◆−りめいくっ!−鮎 (2004/6/11 13:47:07) No.30189
 ┣りめいくっ!song2−鮎 (2004/6/11 13:54:43) No.30190
 ┣りめいくっ!song3−鮎 (2004/6/11 13:59:23) No.30191
 ┣りめいくっ!song.4−鮎 (2004/6/14 21:25:42) No.30208
 ┗りめいくっ!song5−鮎 (2004/6/20 19:25:48) No.30242


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30189りめいくっ!2004/6/11 13:47:07


こんにちは、鮎です。
さあ、知っている人はいるのかいないのかっ!
かつて私が投稿してマグロのぶつ切り状態に陥った小説!
の、リメイク版です。一応は。
気になるひとは(いるのか?)過去ログの『静』という名前を探してみましょう。
それでは、一気に行きます。
続くかどうかは置いておいて(爆)



###############



おーぷにんぐ.

小さい頃から、よく見る夢があった。
崩れてゆく景色の中で、知らない人達が、こちらを見て叫んでいる。
私はいつも同じ場所から、それを見つめ返している。
そして、私は後ろを振り向き、足を踏み出すのだ。
光り輝く、金色の中に――


「・・・・久しぶりに、見た・・・・」
薄暗い視界の中、私は呟いた。
もう何年も見なくなっていた懐かしい夢。
最後に見えた光は、まだ目に焼きついている様で。
「夢、かあ・・・・」
そっと体を起こすと、私は窓辺に近づき、カーテンに手をかける。
その時。
「――もうすぐ、夢は現実になるよ」
「・・・・へ?」
真後ろからの声に、私は驚いて振り返る。
しかし、そこには誰も居ない。なのに、その声は響き続けた。
「君がそうなるのは、運命なんだよ」
「・・・・?」
「でも、運命は一つじゃない。幾つも枝分かれしたその先の一つが、君の夢さ」
「・・・・誰?何の話?」
「とにかく、時間がな――」
唐突に、声が途切れる。
「え、っと・・・・?」
不思議体験?
自体が飲み込めずに、首を傾げる私の目の前で。

―――ィイイン!
軋む様な音と共に、まるでガラスのように景色が砕け散った。
それと同時に、私の体が底の無い闇に落ちてゆく。
私の部屋であった景色の破片が、周りに飛び散ってゆく。
その一つが、足を掠った。
生まれて初めての落下に、目を見開きながら、その痛みはしっかりと感じ取れた。
(痛いかも・・・・)
私が覚えていられたのはそこまでで。
急激に、意識が暗闇に引き込まれた。

目を覚ますと、自分の部屋の、布団の中だった。
カーテンの隙間から、柔らかな光が差し込んでいる。
「夢・・・・」
それだけ言うと、夢の中でしたように、体を起こし、カーテンに手をかけた。
「・・・・あれ」
開けたところで、私は気付いた。
明るい朝日に照らされた、私。
その足に、一筋、何かを引っ掛けたような、傷があった。

それをじーっと見て、一言だけ、心の底から呟いた。
「・・・・安眠妨害・・・・」



1.

「それで?後は何かあった?」
「ないない。あったら困るよ」
ちらり、と隣の親友に目をやり、軽くため息をつく。
「あのね、琴音?」
「うん?」
その顔前に指を突き出し、
「何で、そんっっなに満面の笑顔なのかな?」
「え。だって!」
琴音は私の両手をぎゅっと握り締め、声高に叫んだ。
「そんな面白い体験、そうそうできるもんじゃないわよ!」
「ただの安眠妨害」
「足の怪我といい、ただの夢じゃないわ!」
私をまるきり無視してそこまで言うと、琴音は手提げから紙の束――というより、怪しい骨董屋に置いてありそうなものを取り出した。
「・・・・それ、何?」
「参考資料」
何の参考だ・・・・。
「報告しまーす!刹那の夢の人物・現象等をふまえた結果、それは『スレイヤーズ』の世界ではないかと思いますっ!」
「そりゃあ、出てくる人はそんな感じだけどぉ・・・・」
「とにかくっ!ほらほら、読んで見て見て」
言うと、私に紙束を押し付ける。
仕方なくそれをぱらぱら捲りつつ、私は首を傾げた。
「あれって、空想でしょ?」
「甘いわ、刹那。私の調べでは、元になった書物があるのよ。
きっと刹那は、スレイヤーズの世界に関わるのよ!」
「えー・・・・私は、もっと平和に寝ていたい」
「いいえ!刹那は、絶対巻き込まれるわ!」
「巻き込まれるって・・・・」
嫌な事を嬉しそうな笑顔で力説する親友に、落ち着かせようと口を開いて――
がしぃっ!
今度は私の肩を掴み、ぶんぶん揺さぶりながら、
「いい、刹那!何があっても、全力で立ち向かうのよ!応援してるわ!」
「あ、ちょ、琴音・・・・!」
どんどん加速する琴音の様子に、私は説得を諦めた。

「ほら、もっとしゃっきりして!」
「だ、から・・・・人の話を聞けいっ!」



「つ、疲れたぁ・・・・」
琴音からようやく開放され。家についた瞬間、荷物を放り出して、私は床に寝転がった。
一応玄関はどうかと思ったので、今居るのは玄関脇にある祖父の書斎である。
しん・・・・と静まり返る家の中で。
「絶対巻き込まれる、かぁ」
琴音の言葉を思い出し、ごろごろと床を転がる。
「ううー。本当に巻き込まれたら・・・・巻き込まれたら!」
がばぁっ!と起き上がり、拳を天へと突き出し、
「安眠できないじゃないかぁ!」
そんなのは御免だ本当に嫌だ絶対嫌。
ぶつぶつ呟いて、とりあえず放っておいた荷物を片付けるべく、私は書斎を出ようと――

前触れもなく。ぐにゃり、と視界が歪んだ。

ああ。もしかしてもしかしなくてもそうなのかぁっ!
「いやぁ・・・・私の安眠生活が・・・・」
思わず頭を抱えた私の傍で。
「――ま、諦めてよね」
やたらとあっさりと、その声は告げた。



2.

真っ赤だ。
最初に思ったのはそんな事だった。
上から下まで深紅の服に身を包み。とどめと言わんばかりにその髪も眼も赤。
一緒に居たら、目が痛くなる。
その少年は、おもむろにこちらを指差し、
「じゃ、世界を救ってもらうんで、よろしく」
「・・・・は?」
「だから、世界を救うの。君が」
もう一度、言い含めるように繰り返すと、彼はごそごそと服の中に手を突っ込んだ。
それにしても、これでいいのか、私の人生。
朝の夢といい、まったく・・・・
そこまで言って、気がついた。
「ねえ」
「なんだい?」
「今朝の声、君だよね?」
「ああ。そうだよ」
それが何か?と言いたげな少年を、ぴ、と指差し、
「あの不思議体験何なのさ?」
「不思議・・・って、そんなきっぱりと」
それからうーん、と顎に手をやり、
「・・・・まあ、説明はするべきだよね。うん」
言うと、私の正面に向かい合うように立つ。
自分の胸に手を当てて、
「僕は、クロス。時の狭間で、運命を見守るのが仕事」
「・・・・はい?」
「いいから黙って聞く。君には、ある世界にいって、運命の修正をして欲しいんだ」
「修正って事は・・・・間違った事でもあったの?」
「というか、予定外の事」
はあ、とため息をついて、クロスはぽん、と自分の頭を軽く叩く。
「まったく。僕の仕事が増えて増えて・・・・」
「あ、大変なんだねぇ・・・・」
よく分からんが、とりあえず労いの言葉を掛けてみる。
「・・・・まあ、本当は君の過ごす時間で言う朝方に導く筈だったんだけど」
「ああ。それで、あんな貴重な現象が」
ぽん、と手を打ち合わせる私に、彼はやや呆れたように、
「君、意外と冷静だね」
神経図太いのかい?と真面目に問われ、私は今までの事を振り返ってみた。
「間延びしてるとはよく言われる」
「あ、そう・・・・」
深く聞く気も無かったのか、簡単な反応を返し、
「まあ、今朝は何だか巧くいかなくってさ。そういや怪我はないかい?」
今更ながら問う彼に、視線で足首を示す。
それを確認すると、彼は一つ頷き、
「それはこっちで何とかしておくよ。
とにかく、君のやることはその運命の異分子を取り除く、防ぐ事。
その為に、これを持って行って貰うよ」
先程から服の中を彷徨っていた手が引き抜かれ、私の前に差し出される。
真っ黒な革表紙の本。隅の方に、薄く金色の文字が見て取れた。
「かん、りゅう・・・・げん、じ?」
・・・・って!
「お祖父ちゃん!?」
それは、私と二人暮しをしている、祖父の名前。
「そうそう。君のお祖父さんの本。ちょっと拝借させてもらったよ」
「それって、泥棒・・・・」
「いいから。はい、これ」
ぐいっと、私に本を押し付ける。
「な、何で、お祖父ちゃんの本が必要なのさ?」
「必要だから」
こ、答えになってないよぉ・・・・
心の中で思い、言い募ろうと口を開いて、
「あ、これも持って行って」
遮る様に、一つの封筒を此方に差し出す。
それを受け取り、本と一緒に抱え込みながら、私は問うた。
「これ、誰かに渡すの?」
「うん。君が初めて会った人に渡す事。判った?」
思わず頷いてから、
「でも、運命なんてそんな大それた事、私が・・・・」
「君だからこそ、さ」
私の困惑にきっぱりと、彼はそう言い切る。

「――結末は、一つじゃない」
突然、クロスが語りだす。
「むしろ、君が行って初めて、全ては動き出すんだ」
「・・・・あの?」
「自分を信じて。君にはその力があるんだから」
「もしもし・・・・」
急に深刻に語られても、困るんだけどなぁ・・・・

ぱんっ!
話し始めた時と同じ唐突さで、クロスは手を打ち鳴らす。
そのまま、私の頭に手を置き、
「じゃ、いってらっしゃい」
「え、ちょっ・・・・!」

口を開く間もなく。
視界が、真っ白に染められた。

そして、真っ青になった。

「・・・・え?」
ごうごうと、風を切る音が耳にうるさい。
人生二度目の落下の感覚。
「お、落ちてる・・・・」
驚きつつ、呆然と呟いた。
・・・・とりあえず、落ちるまでは安全だよね。
一つ頷き、私は下との距離を確認しようとして・・・・
「・・・・っ」
唐突に、眠気が津波のように思考を奪う。
そういえば、ゆっくり眠れてないんだよねぇ・・・・
くっつきそうになる瞼を必死に押し上げ、
「・・・・あ」
眼下に、人影と、煙が見えた。

とりあえず、下に向かって叫んだ気がする。




###############

あまり長いのもどうかと思うので、ここで切ってみたり。
オリキャラばかりなのは、気にせずに。

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30190りめいくっ!song22004/6/11 13:54:43
記事番号30189へのコメント


ささ、一気に行きます。最初だけ(笑)
ゼロス君登場です〜


###############



街道から外れた森の中。
煙と血の匂いが辺りに充満している。
すぐ背後に燃え盛る火の手を感じながら、まったく気にする事もなく。
彼は、口を開いた。
「さて。正直に仰って下さい。『写本』はどこです?」
問われた相手は、問うた相手の笑顔に圧倒されながら、それでも声を張り上げた。
「だ、誰がテメエなんかに教えるかっ!?」
言い切るが、その顔は蒼白で、手にはぼろぼろになった斧。周囲には、斧使いの仲間らしき影が、静かに転がっている。
誰が見ても、力の差は明らか。
それでも、意地か、最後の足掻きか。斧を持つ手に力を込めて。
そんな男に、彼は笑顔のまま、軽く肩を竦め、
「仕方ないですねぇ。始末させて貰いましょうか」
言うと、錫杖を持つ手に力を込めて、

「よーけーてーぇー!」
その声は、頭上から聞こえてきた。

「・・・・は?」
「・・・・へ?」
同時に上を見上げ、同じく同時に声を漏らし。
どごぉっ!
鈍い音と共に。見事、斧使いの上に、それは落下した。

「えーっと・・・・」
ぽりぽりと、頬を掻きつつ、彼は目の前の光景を観察する。
男は、すっかり気絶しており、口から泡を吹いている。まあ、何とか生きているようである。
それよりも、問題なのは。
「・・・・魔法の失敗、ではなさそうですね」
男の上で、こちらも気絶しているらしい人間。
子供、しかも、少女である。
ごく普通の旅人に見えるが、登場の仕方がどう考えても普通ではない。
予想外の出来事に、彼が珍しく困惑していると。
「・・・・う・・・・?」
少女が、小さく身じろぎする。
ゆっくりと体を起こすと、なぜか、大きなあくびを一つ。
それから、自分の下にいる人に気付いて、一言。
「見知らぬ人。大丈夫ですか?」
でも、おかげで私は助かりました不可抗力です恨まないで下さいね。
続けた言葉に、思わず呟いた。
「・・・・化けて出るんじゃないですか・・・・?」
小さなその声を、少女は聞き取ったらしく、此方に振り向いた。
「そういうもの?ゼロス」
「まあ、感謝は絶対にしない、と・・・・」

・・・・・・・

「あの」
「ん?」
「何処かで、お会いしましたか?」
尋ねると、少女は、『あ。』と呟き、何処か遠くを見つめる。
暫し眉を寄せると、こちらに再び視線を向け、
「あれ?ゼラスだっけ?」
「違います!」
とりあえず、全力で否定した。
それに反応して、再び視線をさ迷わせ――
「いえ、あの、ゼロスで合ってますけど」
今度はどんな名前が出てくるか判らないので、そう告げると。
「あ。良かった。やっぱり、獣神官ゼロスで合ってる」

その言葉に、即座にゼロスは錫杖を突きつける。
心なしか、その笑みを深くして、
「・・・・どちら様ですか?」
「私様です?」
「・・・・いや、そうじゃなくてですね・・・・」
あまりの返答に、思わず困った顔をした彼に、少女は突然指を指し、
「・・・・あ。第一村人」
「・・・・はい?」
今度こそ、ゼロスは頭を抱えた。
それを気にも留めず、少女はごそごそと荷物に手を入れ。
その際、何かに気付いたように自分を見下ろし、
「・・・・ふぁんたじー?」
「・・・・え?」
「あ、いやいや。こっちの話」
同時に、手をゼロスに差し出す。
その手には、封筒が握られていた。
「あげる」
「・・・・僕に、ですか?」
「そう。渡せって言われたから」
「はあ・・・・」
曖昧に言葉を返し、ゼロスは封筒に手を触れ――

「・・・・っ!」
瞬間、得体の知れない震えが、彼を襲った。
大きな力の流れ、とでも言えばいいのか。
「・・・・どしたの?」
「あ、いえ・・・・」
慌てて、だが慎重に封筒を受け取る。今度は、何もなかった。
それをすぐに鞄にしまい、彼はすっかり毒気を抜かれた、困り果てた表情で、
「あの、あなた、お名前は?」
「刹那。還流刹那」
「えっと。セツナさん?とりあえず、貴方を見張ろうと思うのですが」
きょとん、と刹那と名乗った少女はゼロスを見つめ、
「何で?」
「怪しいですから」
「君の方が怪しい」
きっぱりと言葉を返す刹那。
「それは、まあ・・・・って、そうじゃなくてですね。
何故か知りませんが、貴方は僕の正体を知っていらっしゃる。
放っておくわけにはいきません」
ですから、と語るゼロスの言葉に、刹那はうーん、と唸り、
「ま、確かに怪しいけどさぁ・・・・」
「そうでしょう?とにかく、そうさせてもらいます。よろしいですね」
有無を言わせぬ口調で宣言すると、ゼロスはぐるり、と辺りを見渡した。
「とりあえず、今日は此処で一晩、ですかね」
「・・・・こんな所で?」
刹那は同じ様に周りを――壊れた武器の破片やら、ひしゃげた木がごうごうと燃えていたり、あまつさえ無造作に転がる人影等――を見渡して、言った。
「休めるの?こんな場所で?」
「あちらに」
真っ直ぐ伸びた腕の先に、比較的無事な小屋があった。
川を挟んでいるためか、火の手も向いてはいない。
「さあ、行きますよ」
言うと、さっさと歩き始めるゼロス君。
後ろから、小さなため息一つ、ぱたぱたと後を追ってくる音を聞きながら。

ぎい・・・・
開けた小屋の中は、意外にも綺麗だった。
先に中に入るゼロスの後に黙ってついていく。
「・・・・抵抗なさらないんですね」
「はい?」
ですから、とゼロスは私の正面に座る。
私もその場に座りながら、彼の言葉を待った。
「まあ、僕が無理矢理決めてしまった事ですけど。
普通、もう少し抵抗というか、何というか・・・・」
「してほしいの?」
「まさか。ただ、随分肝の据わった方だなあ、と」
それだけ言うと、彼は、窓の外を見つめた。
それ以上話す事もないので、私はその辺にあった布を体に巻き付け、
「じゃ、おやすみー」
睡眠不足を解消するべく、さっさと目を閉じた。
「・・・・本当に、変な人ですねぇ」
遠くなっていく意識の端で、そんな声を聞きながら。

音もなく、彼は立ち上がった。
ちらり、と床に丸まる少女を一瞥し、
「・・・・報告、させてもらいますよ」
その姿が、闇に掻き消えた。

因みに、写本はしっかりと灰にしましたとさ。



###############


文章力が欲しい今日この頃でございます。

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30191りめいくっ!song32004/6/11 13:59:23
記事番号30189へのコメント


怒涛の投稿は此処まで。
気が向いたらもう一つ二つまいりますけどね。


###############



気持ちのいい朝は、すっきりと目が覚めると言うけれど。
嘘だ。そんなの。
私は、そう心の中で呟いた。
さらさらと流れる川は、朝日を反射してきらきらと輝いている。
まだ太陽が昇ったばかりなのか、そんなに暑くもない。
でも。でも・・・・っ!

背後で、がさり、と草木を掻き分ける音が聞こえ、
「あ。おはようございます。セツナさん」
「えーと。おはよう」
寝ぼけ眼で振り返ると、ニコニコ笑顔の魔族さん。
それに、私は周囲を指差し、
「で。今度は『何』が出たの?」
私の周りを避けるようにして、そこかしこの地面が抉り取られている。
所々に、体から触手の生えた、とりあえず足が四本あるのが判る何かが転がっていて。
ゼロスはそれをにこやかに指差し、
「真っ黒なウサギのようなものが十体程」
「あれがウサギ?」
「元はそんな姿でした」
戦ってたら、どんどん変になりましたけど。
言って、彼は肩をすくめる。
それに適当に頷きながら、私はふわぁ、と欠伸をして、
「今日で三回連続だねー」
「そうですねぇ。毎日賑やかで」
そこまで言うと、彼は両手の荷物を私に渡し、
「はい。どうぞ」
「ありがと」
さっさと袋を開けると、私は真新しい鍋とお玉を取り出した。

私がこの世界に来てから三日。
うっかりニコ目魔族の名前を呼んでしまったばかりに、ずっとゼロス君に連れられて(監視されて)いる。
それはまあ、別にどうってことはないのだけど。
毎日毎日、正体不明の『何か』が私に寄ってくるのだ。昼夜問わず。
一日目は、こんなのもいるんだあ、ぐらいにしか思ってなかったんだけど。
(ゼロスは見たことない、と騒いでたけど)
二日目は、最近の流行りかと思ったけど。
(ゼロスは誰か(多分獣王)に報告に行ったみたいだけど)
三日目は、さすがに変だなあ、と思ったところである。私は。
(ゼロスは何やら仕事を与えられたみたいだけど)←しつこい。

で。今日は四日目の朝。
「・・・・歪み・・・・って、何?」
いや。単語の意味は判るけど。
私はぐるぐる鍋を掻き回しながら、首を傾げた。
それに、彼はお茶をずずっ、と啜ってから、
「僕も昨日初めて聞いたんですけど。
最近あちこちで、僕達に襲ってきたような、はちゃめちゃな者が出没してるらしくて。それを、俗に『歪み』と呼んでるらしいんです」
「ふぅん。大変なんだねぇ」
「人事じゃないですよ、セツナさん」
ぼんやりと聞いていた私に、ゼロスはぱたぱた手を振りつつ、
「『歪み』が現れているのは、人も住まないような辺鄙なところばかり。
ですから、まだ魔族くらいしか、この事体を知りません。
ところが、こんな街に近い街道で、しかも、毎日僕達のところにだけ現れるなんて・・・・
僕は、貴方が『歪み』を引き寄せているのだと思いますけど」
ぽとっ。
木をくりぬいた器にスープを注いでいた私は、思わずお玉を取り落とす。
そんな私の脇から、ゼロスはお玉を拾い上げて、
「・・・・ですから、ますます僕が、貴方を監視する事が・・・・重要になってるんですよ・・・っと」
スープをとぽとぽ器に注いで。ゼロスは、ははっ、と笑った。
「いやあ。正式に僕の仕事になっちゃいましたよ」
言って、ひょい、とスープを口に入れる。

「・・・・あのさ」
「何ですか?」
ゼロスが、静かに笑って私を見つめる。
私は、勇気を出して口を開き――
「魔族って、食事する必要あるの?」
真剣な私の問いに。
なぜか、ゼロスは脱力した。

「真面目な顔で何を言うかと思ったら・・・・」
ゼロスは呆れたようにため息をついた。
それに少々むっと来たので、私は軽く彼を睨むように見つめ、
「何よぅ。私は、真剣に聞いてるんだからー」
「いえ、だから問題なんですけど」
ぼそり、と何かを呟いたが無視。
その態度に、ゼロスは再びため息をついて、器の中身を飲み干す。
「いえね。せっかく美味しいものが目の前にあるんですから、どうせなら食べておこうと思いまして」
「あ。美味しかった?」
「ええ。とても」
因みに、ゼロス君に料理道具と材料を採って来て貰い、私が料理をする、というのが、最近の習慣になってきている。
そういえば、ついでと言って、この間杖を買ってきた。
ゼロスの持つ錫杖とは少々の差異はあれど、ありふれた物なのは間違いない。
その割に、何だがやたらと丈夫な気がするのは気のせいだろうか。
とにかく、彼はそれを私に渡して曰く、
「極力自分の身は守れるようにしてくださいね」
だそうである。

まあ、そんなこんなで、私は楽しく暮らしています。
世界を救う手立ては、さっぱり判らないけど。
まあ、何とかなるかぁ。多分。


「暇・・・・」
言った途端に、ずる、と杖を抱える手が緩む。
それを再び抱えなおし、私は大きなあくびをした。
最初の街に入ったのが、かれこれ三十分ほど前のこと。
街に入ってすぐ、ゼロスは野暮用とか言って何処かに消えた。
待っていてください、と私を広場に置き去りにして。
そんな訳で、私は暇で暇で仕方がない。
ふと、私は荷物の中から本を取り出した。
表紙に『還流元治』と金字で書かれた黒い装丁の本。
私の、おじいちゃんの名前である。
「これって、何かに使うの?」
言いながら、ぱらり、と表紙をめくり、
「・・・・あ。」
開いた瞬間、真っ赤な色が目に飛び込んできた。
本の中に、カードが一つ。

『取り扱い説明書
 楽しく、早く、簡単に!
 本の扱う資格を持ったそこの貴方!
本の呪力を開放するにあたって、注意事項が一つ
初めて使う人は、力の使いすぎに注意しましょう。死んじゃいますから。
さて、そもそも呪力というのは―――――  』

そこまで読んだ所で、目の前に影ができた。
ばたん。
本を閉じて顔を上げると、数人の男が、私をぐるり、と取り囲んでいた。
目が合うと、そのうちの一人が、にやり、と笑みを浮かべた。
いかにも自分は悪人です!金出せやこらぁ!というように見える。
広場の端のほうで、同情の視線がこちらに向けられている。どうやらこいつらはいつもこんな事をやっているらしい。
「・・・・眠い」
呟くと、私は本を荷物にしまいこんで、腰掛けているベンチに横になろうと
「おいこら。待てやテメェ」
声と共にぐい、と腕を掴まれて、仕方なく起き上がる。
男は私の腕を放すと、再びにやり、と笑い、
「大人しくすれば何もしやしねぇよ。黙って金目のモン、出しな」
言って、ずいっ!と手を差し出す。
「金目のものねー・・・・」
へぇ、初めてこんな目に会ったなぁ。
思いつつ、その手をぼーと見つめていると。
「・・・・おい」
「はい?」
「はい?じゃねぇ!さっさと金目のモン出せって言ってるんだよ!」
イライラしながら怒鳴る男に賛同するように、周りのものが、指をバキボキ
鳴らす。
あ。私、指鳴らせないんだよなぁ。
芸が多くて、ちょっとうらやましい。
「・・・・ああ、もういい!」
そこまで言うと、相変わらず座ったままの私をぎ!と睨み。
甲高い音と共に、腰のナイフを引き抜く。
「・・・・暴力反対と訴えます」
「うるせぇ!」
諭す私の声にも耳を貸さない。
むう・・・・駄目だこりゃ。
はあ、とため息をついて、私は杖を持つ手に力を込めて――

「お待ちなさい!」

「何モンだっ!?」
男達が、その姿を探そうと辺りを見渡し――
「あそこだ!」
指差す先は、家の屋根の上。
そこに、白いマントを風に揺らして、佇む影が、一つ。
びしぃっ!と音がしそうな勢いでこちらを指差し、
「正義の道に背き、悪に染まった者どもよ!
か弱い女子を大勢で脅すとは許せません!天に代わって、このアメ・・・・」
「フレア・アローッ!」
背後から飛び出した炎の塊が、その声と姿をかき消す。
「うきゃああっ!?」
影は、驚きの声と共に地面に落下した。何だか鈍い音がした気がする。
新たに何者かが屋根から現れ、道端に倒れる影の横に着地した。
その瞬間、白い服の少女はがばっ!と勢い良く身を起こし、
「何するんですか、リナさん!
せっかくかっこよく決めようと・・・・」
「やかましい!」
電光石火とは、多分こんな事かなぁ。
私は、何となくそんな事を思いながら、様子を見つめていた。
「ん?リナさん・・・・って事は」
ふと、私はある事に思い当たった。

黒マントの少女は、手にしたスリッパを何処かにしまい、
「こんな街中の屋根の上で、近所迷惑でしょーがっ!」
「リナさんだって、人の事言えない・・・・」
「あいつらをやっつけたんだから、いいのよ!」
勢い良く振り向く先に、私の周りで黒こげで倒れる男達。
・・・・大丈夫なんだろうか、これ・・・・
じーっと、焦げた連中を眺めていると、
「そこのあなた、怪我はありませんか?」
「ん?」
いつの間にか、すぐ傍に立っている白マントの少女。
後ろで、もう一人が口を開く。
「こんな所でぼーっとしてるから、あんな目に会うのよ。
さっさと宿か何処かに行ったほうがいいわ」
「ああ。ご丁寧にどうもー。でも、私人を待っているので・・・・」
言ってから、自分の言葉を反芻し、
「・・・・人かなぁ?」
「は?」
きょとん、とする二人をちらり、と見つめ、
「いや、人といえば人なんだけど、人によっては人じゃないとゆーか」
「訳わかんないわよ、あんた・・・・」
額に手を当てて、黒マントがそう零す。
それにゆるりと首を振って、
「まあ、助けてくれてありがとうございました、リナ・インバースさん」
「あー。はいはい」
疲れたように適当な返事を返し、彼女はくるり、と何処かに帰ろうと――
「・・・・ちょっと待った」
「はい?」
「あたし、あんたに名乗ってないわよね」
「・・・・あー。そうですね」
ぽん!と手を打つ私を、またもや呆れたように見つめる。
それににっこり笑顔を浮かべ、
「一か八かで言ってみたんですけど、当たってたんですねぇ〜」
「・・・・はめられましたね、リナさん」
ぼそり、と連れが零すのに、べし、と頭を叩いて。
「あ。じゃあこっちは、アメリアさんですよね?」
続く私の言葉に。
リナは、いよいよ表情を険しくした。
「あんた、一体何者・・・・」

「おやおや。見たことのある顔だと思ったら・・・・」
不意に、聞き覚えのある声が響いた。
リナ達が驚きの表情で振り向く、その先に。
黒い法衣に身を包む、神官が一人。
「お久しぶりです。リナさん、アメリアさん」
『ゼロス!?』
二人の驚愕の叫びが、辺りに響いた。



###############


お話ちゃんとつくらなきゃいけないですよねー・・・・
頑張ります。うん。

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30208りめいくっ!song.42004/6/14 21:25:42
記事番号30189へのコメント



こんにちわ、鮎です。
長いです。ええ、本当に。さらりと読んでください。無理か。


###############


暮れる夕日を背後に背負って。
変わらぬ笑顔を浮かべた青年は、こつこつとこちらに歩み寄ってくる。
厳しい視線で見つめる二人を素通りして、私の目の前まで来ると、
「遅い眠い疲れた」
「すみませんってば。少々報告に手間取りまして」
私の文句の三拍子に、あはは、と笑って誤魔化すゼロス君。
しかし、私はだまされないぞ!
「その口の端についてるクリームは何かなぁ?」
「・・・・えーと」
ゼロスは冷や汗を流しつつ、明後日の方を向く。
その正面にぐぐ、と回りこんで、
「私の分は?」
「あ。ありますあります」
すかさず取り出したクリームたっぷりのクレープ(多分)を笑顔で受け取り、
「・・・・ちょっと」
『はい?』
思わず声をはもらせて振り向けば。頭痛をこらえるように額を抑えるリナ・インバース。
「あんたの待ち人って。もしかしなくてもこのゴキブリ神官?」
「うん、そうだけど」
「成る程、確かに人ではないですね・・・・」
アメリアが納得したように言った。
「リナさん、ゴキブリはやめて下さいよぉ・・・・」
情けないゼロスの声に、リナは何故か顔を引きつらせ、
「うるさい!大体あんたがこんなところに性懲りもなく沸いて出てくるのが悪いっ!」
「と、言われましても・・・・」
困ったようにぽりぽり頬を掻きつつ、
「此処であったのは、完全に偶然ですからねぇ」
「本当ですか?」
至極胡散臭そうなアメリアにこくこく頷いて、
「本当ですってば。リナさんに誓ってもいいですよ」
「勝手に誓われても困るわよ」
心底嫌そうに呟くと、リナははあ、とため息をついた。
「ゼロス。この子何なの?」
「と、言いますと?」
「この子、あたしたちの事、知ってるような口ぶりだったから」
「・・・・そうなんですか?」
くる、と私に向き直り、問いかけるゼロス。
ぱくぱくと、クレープを口に運びながら、私は首を捻る。
うーん。まさか違う世界から来ましたぁ、なんて言えないしなぁ・・・・
私はおもむろに、ぴっ!と人差し指を立てて、
「えーと。秘密です?」

ずしゃあぁっ!
何故だか皆さん、地面に突っ伏した。

一番最初に復活したゼロスは、涙を流して起き上がりながら、
「セツナさん・・・・それ、僕のセリフ・・・・」
「あはは。一回言ってみたかったんだぁ」
「あ、あんたねぇ・・・・」
引きつった笑いを浮かべ、リナはその場にしゃがみこんだ。
「あ〜っ!何で最近変な事ばかり起こるのよ!」
「変な者にも襲われますしね・・・・」
隣でアメリアが、何かを思い出すように遠くを見つめている。
その言葉に、私とゼロスは顔を見合わせ。
「リナさん、変なものって何です?」
ゼロスの問いかけに、疲れたようにこちらを見つめ、
「変なものは変なものよ。まだあんたの方が判りやすいわ」
「・・・・もしかして、正体不明の、黒い動物の形だったり、剣の形だったりするものですか?」
「んで、段々変な触手が生えたりする?」
続けて問いかけるゼロスと私の言葉に、アメリアは目を見開いた。
「知ってるんですか!?」
その叫びに、もう一度、私たちは顔を見合わせた。
「どういう事?」
「さあ。リナさんとセツナさんの共通点でも挙げてみます?」
その言葉に、私は暫し沈黙し、
「辛うじて同じ人間って事くらいだよ?」
「そうですよねぇ」
「辛うじてってどういう意味よ」
「何だかわかる気もしますけどね」
ぼそり、とアメリアが言うのを、リナはひと睨みで黙らせて。
「あんた達、説明してもらいましょーか」
真剣なその言葉に、ゼロスはちらり、とこちらを見つめ、
「・・・・判りました。話せることはお話しましょう」
「おっけー。じゃあ、あたし達の宿まで来てくれる?」
言うと、リナはばさり、とマントを翻した。


「歪み、ねぇ・・・・」
紅茶を片手に持って、リナは額に手を当てた。
両隣には、同じように紅茶を片手に、真剣な表情でそれを見つめるアメリアとゼルガディス。
そして正面に、ニコニコ笑顔のゼロス。
因みにガウリイは、隣のテーブルで、話についていけずに、刹那と談笑中である。
「その正体と原因を探るのが、あんた達の目的って訳?」
「そういう事です」
ゼロスはこっくり頷き、手にした湯飲みを啜る。
「でも、リナさんとセツナさんの所に集まってくるのは何でですか?」
「さあ・・・・それは判りません」
ですから、監視として僕がついてるんですけどね。
言いながら、隣のテーブルに視線を送る。
それに気がついてか、刹那がひらひら、こちらに手を振った。
「・・・・そもそも。あのセツナって女は何者だ?」
ゼルガディスが口を挟む。
鋭い視線の先に、笑顔で手を振り合う二人を捉えて。
「話によれば、有名なリナはともかく、アメリアの事を知っていたらしいじゃないか。
貴様、俺たちの事を話したのか?」
手を振る手を止め、ゼロスはゆっくりと首を振る。
「いいえ。僕は何も」
「ならば、どこから情報を仕入れたんだ?」
「そうなのよ。あたしはともかく、あの子の事が判らないと、歪みの寄ってくる原因も見当のつけようが無いわ」
リナは、そう言うと、かちゃん、空のカップを置いた。
「セツナさんは、心当たりはない、と言っていますが?」
「あたしにだって心当たりないわよ。
本人が気付いてない事かもしれないでしょ?」
言うと、リナは、ぐるり、と後ろを振り返り、叫んだ。
「ちょっと、セツナ!こっちに来てくれる?」


「それでさぁ、俺が魔族って知ってるって言ったらみんな驚いてさぁ」
「ああ。そうなんですかぁ。人を見た目で判断するのはよくないですよねぇ」
「そうだろ?なのに、リナ達ときたら・・・・」
うんぬんかんぬん・・・・・
只今、今までの旅の事が気になって、ガウリィさんに聞いている所でございます。はい。
それにしても、話に聞いたとおり、面白そうな人たちだ。
ガウリイさんの話を聞いて、しみじみ思っていると。

「ちょっと!セツナ!こっちに来てくれる?」

「・・・・お?呼ばれてるぞ」
「あ、本当」
何かなぁ?と首をかしげて、私は席を立った。
「頑張れよー」
気楽な声で声援を送るガウリイに、手を振って答えながら。

「呼びました?」
「まあ、とりあえずお座りください」
不思議そうに一同を見渡すと、セツナは手招きをしているゼロスの隣に座る。
 それを確認すると、リナはおもむろに口を開いた。
「ちょっと、貴方の事を説明して欲しいの」
「どうしてでしょう?」
目をぱちぱち瞬いて、リナの顔をじぃ、と見つめる。
その眼光にややたじろぎながら、
「歪みの寄ってくる原因を探るためよ」
「心当たりはないって言いませんでした?」
刹那の言葉に、ゼルガディスが、容赦なく口を挟む。
「信用できん。それに、本人が気付いていない事かもしれん。
実際、リナには心当たりはないそうだ」
それに少し驚いたようにリナを見つめ、
「そうなんですかぁ?リナさんなら心当たりの十や二百、ありそうですけど」
「ちょっと、どういう意味よ」
「そのままの意味ですよー」
ひらひらと気楽に手をふり、あははー、と笑う刹那。
凶悪な顔で睨むリナもなんのその、である。

背後で、ひそひそと話し声。
「中々いい性格してるな」
「ゼロスさんと平気で旅のできる人ですからね」
「・・・・ちょっと!聞こえてるわよ!」

「ほらほら、皆さん。話がずれてしまいますよ」
今にも呪文を放ちそうなリナと、アメリア達にゼロスは言った。
くるり、と刹那の方に体を向けて、
「で、セツナさん。教えてはもらえませんか?」
「・・・・ん〜」
あごに手を当て、考え込むように虚空を目がさ迷う。
しばらく後、刹那はふるふると首を振った。
「駄目。意味がないもの」
「どういう事だ?」
やや険悪な雰囲気を纏って、ゼルが問いかける。
それにのほほんとした顔のまま、
「そのまんまの意味〜」
「・・・・喧嘩を売ってるのか?」
「まあまあ、ゼルガディスさん」
アメリアがなだめながら、刹那に真剣な表情で、
「セツナさんっ!正義の名の下に、正直に仰って下さい!
出ないと、歩く災厄のリナさんが何をするか・・・・」
ああ・・・恐ろしぃ・・・・
最後の方はやや青ざめながらのお言葉である。
「・・・・アメリア。後で裏庭に来なさい」
「そんなぁ!」
「・・・・墓穴を掘ったな」
悟ったような、ゼルの一言。

「意味がないんだってば。本当に」
「あのねぇ、セツ・・・・」
変わらぬ声音に、リナが呆れたように振り返り――
思わず、その顔を凝視した。
刹那の顔から、笑顔が消えていた。
それだけなら、別に見つめもしない。だが。
その顔が、あまりにも静かすぎた。
まるで、果てのない何かを見つめるような。
続けて振り返る他の面々も、同じように動き止めて。
感情の抜け落ちた顔で。
それとは裏腹に、緊張感のかけらのない声で、刹那は言う。
「私の価値観はここではあまり通用しない。だから、私に心当たりがなくても、なにか共通点があるのかもしれない。それはわかります」
「価値観が、通用しない?」
唯一、自体を静観していたゼロスが、普段と変わらずに口を挟む。
それにこくこく頷いて、
「私はここにいるけど、本当はここにはいないはずの人間だから。
異分子を取り除くために、送られた異分子・・・・多分、そういうものなんだと思う」
自分も考えながら、言葉を選んで並べていく。
ふいに、瞳をリナに向けて。
「今の、意味わかります?」
「・・・・いいえ」
ゆっくりと、リナは首を振る。
その反応に一つ頷き、
「私の事を説明しても、きっと判らないと思うんです。
それに、私自身も、きちんとわかってるわけじゃないし・・・・」
一旦言葉を切り、刹那は視線を泳がせる。
「何ていうか・・・・世界一周旅行問答無用ご招待っ!みたいな」

・・・・・・・・

『はあ?』
一同の声が重なる。
先程とは違う沈黙に包まれたそこに、やっぱり場違いな明るい声で、
「あ。じゃあ、ご飯食べてもいいですかぁ?」
「・・・・あのねぇ・・・・」
気楽に手を打った刹那の顔は、いつの間にかのほほんとした笑みが浮かんでいる。
思わずそこに、スリッパの一撃が飛んだ。
「っ!?」
涙目で見つめる刹那を叩いた張本人は指差して、
「さっきまでの緊張感は一体なんだったのよ!」
「あ。そのほうが雰囲気でるじゃないですかぁ」
「余計な事考えるな!」
「・・・・成る程、演出か・・・・」
「ゼルも納得しない!」
きーっ!と頭を抱える彼女に、刹那は頭をさすり、メニューを見ながら、
「でも、言った事は本当ですよぉ・・・・」
「そうなんですか?」
アメリアの声に、はい、と答えて、メニューを隣に渡す。
「きっと共通点を探す以前の問題だと思うんですよぉ」
「だから、話すことはない、と?」
「まあ、そーゆー事で」
それで話は終わりだと言わんばかりに、がたり、と席を立つ。
「ガウリイさん、席代わりましょー」
「何で代えるんですか?」
アメリアが問いかけるのに、刹那は当たり前だという様に、
「平和な食事がしたいですから」
言うと、歩いてきたガウリイに席をあけわたし、隣のテーブルにすとん、と座った。
「そうですねぇ。じゃあ、僕も向こうに」
ゼロスも、さっさと隣へと歩いてゆく。
刹那は、ゼロスが正面に来たと同時に、すす、と手を挙げて、カウンターの方に声をかけた。
「すいませーん。オーダーお願いしまーす」


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区切る場所に迷ってしまって・・・・結局一気に投稿です。

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30242りめいくっ!song52004/6/20 19:25:48
記事番号30189へのコメント

どんどん話がずれていく今日この頃。
こんにちは、鮎といいます。
こっそりと、続き、参ります。



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「戦場・・・・・」
ぽつり、と刹那は漏らす。それにしみじみ頷きながら、ゼロスは食後のお茶を手にしていた。付け合せの漬物にぐさ、と楊枝をさして、パリポリと噛み砕く。
「なかなか的を射た表現ですねぇ」
「・・・・そうかもしれんな」
どこか諦めた様に言ったのは、ゼルガディス。向こうのテーブルから、途中でこちらに退避してきた。
三人の視線の先に、そろそろ戦局も大詰めになった戦場が、一つ。
リナ、ガウリイ。そしてアメリア。彼らの周りに広がった皿の数と大きさが、食事の凄まじさを教えている。
そして、その中心に、たった一つ残った食物。
暫し、三人の間に緊張が流れ――
それを打ち破ったのは、ガウリイ。流れるようなフォークさばきで、標的との距離を詰める。刺さる、と思った瞬間、
「させませんっ!」
掛け声と共に、アメリアのナイフがその行く手を阻んだ。そのまま自分の方に皿を引き寄せ、もう片方の手で手に入れようとする。そこに、すかさずリナの握る獲物――つまりはフォークとナイフ――が放たれる。
それをうまく弾いたと思ったのも束の間、再びガウリイが再戦して・・・・
「肉一切れによくあそこまで・・・・」
妙に感心したように刹那が言うのに、ゼルガディスは首を振る。
「あれくらいで驚いては、体が持たんぞ」
「というか、精神的に持たないんじゃないですか?」
「俺はそろそろ慣れたがな」
ゼロスの言葉に、悟ったように頷き、ゼルは紅茶を口に含む。
刹那には、それが開き直りとか、現実逃避とか、そういうものに見えて仕方がなかった。
ともかく、珍しい光景なのは間違いない、と思い、再び隣に視線を向ける。
丁度リナの足と手が、他の二人を抑えたところで、どうやら決着がつきそうである。
「やれやれ・・・・」
ひょい、と肩をすくめて、ゼロスが丁度お茶を飲み干し。それに代わりを注ごうかと、刹那はポットに手を伸ばして――
その手が、びくり、と震えた。
「あ・・・・」
かすれた声を息と共に吐き出して、手を伸ばしたまま、テーブルに伏せる。
「セツナさん?」
ゼロスの声も、何処か遠くに感じられた。すぐ隣に座るゼルガディスが、何かおかしいと、仲間の方に声をかける。その声も、幕を隔てたように、うまく聞き取れない。
(来る・・・・)
脈絡もなく、頭に浮かんだ言葉の意味を自分の中で一瞬考え。唐突に、答えがひらめいた。
同時に、体の奥底から、熱とも寒気ともつかないものが、湧き出してくる。
「・・・・セツナ!」
耳元で、大音量の声が響いた。それと同時に、耳を隔てていた幕が消えていく。
体の感覚が元に戻ったのを確かめる間もなく、体を起こして立ち上がる。
「・・・・っ!」
ぐら、と傾ぐ体を正面のガウリイが支えてくれた。
「ちょっと、大丈夫?」
「一体どうしたんです?」
口々に声をかけるリナとアメリアに答えずに、刹那は言った。
「早く・・・・此処から出なきゃ」
「どういうことです?」
「来る。あれが、ここに来る」
ゼロスにすかさず言い返し。その言葉の意味に気付いた彼は、窓の外を見つめる。
「まさか・・・・」
「・・・・?」
言いかけたリナの隣で、ガウリイが顔を上げた。ゼロスと同じく外を見つめて、
「何か来るぞ」
剣の柄に手をかけると、外に飛び出す。リナ達も後を追って、一歩外に踏み出し――

爆音が、辺りに響き渡った。

その瞬間、リナを取り囲むように、黒い何かが表われた。とっさに動きが止まった彼女に、棘のようなものが伸びる。しかし、それを剣の一閃が切り落とす。
「ありがと、ガウリイ!」
叫ぶな否や、その手に灯る、紅い輝き。
「ファイアー・ボール!」
投げ込まれた火球が、円陣に並んでいた数対を焼き尽くす。そこから包囲を突破して、振り向きざまに、もう一発放つ。と、そこに声が重なった
「エルメキア・ランス!」
アメリアの術で、周囲の敵は一掃された。彼女がほっと息を吐いたのも束の間、
「屈め、アメリア!」
反射的に低くした頭の上を呪文の一撃が過ぎてゆく。背後に現れていた影が、音もなく、消えた。ゼルガディスは勢いのまま彼女の隣に走り寄り、三度表われた影をなぎ払う。
辺りを見渡すと、あちらこちらで、建物を打ち砕く影の姿。
消えては、また表われる影を睨み。舌打ちと共に、言葉を吐き出した。
「きりがない・・・・」


宿の中にも、それは現れていた。他に客がいなかったのが不幸中の幸いである。
宿内に取り残された二人に、というより刹那に向かって影はじわじわと距離を詰めて――、一定の距離で、その進行が止まる。それを感慨もなしに見つめて、
「歪み、みたいですねぇ」
やれやれ、と呟くと、ゼロスは傍らに声をかける。
「セツナさん、動けますか」
「大丈夫・・・・多分」
椅子に腰掛けた姿勢で、刹那は頼りなげに返事をした。
自分でも体がどうなったのかよく分からない。何度か体の節々をくるくる回して、彼女はゼロスの脇に立ち上がった。
二人から数メートル離れた周囲を、『歪み』はぐるりと取り囲んでいる。むしろ、そこから先に進むことができないらしく、伸ばす触手も、見えない壁に阻まれて、難なく消え去る。
ゼロスの仕業かな、と刹那は思いながら、先ほど感じたものを、口にした。
「変なのがいるよ」
「変なの、ですか?」
おうむ返しに言う彼に、刹那はさらに説明しようと、言葉を選んで。口を開こうとした瞬間、視界がぶれた。
「わ・・・・」
ぱちぱち目を瞬くも、一向に良くならない。壊れ掛けのテレビみたいだ、と思う。
「どうしました?」
「目が変になったぁー」
訴えても、その様子が伝わるわけもない、と思った。が、刹那の訴えに深く頷いて――心なしか不思議そうにしながら、彼は言った。
「僕もです」
白黒ですよ、と彼は呟いた。同じような状態らしいお互いを見つめると。ゼロスが口を開いた。
「セツナさんのいう、変なものを探してみましょう。視界が悪いですが、いけますね?」
「大丈夫。ゼロスは平気?」
「問題ありません」
まあ、魔族ですし、と付け足すと、目が利かなく、動くに動けない刹那の手をとった。そのまま手を引いて、周囲に壁を展開したまま、歩き出した。
外に出たとたん、剣の打ち合う甲高い音が聞こえてきた。目で確かめることはできないが、声からしてガウリイだ。

――刹那。聞こえるかい?――
(・・・・全身真っ赤な目の痛くなる人の声!?)
突然の呼びかけに、刹那は声を出そうとして、慌てて口を閉じる。隣で不審げにこちらをうかがうゼロスをとりあえず視界の外に追いやって。返事をしていいのか困ったそこに、再度声が聞こえてくる。
――心配ないよ。君の考えはこっちで勝手に読み取るから。
  それより、君に伝えたい事があるんだ――
一呼吸置いた後、彼は刹那に手短に要件を告げた。

そこで、刹那はゼロスに問いかけた。
「リナさんはいる?」
「ええ」
「出来るだけ人の多いところに行って、って伝えて」
「人の多い所、ですか?」
普通逆でしょう?との言葉に首を振り、刹那は伝えてもらうよう頼んだ。それにとりあえず了承して、ゼロスはその理由を問いかけた。それに刹那は首をかしげて、
「勘・・・・というか」
「・・・・大丈夫なんですか、それ」
「平気だって」
気楽に笑うと、隣でため息をつくのが感じられた。ため息をつきたいのはこっちだと思う。
(突如聞こえた声が言ってました、なんて危ない人みたいで言えないんだよぉ・・・・)

「人の多い所?」
ゼロスからの伝言を聞いた瞬間、何かの間違いかと思った。が、そうではないらしい。
刹那の言葉だというが、本当に大丈夫なのか。それを呟くと、近くで影――歪みらしい――を切り伏せたガウリイが、何故か賛同した。理由を聞くと、
「勘だ」
「あんたに聞いたあたしが馬鹿だったわ・・・・」
理論的な答えを得る事は無理だ、と悟る。同時に、それを何故か感じ取った刹那に、疑問がわいた。まさか、ガウリイのような野生の勘ではないだろう。
何かの力なのだろうか。でも、その『何か』が判らない。
「・・・・みんな。広場まで走るわよっ!」
とにかく、今は刹那とガウリイの感じた事を信じるしかなさそうだ。
刻一刻と増え続ける歪みの大群に舌打ちして、リナは声を張り上げた。

「次はどちらに?」
「えーと・・・・こっち」
真っ直ぐに伸びた腕のほうへ、ゼロスは彼女の手を引いて歩いた。走ると、防御の質が落ちる。これくらいの速度が、安定していて丁度いい。
道すがら、違和感の正体を問いかけてみたものの、刹那自信もはっきりとしたことはいえないらしい。ただ、それを見つけて何とかすれば、この状況が収まる。それは確かだと思う、そう言った。
相変わらず二人の視界は良くはならない。むしろ、刹那の方は悪くなる一方らしく、ゼロスの手を握る力が無意識にか、強くなっている。
魔族に簡単に自分の運命を任すそのおろかさに、不意にゼロスは笑いたくなった。だが、何かをする気も起きない。ただそれだけ。衝動的に笑いがこみ上げただけである。
それに気付いてはいないだろう刹那は、不意に声を上げた。
「ありがと」
「・・・・何がです?」
「んー・・・・いろいろと、かなぁ?」
あっけらかんとした口調で、あまり見えていない目を、ゼロスの方へと動かして、にっこりと笑う。それを、ゼロスは心底不思議に思った。
「お礼を言う必要はありませんよ。僕は単なる仕事の一環として」
「いいからいいから〜。私はお礼言いたい、って思ったんだもの」
「そういうものですか?」
「そういうものです」
こくこく頷く彼女に、心底呆れる。魔族とわかっていながらの、その態度に。そして、また笑いが浮かんできた。
嘲りではなく、苦笑として。
それに気付く筈もなく。刹那は、ひょい、と腕を挙げた。
「あ。次、そっち」


###############



どんどん話が訳判らなくなってきましたね。
文才が欲しいー・・・・
では、失礼しました。