-ロスユニ小説『凶犬轟く』-板野ずら子(7/8-00:37)No.3294
 ┗Re:ロスユニ小説『凶犬轟く』-松原ぼたん(7/8-14:36)No.3303
  ┗松原ぼたんさんありがとうございます-板野ずら子(7/12-00:35)No.3366


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3294ロスユニ小説『凶犬轟く』板野ずら子 E-mail 7/8-00:37

初めてのロスユニ小説、いきます。

凶犬轟く

「あなたがたにユドラ製薬バイオ研究所に忍び込んで、あるものを取ってきて
いただきたいのです」
「俺達に泥棒やれってことですか」
ケインがスクリーンの男に向かって怒ったように言う。気の弱そうな男は慌てた
口調で
「そうではありません。つまりその会社は私の会社なのですが、中に入れなく
なってしまいまして」
「はぁ?」
「セキュリティコンピューターが暴走しまして。入ろうとした社員が警備ロボット
に襲撃され1人死亡、5人が重傷です」
「JCN26型。中古もいいとこね」
横でキャナルがつぶやく。
「現在研究所は閉鎖状態。研究は別の場所で行われていますが、欲しいのは研究所
に保管されている新薬のディスクです。明日中にこのデータが手に入らないと
我が社は破産です。どうかディスクを研究所から手に入れてデータを送ってくだ
さい。最悪の場合、コンピューターの破壊はやむをえないでしょう」
「わかりました。引き受けましょう。研究所の詳細なデータを送ってください」

「コンピューターのハック自体はたやすいわ。警備ロボットもコンピュータを
のっとれば停止するし、部屋のロックもすぐはずせるわ。でも内部のロボット犬
が問題ね」
ディスプレイに赤い目のロボット犬の像が浮かび上がる。
「普段は休眠状態だけど、あるレベル以上の音声に反応して休眠からさめ、侵入者
を襲う仕掛けね」
「そいつらは乗っ取れないの」
「各々に独自のコンピューターが組み込まれていて、メインからの指示を受けてる
わけじゃないのよ。まあ、資料も少ないし。ハッキング後、詳しく調べてみる
けど」
「あまり時間がない。惑星デスラに着陸するぞ。調査は平行して行なってくれ」

3人は研究所の前に立っていた。警備ロボットは玄関口でひっくり返っている。
「ここからは静かに行動してね。ひそひそ声くらいなら大丈夫だけど、どこに何匹
配置されているか、掴めなかったから」
「ちょっとおぉ。大丈夫なのお」
「まあ、ケインがサイブレードで壁を切り裂くとか、ミリィが銃を撃つとかしな
けりゃ大丈夫でしょ」
「あのなあっ!俺がそんなに無茶」
「しいいいいいいいいっ!」

キャナルが次々と扉のロックをはずしていき、一行は奥へ進んでいった。そして
一番奥の、ディスクが保管されている部屋にたどり着いた。しかし、ロックをはず
していたキャナルの手が止まる。
「…駄目だわ」
「どういうことよ」
「ドアの内側に仕掛けがしてあって、ドアを開けるとベルが鳴るようになっている
のよ。物理的な仕掛けじゃ手も足も出ないわ」
「ドアを開けたら…」
「目覚めたロボット犬の餌食ね。全部ここに配置されていたようね」
「あんた中に入れるでしょ。中から開けたらいいじゃない」
「おいミリィ」
「この部屋、外部からの電波を遮断するような仕掛けになっているわ。電波の増幅
をかけないと圏外よ」
「サイブレードで壁に穴開けて増幅装置を部屋の中に放り込めば」
「この部屋って、床も壁も金属製よ。部屋の中も金属のキャビネットばかりだし。
さぞかし大きな音がするでしょうね。でも…」
「ん?」
「放り込むことはできなくても、撃ち込むことはできるかもね。」
キャナルは壁の一部にぴとっ、と指を当てる。
「ケイン、ここに穴あけて。くれぐれも壁の切れ端を中に落っことしたりしない
ように」
言われた通り、細心の注意を払って僅かに刃を出したサイブレードを操るケイン。
「撃ち込むったって、銃にはサイレンサーつけられても、金属製の部屋の中に撃ち
込んだりしたら、ただでは済まないわよ」
「わかってるわ。一個所だけ、撃ち込める場所があるの。見て」
ケインの開けた穴から、2人して部屋の中を覗き込む。床の上に、何匹もの
ロボット犬が横たわっているのが見えた。
「ひえええええ」
「そこじゃなくて、目の高さ。もちょっと左」
立ち並ぶキャビネットの隙間から、微かに本棚が見えた。
「厚い本に撃ち込めば大丈夫。そうすればあたしが中に入ってディスクを取って
くるわ」
「って、ピンポイント射撃じゃねえか」
「ちょっとそこどいて」
射撃準備を終えたミリィの真剣な眼差しに、ケインは道を譲った。

部屋の中、ディスクのしまわれているキャビネットの前に出現したキャナルは、音
を立てないようにディスクを取り出すと、犬がうじゃうじゃ横たわる通路を、
入り口に向かって裸足で歩き始めた。
「うう…。ワンちゃん達、いい子だから眠っててね」
引きつった表情のキャナル。
キャビネットの向こうに見え隠れするキャナルの姿を見守るケイン。
『壁に穴を開けられるんなら俺が行く』
『往路がない分リスクが少ないの。だからこれはあたしの仕事』
迷路のような通路をたどり、ようやくキャナルの全身が2人の視界に入る。
しかし。犬を避けようとした弾みで、エプロンドレスのひもが机の上に転がって
いた試験管に引っかかる。試験管が机の上から落ちる。
ぱりーーーん
静寂の中に、ガラスの割れる音が響いた。部屋のそこかしこで、赤い目が光る。
「ひ…」
走り出すキャナル。
「キャナルっ」
ケインがドアを開ける。ベルの鳴り響く室内から、キャナルがディスクを放る。
ロボット犬の牙が食い込む寸前、キャナルの姿はかき消えていた。

「どおしてこおなるのよおおおおおっ!」
2人は走っていた。
襲い掛かるロボット犬を、ケインの刃が、ミリィの銃が迎え撃つ。
しかし、玄関ホールで、遂に退路を断たれ、囲まれてしまう。
「なんで『各々に独自のコンピューター』とやらなのに連携がいいのよぉ」
背中合わせになりそれぞれの武器を構える。その周りを20匹以上のロボット犬が
姿勢を低くして囲んでいる。玄関から入ってくる太陽光に、爪が、牙が、凶凶しい
輝きを放つ。
「やべえな…これは…」
そのとき。
「お待たせぇ♪」
「な…なんだキャナルその格好は」
点目の二人。それもそのはず、いきなり出現したキャナルは、ヘヴィメタ
ファッションだったのだ。ごていねいにエレキギターまで抱えている。
いきなり現れた人影に、一瞬犬達も驚いたようだが、すぐに飛び掛かる体勢をとる。
「ミュージック、スタート!」
はっきり言って、それはミュージックなどと呼べるレベルではなかった。大爆音。
「うぎゃあああああっ」
耳を押さえる2人。ロボット犬達も動きを止めていた。

漆黒の闇を、ソードブレイカーが行く。
データを送信しながら、キャナルが説明する。
「つまりあの犬達は、音に反応するだけあって、大音響には弱かったというわけ。
ちょっと二人とも聞いてる?」
じと目でキャナルを見るケインとミリィ。
「な…なによその目は」
「あのなあっ!いきなりでかい音聞かされて耳がおかしくなっちまって何も聞こえ
やしないんだよお!」
「あは…あはは…」
でかい汗を浮かべるキャナル。
ソードブレーカーは、光の尾を引きながら飛び去っていった。

おわり
===========================
いいのか…キャナルにこんな格好させて…(汗)

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3303Re:ロスユニ小説『凶犬轟く』松原ぼたん E-mail URL7/8-14:36
記事番号3294へのコメント
 おもしろかったです。

>「JCN26型。中古もいいとこね」
 整備はちゃんとしましょうね。
>「ここからは静かに行動してね。ひそひそ声くらいなら大丈夫だけど、どこに何匹
> 配置されているか、掴めなかったから」
 凄い怖いぞ、それ。
>「あのなあっ!俺がそんなに無茶」
 する。
>『往路がない分リスクが少ないの。だからこれはあたしの仕事』
 がんばれっ。
>迷路のような通路をたどり、ようやくキャナルの全身が2人の視界に入る。
>しかし。犬を避けようとした弾みで、エプロンドレスのひもが机の上に転がって
>いた試験管に引っかかる。試験管が机の上から落ちる。
 ・・・・服、動きやすいのにかえときゃよかっね。
>「なんで『各々に独自のコンピューター』とやらなのに連携がいいのよぉ」
 悪かったら役に立たないって。
>点目の二人。それもそのはず、いきなり出現したキャナルは、ヘヴィメタ
>ファッションだったのだ。ごていねいにエレキギターまで抱えている。
 ぷっ。
>「つまりあの犬達は、音に反応するだけあって、大音響には弱かったというわけ。
 じゃ、最初からそうすればよかったんじゃ・・・・。
>いいのか…キャナルにこんな格好させて…(汗)
 いい(きっぱり)。

 本当に面白かったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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3366松原ぼたんさんありがとうございます板野ずら子 7/12-00:35
記事番号3303へのコメント
> じゃ、最初からそうすればよかったんじゃ・・・・。
時間の関係で解析途中だったので突入時にはまだわかっていなかった、ということにしております(笑)