◆−sisin相応、3−ぷらすとーる (2005/4/5 21:54:52) No.31355


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31355sisin相応、3ぷらすとーる URL2005/4/5 21:54:52


こんばんは、ぷらすとーるです。
いよいよ中華SF第3話で、物語が動き始めるとこです。
書いてる自分の技量不足で、「どこが中華SF?」と感じるかも知れませんが、少しでも楽しんでいただけると幸いです。
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路地裏にはヒンヤリとした、冷たい、刺す様な空気が流れていた。

(!)

 突然、締め付けられた腕の感触が軽くなった。王さんは私を路地裏の端にそっと立たせて、『ギュッ!!』と昔ボルツからもらった、翡翠の埋め込んであるリストバンドをはめた私の手首を力強く握った。

「痛いですよ…」

 実際のところ、確かに痛かったが不快感や恐怖は何故か感じなった。そして王さんは、そのまま視線をその向こう側…。そのエラー音や中身がが軋む音のする機械を従えた、痩せた陰気な雰囲気の男に向けた。

「王白虎…」

 しわがれた声で男は王さんの名を呼んだ。男はまるで蛇が地の底から絡み付いてくる様な陰湿な笑みを表情に浮かべて、その爬虫類を思わせる目で王さんを見る。

「その娘をこちらへよこせ。怪我をしたくは無かろう?」

 相変わらず、何とも言えない気持ちの悪い笑みを浮かべながら男は王さんから一瞬、視線を私の方に向けた。

(ッッ!!)

 私の身はその気持ちの悪い、嘲る様な笑みで思わず身がすくむのを感じた…

「その機械とあんたの姿を…」

 それを黙って聞いていた王さんは、静かに、しかし意思の強い声で…

「どっかへ移せよ。怪我したくねえだろ?」

 その言葉に、初めて男の顔から陰湿な笑みが消え、男は一瞬だけ眉をしかめた。

「これはこれは…」

 今度男が見せた笑みは、それまでの嘲笑めいた笑いから、何だかサディスティックな印象の残忍な笑みに変わった。

「仮にも『四神』の代行者の中の1人がここまで軽率な男だったとは…」

(え…?)

 まるで私の頭の中で火花が飛び散る様な感触がした。

「その娘一人の身で、『封人』の事がどうなる訳でもあるまい。」

(ホウジン…?)

 良くは分からないが、どうやら男と王さんには重要な言葉らしい事だけは二人の口調や雰囲気で当然分かる。王さんは気が付くと体をいつでも動かせるように身構え、男に対峙していた。

「どうしても譲らずか…」

 男がそう言った瞬間…

「王さん!後ろ!!」

(!?)

 私がそう言っていたその瞬間、刃物を手にしたまるで懐古博物館で見る様な昔の木製のマリオネットみたいな人形が、王さんの後ろからまるで風景画を油で溶かして、その風景を崩すかの様に、突然路地裏の空間から溶け出すように現れていた。そして同時に王さんは人形の刃物を避け、飛び上がりながら廻りこんでの蹴りを入れていた。

『ガシャン!!』

 まるで鉄の重機の様な鈍い音を立て、人形は地面に体勢を崩して落ちる…

「ッ!!」

 男はあからさまに動揺の色を顔に浮かべた。

「何故、分かった…?」

『タンッ!!』

 気が付いた時は、王さんは地面を蹴って男の方に距離を一気に詰め、そのまま拳を男の胸元に添えていた。

「どうやら、天運は俺側にあるらしいな。」

 そう言って王さんは男の胸部に拳を添えたまま姿勢を固めた。

「ホ…娘の事はとんだ誤算だったな。」

 王さんは何かあればそのまま拳を打ち込める様に構えている。そして、男はまた余裕を取り戻した様に嘲笑めいた笑みを浮かべた。

「まあ、とりあえずは…」

(え!?)

 若い人?一瞬、誰かが他にいたのかと私は思った。王さんの低い声とは違う、若い男の声が突然聞こえ、狼狽した私が見たのは…

「僕の負けと言う事にしとくよ。また、会おう。」

 その声の主は、王さんに拳を添えられている男からだった。突然、男の体は色を失い…いや、人間の体からそのまま彫刻みたいに人型の人形になって行き、そして、その後ろから…

「次の為にその娘の事は油断しないようにしとくよ。」

 陰湿な雰囲気の男の姿が人形になり、その後ろから現れたのは若い飄々とした雰囲気の男だった。
「……。」

 王さんは苦々しく男を見る。その腕には操り人形で使う糸の様な物が巻きつき、王さんの腕の自由を奪っていた。 

『スー…』

 男は姿を掻き消すように消え、周りの機械も気が付いたら動きを止めていた。

「王さん!」

 私は、王さんの元へ駆け寄り絡まった糸を解こうとしたが、糸は思いのほかきつく固かった…

『ビリッ!!』

 その私の腕をもう片方の手で制し、王さんは今度は力を入れて糸を破った。

「大丈夫だよ。」

「王さん、今の人…」

「あんたは知らなくていい。」

(!!)

 王さんの言葉に、一瞬私は腹を立てたが…

「とは言っても、やはりもう関係無いは通じないか…」

 そう言って、王さんはいきなり私のリストバンドをはめた手を握った。

「!何をするんです!!」

「あんたがどうしても友達を救いたいのなら…」

 王さんは一呼吸置いて…

「その翡翠を渡す事が必要だな。それも俺じゃなくて朱雀に。」

 リストバンドの翡翠が妙に光ったのを、私は感じた…