◆−花は桜ー前編ー−遙 琥珀 (2004/3/28 10:54:52) No.29715


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29715花は桜ー前編ー遙 琥珀 2004/3/28 10:54:52


最初にそれを言いだしたのは、ダルフィンだった。
「お花見に行きましょう」
…………………………………………………………………………………………………………
『はァ?』
一拍遅れて首を傾げる四人。
フィブリゾ・ゼラス・グラウシェラー・ガーヴ。
「…は…はなみ?」
「そうですわv春と言えばお花見と相場は決まっていますわv」
誰が決めた、そんな相場。
そう言ってやりたいのを堪え、フィブリゾは微笑んだ。
ダルフィンが突拍子も無いことを言い出すのはいつもの事なのだから、いちいち突っ込んでいてはキリが無い。
「そうだね、だんだんあったかくなってきたし、物質世界ではそういう季節だね」
物質世界では、というところに特に力を込めて言う。
精神世界の住人にはカンケーないよね、と言いたい訳だ。
しかし…海王がそんな言葉で折角見付けた『面白そうなこと』を諦める様なヤツなら苦労はしない。
フィブリゾの言葉の表面だけを取り、真意には気付かなかった振りをする。
「そうですわvvねぇねぇみんな、行きましょうよお花見v」
「おやまぁ、通じてませんよ。」
ゼラスが棒読みで言う。
ダルフィンは獣王の言葉を無視し、胸の前で指を組み合わせ『お願いポーズ』。
「…………」
フィブリゾは、無表情ですぅっと目を細めた。
因みに、覇王や魔竜王は俯いて話に関わらない様にしている。
数秒の沈黙を破り、冥王は言った。
「よし、行きませう。」
『ええっ!?』
「やったぁv」
妙な言葉遣いで言った彼の言葉に、驚く海王と冥王以外の三人。
ダルフィンは、弾ける様な笑顔でぴょんぴょこ飛び跳ねる。
「ただし、一日だけ!今日の人間時間五時に集合!」
「わーい、夜桜ですわ〜」
ダルフィンは嬉しそうに走っていってしまった。
五時に集合する時には彼女(の部下)特製料理を持参してくるだろう。
「災難だな…海王将軍…」
ダルフィンの去っていったドアを見つつ、ガーヴはぼそっと呟いた。
確かに、あそこでフィブリゾがきっぱりダメだと言っても、ダルフィンは散々ゴネただろう。
いっそ彼女の希望を叶えた方がスケジュール的にも精神的にも結果的には楽である。
「じゃ、そーいうことに決まったからよろしくね」
追い打ちをかける様なフィブリゾの一言に、一同は揃って溜息を付いた。


「…と言うわけでよろしくな」
「解りました。行ってらっしゃいませ」
ゼラスの説明に、ゼロスは笑って(表情的にはいつもと変わらないが)頭を下げ、彼女を見送った。
今回ゼロスはお留守番。
久々に『五人の腹心』だけでのイベントだ。
決定までの過程は不本意だが、決まってしまったものは仕方無い。
こうなったら楽しまなければ損である。
「じゃ、行くか」
彼女は呟き、指定の場所へと飛んだ。


薄い桃色の花弁が、宵闇の中浮き上がって見える。
木々の間に設置された魔力の明かりが、幻想的な雰囲気を醸し出す。
成る程、確かに美しい。
極東の島国を原産地とする品種の花は、ゼラスを少しの間魅了した。
しばらく雰囲気に酔った後、彼女はゆっくり歩き出す。
やがて…何処かから話し声が聞こえてきた。
獣王も良く知っている声。
皆時間よりも早く来ていたらしい。
「おーい、み…」

ぴしっ。

皆…と言いかけ…ゼラスは、音さえ立てて硬直した。
美しい花を付けた木の下…『それ』を見て。










言い訳あんど言い逃れ。


…まあ、そういう季節だってことで。
後編、気長に待ってください。
こんなの待つひとがいるのかどうかは知らないけれど。


                                              幕。