「生憎だけど、あたしは誰にも殺されるつもりなんてこれっぽっちもないわ」

「往生際が悪いな」

傷の痛みに耐えながら、あたしは言った。

「ガウリイのコピー。あんたにいわれる筋合いはないのよ」






考えてみれば・・・・・・である。

あたしとガウリイの二人は、一度城を訪れている。

コピーの生成は、髪の毛一本からでも作れる。

コピー技術が発展したこの町であればこそ。

城やそれ以外の場所で、あたしたちや町の人々の髪を採集するのは、そう難しいことではない。

そして、コ毒の呪法。

複数の気配を身に宿し、複雑な命令をこなすいわばグレード・アンデッド。

覇王神官の手により、それはさらなる力を得た。

「気づくのが早いな。だが、そのきずでは精神集中は難しく大技は出せない・・・・・・だろ?」

「ガウリイと同じ顔でそういわれると・・・・・・腹立つわね」

「オリジナルがどういわれようが、オレは痛くもかゆくもないぞ」

「でしょうね」

傷は思ったより深く、治るまで少し時間がかかる。

・・・・・・なんとか、だましだましやるしかないか。

「まあ・・・・・・他の連中も、お前さんと似たような末路をたどるんじゃないか」

剣の柄に手を当て、低い体勢をとる『ガウリイ』。

本物と比べると技量は劣っているというものの、それは本人と比べるとである。

あたしも剣の腕では使えるほうだが、新米兵士一ダースを何とかあしらえる程度のもの。

剣をあわせたその途端、ばっさりという事態になりかねない。

距離をとり、呪文を唱え始める。

接近戦に持ち越されないように、中距離から遠距離の呪文をセレクトして戦うしかないか。







「フレア・アロー!」

十本近い炎を解き放つ!

『彼』は最小限の動きでそれをかわし・・・・・・って、はやっ!

地を蹴ってこちらに刃を振り下ろす。

慌てて回避して『彼』から大きく距離をとる。

追いすがるのをダッシュでかわし、ショート・ソードで牽制する。

『彼』は上段から振りかぶり、鋭い太刀を浴びせ―――

「ダム・ブラス!」

高振動を与える無色のやりは、あっさりかわされ壁を破壊―――

・・・・・・いや。

破壊されず術は消失された。

・・・・・・?

不発ではない。

待てよ。

あたしたちが下りてきた階段。

忽然と消えた二人。

空間をいじられ、別の場所に飛ばされたとばかり思っていたのだが。

もしこれがディーの作った結界か何かだと仮定して、この通路は閉鎖された空間だとしたら?

疑問があったらすぐ実行!

あたしが唱えているのは、召喚系列の呪文である。

『彼』の顔色が変わり、鋭い剣をくりだす。

二の腕を浅くきられ、精神が途切れそうになるが、そこはガッツとこんじょーでカバー!

をのれ許すまじガウリイ!

コピーだと分かっていても、乙女の柔肌を傷つけた代償は高い。

ともあれ、いまは集中して―――

空間の因果法則を狂わせ、不安定にゆがめられた空間と本来の安定された空間。

セイルーンの王宮やサイラーグでもやった方法である。

あたしの呪文は完成し、呪力を解放する。

ついでにストック・ジュエルの魔力を解放させる。

「エルメキア・ランス!」

詠唱なしで『力ある言葉』をくちにだし、驚愕に顔をゆがめた『ガウリイ』に、光の槍が突き刺さり・・・・・・

前にのめりこむ。

その光景を最後に―――


ぱきぃぃぃぃん!


硬く澄んだ音がきこえ異空間が破られるのと、一羽のはとが出現したのはほぼ同時だった。

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34097蒼の記憶 62フィーナ 2009/6/14 22:05:44
記事番号34054へのコメント

異空間が破られ、先ほどとは異なる景色が広がった。

「・・・・・・リナさん・・・・・・?」

声が聞こえたほうを振り向くと、あちこちがぼろぼろになっているアレンの姿があった。

足取りもしっかりしており、怪我などはあまりしていないようである。

このようすだと、彼も誰かのコピーと戦っていたようだ。

「いったい・・・・・・なんだったんですか?いまのは」

「結界よ。魔族のはった」

簡潔に答える。

「あれが・・・・・・魔族の結界・・・・・・」

「それよかアレン。ガウリイは?」

「一緒じゃなかったんですか?」

問われて言葉に詰まる。

きぃぃん

剣の交わる音が反響した。

「こっちよ!」

場所はそう遠くはなかった。







あたしたちがかけつけたとき、そこで戦っていたのはガウリイと・・・・・・『あたし』だった。

そして、その傍らで笑みを浮かべて眺めている覇王神官。

戦っている・・・・・・というのとは違うのだろうか。

『あたし』の攻撃を、ガウリイは反撃もせずに剣で受け流していた。

所々きり傷ができており、ガウリイは防戦一方でさばいている。

「ガウリイ!」

あたしの声に、ガウリイは弾かれたようにこちらを向いた。

「あんたの相手はあたしよ!ガウリイ!」

そういいつつ、『あたし』の鋭い一突きは、ガウリイの腕を浅く薙いだ。

「ブラム・ブレイザー!」

アレンの放った青い衝撃波は、『あたし』を貫いた。

体勢を立て直し、『あたし』は身軽に着地した。

「人の逢引を邪魔するなんて、無粋じゃない」

「そんな積極的なせりふを、本物は言わないでしょうが」

なにげにヒドいことをさらりといわれた気がしないでもないが、いまはとりあえずガウリイの傷の治療である。

傷口に手を当て、リカバリィを唱える。

「リナ・・・・・・すまん。あのリナとお前さんの気配が別だって分かってたのに」

「なにあやまってんのよ。ほら、腕だして」

徐々に傷口がふさがっていく。

余興を見ているかのように、ディーは口を挟んだ。

「おもしろい見ものだったヨ。
ボクがすこし『たとえば、このお姉ちゃんが操られていたとしたらどうすル?』っていっただけで、反撃しなくなったんだからネ」

「・・・・・・」

ガウリイは、それを沈黙で肯定する。

あたしは彼の胸倉を掴み言った。

「ガウリイ。あたしはここにいるわ。
それに、あんたがまもるのはあたしであってコピーなんかじゃないわ」

傲慢ともとられかねないあたしの言葉に、彼はあたしの腕を両手で包み込んでうなずいた。

「・・・・・・ああ。そうだな」

いつくしむような手つきで、あたしの二の腕―――ガウリイのコピーに斬られた箇所に口を近づけ・・・・・・

「―――って・・・・・・やめんかーい!」

瞬時に手を引き、張り倒す。

打ち所が悪かったのか、ガウリイはそのままぴくりともしない。

ったく・・・・・・・油断もすきもない。

多少赤らんだ顔をごまかすように、ぱたぱたと手で仰ぐ。







「リナさんのコピーですか。よくもまあ、こんなにそっくりなものを揃えましたね」

「あんたもなかなかいい男だし、お姉さんが色々教えてあげようか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思考停止。

・・・・・・これあたしじゃないや。

一瞬鳥肌が立ったぞ!

アレンも同じように感じたのか、身を震わせた。

「・・・・・・けっこうです・・・・・・っ!
リナさんのコピー・・・・・・俺の精神を破壊するつもりですか!?」

額に流れるものをぬぐい、真顔で尋ねる。

とたん、よよよっ!と、泣き崩れる『あたし』

「まあ、ひどひ!あたしとのことは遊びだったのね!?」

・・・・・・あたしも泣きまねとか、ぶりっことかすることもあるが、傍から見るとけっこーくるものがある。

「リナさん・・・・・・どうしましょうか」

あたしはきっぱりと言い放つ。

「こんなんが世に出る前に、あたしがつぶす!」

「・・・・・・俺の精神衛生を保つため、微弱ながら協力させていただきます」

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34098蒼の記憶 63フィーナ 2009/6/16 17:25:24
記事番号34054へのコメント

「エルメキア・ランス!」

あたしの呪文を『あたし』は難なくかわし、ショート・ソードを片手に携えこちらに迫る!

アレンの錫杖がそれを受け止め、横払いに払う。

大きくたたらを踏んで『あたし』から生まれた十数本の炎の矢はうねりを上げてアレンに迫り、

「エア・ヴァルム」

風の結界で炎を蹴散らし、離れるようにして横手へ跳ぶ。

「ブラスト・アッシュ!」

その瞬間を見逃さず、あたしの放った黒い何かが『あたし』を包み―――

こむよりはやく、『あたし』はその場を飛びのいた。

思ったよりも早い。

あたしのコピーだけあって、かなりの反射神経である。

呪法の効果もあるのだろう。

そのスピードは、あたしを凌いでいる。

「さすがあたしじゃないの」

「そりゃどーも」

あたしのセリフに『あたし』はおどけて答える。

「なに自分をほめてるんですか」

アレンのツッコミはあえて無視して、思考をめぐらせる。

「きくけど、あんたは普通に呪法をかけられた口?」

「それをきいてどうするつもり?」

『あたし』はそれを否定はしない。

・・・・・・と、なると・・・・・・

「まあ・・・・・・あんたはあたしのオリジナルだし、あたしを倒す算段を考えてるんだろうけど」

『あたし』は不敵に笑い、ガウリイをみる。
             プリースト
「それよりあたしは、 覇王神官 に作られた以上、そこのお兄さんとゲームの続きをしたいんだけど」

「オレなら、べつにかまわんさ」

「・・・・・・いいんですか?」

気遣わしそうにガウリイを見るアレン。

「姿かたちは同じでも、オレにとってリナは一人だけだ」

「・・・・・・きれるんですか?」

「ほうっておいたら、あの『リナ』はお前さんやリナを相手にする。
オレはあいつを守るって決めてるからな。それ以上理由はいらない・・・・・・お前さんと同じようにな」

アレンは大きく目を見開いて、ガウリイを見つめる。

「俺には到底出来そうにありません・・・・・・したいとも思いませんけど」

「苦労するな」

「お互いに・・・・・・ですね」

「まったくだ」

なにやらわからんところで理解しあったらしい。

サムズアップで手をたたきあい、交代を告げる。

「そういうわけでリナ。ここはオレに任せてくれないか」

「いいけど・・・・・・あんたら、何の話でわかりあったのよ」

「そこは・・・・・・あれだ」

「男同士で通じる話もあるってことですよ」

アレンの言葉に、あたしはしばし考えて―――

「・・・・・・それってつまり・・・・・・男がよくベッドの下に隠している本のことと同じやつ?」

「・・・・・・基本的には同じのような・・・・・・根本的にどこかが間違っているよーな」

二人はあいまいに顔を見合わせ苦笑した。






「ボクのゲームは面白かっタ?」

「悪趣味でさいてーだったわ」

ディーの言葉にあたしはそうはき捨てた。

「それはなによりでボクも嬉しいヨ」

あたしのいやみも受け流し、ディーは笑顔で答えた。

「ステージクリアは目前ね。あとはラスボスを倒すだけなんだから」

「最初にステージをクリアしたそこのお兄ちゃんは、宣言したとおり気に入ってる玩具と遊んでもらうヨ」

いってツゥドルクの先端をアレンに向ける。

「玩具で遊んでいる間、キミたち相手に人形を入れて消耗させるのも面白いと思ったんだけド、上司のわがままで次の仕事が入っちゃってネ。
・・・・・・ボクもみているだけだとつまらないシ、その間はボクがお姉ちゃんたちと少しだけ遊んであげるヨ」

「それで景品とかはつくのかしらね」

「景品はそこのお兄ちゃんが探していた人間でいいかイ?」

ディーの意外な提案に少し驚く。

「ずいぶん気前がいいのね」

「ボクだってキミたちと遊べるなんて思ってなかったからネ。
・・・・・・人間の一匹ぐらいはちょっとしたサービスなのサ」

いって薄く笑う。

その中に狂喜の色を潜ませて―――







「じゃあボクの玩具を紹介するヨ」

ぱちん!と、指を鳴らす。

とたん膨れ上がる殺気。

覆面をかぶった―――体型からして男だろうか。

ぎぃぃん!

―――手にしたロング・ソードと、アレンの錫杖が正面からぶつかり合う。

数合打ち合ったアレンの表情が変わった。

「そんな・・・・・・でもまさか」

アレンは繰り出された剣を受け流し、中段から横なぎに払う。

相手は身をひねってそれをかわし、大きく間合いを開ける。

「ボクの玩具でゲームの景品。たしかシーゲル・クラウンっていわれてたネ」

『・・・・・・っ!?』

息を呑むあたしたち。

「なんてことを・・・・・・っ!」

怒りの声を上げるアレン。

「怒ってるのかイ?でもこの玩具は力を求めていたんだヨ。
ボクが玩具を作っているとき気づいたんダ。玩具は強い欲望や感情を抱いているときが一番うまくいきやすいってネ!」

哄笑をあげ、覇王神官は漆黒の杖―――魔族ツゥドルクを引き抜いた。



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34102蒼の記憶 64フィーナ 2009/6/18 22:20:49
記事番号34054へのコメント

「キミたちと・・・・・・復活されて、二度にわたって滅ぼされたルビーアイ様。
ボクは不思議に思ってたんダ。一度目ならまだしも、二度目も同じ人間に滅ぼされるその違いって何だろうってネ」

「・・・・・・っなっ!?」

シーゲルと対峙していたアレンは驚愕の声を上げた。
                                        ゼロス
「下っ端連中を腹いせに暴れさせ、考えてみても分からなかっタ。 獣神官 がいうには、二度目は人同士の戦いにしかみえなかったっていってたけどネ」

ディーの言葉の一つ一つに、あたしは怒りを覚えた。

二度目・・・・・・あたしたちが戦った相手は魔王なんかではない。

・・・・・・ルークという友だ。

大切な女性を守れず、修羅の道を歩むしか出来なかった・・・・・・不器用で一途な・・・・・・

「神に仕えるものさえ成し得なかったこト。
その理由をボクらが逆に利用することが出来れば他の神々さえも凌駕し、世界を滅びへと導けル。
・・・・・・そんな時だったヨ。サリュートという人間の野心と、この街にあった呪法を知ってボクは思ったんダ。
人間の精神を媒体にして、下っ端に憑依させればそれを再現できるんじゃないかってネ」

それが玩具の実態サ。と、彼は満面の笑みを浮かべて言った。






         プリースト
「・・・・・・では 覇王神官 」

「なんだイ?」

アレンの静かな声に、ディーは上機嫌にいった。
      プリースト
「まさか 覇王神官 ともあろうものが、人間の兄弟げんかに水を刺すなんて野暮なことはしませんよね。
・・・・・・シーゲルの意識が消えていないと分かった以上、俺は弟を助けるって決めてるので」

「好きにしたらいいヨ。助けることができれば・・・・・・だけどネ」

ぱちん!と、指を鳴らす。

シーゲルは覆面を剥ぎ取り、その容姿を眼前にさらす。

その狙いはいうまでもなく―――

アレンへの揺さぶり。

見慣れた弟の姿を目の前にし、兄として躊躇し・・・・・・動揺は隠しきれない。







「さてト・・・・・・それじゃあボクたちもゲームを始めようカ!」

ツゥドルクが虚空を切り、黒い衝撃波を撒き散らす!

とっさに散開し、あたしは唱えていた呪文を解き放つ。

「ダイナスト・ブラス!」


ばぢばぢばぢばぢっ!


魔力の雷が荒れ狂う。

「つまんないネ」

そうつぶやいて、空間を渡る。

挨拶代わりの一撃である。

覇王の呪文を使ったのは、宣戦布告の意味も含まれている。

背後に生まれる気配。

そして吹き抜ける殺気!

間をおかず左によける。

ごがぁぁん!

魔力球によって破壊される壁。

「おおおおおっ!」

気合と共に、ガウリイの剣がディーを捕らえる!

ぎんっ!

絡み合うブラスト・ソードと漆黒の杖―――ツゥドルクの、鋭い斬撃の応酬が繰り広げられる。

ぎっ!

ぎぎんっ!

あたしの目には、かすかな残像しか捉えることが出来ない。

ぶつかりあい、魔力の火花が数度瞬く。

ディーは大きく跳び退り―――

「ラ・ティルト!」

こぅっ!

その瞬間―――

あたしの放った蒼い火柱がディーを包み込む!

故郷に里帰りしている間に、取得していたのである。

ガウリイはダッシュで突っ込み、柱の中にある影に剣を突き出した!

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34104蒼の記憶 65フィーナ 2009/6/19 21:58:46
記事番号34054へのコメント

アレンとシーゲル。この二人の戦いは、実に静かな攻防だった。

正眼に構え、距離をつめるシーゲルに対し、アレンは下段の構えを取ってその場を動かない。

それに比例するかのように、発せられる気が高まっていく。

水をうったかのような静寂。

気がつけば、ノーモーションで繰り出されたシーゲルの一撃を錫杖で絡ませ、相手の勢いを利用する形で押し流し、アレンは鋭い突きを繰り出した。

がぢっ!

鈍い音がして、シーゲルのロング・ソードがそれを受け止めた。

受け止められるのを見るや、アレンは押し流されるように錫杖を引き、上体を沈めて左の回し蹴りを放った。

力の勢いによってつんのめったシーゲルは、その蹴りは何とかかわしたが続けざまに放たれた右の蹴りがみぞおちに食い込んだ。

「・・・・・・っ!」

からだを「く」の字に曲げるシーゲル。

アレンは錫杖を振り下ろし、シーゲルの左手に握られたロング・ソードを叩き落した。

かしゃん

地面に落ちた剣にアレンは視線を向け、

「ダム・ブラス!」

びきぃぃん!

鈍い音を立てて、剣は砕かれた。

『ガアァァッ!』

シーゲルの獣のうめきに近い声が響き―――

魔力球が虚空に生まれた。

それを何とかかわしきろうとした途端、魔力球は分裂しアレンに向かった。

ひゅひゅんっ!

うち数条がアレンの腕、ふくらはぎを貫通した!

「・・・・・・呪法をかけられた後、低級魔族との憑依が深いですね」

アレンは苦い表情で言った。

肉が焼け焦げた嫌なにおいが充満する。

傷は思ったよりも深いのだろう。

アレンの額には、ダメージの深さを物語るように脂汗がびっしりと浮かんでいた。

「しかもかけられた時間が長い・・・・・・厄介ですね」

傷口に治療呪文を施しながら、ポツリとつぶやく。

「・・・・・・7:3の確立で分が悪いですけど・・・・・・やってみる価値はありそうです」

その場には不似合いなほど、優しいまなざしをシーゲルに向け・・・・・・微笑を浮かべたその顔で。

「エルメキア・ランス」

錫杖が淡い輝きを放つ。






ガウリイの剣が、そこにいたディーの影を突き刺した。

蒼い光りが薄れ、貫かれたディーの体はかすむように消え―――

「ちっ!?」

その場を跳び退く。

光球が、ガウリイのいた場所を焼き払った。

魔族が得意とする、トカゲの尻尾きり!

精神体の欠片だけをその場に残し、本体はアストラル・サイドに逃げ込む。

次に出現する場所は・・・・・・あたしの後ろか!?

思った瞬間。

「上だ!」

ガウリイが叫ぶ!

ふりあおぐいとますら惜しみ、あたしはとっさに前に跳ぶ!

上空から放たれた光りが、無数の雨の様に降り注ぐ。

ぢゅ!

不吉な音に振り返ってみてみると、地面に無数の穴が出来ていた。

これ一発だけでも喰らったら、間違いなく骨まで溶かされていただろう。

気配を頼りに、唱え終わっていた呪文を放つ!

「ダルフ・ストラッシュ!」

高速に放たれた槍は、出現したディーに向かい―――

ばしゅ!

突き出されたツゥドルクとぶつかり合って、激しい音を立て消滅した。

「この程度で、よくシェーラたちを滅ぼせたネ」

ふよふよと空中に浮かび、ディーはいった。

「デモン・スレイヤーなんてたいそうな呼び名で呼ばれてるから、ちょっとは期待してたんだけド」

すぅっと、目を細める。

「とんだ見込み違いだヨ」

その細められたアイス・ブルーの瞳は、獲物をなぶる獣を連想させた。

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34107蒼の記憶 66フィーナ 2009/6/22 19:26:10
記事番号34054へのコメント

錫杖を構え、呪文を唱え始めるアレン。

シーゲルは、低いうなり声を上げる。

虚空に生まれる魔力球。

アレンが地を蹴り、シーゲルに向かったのとほぼ同時、

魔力球が解き放たれた!

ひゅん

迫り来るそれを紙一重でかわし、さらにスピードを上げ突っ込む。

シーゲルは迎え撃つ形でうなり声を上げ。

その動きを封じられる。

アレンのラファス・シードによって。

このラファス・シード。対象の体の自由を完全に奪うことが出来る白魔術で、シャドウスナップのように動きを封じることが出来るが、シャドウスナップと違ってこの術の影響を受けた相手は、呪文も唱えることが出来なくなる。

コ毒の呪法によって魔族と同化させられていても、一瞬動きをとめることができる。

そして、その一瞬はアレンにとって十分な時間だった。

一気に間合いをつめ、錫杖を横になぎ払った。

どごっ

声もなくのけぞるシーゲル。

「エルメキア・ランス」

杖にこめられた魔力を解放させ、至近距離ではなった。

エルメキア・ランスの力の余波はアレンにも及び、かすかに眉をしかめる。

「・・・・・・シーゲル」

アレンの呼びかけに、彼はうっすらと目を開けた。

「あに・・・・・・き?」

反応を示した弟に、アレンは微笑した。

「よく眠れましたか?シーゲル」

「ここ・・・・・・は?」

ぼんやりというシーゲルに、アレンは兄の顔で言った。

「城の中です。なかなか戻ってこなかったから、心配して探してたんですよ?」

「おれ・・・・・・もうガキじゃねぇんだけど」

憮然としていうシーゲルに、彼は苦笑した。

「そんなこといってる間は、まだガキなんですよ。
まだ眠り足りないでしょう。もう少しだけ寝ててもいいですよ。久しぶりに添い寝でもしてあげましょうか」

「やだよそんなの。おれらがガキのころの話じゃねぇか」

「たまにはいいでしょう?ちょっとした嫌がらせです」

「・・・・・・クソ兄貴」

彼はそれに苦笑を浮かべ、呪文を唱え始める。

「おれ・・・・・・マリーを守るって、兄貴と昔かわした約束・・・・・・まもれたかな?」

呪文を唱え終わったアレンは、優しくうなずいた。

「・・・・・・そっか・・・・・・ならいいや」

満足そうに目を閉じるシーゲル。

「スリーピング」

ゆっくりと、深い眠りにおちていく。

双子の片割れを胸に抱き、アレンはつぶやいた。

「・・・・・・よく眠ってくださいシーゲル・・・・・・
俺のように、知らなくてもいいような記憶をあなたはもっていなかったこと・・・・・・
・・・・・・滅びていく初代に、呪いをかけたあの存在には、その点に関してのみ感謝していますよ」

シーゲルを、戦闘の被害が及んでいない壁まで運んでいき、そっと地面におろす。

アレンは、あたしたちと戦っているディーに向かって―――

詠唱を始めた。






「おおおおおおおおっ!」

ぎぃぃぃぃんっ!

裂帛の気合いと共に繰り出されるガウリイの斬撃を、覇王神官のツゥドルクが受け止め弾き返した。

ディーが立て続けに連撃をしかけ、ガウリイはそれをすべて捌き切る!

切り結ぶ二人に、あたしは思考をめぐらせる。

覇王神官クラスの相手ともなると、並みの呪文ではダメージを与えられない。

ダイナスト・ブラスあたりならなんとかダメージは与えられるが、やはりそれでも一撃必殺というには役者不足である。

ギガ・スレイブはむろん論外。

あんな術を使おうもんなら疲弊している今のあたしでは、不完全版でも制御に失敗してしまうだろう。

となると―――

故郷に里帰りしている間に開発したあの呪文なら。

あの呪文は接近戦に持ち込まなければならないが、その威力は光の剣並み。

タリスマンを失ったあたしの切り札である。

ディーもガウリイとの接近戦で気をとられており、足が止まっているこの時に賭ける!




――― 黄昏よりもなお昏き
     紅き闇を総べる王
     我らが道の行方を遮る
     報いを求めし愚かなる者に ―――




黒魔術を行使する際には、カオス・ワーズによって紡がれる。

あたしが力を借りる者の名。

必要な印と、身振り。

精神力で術を制御する。

ガウリイと切り結んでいたディーの杖の先端から、黒い衝撃波がガウリイを襲った!

斬撃の応酬中、しかも至近距離からの一撃である。

ごがぁっ!

持ち前の反射神経で直撃こそ免れたものの、よけきれなかった衝撃波によって、ガウリイは近くの壁に叩きつけられた。

「ぐあっ!」

ディーはこちらに視線を向ける。

詠唱が間に合わない!




――― 暁から生まれし
     灼熱の竜よ ―――




・・・・・・声が聞こえた。



――― 裁きの咆哮
     紅蓮の怒り
     我が前にある敵を
     焼き尽くせ ―――




その声は、祈りを捧げるように澄んでいて。

・・・・・・不思議な旋律をにじませていた。

覇王神官の表情が、驚愕に染まる。

その視線の先にいたのは―――

「ヴラバザード・フレア」

『力ある言葉』によって生まれた赤い閃光は、悲鳴を上げることさえ許されずディーを呑み込んだ。

ぢゅごっ!

ディーの近くにあった壁をあっさりと蒸発させる。

しかし―――

ディーはまだ立っていた。

あたしは瞬時に頭を切り替え、続きの詠唱を口にする。




――― 我と汝が力持て
     滅びの刃を今ここに ―――




ダッシュで、ディーの懐に飛び込む。

「ルビーアイ・ブレード!」

振り下ろされる赤い刃。

この世界の闇を総べる魔王の力を借りた呪文。
           ルビーアイ
・・・・・・その名は 赤眼の魔王 シャブラニグドゥ。

覇王神官の手に握られていた漆黒の杖が。

その一撃を阻んだ。

―――ツゥドルク!

おおおぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉん

それは怨嗟か怒りの声か。

空間が悲鳴を上げる!

ディーはツゥドルクで、あたしの生み出した刃を押し返す。

ぞんっ!

「るぁぁぁぁっ!?」

横手から来た斬撃に、ディーは大きくのけぞった。

―――ガウリイ!

左肩を上下にばっさり切られ、ディーの力が弱まった。

あたしは渾身の気合いをこめて―――

おおぉぉぉぉぉん

・・・・・・ディーからではなく。

ツゥドルクから生まれた衝撃波が、あたしたちを地面に叩きつけた。

どん!

「くぁっ!」

したたかに背中を打ち付けられる。

「ははハ・・・・・・アハハハハハッ!」

・・・・・・覇王神官の・・・・・・狂ったような哄笑が響き渡った。

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34113蒼の記憶 67フィーナ 2009/6/25 23:04:25
記事番号34054へのコメント
ガウリイによって切り倒された覇王神官の腕は、霞のようにとけ・・・・・・消えた。

ディーは、失われた自分の腕をおかしくてたまらないという様子でいった。

「面白いヨ!キミたちみたいな壊し甲斐のある人間なんて何百年ぶりだろうカ!」

ルビーアイ・ブレードによる魔力の消耗はバカにできない。

以前はデモン・ブラッドという魔力増幅術があったおかげでラグナ・ブレードのようなとんでもない術を発動させることが出来ていた。

・・・・・・まあ、このルビーアイ・ブレードも、とんでもない術であることに違いはない。

仮にも魔王の力を借りているだけのこともあり、この世のあらゆるものを切断することが出来るとされているのだ。

・・・・・・しっかし、あいつもよくこんな術を知っていたものだと感心もした。

半分は、あいつにたいするあたしへの、八つ当たりみたいな悔しさも含まれてはいるが。

「別にあんたに壊されるために、生きているわけじゃないわよあたしたちは」

「お互い相容れない者同士だということは理解(わか)っているのだろウ?
・・・・・・すべての滅びを望むボクたち魔族と生存を望むキミたち人間とでハ」

わかっている。

こいつら魔族の思想を否定する気はあたしにはない。

彼らは『あの存在』に、そう創られているのだから。

「でもまさカ・・・・・・こんなところでキミたちと・・・・・・ルビーアイ様に呪いをかけられた神族に出会えるとは思ってもみなかったヨ」

「・・・・・・それは・・・・・・初代のことでしょうが」

そういったのは、肩ひざをつき息も絶え絶えのアレンだった。

体は小刻みに震えて顔も青ざめており、満身創痍といった状態だった。

「どういうことよ」

「・・・・・・・・・・・・」

「ボクが代わりに教えてあげるヨ」

あたしの問いにアレンは答えず、代わりにディーが口を開いた。
      覇王様
「これは じーさん からきいて知ってるんだけど、このお兄ちゃんはネ。
降魔戦争のとき、ルビーアイ様が水竜王を滅ぼす際かろうじて息が合った神族デ、余興として輪廻の中に覚え続ける呪いをかけられタ」

「それのどこが呪いだっていうのよ」

「普通・・・・・・転生するとき、自己防衛本能の一つで多くの存在が前世を覚えていません。
―――スィーフィード・ナイトのように力と意識の一部を生まれつき備えている人間もいますが」

それに答えたのはアレンだった。

顔に苦渋の色を浮かばせて。

・・・・・・それはあたしがよく知っている。

ただ、姉ちゃんがぶっちぎって強いのは、生まれついての素質だけでなく、日々の培われた鍛錬の賜物だということも、故郷に里帰りしてガウリイと心底楽しそうに剣を振るっていた姉ちゃんを見ていたあたしは知っている。

・・・・・・途中から父ちゃんも嬉々として混ざっていたが。

仕事ほっぽってたのを母ちゃんにばれて、父ちゃん耳引っ張られてたけど。

いまさらだがガウリイ・・・・・・よく生きてたなー。

「俺の・・・・・・俺たちにかけられた呪いは、自我が形成され、特定の状況に陥ったときに発動します。
・・・・・・それまでは、他の人たちと同様に、前世のことなんか覚えていません」

「・・・・・・ちょっと・・・・・・それって」

「そうだヨ。この呪いの面白いところはそこにあル」

かすれた声で言うあたしに、ディーは笑顔で言った。

「今まで培われていた自分の人格二、数人分にも及ぶ膨大な数の記憶が一挙に大挙すル。
呪いをかけられた神族の記憶の量ハ、それの比ではないと思うけどネ」

なんて・・・・・・残酷な呪いをかけたのだろうか。

・・・・・・北の魔王は。

以前ラディが言ってたセリフの意味を、あたしはこのとき理解した。

コ毒の呪法と、似て異なるものだと。

「だけどおかしいネ。呪いはかかっているはずなのに、キミは狂いもしていなイ」

「目に見えない形で、俺は徐々に確実に狂っています。
・・・・・・自覚できるぐらいはっきりと。ですが、なんといわれようと俺は人間ですよ―――覇王神官」

身内の人間に対する過剰なまでの執着。

自分のことについてはどこか無関心で、無頓着。

「世界を壊そうとするのなら、俺の身が狂い死になろうと、呪いの力を借りてでもそれを阻止します」

穏やかな微笑の奥に潜む―――静かな狂気にあたしは気づいた。

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34114蒼の記憶 68フィーナ 2009/6/26 11:59:11
記事番号34054へのコメント
「世界のためにってやつかイ?ちゃんちゃらおかしいネ」

へし折れたツゥドルクを、ディーが一振りすると見る間に再生された。

「俺がやってるのは、別に世界のためなんかではありませんよ。
正義なんて個人によって異なるものですし、例え報われなくても人の力になれればいいと思ってるだけですよ。
・・・・・・あなたには理解できないでしょうが」

ディーは鼻で笑った。
                    主                 部下
「シェーラ同様反吐が出るヨ。 上司 のためにあるのがボクら 道具 デ、ボクらのためにあるのが玩具」

これ以上ない簡単な図解だろウ?と、ディーは言葉を続けた。

あたしは、その会話に言葉を挟まなかった。

あの時。

冥王フィブリゾが、ガウリイを盾にしてあたしにギガ・スレイブを強要したとき。

砕かれそうになったクリスタル・ケースをみた瞬間、あいつの思惑とかどこかへ消えてしまった。

・・・・・・結局それは『アレ』と冥王のポカという、間の抜けた話であたしが生き残っただけなのだが。

だけどあの瞬間。

あたしは紛れもなく、世界を裏切った。

完全版のギガ・スレイブを唱えていたあたしは、狂気に支配されていたといっても過言でもないだろう。

自分の意識がはっきりしていての選択。

人の狂気は常に己に付きまとい、表裏一体なのだということを。

ルークがミリーナを失って人間や魔族、世界を憎み魔王の魂と同化したように、もしあたしが同じ状況に陥ったら。

里帰りしている間、考えてもみた。

・・・・・・そうならないように、あたしはここにいるのだ。

未来に起こりうる可能性を立ち止まって考えるも、今ここにある瞬間にあたしたちは存在しているのだから。






「残念。時間切れダ」

「・・・・・・なんのだ?」

剣を構え怪訝そうなガウリイの問いに、ディーは答えた。

本当に残念そうな顔で。

「・・・・・・上司からの緊急召集だヨ。本当はもう少し揺さぶって遊びたかったんだけどしょうがないネ。
―――でもまあ・・・・・・玩具作りも思った以上の成果も出せたシ、別にいいカ」

「・・・・・・どういう意味よ」

「気づいてなかったのかイ?そのおにいちゃんがやったのは一時しのぎの方法だってことサ」

言い残すようにして、覇王神官ディーは虚空へと溶け―――

・・・・・・消えた。

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34121蒼の記憶 69フィーナ 2009/6/27 23:31:21
記事番号34054へのコメント
「・・・・・・大丈夫ですか?リナさん」

気遣わしそうな声と視線に気づき、振り返ってみるとアレンは心配そうな表情でこちらを見ていた。

先ほどの衝撃波で、体の節々は痛むが、それほど大したものではない。

傷はリカバリィでも間に合うだろう。

「ああ、リカバリィ程度で治るものだし平気よ。
・・・・・・それよりあんたのほうが辛そうだけど・・・・・・?」

「そんなことありませんよ。ガウリイさんは大丈夫ですか?」

「お前さんほどでもないさ」

立ち上がりいうガウリイに、アレンは首を横に振った。

「俺なら思ったほど酷くないんで平気です」

青ざめた顔で言われても、説得力は皆無である。

「アレン。あんた満身創痍の状態で、平気も何もないわよ」

彼はなおも首を横に振る。

・・・・・・大人しそうに見えて、中々強情なやつである。

「記憶が混同している状態なんでそう見えるだけです。しばらくすればおさまります」

頑として否定し、ガウリイの傷の状態を見て、アレンは治療呪文を唱え始めた。

何を言っても無駄・・・・・・か。

アレンには色々聞きたいこともある。

とりあえずあたしは、擦り切れた部分にリカバリィの力を当てる。






「あんたが北の魔王に呪いをかけられたって本当?」

「・・・・・・直球で来ましたね」

「気になることは早めに聞いてすっきりしたいのよ・・・・・・で、ほんとう?」

「・・・・・・正確に言うと、俺じゃなくて初代なんですけどね」

胸倉をかっくんかっくん揺さぶりながら詰め寄ったあたしに、アレンはぐったりしながら肯定した。

逃げられないように、あたしが正面。ガウリイが真後ろに陣取っての質問である。

他言無用でと、懇願にも似た必死な様子に考えておくといっておいたが。

はたから見ると、尋問しているように見えるのが難点なのだが―――

・・・・・・細かいことは気にしないように。

「さくさく聞いていくけど、あんたの言う初代と戦った北の魔王って誰を依り代にして復活したの?」

何しろ降魔戦争の生き証人みたいなものである。

長年の疑問も解消され、詳しいことも聞け、まさに一石二鳥である。

アレンはさらりといった。

「レイ・マグナスですよ」

ぶはっ!?

あたしは思わず噴出した。

その隣では、ガウリイが不思議そうな表情で、小首をかしげているが。

「魔道士なら聞いたことのある人物じゃないでしょうか」

聞いたもなにも・・・・・・それ魔道士ならずとも・・・・・・

その名を知らないやつが、ほとんどいないんじゃないかってくらいの有名人なんですけど。

「覇王神官が言ったとおりのいきさつなんで、割愛させていただきますけど。
別にあなたたちをだましていたわけじゃありませんよ。ただ隠していただけのことであって」

「なんで隠してんのよ」

「なんで・・・・・・っていわれましても」

困ったように、視線を泳がせる。

「・・・・・・何代か前の魂の所有者なんですけど、あなたのいうようにカミング・アウトしたら、これがまあ・・・・・・笑えないことに異端者扱いされて、生きたまま火あぶりにされちゃったんですよ」

げっ!?

生きたまま火あぶりって・・・・・・。

「それだけなら、まだ痛い話で終わらせることも出来るんですが」

たしかにイタいわな。

「死ぬときの痛みとか、波長が近いとダイレクトで感じてしまうことがあるんですよ」

諦観したような笑みを浮かべる。

「ラディが呪いの受け皿だって言ってたけど、そのために作ったの?」

「そんなこといったんですか?」

アレンは、大きく目を見張った。

「以前もいったと思いますが、ラディは俺の補佐です。
実はラディは、最初シーゲルが魔道の実験で作り、この街に以前立ち寄ったとき、俺のためにって言っていただいたものなんですよ」

・・・・・・それって、普通押し付けられたっていわないか?

まあ・・・・・・本人がいいみたいだから、どうとはいわんが。

「俺の本業は神官であって、魔道士ではありませんし。
魔道に関しての基礎知識は教えていますが、ラディにもし自我が目覚めたら俺とは別の道を歩んで欲しいと思っていますよ。彼には初代の口調と名を少しもじって名づけました」

「きくけどあんたがいってる初代の名前って?」

「・・・・・・ラーディです」

「ってことは女性?」

「ええ。そうです」

「日帰りク○ストか?」

横から口を挟んだのは、いわずもがなガウリイである。

・・・・・・出版社違うし・・・・・・っていうか、日帰りのはラーディじゃなくてラーディーだし。

「なんでンなどうでもいいことだけ、ガウリイが知ってんのよ!?」

「原作者同じだからいいじゃねぇか」

「あの・・・・・・リナさんにガウリイさん。さっきからなんのはなしを?」

話についてこれなかったアレンが困りきった視線を向ける。

「ああ。細かいことは気にしちゃだめよ。いつものことだから」

「・・・・・・はあ」

返答に窮し、あいまいにうなずくアレン。

「さっきあんたが使っていた呪文についてなんだけど」

「呪文にはかわりませんね」

「オレにはなんか詠ってるみたいに聞こえたんだが」

「そうね。そういう表現のほうがしっくりくる旋律だった」

「リナさんたちも、ある意味当事者じゃありませんか」

・・・・・・へ?

目を点にするあたし。

「アメリア様から、あなたたちが冥王フィブリゾを滅ぼしたと拝聴しまして。
半信半疑だったんですけど、呪いの力から初代の記憶を引っ張り出して呪文を組み合わせてみましたら発動しちゃったんですよ」

しちゃった・・・・・・って。

そんな、何てこともない様に言われても。

「覇王神官に使ったのは、火竜王ヴラバザードの力を借りた呪文です」

「おお!たしか、でっかいトカゲの人が使ってたな!」

「で・・・・・・でっかいトカゲ・・・・・・?」

アレンの口元がかすかに引きつったのを、あたしはむろん見逃さなかった。

以前、ある竜族にガウリイが悪意なく連呼していたけど・・・・・・。

さすがにアレンも、トカゲ呼ばわりされるのはイヤみたいである。

・・・・・・とうぜんか。

しっかし・・・・・・そのときの相手は覇王だったが。

よく戦闘中のこと覚えてたなガウリイ。

「初めて使ったら、初代の記憶が溢れ出て―――
・・・・・・危うく記憶に呑みこまれる所でしたけどね。今となったら、いい思い出ですよ」

「・・・・・・いい思い出なのか?」

「そこは・・・・・・言葉のあやといいますか」

ガウリイに突っ込まれる時点、そもそもの過ちである。

「でもアレン。あんた初代のときエターナル・クイーンっていうか、水竜王に仕えてたんなら助けを求めればいいじゃない」

「あの方は国政とかに力を注いでいますし、面識のない俺は迷惑にしかならないじゃないですか」

「ふーん。やっぱ女王陛下が水竜王なのね」

「・・・・・・・・・・・・え?」

ぎぎぎぎぎ!と、ぎこちなく首をこちらに向ける。

こころなし涙目になっているのか、瞳が潤んでいたりする。

「カマ・・・・・・かけたんですか?」

「うん」

本当は会話を盗み聞きして、確認を取ってみただけなのだが。

反応が面白いんで、黙っておくことにする。

さあぁぁぁ

先ほどとは違った意味で顔を青ざめるアレン。






そしてその後。

アレンは半狂乱になるほど怯え、そのあまりのうろたえようにあたしがエルボーキックで大人しくさせるまで慄いていた。

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34125蒼の記憶 70フィーナ 2009/6/28 22:42:35
記事番号34054へのコメント

「どう。落ち着いた?」

「・・・・・・あなたに蹴られたところが痛むだけです」

「正気に戻ってよかったじゃないの」

後頭部をおさえ、言うアレンにしれっと答えるあたし。

「女王陛下の事は言わないわ。言いふらす気も起きないし」

あの人と故郷の姉ちゃんを、敵に回すなんて恐ろしい事出来るはずがないし。

「あの・・・・・・できれば、他のことも保障して欲しいんですけど」

「たとえば?」

「俺がウサギ目魔王の呪いで記憶持ってて、神聖呪文を使えるなんて知られたら、フィリオネル王子ならまだしも」

頼むからあのおやぢをおうぢと呼ぶな。

ウサギ目って・・・・・・そう付け加えると、やけにらぶりぃなものしか思い浮かばん。

・・・・・・魔王の威厳形無しである。

「アメリア様あたりが聞いたら・・・・・・暴走しそうですし」

アメリアならさもありなん。

「王宮なら、旅に出ておられるグレイシア様との縁談にもっていかれそうで・・・・・・俺の精神や肉体がもちそうにありません。
他の竜王がこちらに観光に来て、記念に神聖呪文をほこほこ教えにくるなんて、まずありえないでしょうし」

そうほこほこ竜王が出歩く姿なんて見たいような、見たくないような。

「なんにしても、政略的な道具としてしか扱われないでしょうね」

「話に出てきたグレイシアさんって、どういう人なの?」

「・・・・・・え?」

目に見えて動揺する。

「あ・・・・・・あの方についてですか?」

「あの方・・・・・・ねえ」

あたしはにまりと、笑みを浮かべた。

「な・・・・・・なんですかリナさん。その笑みは?」

引け腰になるアレン。

「アレン。あんたひょっとして、そのグレイシアさんのことを好きなんじゃ?」

「スィーフィードに誓ってでも絶対にありえません!」

きっぱりと否定する。

「そんな力いっぱい否定しなくても分かってるから」

「分かってないじゃないですかっ!
この街に来る前に見かけた、あの方の変・・・・・・独創的で個性あふれる服装とか。
王宮内ではバ・・・・・・朗らかで気品あふれる笑い声で、絶えず笑いが絶えない所は、いろんな意味ですごいと思いますけど。
・・・・・・どこを、どうとったらいいものなのやら」

「そこまで相手を理解しているってことなら」

「だからですね。俺がいいたいのは、あの方に恋愛感情抱けというのが、どだい無理なはなしなんです!
・・・・・・それに俺は、いうつもりはありませんけど、他に好きな人がいますし」

「いうつもりはないって・・・・・・なんでまた」

「・・・・・・その人と長年連れ添ってる相手の絆が、強いことも知っていますし・・・・・・
それに、本人たちは気づいていないと思いますが、俺にとって恩人みたいなものなんで。
第三者である俺が踏み込んで、二人の仲が壊れるのは・・・・・・俺がいやなんです」

彼の顔が一瞬歪み、それが幻だったかのように次の瞬間には、あの穏やかな微笑に戻っていた。







「・・・・・・何度も念を押しますが、俺が言ったことは他言無用でおねがいします」

「い・や・だ♪
・・・・・・って、あたしがいったらどうするつもり?」

「お・・・・・・驚かさないでくださいよ!?
どうするもこうするも、オリヴァーならいざしらず、俺があなたに舌先三寸でかなうわけないじゃないですか」

「もう達観しとる。リナ。いじめるのもほどほどにしとけよ?」

「違うわよガウリイ。いじめてるんじゃなくて、からかってあそんでるだけ」

「・・・・・・・・・・・・」

アレンは沈黙した。

「アレン。あんたとりあえず、シーゲル連れて外に出なさい。
クラース副評議長は、シーゲル見つけたら戻ってくるようにいってたし約束はまもんなきゃ」

「・・・・・・そうですね。
シーゲルにかけられたコ毒の呪法は、通常のやつに比べ憑依の状態も深い。
それに加え、低級とはいえ魔族とも合成されている。いまはラファス・シードとスリーピングで動けなくさせていますが・・・・・・それがきれたら」

アレンは、シーゲルを担いでこちらに頭を下げた。

「くれぐれも、無茶はしないでください。特にリナさん」

「呪いもちのあんたには、いわれたくはないわね」

「・・・・・・手厳しいですね」

彼は、苦笑を浮かべた。

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34133蒼の記憶 71フィーナ 2009/6/29 21:56:22
記事番号34054へのコメント

「おお!マクベス公!
ご無事でしたか!このサリュート、たいそう心配しておりましたぞ」

城の謁見の間で、マクベスの姿を認めたサリュートは、大仰な身振りであたしたちを出迎えた。

サリュートのほかには、多くの高官や城の兵士がいた。

兵士たちは、当たり前だが鉄兜で顔を覆っており、その目元しか姿を認めることは出来ない。

マクベスの護衛という名目で、あたしとガウリイもその場に同席している。

「サリュート。ついた早々で申し訳ないが、貴殿に聞きたいことがある」

マクベスは、厳かに口を開く。

「なんですかな?」

「八年前に辺り一帯を牛耳っていた『ポイズン・ダガー』という犯罪組織について」

わずかに―――

その場の空気がざわめいた。

サリュートは、表情を崩すことなく柔和な笑みを浮かべた。

「もちろん、存じ上げてございますよ。
公の父君であるリチャード公と、我が友でもあるオリヴァーによって壊滅をたどった。
・・・・・・忌まわしき犯罪組織のことでございましょう?」

「そうだ。だが、首謀者が捕らえられてもなお、近年になって魔道士協会評議長が殺害され、組織の暗躍があった」

「公ともあろうものが、何をおっしゃられるのやら。
おおかた、今頃になって組織の残党が好き勝手に動き始めたと思うのが道理でしょうが」

「わたしも、はじめはそう思っていた。
だが、人を雇い調べを進めていくうちに、サリュート。
・・・・・・首謀者として、貴殿の名が浮かんできた」

「ははははははっ!
公もたわむれがすぎますぞ。一体何の根拠があって、この私が組織の首謀者とおっしゃるのですか」

あたしは、彼の前に一歩出た。

「それについては、このあたし。
リナ=インバースが、マクベス公に代わり説明させていただきます」

とたんざわめきが、再び巻き起こった。

「リナ=インバースだと!?」

「きいてないぞ!」

口々にいう彼ら文官たちを手で制し、サリュートは続きを促した。

「では、君の意見を聞かせていただこうか」

「まずひとつ。
役人の上層部で組織の一員だった男が、サリュート大臣。
あなたが組織の首謀者だと証言しています。近くに拘束しており、証人として呼ぶことも出来ますが」

「それは、呼ぶだけ時間の無駄だと思いますぞ。
彼とは面識もあるし、職業柄顔を合わせることもあったが、誇大妄想気味でしてな。
一度思い込んだら意見を変えそうにない、意志の強い男でありましたが」

暗に、その男の独断だというニュアンスを含めて。

あっさりと切り捨てたか。

予想通りの返答である。

「ふたつめ。
マクベス公の婚約者であり、オリヴァー・ラーズの娘であるマリルさんは、彼女の母。
前レイスン・シティ魔道士協会評議長の、ソフィア・ラーズに次ぐキャパシティの持ち主ですよね。
・・・・・・八年前。組織の手にかかり落命した」

「そうだが、それがなにか?」

「つい最近起きた、コピー・ホムンクルスとデーモンの混成部隊が襲ってきたとき。
うち何人かのコピーが、八年前リチャード公が禁じたコ毒の呪法によって、憑依されていました。
当時の記述によりますと、コ毒を行使する際は、潜在キャパシティが強いものを傍に置き、それを媒体に力を安定させて行っていたそうです。
・・・・・・わかりやすくたとえるとしたら、コ毒という呪法は肉体ではなく精神を利用した、いわばキメラみたいなもの。といったほうがいいかしらね」

「なにがいいたいのか、はっきりしてくれたまえ」

「騒動が起きる前。オリヴァーさんは、マリルさんの安全を考慮して彼女をこの城に預けています。
ですが、肝心なマリルさんはマクベス公を出迎えることもなく、この謁見の間にも姿が見えません。
サリュート大臣。高官を束ねているあなたは、彼女がどこにいるのかご存知ですよね」

数瞬の間をおき、サリュートはこう答えた。

「・・・・・・マリル嬢なら、風邪で寝込んで寝室にこもっている」

「ではそこまで、あたしたちを連れて行けますよね」

間髪いれずにそういって、あたしはマクベスに、彼女の寝室の場所を問いただそうとする。

「高熱が続いており、面会は難しい」

「かまわないわ。自己管理もある程度こちらは出来ていますし、もし風邪が移ったとしてもそちらには苦労はさせませんから」

「なら医者をこちらで手配する」

「医者なら来ているわ」

「ど・・・・・・どこにいるというのだ」

「わしじゃよ」

人垣が割れ、白髪の老人が前へ出た。

「クルースト神官長。お忙しい中、ここまでご足労いただき申し訳ございません」

マクベスが、老神官に頭を下げると彼はからからと笑った。

「礼儀正しいところは、リチャードのしつけの賜物じゃな。息子も見習って欲しいものじゃて」

「じゃあ、むかいましょうか?」

蒼白になったサリュートに、あたしは意地悪く問いかけた。

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34138蒼の記憶 72フィーナ 2009/6/30 19:13:09
記事番号34054へのコメント

「ちょっとまってくれたまえ!」

声を荒げるサリュート。

彼は、ためらったのちにこういった。

「強硬な手段をとっておきながら、明確な証拠がなければ納得できない。
こちらが納得できる証拠があるなら、まずそちらから見せてもらおうか」

「みせることはむりだけど」

「なら」

あたしは手のひらに、赤いオーブを手に取った。

「きかせることはできるわ」

地下の奥深く。

あたしたちがひっそりとした目立たない、人の目が届かない隠し通路で見つけたものである。

「なにかな。それは?」

落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと問いかけるサリュート。

「城の地下の奥深く。リチャード公のコレクションのなか、人目のつかない場所に保管されていたメモリー・オーブです。
このなかに、サリュート大臣。あなたが八年前に行っていたことや、ソフィア評議長の最期の詳細が事細かに記録されています」

この場にいる大勢の人間が、オーブに集中する。

「なぜ、それが父のものだと?」

「正確には、リチャード公ではなくソフィア評議長が生前まで肌身離さず所有していたメモリー・オーブよ。
その場に駆けつけたリチャード公が、人が来る前に隠したのよ。隠した理由は聞いていけば分かるわ」

「・・・・・・きこう」

マクベスは、静かに言った。

周囲を見渡すと、異論を唱えるものはいなかった。

あたしは、真実を語るメモリー・オーブを再生させた。






その内容に、多くの高官が顔を覆い、一部のものは気まずげに視線を交わす。

子供に催眠暗示をかけ、かけられた子供たちはその内容を覚えていない。

組織の一員。

八年前まで内密に行われていたこと。

あの役人の手によって暗示をかけられた子供たちは、組織が運営する人身売買の道具とされ、変態貴族たちの手によって蹂躙。

あるいは、武器の密輸の運び屋に仕立てられ。

その数は十や二十では収まらない。

そして、リチャード公の目の届いていない場所では、用済みとなった子供を呪法の実験台に使用。

・・・・・・コ毒の呪法。

呪法の暴走。

鎮圧後。

彼女はその事実を知り、組織のやりかたに反発。

抗議しに組織の一員。

役人に詰め寄る。







鈍い・・・・・・鈍器のような音がして、何かが倒れる音。

興奮したような役人。

いや。

組織の人間の声。

サリュートの名前。

人身売買。

武器の密輸。

ポイズン・ダガーという犯罪組織の名。

泣き叫ぶ子供。

それは慟哭にも似ていて。

彼女の名前を一身に呼び続ける。

不意にその声が途切れ、地面に倒れこみ。

組織の男の、ヒステリックな声が子供を責める。

立ち去っていく音。

ひときわ高い。

・・・・・・子供の絶叫。

近づいてくる別の足音。

男の。

彼女の名を呼び。

メモリー・オーブから再生された音は―――

そこで途切れた。






マクベスは、聞き終えた後。

放心したようにつぶやいた。

「・・・・・・父上」

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34152蒼の記憶 73フィーナ 2009/7/2 21:29:43
記事番号34054へのコメント
「・・・・・・何故リチャード公はそれで私を糾弾しなかったのだ」

「わからない?あなたとリチャード公。そしてオリヴァーさん。三人の関係はプライベートでも交流があった」

あたしは言葉を続ける。

「多忙を極めていても連絡は取り合っていた。
それが八年前に、リチャード公からビジネス以外で会わないように、と途絶えた。彼にとっては大きな葛藤だったでしょうね」

友人が何食わぬ顔で気づかれないよう犯罪組織のボスをやっていたのだ。

しかも、もう一人の友人の女性も消して。

「リチャード公は、信じきれない気持ちと信じていたい気持ちを抱えたまま、ポイズン・ダガー壊滅に動いた。
そしてソフィア評議長殺害に居合わせた子供にも、証拠を見つけるまで誰にも言わないようにと口止めをした。
結局組織のほうは、別件でマリルさんをさらわれ乗り込んだオリヴァーさんたちに、壊滅寸前まで追い込まれたんだけどね。オリヴァーさんに言い出せずにいたのは、そういった背景があったから」

友情を尊重してというと聞こえがいいかもしれないが、それはリチャード公のエゴである。

押し付けられた当人としてはたまったものではなかっただろう。

健気にもバカ正直に隠し続けていた彼も、ためこみすぎないでほしいものだが。

そしてこれは口には出さないが、リチャード公と組織の暗黙の了解があったという点においても。

利権が水面下で働いていたのも事実である。

いくらなんでも、友情だけで葛藤するほど世の中甘くない。

組織の資金の何割かは、リチャード公に振り込まれていたのだろう。







「だからどうした」

サリュートの声に、マクベスは身をこわばせる。

「この場にいる多くのものが、組織の甘い蜜を吸っていることに違いない。
それに私が施した情報操作でマクベス。貴様が真実を公表したところで誰が信じるものか」

「あたしたちのことは忘れているわけじゃないわよね?」

挑戦的に言うあたしに、彼は顔を歪ませ笑った。

「忘れているわけではないが、ここにいるものはただの兵士ではないぞ」

「コ毒の呪法で憑依されたコピーね」

「そういうことだ。ディーという魔道士のように、自我のある人間とかけあわせることはいまだに出来ていないがな。
こいつらは街にたむろしていた、資質の高いゴロツキや傭兵たちをもとにつくったコピーだ。
いかにリナ=インバースといえど、これだけの相手をマクベスたちを守りながら戦ったとしても、これでは無傷ではすまないだろう」

サリュートの言うことは理にかなっている。

あたしが見境なしに呪文を連打しなければ・・・・・・の話だが。

ディーは魔道士ではなく、高位魔族だったのだがいちいちいってやる義理もないし、余計話がこじれるので黙っておく。

「そうは問屋がおろさないって、昔から言うだろう?サリュート」

唐突に。

まったくの唐突に。

第三者の声が謁見の間に響いた。

サリュートは、その声の主を認めて叫んだ。

その中に、怯えの色をにじませて。

「―――オリヴァーっ!」

オリヴァー・ラーズは、にっこりと。

・・・・・・毒のある笑みを浮かべた。

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34160蒼の記憶 74フィーナ 2009/7/4 16:43:08
記事番号34054へのコメント

「こうやって会うのはずいぶん久しぶりな気がするよ。そうは思わないかい?」

「なぜ・・・・・・ここに・・・・・・?」

「何故だって?決まってるじゃないか。白黒決着付けにきたのさ」

「いかな貴様とはいえ、これほどの数を相手にするのは骨だろう!それにこの街の愚民どもは、私に信頼を置いている!
そ・・・・・・それで私をどうにかしたところで、罪はすべて貴様に降りかかるのだぞ・・・・・・オリヴァーっ!」

サリュートは、蒼白になった顔で嘯(うそぶ)いた。

「サリュート。君こそ忘れてないだろうね。
僕が何の策もなしにここに来たと思ってるのかい?僕はマジック・アイテムを扱う商人だよ」

言ってオリヴァーさんは、淡く輝くマジック・アイテム―――ストック・ジュエルを取り出した。

「な・・・・・・なんだ、ジュエルズ・アミュレット程度のもので、私をどうにかできるとでも!?
貴様が魔道士協会で製作していたということは、組織に内通している多くのものから確認が取れている!」

「表向きは魔道士協会と提携して作った。それは間違いではないよ。
疑り深い君の目を欺くため、君に抱きこまれた魔道士が来ても怪しまれないようにしていたんだからね」

オリヴァーさんは、笑いながら言った。

「このマジック・アイテムの存在を知っているのはごく少数。こめられた呪文の能力をためて使えるのが特徴。
初級の精霊魔術ぐらいなら、たとえば攻撃魔法とかなら呪文を中に入れておけば『力ある言葉』によって解放・発動される。
・・・・・・これにこめられている呪文はヴィジョン。まだ不完全なものだから、相手に一方的に映像を送ることしか出来ない」

サリュートは絶句する。

「ま・・・・・・まさか」

「受信している魔道士がいる場合、それは映像となって届く。
昔遊んだクリスタル・レンズのことは覚えてるよね?人通りの多い場所に設置して、貴族たちの醜態を暴いて面白がっていたアレだよ」

『若気の至りでちょっとした悪戯をしたり』

『あの悪行のどこがちょっとしたいたず・・・・・・ぐっ!?』

過去の会話が脳裏をよぎった。

「君たちの会話も、住民たちに筒抜けだってことさ。皆だまされていたと思って、殺気立ってるんじゃないかな」

涼しい顔で言い放つオリヴァーさん。

「オリヴァー・・・・・・貴様っ!」

「逆恨みかいサリュート?
僕が何でこの日を選んだか分かるか?今日はソフィアの命日だ」

その目は笑ってはいなかった。

「はらわたが煮えたぎるほど君が憎くて、殺してしまいそうな感情を抑えていられるのはね。
彼女の命日に、君みたいな小物相手なんかのために手を汚したくないためさ」







サリュートは、追い詰められたもの特有の顔で喚いた。

「う・・・・・・うるさいうるさいうるさいうるさいっ!
貴様なんかに私の気持ちが分かってたまるかっ!なにをやっても貴様やリチャードの影にしかならない私の気持ちがっ!」

「犯罪組織を築いた理由はそれ?ずいぶんな理由ね」

あたしの呆れた声が響く。

「なんとでもいうがいい!ソフィアも馬鹿な女だったよ。
オリヴァーではなく、私を選べば早死にはしなかっただろうに・・・・・・!」

痴情のもつれと言うやつか。

「なんにしても、これだけの数を相手にただでは済むまいっ!
愚民どもは、何も考えず私にしたがっていればいいのだっ!コ毒の呪法を用いてなっ!」

人格者の仮面が剥がれ落ち、醜悪な独裁者の顔を覗かせる。

・・・・・・三流悪役ばりばりの発言である。

マクベスたちを守りつつやるのは、難しいことではあるが、あたしたちの腕をもってすれば不可能ではない。

ひと暴れしようと一歩足を踏み出す。

ガウリイは剣に手をかけ。

「さて、君たちの出番だよ」

オリヴァーさんは、レグルス盤をとりだし声をかけた。

『メギド・フレア』

レグルス盤から『力ある言葉』が聞こえた。

その瞬間―――

こぅっ!

淡い浄化の炎が城を包み込んだ。






メギド・フレア。

『破邪』の呪文の一種で、害意を持った低級霊を退ける術である。
通常の生物たちの場合に害はなく、悪意や敵意などを和らげ、気分を落ち着かせる鎮静効果がある白魔術である。

コ毒の呪法で動いていた兵士たちは、その光を浴びて動かなくなる。

通常の低級霊相手ならともかく、コ毒をかけられた相手にこれほどの効果はでないはずだが・・・・・・?

「な・・・・・・何故だ?」

ことのなりゆきに、呆然とするサリュート。

「いっただろう?何の策もなしにここまできたわけじゃないって。
・・・・・・この城を中心に、君たちポイズン・ダガーの拠点と思しき場所。
わかりやすくいっちゃえば、この街をすっぽりと覆うようにヘキサグラム―――六紡星をかたどるように、浄化呪文をこめたこのマジック・アイテムと同じものを仕掛けておいた」

そんな彼に、オリヴァーさんは説明を加える。

「僕は商人だから旅に出かけがてら、この街の地形は把握していても正確な距離は分からないものだけどね。
クラース副評議長が探索の呪文をかけ、組織の連中に見つからないよう傍においてあるレグルス盤にもプロテクトを念入りにかけて」

探索とプロテクトをかけたのは、アレンじゃなくてクラース副評議長だったのか。

「あとは僕の合図を待って、協力者たちがいっせいに浄化呪文の『力ある言葉』を口に出すだけ。
・・・・・・セイルーンほど大規模なものにないにしろ、六紡星によって増幅された術が発動する。
城の中にも協力者はいて、その人物が持っているマジック・アイテムはその中心となる場所。
本人が魔道をかじったことがなくても、ここで『力ある言葉』を口にするだけでいい」

「誰だというのだっ!」

「ぼくだ」

いって前に出たのはマクベスだった。

「貴様かマクベス!私がやってきた恩をあだで返すというのか!」

吠えるサリュートを、彼は痛みをこらえるかのようにいった。

「感謝している。どんな思惑があろうと、親身になってぼくを支えてくれて。
・・・・・・でもだからこそ、こんなことをぼくは許容するわけにはいかないんだ」

「―――マクベス!貴様っ!」

ダガーを片手に、マクベスに突っ込むサリュート。

ごきんっ

「ぎゃぁぁぁっ!?」

背後に回りこんだオリヴァーさんに、ダガーをはたかれ利き腕をおられるサリュート。

サリュートの上に馬乗りになって、もう片方の腕もごきり!と折る。

続いて上がるサリュートの悲鳴。

「やっぱり年かな。僕の腕も鈍ったものだ。
寝起きを起こそうとする無粋な相手に、技の実験台になってもらうだけじゃ駄目か。運動不足は否めないね」

息一つ乱すことなく、へーぜんと言い放つオリヴァーさん。

「両腕も使い物にならなくしたし、飛び道具の類はこれで最後だね。やっぱり安全第一だよね」

・・・・・・そういうセリフを、笑顔でいわないで欲しいものである。

サリュートよりも、この人をどうにかしたほうがいいんじゃ?

苦悶の表情を浮かべるサリュートに、マクベスは近づき凛とした声で言った。

「ロード・マクベスの名において命じる。この者を捕らえよ」

その声や表情は、以前のような気弱なものではなく、一領地を治める領主の顔だった。

その言葉に、サリュートはがくりとうなだれる。






・・・・・・かくして、一連の事件は幕をおろしたのだった。

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34167Re:蒼の記憶 74kou 2009/7/5 21:54:53
記事番号34160へのコメント

 フィーナさん。初めましてkouと、申します。
 途中から読み始めましてけれど、シリアスでおもしろい話ですね。
 しっかし、気の長いかつ残酷な復讐劇ですね。
 まきこまれたリナ達にしてみればどうなんでしょうか………。
 でも、一連の最後の大暴れは無かったですね。魔族まで出てきたのに、終止符をきめて倒される黒幕は情けないというか………。
 なんとなく、原作のアルフレッドを思い出しました。まぁ、彼はまだマシ?かもしれないけれど………。
 以上kouでした。偉そうなことを書いていたらすみません。

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34169Re:蒼の記憶 74フィーナ 2009/7/6 12:12:36
記事番号34167へのコメント

kouさんはじめまして。フィーナといいます。
> 途中から読み始めましてけれど、シリアスでおもしろい話ですね。
読んでいただいてありがとうございます。
> しっかし、気の長いかつ残酷な復讐劇ですね。
> まきこまれたリナ達にしてみればどうなんでしょうか………。
オリヴァーは旅先からかえってきて、組織の暗躍に気づいたという設定です。
調査を進めて黒幕がサリュートだと確信して、彼は復讐をかねてこのような方法を取っています。でも実は、復讐以外の目的があるんです。
> でも、一連の最後の大暴れは無かったですね。魔族まで出てきたのに、終止符をきめて倒される黒幕は情けないというか………。
> なんとなく、原作のアルフレッドを思い出しました。まぁ、彼はまだマシ?かもしれないけれど………。
彼には、因果応報な結末を味わってもらいます。
> 以上kouでした。偉そうなことを書いていたらすみません。
そんな偉そうだなんて。私のほうはレスいただいてから返事出すような不届き者で、タチの悪い読み逃げ常習者だというのに。
あと間違っていたらごめんなさい。よみまくれ2のほうでのコウさんと、1のほうで北 南さんとは同一人物ですね?
ハンドル・ネームの使い分けも面白いです。私も似たようなものですが……そちらのほうも投稿頑張ってください。



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34172蒼の記憶 75フィーナ 2009/7/6 18:20:28
記事番号34054へのコメント

あの後。

別の拠点のひとつに、マリルさんが発見された。

彼女は衰弱していたものの、命に別状はなくマクベスの手厚い介護により城で養生している。

「しっかし・・・・・・オリヴァーさん。あなたも相当な食わせ者ね」

「・・・・・・ん?なんのことだい?」

あたしのセリフに、彼はとぼけて見せる。

オリヴァーさんの屋敷の一室で、依頼料を受け取った後あたしは切り出した。

「あなたが城であんなことをした理由。あれはサリュートの復讐以外の目的があった・・・・・・」

「どうだろうね」

「なあリナ。どういうことだ?」

横で聞いていたガウリイが、あたしに問いかける。

「つまりね。今までマクベスの評判は、サリュートの情報操作でかなり悪いものだったのよ。
だけどそれをあのマジック・アイテムとクリスタル・レンズをうまく使って、会話を聞いていた人たちにサリュートの悪事を暴き、ついでにマクベスのイメージ改善を図ったんでしょ?」

それは見事に功をそうし、マクベスを支持するものが多く出始めたのだ。

人間やはり、現金なものである。

「まあマクベス君は未来の義息子になるんだし、マリーも彼のことは気に入ったみたいだからね。
父親らしいこともたまにはしろと、アレン君とシーゲル君に怒られた手前だったから。性格は違えどほんと似てるよあの二人は」

「シーゲルの容態は?」

「時折発作みたいなものを起こしているけど、順調に回復に向かっているよ」

「サリュートのことは・・・・・・残念でしたね」

「まあ・・・・・・報いが回ってきたと思うしかないだろうね」

彼は複雑そうに笑った。

サリュートだが、護送の途中で従者もろとも盗賊に襲われたらしく、金目の物をとられ、道端で冷たくなっているのを発見された。

「でもまあ。商品の広告もタダ同然で出来たし、波に乗っている勢いを利用しようか」

オリヴァーさんは、あの食えない笑みを浮かべた。

・・・・・・やはり、ストック・ジュエルの宣伝もそれに含まれていたか。

あたしが「おや?」と思いそれに気づいたのは、オリヴァーさんがストックジュエルを取り出して説明したあたりから。

コ毒の呪法で動いていたのを、六紡星の結界で増幅したメギド・フレアで浄化したとき。

他にも浄化呪文でポピュラーなものに、フロウ・ブレイクという魔力を中和する白魔術がある。

白魔術以外の魔術は、正常な力の流れを歪ませることによってエネルギーを生じさせる。

フロウ・ブレイクは、この力の流れを元に戻し、魔法の効果を打ち消す術である。

ではなぜ、フロウ・ブレイクを使わなかったのかというと。

使えなかったのだ。

ストック・ジュエルにこめられていたヴィジョンまでも、中和されかねなかったから。

このレイスン・シティは商業の盛んな街である。

ヴィジョンを通じ、ストック・ジュエルの存在を知った客はどう出るのかは・・・・・・

―――オリヴァーさんの屋敷の前で、我先へと殺到している人々がそれの証明になる。

「後はマリーが体力を取り戻すのをまってから、式は早めに済ませたほうがいいね。僕の商売もこれから繁盛しそうだ」

「・・・・・・そう思うんでしたら、回収するのを手伝ってくださいよ」

「やあアレン君。あんな大勢の人波によく流されなかったね」

「オリヴァー・・・・・・知ってて俺に向かわせましたね」

詰め掛けてきた人々にもみくちゃにされ、ぼろぼろになったアレンはオリヴァーさんをジト目でみた。

「レグルス盤とかの回収してきてくれて嬉しいよ」

「人の弱みを盾に、俺にマジック・アイテム生成に携わせたり、その他もろもろ手伝わせたのはあなたでしょうが!」

「そんなこともあったね。でもアレン君。のどもと過ぎればなんとやらっていうだろ?」

「ああもう!ああいえばこういうっ!」

その場で地団太を踏むアレン。

・・・・・・苦労してるねー。

第三者として客観的に見てみると面白いが、渦中の中に突っ込みたいとは思っていない。

彼とはビジネス以外での付き合いは遠慮願いたいものである。

オリヴァーさんの性格を知っていてもなお、彼の元を訪れる親戚のアレンには、同情を通り越して尊敬の念を送らざるを得ない。

「レグルス盤とマジック・アイテムはこの中に入っています。一応確認しておいてください」

「入ってる・・・・・・って。それにはプロテクトがかけられているはずなんじゃ」

「レグルス盤に探索とプロテクトをかけたのはクラースさんですけど、これには俺が探索の呪文をかけただけです」

「アレン君はぼんやりしているせいか落し物が多くてね。見かねたシーゲル君が教えたんだよ」

「シーゲルのほうが、俺よりも三センチ背が高くてどっちが兄なんだってね」

「いい忘れてたけどアレン君。君の上司から定期報告の連絡よこすように、伝言を預かっているよ」

「そういうことは早めにいってください。一室借りますよオリヴァー」

「どうぞ」

「じゃあラディ」

佇むラディに声をかけ、二階のほうへ上がっていった。






「君たちは事情聴取はもう終わったのかい?」

「いえ、これからですけど」

渋い顔をして答えるあたしに、オリヴァーさんは微苦笑を浮かべる。

「事情聴取といってもクラースが難しい手続きとかは済ませてくれているからね。早くて三日ほどで終わると思うよ」

「・・・・・・三日か」

珍しくうめくガウリイ。

「やっぱガウリイも事情聴取されるのイヤよね」

ゆーうつにいうあたし。

以前立ち寄ったある街でも、騒動の顛末などあれこれきかれたことを、おぼろげながら覚えていてうんざりしているのだろう。

「ぼやいていてもはじまんないわね。ところでオリヴァーさん」

「そのマジック・アイテムくれませんか?・・・・・・だろ」

「もちろんタダとはいわないわ。銀貨で百枚っ!」

「銀貨二十枚で金貨一枚の値段だろう。金貨で換算したら五枚にしかならないじゃないか」

ぱーふぇくとな提案に、オリヴァーさんは異議を唱えた。

「ならおまけで銀貨二十枚追加しちゃるっ!」

「その値段では売れないが・・・・・・」

オリヴァーさんは言葉を切って、きっぱりといった。

「金貨で六億なら考えてあげてもいいよ」

どがしゃっ!

あたしはその場に突っ伏す。

・・・・・・おでこがいたひ。

「お・・・・・・億って」

「さきに無茶な値段をつけたのは君なんだからお互い様だろう?」

「つ・・・・・・つまり売る気はないと」

「無茶な商談ふっかける相手にはね」

だめもとでいってみたが、やはりだめだったか。

しかぁぁしっ!

腐ってもこのリナ=インバース。

商売人の血をひく以上、タダでは起きないのがもっとー。

やはりあては最後までとっておくものである。







「いいかげんあの人の波を何とかしろ」

屋敷の中に入ってきて、彼が開口一発言ったのがそれだった。

「手続きご苦労様。クララ」

「クララいうな腹黒商人」

「あいさつがわりのものじゃないか。それと評議長就任おめでとう」

「・・・・・・まさか貴様に一番最初に祝われるとはな」

嫌そうな顔で言うクラース評議長。

あの事件の後。

次の評議長と噂されていた魔道士が組織の人間だと発覚し、繰り上がる形で彼が評議長に任命されたのだ。

「君の想い人に代わって言ってあげたんじゃないか」

「そういうのを余計だというんだ」

からかわれているのがわかっているためか、不機嫌そのものと言った様子で眉間にしわを寄せる。

「評議会のほうはどうだい?」

「しばらくはごたついてるが、じきにおさまるだろう」

「魔道士協会とは、もう少し密な連携にもって行きたいと思ってる。僕もこれほどの商品はさばききれるか分からないからね」

「・・・・・・善処はする。
しかしいくら事件の当事者とはいえ、人が聞いてる前でする話ではないぞ」

「それもそうだね。そういうわけでちょっと席を外していただこうか」

「わかりました」

「ああ、それと」

オリヴァーさんの声がこちらに向けられた。

「二階にいるアレン君も呼んできてくれないか。そろそろ連絡も終わってもいいころだろうから」

あたしは一つうなずいてから、ガウリイを引き連れて二階へと上がった。

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34175蒼の記憶 76フィーナ 2009/7/7 15:57:50
記事番号34054へのコメント
「―――そういうわけでして、しばらくの間はそちらに戻ることが出来そうにありません」

『そういう事情なら、無理を言うわけにもいかないわね』

「申し訳ございません。アメリア様」

恐縮しているようすのアレンに、彼女はパタパタと手を振りながら、

『そんな気を遣ってばかりじゃ、そのうちハゲるわよ』

「俺の場合、もうこれは直しようがないものですから」

小さく苦笑を浮かべる。

部屋の一室。

ラディはひざを突き、魔道士協会のヴィジョン・ルームでよく見かけるオーブ―――

たしかダーククリスタルといわれている―――が鈍い光を放っていた。

そこからあたしにとっては見覚えのある、かつて旅した仲間であるアメリアの姿が映し出されている。

―――ヴィジョン―――

自分の幻影を、さもその場にいるがごとく具現させ、はるか遠い距離にいる相手と会話が出来るという便利な術である。
ただし、この術を使うためには、幻影を作る場所に端末となる魔道士がいなくてはならなくて、主に魔道士協会間の連絡などに使われている。

アレンが言っていたラディが補佐だというせりふは、こういう意味も含まれていたのかと納得した。

確かにラディは、補佐役として優秀な魔道士だ。

『でも、事件の詳細については資料だけだと、説明しきれない部分も出てくるわ。
初恋の相手であったソフィアさんのことを、あなたに思い出させるようでつらいでしょうけど』

「ソフィアのことはもう吹っ切れています。
彼女を俺の目の前で死なせてしまったことよりも、俺が悔やんでるのは何も出来なかった自分ですから」

穏やかな、静かな声で彼は言う。

『とりあえず、事件の資料を取りに人を向かわせます』

「このあいだのデーモン大量発生で、そちらのほうの人手も足りないでしょう・・・・・・人員をさける状態では」

「ならあたしたちが、資料を持ってセイルーンに向かうっていうのはどうかしら?」

横手からかかってきたあたしの声に、アメリアとアレンはこちらを振り返った。







『リ・・・・・・リナ?リナなの?』

信じられない様子で言う彼女。

「オレもいるぜ」

『ガウリイさんも・・・・・・夢・・・・・・じゃないわよね・・・・・・?』

「正真正銘あたしよ。アメリア」

感極まった様子で、アメリアはこちらにダイブした。

『リナ〜〜〜っ!!』

「ちょっとアメリア!これヴィジョン―――」

制止しようとしたが、時すでに遅し。


ずぎゅりぎゅりきゅるきゅりぎゅりっ!!!


・・・・・・アメリアの姿が掻き消え、なんだかやたらとイタそーな音が聞こえてきた。

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

あたしたち三人がリアクションに困って佇んでいると―――

がばりっ!

やおら元気に立ち上がるアメリアの姿。

『ほんとーに久しぶり!
リナ!ついでにガウリイさん!』

「・・・・・・ついでって・・・・・・誰だ・・・・・・いや、なんでもない」

なにやら言いかけるガウリイだったが、やっぱりねーと。

あたしと顔を見合わせ、してやったりといった様子のアメリアをみて沈黙した。

「久しぶりなのはいいんだけど・・・・・・アメリア。首が変な方向に曲がってるわよ」

こぶしをぐぐい!と握り締めて。

『だいじょーぶ!わたしの正義の心はこんなことでくじけはしないから!』

・・・・・・さようでございますか。

むこうのほうでも、ヴィジョンの端末となっている人物がいるはずなのだが。

・・・・・・集中も途切れず、よく持続させているものである。

それとも、これがプロこんじょーというものなのだろうか?






セイルーンまでの距離と友情の割高料金(割安ではない)で交渉が成立した後。

後はもうお互いの近況報告みたいな流れになっていった。

「へー。じゃあクリストファさんの神官長の責務もこなしてるんだ」

『わたしもリナたちとの旅で戻ってきて、いくら父さん説得しても仕事を他の人たちに任せちゃってたから。
クリストファおじさんも、王位継承権の剥奪こそ免れたものの、アルのこともあって神官長のことまで気が回らなかったみたい。
本当なら後任が落ち着くまでという話だったんだけど、デーモンが大量発生したりごたごたしていたから』

「大変だったんだなー」

『リナとガウリイさんは・・・・・・相変わらずみたいね』

どこか残念そうなアメリアに、彼女が何を言いたいのか分かったあたしはぽりぽり頬をかいた。

「んー・・・・・・まあね。きままに旅を続けてるわ。
事件に巻き込まれたり、すすんで首を突っ込んでみたり」

「そうそう。それにリナの実家に挨拶に行ったりしたもんな〜」

『・・・・・・えっ?』

ガウリイの何気なく言ったセリフに、その場の時が止まった。

「それ・・・・・・本当ですか?」

「本当だけど・・・・・・どうしたんだ?」

「でもなにか・・・・・・いや、でも雰囲気は」

アレンの、どこか戸惑ったような声に、のほほんとこたえるガウリイ。

『えええぇぇぇぇっ!!?』

アメリアと、そしてなぜかアレンの驚愕の声が唱和したのだった。

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34181蒼の記憶 77フィーナ 2009/7/8 20:47:05
記事番号34054へのコメント
『ガウリイさん・・・・・・ただの甲斐性なしじゃなかったのね』

復活も早く、アメリアは感慨深げにつぶやいた。

「いやぁ」

いやぁ・・・・・・って、おい。

『実家に挨拶に行って、定番は「お義父さん!娘さんを僕にください!」「誰がお義父さんだ!見ず知らずの馬の骨に可愛い娘をやるか!」とかもうすませた?』

「あのねえアメリア!」

『ああそれよりも、うれし恥ずかしお風呂でバッタリも捨てがたいわね』

「いったいいつの時代の人間よあんた」

「いやこいつの胸でうれし恥ずかしって無理があるよ―――」

ずごしっ!

「ガウリイさん・・・・・・それは禁句」

手を合わせ、ガウリイに合掌するアレン。

『式はもう済ませたの?まだだったらセイルーンで挙式開きましょうか』

「ちょちょ・・・・・・ちょっとまった!」

飛躍し始めた彼女に、あたしは慌てて待ったをかけた。

「挙式も何もたしかにガウリイ実家に連れて行ったけど。
ぶどうパカパカ食べたり、実家の商店の荷物もちをしたり、父ちゃんとどっかでかけたりしてただけよガウリイは」

『リナ・・・・・・それかなりハイレベルなことよ』

「まぢ?」

『もうやってることはヤってるんじゃない』

「アメリアその表現は誤解を招くし」

『それともガウリイさん我慢できずに襲っちゃって、デキちゃった婚で既成事実作っちゃったとか?』

「デキ婚もなにも、一緒に旅は続けてるけど、べつにつきあってるわけじゃないわよあたしたち」

ぴた。

アメリアはぴたりと動きを止めた。

『・・・・・・つきあってない?』

「ええ」

『いままでどおりの関係なの?』

「いままでどおりって訳でもないわ。時間はゆっくりと確実に動いているんだから」

そう。

確かに動いているのだ。

『ガウリイさんは・・・・・・それでいいんですか?』

「いいも悪いも、むずかしい頭脳労働は苦手なんだ。ただオレが分かっているのは、傍にいてまもることだ」

「・・・・・・『自称』保護者として・・・・・・ですか?」

アレンは、先ほどよりも静かな声で問いかける。

そのなかに、嫉妬とも憧憬とも取れるようなかすかな動揺をにじませて。

「リナがそれを望むなら」

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34190蒼の記憶 78フィーナ 2009/7/11 00:04:42
記事番号34054へのコメント

こんこん。

沈黙を破ったのは、ドアをノックする音だった。

「はい」

「私だ」

いってドアを開けたのは、クラースさんだった。

アレンは、怪訝そうに尋ねる。

「どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたも、お前がいつまで経っても下におりてこないから」

彼は、ヴィジョンに映し出されているアメリアを認めて、

「・・・・・・まだ、報告の最中だったか。邪魔したようだ」

『いえ。わたしが彼女たちを呼び止めて話し込んでいただけです。アレンさんとの報告は終了していますよ』

「・・・・・・そうか」

「ではアメリア様」

アレンは、映像の彼女に声をかけた。

「報告したとおり、俺は弟の治療のために、しばらくはそちらへ向かうことができません。
回復に向かっているとはいえ、楽観できる状態でもありませんし。シーゲルの容態が落ち着いたら、セイルーンへ戻りたいと思います」

『たしかに承ったわ』

「それと資料は、彼女たちがこちらをたつときに渡します。まだ書き終わっていない部分もありまして」

「そういうわけでアメリア。
あたしたちが到着するまでに、おいしい食料たべきれないほど用意しておいてね」

「王宮のメシはうまいんだろうなー」

「まってなさいよセイルーン!残さず食い尽くしてあげるから!」

「もちろん!」

『・・・・・・セイルーンの食料庫。国家予算でおろせるかしら?』

意気揚々と言うあたしとガウリイに、アメリアは切実そうにポツリとつぶやいた。







アメリアの姿が消えたのを確認し、アレンは言った。

「またせてすみません。クラースさん」

「きにするな」

「オリヴァーから聞きました。遅くなりましたが、評議長就任おめでとうございます」

彼はその言葉を聞いて、眩しいものでもみるかのように目を細めた。

「ありがとうアレン」

「本当なら就任祝いとシーゲルがいつもお世話になっている分も兼ねて、なにかプレゼントを贈りたかったんですが。
・・・・・・路銀もあの火事で焼けてしまいましたし・・・・・・肝心な時に限って至らなくて・・・・・・すみませんクラースさん」

「お前のその言葉だけで、私にとって十分な贈り物だ」

「そんなおだてても、なにもでませんよ」

「おだててるわけじゃなく、私の本心だ」

・・・・・・この人の感情の起伏が乱れるところは、オリヴァーさんとのことを除けばあまりみていないが。

蕩けそうな笑顔っていうのは、こういうことをいうんじゃなかろーか。

「もしかして、これから会議ですか?」

「そうだ」

アレンの問いに、彼のその表情は一転。

真面目なものになった。

「組織の全容も、ソフィア評議長が残した多くのメモリー・オーブで解明されつつある。
後は組織の残党狩りと、関与していた人物の裏づけ。協会のほうでは、容態を見てエミリアと他の魔道士から事情を聞きだす」

「シーゲルは?」

あたしのセリフに、彼は躊躇したものの、アレンの促すようなまなざしにこう答えた。

「もちろん彼にも同行を願う」

アレンは一瞬うつむいたものの、すぐに顔を上げてクラースさんに視線を向けた。

「サリュートにだまされていたとはいえ、彼のコピー技術は組織に悪用されていた可能性が極めて高い。
前の評議長が、目をつけたぐらいだからな。今は動かせる状態ではないだろうから、お前にその旨を伝えるための許可をもらおうと」

「そういうことは、俺じゃなくてシーゲル本人に。
神官長たちがおさえていますが、意識もしっかりしていますし。
長時間はさすがに無理ですけど、話すことには支障はありませんから」

「わかった。それと、オリヴァーが呼んでいた。
しばらく商売の手伝いに、彼を貸して欲しいともいっていたぞ」

「ラディを?」

小首をかしげるアレン。

「あいつも年だから、楽したいんだろう。
奴のことだから、商売のノウハウを教えて他のことにも手をつけたいんじゃないか」

「クラースさん・・・・・・俺の気のせいでしょうか。
オリヴァーのことなんですけど、昔よりも人が丸くなったと思いませんか?
人の弱みを握って、いいようにコントロールするところは、相変わらずのようですけど・・・・・・」

・・・・・・あの人、やっぱりそんなことしてたんだ。

アレンも、そしておそらくクラース評議長も、その餌食に選ばれているのだろう。

アレンは初代から続く、輪廻の呪い。

記憶のことをオリヴァーさんに知られていると考えると、辻褄が合う部分がある。

たとえば、あのマジック・アイテム

ストック・ジュエルのことにしても、それを実用化させるには並みの方法では知りえるはずのない莫大な知識。

そして、それを組み立てる知恵が必要である。

知られた経緯は詳しく知らないが、オリヴァーさんはそのことをばらされたくないアレンの心理を逆手に取り、ポイズン・ダガー壊滅のため力を貸すよう要請した。

誰か―――身近なところでは、シーゲルかマリルさんあたりか。

断れば彼らに告げることを、暗に匂わせ。

この推測はそう間違ってはいないだろう。

「あいつの性格も、丸くなったほうがこちらとしてはやりやすいんだがな」

うんざりした様子の彼に、アレンも苦笑した。

なんだかんだと文句を言いつつ、アレンたちがオリヴァーさんのところへ集まる理由は―――

彼のやり口に嫌気が差しても、そのどこか憎めない人柄で、嫌いにはなりきれないのだ。

それとも、これもオリヴァーさんが商売に成功できた人脈という才能の一つなのかもしれない。

「リナさんたちは、いつごろこちらをたたれるんですか?」

アレンに尋ねられ、あたしは軽く肩をすくめた。

「最低でも三日はかかるわ。事情聴取もあるし」

「・・・・・・そうですか。
ならそのときに、事件の資料をお渡しします。そのころには出来上がりますので」

「わかったわ」

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34201蒼の記憶 79フィーナ 2009/7/14 23:18:50
記事番号34054へのコメント

それからは、長い事情聴取やらなんやらであっというまに数日がたった。

覇王神官はツゥドルクを用いてコ毒をシーゲルにかけていたが、組織はサリュートによって書き写されていたのをもとに、その知識を応用していたことが発覚した。

そして応用していた魔道士の名前は、あのシーゲルである。

クラース評議長のはなしによると、最初彼の研究はコピーを使ってのネクロマンシーの生成法だった。

生来のゾンビというやつは、夏場になるとゾンビの腐った部分がすさまじい異臭を放ち、肉は削げ落ちすえたにおいが充満するという。

わかりやすくたとえるなら、さんさんとあつく照り返す太陽。

道路沿いに転がる動物の死骸からたちのぼる、あのにおいを数倍濃くしたもの。

・・・・・・と考えていただければ、それがどれほどのものなのか。

リアルに想像するだけで、気分が滅入ることうけあいである。

多くの研究タイプの魔道士は、防犯対策にその方法をとることは珍しくない。

研究を盗まれることの防止策。

簡単な身の回りの世話など、その用途は様々。

近くの戦場や墓地から手軽に呼び出せ、骨だけになったらスケルトンとして再利用できる。

コストもそんなにかからなく、まさに骨までつかえる労働源。

シーゲルは、従来の方法では衛生的によくないそれを払拭しようと、自我のないコピーに腐らせないよう工夫を凝らした。

それはいつしか変化していき、複雑な命令をこなせるものをつくることへ、情熱を注ぐようになっていった。







ゴーレムのような製造方法だと意思を持たず、簡単な命令しか出来ないのだからといって、最終的に辿り着いたのがキメラの作成法。

シーゲルも、研究熱心というかなんというか。

当初のコピーを使うことはスポンサーであったサリュートにも譲らず、コピー同士の合成から手をつけ始め、それに低級霊を憑依させて自我の覚醒を促したりしていたらしい。

まだシーゲルもこの時は、サリュートがポイズン・ダガーの首謀者ということはおもいもしなかったようだ。

いかにサリュートの情報操作が行き届いていたかうかがうことが出来る。

エミリアの手にかかった評議長は、それに目をつけ研究を盗もうと組織の存在を公表し、加入するようシーゲルをそそのかした。

最初のうちは、シーゲルもその評議長の悪い噂は知っていたので断っていたが、マリルさんにも危害が及びそうになったことを悟ると、彼女と旅に出て二月ほど行方をくらました。

このレイスン・シティ。

ゼフィーリアとカルマートの中間に位置しているが、正確にはカルマート公国に立地している。

あたしたちが彼らを、この街までおくり護衛をしたのはそのときである。







覇王神官がレイスン・シティのコ毒の呪法とコピーに目をつけたのは、二月ほど前から半年ほど前のデーモン大量発生時だと考えたほうがいい。

そして決定的な出来事をシーゲルはオリヴァーさんから知らされる。







マリルさんとマクベス公との婚約である。

述べたと思うが、マクベスの評判はサリュートの情報操作により、悪い話が尽きなかった。

オリヴァーさんも、マクベスの悪いイメージをぬぐうためにマリルさんたちの婚約までこぎつけることに成功したのだが。

これはオリヴァーさんの誤算というべきか。

そのことを知ったシーゲルは、悩んだ末に力を求め組織に加入してしまったのだ。

そしてシーゲルは、組織の中にあったコ毒にめをつけ応用を加えた。

潜在キャパシティが高いマリルさんを、コ毒に使うことを知ったシーゲルはそれに反発。

覇王神官ディーは、そんなシーゲルをコピーではなくシーゲル自身に呪法をかけた。

話をつなげてみてみると、アレンもシーゲルも兄弟そろって、どちらも相当な頑固者である。

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34206蒼の記憶 80フィーナ 2009/7/16 20:23:08
記事番号34054へのコメント

夜の静寂がおりるころ。

下の食堂は閉まり、宿屋の主人が道楽ではじめた酒場が食堂があった一階で兼任されている。

酔っ払いによくあるあのハイテンションな笑い声が風に乗って聞こえてきた。

どちらかというと、こちらのほうが込み合っていると思うのはあたしの気のせいだろうか。

とんとん。

扉をノックする音に、あたしは読んでいた魔道書をぱたんととじた。

「俺です」

「オレオレ詐欺なら間に合ってるわよ」

「なんなんですかそれは」

鍵を外しドアを開けると、資料を持ったアレンの姿。

「ずいぶん遅かったわね」

「すみませんこんな時間に」

「いいわよ」

とりあえず、彼を招いて席を勧める。

アレンは、それには座らず近くの壁に背中を預けた。

手渡された資料を受け取る。

「・・・・・・けっこー多いぞ。これ」

「これでも絞ったほうなんです」

先ほど読んでいた魔道書と、それほど本の厚さはかわらない。

「中は普段俺が使っている神官文字でかかれています。
要点と解説付きで構成しましたので、かなりのボリュームになってしまいましたけど」

「あんた・・・・・・これすべて一人で?」

「そうですけど、なにか問題でも?」

「・・・・・・これだけの量を」

めくってみると分かりやすく書かれており、びっしりと詰め込まれている。

「アレン・・・・・・あんたそのうち悪い大人に引っかかるわよ」

「なんかここにくるまえに、ガウリイさんにも似たようなことをいわれました」

「ガウリイに?」

「悪い大人ならオリヴァーも含まれますね。まあ、もう慣れましたけど」

微苦笑を浮かべる。

「オリヴァーさんも商人だからね。
利用できるものがあれば、うまく活用する。マクベスのこともそれに含めて」

「オリヴァーはああゆうひとですから・・・・・・弱みをネタにしてからかったり脅したりしていますけど。
・・・・・・馬鹿にするってことはないので。そういった意味では、オリヴァーに救われていますけどね」

やっぱり脅されてたのか。

「リナさんたちはもうこちらをたたれるんですか?」

「そのつもりよ」

「・・・・・・なら、そのまえにすこしだけいいですか。
言おういおうと思っていて、機会に恵まれず先延ばしにしていましたけど。
このままだと、もう会えないような気がして。いいたかったことがあります」

「な・・・・・・なによ。そんな改まって」

「リナさん」

「な・・・・・・なによ」

アレンは、きっぱりとあたしの目を見てこう告げた。

「ラディのマジック・アイテムを返してください」







・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

ちちぃっ!?

しまった!気づかれたか!

「な・・・・・・なにいってんのよ。
あのマジック・アイテムならあんた回収してたじゃないの」

「どもってますよ」

やかましい。

「たしかに設置していたものは回収しましたけど、あなたに預けておいたラディのやつは返してもらっていませんよ」

うやむやのうちにストック・ジュエルをもってとんずらここうとしていたのになんで気づいた!?

「しばらくしたら返すって言ったじゃないの」

「・・・・・・プロテクトをかけて・・・・・・ですか?」

うくあ!?

そこで足がついたか。

ここ数日の間。

夜遅く就寝する時間を見計らって、アレンの探索の呪文をプロテクトをかけてごまかしていたのだ。

むこうも事情聴取やシーゲルの治療。

その他もろもろの雑務で気がまぎれ、ストック・ジュエルのことも忘れてるんじゃないかなー。

とおもっていた、あたしの戦略が!

「あなたたちが宿泊している場所を覚えておいて正解でした。
以前あなたたちが俺をごろつきたちから助けていただいたときに、ここまで運んでいただいた」

「甘いわねアレン。貸すのはあげるのと同意語だと、ある先人も言ってたじゃない」

「しりませんよそんなの」

「おもいきって銅貨で五枚!」

金貨と言えない自分が可愛い。

「・・・・・・リナさん・・・・・・銅貨って」

「商売の基本よ!」

「・・・・・・エターナル・クイーン・・・・・・
千年前と性格とか、考え方とかあまり変わっていませんね。あの方らしいと思いますけど」

「そういえばあんた、女王陛下と連絡って取り合ってるの?」

「一度お会いしただけで、連絡はしていませんよ。
もしまたあったら、甘えてしまいそうでしたし。それに・・・・・・水竜王はあの時に滅びましたから」

遠い目をして彼はいう。

「北の魔王に輪廻の呪いをかけられ、初代からの記憶を持ってても、俺としての人格は一つしかない」

「人生は一度しかないからね。呪いなんか逆に取り込んじゃいなさい」

「・・・・・・努力中です」

彼は、穏やかに微笑んだ。







「・・・・・・アメリア様たちからあなたたちのことは聞いてましたからね・・・・・・いろいろと」

軽く頭を振りながら、アレンは言った。

「いろいろ?」

「俺は最初あなたのうわさとか、正直気に食わなかったんですよ。
ロバーズ・キラーとか胸なし魔族とか・・・・・・どう考えても悪口にしか聞こえないものが圧倒的でしたし」

「ちょっとまて!
ロバーズ・キラーはとにかく、何なのよその胸無し魔族ってのは!」

「そういう噂があるって俺は聞いただけですって・・・・・・!」

あたしに首を絞められたアレンは、ばしばしとあたしの腕を叩く。

ぜーはーぜーはー。

呼吸を整え、襟首を直すアレン。

「そ・・・・・・それでですね。
アルフレッド様が引き起こしたお家騒動のときに、俺はそのときこの街にいて事件の結末を知ったんですけど」

いくらか落ち着いた口調で、アレンは言った。

「アメリア様が、あなたたちの旅から戻られてからなんですけど。
正義の力が悪を懲らしめたとか、多少誇張されている部分や抽象的な部分もありますけど」

・・・・・・アメリア・・・・・・

それは抽象的すぎるぞ。

「アメリア様にとって、同年代で対等に話してくれたあなたのことは特に・・・・・・仕事の合間に楽しそうに話されているんです」

「楽しそうにって・・・・・・・・」

「アメリア様いわく、盗賊団を壊滅させるときは満面の笑みを浮かべ、破壊神の如く悪党を殲滅したとか」

ンなこといってんのか。

セイルーンへ着いたらしめあげちゃる。

「アメリアも一緒になってやってたんだけど。
それに『悪人には人権なんてないっ!』て法律が制定されたんだからいいのよ」

「いつ制定されたんですかいつ」

「たったいま」

「そんなわけないじゃないですか」

「じゃあ昨日」

「・・・・・・も、いいです。
冥王フィブリゾとの一件とか・・・・・・それ以降はあなたの噂とか実績とか調べて。
呪いのこともありましたし、それを解く鍵というかヒントみたいなものもあるんじゃないかと思いまして」

「それでその結果ってのは?」

「わかったのはあなたがフィブリゾを滅ぼしたおかげで、神封じの結界が破られたということ。
降魔戦争の際から使えなかった神聖呪文と対の属性である呪いの相互干渉の反動を利用してそれを打ち消す。
反動は肉体への負担が大きく、俺の代では無理でも、何代か先の魂の所有者はこの呪いから解放されることは分かりました」

アレンは預けていた背中から離れ、あたしと向き合うように言った。

・・・・・・そのまなざしの中に、決意の色をたたえ。

「なにがいいたいのよ」

「呪いに蝕まれて気が立って、余裕がなかったのも要因の一つだとは思いますが。
あなたのはなしは、どれも気に食わなかったんです。どれも俺の価値観を何かしら壊していって」

「イヤならきかなければいいでしょうが。
あんたがあたしのことを、嫌いだってことはよくわかったわ」

「・・・・・・嫌い?誰がそんなことを言いました?」

彼は泣いているような、笑っているかのような複雑な表情を浮かべた。

「リナさん。俺はね―――」

だんっ。

両手首を掴まれ、壁に押し付けられた。

「―――あなたのことが好きなんですよ?」

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34209蒼の記憶 81フィーナ 2009/7/18 01:48:35
記事番号34054へのコメント

「・・・・・・あんまし笑えない冗談ね」

「冗談でこんなことするほどヒマじゃありませんよ。
それに冗談で、下手したら俺の命どころか、この街を壊滅に導こうだなんて」

「壊滅・・・・・・ねぇ」

「あなたの実力なら、隙を見て攻撃呪文を叩き込むことなんて造作もないでしょう?」

まさにいま、あたしがやろうとしていることを読んだかのような、彼のセリフにあたしは苦笑した。

ファイアー・ボールあたりを、どごどごどごっ!と考えたのも事実である。

「それで?こんなことやって、あんたはあたしになにをききたいのかしら」

「なぜそうだと?」

「あんたがあたしに呪文を唱えられてもかまわないって顔してるし、あたしの口をふさごうともしていない。
それにあたしを壁に押さえつけたりせずに、いすを勧めたときに話なんかせず押し倒すことだって出来たはずよ」

「買い被りすぎですよ。俺はただ知りたいだけです」

瞳には激情をたたえているのに、知性と理性の輝きはそれを凌駕している。

「リナさん。あなたはなんの確約もなく、ガウリイさんが相棒だというだけの関係・・・・・・それだけで旅を続けているんですか?」

それは、怒りにも似た問いかけだった。

「・・・・・・ガウリイから聞いたのってそれ?」

「これは俺個人の質問です。ガウリイさんの意思は入っていない」

あたしの問いに、アレンは真摯に答えた。

「あいつは・・・・・・あたしの自称保護者よ。
あたしの故郷に里帰りしても、そのスタンスは変わっていない」

「それでも・・・・・・存在する限り変化するものだってあるんです。
ガウリイさんはあなたの自称保護者。ではリナさん。あなたにとってのガウリイさんとは何ですか?」

「旅の相棒よ。信頼して背中を預けることが出来る」

それは迷わずくちに出る。

あたしの本心だった。






「では・・・・・・旅が終わったら?
旅はいつか終わりを迎える。そのときを迎えたら」

「べつにどうもしないわ。あいつはあたしのそばにいる」

「あなたがガウリイさんを束縛して・・・・・・ですか?」

「未来のことは分からない。
だけど、あいつは優しいからあたしから離れない」

「未来のことは分からない。
そういったのはあなたなのに、矛盾してますよ。ガウリイさんがあなたから離れていく未来も、またあり得るはずなのに」

「絶対なんてありえない。だけど、あいつはあたしをまもるといった」

「・・・・・・口約束でも、叶えられないことがある」

深い。

後悔と絶望。

そして自分への自己嫌悪。

「八年前のことは、思い出すきっかけでしたが。
・・・・・・あのときのことは俺にとって呪い以上の・・・・・・真実なんです」

空虚な視線と口調。

・・・・・・それが彼から吐き出された。







はるか遠い過去の出来事であっても、彼にとっては忘れられない。

忘れることは許されない。

・・・・・・過去の呪縛。

鮮明に思い出さずにはいられないほどの。







「―――なにか勘違いしてない?アレン」

それは自然と口に出た。

「あたしがあいつを縛っているわけじゃない。する必要がないもの」

それは自然と言葉になった。

「・・・・・・どういう意味ですか?」

過去に囚われているのは、アレンでもあった。

そして多分。

あたしにもいえること。

「それは」

数分や数秒の後でも、それは過去と呼ばれるものである。

「それは・・・・・・あいつがあたしのモノだからよ」

アレンは、大きく目を見開き。

息を呑んだ。

なにを悩んでいたのだろうか。

これ以上ない。

明確な理由。

それが目の前に開けた。

「たとえ、あいつがイヤだっていったって、あたしから離れようとしたって、絶対に手放してなんかやんないから」

そうだ。

付き合う付き合わないという問題。

それ以前のことだったのだ。

あいつが自称保護者だろうと何だろうと。

ガウリイはあたしのモノなのだ。

「・・・・・・参りました。
そうはっきりといわれるとは・・・・・・貴女は並みのやつでは手に負えませんね」

「それ褒め言葉のつもり?」

「そのつもりです。俺にとって、これ以上ないぐらいの賛辞はありませんよ」

彼は苦笑しつつ、天を仰いだ。

腕の戒めは。

いつのまにか、解かれていた。

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34217蒼の記憶 82フィーナ 2009/7/19 16:12:04
記事番号34054へのコメント

「そこまで想っていて、なぜガウリイさんにいわないんですか?」

「・・・・・・だって・・・・・・悔しいじゃない」

「・・・・・・はい・・・・・・?」

アレンは間の抜けた声を出した。

そのきょとんとした表情が、年より幼い印象をのぞかせる。

「ぶどうを食べに行ったのも確かだけど、あたしがガウリイ実家につれていったって既成事実を作らされたのが一番の不覚なのよ!
・・・・・・しかもいつのまにやら、実家に挨拶にいったって話も、近所に尾ひれやら尻尾やらくっつきまくって触れ回って吹聴されてるし!」

故郷の姉ちゃんや母ちゃんも、それに一枚かんでるのは想像に難くない。

予想してしかるべきだったのだ。

一生の不覚とはこのことをいうのかと、さんざんからかわれまくった後。

あたしが泥のように後悔したのはいうまでもない。

「・・・・・・つまり意地の張り合いってことですか・・・・・・眠らせといて正解でしたね」

「ここまで騒いでも来ないってことは、スリーピングあたりで眠らせたのね」

「ええ・・・・・・まあ。俺にも男のプライドというのが一応ありますから」

苦笑を浮かべいうあたしに、やはりアレンも苦笑で答えた。

「ま。あんたにも、そのうち春は訪れるわよ」

「・・・・・・だといいんですがね。
では、マジック・アイテムを返していただいてから俺は退散します」

・・・・・・ちっ。

まだ覚えてたか。

「リナさん・・・・・・いまあなたから「ちっ!」って舌打ちが聞こえたような気がするんですけど」

「気のせいよ」

いい話でごまかそうとしていたのに。

「それよりアレン。
うら若き乙女の部屋に長居すると、どんな目にあうか実践で教えてあげましょうか?」

「・・・・・・俺もまだ命が惜しいんで、慎んで辞退させていただきます」

額に一筋の汗を流し、控えめにコメントするアレン。

素直でよろしい。

「・・・・・・しかたありません・・・・・・お金は要りませんので、もっていってください」

おっしゃ!

ストック・ジュエルただでゲット!

やはり人間というのは誠心誠意。

真心こめて話し合えば理解しあえるものである。

それって恐喝って言わないか?

・・・・・・と、思ったそこの君!

口に出したが最後、不幸になります。

というか、あたしが責任もってきっちり不幸にしますんで、希望の方は申し出てね?

「ああ。ですが―――」

おでこに温かい感触。

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

「本当は、口にしたかったんですが」

なっ!?

事態を把握するのに、数瞬の間を置いた。

彼は、あたしに内緒話をするかのように顔を近づけた。

得体の知れない戦慄が駆け抜ける。

ぺろ

「ひゃっ!?」

おもわず上擦った声を上げてしまう。

こ・・・・・・こいつっ!?

いうに事欠いて・・・・・・!

あ・・・・・・あたしの耳を舐め―――

「お代は確かにいただきました」

艶のある色気を身にまとい、強烈な毒を耳元でささやかれた。

・・・・・・・・・・・・

硬直するあたしにかまわず、アレンは何食わぬ顔でドアのほうに歩いていった。

「ではリナさん。縁がありましたらまたお会いしましょう」

彼はこちらに背を向け。

あたしは手近にあった花瓶をひっつかみ―――

ぶんっ!

がしゃぁぁぁんっ!

「がふっ!?」

「なにさらすんじゃこのエロガキがぁぁぁっ!」

綺麗な円を描きつつ投げられた壺は、見事アレンのどたまに直撃したのだった。










あのあと。

命からがら奇跡的に逃げ出すことに成功した彼は、夜の町並みを歩いていた。

「・・・・・・あやうく死ぬところでした。
アレン・クラウン壺に頭をかち割られて死す。末代まで笑われるなんて、いくらなんでも不本意すぎます」

どちらかというと、自業自得のような気がしないでもないが。

痛む後頭部をおさえながら、アレンはうめいた。

あの時、相手が『あの』リナ=インバースだということを失念し、不意にこみ上げてきたもの。

あふれ出した衝動に任せて、あんなことをしてしまったのに、こうやって生き延びているのだから人生というのは分からないものである。

「アレン」

自分を呼ぶ声に、その主の姿を認め、アレンは駆け寄った。

「・・・・・・クラースさん?どうしたんですか?こんなところで」

「無事だったか」

「え?」

「いや。なんでもない」

言葉をにごらせるクラース。

「仕事・・・・・・にしては遅いですよね」

「迎えに来た」

端的にいって歩き出すクラース。

それに続くアレン。







不意に口を開くクラース。

「・・・・・・なにかあったのか?落ち込んでいるみたいだが」

「なにも・・・・・・ありませんよ」

平静を装えたはずだが、クラースは目ざとくアレンの嘘をかぎわける。

「なんでもないやつが、そんな顔をするか。
心配かけさせたくないと思って黙っているんだろうが、少しは私を頼れ。そうされるのが私にはつらい」

自分はそんなに表情が表に出やすいのだろうか。

「俺・・・・・・そんなに顔に出てますか?」

「顔に出ているわけではない。そんな気がしただけだ」

「ひっかけたんですか」

「そんなところだ」

あっさりと受け流され、アレンは消沈とした。

「べつに、たいしたことではないんです」

「ふられたのか」

図星をつかれ、押し黙る。

「・・・・・・隠せていたはずなんですが」

やっとのことで、口に出せた。

「会う機会は減ったが、お前とは長年の付き合いだからな」

「そうでしたね」

「・・・・・・アレン」

「はい?」

「今日は私の部屋で飲みあかさないか」

アレンは、ぱちぱちと目をしばたかせた。

「俺の私情にわざわざ付き合うこともありませんよ」

「私がそうしたいんだ。それに私も似たようなものだからな」

「・・・・・・クラースさんも、あの人のことが好きだったなんてちっとも知りませんでした」

「バカいうなアレン。私がオリヴァーと同類。
・・・・・・いや、ひょっとしたらやつよりも、ある意味タチの悪いやつを、好きになるわけないだろうが」

それはそれで、本人が聞いたら暴れますね。

アレンはそう思ったが、口には出さないでおいた。

ひょっこり話の張本人が、顔を出しかねないと思ったからだ。

賢明な判断である。

「どういう人なんですか?」

「飲みながら話す。組織のことも落ち着いてきたし、協会のほうとしても運営も本格的に動かしたいからな。
・・・・・・悪いが今日は、朝まで寝かせてやらんからな。これも宿命かなにかとおもって・・・・・・潔く諦めろ」

「なんなんですかそれ。
朝まで酒を飲み明かすだけだというのに、そんな真顔で言わないでくださいよ」

口下手で、ただでさえ誤解されやすいのに。

自分のことは棚に上げ、アレンは他人事のようにそう思った。

彼なりに自分を励まそうとしてくれているのだと分かり、アレンは少し胸のつかえが取れた気がした。

「感謝していますよ。変わらない友情で支えてくれて」

「・・・・・・変わらぬ友・・・・・・か。私にとっては、残酷な言葉だよアレン」

ぽつりとつぶやかれたクラースのセリフは、前を歩くアレンに届かず。

「なにかいいましたか?」

「・・・・・・いや」

ちいさくかぶりをふり、彼はアレンに連れ添うように歩き出した。

夜はまだ長い。

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34223蒼の記憶 終フィーナ 2009/7/21 03:21:31
記事番号34054へのコメント

あけて翌日。

二階からガウリイが起きてきて、いつもと変わらない食事戦争を終えて一息ついたときのことである。

「・・・・・・あの兄ちゃんには悪いことしたなー」

「むをっ?なにが?」

ちゅるちゅるこくん

付け合せのパスタを飲み込みいうあたしにガウリイはのんびりと、

「いやな。
昨日一階で飲んでたら、あの兄ちゃんがなんとかっておっさんに」

「オリヴァーさん?」

「そうそう。そのおっさんから頂き物だがけっこーいいワインもらったっていってさ。
自分はそんなに飲めないから、一緒に飲まないかっていってきたんだ」

「ふむふむ」

てきとーにあいづちをうつあたし。

「そんでオレの部屋でのもうって言うことになって、一本あけたんだが」

「ほうほう」

「あの兄ちゃん手をつけなかったんだよ。
何で飲まないんだって尋ねたら、お前さんに資料渡すとか何とかいって渡し終わったらのもうっていったんだけどさ」

「・・・・・・ふーん」

雲行きが少し怪しくなってきた。

「オレが『そんなに急がんくても逃げんし、一杯飲んでいけ。それとも酒は苦手か?』っていったあたりからあんまし覚えていなくてさ」

・・・・・・をい。

「たしかあの兄ちゃん。酒は嫌いではないが、あまり飲むなって知人にいわれてる。
・・・・・・って、断ってきたんだけど・・・・・・ちょうど悪い酒がはいってたんだな。
・・・・・・もうあけちまったから、飲んじまえって強引に飲ませちまったんだ」

をいこら。

「オレが覚えてたのは、ここら辺まででその後のことはさっぱりさ。気がつけば朝まで寝ちまってた」

つまりアレンは、ガウリイの強引な勧めであの時酔っていて。

・・・・・・資料をあたしに何とか渡し終え。

そういえば、あたしが資料をめくっていたときも。

あのときアレン、多少顔が赤らんでいたよーな・・・・・・。

「あ・・・・・・えっと・・・・・・今の聞かなかったことにするわ」

素面(しらふ)でいった思い出すだに身悶えしそうなセリフの数々がよみがえり・・・・・・

あたしが出した結論はそれだった。

「なんでだ?」

不思議そうに首をかしげるガウリイ。

ぷちむっ

変わらずのほほーんとしている目の前の男に、怒りの矛先を向けて何が悪い。

いや、悪いはずがないではないか。

それが八つ当たりだろーとなんだろーと。

「元凶がなにをいうかぁぁぁぁっ!!」

ごふしっ!

そしてあたしの跳び膝蹴りは、ガウリイを捕らえたのだった。






レイスン・シティを後にして。

風の噂によるならば。

マリルさんは、さすがあのオリヴァーさんの娘というべきか。

どうやら猫をかぶった、巷で聞く肉食系女子だったらしく。

マクベスとの挙式を終えた後、その頭角をあらわしはじめ。

何の因果か草食系男子だったマクベスと、なんだかんだでいい関係を築いているよーである。

・・・・・・それがほんとーに、いい関係なのかは定かではないが。

本人たちが幸せならば、他人がとやかくいうのもなにか間違ってるよーなきがするし。

おおむね平和なのだろう。

オリヴァーさんはというと。

商売はますます繁盛を迎え、ストック・ジュエルの噂を聞きつけ、魔道士ならずとも旅の剣士などにも好評をはくし、完売したそーである。

やはり口コミというものは、侮れないものである。

予想をはるかに上回る売れ行きに、原材料などが不足し魔道士協会としても製作が追いつかずにいるそうだが。

それとも、その状況こそがオリヴァーさんの狙いというか、作戦勝ちというべきか。

目の前に欲しいものが届きそうな距離にあると、多くの人間の心理としては、手に入れるまで長期間街にとどまってしまうものである。

ましてや商業の街として栄えているのである。

宿などのサービスも行き届いており、欲しいものを手に入れるまで待つ物好きや、収集を行っている貴族など対象者は多い。

そしてさらに時期を考え、近い将来改良したものも出回る予定だそーである。

ポイズン・ダガーのことだが、首謀者がなくなったため、組織の幹部およびエミリアの家のような援助者たちには、多くの糾弾を受けたり痛手だったらしい。

ここらへんはあまり出回っていないが、大きな打撃となっていることだろう。

クラース評議長なのだが。

公私はきちんとわけているくせに、最近出来た年下の恋人へは公私混合しているらしく、その惚気に相手は逃げ回っているそーである。

なんでも長年片想いしていた相手だったらしく、失恋した相手を酔いつぶして、口説き落としたと聞き及んでいる。

・・・・・・それって、ふつー襲ったっていわないか?

・・・・・・相手の名前は分かっていないが、さぞかし苦労しているのだろう。

アレンやシーゲルの名前は話には出てこない。

おそらくアレンはシーゲルの治療しながら、時折オリヴァーさんにこきつかわれてるんだろーな。

それはとにかく。
                                            プリースト
セイルーンへ続く街道を歩きつつ、あたしは今回の事件に暗躍していた 覇王神官 ディーの狙いは、本当にデーモンの強化だけだったのかが気にかかる。







  アストラル・サイド     ダイナスト
 精 神 世 界 面 にいる 覇 王 グラウシェラーの命であたしたちの前から撤退したものの、わざわざ人間の潜在キャパシティを喰わせてまで、コ毒の呪法に目をつけた理由はあったのだろうか。

デーモンの強化だけなら、覇王神官の実力があれば、コピーなんか使わなくても十分だったはずである。

それとも、シェーラと同様に何も考えず大雑把な性格だっただけなのだろうか?

考えていてもはじまらない。

とりあえず当面の目的でもある、セイルーン王宮の宮廷料理に胸をときめかせ、あたしとガウリイの旅は続く。

























あとがき

というわけでして、蒼の記憶はこれにて終了させていただきます。
アメリアの口調はアニメとは違和感があったと思いますが、原作のその後という設定でやりたかったので、原作の口調とさせていただきました。

蒼の記憶の影の主人公はアレン・・・・・・ではなく気がつけばオリヴァーになっていたようなきがします。

(ここからは、思い入れのあるキャラたちについて)
オリヴァーさんの商人としての腕はリナが認めるものであり、腹の中がドス黒く用意周到で、一物どころか何物もありながら、一部の人たちしか気がついていないという。そんなオリヴァーは書いてて楽しかったです。

アレンさんのコンセプトは不憫な不幸体質だったので、必然的にオリヴァーさんやクララ・・・・・・クラースさんたちにいじめられる機会が多かった気がします。
リナやガウリイにもいぢめられてたし。過去から続く呪いに苦しんだりする場面とかもうすこしだけかけたらよかったな。
82のあの場面の彼の心境は、第二次世界大戦中の神風特攻隊をイメージしていただければ・・・・・・色々な意味で不幸な人です。

クラースさんは、もう影の苦労人でした。
協会の雑務を黙々とこなし、オリヴァーにからかわれたり恋敵(!?)と牽制しあったり、地道に苦労した甲斐あって想いが報われました。
長年たまっていた感情が爆発したんでしょうね。彼の想い人はイヤってほど、その愛情を思い知っていることでしょう。

シーゲルはある意味加害者でもあり、被害者でもある。
マッドサイエンティストというか、研究バカ。実は隠れた弟バカ。
兄への敬愛やらコンプレックスやら、サリュートにつっつかれたりしていたという設定もちらほらと。
アレンとは双子ですが、二卵性のほうなので。容姿とか顔つきとか微妙に違います。ラディとの対比を出すためだったり。

他にも例をあげたらきりがないので、人物のことはこの辺で。
あとヘキサグラムやダーククリスタルなんかは、ゲーム『ろいやる2』を参考にしています。
ヘキサグラムはゲームでは重要な意味をもっていたり。
ダーククリスタルは非売品で、リナが装備できる最高品質なショルダーガードであり、その正体は本作に出てくる封印のオーブだったりします。
金貨一枚につき銀貨二十枚というのも、ろいやる2で知りました。

書き終わった感想は、まさかここまで話が長くなるとはおもわなかった。その一言に尽きます。
初投稿ながら、こんなに書いていったいどこへむかうんだと、自分自身に突っ込んでみたりしていました。
ルビも編集をしながら楽しく出来ました。なんか一区切りついたって感じですね。魔族の動向も思わせぶりな終わり方ですし。
でもリナ=インバースのいくところは、常に騒動が沸き起こりますから、こういった終わり方でもいいのかなとおもいこうなりました。
ひょっとしたらこの続編を衝動的に書きたいと思う時もくるでしょうし、なにげに伏線らしきものも。

長々となってしまいましたが、これにてあとがきも終了させていただきます。
つきあっていただいたみなさま。ご愛読ありがとうございました!





                 蒼の記憶   完

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34224お疲れ様でしたvかお URL2009/7/21 07:21:36
記事番号34223へのコメント

こんにちわ。はじめまして(だよな?)。フィーナさん。
ここにときどき出没しているかおいいます。
蒼の記憶、完結おつかれさまでしたー!!
もうまいかいどきどきしながらよませていただきました。
何とも原作らしい、というかリナらしい、というか。
展開がよめなくて・・・いつも読み逃げしてましたが完結、というのでかきこみです。
まさか覇王さんの部下さんがでてくるとは!?
とびっくり。まあ、あの上司ではバカよばわりしてもわかるような(苦笑
あときになってたのが、ルビふり!です。
ここってタグ・・・つかえなかったような気がするんですけど・・・
行をあけてルビのようにしてるんですか?(素朴な疑問
何はともあれおつかれさまでした!
何だかセイルーンにむかってからまた何かありそうな予感がひしひしと。
アメリア、連絡うけてかってに結婚式三段してるような気もひしひしとv
何だか感想になっていませんが、ほんとうにおつかれさまでしたv
それでは、またいつかv

(いい加減に私も完結させないとな・・・汗)
ではではv
byかお

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34227Re:ありがとうございましたフィーナ 2009/7/21 16:49:34
記事番号34224へのコメント

>こんにちわ。はじめまして(だよな?)。フィーナさん。
こんにちは、かおさん。
フィーナといいます。
>蒼の記憶、完結おつかれさまでしたー!!
>もうまいかいどきどきしながらよませていただきました。
完結まで持っていくことができてよかったと思います。
>何とも原作らしい、というかリナらしい、というか。
>展開がよめなくて・・・
展開は最後のほうだけぼんやりと考えていて、つなげていくのに苦労しました。
>まさか覇王さんの部下さんがでてくるとは!?
>とびっくり。まあ、あの上司ではバカよばわりしてもわかるような(苦笑
覇王神官は、出す予定でした。
名前のほうだけ序盤から、ちょっとでてましたから。
>あときになってたのが、ルビふり!です。
>ここってタグ・・・つかえなかったような気がするんですけど・・・
>行をあけてルビのようにしてるんですか?(素朴な疑問
ルビは一行ずつあけて、やりました。
話を書き終わった後『投稿する』のしたにある『修正する』ところをクリック。
うまく文のほうとあわせることができたら投稿していました。
>何はともあれおつかれさまでした!
>何だかセイルーンにむかってからまた何かありそうな予感がひしひしと。
トラブルには事欠かないことでしょう。
>アメリア
次回作・・・・・・それも取り入れてみるか(思案中)
>何だか感想になっていませんが、ほんとうにおつかれさまでしたv
>それでは、またいつかv
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
またいつか、会える日を願って・・・

       フィーナ