◆−All was Given 〜前書き〜−久賀みのる (2003/12/1 20:49:36) No.28431
 ┗All was Given 〜6〜−久賀みのる (2003/12/1 20:53:41) No.28432
  ┗Re:All was Given 〜6〜−エモーション (2003/12/3 21:10:39) No.28459
   ┗長文読解ご苦労様でした(←待て)−久賀みのる (2003/12/3 22:54:38) No.28462


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28431All was Given 〜前書き〜久賀みのる E-mail URL2003/12/1 20:49:36


 いよいよ師走に突入し、風の冷たさが身に染みます今日この頃、
皆様いかがお過ごしでしょうか、布団の中からこんばんわ。久賀みのるです。


 ……熱は出てませんが、体調が優れないもので……(汗)
 実はノートパソコンをベッドの上まで持ち込んで書いてます(注・まねしないでください)。


 まあ、そんな事はともかく。
 「All was Given」、第六章をお届けに参りました〜。何とかこちらの締め切りには間に合いました。
 HPアップの締め切りのほうは4時間ほどオーバーしましたが(4時まで書いてたとも言う)。
 今回の容量は18KB。8800文字。原稿用紙にして22枚となっております。
 ちなみに、これでも削りました……というよりも、諦めました。
 時間があるときにでものんびり読んでいただければ幸いです。


 なお、前回と同じく、「宣伝レス」、「対談型レス」、「全文引用レス」はご遠慮願います。
 またあらすじなどは書いていませんので、先月分までの話を読みたい方は、
著者別の「のりぃ」のリストからとんでくださいね。


 いつものごとく長い前書きに付き合って頂いてありがとうございます。
 それでは、本文をどうぞ。

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28432All was Given 〜6〜久賀みのる E-mail URL2003/12/1 20:53:41
記事番号28431へのコメント

                             All was Given
                            〜Forgotton Relic〜

 
 王都より南に向かって、徒歩二週間馬車なら十日。
 いくつかの宿場を後にして、港町ポルトスにたどり着く。
 多少肌寒い季節になってきたとはいえ、青い海、青い空、白い雲。
 加えて、港町特有の喧騒と華やかさが、見るものの心を明るくする街である。
 旅に出る人間を見送り、旅から帰ってくる人間を迎え――
 ここにきた旅人を歓迎し、王都へあるいは他の町へ、その手を広げて導く街 ――
 誰が呼んだか、「憧れの港ポルトス」。
 ここまで来るとさすがに過大評価なのだが、美麗な海神アクリタの胸像を船首に掲げた優美な商船や、長さ30メートルを越えるような巨大なガレー船などが、港に次々と入っていき、あるいは悠然と出航して行く、そんな光景を見れば、そんな大げさな呼び名をつけた田舎者の気持ちも少しはわかろうか、そんな気分になる。
 自国内でありながら、どこか異国情緒に溢れているような、そんな町並みの中 ――
 
 
 「おおっ!? 海の魚が新鮮で安いっ!?」
 「デューン! これホタテだよ生だよっ!? 貝柱だけ干したやつじゃなくて丸ごと生きてるやつっ!!」
 「おい、今の見たか今のでかい船っ!? あれ、デクストリアの国章出てたぜ!?」
 「あああいいなぁスカートのお嬢さんがいっぱいっ! 王都だとほとんど外歩く時はズボンだからね!!
 ちょっと肌色が黒いめだけどそれはそれでよしっ!」
 
 
 …………二人は観光気分を満喫していた。
 
 
 
 「……にしてもなぁ……俺ら、こんな事やってていーのか?」
 とりあえず街を回り終え、ざわめきの消えぬ人通りの中、いまさらのように言うデューン。発言自体はまともだが、その手に持ったイカ焼きの串が説得力を消していた。
 「だって仕方ないじゃーん。船が出ないんだから」
 そこらじゅうをきょろきょろと物珍しげに見回しながら、クレイスが返す。こちらはまだ言動が落ち着かない。青い海を振り返り、出店の品物を物珍しげに眺め、美女の生足に感嘆の視線を送るその姿は、何処からどう見ても完璧無比に観光客である。
 「こっちがどんだけ晴れてようとさー、向こうの港のほうが時化だって言うんだから。
 行って行けなくもないって言うけどさ、特別料金払うのももったいないっしょ?」
 疲れたのは発言のせいなのか、発言者の言動のせいなのか。思わず食べ終わった串を片手に空を仰ぐデューン。
 青い空。白い雲。爽やかな日差し。
 遠く潮の香りを運んでくる風。
 「……何か知らんが腹が立ったな。おい。」
 なにやら言いつつ、適当に串をそこらに放る彼。行儀の良くない観光客である。
 もっとも、今彼らが歩いている界隈も行儀がいいとはいえない通りである。通り、というよりも市場だ。それも、土地規制などとは関係無しに自然発生したのだろう、ありすぎるほどに活気のあるような一角である。治安が悪いというほどでもないが、スリぐらいは普通にいるだろう。もとはそれなりに広いだろう道に露店が所狭しと並び、店の主人たちの呼び声が重なり合い、その間を雑多な人々が足早に、あるいは店の品物に目を止めながらすり抜けていく。食料品や生活雑貨を扱う店が多いが、観光客向けの土産物屋や古物商も結構目立つ。下手をすればボられるだろうが、掘り出し物があるのも大概はこういった市なのだ。
 客引きに声を上げる主人、値段交渉を持ちかける客、大人にぶつかって怒鳴られつつも笑いながら走る子供たち。どこかで鶏の声がするのは、生きたまま売るのかその場で絞めるのか。
 いつまでたっても見飽きないような、そんな光景の真ん中で、デューンはぼそっと呟いた。
 「……帰って寝るか。」
 ……飽きたらしい。
 「あれま。 勇者様ってばもう実家にご帰還? 情けない」
 「阿呆か。てかどーゆー理屈だそれは。
 先に宿に帰って寝てるってんだよ」
 船が出ないことを知ってすぐ、彼らは中心通りからやや外れた付近の宿の一室を取っていた。さすがに剣を部屋においていくようなまねこそしないが、街中で必要ない装備一式を暇つぶしの街見物に持っていくのも馬鹿馬鹿しかったからである。
 「まー別にデューンの勝手ってヤツだけど。
 こんなとこまではるばる来てさ、『面倒だから寝る』ってのもどーかと思わない?」
 「港の話じゃあ少なくとも一週間は足止め食うんだろ?
 一日で街全部制覇する義理もねぇだろーによ」
 「それもそーか。
 じゃ、ここで解散の方向性で。僕はそこらで『開放的な港町で異国情緒なお嬢さんとお近づきになっちゃおう ――ときめきポルトス大作戦』を敢行してくるから」
 「……それこそお前の勝手ってヤツだな。
 別に船が出るって時に修羅場んないならどーだっていーけどよ」
 言うだけ言って、くるりと踵を返すデューン。片手を肘からおざなりに上げているのが挨拶のつもりらしい。
 「夕飯までには帰るかーらさー!」
 その背中に、まるっきり子供のようなセリフを投げてから、クレイスは軽く背伸びして、もう一度歩き出そうとした。
 異音が響いたのは、彼らが別行動を取ろうとする、まさにその瞬間だった。
 
 
 ぅおおおおおお…………おぉぉぉぉぉぉん……
 
 
 それは、風の音のような、しかし獣の遠吠えにも似たような、かすれたような、しかし街中に響く強い音だった。
 『!?』
 とっさにデューンは剣を抜き、その横にクレイスが走り寄る。どんな呪文を使うにせよ、その瞬間を狙われれば終りだ。相手の位置が予測できるならそこから距離をとる、相手の位置がわからないなら、盾また壁となりうる剣士の側に移動する。別に神官に限らない、 魔術師達の基本戦略である。
 まして、今回は周りに無防備な町人たちがうろうろしているのだ。周りが無人ならデューンをおとりにして屋台の中にでも引っ込み、側面から不意をついて術を放つ所だが、今回はクレイス自らが魔術を使って敵を威嚇する事になる。
 とっさに迎撃体勢を整え、いかなる状況にも対処できるように思考を切り替える。次のアクションが来るまでの一瞬が長い。
 
 
 ――次のアクションが来るまでの一瞬が――
 
 
 ――何が起こるのか――
 
 
 
 
 
 
 
 ――何も起こらなかった。
 
 
 動きの止まっている彼らの周りを、胡乱な目をした人々が迷惑げに通り過ぎていく。つややかな長い茶髪の少女、子犬を追って走る子供。鶏がさっきよりも余計に騒いでいたが、途中でその鳴き声が止まった。絞められたらしい。
 剣を抜いたデューンの周りに、まるで測ったかのようにきれいに円形に、人がいなくなっているのを除けば、街の人々の様子に変わったところはない。
 「おうおう兄ちゃん! 街中でンな物騒なヒカリモノ見せびらかしてんじゃねえよ! どいたどいた!」
 「あ、 悪……」
 デューンがそう言ってどくより早く、魚の入った桶を担いだその商人は、規則正しい息遣いと歩調で通りの向こうへと駆けていった。
 「……ンだよ、どく必要ねぇじゃんか」
 「……てゆーかさ、僕ら、すげぇマヌケ?」
 「言うな。クサるから」
 毒づくデューン。差し当たっての危険は無いと判断し、剣を背に戻す。背に負った鞘の中に剣を戻すのは実は意外に難しいのだが、慣れたものである。
 剣が鞘に収められると同時に、周りに人ごみが戻りだす。もはやまるっきり日常の風景だ。
 「……で、あれって一体何さ?」
 「知るか。これで俺が知ってたらそれこそ大笑いだ」
 「おんや旅の兄さん方! さっきの音に興味がおありで?」
 首をかしげる二人に露店の主人が、タイミングよく声をかける。
 「んー、まあ一応は。あんた詳しいのか?」
 「いーや詳しいも何も。あれがはじまる前からこの町にいたんですからこちとらは。
 って言っても、この街に住んでるメンツなら、よっぽどの新入りでもない限り知ってるたぁ思いますがね」
 砕けた口調で話しながら実に手際よく、寄って来たデューンに有無を言わさず手羽焼き二本を押し付ける店主。どうということも無いように、多少大きな額の硬貨を代わりに渡すデューン。
 (や、やるなこのおっちゃん!!)
 そして後ろで無意味に対抗意識を燃やすクレイス。商売人根性の琴線に触れるものがあったらしい。
 そのクレイスに向けて、適当に後ろ手に串の一本を差し出しながら、デューンは聞いた。
 「で?」
 「いやぁ、時々あるんですよ。こっからじゃあ見え難いと思いますけどね、街から北東にちょいと行った辺りにちっこい山がありやしてね、そっから聞こえてくるんでさ。
 聞こえ出したのは5年かそこら前からですかね。でも、一年に一度、一月ぐらい割とよく鳴る時があるぐらいで、後は静かなもんですよ。
 知らんうちに山の岩でも崩れて、崩れた岩の間を風が通ってんじゃないかってもっぱらの噂ってヤツですがね」
 「山まではどう行くんだ?」
 「海に背ぇ向けるほうの街道がありやすよね。あれを道なりに行って、途中で細い道が右に見えてきやすからそこを曲がるんでさ。大体こっから2時間ちょいぐらいでつけやすよ。まあ暇つぶしついでで観光に行くならちょうどいいあたりじゃねぇですかね。
 ああ、そーいや崩れた遺跡が発見されたとか前に言ってやしたよ」
 「崩れた遺跡ってぇのは入れねぇのか?」
 「前に神殿の方から調査が来ましたがね。入り口は見つからなかったらしいっすよ。
 砕け落ちてた外壁の方は丁寧に再利用して、後は放っておく方向性で」
 「へー。」
 どうやら、取れるだけの情報は全部出たらしい。
 ならば、取るべき行動は後一つ。
 固い決意を胸に秘め、クレイスはデューンの後ろから、ひょい、と顔をのぞかせて、できる限り無邪気に言ってのけた。
 「……で、おっちゃん、お釣まだ?」
 
 
 クレイスと店主との、情報代値切り合戦が始まる。
 デューンは何となく、空を眺めた。青く高い空に、白い雲が流れていく。
 
 
 意味も無く、疲れた。
 
 
 山への出発は、翌日になったことだけを述べておく。
 
 
 
 
 夜が明けて、次の日。若者たちの足は速い。街から一時間半、彼らは噂の現場にいた。
 奇妙な景色である。全体的に緩やかな斜面に、芝のように裾野を広げる野草、どちらかと言えば丘と呼んだほうがふさわしいような穏やかな風景に、まるで無理やり繋げたかのように、唐突に岩石切り出し場が出現している。荒っぽいやり方だが、どうも山の頂上に当たる部分を切り崩して、遺跡の頂上部分を露出させたらしい。切り崩されて出来たのだろう平らな部分は意外と広く、その広い中に身長以上ある巨岩や岩壁が林立しているため視界が悪い。全部を調べて回るのはそれなりに手間を喰うだろう。
 それほど急でもない上り坂を半ばハイキング気分で登ってきた彼らはまず、しばらく沈黙した。
 強い風が、林立する大岩の間を吹き抜けていく。空は今日も、青く高い。
 「………………人間って凄いね〜…………」
 ぽつり、とクレイスが呟いた。
 「それって遺跡作ったヤツがか? それとも山のてっぺん削って外壁持ってったヤツがか?」
 デューンが、それにぼそっとツッコミを入れる。こちらもまだちょっと呆然としている。
 大抵、古代遺跡と言うものの外壁は ――あるいは内部までほぼ全ても―― 遺失金属(ロスト・メタル) と呼ばれる、極めて硬度と粘度の高い金属で構成されている。現在の人類の技術では一から鋳造する事のできない、錆びない腐らない神秘の合金だが、それを加工しなおすことならば何とかなるのだ。早い話、例え遺跡の中に何が入っているかわからないとしても、外壁を斬り割って市場に流すだけで金になるのである。
 古代遺跡を見つけたらすぐ、侵入口を探し出し、トラップを全て解除してチームで調査を開始する。研究するだけし尽くしたなら外壁バラして売り払う。
 後に残るのは、作業跡ぐらいなものである。クレイスが感心するのもデューンが呆れるのも、無理も無いと言えば無理も無い。今回は、遺跡をまず地面の下から掘り出す作業が必要だったので、作業跡が派手になったのだろう。何処まで掘っても侵入口が見つからなかったので、罠が仕掛けられているはずの無い外壁の破片だけを拾って撤収したわけだ。
 そこここに残る切り出した大岩、砕けなかったのだろう岩壁。すぐ下ののどかな風景と合わせて、何とも言えない味がある。いろんな意味で。
 「ま、でもンな妙なとこだったら岩崩れの一つ二つあってもおかしくねぇわな」
 「……いや、それは無いと思うよ」
 気を取り直したデューンの発言を、大岩を見つめていたクレイスが否定する。そのままその大岩に近づいて、根元を指差した。
 「ここ。きちんと固定してある。
 ――いつこの遺跡を発見して発掘したのかは聞き忘れたからわからないけど――
 そんなに古いものじゃないし、かかり方もしっかりしてるから、よっぽどの強風が無い限り崩れないと思うよ。
 実際、そこまでの強風が吹いた日から音が鳴り出したんなら、町の人も気づくっしょ?」
 「音が鳴るのはせいぜい年に一度、一月ちょいだろ?
 崩れたからってすぐ鳴り出すとは限らねぇじゃん」
 「んー、それもそーかあ……」
 魔物の仕業、という考えは、出て即座に否定されていた。理由は簡単。遠吠えがあれだけ大きく聞こえるという事は、それだけ多くの、あるいは大きな魔物が街の近くにいることになる。もしそうだったら痕跡ぐらいは残っていなければおかしいし、それ以前に5年も人間の街を放置するはずが無い。
 魔物は、人間を襲う。人間を襲うだけなら魔物に限らず野獣でも同じだが、「魔物」と言う呼称は、自分自身の存続よりも人間を襲って殺す事を優先するものにのみ使用される。目の前に手ごろな獲物と武器を持った人間とがいた場合、手ごろな獲物を襲って食べるのが野獣であり、武器を持った人間に襲い掛かり、しかも死体をそのまま放置するのが魔物なのだ。なぜそう言った行動を取るのかは、これまで多くの人間が研究しているにもかかわらず謎である。その動機さえわかれば、あるいは人間と魔物との共存も可能なのかも知れないが――それを今気にしても仕方のない話だ。
 逆に言うと、この前提があるからこそ、デューンとクレイスはこんな所にのこのこと出てきたとも言える。この街はそれなりに人口が多く、かつ警備兵の出動率が低いという事を、仕事柄既に彼らは熟知していた。地域全体でみた場合、魔物の出現率は街に近づくほど高い。よって、この地域にはそう大した魔物はいないと判断したのである。
 「ま、とりあえずてきとーにぶらついてよーぜ。
 何か見つかったらめっけもんだしよ」
 「それもそーだねー。お昼持って来たし。テーブルに使えそうな岩とかあるかな?」
 
 
 ……結局の所、遊び半分な二人だった。
 
 
 
 石切り場の中心、おそらく開かずの遺跡へと続いているのだろう道は、閉鎖されていた。危険なのだろうし、まあ妥当な処置である。
 適当な大岩を風除けにして、宿で作ってもらった昼ごはんを食べる。ナプキンが一枚風にさらわれかけたものの、他は特筆すべき事も無かった。
 食べ終わって後、その辺をぶらつく。岩壁に登るのは危険なので止めた。
 「………………飽きた。」
 「早っ!」
 てくてくぐるりとその場を半周散歩して、早くもデューンがやる気を無くす。別に彼は飽き性というわけではない。せっかちと貧乏性のなせる業である。特に予定も無くのんびりしていると「なんとなく時間を無駄にしているような気がする」という、損な性分の彼だった。
 「何かその辺に暇潰せるもんとかねぇかなー」
 「何かって何さ」
 「音の正体とか」
 「まあ探すものとして妥当ではあるけどさ。実際探してるし。でも見つからないねー」
 とはいえ、飽きるのも仕方がないとも言える。てくてく半周してみたものの、あの音が出そうな崩れた岩は無かった。怪しい所では強風が吹くまで待ってみたりもしたものの、結局何事も無く過ぎたのである。結果的には、遺跡の周囲を休み休み散歩してきたのと大差ない。別に何事も無かったからといって損するわけでもないのだが、さらにもう半周回っても不毛なだけのような気がする。
 「この際だから回るの止めてウサギでも狩るか。保存食にもなるし」
 「ウサギ? いないんじゃないかな。茂みが無いから」
 このあたり一体は、土の下がすぐ岩盤らしい。逆に言えば、天然の丸い岩盤をカモフラージュとして使えるからこそ遺跡が作られたのではないか、という推測も出来る。さらに深読みすれば、岩盤自体が実は人工物で遺跡を保護するために作られたものである、とも考えられないことも無い。いずれにせよ、隠れる茂みどころか深い巣穴も掘れないような場所にウサギがいるとは思えない。
 「じゃあ鳥でも射るとか」
 「弓矢なんて無いよ? 魔法使うのももったいないしさ。てかそれ以前に風強いからヤだ」
 よく晴れた青空を一羽二羽、鳥が飛んでいく。飛んでいくのをただ見ているだけである。なにやら悔しい。
 「……腹筋でもやるか……」
 「安っ!!」
 「じゃあなにかすることあんのかよ!?」
 「……しりとり。」
 「ちまっ!!」
 「じゃああと半周してから街に帰るっきゃないじゃん」
 「……そーなんだよなぁ……あと半周あるんだよなぁ……」
 当たり前の話だが、遺跡周りを半周したので、もう半周しないと街への道に出ない。
 「じゃあ2で足して割ろう。しりとりしながら遺跡半周」
 「……それって割ってねぇし」
 「ほほー。んじゃあ腹筋しながら遺跡半周できると?」
 「出来るか!! それって人間技じゃねぇ! つかむしろ人間じゃねぇだろそれ」
 
 
 ぅるおおおおおおぉぉん!!
 
 
 何の前触れも無く。
 突然、彼らが通り過ぎてきた方角から、あの異音がした。
 思わず振り返る彼ら。そして何も変わらぬ石切り場の風景。高い空。
 空を飛んでいった鳥たちが、慌てて飛び去っていく。何となく、それを目で追った。気の抜けまくった瞬間の異常には、人間対応し難いものである。
 やがてクレイスが、デューンの肩に、軽くぽんっ、と手を置いて、
 「デューン? ツッコミ、入ったよ?」
 「入るかボケぇ!!」
 とりあえず肩の上の手の平を軽くひねって極めた後にそちらに向かって走り出すデューン。
 音のしたあたりで立ち止まり、周囲を注意深く見回すと、石切り場とは逆の方向の天然の岩場に、それなりに大きな洞窟があるのを発見した。
 手をかざすと、風が吹き込んでいる。どうやら窒息する恐れはなさそうだ。
 肩から荷物袋を下ろし、洞窟探索基本セットを確認する。ランタンに油を移し、火打石で火を入れようとしたところで、クレイスの膝蹴りをくらって横転した。
 「ぁにすんだコラ!!」
 「こっちのセリフだ!! さすがにさっきのはちょっと痛かったぞ!!」
 「ちょっと手の平ひねられたぐれぇが何だよ!?」
 「ちょっと!? 何がちょっとだよ!! さらっとツボ入れただろー!?」
 「肩凝ってんなぁお前。」
 「ちーがーうー!!」
 「っつーか油と火ぃ使ってるときに後ろから蹴り入れんな。そこらにこぼれて引火したらどーする気だこら」
 「大丈夫!! デューンがその程度でどうにかなるわきゃないからね!! てゆーかむしろ焼きたいぐらいの勢いだし!! 何かあったら焼死体に責任かぶせるし!!」
 「ほれ点いたぞ。ランタン持っとけ。」
 「了解!! 任しといて!!
 
 
 ……………………って流された……………………」
 絶妙なタイミングで荷物を受け渡し、確認を終えた道具類を全部袋にしまい直す。
 「おっし。じゃあ行くか!!」
 「…………後ろから油流しちゃろか。こいつ。」
 後ろから聞こえたクレイスの呪詛にはあくまで聞こえぬ振りをしつつ、デューンは洞窟へと一歩を踏み出した。
 
 
 
 ――そして、彼女の意識は覚醒した。
 闇の中だが、彼女自身には何ら影響は無い。闇を見通す目を持ってから、もう随分になる。
 そうするまでも無いのだが、状況をもう一度確認する。
 単純だ。不法侵入である。それらを排除すればいいだけの話だ。
 彼女にはわかる。若い男二人らしい。入り口付近で言い争った後、一人が先行して踏み込んだ。こちらの脅威を感じ取ったのならかなりのものだが、それにしては言動に隙がありすぎる。入る前の口論も、この遺跡自体とは関係ない単なる仲間割れだろう。
 何も気づかない一般人など、大した相手では無い。ただの洞窟の振りをして、ある程度行った先の部分を封鎖しておけばいい。
 だが―― 彼女の知覚を、あるいは興味を、引くものがそこにあった。
 フィジカル、サーモ、エックス=レイ、サウンド、そしてアストラル――過ぎるほどに多岐にわたる彼女の視界には、隠されたそれがはっきりと見えたのだ。
 見えたそれは、運命を否定する運命、常に絶望と二重螺旋を描くその存在 ――
 
 ――もう、そんな時間なのか――
 もはや、猶予はないのだろうか。
 
 
 彼女は、決断を下した。
 
 
 
 
 デューンは、洞窟に、一歩を踏み出した。
 いきなし足元に落とし穴が出現した。
 「っだぁぁぁぁぁっっ!!」
 とっさに、縁につかまるデューン。反応が早かったため、肩から上が地上に残る形で落ちずに済んだ。
 「デューン! 大丈夫? ついでにその手ぇ踏んでもいい!?」
 「さらっとシャレんなんねぇこと言ってんだろてめぇっ!?」
 間髪入れずにツッコミ入れつつ這い上がるデューン。立ち上がってからランタンで穴を照らしてみると、意外に深い。下のほうに見える白い何かは多分動物の骨だろう。人間の子供の骨でないという保証も特に無いが。
 「………………やっぱ人為的なトラップか?」
 落とし穴の縁が四角い。足元が岩盤になっている自然洞窟内で、通常起こる形の崩壊では無い。
 「いやでも、奥に誰かいるとも限ったわけじゃないよ?
 だとしたら、何が楽しくてこんな洞窟の中に引っ込んでるか、ってことになるし」
 言いながらも、クレイスが荷物袋から伸縮棒を取り出す。大体3メーターほどの長さがあり、床を叩いて落とし穴の有無を調べながら進む道具だ。
 「知るかンなこと。
 わかってんのは、油断大敵だってことぐらいさ」
 デューンがそれを受け取って引き伸ばし、来た床とこれから行く床とを叩いて、音を確かめ、先頭を歩き始める。
 彼らの足音に、かつん、かつん、という床を叩く音が加わって、洞窟の奥へと響いていった――
 
 
 ――彼女は残念だった。
 もし、あそこでもう少し反応が遅かったら――
 彼の垂直跳び能力が測定できたものを。

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28459Re:All was Given 〜6〜エモーション E-mail 2003/12/3 21:10:39
記事番号28432へのコメント

こんばんは。

体調の方は大丈夫でしょうか? 具合が悪いときにパソコンの画面を見ていると、
余計に酷くなることがありますので、あまり無理をなさらないようにして下さいね。
お身体、ご自愛下さいませ。

さて、お待ちしておりました6章。
港町で観光を満喫するデューンくんとクレイスくん。
〃勇者(かもしれない)〃として、旅をしているとは言っても、知らない土地へ
来たのですから、無理もないですよね。
「魚が新鮮で安い」とか「生のホタテ、貝柱だけじゃない」に喜ぶ姿から、
生活感と王都が内陸にあることが良く分かります。
街に響く謎の音……デューンくんとクレイスくんの行動に、街の人達が避けてはいても、
特に気に留めていないあたり、余所から来た人は、同じような行動する人が
多いのかなと思いました。
そして洞窟……。
デューンくんの、多分痣に反応したと思われる〃彼女〃の目的……。謎ですね。
何より何故、垂直飛び能力を測定したかったのかが(汗)
もしかしたら、この先、〃彼女〃はトラップにかこつけて、デューンくんの
体力測定でもするのでしょうかと、そんな発想が浮かびました。
敵なのか味方なのか分からない〃彼女〃。
何だか知らず知らず、ごく自然な形で行くべき場所へ来てしまったような、
デューンくんとクレイスくん。洞窟の中を突き進む二人に、この先何が起きるのでしょうか。
続きが楽しみです。

変な気候が続いていますが、それでも冬だけあって、さすがに寒くなっていますので、
風邪などには十分ご注意下さいませ。
それでは、拙い感想ですみませんが、この辺で失礼いたします。

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28462長文読解ご苦労様でした(←待て)久賀みのる E-mail URL2003/12/3 22:54:38
記事番号28459へのコメント

 こんばんは。久賀でございます。
 8800文字もの長文読解、ご苦労様でした♪
……って、書いた当人が言っていいセリフじゃないですね(汗)
 とは言え、これぐらいの長さずつは書いていかないと本気で終わりませんので、
申し訳ないのですがお付き合い願います。
 寝付けないときに読むともれなく寝られます(こら)

>体調(まずそれかい) 
 ご心配ありがとうございます。おかげさまで大分ましになりました。
 具合が悪いときにはきちんと厚着をしてパソに向かっていますので大丈夫です(←解決になってません)

>観光風景
 王都そのものも内陸にあるのですが、
基本的にグラディエルスは北国ですので、「南の明るい海」というのに
国ぐるみで縁があまりないのですね。だからこそ「憧れの港」なんて
恥ずかしい二つ名が、最南端の港街についてしまったり、とゆー(爆)
 生活感は、むしろ出すように努めてます。旅行の風情が少しでも出ていれば幸いです(笑)
 ちなみに謎の音。割と、ああいった対応をする人は多いです。
特に傭兵ですとか魔物を相手にする職業の人間ですね。船員さんなんかは
船の汽笛か何かがボケて聞こえたかと思って相手にしない人も多かったりします。

>ザ・測定魔(ぇ?)
>トラップにかこつけて、デューンくんの体力測定でもするのでしょうかと

 ぐはっっ!!(←吐血(をい))
 
 さ、さすがにこれはバレバレでしたね〜(汗笑)
 「勇者→RPG→ダンジョンアタック!→罠」と言う、
単純極まりない作者の連想からこういうことになりました。
 とはいえ、トラップを仕掛ける理由として、「相手の能力を知る」
というのも確かにある訳で。「敵を知り己を知れば(以下略)」
というやつですね。何でそこまで詳しく知る必要があるのかはまた別の話ですが。
 
>続きが楽しみです。
 ありがとうございます。その言葉が励みです(涙)
 ちなみに、1月には7章投稿予定ですが、2月か3月には休載するかもしれません。
 HP(MIDI)の方もどうにかしたい所ですので(汗)

 風邪も流行っているようですね。お互い気をつけて養生しましょう。
 それではこのあたりで。長文失礼いたしました。