◆−手札を伏せて微笑む女(ゼルアメ)−忍野G (2004/6/8 01:29:11) No.30170
 ┣さぁ、覚悟してもらおうか。―ZtoA−星村さゆる (2004/6/8 10:43:00) No.30173
 ┗ノーガード顎突き出し+微笑み?−たま (2004/6/8 12:59:37) No.30174


トップに戻る
30170手札を伏せて微笑む女(ゼルアメ)忍野G URL2004/6/8 01:29:11



「うわー……すごく綺麗ですね!」
鬱蒼とした山間に、ふいに広がった光景に感嘆の声が上がる。
かなりの広さを持つ深緑色の湖面は多種多様な浮き草に覆われ、
照りつける陽光を反射し、不必要なほど派手に煌めいていた。
道を逸れて湖岸に駆け寄る好奇心旺盛な背中をちらりと見遣る。

王宮育ちで世間知らずの呑気な女。

暫し間をおいて向きを変え、重い靴先で砂利を踏む。
湖岸といっても水面からはかなりの高度があり、
眼下に見下ろす深緑の鏡は遠く崖下の彼方に光っていた。
澄んだ緑が徐々に深まり、一切の視界を遮って闇色に沈むさまは
湖の底がどれほど深いかを物語っている。
……厳密に言えば、これは湖ではない。
ゼルガディスは楽しげに瞳を輝かせている少女の隣に立った。
「綺麗か」
「とっても綺麗です」
何度目かになる同じ言葉を繰り返すアメリア。

「この底には小規模な町がひとつ、沈んでいる」

えっ?と見張られた蒼が自分を見上げた。
「ここより下流にある大きな町では頻繁に水害が起きてな。
 その存続のために犠牲になった……非力な湖底の廃墟だ」
大きな力が小さな力を制するのはいつの世も同じ。
「でも……多くの命を救うためなら仕方がないですね」
「いかにも統治者らしい王族の意見だな」
「どういう意味ですか?」
「沈んだ町を終の棲家にと暮らした人々もそう思って割り切ったろうさ」
眉を寄せて視線を湖面に移すアメリアに、口端だけの笑みを送る。
何が何処になんのために沈もうが、そんなことはどうだっていい、自分には関係ないことだ。
だが、ここで鬱陶しいまでに気楽な笑顔を見せる蒼が気に入らなかった。
「水の底ってのは何が潜むか分からんもんだ。見えないだけに空恐ろしいこったな」
深く深く色を落としてゆく見えない湖底を覗き込む。
澄んだ蒼が同じように色を沈めていくさまを見たくて視線を移した。
「ここに沈むのが単なる廃墟だけだと思うか?」
湖面の煌めきに目を眇めたアメリアは答えない。
「確かに綺麗な眺めだ、あんたの言うとおりな」
嘲りを含んで軽く言い捨て踵を返した。

「でも、見えないものを無駄に恐れても仕方ないですよ?」

思いのほか陽気な口調が背後で上がる。
足を止め、振り向いて声の主を見据えた。
「ちょこっと頭を突っ込んで覗いてみたら、案外どうって事ないかも知れないし」
「頭を……突っ込む?」
自分でも間抜けに思える声音で繰り返す。
「こう……水面からちょろっと。あ、でも……」
蒼が気遣うように瞬き、僅かに首を傾げた。
「ちょこっと覗くのも怖かったら、無理にとは言いませんけど?」


………この野郎。


王宮育ちで世間知らずの呑気な女が、肩を竦めて脇をすり抜ける。
なんにでも言葉通りに気安く頭を突っ込む鬱陶しい背中を睨み付けた。
底の知れない湖底であろうが、剣を通さぬ岩肌であろうが。


覗いてみたら、どうって事ないだと?


舌を打って後を追う。
王宮育ちで世間知らずの呑気な女………
底に何を潜めているのか、確かに覗いてみたことはない。
興味もないが、恐れているなどと言わしておくのもムカッ腹が立つ。

いずれそのうち、頭を突っ込んで覗いてやるさ。
………気が向いたらな。

どうせ、それこそ………どうって事ないはずだ。


自信なさげに湖面を振り返って止めた足を、再び踏み出しマントを払う。


目の前に伏せられた鬱陶しい女の手札の正体は知れず。



今はまだ、湖面の煌めきに目を眇めるばかり。




今はまだ。
 

トップに戻る
30173さぁ、覚悟してもらおうか。―ZtoA星村さゆる 2004/6/8 10:43:00
記事番号30170へのコメント

魔剣士、お前可愛いな・・・
というのが読み終わった最初の感想でした。

 こんにちは、忍野さん。ここで忍野さんの作品にレスさせて頂くのは初めてです。うわあ緊張!祝!初レス☆どんどんぱふぱふちゅどーん。あ、最後の音は気にしないでください。

 湖面の底に町が沈んでる、ってとこにドキッとしました。(実はこういうのツボなんですよvvv街+水って組み合わせ)ゼルは「何が潜んでいるのか見えないだけに空恐ろしい」と言ったのに対し、「頭を突っ込んで覗いてみたら、案外どうってことないかも」とアメリア。・・・この子だったら本気でやりかねん、と心配したんですが(笑)なんて言うか、この発想の違いが。正反対な思考が。ああ、ゼルアメなんだなぁって。
 
 ゼルの捻くれた見方―案外こちらの方が普通の見方なのかも知れません;―をものともせず、サラリと返すアメリアが大好きです!!しかも、ちっとも飾らない言葉で。「どうって事ない」なんて・・・vv物怖じしないところが好きです!・・・実は思いっきりゼルを挑発してるとも知らずに。
 
 んでもって悔しがってるゼルが・・・ゼルがvvVああもう可愛いなぁ君。まぁ世間知らずだと見下してた相手に「自分」が「どうって事ない」なんて言われたら(厳密には言われてませんが)こういう反応もするでしょう(笑)「気が向いたらな」なんてまたお兄さん、充分やる気満々でしょう、なんて言いながら小突き回したくなりました(危ない)誰もあなたを止めはしないから、どんどん突っ込んでください。きっと面白いものがいっぱい見られますよvそうして深みにハマってゆくのさぁケーケケケケ(怪)
 でも、実は嬉しかったんじゃないですか、ゼル。驚いて、呆気にとられて、腹を立てても。こういう相手が―他の人とは違った見方で自分を見て、そして興味が湧く相手―いるってのは、少なくとも独りじゃないということで。楽しみが増えてよかったね、ゼルっち。(ゼルっち?)

 捻くれてて、素直じゃなくて、冷静なのにすぐムキになって、一人で悶々として完結して。何なんだ君は、ですな(笑)こう書くとどうしようもないようなヤツに見えるのに、「かっこいい」と感じさせる忍野さんはすごいです。忍野さんの書かれるゼルとアメリアの距離感が好きです。ふとすると、ないようにも見えるのに、しっかり存在する絆のようで。

 なんか頭がサビてるので言いたいことがまとまらなくて構成もメッチャカですが;;2人の関係が大好きだーーー!!ってことで(笑)
 
 いつか、湖の底までしっかり見られたらいいです。

トップに戻る
30174ノーガード顎突き出し+微笑み?たま 2004/6/8 12:59:37
記事番号30170へのコメント

はじめまして。レ・・レスさせて下さい・・。
ほんとはHPの絵版に何度かお邪魔させていただいた事があるんですが
覚えてらっしゃるかわからないしだから一応はじめましてなたまです。
いきなり挙動不振な感じです。すいません緊張のあまり脳が・・・。

わけわからん題ですが。
格闘技でありますよね。なかなか打ってこない相手に挑発。
怖がってないで打ってこいよ!みたいな。
>「ちょこっと頭を突っ込んで覗いてみたら、案外どうって事ないかも知れないし」
姫樣魔剣士の性格掴んでますね〜。
負けず嫌いの性分で覗いてしまうんでしょう。きっと。
その時は是非カウンターで溺れさせてやって下さい。
かく言う私も忍野さんの文って湖に頭つっこんでみたら
いつの間にかどっぷりと湖底まで引きずり込まれてしまったんですが。

とにもかくにも二人のやり取りが可愛くてもう・・・
やられました。

よくわからんレスになってすいません。
御迷惑じゃなきゃいいんですが。

素敵な文章ありがとうございました。
また読ませていただけるのを楽しみにしております。ではでは。