◆−38.厄日−星野流 (2008/8/30 23:24:07) No.33669


トップに戻る
3366938.厄日星野流 URL2008/8/30 23:24:07


38.厄日

 かなり急な話なんだが、今、私は……クリアやランツ、ナーガと別れ、Sさんとゼロスと一緒にいる。

何故かって?

L様に「行きなさい」と命令されたからだ。

ああ……

〈G〉「さらば、常識!」

〈S〉「……何なんですか、急に」

〈ゼ〉「そうですよ。僕たちが非常識人みたいじゃないですか」

〈G〉「魔族が肉体持ってる時点で非常識だ」

そう、彼ら二人は肉体となって旅に出たのだ。まあ、初対面のアタックのようにかなりの弱体化はしていないのでよしとしよう。

〈G〉「大体、何でL様がお前の事を指名するんだ」

〈ゼ〉「サイラーグで冥王様が喧嘩をふっかけたのですが、こっそり見ていた僕にまで白羽の矢が飛んできました」

〈G〉「また、かなり要約したのな」

〈ゼ〉「分かってもらえてうれしいです」

〈S〉「まあ、L様のご機嫌が治るまでは騒動を起こすなり、巻き込まれるなりしなければなりません。がんばりましょう」

〈G〉「……平穏な生活がしたい」

無茶言うなよ、という視線が返ってきた。いや、こいつらの場合はそんな無茶なこと言わないでくださいよ。か?


 ともあれ、初日の昼食の席、早くも騒動に巻き込まれた。

何が何だか分からない。テーブルは見事にひっくりかえり、料理は一面に散乱。椅子から転がり落ちた私は見知らぬ男に髪を踏んづけられて起き上がれない。

あ、向こうで二人が無関係を装って――まあ、本当に無関係だが――自分が確保した料理を食べている。

見知らぬ男は私に気付かず、のうのうと口上を述べている。

〈G〉「いつまでも踏んづけるな! 魔風!(デイム・ウィン)」

怒りで力が制御できていなかったのだろうか……? 私は店中の物という物を吹き散らかした。


 多額の負債を弁償し、次の町へと向かう。一日に二つの町を回るというノルマがあるのだ。

〈S〉「それにしても……」

〈ゼ〉「臭いますねぇ」

そう、先程の魔風によって、私はコーン・スープを頭から被り(他の人だったら火傷ものだ。ある意味良かった)、Sさんは醤油が服にかかってしまったのかほんのりとただよわせ、ゼロスは胡麻ラー油の臭いがしている。

すごく臭う。

あまりの異臭につっかかってきた盗賊が遠巻きにして去っていったほどだ。

もっとも、彼ら二人によってメッタメタにのされてこの異臭を嗅がされていた。

ごめん! 本当にごめん! 二人とも!


 そして、2時ごろだろうか。私達は近道と称して草むらをかきわけ、次の町へと直線状に進む。が、皆さんは『急がば回れ』ということわざをお知りだろうか。

そう、私達は近道をしたがために足止めをされたのだ。それは……

全員が鉄のワナに足を捕らわれたのだ。

全員つっぷす。中でも私は右足を取られて倒れこんだ拍子に右手まで捕まり、起き上がろうと左手をつくと左手まで捕らわれてしまったのだ。

……体に噛み付いている鉄のワナがひしゃげている。もしかしてひっぱったら取れるのか? だとしても、ものすごくやるせない。

〈S〉「ガードさん」

〈G〉「ん?」

〈S〉「今からワナを消滅させますんで、わたしたちのワナを外してください」

と、急に呪文を唱え始める。

〈G〉「ちょっと待っ

〈S〉「火炎球!(ファイアー・ボール)」

私は炎に巻き込まれ、熱気とそれによってワナが溶けるのを感じた。

 二人のワナを解除し、私は裸足で町へと辿り着いた。何故なら、服は燃えないから裸になる、という最悪の状態は免れたが、靴だけは燃え尽きてしまったのだ。

……今度からは靴も燃えないようにしよう。

〈S〉「とりあえず、宿をとってお風呂に入りましょう」

町の人から遠巻きにされる中、Sさんが話す。

〈ゼ〉「そうですね。その前に、ちゃんとした対応をとってくれるかどうかが問題ですが」

二人揃って溜息を吐く。本当にごめん! 二人とも!

私達は宿をとり、荷物を部屋に置いて風呂場へと行く。ああ、やっとこの臭いから解放される。これで、二人の遠回りな嫌味からも解放されるだろうか……?

「キャーーーー!」

そんな思いは脱衣所に入ったところで遮られた。


 今だけは父親に似た自分を呪いたい。

今、私は脱衣所に侵入した痴漢として正座をさせられ、店中の人からおしかりを受けている。

何故、こんなことになるのだろう……?

それに、怒り猛る女性陣に気圧されて、恐怖により『自分は女である』ということさえ言えない自分がとても不甲斐ない。

正座をして、恐怖で体を震わしながらおしかりを受ける私を遠めに眺めている二人がいる。

眺めてないで助けて! と、言いたい所だが、昼間の失態を考えるとそんな事は口には出せなかった。

 店の人が寝静まる頃、私はこっそりと足音を忍ばせて風呂に入り、思った。

今日は……厄日だ。


―登場人物―

   ガード=ワード
L様の命により、面白いことに首をつっこむことになった。

   S
北の魔王。

   ゼロス
獣神官。