◆−永遠と想い出(ガウリナ+ゼロス)−煮染(にしめ) (2008/8/23 02:17:32) No.33655
 ┗Re:永遠と想い出(ガウリナ+ゼロス)−d (2008/8/27 19:54:44) No.33660
  ┗Re:永遠と想い出(ガウリナ+ゼロス)−煮染 (2008/8/30 01:22:17) No.33666


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33655永遠と想い出(ガウリナ+ゼロス)煮染(にしめ) URL2008/8/23 02:17:32


はじめまして。
アニメ第五期(レボリューション)でスレイヤーズ熱が再燃し、
一本SSを書いたのですが、自サイトが別ジャンルのため
こちらに投稿したく思いました。

原作からン何年後の設定で、CPはガウリナです(読みようによってはゼロリナかも)。
けど、ガウリイは全く出ません。出るのはゼロスを筆頭にした魔族たちです。

ふと思いついたネタを形にしたら、甘さもギャグもない、
捏造オンリーのうじうじした話になりました。

暗い話を書きたかったわけではないんですが……大分暗い話だと思います。

あと、残酷な場面はありませんが、所謂『死にネタ』です。
苦手な方はご注意ください。

以下****内が本文です。



***************************************************

『永遠と思い出』

 平穏で満たされた日々の中、その声が聞こえたのは一度きり。
 彼が、中年もしくは壮年と呼ばれる、老年には届かない年齢で唐突に亡くなったときのことだ。
 娘と息子、それに姉の力を借りて行われた葬儀は恙無く騒々しく、けれど――それは葬儀というものは必ずそう言うものなのかもしれないけれど――紛れもない寂しさとともに、終了した。昔旅をしたお姫様からは黙祷の手紙が届き、同じく旅をした青年は彼が荼毘に伏せられた次の日に直接私のもとを訪れた。かつて合成獣だった青年は、旅の目的を果たし普通の人間になっていた。
「旦那に、この姿で会えなくて残念だ」
 彼はそう言って寂しそうに笑った。その通りだな、と私は思った。

 ゆっくりと思い出す。
 当時は、全てがあっという間に終わった気がしていた。

 他人前で泣くというのが出来ない少女だった私は、そのまま女になり、母になった。葬儀の日も、他人前では泣くことが出来ず、子供たちが気を利かせて私を一人にしてくれた。全てが終わって、一人で黙祷するとき、手を合わせながら私は泣いた。泣きながら、明日から何を供えようか考えた。
 その時、声が初めて聞こえたのだった。

 私はその声を、気のせいと思いこむことで黙殺した。煩わしいとも思った。確かに私は大切な一人を失ったが、当時も今も、大切な一人は一人だけではなかった。たった一人のために、他の大切な一人を犠牲にする気は私にはなかった。人の心に出来た一瞬の隙。それを突いて囁いてきたのだから、これは本当に意地が悪いと思う。

 それから時が経ち、私は何故か自分の子どもより、その嫁や婿より、その子ども――自分の孫たちより、長く生きのびていた。私よりよっぽど平穏無事な生活を選んだ彼らは、何故かことごとく私より早い死を迎えた。当然、姉も大分昔に亡くなっていた。彼女は最期まで、私の最大の恐怖であり、最も敬愛する相手だった。

 おそらくは、彼女でも、気付いていなかったと思う。

 親類を全て亡くした頃、私の身近には既に親しい友人もいなかった。それでも、特別年老いていたわけではなかったから、小さな街で一人暮らしを始めた私は、周囲からごく普通の一人暮らしの老女と思われていた。そしてそれは事実だった。私の伝説は数十年の間に私を離れて一人歩きを始め、私も昔の冒険を今ほど鮮明には思い出さなかった。魔導からも伝説からも離れた私は、どこにでもいる、ありふれた、一人の老女だった。そしてゆっくりと最期へ向かっていた。

 声はなかった。
 けれど、彼が来る予感はあった。

 その時私は、一人暮らす家で誤って転倒してしまっていた。打ち所が悪かったらしく、頭がじんじんと痺れて身体が動かなかった。古びた天井を眺めて、ああ。と思った。
(――これで、終わりか。)
 天井が急に大きく見え、死ぬのだという確信だけがあった。
 そこに、彼が現れた。
「お久しぶりです、リナさん」
 一瞬空間が歪んだと思うと、昔と変わらない姿が目の前にあった。
 黒い法衣におかっぱ頭。一本の錫杖。信用ならない笑顔。
 人の身体の上にプカプカと浮かんで彼は変わらぬ笑みを見せていた。
 種族上当たり前だが、彼は歳を取らない。故に姿も変わらない。
 分かりきったことではあるけれど、胸の奥から無性に懐かしさがこみ上げてくるのは押さえようがなかった。
 私は微笑んだ。
 声は出せなかったから、微笑んだだけだった。

「大分お変わりになられましたね」
(人間だもの。当然よ)
「ええ。そうでしょうね」
 彼――獣神官ゼロスは、その強大な力も変わっていないらしく、声の代わりに、私の思念波を拾って答えた。人間の死に際の思念は小さい上に雑音が多い。さぞかし聞き取りづらい念波だったと思うが、彼は器用に全て聞き取ってくれた。
(久しぶり。元気だった? 何十年ぶりかしら)
「元気という形容が適当かは分かりませんが、この通りです。ちょうど74年ぶりだと思いますね」
(そんなに経ったんだ……)
「ええ、そんなになります。といっても、僕たちには大した年数ではないですが」
(ひたってるんだから、そういう言い方はやめて)
「すみません」
 空中に浮かんだまま、彼は頭を下げた。それからすうっと倒れる私のそばに立った。彼の目は珍しく開いていた。
(――それで、)
 予想はついたが、私は敢えて訊ねた。
(今日は、何しにきたの?)
「貴女を迎えに来ました」
 彼は間髪を入れず答えると、私の真横に跪いた。
 深い紫色をした瞳と目があう。そこから私は強い敬愛の念を感じた。
 同時に、これから彼の常套句が聞けなくなる予感がして、少し寂しかった。
「リナさん――いえ、リナ・シャブラニグドゥ様」


 声がしたのは一度きり。
 彼が亡くなった時、その一度きり。

『(全てを壊したくないか?)』

 ノーと答えてから、二度と現れなかった。

(どうして分かったの?)
 けれど私は分かっていた。これは決して気のせいではなく、私の内には、私を変える何かが潜んでいるということ。
「人間の精神力(こころ)は、個人差はあれ歳と共に衰えます。特にリナさん、貴女はこの十数年、心労が多かった。だから貴女の中の封印が弱まり、僕たち魔族には察しできるようになったんです」
 特に心労が多いと感じたことはなかったが、親類が皆亡くなったというのが無意識に私の内に貯まっていたということだろうか。そう思うと、ゼロスは無言で頷いた。どうやらそういうことらしい。いつか会った黄金竜の長老は、大した予言者だったようだ。
「貴女も、ご自身の声を聞いたことがあるのではないですか?」
(ええ、あるわ。たった一度だけれど。)
「ならお選びください。一つになるか、ならざるかを」
 私はゼロスを見た。彼の瞳からは、強い畏敬の念以外は感じられなかった。
(一つ訊いていい?)
「はい」
(どうしてわざわざ訊くの?)
 封印が分かるほど私の精神力(こころ)が弱くなったというのなら、力ずくで封印を解くことも出来るのではないだろうか。これの封印の仕組みなんて全く分からないけど、そんな気がする。
 ゼロスが答えるまでにほんの一瞬間があった。
「……当初、ここには海王神官と将軍が来る予定でした」
(私がまだ会ったことのない魔族ね)
「そうです。彼らは貴女の魂を無理矢理操って魔王様を覚醒させるつもりでした。僕もそのつもりはあります」
(……じゃあどっちにしろ私は覚醒するのね?)
「けど、僕はその前に貴女の選択が知りたくなったんです」
 私の問いに答えず、ゼロスは笑う。
 私はこの時、彼が私に何を望んでいるのか、分かった気がした。そうしてそれは、多分、私自身が望むことと同じだった。
(……それはね)
「それは?」


(魔王になっても、私は私よ)


 私は、声に呼びかけた。



 もしかしたら、それに飲み込まれて全てを滅ぼしてしまうのかもしれない。
 その可能性は十分に知っていたけど、私は不思議と怖くなかった。変わりたくないと思えば、変わらないですむだろうと思っていた。何故なら、私はかつてこの地で自分の力で死んでいった魔王のことを知っていたから。
 他人の力で覚醒させたら私は確実に私でなくなる。
 けれど、自分から受け入れたら私は私のままでいられるかもしれない――私は、賭けた。

 それは本当なら、魔族の彼には面白くない選択のはずだ。
 けれど彼は私がそう選択するのを、何故か黙って見ていた。数日後、彼らの王になってから彼にその理由を聞くと、彼は答えた。
「それはヒミツです。」
 魔王となった私は、彼を問いただすことは勿論、咎めることも出来た。けれど、彼の常套句がまた聞けたことが嬉しかったので、私は彼を咎めることはしなかった。私が何を嬉しいと思うのか判断して私と会話できるのは、彼がかつて私と共に旅をした『仲間』だからなのだろう。彼は『仲間』とは思っていなかったのかもしれないが、そして私も当時は思っていなかったかもしれないが、今の私は彼を仲間と感じている。実際、同類になった以上、私は彼の仲間なのだ。

 自分の内側にあった魔王・シャブラニグドゥを解放した私は、リナ・シャブラニグドゥということになった。
 けれど私は、何も変わっていなかった。
 滅びを願うことも、殺戮や破壊を楽しむこともなかった。むしろ後者は、貴女は人間だった頃の方が破壊を楽しめていたのではないですか? ――そう、部下たちに囁かれるほど、魔王となった私の生活は穏やかだった。魔王になって私が得た知識、得た力は、人間だったころとは比べ物にならないほど膨大で、素晴らしく、私は最初はそれを把握することに熱中した。私ほどの力を持つと、人の世界を傷つけず自分の力を知ることはなかなか難しく、全て知るころにはまたも数十年が過ぎていた。けれどそうやって力を把握した後、私は自分が決して自分を失わないことを知った。歳月を経るほど私の記憶は鮮明になり、私は私であることを望み続けたのだった。

 自分の力を試すのにも飽きたころ、私はゼロスを最も身近な部下として傍に招いた。本来彼は獣王ゼラス・メタオリムのものだったから、彼女から彼を奪ったことになる。少しすまなく思ったが、これは彼にしか出来ないことだったから、譲ることは出来なかった。

 私は側に来た彼に、思い出話を望んだ。かつて共にいた人々の子どもたちをまわり、諸国を流浪し、今まだ生きている者たちと交流を持てと命じた。彼は私の命令によく従い、一つの国の終わりを、一つの一族の終わりを、二匹の竜の死を、見届けた。私が何を喜び、何を楽しむかを知っている彼が仕入れてくる思い出話は、何度聞いても飽きることがなかった。
 また、私が命じたわけではない、彼だけの思い出話――私が生まれる以前のことや、共に旅をしていたとき、私が知らなかったこと――は、何故か尽きることなく彼の口から湧き出てきた。
 彼の口から語られる私の夫や、友人たちは私が知る彼らとは別人のようだった。同じ人間の話でも、語る存在が違うだけでこうも変わるのかと言う感嘆を、私は数百年、飽きることなく持ち続けた。またそうした思い出語りには、時々ゼラスやダルフィン、復活させたグラウシェラーなども加えた。彼らにはゼロスのような上質な語りを求めることは出来なかったが、それもまた一興だった。話していると、彼らもまた私に強い敬愛を抱いていることが分かり、それは無いはずの私の心を満たした。

 人間、魔族、神族、全ての営みを見渡しながら、私はどうしてこうも想い出が尽きないのか、不思議だと呟いたことがある。呟きを聞きとめたゼロスは言った。

「それは貴女が永遠だからです。」

 ああ。そういえばそうだった。

 膨大な力を持つ私は、魔族たちに慕われ、けれど滅びを願わなかったので、生きるものから敵対視されることがなかった。人間、神、魔族――全ての営みを愛し、その膨大な力を、逆に何者にも干渉しないことに注ぎ込んだ私は、既に世界のありようから外れた存在だった。私にとって時間は意味のないものとなり、だからこそ私はそれがもたらす変化だけを愛するようになっていた。そしてそれは、私と共にあるゼロスも同じだった。

「今度はここに行かない?」
 私は、久々にゼロスが仕入れてきた地図を指差した。海の真ん中にある小さな島。その国はとても小さいが、新技術に非常に優れていて、空の彼方へ自在に行く術を考案しているそうだ。
 別に空の彼方へ行きたいとは思わないが、そうした新たな文明を手にする人間たちの熱狂には興味がある。人間の姿を借りて、人と共に暮らせばそれを楽しむのはたやすい。遊び飽きたら、いつでも姿はくらませる。この数千年、そうして繰り返して生きてきた。
「いいですね。久しぶりにシェ―ラさんも連れて行きませんか? 僕たちが兄妹で、リナさんはその母親で。どうでしょう?」
「いいわね、それ。」
 ゼロスは逆らわない。私が誘うたびに――決して逆らえないのだから当然なのだが――承諾し、時々新たな提案を加える。今回は大分前にグラウシェラーが蘇らせた部下の名前を出した。悪くない、と考えて私は彼女を呼び出す。
 彼女は別の仕事があったらしく、一瞬不快そうな顔をしたが、すぐに罰則なしで仕事を休めるのだと気付いて、笑顔に変わった。人の世に混じるための家族と言う集合体は、尽きることのないパターンがあって、私とゼロスは人の世に混じるたびにそれを新しくする。
 ただ、髪の色は変えない。私が赤で、ゼロスが金色。これだけはいつ人の世に混じっても、同じにしている。

 私たちの変化に合わせ、関わる人々が変わるのは何度繰り返しても飽きない。大きく見たら、私がしていることは同じはずなのに、全くもって、飽きないのだ。
 繰り返し続ける日々。増え続ける思い出の数。
 懐かしさを寂しいと感じることもなくなり、私はただ、今を繰り返し、時折、祈る。

 ――この日々に、どうか終わりが訪れないことを。

***************************************************


……以上です。

ここまで付き合ってくださった方がいましたら、
どうもありがとうございました!



どうでもいいですが、タイトルを読む際舌を噛むと『延々と思い出』になります(爆)。

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33660Re:永遠と想い出(ガウリナ+ゼロス)d 2008/8/27 19:54:44
記事番号33655へのコメント

良いですね〜このお話。落ち着いた独特の雰囲気が好きです。
自分はリナ=シャブラニグドゥ説に激しく賛成なのでこういう設定は大好物です。たまりません。
また一味違った物語、とっても面白かったです^^

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33666Re:永遠と想い出(ガウリナ+ゼロス)煮染 URL2008/8/30 01:22:17
記事番号33660へのコメント

はじめまして。※ありがとうございますー。
リナ・シャブラニグドゥ説は自分も大好きです。
あんなに伝説を極めたリナでも、時間が経てばいつか穏やかに過ごすようになるんじゃないかなあ……、なんて思ってこの話が出来ました。
二次なのに主要キャラが皆無なので雰囲気が違うのは当然かもしれません(滝汗)。
次はもうちょい原作を意識した話を投稿できたらと思っています。また目を通していただけたら嬉しいです。