◆−白銀の街3−如月 雨季 (2003/12/2 15:54:39) No.28445


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28445白銀の街3如月 雨季 2003/12/2 15:54:39


 ストーリー進んでません・・・。あぁ〜(泣)
 とりあえず、白銀の街3です。よろしくお願いします。
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ゼルガディス・グレイワーズ。セイルーン魔導学校大学科二年、魔導工学科専攻。眼科治療の聖人『レゾ・グレイワーズ』直系の孫。いずれは彼の経営する病院や研究施設を引き継ぐことになる。一流大学に所属し、容姿に恵まれ、戦闘能力に関してはもはや語る必要も無い。冷静沈着、常に淡々と仕事をこなす彼は、とある依頼に思い切り調子を狂わされていた。

「ご婚約おめでとうございます、アメリア様。本当にお似合いですわね、お二人とも」
「まぁ、ありがとうございます」
 頬を赤く染めながら答えるアメリアは可愛らしく微笑む。誰が想像できよう、木の上で正義の演説を熱く語る姿など。
 最初の依頼は、秘密裏にアメリアを護ることだった。犯人の一部を取り逃がしたのは自分の責任だが、依頼はそれで終わるはずだった。が、アメリアに対する危険は消え去ってはいないため、契約内容の延長がなされた。そしてフィリオネルはとんでもない提案を出した。曰く『アメリアと婚約したことにすれば、怪しまれることもなく堂々と護衛ができる』 
 彼に断る権利はなかった。アメリアには自分を庇って負傷しかけたという負い目があるからだ。それに、アメリアが社交界に出席しなければならない理由が、グレイワーズ医療機関にとっても悪い話ではないからだ。
「ところで、他大陸との貿易はどうなっておりますの? フィリオネル氏が直接現地へ出向いておられるのでしょう、どのような品物が入手可能になるのか是非知りたいわ」
「父からの報告では、装飾品や毛織物が対象になるそうです。特に他大陸の宝石類には定評がありますでしょう」
 他大陸との貿易を開くこと、これがセイルーン財閥の進めている計画である。今までは、一種の防御装置が働いているこの大陸の外との交流はほとんどなく、ほとんど未開の地でもあったが、ごくたまに物好きな商人が外から持ち帰る品物は、質が良いと評判なのだ。だが、実際に貿易を開くにはさまざまな問題が発生する。問題解決の一手段としてフィリオネルは現地へ出向き、アメリアは社交界の要人に説明し、協力を求めている。前に怒った事件は、貿易に反対する人物が仕組んだのだろう。
「・・・これだけ殺気が大きければ、会場に誰が潜んでいてもわからんぞ。まぁ大半は俺に向けられているらしいがな」
「ごめんなさいゼルガディスさん。セイルーン財閥を狙っていた人は多いですから。ダンスに誘われなくて助かっていますけど」
 アメリアは、言い寄ってくる男は全てセイルーン財閥が目的だと思っているらしい。彼女自身、容姿や話術に惹かれた人間がどれだけいるか、知らぬは本人だけである。今回の偽婚約発表で、涙を飲んだ人間がどれだけいることか。そして、その怒りと嫉妬はゼルガディスに向けられる。
「あーらアメリア様、お久しぶりですわね。ご婚約なされたのですって? お祝い申し上げますわ、あなたに懸想していた方々はさぞ悔しい思いをしているでしょうね」
「お久しぶりですね、ファルシア。ご機嫌いかが?」
「少し前までは良かったのですけれどね、先ほどから急に空気が悪くなりましたわ。突然急にね、身の程をわきまえていない誰かさんのせいかしら」
 アメリアと同年代の少女は、わざとらしく視線をアメリアに向けた。ゼルガディスは、アメリアが正義がどうのと叫びだすのではないかとひやひやしたが、彼女は笑顔を保ったままだ。
「それはいけませんわ、テラスで外の風にでも当れば気分も良くなるでしょう。では私は他の方にご挨拶をしに行きますので。あら、あれはルーベン様ではないかしら?」
「ルーベン様がいらしているの?! 私失礼しますわ、お楽しみになってねアメリア」
 彼女は儀礼的に一礼してその場を去った。アメリアは、こういった場での嫌味や嫌がらせには慣れているとはいえ、決して気持ちの言いものではない。正義の名の下に悪を成敗することのほうが、よほどすっきりするというものだ。小さくため息をつくアメリアに、ゼルガディスが声をかけた。
「ファルシア・ランドロス、オーガンの市長の娘か。この前の刺客はあいつが放ったものじゃないのか? ずいぶんと嫌味な言い方をしていたが」
「それはないと思います。今回の貿易は彼女の町にとって悪い話ではないですし、ファルシアの嫌味は今に始まったことではありませんから」
 アメリアは一瞬暗い顔をしたが、すぐに社交界向けの顔に戻った。退屈しているのは自分だけではないらしい。ゼルガディスはテラスで休憩することを提案し、同じく会場内にいる部下の二人にすばやく合図を送った。

 丘の上に立つこの屋敷からは、街の景色がよく見えた。街灯、テーマパークのイルミネーション、民家の明かり、夜の闇に街の光が宝石のように輝いている。夜の風を受けて、アメリアの長い髪が揺れた。
「ゼルガディスさん、空を飛びたいって思ったことありますか?」
「ああ、昔そう思ったことがあった」
 唐突な質問に驚いたが、彼は答えを返した。アメリアは夜景に目を向けたままだ。
「私ね、今でも思うんです。鳥みたいに飛んでいけたらなって。そうして世界を回って、正義を広めるんです♪ 自由に旅をして、悪と戦って、野宿したりして・・・」
「そうすれば狙われることも、無理に笑う必要もないだろうな」
 アメリアは答えず、ただ夜景を眺めていた。
 嫌がらせや腹の探りあい、そういうネチネチとしたものは素直で活発な少女には似合わない。腹立たしさも悔しさも全て押し隠して、笑顔を作る。犯人も目的もわからぬまま、誰かに狙われているというのに、怯えることも、怖いと口に出すこともしない。何もかも正義の力で片付けてしまうお姫様にも、そんな風に考えることがあったとは。戦うアメリアの印象が強すぎたために、今夜の彼女がずいぶんと儚く見えた。
「そろそろ雪の降る時期ですね、ゼルガディスさん」
 話題が変わり、どことなく重い雰囲気から一転して明るくなった。
「雪か、今までみたことがないな。俺は今まで南の方にいたからな」
「もうすぐ見られますよ♪ 雪が屋根や通りに積もって、街が白銀に光るんです。ちょうどその頃に冬祭りがあって、にぎやかな雰囲気になるんですよ。ゼルガディスさん!一緒に冬祭り見に行きましょう!!」
「ああ、問題が解決したらな」
 アメリアは心から嬉しそうに笑って、祭りのことを話し始めた。
 
 そして夜は更けていく。嵐の前の、静かな時を包みながら。
     
      続く