◆−蒼の記憶 18−フィーナ (2008/11/25 19:21:47) No.33833
 ┣蒼の記憶 19−フィーナ (2008/12/4 22:29:53) No.33850
 ┣蒼の記憶 20−フィーナ (2008/12/24 21:36:12) No.33887
 ┣蒼の記憶 21−フィーナ (2008/12/25 22:09:33) No.33890
 ┣蒼の記憶 22−フィーナ (2009/1/6 19:02:53) No.33896
 ┃┗Re:蒼の記憶 22−真羅 あかり (2009/1/8 23:18:54) No.33898
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 ┣蒼の記憶 24−フィーナ (2009/1/18 21:50:56) No.33902
 ┣蒼の記憶 25−フィーナ (2009/1/20 22:55:01) No.33904
 ┣蒼の記憶 26−フィーナ (2009/1/28 23:04:28) No.33913
 ┃┗Re:蒼の記憶 26−すちゃらか侍 (2009/1/30 06:32:24) No.33916
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 ┣蒼の記憶 29−フィーナ (2009/2/4 23:06:43) No.33932
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 ┗蒼の記憶 32−フィーナ (2009/3/19 18:32:23) No.33970


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33833蒼の記憶 18フィーナ 2008/11/25 19:21:47

「ところで、嬢ちゃんたちはロードに何の用件なんだ?」

あたしたちのまえにたち、城の通路を歩いていたジェイクはこちらをみずにいった。

「ロードの名義で、あんな挑発的な内容を提示すれば、普通怒るでしょうが。あたしたちは犯人あぶりだそうとするのは別に止めないけど、一般の怒った連中がロードを殴りこみ、とはいかなくても信用を落とすんじゃないかって危惧してんのよ」

「ああ、それか」

途中行きかう兵士が、せわしなく動く姿を視界に納め、彼は通路の右を進む。

「そんな心配しなくても、この町の連中はロードを信用していない」

・・・・・・は?

彼のせりふに、あたしは眉をひそめた。

信用していないって・・・・・・それって、

「ああ・・・・・・と、いっても、表面上ではみんな取り繕ってるがな」

「どういう意味ですか?それって」

と、これはガウリイ。

「おいおい、まさか今のロードのこと知らずに会いに来たのか?」

「なんでも最年少で、ロードになったってことくらいしか聞いてないけど」

「そう、だから信用されてないんだ」

「はい?」

いくら最年少で、ロードになったからって、それは・・・・・・いくらなんでも

「言い方が悪かったな。マクベス公が、ロードに就任したのが三年前でそのときの年齢が確か十二か、十三のときだそうだ」

「・・・・・・え?」

あたしは思わず絶句した。

「当初は、そんな幼いものがロードになるなんて、と、批判の声も多かったがな。だが、あのロードは様々な知識を速い期間で吸収してな、高官たちとしても、自分たちが政治手腕の補佐としてつくことで、思惑通りに動かせると思ったんだろう」

「そして、結果としてマクベス公は、ロードに就任した・・・・・・と、いうわけね」

「そういうことだ」

あたしの台詞を、ジェイクは肯定した。

「ただ、就任したのはいいが、町の連中から見たらロードはまだ子供だ。そんなのに、町を治めることができるのか?・・・・・・という現状が今も続いている状況だ」

「・・・・・・なるほどね」

あたしは、ようやく納得した。

何故、マクベス公が周りの反感を買ってまで、あんな挑発的な提示を出したのか。

「ついたぞ」

前を歩いていたジェイクは、扉のまえで足を止めた。






とんっとん






「だれだ」

扉をノックして聞こえてくる声。

「兵士長のジェイク・ヴォークです。ロードにお目通りを願うものたちをつれて参りました」

「・・・・・・はいれ」

しばしの沈黙の後、声の主は中に入るよう促した。

その声は、若い。

「失礼します」

ジェイクは一礼してから中に入った。

その後に続くあたしとガウリイ。

謁見の間に敷き詰められた赤じゅうたんを目で追っていくと、深々とその身を椅子に沈めた青年が座っていた。

年のころは、十五、六。

ピンッと跳ねた、クセっ気のある金髪。クリっとした大きな目はあどけなさを残し、まだ彼がロードとしての地位、そして人の上に立つ者として周りが信頼し、また必要とされるような貫禄と自信が、今の彼からは、感じられない。彼がまだ、ロードになりきれていないのをうかがわせる。

「その者たちは?」

彼------マクベス公の問いかけに、ジェイクは答える。

「この者たちは、公も小耳にはさんでおられると思いますが・・・・・・かの竜殺しの術をも使いこなし、セイルーンやアトラス・シティの権力抗争解決にも大きく貢献したという」

ジェイクの台詞に、マクベスはたちあがった。

こちら、あたしを愕然とした表情でみながら、

「・・・・・・まさか、リナ=インバース?」

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33850蒼の記憶 19フィーナ 2008/12/4 22:29:53
記事番号33833へのコメント
しばしの沈黙の後、マクベス公はあたしの一点をちらりとみて、つぶやいた。

「・・・・・・本物か」






どぐしゃあっ!!






あたしが、無言ではなったスクリュー・パンチはマクベス公を地面に沈めた。

「おい、嬢ちゃんっ!いきなりなにを・・・!!」

呆然とやりとりを眺めていたジェイクは、あわててロードを助け起こす。

「人間ふれられたくないところに触れられると、反射的に攻撃しちゃうものなのよね〜」

「だからって、普通グーでどつくか?」

「とうぜんよ」

ジェイクのおっちゃんのつっこみに、あたしは律儀にもこたえる。

「・・・・・・うわさ以上に、てがはやい」

ロードは、すこし涙目になりつつ、そういった。

「先にけんかを売ってきたのはそっちでしょうが!」

「さきに、リナ=インバース当人であるという証拠を確認したかっただけだ・・・行き成りどつかれるとはおもわなかった」

「だからって、一歩間違えたら完全なセクハラになるわよ!」

「そうはいうが、噂に聞いてるリナ=インバースは大半が『それって人間の容姿じゃないよね』っていう特徴ばかりだったから---」






げしっ!!






身を起こしたロード------もうマクベスでいっか------をけたおす。

「おいリナよ、相手は一応ロードなんだから、そうほこほこ苛めてやるな」

「ちがうわよ、ガウリイ。これはたとえ相手がロードだろうと、いえ、ロードだからこそ、目上の者にはそれなりの敬意を示さないといけないってことを教えてるだけよ」

「ぼくと、年はたいして違わないだろう!?」

再度身を起こし、かみつくマクベス。

今まで話していた口調をやめ、年相応の生意気盛りの言葉で話す。

「ロードに就任した以上、この地を治めるロードにしては随分いき込んでるみたいじゃないの。なら、なおさらそれなりの態度でのぞむことね」

「う・・・・・・悪気はなかったんだけど、不快な思いをさせて・・・・・・わるかったよ」

いたいところをつかれたのか、素直に謝罪するマクベス。

うむうむ、なかなか潔い。

「むかし、少しの期間だけぼくの家庭教師をしてくれた人が、君の話を聞かせてくれて興味があったんだ・・・噂と、現実のイメージがごちゃまぜになってどれが本当のことなのかわからなくなっちゃってさ。だから、当人が聞いたら怒ることをいったらどんな反応するんだろうとおもったんだ」

「けど、こいつの噂ってとんでもないものばかりだぜ?しかも、ほとんど事実---」






ごすっ!!






みなまでいわせず、ガウリイに裏拳をたたきこむ。

「・・・・・・・」

その様子を見て、何故かマクベスは沈黙した。

「たしかに、あたしのことを悪く言う人もいるわ。否定しても功績が大きければ大きいほど噂は拡張されるものよ。
だけどね、あたしとながくいると、噂とは違うあたしのひととなりを知る機会も増えるだろうし、そのひとのすがたがみえるわけじゃない。・・・・・・これは、わかるわよね?」

こくこくこくこくこく!!

やさしく、ただすようなあたしの台詞に、マクベスは激しく首を縦に振る。

・・・・・・若干、その瞳に恐怖の色が混じっているような気がしないでもないが、あたしのきのせいだろう。

「それがわかれば十分よ。じゃあ、本題に入るけどいいわよね?」

「・・・・・・・・・・・・うん」










あたしは、挑発的な内容によって起こり得ることを、マクベスに説明していった。

マクベスは、あたしの言葉を反芻して繰り返し、吟味するかのように腕を組んだ。

「・・・・・・はなしはわかった。だけど、ぼくはその内容を撤回するつもりはないよ」

意外な台詞に、あたしは眉をひそめる。

「なんでだ?」

ガウリイの問い掛けに、マクベスは苦笑交じりで応えた。

「一度だした提示を撤回しても、もう町のみんなにとって、これはぼくの言葉だ。いまさら撤回してもあとのまつりだし、未熟なことはぼく自身の責任でもある」

それに、と彼はこう続けた。

「ぼくは、この事件に別のなにかが潜んでいるんじゃないかとおもうんだ」










「・・・・・・別のなにかって、どういうことよ」

「まだ、うまく表現できないんだけど、遠くない昔にレッサー・デーモン・・・・・・だっけ?とにかく大量発生したことがあったよね」

・・・・・・・・・・・・うぐ!?

マクベスの台詞に、あたしは内心うめく。

あたしとガウリイは、あの事件に深く関わりがある。

マクベスは、それには気づかずにはなしをすすめる。

「あんなのが突発的に出現して、多くの町や村がパニックを起こした。実際ぼくも彼らを見るまで、魔族なんて眉唾もののはなしだと思っていたしね」

その時の様子を思い出したのだろう。

マクベスの顔は青ざめており、小刻みに震えが走った。

「この町にも魔道士協会はあるものの、魔族相手に実践経験ある魔道士なんてそうそういるわけがない・・・・・・どういった攻撃が有効なのか分からず立ち往生するのが関の山だった。ぼくもこのことを国王陛下に進言したんだけど返事もかんばしくない」

「それと今回の事件と、なにが関係あるのよ」

「藁にもすがる思いで、旅の魔道士に協力を要請したんだ。その魔道士は、ぼくと同じくらいの年齢なのに多くのデーモンを瞬時に消して見せた」

「・・・・・・はい?」

瞬時に・・・・・・『消した』?

いくら力のある魔道士だろうと、人であるかぎり、カオス・ワーズと『力ある言葉』、そしてある程度の精神力とか必要なはずである。

「ちょっとまって、その魔道士の特徴ってどういうのか覚えてる?」

「覚えてるけど・・・・・・なんで?」

「なんでって・・・・・・同じ魔道士としての興味・・・・・・かな」

不思議そうに見返されて、とっさにそれらしい理由を話す。

マクベスはそれに納得したのか、言葉を続ける。

「年齢はぼくより二つほど下だったとおもう。短い銀髪で、猫を思わせる少しつりめの少年だったよ」

「その魔道士の名前は?」

「ううーん・・・あ!
確か同僚からはディーって呼ばれてるって言ってた」

「ディー?」

聞いたことのない名前である。

「ディーは、デーモンたちを消し去った後、ぼくにこう提案を出したんだ。
『腕に自信がある傭兵や魔道士に、いつ敵が来ても対処できるよう基礎体力をつけたほうがいい』って」

・・・・・・ん?

どこか、腑に落ちない。

なにか、見落としているような気がする。

妙な焦燥感が、あった。

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33887蒼の記憶 20フィーナ 2008/12/24 21:36:12
記事番号33833へのコメント
ロードとの面会を終え、あたしたちはジェイクのおっちゃんにうながされ謁見の間から退室した。

「・・・で?うちのロードのこと、正直どうおもった」

通路で、思い出したかのようにあたしに話を振るジェイク。

「なんっつうか、一介の旅の魔道士に振る話題じゃないわね。
ロードの個性やなんかに口出すのはお門違いでしょうが・・・ただ状況判断や、自分のした事を誰かに責任転嫁をしないってのは潔いとおもうけど・・・・・・ね」

「そりゃそうだ」

気のない相槌をうち、兜から覗く目は何を考えているのか、再び無言で歩く。

「・・・そういえば」

話を切り出したのは、あたしたちの会話を聞いていたガウリイだった。

「隊長は何で、ここで働いているんですか?隊長の性格なら俺は、てっきり流れの傭兵をやっていると思った」

「俺もまさか、宮仕えみたいなことをするなんて想像すらしていなかった」

「・・・・・・と、いうと」

おっちゃんは決まり悪そうに、ポリポリ頬を掻き、視線をあたしからそらした。

「この町で手当たり次第に遊びまわっていたら、手を出した女にガキができたってのがひとつ」

「こらマテや、おっさん」

ひとつって・・・・・・まだ、他にもあるんかい。

呆れるあたしに、ジェイクは苦笑なんか浮かべつつ、

「そう怖い顔すんなって、若気の至りってやつさ。それに、他にも理由がある」

「・・・それで?他の理由って何よ」

「別にたいした話じゃねえよ。
公の話にも出てきたが、レッサー・デーモンなんつうのに不覚を取られて大怪我負わされて、死に掛けた俺をある人が助けてくれたのさ。・・・・・・そんで、恩を返すってわけじゃねえんだが、協力してやるって契約を結んじまったわけだ」

「それがロード?」

「さあなあ?それは嬢ちゃんの想像に任せるよ」

とぼけた返事を返し、がちゃがちゃ鎧をきしませながら、彼は聞こえないとおもったのか低く呟いた。

「邪魔立てするっていうなら、嬢ちゃんたちとも殺りあうことになるだろうがな」










小高い丘の上にあるロードの城を後にして、昼から夕方にさしかわろうと、目立ち始めてきたその日差しが、あたしの顔にさしこんだ。

眩しさに目を細め、不意打ちに差し込んだ日差しを手でさえぎる。

「それでリナ、これからどうする?」

「う〜ん、そうね」

横手からかかってきた声に、あたしは考え込む。

夕飯にはまだ早すぎる時刻ではある。

「とりあえず、町をぶらついて美味しいもの巡りでもしましょうか。商業が豊かな町だけあって、珍しいものもあるかもしれないし」

「だな、美味いもんあるかなー」

「表通りは大体食い尽くしたし、今日は広場のほうにいってみるわよ!」

「おう!」






広場では、表通りほどではないにしろ人気があってにぎわっていた。

噴水の近くで走り回る子供と、それを見守る母親らしい女性。

威勢のいい声で、露店を開いているおばちゃんに、離れた木陰で数人で囲むようにして誰かに絡んでいるがらの悪いチンピラ。

・・・・・・がらの悪いチンピラ?

みると、にぎやかな噴水近くとは遠く離れた木の幹に追い込まれているようなかたちで、男たちが集まっている。

周囲は気づいていないのか、あるいは関わりたくないのか遠巻きに眺めていたり、みないように視線をそらしている。

あたしは、迷わずそちらに向かった。

近づいてみると、絡まれているのはゆったりした青いローブを着た神官のようだった。

チンピラの数は三人。

リーダー格とおもわれる、角刈りのチンピラはにやにや笑いを浮かべつつ、いった。

「・・・・・・な?だから、大人しく金目のものさえ出してくれりゃあ、オレたちも手荒なまねはしねぇっていってんだ」

「三人がかりでいわれても、説得力のかけらもありませんね」

神官の男は、怯えた様子もなく肩をすくめる。

「てめえ!」

その態度が気に障ったのか、取り巻きの一人がほえて殴りかかる。

神官は、殴りかかる男の拳が届く寸前、身を沈めた。

男からしてみれば、いきなり神官の姿が消えたように見えただろう。

「!?」

たたらを踏んだ男の隙を逃さず、神官は掌をチンピラの顎にすくいあげるように打ち込んだ。

「がっ!?」

さして力を入れていないような一撃だが、男は派手に吹き飛んだ。






どしゃあぁぁっ!!






盛大な土煙を上げ、男はピクリとも動かない。

「なにいっ!?」

その様子を目の当たりにして、残ったチンピラ二人は慌てて神官から距離をとる。

はい、ご苦労様。

「メガ・ブランド!」






どぐわあぁぁぁぁんっ!!






「のひえぇぇぇっ!?」

一箇所に固まったところをあたしの術で、まともに吹っ飛ぶチンピラ二人と神官。

ひるひるぽてり。

あたしの目の前に落ちてきた皮袋。中身はそんなにはないが、夕飯の足しにはなるだろう。

迷わず拾い、ふところに------

「ど・・・泥棒」


ふみ


寝言をほざく、角刈りのチンピラの頭を踏んづける。

「三人がかりで絡んでいたチンピラがいうんじゃないわよ。再発防止に貢献してあげてんのよ・・・それより、もっと酷い目にあいたいのかしらね?」

「は・・・はん!この小娘が、
不意をついたくらいでひいたとあっちゃあ男がすたる!」

「威勢はいいけど、月並みな台詞ねー」

思ったことを正直に言うあたしに、チンピラはこちらをギッと睨んだ。

「お前の顔は覚えたぜ!オレはこのへんじゃ名の知れた男だぜ!その気になればてめえの居場所なんかすぐに割り出してやる!」

「あーはいはい」

「そう余裕でいられるのも今のうちだ!てめえの名はわすれないからな!」

「なあ、あんた。悪いことは言わん。あんまりこいつ怒らせないほうがいいぞ?」

ガウリイはしゃがみこみ、チンピラに同情の視線をこめて忠告している。

「そんなこけおどしが通用するとでもおもってんのか!」

「ま・・・・・・そこまでいう元気があるなら、名乗るのもおこがましいけど教えてあげる。
あたしの名前はリナよ」

げしっ!と、チンピラを踏んづけていた足で蹴りつけ、あたしは立ち上がるチンピラを見下ろした。

名乗りを上げた途端、チンピラはそのままの姿勢でフリーズした。

「リナ・・・だと?ま・・・・・・まさか、『あの』リナ=インバース?」

「・・・・・・『あの』ってのがひっかかるけど、たぶんそのリナ=インバースよ」

さあぁぁ

目に見えて血の気が引いていくチンピラに、あたしはにこやかにいった。

「ちょうど暇だったからねー。たっぷりいぢめてあげる♪」






攻撃呪文の華が、咲いたのだった。









いくつかクレーターのあいた地面の脇で、転がってるチンピラを縄でふんじまったあと、倒れている神官に目を向ける。

あたしはチンピラに絡まれ、いっしょくたに巻き込まれた神官に近づく。

「危ないところだったけど、もう大丈夫よ」

相手が何か言うより早く、あたしはいってやった。

濃いブラウンの髪を伸ばした神官は、近づいてきたあたしの足音にびくつき、おそるおそるボロボロになった顔をこちらにむけた。

あれ?このひとの顔・・・どこかでみかけたような?

「・・・・・・ありがとうございます」

なにやら言いたそうな顔をしていたが、先手を打たれてへこんだのか、かろうじてそう答え気を失った。

「あ・・・ちょっと!?」

緊張の糸が切れたのか、神官はそれっきりぴくりとも動かない。

「どうするんだ?」

ガウリイの問いにあたしはこたえた。

「そんなの決まってるでしょ。
チンピラたちを役人に突き出して、礼金もらってからあんたがこの人を宿まで運ぶのよ!」

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33890蒼の記憶 21フィーナ 2008/12/25 22:09:33
記事番号33833へのコメント

チンピラたちを最寄りの役所までつれていき(もちろんガウリイに運ばせた)礼金をもらうため、ロビーで待つあたしとガウリイ。

少しの間を空けて、おそらく新人なのだろう、まだ若い役人があたしの前にやってきた。

「おまたせしました。
いやあ、助かりましたよ。あの連中には、我々も手をこまねいていたところなんですよ」

苦笑を浮かべつつ、噂好きなのかぽろりとそんなことをいいつつ、礼金の入った皮袋をあたしにさしだした。

ずしりっとはいかないものの、換算すると銀貨で五・六枚といったところか。

大金ではないが、大きな町ではそこそこ妥当な金額である。

「では、遠慮なく」

ありがたくいただき、懐にしまう。

「最近は多いんですよねー。
白昼堂々と盗みを働く連中が多くて、わりと治安はいいほうなんですけど最近活発化してるらしいですよ」

「へー、そうなんですか」

役人の台詞に相槌を打つ。

そういう連中が増えてるってことは、あたしにとっては都合がいいけど、役人がいる手前下手なことはいえない。

「大体被害にあわれる方というのが、商業の豊かな町だけあって旅の商人とかお忍びでこられた令嬢というのが大半なんですけど、変わってるのがいくつかあって旅の魔道士やら傭兵や剣士を襲うつわものもいるらしいですよ」

「・・・・・・たしかに変わってるわね」

旅の魔道士を襲うというのは分からなくもない。だが、傭兵や剣士?

彼らを襲っても、取れる額というのも限りがあるし、わざわざ危険を冒してまで盗みを働こうとするだろうか?

「それ、誰から聞きました?」

「え?誰って言われても、役人なら誰でも知ってると思いますよ。
・・・・・・自分も同僚や先輩から聞いて知ってるし、おかしな話だなって言って仲間内では盛り上がってますから」

「そう」




世話話をしていたその役人は、彼の上司に当たるだろう年配の役人に、『私語をするな!』と、怒鳴られ耳を思いっきり引っ張られ奥へとひきづられていった。






近くの木の幹で、チンピラたちに絡まれていた神官は、あたしたちが役所から戻ってきた後でも依然気を失ったままだった。

一瞬最悪なシナリオを脳裏にえがいたのだが、口元を手でかざすと呼吸をしており、規則正しい胸の動きと寝息を立てていた。

あまりにも気持ちよさそうな寝顔に、つい悪戯心が働いた。

たとえば、寝ている彼のやたら長い髪を三つ網にしてそのまんま放置してみたり、激辛スパイスを口に放り込んでおきたときのリアクションを指差して笑ってやろうと実行してみた。

そのほかにも色々やったのだが、彼は目を覚まさなかった。

普通ここまでされたら、とっくに目を覚ましてもいいはずなのだが・・・






「どう?ガウリイ」

結局は、こうしてあたしたちが宿泊している宿屋まで来て、只今ガウリイが借りている部屋のベッドに爆睡しているわけである。

「まだ起きないぞ」

「う〜ん。睡眠薬盛られてるわけじゃないのよねー」

睡眠効果のあるブルーリーの実や、スリーピングの魔法で眠らされてるとしたら、ディクリアリィという解毒呪文がある。

試しに使ってみても、効果はなし。

どうやらこのひと、ここ数日かなり無茶なことをして、あんまり寝てないんじゃないだろうか?

「こうなったら仕方がない。奥の手を使うわ」

「奥の手って・・・なんだ?」

ガウリイの質問に、あたしは「チッチッチッ」っと指を振る。

「いいことガウリイ。
この手段だけは使いたくないから今まで使わずにいたの。それはわかるわよね?」

あたしは、一応念を押す。

「あ?・・・ああ」

素直にうなずくガウリイ君。

あたしはなおも、沈痛な表情を浮かべつつ

「いろんなことをしてみたけど、このひとは目覚めない。
何故か!?それは呪いをかけられているってのが世間一般様ではセオリーね」

「おおおおおおっ!」

やたら感心した声を上げるガウリイ君。

どうやら、あたしがいいたいことに気づいていないようである。

・・・・・・まあ。

今、気づかれても色々楽しめないのだが。

「さて、そこで問題です!
よく昔話かなんかで、呪いで眠りについたお姫様を助けるときの定番といえばなんでしょう!?」

「えええええっ!?・・・・・・う〜〜ん・・・・・・」

うんうん唸りつつ、首を傾げて悩むガウリイ。

あたしは我ながら大人気ないとは思いつつ、沸きあがりそうになる笑いを必死にこらえた。

「う〜ん・・・・・・あ!」

やおらポンっ!と手を叩き、にこにことこちらを見上げる。

うぐっ!?

その笑顔を見て、あたしは内心うめいた。

こいつが大型犬なら・・・
はちきれんほど尻尾を回し、きらきらした目でこちらをみる図柄がその・・・・・・

たとえではなく、本気でそう見えてしまったのだ。

・・・・・・しかもそれを。
このあたしが、あまつさえ可愛いなんぞと思ってしまうあたり、相当重症なのだろう。

そんなあたしの葛藤を、知ってか知らずか

「ほら、あれだろ?
王子様がお姫様に、キスするとのろいが解けるって言うやつだろ?」

珍しく正解を導き出す。

「あんたが正解するなんて、一体何事?悪いものでも食べたの?」

「あのなあ」

驚愕するあたしに、苦笑するガウリイ。

「大分話は脱線しちゃったけど、この人も呪いで眠らされているのなら、定番である呪いの解除を試してみるってのはひとつの手だと思うわ」

「ふーん。なるほどなー」

いって頷き・・・・・・その動きが凍りつく。

「・・・・・・をい、リナ」

「なに?」

ぎぎぎぎぎっと、首をこちらに動かすガウリイ君。

「まさかお前さん。オレに王子の真似事を、この兄ちゃんにやれっていわないよな?」

「オフコース♪もちろん、そのつもりよ?」




ずざざざざざざざっ!




腰を抜かして後ずさる彼。

かおは恐怖で引きつっている。

「ほ・・・・・・他にも方法はあるだろうが!」

なにが悲しゅうて、とかぶつぶつ言ってる姿がいとをかし。

このまま悪ノリしてると、へそを曲げそうなので目に浮かぶ涙をぬぐいつついってやった。

「冗談よ。いくらなんでも、そんなことさせるわけないじゃない」

「いくらなんでも冗談が過ぎますよ」

応えたのは、ガウリイではなかった。






ベッドに眠っていた彼が、目を覚ましたのである。

眠け眼(まなこ)のめをこすりつつ、身を起こす。

年は二十歳前後といったところだろう。

青い神官服を着込んでおり、ガウリイほどではないにしろ長く伸ばした濃いブラウンの髪。眠っているときは分からなかったが、中性的な顔立ちでなかなかの美青年である。

夕日が差し込んできた顔に、以前感じたどこかであったというものが明確になった。

このレイスン・シティに護衛として雇われたとき、商人の娘に連れ添っていた魔道士の青年・・・

「シーゲルのお兄さんの、アレン・クラウンさん?」

何気なくいったあたしの台詞に、彼---アレンさんは反応した。

「・・・・・・シーゲルのお知り合いの方ですか」

「まあ、そんなところだけど」

彼は一瞬、複雑そうな表情で目を伏せる。

それは一瞬のことで、何事もなかった様子であたしの、いつもの魔道士姿をみて、同僚だと思ったのか得心のいった顔でうなずいた。

「その服装、魔道士のかたですね。
・・・・・・ところで、俺はどうしてこんなところにいるんですか?そのへん、ちょっと思い出せないのですが」

「話すと長くなるから、かいつまんでせつめいするけど---」

彼がチンピラたちに囲まれているのをあたしたちが助け、そのさい負ったダメージが深く気を失ってしまったこと。

途方にくれ、宿泊している宿につれてきたこと。

・・・・・・無論、チンピラと一緒に呪文で景気よく吹っ飛ばしたことは伏せておく。

「情景描写と心理描写はとにかく、大体の事情は飲み込めました。
いつもなら、そのような失態はしないんですけど、睡眠不足がたたったのでしょうね」

恥じるようにはにかむ。

「俺をここまで連れてきてくれて、本当にありがとうございます」

「いえ、あたしとしては、当然のことをしたまでで」

うーみゅ。

こうストレートにお礼を言われると、こちらとしては照れる。

「なにかお礼でも出せればいいんですけど、持ち合わせはあんまりありませんし」

「そんなお気遣いなく」

「それじゃあ、俺の気が済みません。
・・・・・・そうだ。夕飯はとられましたか?」

夕飯・・・・・・そういえば、まだ旨いもの巡りしてないや。

「まだだけど」

「じゃあ、俺の行きつけの店を紹介します。
種類も豊富で値段も手ごろだから・・・もちろん代金は俺が払います」

そこまでいってくれるのなら断る理由はない。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「よかった。
そういえばあなたたちは俺のこと知ってるみたいだけど、俺はまだ名前を聞いていませんでしたね」

「ガウリイだ。よろしくな」

「リナよ」

簡単な紹介に、かれは軽く目を見張る。

だが、それもすぐに微笑にかわった。

「お会いできて光栄ですよ。ガウリイ=ガブリエフさんに、リナ=インバースさん」

「あたしたちのこと、その様子じゃ知ってるみたいね」

「知ってるも何も、あなたたちは有名ですからね」

苦笑するあたしに、微笑を浮かべたままの彼。

「どう有名かは、あえていいませんけど」

「・・・・・・ま、いいわ。
それより、そのおいしいお店ってこの近く?」

「表通りから少し離れた場所にあります。
分かりにくいと思いますが、隠れ家みたいになっていて結構穴場ですよ。味はお墨付きです」

「おー!
飯だメシー!!」

あたしたちの会話を聞いていたガウリイは、ご飯の話になって目を輝かせたのだった。

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33896蒼の記憶 22フィーナ 2009/1/6 19:02:53
記事番号33833へのコメント

「・・・あ、そうそう。そこへいくまえに、俺の連れも同伴させてもいいですか?」

「べつにかまわないわよ」

どっちにしろ、あたしたちの分は彼が持つことになるんだし。

「それで、あんたの連れってどんなやつなんだ?」

ガウリイの問いに、アレンさんは微笑を浮かべる。

「ラディという名で、俺の補佐をしてくれているやつです。
・・・・・・訳あって寡黙ですが、なかなか有能な魔道士だとおもいますよ」

あたしたちが宿泊している宿屋とは別の宿にむかい、あたしとガウリイは宿の前で彼らが出てくるのを待った。






「おまたせしました」

それほどの時間はたっていないが、彼は一人の魔道士をつれてきた。

その特徴は、黒いマントと黒いフード。みたまんまの魔道士姿である。

もうじき暗くなる時間だというのに目元まで深くフードをかぶっており、角ですれ違っても気にも留めない---悪く言えば存在感の薄いのが特徴と呼べるような、そんな風貌だった。






その店は、彼の言ったように表通りから少し離れた場所にあった。

外からじゃただの民家にしか見えなかったのだが、店内は穴場というだけあって夕飯時にもかかわらず、あたしたち以外の客の数はあまりみられなかった。

店員とは顔見知りらしく、二・三言言葉を交わした後その店員に奥のテーブルへと案内された。






一通りのメニューを注文し、慌ただしく厨房へと転がり込んでいくウェイトレスの姉ちゃんに、意味もなく財布を取り出し深い---ふかいため息をつくアレンさん。

給料前なのに、だの、多めに持ち合わせてよかったとか、なにやらぶつぶつ言っていたが、落ち着いたのか---はたまた開き直ったか依然フードをかぶったままのラディを目でさす。

「改めて紹介しますね---彼はラディ。俺の補佐をしてくれているやつです」

アレンさんの紹介に、かれ---ラディはあたしたちに軽く会釈した。

「こちらがリナ=インバースさん。いろんな悪評が多いのが玉にきずなひとですけど、その実力は魔道士の中でもトップ・クラスの実力を誇る魔道士ですね」

・・・・・・いろんな悪評云々あたり、引っかからないでもないのだが、トップ・クラスの実力を持っているといわれて悪い気はしない。

「リナよ」

多少ほっぺたひきつらせ、ふれんどりぃに自己紹介するあたし。

「彼はガウリイ=ガブリエフさん。以前は光の剣を代々受け継いでいた剣士の末裔で、凄腕の傭兵」





かたんっ!





「ガウリイだ。よろしくな」

構えるあたしとは対照的に、云われた当の本人は気さくに声をかける。

「どうかしたのか?リナ」

不思議そうに聞かれ、あたしは彼らをびしぃっ!と、指差す。

「『どうかしたのか?』じゃな〜い!
なんで一介の神官(プリースト)であるあんたが、あたしのことはともかく、こいつの事を知ってるのよ!?」

あたしのネーム・バリューは幅広く、一般の中でもそれなりに名の知れた魔道士だと自負している。

かたや、あたしの連れのこのガウリイ。

黙って立っていれば、それなりに顔もよく、剣の腕も申し分なしの好青年なのだが、惜しいかな三歩歩けば物の名前を目先から忘れていくほどのクラゲ頭なのだ。

「そんなに大声出したら、他のお客さんに迷惑ですよ?」

「そうだぞ、リナ」

「あんたについて話してるのよ!」

憤慨するあたしにかまわず、ウェイトレスの姉ちゃんが持ってきた料理の数々が、あたしの鼻孔をくすぐった。

ほかほかと、おいしそうな湯気を立て所狭しとテーブルの上に置かれていくその匂いは、あたしの食欲を掻き立てる。

「俺についての追及は後でできるでしょう?まずは料理を堪能しましょう---いってるそばから、ガウリイさん食べちゃってますけどね」

「ああ!?こら、ガウリイ!それあたしが頼んだやつじゃないの!!」

「こうゆうのは早い者勝ちだろうが!」

「そっちがそのつもりなら、こっちはこれだぁぁっ!」

「ああっ!?俺の肉がぁぁっ!」

ナイフとフォークを巧みに操り、繰り広げられる壮絶なる死闘!!

食うか食われるかの真剣勝負、あたしとガウリイの息詰まるいつもの争奪戦が火蓋を切った。





「・・・・・・うかうかしていたら、俺たちの分も食われかねないですからね。食いっぱぐれないように気をつけましょうか」

アレンさんとラディは、ちゃっかり自分たちの料理を確保しつつ、隣の席へ避難を開始したのだった。















































































































































































遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
このような駄作を読んでくださるような、奇特な方がいるとも思いませんが最後までおつきあいしていただけると嬉しく思います。
途中、イタい表現を使用する場合があります。
ぼかしきれるか不安ではありますが、精一杯がんばらせていただきますので、ご理解のほうよろしくお願いいたします。

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33898Re:蒼の記憶 22真羅 あかり 2009/1/8 23:18:54
記事番号33896へのコメント

初めまして☆フィーナさん♪
真羅あかりです♪
フィーナさんの小説読んでいて、とてもおもしろいです!!
小説の書き方が原作者の神坂さんに似ていて、まさに「スレイヤーズ」って感じがします!!
これからも応援してます★”

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33899Re:感想ありがとうございますフィーナ 2009/1/10 14:23:44
記事番号33898へのコメント


>初めまして☆フィーナさん♪
>真羅あかりです♪
初めまして、あかりさん。
フィーナです。
>フィーナさんの小説読んでいて、とてもおもしろいです!!
>小説の書き方が原作者の神坂さんに似ていて、まさに「スレイヤーズ」って感じがします!!
に…似てますか?
いちおう原作を基にしたオリジナルばなしにしたいとおもっています。
なので、アニメとの矛盾といいますか、原作の設定(あと神坂先生公認の裏設定)をいくつか出して(そして伏線にも盛られて)います。
>これからも応援してます★”
感想ありがとうございました!

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33900蒼の記憶 23フィーナ 2009/1/10 20:06:54
記事番号33833へのコメント
「・・・・・・あ〜っ!食った食った〜!!」

「なかなかいけるわね〜」

ここ数日の中で、最大の当たりなのではないだろうか。

出てきた料理、そのひとつひとつが独自の製法でつくられており、なおかつ素材の良さを活かす味付けも、ひとつとして同じものは使用していないのである。

焼き魚のようなシンプルな料理でさえも、塩加減が絶妙であるのだ。

「・・・・・・満足していただけて、うれしいような切ないような・・・・・・」

半ば唖然とした様子で、積み上げられた皿を眺めているアレンさん。

「よくもまあ、こんなに食べられますね・・・・・・」

季節のフルーツ盛り合わせと、香茶をたのしんでいたあたしは、自慢げにいった。

「お望みならば、まだ食べれるから!」

「いえ!もう頼まないでくださいっ!!」

何故か、力いっぱい拒否された。







「それじゃあ、お腹も落ち着いたし聞かせてもらいましょうか。
なんであんたは、このガウリイが光の剣持ってたことしってるのよ?」

光の剣
―百年ほど前、魔道都市と呼ばれたサイラーグを、一夜のうちに壊滅させた古の魔獣ザナッファー
・・・実際はクレア・バイブルの写本をもちい、人の手によって造られた不完全な生体魔律装甲が暴走したもの―

その魔獣をたおしたのが、光の剣である。

光の剣の名前は、五歳の子供でさえも知ってるほど有名なのだが、他ならぬこのガウリイこそが光の剣士の末裔なのである。

「別にたいしたことじゃありませんよ。
俺はセイルーンの僧侶(プリースト)連盟に所属していて、上司に当たる巫女頭の方があなたがたの話をよくされているんです」

「巫女頭ってことは、アメリア?」

浮かんだ名前を言うと、彼は肯定した。

「ええ。最近は公務が忙しいらしく、滅多なことではお会いできないですがね」

「そっか・・・・・・アメリアは元気?」

なつかしい名をきき、あたしはきいてみた。

「そうですね・・・元気ですよ。
ただ、俺たち一人ひとりに気を配っておられるので、皆の前では元気に振舞っている・・・と、いったほうがいいかもしれませんね」

「なあリナ」

ちょいちょいと、あたしの袖を引っ張るガウリイ。

「・・・・・・なによ」

いやな予感に襲われつつも、首の向きを彼に向ける。

「さっきからでてくる、アメリアって・・・・・・誰だ?」

・・・・・・をい。

いやな予感、的中。

「あ・・・・・・あのねえ、ガウリイ」

こめかみのあたりをおさえつつ、声を絞り出すあたしに対し、

「冗談だって。
いくら俺でも、一緒に旅したやつの名前を忘れるわけないだろ?」

あかるくぱたぱた手を振りつつ言うガウリイ。

「なにげに疑問系で云わないでください」

的確に突っ込むアレンさん。

「あんたがいうと冗談に聞こえないのよ」

と、あたし。







支払いを済ませ、店から出てくるアレンさんとラディ。

春といえども、夜は刺すような寒さが身にしみる。

「ところで、アレンさん」

「アレンでいいですよ」

店を出る前に、向かう方向が途中まで一緒なため、「そこまでご一緒しましょうか」と彼が言ってきたので、道中一緒に歩いているわけである。

「そう。
それじゃアレン。あんた誰かに恨まれるようなことした?」

「・・・・・・心当たりなら、無きにしも非(あら)ず――ですかね。
それに、そんなつもりはなくとも知らず知らずに、相手を傷つけていることもありますし」

自嘲気味につぶやいたセリフは、自分に言い聞かせているような響きがあった。

あたしたちが歩いているのは、表通り――ではなく、町外れに連なる街道である。

明かりは途切れており、開けた場所が多く、襲撃するには格好の場所である。

「・・・・・・それより、本当なんですか?
何者かが、俺たちの後を尾けてるっていうのは」

「確かよ。
しかも、どうやらとびっきりの・・・ね」

彼らが支払いを済ませ、あたしたちが外で待っている間、何者かの視線を感じたのだ。

ガウリイのほうをみてみると、彼も感じたらしく軽くうなずいた。

狙いは不明だが、気配の殺し方といい、油断できない相手なのは間違いない。

「どう?ガウリイ」

「つけられてるのは、分かるんだが正確な人数がつかめん・・・複数あるのは間違いないんだが」

野生の獣並みのガウリイでさえも、そこまでしか気配をつかめないのだ。

呪文を唱えつつ、油断なくあたりを見据える。

夜風が草を打つ音、鳥の鳴く声。

星々と月の煌々とした光が、大地を照らす。











光りが、翳(かげ)った。

「来るぞ!」

ガウリイの警告の声にあわせるように、鳥の鳴き声が、やんだ。

縫うようにして、こちらへと迫る影!

「メガ・ブランド!」

こちらに届く前に、あたしの呪文が完成する!





どごおぉぉぉんっ!!





術者を中心に、噴きあがる土砂。

もうもうとたち込める盛大な土煙!

おさまったさきには・・・・・・なにも、いなかった。

ぞわり

「リナ!」

総毛立つ悪寒と、ガウリイの声。

予感に逆らわず、とっさに左に飛ぶ!


かっ!


たった今まであたしがいた場所には、一本のナイフが刺さっていた。

投げナイフかっ!

再び呪文を唱えるあたし。

三人の襲撃者たちは、暗殺者のように目元を覆い隠していた。

ゆっくりと包囲するように近づいてくる。


ひゅっ!


一人の襲撃者の手が、闇夜を割いてひらめく!


きっ!
ききんっ!


鋭い音を立て、投げられたものは、ガウリイの剣によって地面に落とされた。

月の光に照らされ、銀光は軌跡となってえがかれる。

地面に落とされたナイフの刀身は、鈍い輝きを放っていた。







目を硬く閉ざすあたし。

「ライティング!」

間をおかず、アレンの放った持続時間ゼロのライティングが、夜の空間に炸裂した!

「!?」

動揺の気配を残し、遠ざかろうとするひとつの影。

させるか!

「エルメキア・ランス!」

さっきのライティングで目を灼いたのか、よろめく姿にあたしの呪文が突き刺さる!

まずはひとり!







ぴくりとも動かないその姿に、残り二人の影は、一瞬動きを止める。

その動きを見て、そちらにつっこむガウリイ!

同時だった。

ふたりは、『まったく同じ動き』でナイフをこちらへ投げたのだ!

うげげっ!?

「しまったっ!」

フォローしようと踵を返しかけたガウリイに、追い討ちをかけるように立ちはだかる二つの影!

目が闇に慣れたとはいえ、月明かりを頼りに全部を交わしきるのは至難の業!

くわえて、あたしは術を放った後で、呪文の詠唱が間に合わないっ!



ききききんっ!



あたしを庇う形で、前に出たのはラディだった。

抜き出した長剣をやすやすと使いこなし、とんできたナイフをすべて叩き落す!

正眼に構え、ふりかざす。

「ディム・ウィン」

・・・・・・え?

つぶやかれた言葉を理解するより早く、剣から生み出された強風は、襲撃者二人とガウリイを吹っ飛ばす!


ごうっ!


「どわっ!?」

大きく流されるガウリイ。

流れに逆らわずとぶことで、風の衝撃から最小限にくいとめるためだとわかってはいるが、はたから見ると随分間抜けな光景である。

ガウリイは、ほかの二人より早く立ち上がった!

「おい、あんた!
そんなリナみたいなことしてると、いい人生おくれないぞ!」

「やかましい!起き上がって開口一発がそれかいっ!?」

唱えていた呪文を中断し、抗議の声を上げるあたし。

よろよろと起き上がる襲撃者たち。

しかし、この連中・・・少し妙である。

暗殺者の類(たぐい)にしては、動きが素人くさい。

単調な動きなのに、そのへんのゴロツキより素早い動きを取れるというのは、相当な訓練を受けた兵士でもそうそうできるものではない。


かっ!


うちひとりが投げた数本のナイフは、こちらに届く前に力なく地面にささった。

「ガイアグライズ」


ばちばちばちばちっ!


逆五紡星にささったナイフに、プラズマがはしる!





ぐおぉうっ!





プラズマが収束していき、現れたのはレッサー・デーモン!

その数は、七匹!

「・・・・・・なっ!?」

思わず声を上げるあたし。

通常、人間の魔道士が召喚できるのは人の器である限り、二・三体が限度であるとされている。

魔力の問題、精神集中色々と理由は挙げられるが、それを目の前の刺客はやってのけたのだ!

「この場にいるもの、すべてを・・・倒せ」

その命令に、あたしの背に戦慄が走った。

正気かっ!?こいつは!

すべてを倒せ・・・・・・それは、とりもなおさず召喚した本人を含むことになる!




きゅどどどどっ!




デーモンたちがうみだした数十本近い炎の矢は、命令を下した術者ともう片方の刺客を飲み込んだのだった。

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33902蒼の記憶 24フィーナ 2009/1/18 21:50:56
記事番号33833へのコメント

レッサー・デーモンの集中砲火を受け、崩れ落ちる二人の襲撃者。

呼び出されたデーモンたちは、その視線をこちらへ向けた!

「ライティング」

アレンの放った明かりが、頭上に照らし出される。



ごうっ!



再び何の考えもなしに、レッサー・デーモンたちから放たれる無数のフレア・アロー!

「おおりゃあぁぁっ!」

視界が見やすくなったガウリイは、ふってきたそれをなんなくかわしブラスト・ソード片手にレッサー・デーモンの群れへと間合いをつめた!

大きな動きで腕を上げるデーモンのふところへと接近し、隙を見逃さずに胴を薙いだ!

続けざま、返す刀でそばにいたデーモンに一太刀のもと両断する!



ぎおぉぉっ!



倒れたデーモンを見て、脅威と感じたか他のデーモンが腕をかざした!

ただ傍観していたわけではない。すでに呪文は完成している!

「ブラスト・アッシュ!」



ざあぁぁっ・・・



あたしの放った術で、そのデーモンは瞬時に黒い塵と化した!

ガウリイは、すりぬけるようにして別の一体を倒したのだった。






「ラディ!」

アレンの声にこたえるように、ラディは剣をかかげ疾ったっ!

「エルメキア・ランス」

『力ある言葉』と共に、剣―――いや、剣に組み込まれた宝石が淡い輝きを出す。

ジュエルズ・アミュレット!?

ラディはあわい輝きを帯びた剣で、近づいてきたデーモンを左右に切り伏せた!



ごうっ!



近くにいたデーモンの、フレア・アローがデーモンを切り伏せたラディへ迫る!

あの状態で、すべてかわしきるのはほぼ不可能!

直撃するっ!?

飛来する炎の雨に、アレンは臆すことなく割って出た!

「ヴィスファランク!」



ばしゅうぅぅっ!



拳に魔力をこめ、飛び来る炎をなぎ払う!

そしてそのままレッサー・デーモンの鳩尾に拳を振るった!

びくんっ!と震え、倒れるデーモン。



どおぉぉん・・・



「ラディ」

倒れるデーモンには目をくれず、アレンはラディに一声かける。

「エルメキア・ランス」

剣を正眼に構え、ラディはこめられた呪力を虚空へと放つ!



ぼぼぼしゅっ!



紫の光る球体と接触し、霧散する光のやり!

あたしの術が、最後のレッサー・デーモンを倒したのはそのときだった。







「やはり・・・・・・即席の人形と雑魚数匹では、貴様らの相手にはならんか」

声は、近くから聞こえた。

「・・・だれっ!?」

あたしの近くには、動くものなど何も―――

いや。

ゆらりと、ひとつの影が立ち上がる。

その声は、さっきあたしがエルメキア・ランスで、倒した襲撃者からきこえたのだ。

「リナ!」

異変を感じ、こちらへくるガウリイ。

「久しいな。
この間は、あのリナ=インバースとしらず後れをとった」

先ほどの空気のような希薄な気配は今はなく、佇む姿からにじむのは―――瘴気。

「久しいも何も、あたしはあんたとは面識ないわよ?」

軽口たたきつつ、慎重に距離をとる。

「思い出せぬなら、思い出させてやろう」

いうがはやいが、そいつは無造作に腕を突き出した!



うぉんっ!



風を切る音と、こちらへと迫る紫の球体!

「させるかっ!」

ガウリイの繰り出される剣の閃き。



ぼぼぼしゅ
ぼしゅっ!



振るうたびに聞こえる、なにかが破裂するような音。

「だいじょうぶか!?リナ!」

「平気よ。ガウリイ」

こたえて、あたしはそいつと向き合う。

「そんな姿で出張?
ずいぶん仕事熱心なのね、タミヅさん?」

「ほう、人間風情が我を覚えているとは思わなかったぞ」

このレイスン・シティへくるときに、襲い掛かってきた魔族の名が確かそうだった。

「別にあたしとしては、あんたみたいなやつと長い付き合いするつもりはないんだけど」

「それについては同意見だ」

「なあリナ、この魔族のひとと知り合いなのか?」

「あほかい!
この町に来る前、護衛していたマリルさんっていう女性(ひと)を狙っていた魔族がいたでしょっ!?」

「それじゃあ、こいつロリコンなのか?」

「「ちがう!」」

真顔でどこかピンボケなことをいうガウリイに、あたしといわれた当人の声がハモった。

「それよりその姿はどういうことよ」

このタミヅ。以前は大蛇のように長い腕をしており、腹部にはつぼみのようなものがついてるのが特徴な下級魔族だった。

「貴様らに負わされた怪我により、我は仮初めの器によってのみ、ここに具現することがかなわなくなった」

「つまんない意地張ってないで、大人しく死んだふりしてたほうが良かったんじゃないの?」

「我にも誇りがある。
たかが人間如きに敗れたとあれば、死んでも死に切れん」

魔族ってのは、どうしてこうも極端な奴が多いんだろう?

「・・・こいつがマリーを狙っているっていうのは本当のことですか?」

険しい表情で、あたしに尋ねるアレン。

「あの娘の命は奪うな・・・と、命令を受けてはいるが、それは最重要事項ではなくなった」

こたえたのはあたしではなく、タミヅだった。

「・・・最重要事項?」

「なによ、それ?」

眉をひそめるアレンとあたし。

「こたえる義理はない。どうせ貴様らはここで死ぬのだから」

「勝手なことをいってくれるわね!
あんたじゃ、あたしたち相手にするのは役不足なんじゃない?」

「役不足かどうか・・・試してみるがいい!」

言い終るや否や、紫の球体を放つタミヅ!

とっさに散るあたしたち。



ぼぼぼしゅっ!



大地をえぐるように侵食する球体。

着地するなり、ガウリイはタミヅへと突進する!

「おおぉぉぉっ!」

光の残像を残し、ひらめく刃。



ざしゅっ!



ブラスト・ソードの残像は、タミヅが持ち上げた襲撃者の死体に深々と突き刺さった。

「我とて、ブラスト・ソードを扱う貴様相手に無策でいたわけではない。
貴様の剣の相手は我ではない。我が持ち上げている即席の人形とは一緒にしないほうがいいぞ!」

「ずいぶん余裕じゃないか!」

食い込んでいる焼け焦げた死体から、剣を引き抜き、再びタミヅへとせまる!



きいぃぃんっ!



鋭い音を立て、ガウリイの剣は、現れた双剣によってふさがれた。

「ブラスト・ソードをうけとめた!?」

おもわず声を上げるあたし。

魔法剣か!

「なにっ!?」

驚愕の表情を浮かべ、あわててその場を飛びのく。



ひゅんっ!



刹那をおかず、銀光がガウリイのいた場所を貫いた!

「さすがに避けられるか。
まあ、手加減してたんだからよけれて当然だろうな」

飄々とした口調で、白銀の双剣をかざしながら、一人の男がそこにいた。

ガウリイの背によってさえぎられており、その姿は見えない。

「誰だ、あんたは!?」

「誰だとは、つれねえなあ。
それも、かつての上官に対してひでえ言い草じゃねえか。ガウリイのぼーず」

どこかで似たような問答をきいた。

「・・・・・・まさか」

「そう、その『まさか』さ。嬢ちゃん・・・姿は違うがな」

あたしにこたえるかのように、苦笑しながら彼は応じた。

月夜に照らされて、その顔があらわになる。










年のころは二十代前半。

まとめられたアッシュ・ブラウンの髪と、やや細められた目と口はいたずらを成功させた子供のように不敵に笑んでいた。

「ジェイク・・・・・・隊長?」

「おうよ!この男前な顔つき、てめえも忘れたとはいわせんぞ」

呆然としているガウリイに、ジェイクはにやりと笑った。

「なんで・・・・・・隊長・・・そんなに若返ってるんですか?」

「・・・・・・お前さあ。普通こういう場面なら『何であんたがここに!?』とかいうだろーが」

「でも隊長だから・・・突飛な事されても『ああ、そんなこともあるな』って、納得するしかないし」

どこか達観しているようなガウリイに、ジェイクはわしゃわしゃと髪をかきむしった。

「・・・っとに、おめえは可愛げのないやつだな」

「隊長に可愛げを求められても、俺は困るんですけど」

「そりゃそうだ。褒美におれが若返った秘訣をおしえ―――」

「教えてもらわなくて結構です」

「遠慮すんなって。
傭兵仲間から『双剣のジェイク』なんて呼ばれブイブイいってたおれさまだったが、ある事件でバッサリ腕を失っちまってよ。剣ふるうしか能が無いってのに肝心の腕が無いときた」

「隊長の自慢話は長いんで、これ以上は辞退させていただきます」

「しばらくみねぇ間に、いうようになったじゃねえか」

「隊長が大人気ないんでしょうが」

「むう・・・」

自覚があったのか、押し黙るジェイク。







「それはそうと、今は戦闘中じゃなかったんでしたっけ?」

ぽつりと、つぶやかれたアレンのセリフに、あたしは我にかえった。

・・・・・・はっ!?

ガウリイが、他人のことを覚えており、なおかつ相手を言い負かしたという異常事態に、あたしの思考回路が正常に作動していなかったのだ。

世の中って・・・・・・奥が深い。

「あなたは、何のために戦うのは分かりませんが、マリーを狙う者と手を組んでいる以上、ほうっては置けませんね」

気まずい空気をものともせずに、アレンは顔を引き締めた。

「ならどうする?」

挑発するような口調とは裏腹に、すうっ、とジェイクの目が細められた。

「マリーを狙うその者と手を切っていただけますか?
俺やリナさんたちの命を狙うのは、誰かに依頼されたものなのだから仕方ありませんけど関係ないマリーを巻き込まないでください」

「おかしな事を言うぼーずだ。てめえの命は二の次かよ」

「それはできない相談だ。あの娘のキャパシティはあの方を喜ばせる至上のスパイスになる。リナ=インバース・・・貴様も考慮に入れたが、貴様のはそう簡単に手に入らないものだからな」

「ええ〜!?リナに目をつけるなんて物好・・・げふっ?」

なにやら言いかけたガウリイの頭に、子供の拳ほどの石を振るって黙らせた後、不敵に笑う。

「あたしに目をつけるなんて、中々目が高いわね。
あんたのセリフから考えると、マリルさんの潜在的なキャパシティが狙いってわけか」

「・・・しゃべりすぎたな。だが、貴様らの末路は変わらん」

「気にすんなタミヅ・・・計画の一端を知られただけさ。
なんにしても、嬢ちゃんたちには恨みは無えが、あの人やおれの望みを叶えるために、計画をつぶせる可能性を持つあんたらを消す」

「そう簡単に消されるほど、あたしは人間できてないのよ」

「いくら隊長が相手でも、俺は一応こいつの保護者なんでね。みすみす殺させるわけにはいかん」

「・・・強いな、嬢ちゃんは。
嬢ちゃんを殺されたくねーならば、ガウリイのぼーず・・・・・・てめえの剣の相手は、このおれさまだ!」

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33904蒼の記憶 25フィーナ 2009/1/20 22:55:01
記事番号33833へのコメント

「エルメキア・ランス!」

戦いの先手を打ったのは、アレンだった。

タミヅとジェイクのちょうど中間あたりに呪文をはなつっ!

その場から大きく離れ、ジェイクはガウリイと、タミヅはあたしたちと対峙した。

「ダイナスト・ブラス!」




バチバチバチバチっ!




続けざまにあたしが放った、覇王(ダイナスト)グラウシェラーの力を借りた魔力のいかずちが闇夜の大気を振るわせる!

タミヅは退くか?とおもったが、全身のばねをつかい狙いをつけたのかこちらへと一気に距離をつめた!

驚くべき跳躍!

その手には一振りのナイフ。

「なんとぅ!」



きいぃぃんっ!



ショートソードを咄嗟にぬき、かろうじてその一撃を受け止める!

受け止められるのをみるや、さっきのお返しとばかりにもう片方の腕を突き出す!

浮かび上がる紫の球体!

―――と、

突如タミヅが後ろへと下がった。



ぼぼぼしゅっ!



瞬間その球体は、タミヅの手のひらで鈍い破裂音を残し消滅した!

「・・・貴様っ!」

憎悪のこもったまなざしの先では、先ほどの襲撃者が使っていた投げナイフを片手に持ったラディのすがた。

おそらく、タミヅを牽制する為に拾ったナイフをあの紫の球体が出現したのを見て、あたしに気をとられたタミヅの死角となる場所から投げてくれたのだろう。

親指をあげ礼を言うと、小さくうなずいてから剣を片手にタミヅにむかった。











「はぁっ!」

ガウリイのくりだす一撃は、すこしづつジェイクをおしていった。

彼が持つのもかなりレベルの高い魔法剣みたいだが、桁外れの切れ味を誇るブラスト・ソードがあいてでは少しばかり分が悪い。

現に彼の持つ剣は、何合か打ち合っただけで刃こぼれし、使い物になるかどうかも怪しい。

だというのにジェイクは、ガウリイのいちげきをかわしつつも余裕があった。

「いい剣だな、それ。どこでみつけた?」

「関係・・・ないでしょうが!」

横から払うような斬撃を紙一重で交わしたのち、一瞬ガウリイに隙ができた。

「っらあぁっ!」

その一瞬をジェイクが見逃すはずもなく、上段から叩きつけるような一撃を浴びせる!

「ふっ!」

しかしさすがはガウリイというべきか。

超人的なバネで剣を軸に回転するようにして、その一撃をやり過ごす!

「はっ!」

回転の勢いに乗り、そのまま踊りかかるように剣をふるった!



ぎちんっ!



妙な音を上げ、ガウリイのブレスト・プレートがはぜた!

「ぐあっ!」

「油断大敵だぞ、ぼーず!」

ジェイクは、あろうことかガウリイにあえて片方の剣を犠牲に折らせ、隙を作らせてから残ったほぼ無傷な剣で一撃を入れたのだ!

「さすがガウリイのぼーずじゃねえか。
おれはてめえの首狙ってやったのに、間一髪でよけやがった」

感心した声で、ガウリイを褒めるジェイク。

「あんまり・・・嬉しく、ありません・・・ねっ!」

「ひゅうっ!?
おっと!そうこなくちゃ面白くねえな!」

ジェイクは、たのしげに口笛を吹いた。

「それより、隊長はその剣どうするんです・・・か!?」

折れた剣をめでさすガウリイに、ジェイクは笑いながら云った。

「それなら、心配いらねえよ」

「どういうことだ」

「こういう・・・ことさ!」

声と共に、折れたはずの剣は柄の部分を中心に徐々に再生していった!

「・・・っな!?」

「この剣の製作者は誰だか知れないが、曰くつきのやつでな。
なんでも持ち主の精神力を喰らって、刃を再生させることができるってかわったやつさ」

ちゃきっ!と二つの剣を構えるジェイク。

「刀自慢もここまでにして、そろそろ決着つけようや」












「エルメキア・フレイム!」

「こざかしいっ!」

タミヅは一喝と共に、紫の球体をアレンの呪文にぶつけ相殺させた!

「ダルフ・ストラッシュ!」

「ぎゃうっ!?」

畳み掛けるようにして、あたしの放った高速のやりはタミヅの左腕を粉砕した!

「人間風情が!」

逆上してあたしにせまるタミヅ!

右腕をこちらに伸ばそうとしたが、呪文をこめたラディの剣によってゆく手を阻まれる。

「大丈夫ですか?」

あたしによってくるアレン。

ラディがタミヅと接近戦を仕掛けている間、いくつか気づいたことがある。

「―――平気。
それより、ちょっと気づいたことがあって、こんな作戦なんてどうかしら?―――」











「なるほど。それならタミヅの盲点を、上手く利用できるかもしれませんね」

「じゃあ、手筈どおりにお願い」

「わかりました」














つばぜり合いを続けるうちに、ラディが持っている剣にこめられた呪文の効力が、薄れつつある今が絶好のチャンス!

「アストラル・ヴァイン!」

あたしの『力ある言葉』によって、大地に赤い輝きを生み出す!

・・・以前、『彼』に使った戦法である。

「大地よ、我が意に従え―――ダグ・ハウト!」

アレンの『力ある言葉』とともに、うねりたゆたう無数の隆起!

「ラディ!」

アレンのこえを察知し、その場から後退するラディ。

「そのていどの呪文!」

タミヅは一笑にふすと、アストラル・ヴァインのかかった大地から逃れるため、飛び上がり上空からあの球体を打ち出した!

―――あたしの狙い通りに。



ぼぼぼしゅ
ぼしゅ!



鈍い破裂音が断続的に続き、もうもうとした土煙がたち込める!

「いまよ!アレン!」

あたしはアレンにきこえるように、大声を張り上げる。

「こしゃくな真似を!」

あの紫の球体は、打ち出した後、もう一度打ち出すのに時間がかかる。

それに気づいたあたしは、間をおかずにタミヅを追い込むことをアレンに提案した。

短い打ち合わせで、アレンがレビテーションをつかえることを知り、この計画を実行に移す。

気配に気づきタミヅが上空を振り仰ぐと、レビテーションで浮上したアレンがいた!

その手には、輝きを帯びた小さな宝石―――

アレンがダグ・ハウトを使った直後、あたしは先ほどの土煙にまぎれ、ラディの剣の宝石を取り外し彼に渡したのだ。

「ディム・ウィン!」



ごうっ!



強風が吹き荒れ、なすすべも無く地上へと急接近するタミヅ!

「おのれ・・・っ!」

「ラディ!」

アレンの合図に従い、ラディは呪文を放つ!

「ベフィズ・ブリング」

トンネルほりの呪文を、タミヅの落下地点へと発動させたのだ!








実体を持たない本来の姿であれば、空間を渡れば済むのだが、現在タミヅは依り代をもって実体化している以上―――

―――いまの状態のタミヅではこれを防ぐことはできない。

「ブラスト・アッシュ!」

体勢を崩し、穴の中でもがくタミヅに、あたしの生み出した黒は瞬時にタミヅを包み込み―――



ざあぁぁ・・・



羽虫がとびたつような音を立て、黒い塵とかす。

それが、魔族タミヅの最後だった。

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33913蒼の記憶 26フィーナ 2009/1/28 23:04:28
記事番号33833へのコメント
一方、ガウリイとジェイクの戦いも佳境にはいりつつあった。

剣の腕はほぼ互角。

二刀流を扱うジェイクのほうが、体力の消耗が激しく疲労の影が深い。

されど、ガウリイのほうも、相手がかつての上司ということもあってか、なかなか思うように踏み込めずせめあぐねている。








ガウリイのブラスト・ソードがジェイクの腕を掠め、その一撃をジェイクは紙一重で交わした!

かわした後、ジェイクがしかけた!

「おおぉぉっ!」

ジェイクは、目が覚めるほどの速い一撃を繰り出す!

培われた経験あるいは野生の勘か、彼からは死角にあたるその剣の軌跡をガウリイは振り返らずにかわした!

・・・・・・今の一撃、並みの剣士ならバッサリやられているだろう。

かくいうあたしも白状すると、悔しいがあの軌跡を見切ることはできなかったのだ。

しかしジェイクも並みの剣士ではない。かわされた距離を瞬時に計算したのだろう。勢いに乗り、かわされた剣とは別の剣で水平に薙いだ!

スピードにのった、時間差をかけた連撃!



ぎいぃぃんっ!



剣のぶつかりあう音が、空気を振動させる!

絡み合う、ブラスト・ソードと無銘の妖刀。



ぱきいぃぃんっ



妖刀の砕ける澄んだ音が響き渡る!

「無駄さ」

ジェイクがつぶやくや否や、またしても折れたはずの刀身は、瞬く間に再生された!

なんじゃそりゃあぁぁっ!?

再生可能、これさえあれば刃こぼれしても、もう安心♪

一瞬、そんなどうでもいいようなキャッチコピーが脳裏をよぎった。









そういった剣の駆け引きが繰り返され、双方は膠着(こうちゃく)状態に陥った。

次で、決まる。





ごごごごごっ・・・・・・っ!




アレンのダグ・ハウトが、このとき発動したのだ。

大地の揺らぎが、その状態に終止符を打った!

「らあぁぁっ!」

先に仕掛けたのは、ジェイクだった!

土煙を煙幕にして、それに紛れ討つつもりかっ!?

もうもうと立ち込める中に飛び込むジェイク!

ガウリイの、手がブレた。

「ぐっ?」

小さなうめきを上げ、ジェイクの動きが一瞬鈍った。

土煙の中で、あたしが確認できたのは、小石か何かを左手でもったガウリイ。

ジェイクが土煙に隠れたことにより、両者の姿が見えなくなった瞬間をねらい、威力を削(そ)ぐ為拾ったもので指弾をはなった―――

おそらくはそんなところだろう。

「おおぉぉぉっ!」



ぞむっ!



ガウリイのブラスト・ソードが、ジェイクのわき腹を薙いだのだった。














「・・・・・・おれの・・・負けだ。殺せよ、ぼーず」

「勝負は・・・もうつきました。それに、俺は隊長を殺したくない」

ガウリイの斬撃は、致命傷にはならないが、そう浅くは無い。

動けるには多少時間が必要だろう。

「相変わらず・・・・・・甘いな」

「・・・・・・隊長の・・・部下ですから」

「可愛くねぇガキだな、てめえは。『元』部下だろーが」

ガウリイのセリフに、ジェイクは顔を覆った。

近づくあたしに、ジェイクは視線を移す。

「嬢ちゃん。
いったいこいつを、どう躾(しつ)けたんだ?」

「別にあたしは、何も躾けてないわよ」

『うそ付け』

即座に、ガウリイとジェイクの突込みが唱和した。


けりっ!
ごめっ!


「なに仲良くハモってんのよ、あんたたち」

とりあえず一発ずつ蹴り倒し、地面とお友達になったガウリイとジェイク。

「あの・・・リナさん。一応この人たちけが人なんですから、もう少し労わってあげたほうがいいんじゃ・・・・・・」

気の毒そうに彼らを眺めつつも、近寄ろうとはしないアレン。

ただ単に、二の舞を踏みたくないという説もあるが・・・

「この位でこいつらが、そう簡単にくたばるもんですか。
そこで寝こけてないで、なんであたしたちを襲ったのか、きっちりさくさく説明してもらいましょうか」

「そいつはいえねえな。
おれとしては、問い詰められるなら嬢ちゃんよりも、もうちっと胸の凹凸(おうとつ)のしっかり主張しているボインちゃんが―――」

「インバース・スペシャル・ですとろいやあぁぁぁっ!!」



どめきょばくしゃあぁぁっ!!



あたしの怒りの一撃(ひねりつき)は、ジェイクを完全に沈黙させた。

「・・・やりすぎでしょう」

伸びたジェイクに、治療呪文を施しながら、アレンは唖然としながらつぶやいたのだった。













「痛みますか?」

「もう平気だ。すまねえな、ぼーず」

こきこき首を鳴らしつつ、ジェイクは身を起こした。

「・・・・・・とまあ、嬢ちゃんからかうのもこれくらいにして」

「んっふっふ・・・・・・なんだったら、今度は本当にあの世見せてあげるわよ?」

「あなたがいうと・・・冗談に聞こえませんね」

薄ら寒いものでも感じたのか、身震いするアレン。

「あたしがいつ、冗談だって言ったかしらね?」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

据わった目と、おさえた口調のあたしに、何を感じたのか・・・・・・男たちは沈黙した。

「隊長・・・・・・命が惜しかったら、こいつの云うこと聞いたほうがいいですよ」

「同感です。犬にでもかまれたと思って、諦めたほうが良い人生歩めそうですね」

「・・・そのほうがよさそうだ」

「―――ディル・ブランド!」



ちゅどおぉぉんっ!



月が欠けた夜の静寂をぶち壊し、

口々に勝手なことをほざく彼らに、あたしの呪文が炸裂した。















「気を取り直して聞くけど、最初あんたとガウリイの会話に気になる事云ってたわね。若返った秘訣がどうとか」

「そんなことあったか?」

案の定、ガウリイがきいてくる。

「あったの!それとある事件で、腕を失ったとかいってたけど、あなたの腕はちゃんとある」

「腕を失ったっていうのが、嘘だって可能性は」

アレンのせりふに、あたしはかぶりをふる。

「戦いに興じる際に、んな嘘ついてどうするのよ。
動揺誘おうってのなら、話は別だろうけどジェイクのおっちゃんは普段はどうかしんないけど、戦闘のときは決しておちゃらけるタイプじゃないわ」

戦場での油断は、即死につながる。

「褒め言葉と受け取っておくよ」

苦笑しながら、答える。

「・・・・・・おれが腕を失ったのは、公の話にも出てきたレッサー・デーモンが大量発生したときだ」

ぽつぽつと、話し始めるジェイク。

「突然のことだった。
あっという間に火の手が上がり、逃げ惑うやつら。言い訳になっちまうが、あのときのおれは、平穏な日常ってやつにすっかり浸っちまってた。傭兵であることを辞め、女とガキで他愛のねえ事云って馬鹿やって・・・そんなのも悪くねえな・・・そうおもってた」

「それは・・・・・・ほとんどの人が当然のことだと思い、中々手に入りにくいもの。あなたが渇望すること・・・それは恥ではありませんよ」

慈(いつく)しむようにジェイクに手を添えるアレン。

「わかってる。だがなあ、それも一瞬で壊れちまった。女もガキもおれの目の前でみすみす死なせちまってなぁ。あの時ほど、平和な生活に慣れちまった我が身をのろった・・・っ」

ぎりっ!と、奥歯をかみ締める音が聞こえた。

「あのときの戦いで腕を失ったおれの前に、いけ好かないガキを引き連れたあの人が来て、『力が欲しいか?』といってきたんだ」

「『あの人』?」

ジェイクの話から、何度も出てきた名前。

引っかかるものを感じ、あたしは眉をひそめた。

「失意のどん底にいたおれだったが、襲ってきたデーモンたちを倒す力が欲しかった。あの人の問いかけに、おれは首を縦に振った。
・・・・・・その後のことは覚えちゃいねぇ。気がついたら、失った腕があるだけじゃなく、全盛期だったおれの身体になっていた―――ってわけさ」

「そんな事って・・・・・・」

言いかけて、あたしは言葉を飲み込む。

そのようなこと、現在の魔道技術では不可能なことなのだ。

―――『人間』には―――








「命を拾ってくれたあの人には感謝している。おれは、手段はどうであれ、あの人が行おうとしていることを、最後まで見届けたいと思った」

「じゃあ質問を変えるわ。なんで、あたしたちを狙ったのよ」

ジェイクは肩をすくめた。

「そりゃ、タミヅの馬鹿が独断でやったことさ。挑発に乗せられれば、あっさりボロをだすからな。・・・・・・あいつは」

「それでは、あなたはタミヅのストッパーだったんですか?意味無かったみたいですけど」

「・・・・・・そうだな」

アレンの批評に、ジェイクはあっさり肯定する。

「あんたの口からたびたびでてくるあの人って、誰?」

「答えられない」

「答えられないって云うことは、答えたくないってこと?」

「答えられないようにされている。だから、答えられない」

むう。ここらは、さすがにガードがきついか。

「マリルさんを狙う理由は?」

「答えられない」

「何故?」

「答えられないから」

堂々巡りである。

「俺からも良いですか?」

そういったのは、ありえないことにガウリイだった。

「答えられる範囲でならいくらでも」

「あの魔族が『人形』っていってたあいつらは・・・なんなんです?」

「どういうことよ?ガウリイ」

異常事態が連発している。

ガウリイがまともにみえる。

ガウリイが人の話を聞いてる。

ガウリイが真面目に意見している。

エトセトラエトセトラ。

だというのに、あたしは何の迷いも無く説明を促す。

「最初に襲ってきたあいつら、気配が無かったんだ」

「それって、気配をころしてたってこと?」

あたしの問いに、ガウリイはフルフル首を横に振る。

「いや、そうじゃなくてさ。その兄ちゃんと同じみたいなんだ」

いって指差したのは、アレンの隣にたたずむラディの姿だった。

「・・・・・・どういう、意味ですか?」

「だから、お前さんが連れてるその兄ちゃん。たしか、『コピー』っていうんじゃなかったっけか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ・・・・・・と・・・・・・・・・・・・

あたしの思考は低下中・・・・・・っていうか、停止中。

変だ。

ガウリイが、すっごく変だ。

この状況どうなってるんだろう?誰か答えてぷりーず。

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33916Re:蒼の記憶 26すちゃらか侍 2009/1/30 06:32:24
記事番号33913へのコメント

はじめましてすちゃらか侍です。

とても面白かったです。
本編後という事でリナとガウリイがそろって冒険しているのが良いですね。
バトルもしっかりしていて大変楽しませて頂きました。
これからも頑張ってください。

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33923Re:蒼の記憶 26フィーナ 2009/1/31 16:05:36
記事番号33916へのコメント


>はじめましてすちゃらか侍です。
>
はじめましてすちゃらか侍さん。フィーナです。
>とても面白かったです。
>本編後という事でリナとガウリイがそろって冒険しているのが良いですね。
ありがとうございます。この話は、本編終了後のゼフィーリアへ里帰りした後のはなしとなっています。
>バトルもしっかりしていて大変楽しませて頂きました。
>これからも頑張ってください。
感想ありがとうございました!

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33928蒼の記憶 27フィーナ 2009/1/31 23:45:27
記事番号33833へのコメント

コピー・・・コピー・ホムンクルスがその総称だが―――

それはとにかく、コピーとは動物の骨やら魔法薬など、さまざまな材料と人間の血をミックスし、魔道によって造り上げられた人造人間のことである。

血を提供した人間とまったく同じ姿と、瞬発力などの基本的な能力をもっている。

以前ガウリイと出会う前に知り合った、キメラを専門に扱っていた魔道士は、一歩踏み込んだ研究をしており、血ではなく髪の毛一本でコピー・ホムンクルスを造る方法を編み出していた。

なにを考えてたのか、とある女魔道士のコピーを十体も造り上げ、オリジナルとおなじ服を十着も用意して・・・・・・あまりのインパクトの強さに、このあたしが数日間夢にまで出てうなされる始末だったというのは余談である。

それはともかく、このコピーというやつ、能力的には互角なのだがオリジナルの人間の記憶や技術まではコピーできない。

製作者が擬似的な性格や技術などを教え込ませない限り、呪文などは使えないのである。

・・・・・・いやいや!

ラディがコピーだというのは、さして重要な問題ではない。

物騒なこのご時勢。商人や神官など、旅をしている連中からしてみれば、あたしのような魔道士や剣士を護衛として雇うのは至極当然のこと。

たとえ呪文を使えなくても、黒マントはおった魔道士姿をそばに置いておけば、盗賊連中も警戒して襲われる回数もかなり軽減される。

コピーの説明がフルオートでながれたが、ガウリイがなぜコピーのことを覚えているって事実のほうが一番の問題だ!

「ちょ・・・ちょっとガウリイ?
・・・・・・あんたどうしたってのよ、もしかして具合でも悪いの!?」


ひたり


心のそこから心配し、おでこを彼の額にくっつける。

「お・・・おい!?
リナ!大丈夫だからそんなに顔近づけるな!」

何をそんなにあせっているのか、動揺しまくる声を出し、ガウリイはうろたえる。

それにかまわず、今度は手のひらであたしの熱と比べてみる。

「熱は・・・・・・ないわね。
ひょっとして知恵熱かしら。だめよガウリイ。あんた、ただでさえ普段頭使わないのになれないことしちゃ」

「いや・・・・・・そうじゃなくてだな」

ラディはといえば、ジェイクがもっていた剣を片手で弄んでいる。

「なんだったら俺が診ましょうか?一応神官ですし、こういったのは早めに治さないと」

なにやらいいかけるガウリイだが、アレンの一言でその場に突っ伏した。

「勝手に人を病人にするな・・・」

うめくように云うガウリイ。

「ちょうど薬草もありますし、これ位なら簡単な薬を調合できますよ」

「をを!ならお願いできる?」

あたしは取り合わず、アレンはラディに指示を出し、すり鉢の中に複数の薬を調合していく。

「薬代って高い?」

気になっている疑問をぶつける。

「有り合わせで作るものですし、山から採ったものが主ですから相場よりかなり割安料金でご提供します」

「話し分かるじゃない!」

自然と声も弾む。

「あのなあお前ら・・・別に俺は風邪なんて引いてないぞ」

「あんたが真面目に人の話し聞いてるなんて、悪い風邪に決まってるわ!」

きっぱりと断言するあたし。

その隣では、しゃこしゃこ薬草をかき混ぜるアレンと、呆れたようにあたしたちのやりとりを眺めるジェイク。

「普段と違うことをするということは、そんなにいけないことなのか?」

「普段と違うって自覚しているのが、何よりの証拠!」

ああいえばこういう、こういえばああいうガウリイに、じりじりと詰め寄るあたし。

「できましたよ」

会心の笑みを浮かべ、どん!と器を地面に置く。

でろりとした緑の液体に、腰を引いて逃げようとするガウリイ。

「さあ、おもいきってぐい!って飲んでください」

云って差し出されたのは、あたしと取っ組み合いをしているガウリイ―――

ではなく、あたしたちのやりとりを眺めていたジェイクだった。










「え?おれか」

戸惑った様子のジェイクに、にっこりと笑うアレン。

「毒なんて入っていませんよ」

ちなみに、ラディは使い終わった容器を丁寧にかたづけ始めていた。

「ちょっとアレン。別にジェイクのおっちゃんは風邪なんて引いてないわよ」

「嬢ちゃんの言うとおりだ、ぼーず」

「誰も風邪だとは言ってませんよ。だまされたと思って飲んでみてください」

譲る気の無い様子のアレンに、ジェイクは手渡された緑色の物体と彼とを交互に見ていたが、覚悟を決めて一気に飲み干した!

「うごおおおぉぉっ!?」

「隊長!」

「おっちゃん!?」

身もだえし始めたジェイクに、慌てて駆け寄る。

「あんた、いったいなに飲ませたのよ!」

「直に分かります」

微笑を浮かべつつ、ジェイクをみるアレン。

「ぐおおぉぉ・・・・・・おっ?」

身悶えるのをやめ、不思議そうな様子で自分の手をわきわきと握ったり開いたりしていたりする。

「調合・・・そんなに苦くしたつもりじゃなかったんですけどね」

苦笑するアレン。

「身体の調子はどうですか?」

「・・・・・・さっきよりも、断然いい」

「それはよかった。いくら腕のいい剣士だからといっても、こんな厄介な妖剣持ち歩き続けていたら身体にガタがでるのは当たり前です。これに懲りて、その剣を使用するのは自重していただきたいものです」

「・・・・・・努力はする」

不貞腐れたように、そっぽをむくジェイク。

その答えを聞き、アレンは破顔した。










「どういうことか、説明してくれる?」

「なにを・・・って、薬のこと・・・ですか?」

「そうよ」

返され、即答する。

「あなたなら、大体のことは把握されていると思うのですが」

「大体はね。あんたが気力を回復させる薬を作ったってことは。だけど、あんたジェイクのおっちゃんの持っている剣が、精神力を喰らう妖剣だっていつ知ったのよ」

あたしのエルフ並みの聴力は、ガウリイとジェイクの戦いで洩(も)らしたセリフを聞き取れている。

「知ったのは、ラディがジェイクさんの剣に触れたとき。
さきほどガウリイさんが仰ったとおり、気づいていると思いますがラディは俺のコピーです。普通のコピーとは違い、ラディに少し細工を施して俺はラディを媒体にしてマジック・アイテムの状態や、患者さんの身体の容態に合わせた薬を調合したりしているんです」

「そんなことって可能なのか?」

そういったのはガウリイだった。

「まあ、それは―――企業秘密ということで」











アレンは、どこぞの糸目神官を思わせるせりふを言ったのだった。

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33930蒼の記憶 28フィーナ 2009/2/2 23:11:47
記事番号33833へのコメント

それがなんとなくあいつに似てて、むしゃくしゃしたんでついでにアレンを張り倒し、改めてジェイクとむきあうあたし。

「―――コピーについてなんだけど、あの襲撃者たちについてなにか心当たりあるかしら?」

「いきなり真顔になってシリアスしないでくれ。切り替えのテンポについていけん」

げんなりしたようすで、ジェイクは頭を抱えていった。

「ふっ・・・自慢じゃないけど、あたしのまわりじゃ切り替え早くしないと理不尽なヒエラルキーに取り込まれるからね。これくらい当然のことよ」

「それ本気で自慢できんぞ」

「ほっといて」

あたしだって、んなもん自慢したくもないわい!

「あのリナさん・・・なんで俺どつかれたんですか?」

復活したアレンは、頭をさすりながら、少し涙目になって抗議した。

「それは・・・その場の勢いもののついでってやつよ!」

なんとなく進んでトモダチになりたくない知り合いに似てたんで、むしゃくしゃして八つ当たりしました♪

・・・・・・なんていえるわけも無く、適当に言葉を濁す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

しばしの沈黙の後、

「・・・はあ」

アレンは、なんとも間の抜けた返事を返したのだった。
















「あいつらは、ガウリイのぼーずがいったとおりのコピー・ホムンクルスさ。
あの人が何のために作らせたのか知らないが、実験の一環として作られたのは確かだな」

「実験の一環」

顔をしかめるアレン。

「なにをやってるか、具体的にはわかる?」

「いいや。おれは魔道に関しては、からっきしだからな」

「そう・・・ところでアレン。あんたはなんでラディをつくったのよ?」

「・・・・・・え」

突然あたしに話題を振られ、アレンは反応に遅れた。

「アレン?どうしたのよ。ぼんやりしちゃって」

「ああ・・・いえ。ただ少し考え事をしていて」

「考え事?」

アレンは慌てて手を振る。

「別にたいしたことじゃありません」

あたしは何か云おうとしたが、彼の揺れる瞳を見てそれ以上詮索するのをやめた。

「ならいいけど」

「それより、なにか俺に言いませんでしたか?」

「あんた体術も結構つかえるのに、なんでラディつくったのよ。一から教え込ませるような手間隙かける時間があれば、誰か雇えばいいんだから」

闇がおちる中、アレンは微笑した。

「・・・・・・リナさんたちに、ラディを紹介したときに云いましたよね。ラディは俺の補佐だと。
教え込ませる時間があれば、その時間を誰か雇う形にした方がたしかに経済的です。ですが、俺の仕事は人を救うことです。誰か雇ったとしても、それは一時的に俺個人の保身をまもることはあっても、他者を救うことはまずできないでしょう」

「なるほど」

「俺だけの力じゃ、人である以上できることがどうしても限られてきます。
コピーであっても、ラディは俺にとっては家族のような身近な存在で、ただのコピーとは思えません。ラディをつくったのは、彼をつけることにより、不足分を補うことができるんじゃないかとおもったんです」

コピーを労働力の一部としてつかう国もあるが、お世辞にも良いとは言えず、劣悪な環境の中奴隷同然の扱いをうけているともいう。

そのため、一部の同盟国ではコピーの人権を守る会などを設立し、隣国と小競り合いをしているところも少なくないと聞き及んでいる。

「きくが神官ってのは、そんなに忙しいもんなのか?」

そういったのは、のほほんとしたガウリイだった。

「忙しいといえば忙しいですが、それなりに充実していますよ。もしかしてガウリイさん、神官に転職したいんですか?」

「いやっ、そうじゃなくて聞いてみただけだ。俺は頭脳労働は専門外だからな」

からからと、陽気に笑うガウリイ君。

・・・・・・それも、どうかとおもうぞ。

ん?まてよ。

「ねえアレン」

「なんですか?リナさん」

「そんなに忙しくないっていったわりに、あたしたちと出会ったときあんた半分死にそうな顔してたけど、なんかあったの?」

チンピラたちに絡まれていたところを助けた直後、このアレンは道端でダウンしやがったのだ。

「ああ・・・・・・あの時はお世話になりました。
まあ、そうですね。腐れ縁の依頼で、今日中に―――」

いいかけて、アレンの顔が引きつった。











「どうしたんだ?」

ガウリイの問いかけにこたえず、アレンはバッ!と空を仰ぐ。

「もう・・・こんな時間に。速く行ってあいつがベッドにはいって寝る前に報告しとかないと、俺の身が危ない・・・」

打ちひしがれた表情で、意味不明なことを云うアレン。

「それとも、リスクの少ない明日のほうがいいか・・・
そうだ、あいつも鬼じゃないはず。それに、もとはといえば、最初俺に無茶なことを言ったのは他ならぬあいつじゃないか」

よほど動揺しているのか、口調まで変わっていたりする。

「どうしたのよ、あんた顔が真っ青よ」

「な・・・なんでもないです」

「え?でもお前さん腰が引けてるぞ」

「きき・・・気のせいですよ。少なくてもリナさんたちのご迷惑にはなりませんので」

「・・・・・・ならいいけど」

あたしは、なんとなくあたりの景色を見渡す。

とはいっても、夜だからあんまりみえないけど。

月明かりと星々のきらめき、とりたててなにも変わったところは―――

「リナ。あいつらの遺体がなくなってる」

・・・・・・え?

ガウリイのいったセリフを理解するのに、一瞬の間をおいた。

はたしてそこには、先ほどの戦いで転がっていたはずの焼死体が忽然となくなっていた。

その異変にアレンも気づき、警戒を強めた。

「ジェイクさん・・・でしたよね」

「あ?ああ」

切羽詰ったアレンに、思わずうなずくジェイク。

「あなたがいうあの人について、俺は何も聞きません。そのかわり、あなたも俺たちのことについてはあの人にも誰にも、他言無用にしてこの町から離れてください」

「はあ!?なんだってまた」

「都合のいい話だって分かっています。ですが、下手をしたら口封じと称してあなたが殺されかねません」

口封じ。その重い言葉に、ジェイクは息を呑んだ。

「まだ間に合うはずです。知りすぎてしまう前に・・・お願いします」

「なんだかよく飲み込めんが、恩人のあんたが言うんだ。大人しく町を去るよ」

「ありがとうございます!」

直後だった。

ジェイクがアレンを突き飛ばし、

鈍い光が吸い込まれるようにして―――

ジェイクの胸に刺さったのは。

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33932蒼の記憶 29フィーナ 2009/2/4 23:06:43
記事番号33833へのコメント

まるで、そこが夢の一幕にでてくるワンシーンのように、ゆっくりと仰向けに倒れこむジェイク。

月光に照らされて浮かぶ、鮮血の赤。

最初、目に映ったのがそれだった。













「て・・・てめぇ」

「おや、いきてらしたんでしたね。
とっさに身をよじって致命傷になるのを防ぐとは、さすがは『双剣のジェイク』といったところですか」

そこにいたのは、目の部分以外をすっぽりと黒で覆った、やや小太りの男だった。

その男は、身を隠せる場所がほとんど無いにもかかわらず、ジェイクが倒れるまであたしはおろか、ガウリイにさえも気配を感じさせずにいたのだ。

「いくらわたしがある程度自由に動けるからといって、本来の仕事以外のことを命じられるなんてあの方も趣味が悪いとしかいえませんよ。これ以上余計なお仕事を増やさないでいただきたいんですけどね」

やれやれといいたげに、軽く肩をすくめる。

「てめぇが・・・なんで、ここにいる」

大量の汗を流し、くるしげにいうジェイク。

「あなたさまの様子を見て来いと、あの方直々にいわれましてね。
最近わたしは運動不足に陥りがちでして、たまには監視だけでなく、身体を動かしたいので丁度いい機会だと思っていたのですが―――
タミヅさまはあっさり滅ぼされてしまいましたし、あなたさまといえば仲良く談笑しておられるじゃありませんか」

嘆かわしいことです。といいながらも、隙間からのぞかれたその瞳は、愉悦の光をたたえていた。

「しかも、あなたさまときたら、あの方の事は言っていないにしろ、云わなくてもいいことまで喋ってしまわれる始末」

ジェイクは、発作のように激しく胸を掴み、荒い呼吸を繰り返した。

その様子を見て、アレンは弾かれたように仰向けに倒れたジェイクの胸―――ナイフを凝視し、それを引き抜いた!

「・・・・・・っ!」

顔をゆがめるジェイク。

「おや、もう気づかれてしまいましたか」

淡々とした口調で、男は言った。


ぶしゅっ!


大地に鮮血が飛び散る。

「失礼かと思われましたが、あなたさまがそちらに気を取られている間、少々細工をさせていただきました。もう効果が現れ始めているようで、わたしは安心いたしました」

あたしは、我知らず―――きつく手を握り締めていた。

「・・・・・・毒」

『彼女』を失ったときの光景が、今の状況と重なりフラッシュ・バックした。







急ぎ、呪文を唱え始めるアレン。

リザレクション―――

周囲に存在しているものから、少しずつ気を分けてもらい、怪我を治療する呪文である。

この術の利点は、けが人の体力を消耗させてしまうリカバリィと違って、怪我人自身の体力を消耗させずに治せる所だろう。

「タミヅさまにも困ったものです。戦力となる人手や資金も集まり、事を構えようとした矢先に、独断で動いてしまわれて・・・損失ばかりが目立って、愚痴りたくもなりますよ」

やかましい!

「ブラム・ブレイザー!」

あたしが放った青い光の衝撃波は、なおも話そうとした男めがけ、一直線に突き進んだ!

男は、その図体の割りに素早い身のこなしで、それをかわした。

「はずしたか。油断しまくっているところ、狙ってやったんだけどね」

「・・・・・・やれやれ。最近の娘さんというのは、最後まで人の話を聞こうともしないから嫌なんですよ」

「お生憎様あたしは、あんたなんかの長話を聞こうって気にはなれないんで」

アレンとジェイクのいる場所から、二人を巻き込まないように距離をとるあたし。

ガウリイも、ブラスト・ソードを油断無く構え、移動を開始している。

「あの方から今は派手に動くな、といわれておりますので、今日のところはこの辺で退かせていただきます」

「あたしたちが、そう簡単にあんた逃がすと思ってるの?」

「いえいえ、悪名高いリナ=インバースさま相手に逃げおおせるとは思いませんけどね・・・
ただ、逃げるわたしを追いかけているうちに、わたしが手配した者が何かの間違いでお連れの方に危害を加えないという保障はどこにもありませんからね。あなたもお連れの変わり果てた姿は・・・みたくはないでしょう?」

・・・・・・こいつっ!

「そう怖い顔をせずとも、あなた方とはそう遠くないうちにお相手できると思いますので、その時までのお楽しみということで」

そいつは、悠々とこちらに一礼して、踵を返し闇夜に消えた。














ガウリイは、その姿が見えなくなったのを確認すると、急ぎジェイクのもとに駆け寄った。

「隊長!しっかりしてください」

「・・・・・・うるっせ〜な、ぼーず。耳元で喚くな」

ジェイクは迷惑そうに顔をしかめ、しっしっと手で追い払うジェスチャーをした。

「・・・さみぃな。夜だから当然か」

その傍らには、額の汗をぬぐおうともせずに、一心になってリザレクションを唱え続けているアレンがいた。

あたしは、解毒の呪文―――ディクリアリィを唱え始めた。

「ぼーず。このへんに、燃やせるものってあったか?」

確認するように、ガウリイに問うジェイク。

ガウリイは、首を横に振っていった。

「芝生の草ならありますけど・・・・・・大木は、だいぶ遠いところに」

「相変わらずの視力だな。
・・・・・・仕方ねぇ。脱げ、ぼーず」

「隊長・・・・・・悪いけど、俺・・・別にそういう趣味は」

「バカヤロー!なに顔赤らめていうんだ、この天然!」

怒鳴りつけ、途端ぜえはあ息を吐くジェイク。

「どうしようもなくさみぃから、人肌で温めろって意味に決まってるじゃねぇか!」

「ガウリイさん・・・・・・あまりジェイクさんの血圧を上げさせないでください」

呪文を一時中断し、眉間のしわを一本増やして注意するアレン。

「・・・・・・すまん」

素直に謝り、ブレスト・プレートをはずしてジェイクと密着するガウリイ。

気を取り直して、アレンはふたたびリザレクションを唱えた。











どれぐらい、そうしていただろうか。

あたしとアレンの呪文の詠唱が、夜の静寂を静かに流れ、月明かりのおぼつかない光のみが、闇をさらに濃くしていた。

時刻は深夜にさしかかろうとしている。

おもむろに、ジェイクが口を開いた。

「毒が回っている状態で、贅沢いえる状況でもないが、あえていわせてもらう」

「なんですか」

ジェイクは、きっぱりといった。

「おれは、ヤローに抱かれるよりも、女抱きてぇ」

・・・・・・遠い街の明かりは完全に消えていた。








「・・・・・・・・・・・・隊長。それは俺にどういった、リアクションを期待してるんですか?」

心底困り果てているガウリイに、ジェイクは力説する。

「おれは事実を言っただけだ。考えても見ろ!
健全な男子なら、今際の際ならごつごつしたヤローより、どっちかっつーとピチピチの姉ちゃんと一緒にウハウハしてぇじゃねーか!」

「・・・・・・気持ちは同じ男として、痛いほどに良く分かるんですけど」

「だろ!?なのにてめぇはよぉ。
あんなちっちゃかったチビガキが、今じゃこんなにでかくなりやがって」

わしゃわしゃと、乱暴な手つきでガウリイの髪をかき混ぜるジェイク。

「うわ!ちょ・・・隊長!」

「てめぇが女だったら、色々可愛がってやったのによう」

「ちょっ!?隊長!これ以上顔近づけないでください!」

「心配すんな。これ以上は何もしねぇよ」

「・・・・・・隊長?」

真剣な表情になったジェイクに、なにを悟ったのか―――

ガウリイは、彼の口から出てくる言葉を待った。

「ガウリイ」

ジェイクは、今まで彼のことを『ガウリイのぼーず』としかいわなかった。

「・・・・・・はい」











「てめぇは・・・・・・おれのようになるなよ」

「・・・・・・まもります」

なにを、とは言わなかった。

その答えを聞き、ジェイクは―――笑った。

「ほんっと・・・・・・可愛くねぇガキ」



・・・・・・ふぅ・・・・・・



大きな息を吐き、ゆっくりと目を閉じる。















それが、ジェイク・ヴォークという男の―――

最期の言葉だった。

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33934蒼の記憶 30フィーナ 2009/2/8 23:13:37
記事番号33833へのコメント

「・・・・・・ジェイクさん。なんで知り合って間もない俺を庇ったんでしょうか」

ジェイクを丁寧に弔った後、アレンはぽつりとつぶやいた。

「・・・・・・隊長は、たとえ相手が敵だろうと一度受けた恩は返す人だからな。お前さんが気に病む必要は無いんじゃないか?」

そう静かに言ったのはガウリイだった。

町外れから、表通りの街道へと歩いている最中での会話である。

夜の空気は冷たく澄んでおり、昼間のにぎやかな喧騒が無いかのような静けさである。

深夜ということもあり、明かりはほとんどきえている。

「俺は何もしてません」

「なにか薬を作っただろ」

アレンが薬の調合を施した、あのことを言っているんだろう。

「あれはただ、人として神官として当然のことをしただけです」

「そういうことを意識せずにしたんだろ?だから、それが嬉しかったんじゃないか。隊長は恩を返したかったんだ」

「・・・・・・俺は、そんなことをしてもらう資格はありません。ジェイクさんには、俺なんかを庇わず生きていて欲しかった」

「だああぁぁっ!鬱陶しい!
いつまでもイジイジいじけてんじゃないわよ!」


べしっ!


アレンのどたまにチョップをいれてだまらせる。

「あのリナさん・・・・・・痛いです」

「やかましい!いいことアレン。
人は一度死んだら、二度と生き返らないわ!魔族や神様ならいざ知らず、一度生を受けた以上存在する限り、滅びは必ず訪れる。どんなにあがいてもね」

「・・・・・・・・・・・・」

「あんたのいうように、ジェイクはあんたを庇って死んだ。あんたやジェイクの意思がどうであれ、それはかえようのない事実よ。他人の人生に、あたしがとやかくいえる権利はどこにも無い。だけどあたしは、誰かに殺されて死を迎えるなんて嫌よ」

サイラーグでの一件においても、どんな形であれあたしは多くの人々を巻き込んだ。

多くの人に恨まれようとも、『あたし』という人間は、どこまでも生きることに貪欲なのだ。

「あたしは絶対に死にたくない。たとえ相手が誰であろうと、あたしは生き抜いて見せるわ」

「・・・・・・強いですね。貴女の『心』は」

眩しいものを見るかのように目を細め、アレンはつぶやいた。














「ここまででいいですよ」

「え?でもここって、宿屋・・・じゃないわよね」

アレンが足を止めたのは、ある屋敷の前だった。

その屋敷は他の建物と違い、一室だけ明かりがともされていた。

「この時間帯であいつが起きてるとも限りませんけど、依頼された以上早めに向かえばよかったんですよね」

ため息混じりに言うアレン。

夜だからだろうか、アレンがどことなく焦燥している様に見えるのは、あたしの気のせいだろうか?

「あいつって誰だ?」

ガウリイのといに、アレンはこたえた。

「この屋敷の主で、俺の幼少からの腐れ縁・・・・・・オリヴァー・ラーズです」

「オリヴァーさんって・・・・・・」

「なあリナ。そいつってだれだ?」


ずるべしゃ!


ガウリイの発言に、あたしは思わずずっこけた。

「あ・・・あのねぇ、ガウリイ。
オリヴァーさんとは、マリルさんとシーゲル送った後あってるでしょうが!」

「そうだっけ?」

「そうなの!それに、オリヴァー・ラーズっていったら、商品の中でも多くのマジック・アイテム手がけてる商人でそれなりに有名よ!」

かみつくあたしにガウリイは動じず、朗らかに言った。

「はっはっはっ。馬鹿だなーリナ。俺がそんなこと覚えてる訳ないじゃないか〜」

「威張るな〜っ!」

「あの、リナさんとガウリイさん。こんな真夜中に大声出したら近所の方に迷惑なんじゃ」

申し訳なさそうに、控えめにアレンはいったのだった。








「―――それはそうと、なんであんたはここにきたわけ?」

疑問を口にするあたしに、アレンは微笑する。

「・・・・・・先ほどの、宝石―――といえばわかりますか?」

・・・・・・あ!?

「そういうことね」

「そういうことです」

「盛り上がっているところ悪いんだが、どういうことなんだ?」

「つまり・・・よ。ラディが剣に組み込んでいたジュエルズ・アミュレットはここのオリヴァーさんがてがけたマジック・アイテム―――でしょ?」

「その通りです」

それが本当なら、この宝石売り飛ばしたらかなり高値・・・・・・いや、それでなくてもその製法のノウハウを研究解明したなら、あたしの魔道の研究にもいっそう箔(はく)がつくのではないだろうか。

「アレン」

あたしの顔を見て、なぜかアレンの表情が青ざめた。

「な・・・なんですか?」

あたしはにっこりと、がっしりアレンの肩を掴んでいった。

「ちょっと、相談なんだけど―――」





ぎいぃぃぃ




ドアノブはゆっくりと開かれた。

闇の中、アレンは慣れた様子で階段を上っていった。

「それじゃあ、何度も言いますけど何があっても上には来ないでくださいね」

「何度も言わなくても、わかってるって・・・」

なにもそんなに念を押さなくても・・・

「リナさんはとにかく、ガウリイさんはすぐに忘れそうですから」

「・・・・・・それは否定できないわ」

「をい」

抗議の声を上げたガウリイを無視し、アレンは軽くため息をついてから意を決したかのように部屋の一室へと姿を消した。

・・・・・・・・・・・・ややあって、

「ぎゃあぁっ!」だの、「あ、こら!」といったアレンの声と、どったんばったん何かを争うかのような音がしばらく続いた。

そして―――

「やあ、しばらくぶりだね」

ぐったりしているアレンとは対照的に、オリヴァー・ラーズはスキップしそうなほど上機嫌に階段を下りてきた。

「久しぶりです、オリヴァーさん」

とりあえず無難に返事を返すあたし。

「おいあんた。大丈夫か?」

心配そうに肩を貸すガウリイに、アレンは焦燥しまくった顔で―――

「・・・・・・だから、寝起きのこいつには会いたくなかったんだ」

そういって、アレンは気が抜けたかのようにたおれこんだ。

「あ!ちょっとアレン?」

「大丈夫かい?アレン君」

アレンを支えるかのように、オリヴァーさんは抱きとめる。

「・・・・・・疲れた」

「今日中に仕上げてくれなんて、無茶言って悪かった。ゆっくり休んで疲れを取ってくれ」

優しく言うオリヴァーさん。

アレンは目を閉じ、静かに寝息を立て始めた。

「ラディ。きみの主を部屋まで運んでくれ」

傍らにいたラディは、オリヴァーさんのセリフにうなずき、アレンを抱きかかえて部屋に向かった。

「・・・・・・さて、それじゃあ商品も届いたことだし、僕も君を相手に商談に入ろうか」

先ほどの優しい顔とは打って変わり、オリヴァーさんは商人特有の食えない笑みを浮かべてあたしと向き合った。

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33962蒼の記憶 31フィーナ 2009/3/12 23:37:32
記事番号33833へのコメント

あたしたちがとおされた客間の一室には、獣脂によって灯されたオレンジ色の光りがこころもとなくゆれていた。

ソファーに座るように促した後、彼は単刀直入に言った。

「さて、真夜中わざわざきた君の用件はあの宝石についてだね」

『わざわざ』の部分を強調して、オリヴァーさんはにこやかにいった。

にこやかに笑いつつも、微妙にとげのある言い回しである。

深夜にたたき起こされたのが、相当きているようだ。

まあ、あたしも乙女のたしなみでもある盗賊いぢめ以外のときは、美容の大敵である夜更かしはしたくはない。

「ええ、それもありますが」

いってあたしは、意味深に口を閉ざす。

「・・・なにかあったのかい?」

好奇心をくすぐられたのか、オリヴァーさんは身を乗り出した。

「マリルさんたちを護送していたときに、魔族が襲ってきたのはご存知ですよね」

「ああ、マリーから大体の事情は聞いているからね・・・・・・その話が飛び出してきたって言うことは、さしずめ件(くだん)の魔族が現れたってことだろうけど?」

頭の回転が速い人で助かる。

「その魔族はあたしたちがぶち倒したんですけど『それは最優先事項ではなくなった』と、マリルさんを狙うこと以外とは別に何か組織だったことを言ってました」

「ほう?」

片眉をぴくりとはねあげ、どこか面白がっている声を響かせた。

「そのあと色々あって、連中の中に情報を握ってそうなやつをとっちめたんですけど」

「リナがなんか脅したんだよな?」

いったのは、いわずと知れたガウリイであった。

そういうことばっか、覚えてるんじゃない!

「と・・・とにかく、掴んだ情報では連中コピーを生産しているみたいなんですよ」

「コピー?もしかしてコピー・ホムンクルスのことかい?」

難しそうな表情で、口を挟むオリヴァーさん。

「ええ・・・・・・何か心当たりが?」

「心当たりというか、君は知らないのかい?このレイスン・シティはここ最近コピーを使った研究が進んでいることを」

「・・・・・・・・・・・・はい?」

あたしは、思わず間の抜けた声を出していた。














「商業の町っていうのは本当だし、そっちがメインなのも事実だよ。
かくいう僕も、もの売ってなんぼの商人だからね。ああそうすると、広報でコピーのことかいても、イメージ悪いし他からバッシングされるのがオチか」

納得したように、ふむふむうなずくオリヴァーさん。

「考えてみると、僕も旅先から帰ってきて人から聞いて知ったわけだし、人の事言えないな」

はっはっはっ、と、笑うオリヴァーさん。

「あの・・・・・・それじゃ、心当たりって?」

「コピー生産するんなら、妥当なのは魔道士協会だね」

オリヴァーさんは、あっさりとそういった。

「あそこなら、コピーつくる施設もあるだろうし・・・・・・まあ、関係者以外は入れないところももちろんあるんだろうけど。そのへんは、僕より魔道士の君のほうが詳しいだろう?」

ふむ、たしかに彼の言うことは理にかなっている。

「そこで相談なんですが」

「相談?」

あたしの提案に、オリヴァーさんは怪訝そうな顔をした。

「ええ・・・あたしとしては、マリルさんが何か狙われてることが分かっていますし、ここまで深くかかわった以上素通りするのも寝覚めが悪いわけです。かといって、なんの見返りもなくしらべるにしてもなにかと先立つものが必要になりますので、公的援助資金を支援していただけるとこちらとしては助かるわけです」

「そうまわりくどいした言い方しないでも、ようは『事件解決させるから礼金払ってくれ』ってことだね」

「う・・・まあ、ひらたくいえばそういうことですけど」

言ったとたん、なぜか爆笑するオリヴァーさん。

「ふっ・・・くく!
君の事を色々聞いてはいるが、思った以上にいい性格してるね!」

「それ、けなされてるような気がするのはあたしのきのせい?」

なおも笑い続けるオリヴァーさんに、憮然としてつぶやくあたし。

「いや失敬。これでもほめてるんだよ。なるほどなるほど」

何がなるほどなのか分からないが、笑い終わった後「これじゃあお互い苦労するわけだ」とつぶやいたのち、視線をこちらに向けた。

その隣でガウリイは、話について来れなかったのか睡魔に勝てなかったのか、はたまたその両方か、すぴょすぴょ気持ちよさそうに眠りこけていた。

「事件の調査の成功報酬は金貨で五十枚でどうだい?」

悪くない金額である。

「わかりました。その依頼、引き受けましょう」

「ああ、それはよかった。
ところで、君の魔道士としての腕を見込んでなんだが、調査をするついでにちょっとしたアルバイトしてみる気はないかい?」

「アルバイト?」

オウム返しに尋ねるあたしに、オリヴァーさんはうなずく。

「以前君がマリーとシーゲル君を、この町におくってくれたときにもいったと思うんだけど」

・・・・・・あ?

思い当たる節がある。

試作段階のマジック・アイテムであたしは前に一度、実験に手を貸してくれと頼まれたことがある。

興味はあったが、ここまで長居するとは思ってもいなかったのであの時は断ったのだ。

「念のためにいうけど、話を聞いたら、そっちのほうも引き受けてもらうことになるけど・・・・・・いいかい?」

「かまわないわ」

あたしは、二つ返事で引き受ける。













「君が言いたかったことのもうひとつで、多分目をつけてたと思うけどあのマジック・アイテムについて。
あのジュエルズ・アミュレットっていうのは、アレン君の協力で何とか形にできたものなんだ。魔道士協会で製造はしているし、助手もいることはいるんだけど、内部でもそのことを知ってるのは少数しかいないんだ」

部屋の一室に目を向けるオリヴァーさん。

いうまでもなく、そこはアレンがねむっている部屋である。

「実はそのうちの一人が風邪をこじらせちゃったみたいでね。かといって内部ではその研究を盗もうとする輩もいないとも言い切れない。どうしたものかと思っていたからちょうどいいかなって思ったんだよ」

たしかに、調査をする上で協会内部を自由に行き来できるというのは魅力である。

かといって、妥協してしまえばそれまでのこと。

ならば、あたしがやるべきことはただひとつ!













すなわち、依頼料を上乗せさせること!である。

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33970蒼の記憶 32フィーナ 2009/3/19 18:32:23
記事番号33833へのコメント
「君の返事も聞けたし、後はこのことを協会に報告させてもらうよ」

「報告って・・・こんな時間に?」

「こんな時間でも、起きてるやつはいるからね」

苦笑を浮かべ、彼はいつの間にかそこに佇むラディに目をやった。

「ラディ。
レグルス盤は持ってるよね」

静かにうなずくラディ。

レグルス盤とは、通常二枚で一組のセットでマジック・ショップで販売されている、いわずと知れたマジック・アイテムである。

コインを一回り大きくさせたようなもので、簡単な呪文で発動させるともう片方に声が届くという代物だ。

オリヴァーさんは、差し出されたレグルス盤に、発動させる呪文を唱えた。

「・・・クラース。起きてるかい?」

『・・・・・・・・・・・・・・・』

返ってきたのは沈黙。

「相手は眠っているんじゃないですか?」

「寝てるんだったら、起きるように仕向けるだけさ」

あたしの指摘に、オリヴァーさんは意味ありげに笑った。

「クラース。君が本当に寝てるのか、それとも寝た振りしてるのかは知らないが、返事しないと君が隠している秘密を暴露しちゃうよ?」

・・・・・・悪徳商人か?この人。

『・・・・・・・・・・・・・・・』

「たとえば、君の幼少時のあだ名は、クラースじゃなくてクララ―――」

『だあぁぁっ!?やめんか!』

あせった口調で、声の主は続きをさえぎった。

「何だ。もう返事しちゃうなんて、まだまだ修行が足りないね」

『何が修行か!
・・・・・・それで?連絡入れてきたって事は、何とか完成したわけだな?』

「うん。とりあえず・・・だけどね」

言葉を濁し、オリヴァーさんは言葉を切る。

「ねえ、クララ」

『誰がクララか!』

「それとは別に、風邪で休んでいる子の代わりに、ジュエルズ・アミュレットつくるアルバイトの子、欲しくないかい?」

『・・・・・・昨日の今日の話だぞ。
一体どこで仕入れて来るんだ。その情報は、私を含め限られた会員しか知らないはずなんだが』

「商品の管理はそちらに一任しているとはいえ、やっぱり心配だからね。それよりいるかい?」

『・・・・・・・・・・・・・・・』

相手の顔は見えないが、おそらくは苦虫を噛み潰したような顔をしているのだろう。

「やっぱり僕は、商人であって魔道士じゃないからね。協会からの依頼は、遅かれ回っていたはずだし。それと、仲介料も時間が空いたらでいいから手回しよろしく」

なるほど、そうきたか。

・・・・・・つまり、である。

このオリヴァーさん、あたしが『依頼料の上乗せ』を狙っていたことを見越して、おそらくは魔道士協会の関係者―――しかも、かなり上の人間―――に連絡を入れ、協会からの正式な依頼として聞いていたあたしに紹介したのだ。

しかも、自分が得をするように、仲介料も協会に要請するあたりが、なかなかどうして―――

同じ商売人として、なんともいえず立派である。

『・・・・・・評議長には、私のほうから進言しておく』

あたしが密かに舌を巻いているうちに、相手はあきらめたような口調で言った。

「それじゃあ、詳しいことは予定通り―――昼過ぎにいつもの場所で」

『ああ。
・・・・・・もっとも、寝起き最悪な貴様が、約束の時間にいたためしがないがな』

「そこはそれだよ。僕に限らず、君もやることがあるんだから細かいことは気にしちゃだめさ」

『細かくはないだろう・・・・・・まあいい』

言っても無駄だと思ったのか、相手は軽くため息をついた。

「じゃあ、また明日。愛してるよク・ラ・ラ」

『貴様のドス黒い愛なんぞ、こっちから願い下げだわっ!!』

そう一喝して、相手からの通話は途切れたのだった。




















あけて翌日のことである。

宿屋の食堂で、簡単な朝ごはんを平らげてからのこと。

「そんじゃ、あたしはこれから協会のほうに顔出しておくから」

「なんでだ?」

・・・・・・をいをい。

「なんでって、昨日協会からの依頼引き受けたって、さっきもいったでしょうが!」

ガウリイは、小首をかしげる。

「・・・・・・そうだっけ?」

こ・・・・・・こいつ、最近ボケる頻度が多くなってきてないか?

「そうなの!
・・・・・・そういうわけだから、帰りは少し遅くなるからね」

くいっ!と、オレンジ・ジュースを飲み干して、あたしは立ち上がった。



















魔道士協会で、受付の姉ちゃんから待つように言われてしばし―――

「―――君が、リナ=インバースか?」

聞き覚えのある声に呼ばれ振り向くと、一人の男がそこにいた。

年は二十代の後半といったところか。

ウェーブのかかった黒髪に、野性味あふれる鋭い目つき。

緑のデイグリー・ローブには、要所要所にジュエルズ・アミュレットが控えめにはめこまれている。

「そうですけど」

「遅くなってすまなかった。
評議長を探していたんだが、見つからなくてな。私は、レイスン・シティ副評議長のクラース・クルーストだ」

彼は、小さくため息をついた。

「・・・・・・まったく。評議長はどこにおられるのか」

「たしか内容は、ジュエルズ・アミュレットの生成ですよね?」

「ああそうだ。場所は一室を貸しきって行っている」

「込み入ってるようなので、場所を教えてくれれば向かいますけど」

あたしの提案に、クラース副評議長はかぶりをふる。

「いや。あそこは、たどり着くまで少々時間がかかる。誰かに案内させたほうが早い
あ、おい―――そこの君」

彼は、目の前を横切った魔道士に声をかけた。

ブラウンの髪をまとめた魔道士は、こちらを振り向き―――って・・・・・・

「なんですか?」

真面目そうな顔立ちのその青年は、クラース副評議長によって視界がさえぎられており、こちらにはまだ気がついていない。

「ああ、君か。
・・・・・・いや大したことじゃない。彼女を、アミュレットの制作室まで案内してくれないか?」

「・・・・・・彼女?」

怪訝そうな顔で眉をひそめ、こちらを振り向き―――

「―――げ!?」

うめいて硬直する。

「君なら、寄り道はしないだろうから大丈夫だろうけど。
それと、評議長をみかけたら私が探していたことを伝えておいてくれ。昼過ぎには、打ち合わせで席を外さなければならないからその旨も頼む」

「けど、俺は」

「シーゲル。研究熱心なのはいいことだけど、他のこともおろそかにはしてはいけないよ。
―――では、私はこれで失礼する」

よほど急いでいたのか、彼はシーゲルの返事も待たずに踵を返した。




















「・・・・・・なんで、あんたがいるんだよ」

制作室へと、案内されている途中での会話である。

渋々といったかんじで、彼―――シーゲル・クラウンは切り出した。

「そんなの、協会からの依頼に決まっているでしょうが!」

「あんたにかかわると、ロクなめにあわないのは学習済みだ。
・・・・・・それと案内終わったら、研究あるから早めに放してくれよな」

「それ全部研究資料?」

あたしが目でさしたその先には、右手で抱えきれないほどの資料があった。

「ああ。閲覧できるやつでも、限りがあるからな。
とりあえず、研究のめども立ったし、スポンサーも期待してくれてるからな」

「どういう分野の研究よ」

「完成するまで言うわけないだろ」

憮然とするシーゲル。

・・・・・・予想通りの反応するやつ。

「スポンサーって・・・・・・やっぱり、オリヴァーさん?」

「オリヴァーなんかより、もっとすごい人さ」

「へえ・・・・・・それじゃ、そのスポンサーって誰よ?」

興味半分で言うあたしに気を良くしたのか、シーゲルは得意げに言った。

「まだ未熟なマクベス公にかわって、高官たちを束ね政治にも携わっているサリュート大臣さ」

「政治にも携わっているって事は、発言権も大きいんでしょ?」

「もちろんそうだけど、人脈も広く人望も厚いのに控えめな方だよ。
次期領主の呼び名も高かったのに、大臣に甘んじて領主であるマクベス公のサポートを進んで引き受けている―――オリヴァーと違ってできた人だよ」

「・・・・・・前から気になってたけど、あんたとオリヴァーさん・・・仲悪いの?」

かねてから疑問に思い、気になっていたことをきいてみる。

「なんであんたが、そんな事を気にするんだ」

「いやなんでって、あんたとマリルさん送ってきたときもなんか揉めてたし」

「あれは、マリーの意思を無視したマクベス公と、婚約の事を言ったオリヴァーに腹が立ったからだ」

「あんた、それ過保護じゃないの」

いささか、むっとした様子でシーゲルは反論した。

「なにが過保護なんだよ。俺はただ、マリーの幸せをおもって―――」

「そういうところが、過保護って言うのよ。
マリルさんだって妙齢の女性なんだから、自分の人生ぐらい自分で決めたいはずよ。なのにあんたが横から口出しなんかしたら、折角決心したことが決めるに決めれないじゃないの」

「あんたと一緒にするな!
マリーは、あんたなんかとは違う」

「あたしなんかとはなによ!」

あたしたちの会話を聞いていた他の魔道士たちは、ぎすぎすした空気に耐えられなくなったのか、気まずい様子で離れていった。



















険悪な空気のまま、あたしとシーゲルのふたりはある一室にたどり着いた。

「・・・・・・ここが制作室だ」

「そう」

そっけなく言うあたしに、彼はふんっと鼻を鳴らす。

「あんたとアレン、似てないわね」

「似てたまるか」

そういって、シーゲルはその場所から離れていった。



















一連の作業が終了し、終了を告げる声が響いた。

あたしは、目の前にできたばかりのジュエルズ・アミュレットにめをやった。

燦然(さんぜん)と輝く宝石は、形を成した光のようだ。

「どう?うまくできた?」

上出来の様子に一人悦に入っていると、一人の女の子が声をかけてきた。

女の子というより、少女といったほうがいいだろう。

淡いブロンドのなかなかの美少女なのだが、黒いゆったりというよりだぼだぼの魔道士姿が魅力を半減させてしまっている。

彼女―――エミリアは、出来立てのジュエルズ・アミュレットにめをむけて、感嘆のため息を漏らした。

「すっごーいリナさん!どうやったら、そんなにうまくできるの?」

「別にすごくないわ。ただ、少し慣れてるだけ」

ぴょんぴょんと、ウサギよろしくはねる彼女にあたしは苦笑する。

「慣れでもすごいわよ!こんなに綺麗にできるんだもん」

左手にとってかざし、光を宝石を差し込ませたりしてうっとりしているエミリア。

「わたしも、こういうふうにできたらなー」

「好きな人に『わたしの熱い想いを受け取ってー』って、いいたいんだよねエミリアは」

一人が入れた茶々に、エミリアは顔を真っ赤にさせた。

「んもう・・・茶化さないでよー」

「あんたがそんな可愛い事いうからよー。あんたが魔道士目指したのも、半分彼が目当てなんでしょう?」

「そ、そんなことないわよー。
あの人真面目だし、誠実だから追いつきたいなって思ってるだけで」

あはははは!と、和やかな笑い声が制作室に響いた。

「と、ところでリナさんは好きな人いないの?」

「・・・・・・へ?」

突然話題を振られ、蚊帳(かや)の外だったあたしは一瞬反応が遅れた。

「あ?ごめんなさい!わたしったら・・・・・・リナさんにはいいひとがいるってわかっているのに変な事聞いて」

いやいや!誰がいいひとだ?

突っ込みたいのは山々なのに、ガールズ・トークの勢いは止まらない。

それからは、どとーの如く金髪の剣士がどうたら、シーゲルじゃないの?とかどうたら、ええーでもそうするとなんやら・・・・・・あたしが口を挟む余裕もないくらいヒートアップしていった。

「そ・・・・・・そんな!?じゃあリナさんは、わたしのライバルになるんですね!?」

エミリアは、涙を浮かべてそういった。

「え?まあ、魔道士としてなら、そうかも―――」

「でもわたし負けません!」

みなまでいうよりはやく、エミリアはいった。

「いくらリナさんが相手でも、わたしのほうがシーゲルのことが好きなんだもん!」

ぱちぱちぱち!と、巻き起こる拍手。

こらまて!

「ちょっと!誰が誰をすきだって!?」

「だってリナさん。ここへくるまでシーゲルと仲良さげに歩いてたって!」

「あれは口論してただけよ!」

あたしはきっぱりという。

冗談じゃない。

本音としては、これ以上妙なことに巻き込まれたくない!





・・・・・・あたしの願いもむなしく、この妙な騒動にあたしたちはきっちり巻き込まれることになるのだった。