◆−空に咲く花〈前編〉−柚乃 (2002/11/22 18:16:24) No.23414
 ┣初めましてv−リア (2002/11/24 19:58:00) No.23466
 ┃┗こちらこそはじめましてです♪−柚乃 (2002/11/27 18:22:49) No.23503
 ┣空に咲く花〈後編〉−柚乃 (2002/11/27 21:57:08) No.23505
 ┃┗Re:空に咲く花〈後編〉−空の蒼 (2002/11/29 16:17:43) No.23529
 ┃ ┗ありがとうございますっ!−柚乃 (2002/11/30 20:27:43) No.23548
 ┣空に咲く花 ANOTHER    〈前編〉−柚乃 (2002/12/3 21:08:53) NEW No.23597
 ┗空に咲く花 ANOTHER   〈後編〉−柚乃 (2002/12/3 21:32:04) NEW No.23598
  ┗はじめまして−エモーション (2002/12/4 21:05:14) NEW No.23616


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23414空に咲く花〈前編〉柚乃 2002/11/22 18:16:24


 
 こんにちは。数ヶ月ぶり……とゆーか以前一回投稿して、それから数ヶ月、投稿もレスもなんもしなかったとゆー最低人間な柚乃です。
 いえでもこれには事情がありまして。前回投稿してすぐくらいに家のパソコン君がクラッシュしてくれやがりまして………その後買い換えたのですが、その後もしばらくネットができない状況にあって、復活したのがけっこう最近だったりします。
 ので、もし前回の投稿にレスしてくださった方がいたとしても、お返事はできてませんです………ごめんなさいっ!
 ………とまあ挨拶(?)はこのくらいにして………懲りずにまた投稿です。
 今回のお話はカップリングは特にないです。どっちかとゆーとほのぼの。
 たぶん前後編になると思います。内容は………あましないかも(汗)


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    空に咲く花


 行き交う人々。立ち並ぶ露天。通りを駆け回る子供たち。ちょっと大きめの町ならば何処ででも見られる光景がそこには広がっていた。
 ここはカルマート公国のほぼ中央に位置するリステル・シティ。シティというわりにはさほど大きくもないが小さくもない、ごくごく平凡な町である。
「じゃあ、今日はここで一泊かしらね」
「そーね」
 通りを歩きながら話しかけてくるアメリアにあたしは適当に相槌を打った。
 今はだいたい午後のティータイム、という時間である。確かに、いくらそうそうのんびりしていられるような状況ではないといっても、今から次の町に行くというのはちょっと無理がある。
「でも久しぶりだなぁ、この町」
「なんだ? 前に来たことあるのか? リナ」
「まーね。もう………三年くらい前になるのかな」
「へぇ………」
 ガウリイと話しながらあたりの様子を見回してみる。三年、という月日はあたしにとってはけっこう長い気がするのだが、町にとっては全然たいした長さではなかったらしく、通りの様子もほとんど変わっていない。これなら道に迷う心配もないだろう。
「んじゃま、とりあえず宿を取って落ち着きましょーか」
 あたしの言葉に三人が頷くのを確認して、あたしは通りに歩を進めた。


「リナちゃん!? リナちゃんかいっ!?」
「おばちゃん、久しぶり」
 宿屋の扉を開けて入ってきたあたしを一目見るなり目を丸くして声を上げたおばちゃんにあたしは片手を挙げて挨拶をした。
「おやまぁ久しぶりだねぇ! いやもう三年ぶりくらいになるのかい? まったく、たまには遊びに来てくれたらいいのにさ………そういえば、フロルさんのとこにはもう行ったのかい?」
「あ、いや、まだだけど………
 おばちゃん、全然変わってないわね………」
 そのままいつまでもしゃべっていそうな勢いのおばちゃんに、あたしは思わず少々引きつった笑いを浮かべた。
 そーだった………そーいえばこの人ってこーゆーマシンガントークをかます人だったっけ………
「そりゃーそうだよ。いったいあたしがいくつだと思ってるんだい? 三年やそこらで性格やら見た目やら変わっちまうほど年季は浅くないよ!
 でもリナちゃんはずいぶん変わったねぇ………いや変わったっていうより成長したね。前はもっと子供っぽかったけど………背も伸びたみたいだし」
「当ったり前でしょー!? 成長期なんだからっ!」
「………成長………してるか………?」
「やかましーわよっ! ガウリイっ!」
「………おや?」
 ひたすら失礼なことを言ってくるガウリイに蹴りを入れるあたし。
 と、そこではじめておばちゃんも後ろの三人の存在に気付いたらしい。
「おやま。お連れさんがいたのかい」
「うん。でさ、おばちゃん。部屋、空いてる?」
「ん―………リナちゃん、フロルさんとこにはまだ挨拶しに行ってないんだよね?」
「へ? う、うん………まだ、だけど」
「じゃあ宿泊はお断りだね」
「へっ!? ち、ちょっと、おばちゃん!?」
「宿泊を断られるなんて………リナ、この町で昔何をしたのよ?」
「悪いことは言わん。とりあえず謝っておけ」
「そうだぞ。お前が昔この町で何をしでかしたのかは知らんが謝れば許してくれるかもしれんぞ」
「うだああぁぁぁぁ! あんたらはぁぁぁぁ! いったいあたしをどーゆー目で見てるのよっ!?」
 口々に言う三人にあたしは思わず絶叫した。
「いや………だってなぁ………」
 ガウリイはポリポリと頬を掻きながら、
「実際お前さん、ことあるごとに厄介ごと引き起こしてるからなあ………」
「そうよ。こういう場合、以前リナが何か事件を起こしたか何かした、と考えるのがとりあえず自然よね」
「ああ。まあそれがどういったレベルの物かは別としてだがな」
 こ………こひつら………人をいったい何だと………?
「だいたい、あんた自身自分からトラブルに首を突っ込んでいく性質だろうが」
 やかましい。ゼル。
「ぷっ………」
 妙な声に振り向くと、おばちゃんがこちらのやりとりを見てくすくすと笑っていた。やがてそれは堪えきれなくなったように爆笑へと変わる。
「あ、あはは、くく、ご、ごめんね。だってさ、おもしろくって………」
 憮然とするあたしに、目に涙すら浮かべて謝るおばちゃん。どーでもいいが、説得力は欠片もない。
「何よっ! そもそもおばちゃんが『宿泊お断り』なんて言うからじゃないっ! ………そもそも何でよ?」
「リナちゃんがフロルさんのとこに行ったら、まず確実に泊まってくように言われるさね。そんときにもう宿決めたから、とか言って断りでもしたらあたしがフロルさんとこの子たちに恨まれちまうじゃないか。
 だからさ。まずフロルさんとこに挨拶に行ってきな。
 それで万が一、泊まってくように言われなかったらまたウチにおいで。ま、そんなことは百%ないだろうけどね。
 あ、それからお連れさんたち。そーゆーわけだから別にリナちゃんが前に何かヤバイことした、ってわけじゃないから安心していいよ」
 最後はあたしの後ろの三人に向けられた言葉である。
 むぅ。仕方ない。本当は宿決めて落ち着いてから挨拶に行こうと思っていたのだが。
 ………てゆーかなんか完璧に見透かされてる気がする。実際、もし泊まっていくように言われたらそう言って断るつもりでいたし。
「そういうことならとりあえずそこ行ったほうがいいんじゃないか? リナ」
「そうね。それにそのフロルさんって人のところに泊めてもらえば宿代タダじゃない」
 まあ確かにそのとおりである。
 ………ま、いーか。一泊するだけだし、そうそうなんぞ起こるとは限らないし。
「………ん。分かった。そうするわ」
 

「ねぇ、リナ。これから会うフロルさん、ってどういう人なの?」
「んーとね。この町で孤児院の院長をやってるのよ」
 歩きながら尋ねるアメリアに答えるあたし。
「年は三十歳半ばくらいかな。見た目はけっこう物静かなんだけど、かなり豪快な人よ。
 今はその人が院長やってる孤児院に向かってるわけ」
「へぇ。この町、孤児院があるの?」
「うん。まあ個人で身寄りのない子供たちを引き取って育ててるだけなんだけどね。今は一応町………っていうか領主から補助金はもらってるはずだけど」
「それはすばらしいわっ!
 あ、でも………それじゃあ、リナ一人ならともかく、四人で押しかけたら迷惑になるんじゃあ………」
「ああ、それは大丈夫だと思うわ。あそこかなり広いから寝るところには不自由しないでしょうし。
 それに、豪快な人だって言ったでしょ? 行ったらそーとー仕事手伝わされるわよぉ。特に普段は男手がないから、ガウリイとゼルなんか扱き使われるわよ。きっと」
「そ、そうなのか………?」
 悪戯っぽく言ったあたしの言葉にガウリイが汗ジトで呟いた。
 それにあたしは苦笑すると、
「ま、会えば分かるって」
「ところで………」
 会話が一段落ち着いたのを見計らって、ゼルガディスが口を開いた。
「その孤児院で以前何かあったのか? さっきの様子だと行くのにあまり乗り気ではないようだったが」
「んー………」
 ゼルの言葉になんとはなしに居心地の悪さを感じてあたしはがしがしと頭を掻いた。
「え、そうなの? なんでゼルガディスさんはそう思ったんです?」
「さっきアメリアが言っただろう。宿屋ではなく知り合いの家に泊まれば宿代はかからない。それにリナが気付かないはずがないだろうが。
 なのにリナは知り合いのところに行こうとせずにまず宿屋に行った。宿屋での様子から見て、行けば泊めてもらえるだろうことはリナもおそらく予想していたにもかかわらず、だ。
 ということはそこにあまり行きたくない理由がある、と考えるのが妥当なんじゃないか?」
「なるほど。それはそうね。リナだったら絶対宿代浮かせようとするわよね」
「確かに。リナが出さなくていい金を出すとは考えられないしな」
 あたしがしばし言いよどんでいる間に口々に勝手なことを言う三人。
 ………あんたらが普段あたしのことをどぉ見てるのかすごーくよく分かるわね。
「そ、それで………」
 あたしの険悪な視線に気付いたかアメリアが慌てたように言う。
「で、やっぱり以前何かあったの?」
「んー………そういうわけじゃないんだけど………宿決めたらちゃんと挨拶に行くつもりだったし。
 ただね、今の状態のあたしが行くと厄介ごとに巻き込んじゃうんじゃないかと思って」
「魔族関係の、ということか?」
 ゼルの言葉にこくん、とあたしは頷く。
 そうなのだ。今現在あたしは何故かは分からないが魔族に狙われている。そうそうのんびりしていられないというのも、この状況をなんとかするためにディルスへ向かっている真っ最中だからなのである。
 以前セイルーンであたしを殺そうとした魔族は、無関係な人間は殺さない、と言っていたが、それだって絶対そうだなどとは言いきれない。
 盗賊とか、人間相手なら全然どーとでもなるのだが………魔族というやつははっきり言ってその辺のやつらとは一桁も二桁も違うのである。
 そんなやつらを相手にしたケンカに巻き込みたくはない。
「なるほど、な。確かにそれはあるかもしれんな」
「でもま、別に長く居るつもりもないし、大丈夫でしょ。
 ――――て言ってる間にほら、見えてきたわよ」
 言ってあたしが指し示す先には、かなり大きな建物が、ほかの家々から少し離れたところにポツン、と一軒建っていた。


 どんどんどん。
 ――――しばしの沈黙。
「はーい」
 声とともに扉を開けたのは一人の女性。見た目だけならだいたい二十代半ばに見える。肩にかかるくらいの柔らかな黒髪を後ろでまとめた、優しそうな美人である。
 言うまでもなく、この孤児院の院長のフロル=カッシェさんである。
 フロルさんはあたしを見て驚いたような顔をしたが、それも一瞬のことだった。それはすぐに満面の笑みに変わる。
「リナさん!? まあ、女将さんがリナさんが来た、って言ってたけど本当だったのね!」
「久しぶりです。元気でした?」
「ええ。私も、みんなもね。リナさんこそ元気そうで良かったわ。
 あ、こんなところで立ち話もなんだし、入って入って! あ、そちらの方々もね」
 そう言って玄関の扉を大きく開けると、フロルさんはにっこりと笑った。


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 はぅ。とりあえず前編終わりでございます。時間軸としては、原作5巻が終わってすぐくらい、とゆーことで………テーマは一応『張り詰めた中のひとときの休息』とゆー感じです。
 あと、次ではオリキャラが出張る予定です。………ってもう出てますが。彼女とは別の人です。
 ではでは、また近いうちに会いましょう〜。

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23466初めましてvリア E-mail URL2002/11/24 19:58:00
記事番号23414へのコメント

こんばんわ、リアと申しますv
パソ直ってよかったですね♪
と言いますか、私が良かったです。
柚乃さんの小説が読めてv
レスとか下手なのですが、その辺りはお見逃しを(^^;)

まずなんか原作と同じようなリナ一人称の雰囲気がすごい好きです。
私だと絶対書けないし(汗)
あとあと原作版のアメリアってのがまたぐーです〜v
リナが昔ここで何したんだとか、すごい気になることがいっぱい。
てゆっか孤児院?とか、謎は深まるばかりです(笑)

続き楽しみにしてるので頑張ってくださいねv
それでは、下手な上に短い感想でごめんなさい(><)


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23503こちらこそはじめましてです♪柚乃 2002/11/27 18:22:49
記事番号23466へのコメント

レスありがとうです〜。
ああこんなでも読んでもらえているのだなぁと素直に感動。
ほんとに感謝ですっ。 
 
>まずなんか原作と同じようなリナ一人称の雰囲気がすごい好きです。

とゆーか私、リナの一人称か三人称しか書けません………なんというか、よく分からないんです、他の人たち。特にガウリイとか、何考えてるのかさっぱり分からないです………あ、でもゼルガディスはけっこう分かりやすいかも。一見分かりにくそうだけど………とゆー感じで。リナの一人称は原作の方でばっちりやってるから雰囲気とか、分かるんですけどねー………

それと最後に。レスが遅くなってしまって申し訳ありませんでした〜m(__)m
続きはすぐ投稿させていただきますっ。


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23505空に咲く花〈後編〉柚乃 2002/11/27 21:57:08
記事番号23414へのコメント


後編です。前編と比べて倍くらいに長いです(爆)
 ………あああごめんなさいっ! いっそのこと中後編にしようかなーとかも思ったんですけど………ま、書いちゃったし。とゆーなんともアバウトすぎる理由(にもなってないし)により前編の倍の長さの後編と相成りました。
 とゆーわけでレッツゴーです。



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「あたしが来てるってこと、もう知ってたんですか?」
 あたしは廊下を歩きながらフロルさんに尋ねる。建物は外見も内装も以前とほとんど変わっていない。廊下は掃除が行き届き、要所要所に花瓶が置かれ花が活けてある。
「ええ。宿屋の女将さんが、さっきわざわざ教えに来てくれたの。
 それからもう大変よぉ? 子供たちがリナお姉ちゃんが来る、って大騒ぎしてね。みんな大広間でリナさんが来るの待ってるわ。
 そういえば、今日はここに泊まっていけるのよね?」
「はい。そうするつもりです」
「あの………わたしたちも、いいんですか?」
 遠慮がちな声でそう訊いたのはアメリアだ。そんなアメリアに、フロルさんは笑って、
「もっちろん。それくらいは全然平気。た・だ・し、その代わりにリナさんも含めてちゃーんとお仕事してもらうわよぉ。特に男の人にはやってもらいたいことたっくさんあるのよねぇ♪」
「………リナの言ったとおりね………」
 うむ。まさしくそのとおり。
 ………何やら後ろで男性陣が顔を引きつらせているよーな気はするが………まあご愁傷様と言っておこう。
 話しながらもあたしたちは廊下を進み、ほどなく突き当たりに辿り着いた。正面には大きな扉。この向こうは大広間になっているはずである。
 ここには二十人ほどの孤児がいる―――といってもあたしが知っているのは三年前のことなので今はどうか分からないが―――のだが、その全員が集まれる部屋はこの大広間しかなかったため、食事など、全員で何かするときはたいていこの大広間に集まったものである。
 なんとなくそんなことを思い出しているあたしを余所にフロルさんは扉を開ける。
 ―――その瞬間。光が、はじけた。


『リナお姉ちゃんっ!』
 声とともに飛びついて来たのはおそらく十歳くらいの子供が五、六人。何故おそらくかというと、よく見えていなかったのだ。これが。
 先程の光の正体は『明り(ライティング)』の呪文だ。もろに不意打ちだったためまともに効いた。
 目に直接ぶつけられたわけではないが、炸裂する光をかなりの至近距離で見たのである。これはそうとうキツイ。
 よく見えないのではっきりとは分からないが、ガウリイたちも似たような状態のようだ。フロルさんがオロオロしている気配が伝わってくる。
 ………こぉいうくだらない悪戯をするのは一人しかいない。
 気配を探り、目を凝らし。目的の人物を探し当てると、張り付いている子供たちをちょっとゴメン、と言って引き剥がし、まっすぐにその人物に近付き―――
 ごげん!
「いった〜!」
 かなり景気の良い音がした。
「何すんだよっ! リナっ!」
「そぉぉぉぉれはこっちのセリフよっ! こぉいう悪戯はやめなさいっ! レイっ!」
 そうとう痛かったのか、涙目で抗議する先程盛大に『明り(ライティング)』をぶちかましてくれた十二、三歳の少年、レイファス=シードをあたしは思いっきり怒鳴りつけた。


「だってさぁ。リナなら避けるかなーと思って………」
「あのねぇ。いっくらあたしだって全然予想だにしないことに対応できるわけないでしょーが」
「ふふん。警戒が足りないよ、リナ」
「あのね………」
 一瞬ものすごい疲労を感じてあたしはそれ以上言うのをあきらめた。
 ダメだ。こいつの相手はまともにするもんじゃない。
 レイファス=シード。この孤児院ができた四年前からいる古株で、現在十三歳。子供たちの中では年長組の一人である。肩にかかるくらいのまっすぐな黒髪に、猫を思わせるやや吊り上がり気味の瞳。将来有望な整った顔立ちの少年である。
 が、見た目はともかく性格ははっきし言ってとことん悪い。
 しかし口は上手いし頭の回転も早い。先程の悪戯にしても、レイが発案し、乗り気でなかった他の子供たちを舌先三寸で納得させてしまったというのだから、それは確かだと思う。
 思うのだが。
 その使い道を間違っていると思うのはあたしだけだろーか?
 それはともかく。あたしたちはくだらん悪戯をかましてくれたレイをあたしとフロルさんとで謝らせ―――何故か後ろでガウリイたちが青い顔をしていたような気がするが、それはともかく―――大広間に据えられた卓について話していた。
 さっきまであたしにくっついていた子供たちは、話があるから、とフロルさんが追い出した。子供というのはあれでなかなか頑固なものだが、ここの子供たちはフロルさんの言うことだけはよく聞くのである。
 そのため今ここにいるのはあたし、フロルさん、ガウリイ、アメリア、ゼルガディス、それから何故かいるレイファスの六人だ。
「でもなんだか意外ねー」
「何がよ?」
 唐突と言えば唐突なアメリアの言葉にあたしは眉をひそめて聞き返した。
「リナってけっこう子供に好かれるんだなぁって思って。なんかすごい懐かれてたじゃない?」
「懐かれ、って………そんな動物みたいに………
でもま、年も近いしね。前ここに来たときは十三のときだったんだし」
「そういえば、よ。お前さんなんで孤児院の院長さんなんぞと知り合いなんだ?」
「あら。リナさん言ってなかったの?」
 おや。そういえば言ってなかったよーな気も………
「もう三年くらい前になるのだけど。リナさんに依頼をしたのよ。まあ………護衛、みたいなものね」
「そうだよ。もう三年だぜ? 三年も音沙汰なしで、たまには遊びに来たってバチは当たんないんじゃないか?」
 レイが不満そうに言う。言葉にこそ出さないが、フロルさんも似たような表情だ。
「えへ。だってさぁ、やっぱり旅となれば一度も行ったことのないところに行きたいじゃない。だから主にライゼールとか、沿岸諸国とか、ラルティーグとか………南の方よく回ってたのよ。ゼフィーリアやカルマートは行ったことのあるとこけっこうあるし………」
「まあ音沙汰なし、って言っても噂はけっこう聞こえてきたけどね」
「うわさ、って………」
「リナの噂って言うと………」
「『盗賊殺し(ロバーズ・キラー)』とか………?」
「なんにしてもロクな噂じゃあなさそうだな………」
 ………あんたらなぁ………
「………ねえ、リナ………この人たち、本当にリナの友達なの………?」
「うん。あたしもそう思う」
「まあそれはともかくとして………その時はリナさん、ここに二ヶ月くらいいたの。当時はお金もあんまり出せなくって大変だったし、リナさんがいてくれてとても助かったのよ。
 孤児院のことも手伝ってくれて、子供たちともよく遊んでくれていたしね?」
「そーでしたねー………あのときの依頼料ってほんっとに安かったですもんねー。今考えるとよく受けたなーあたし、ってくらいだし」
「そ、そこまで言う………?」
 何やらレイが顔を引きつらせているが、実際そのとおりなのだから仕方がない。二ヶ月という拘束期間ははっきりいって長い。めちゃめちゃ長い。そのうえ、あのときもらった依頼料を日割りにすると、だいたい一日銀貨一枚とか二枚とか、そういったレベルだったのである。
「でもそれならよくそんな依頼受けたなー」
 まあ確かにそのとおりである。今のあたしなら絶対そんな依頼は受けないだろう。
「まーねー。だってさぁ、あたしが旅に出てから初めての依頼だったのよ、それ」
 そう。そうなのである。メチャメチャせっこい値段でやたら拘束期間の長い護衛などという依頼を受けたのも、すべてはそのためなのである。
「だって考えてもみて。いくら魔道士らしい格好をしているとはいっても、無名の、しかも十三歳の女の子に何か依頼しよう、っていう気になる?」
「そりゃまあ………確かに………」
「でしょ? 郷里ではそれなりに有名だったけど、郷里を出ちゃうとねー。
 まあ路銀に困ることはなかったけどね。何処にだって盗賊団とか悪人ってのはいるもんだし」
「初めて会ったとき、リナさん、町の市場でごろつきにからまれてた私を助けてくれたのよね。女の子が呪文一発で大の男五、六人を吹っ飛ばしちゃうんだもの。びっくりしたわぁ。その後その人たちから有り金全部巻き上げたのにも驚いたけど」
 けろっとした顔でそんなことを言うフロルさん。
 驚いた、というわりには、その後即座にあたしに依頼を持ちかけてきたのである。パッと見そうは見えないが、実はイイ性格しているのだ。この人。
「お前さんそんな頃からそんなこと(盗賊いじめ)してたのか………?」
「いや………それはまぁ………」
 いいじゃないか。悪人に人権はないんだし。
 それに人間生きていくにはお金が必要なのだ。まともに依頼すらもらえない女の子が生きてくために、堅気の人たちに迷惑かけまくっているやつらにちょっとばかし不幸になってもらったところでどこからも文句は出ないはずだ。きっと。たぶん。
「それよりさ。リナ、どのくらいこの町にいられるんだ?」
「あー………今ちょっといろいろ厄介なこと抱えてて………あんまりのんびりしてられないのよ。だから今日一日泊めてもらったら明日には出発するわ」
「なんだ………」
 あからさまにがっかりした表情のレイ。こいつの場合、こういう可愛げのある表情が嘘っぱちであることが多かったりするのだが、今回は本気で残念がっているらしい。
 ちょっと申し訳ない気はするが………あたしとしてもとにかく現状を何とかしないことにはけっこぉ命かかってるんで。
「………でも今日は泊まってくんだよな? そっか………よしっ! じゃあ今日の夜、楽しみにしてろよ!」
 あっさり気を取り直したレイは、そう言うなり部屋を出て行ってしまった。
 思い立ったら即行動と言うかなんと言うか………こういうところは三年経っても全然変わっていない。
 残されたあたしたちは顔を見合わせた。
「………今日の夜?」
「………なんなのかしら………?」
「さあ………?」
 アメリアの至極もっともな呟きに、この場の誰一人として答えられるものはいなかった。


「そういえば………」
「何?」
 豆の皮を剥きながらふと思いついたように言うアメリアに、包丁で野菜を切る手を休めずに問い返すあたし。
 あたしとアメリアはフロルさんや孤児院の子供たちと一緒に台所で夕食の準備などしていた。
 最初アメリアにも包丁を持たせたのだが、あまりにも危なっかしく、今は豆の皮剥きなど………つまり、危険はないがひたすら時間がかかって面倒くさい仕事を子供たちとともにやっている。
 ちなみに男性陣は外で薪割り。さっきちらっと覗いてみたが、一年分の薪を用意するくらいの勢いで大量の木材が用意してあった。あれ全部割るとなるとどれだけ時間がかかるんだろーか、とか思ったりしたが………まあがんばれ、と心の中で無責任なエールを送ってみたりして。
 あたし? あたしはもちろん食事係だ。こう見えても郷里の姉ちゃんにさんざん仕込まれただけあって料理は得意なのだ。みんなには口を揃えて『意外だ』と言われたが………
 それはさておき。
「ここにいる子たちってたいてい魔法使えるのね。『明り』みたいな呪文覚えれば使えるっていう魔法しか使えない子もいるけど、半分くらいの子は一応基礎はできてるみたいだし」
「ああ、そのこと。あたしが前ここにいた二ヶ月で魔道の基礎を教えたのよ。………ま、知りたい、っていう相手に限って、だけど」
「へぇ。リナが教えたんだ。………でも何でまた?」
「んーとねぇ………」
 切り終わった野菜を炒めながらあたしはどう言おうかとしばし考えた。
「前ここに来た時ね、まあ事情はいろいろあったんだけど………この孤児院、この町の領主から圧力を受けてたの。あたしがそん時受けた依頼がその領主からの嫌がらせやなんかから孤児院を護る、って仕事だったんだけど。フロルさんに絡んでたやつってのも領主の手下で………いくらあたしでも一人じゃあ辛かったのよ。人海戦術でこられちゃうと子供たちとフロルさんとこの家、全部はちょっとね………
 だから………」
「『自分の身くらいは自分で護れるようになりなさい』って言ってある程度大きい子たちに魔法を教えてくれたのよね」
 あたしの言葉を継いだのはそれまであたしたちの会話を黙って聞いていたフロルさんだった。
 フロルさんは当時を思い出したのかくすくすと笑いながら、
「でもやっとかなりまともに魔法が使えるようになってきた頃に事件が解決しちゃって。リナさんも旅を再開してしまったものだから、何人かは『もっと魔道習う!』って魔道士協会に今も通っているのよ?」
「へえ。そうなんですか?」
「ええ。でも最初のうちはもうリナさんに教わったことばっかりでつまらないって言っていたけれど。
 特に熱心なのがレイファスでね、今じゃあこの町の魔道士協会ではすっかり有名人よ」
「へぇー………そうだったんですかー………」
 驚いた。確かにレイはけっこうスジは良かったけど、あいつは魔道よりも剣や体術の方に興味があると思っていたのだ。
 子供たちに魔道を教える時、あたしは実戦でもちゃんと使えるようにある程度体術も教えておいた。何故かと言うと、魔法を使う際には必ず呪文が必要となるわけだが、呪文が完成するまで凌ぐためには最低限の体術―――というか、戦闘時の心構えや駆け引きというか………が必要なのだ。
 そのため、あたしは子供たちにはきちんと考えれば簡単なアレンジや眠り(スリーピング)の術程度は自力で編めるくらいの魔道の知識を教えて、それをカバーするための体術を教えた。
 しかし、レイは、体術だけでは物足りず、あたしに剣も教えろ、と言ってきたのだ。
 まあ特に断る理由もないし、レイが悪事に走るとも思えなかったし―――くだらん悪戯は慢性的にやっているが、シャレですまないことはしないだろうとあたしは判断した―――教えたのだが………はっきりいって上達ぶりはすさまじく、あたしがこの町を出る頃には、あたしから十本に一本は取れるようになっていた。
 適正はあるようだし、だからあたしはレイは進むとしたら魔道士ではなく剣士の道に行くだろうと思っていたのだ。
 まあ………ゼルガディスみたいに魔法剣士、っていう手もありだけど。
「あ、じゃあさ。さっきあの子が言ってた『今日の夜、楽しみに』って、何か新しい魔法でも見せてくれるんじゃないの?」
「んー………でも新しい魔法って言ったって………」
 …………………………………………………
 おや………? 夜………魔法………
 ………今、何か思いつきかけたよーな………
「ああああああっ! ちょっとっ! リナっ! 焦げてるぅぅぅぅ!?」
「って、へ? ってうおわぁぁぁぁぁぁ!?」
 しばし考えごとをしていて手が止まってしまった間に焦げた料理を慌てて火から離し―――大騒ぎしている間に、たった今思いつきかけたことも、綺麗さっぱり忘却の彼方へと吹き飛んでいた。


「リナっ! 外来て、外!」
 そう言いながらレイが広間に駆け込んで来たのは、食事を終え、片付けも終わり、やっとこさ落ち着いて広間でお茶など飲んでいる時だった。
 食事の時………というか、薪割り(レイもガウリイたちと一緒に薪割りをしていた。何故かは分からないが、普段はやれと言われても嫌がるのに、今日に限って自分からやると言い出してフロルさんも不思議がっていた)から戻ってからのレイはなんだか元気がなかった。
 ちょっと気になって、何かあったのかとガウリイとゼルガディスに訊いてみると、少々ガウリイと剣で手合わせしたらしい。
 ガウリイから一本も取れなくて落ち込んでるとか………? とか思ったりもしたが、考えても分からないので、後で本人に訊いてみようかと思っていたのだが、今の声には落ち込んでいるような気配は欠片も感じられない。
 少しでも心配した自分がバカみたいな気がしたが、それはともかくとして。
「外………って………」
「だからっ! 昼に言っただろ? 夜、楽しみにしてろ、って。………それとも忘れた?」
「いや忘れてないけど………」
「………その様子じゃあ三年前の約束………ってゆーか宿題、覚えてない?」
 宿題? 宿題………ねぇ……… 
 ………………………………………………………………
 ………………あ。
「もしかして………アレ?」
「そっ。一つだけじゃなくいろいろと組み立てて………最初に見せるのは絶対リナ、って思ってたんだからなっ! なのにリナは全然遊びに来てくれないし………」
 う………。なんかすっごい恨みがましい目で見られてる………いやでもそれは不可抗力とゆーかなんとゆーか………
「………リナさん………?」
「え? 何? なんの話?」
 思わず頭の中で様々な言い訳を考えまくってしまったあたしを救ってくれたのは、事態についてこれていない―――というかむしろ事情が分からない―――アメリアたちの困惑の声だった。
 その声にレイも当初の目的を思い出したらしく、ぐいっとあたしの腕を掴んで引っ張った。
「ほらぁ! んなこといいから早く行こう。みんなも待ってるんだから!」
 そういえば夕食の後片付けをしている時から何人かの姿が見えなかった。その時は『くぅっ。サボりねっ!? 後でみっちりお仕置きしちゃるっ!』とか思っていたのだが………そうか。この準備をしていたのか。
 あたしはみんなを促し、自分自身も外に向かった。訝しげな表情のみんなには『行けば分かる』とだけ言って。もちろんあたしはレイたちが何をするか分かってはいたが………みんなには言わないでおいた。
 アレを見たら、みんなはきっと驚くだろう。それぞれの反応を想像して―――あたしはくすり、と笑った。


 外に出ると、この孤児院の子供たちが全員そろっていた。そのうち何人かは今から何が起こるのか、とわくわくした表情で待っている。
 そしてこれからその『何か』をする当人たちは一所に固まってなにやら緊張した面持ちでこちらを見つめていた。
 それを見て、あたしは我知らず微笑んでいた。もしかしたら―――初めて姉ちゃんの前で魔法を使った時、あたしもあんな顔をしていたのかもしれない。そんなことを思った。
「さぁて。どれだけ成長したか―――見せてもらいましょうか?」
 だからこそ。あたしは彼らにあえて挑戦的なことを言った。
 合流したレイが、こちらにこれまた挑戦的な視線を向けてにやっと笑うと、
「もっちろん。俺らだってあれから成長してんだからな」
 傲然とそう言い放って。レイは呪文を唱え始めた。一呼吸遅れてレイの後ろにいる子たちも呪文を唱え始める。
 そして呪文が完成し―――
「明り(ライティング)!」
 普通の明りの呪文で生まれる白い光とはやや違う、赤い光が空に浮かび上がり―――
「ブレイク!」
 声とともに、それは空中で弾け、鮮やかな真紅の輝きを撒き散らした。
 それはさながら夜空に咲く光の花―――シャイニング・フラワー。
「すげぇ………」
 ポツリと呟いたガウリイの言葉に―――すべてが集約されているような気がした。
 他のみんなは声も発せず、次々と打ち上げられる色とりどりの光の花を息を呑んで見つめていた―――


 赤、青、黄、緑、白………様々な光が乱舞する。
 三年前。この町を出て行く数日前に、あたしは子供たちにこの芸を見せた。そして、また遊びに来てくれるか、と訊くレイにあたしは約束した。
 ―――必ずまた遊びに来る。だから、それまでにこれくらいの芸はできるようになっておきなさい、これは宿題よ―――
 言われるまで忘れていた。けれど、レイはずっと覚えていた。
 それが―――何故かひどく嬉しく、同時にちょっと情けなかった。
 あたしは軽く苦笑した。これではガウリイのこと言えないな………そんなことを考えながら、あたしは夜空に浮かぶ光の花を、自分でも不思議なほど穏やかな気持ちで眺めていた。
 今、あたしは魔族に命を狙われている………理由は分からないが。明日ここを出れば、また危険と隣り合わせの旅を続けることになる。
 ―――けれど。
 今、この瞬間だけは―――それらすべてのことを忘れて、目の前で繰り広げられる光景に、集中することにした。
「―――うっしゃあラストっ! 俺の一番の自信作っ!」
 言ってレイがぽぅんと白い明りを宙に投げ放った。
 不思議な光彩を放つ白い光球―――いや、白………じゃ、ない………?
「ブレイクっ!」
 ――――――!
 今度こそ。あたしは息を呑んだ。
 弾けた光は―――虹色。白から赤、青、緑………一瞬も留まることなく変化し、揺らめく………鮮やかで、不安定な色彩。
それはまるでオーロラのようで。
 綺麗だと思った。
「リナ」
 その声に斜め上を見ていた目線を下ろすと、いつの間に近付いてきたのか、そこにはレイが立っていた。
「リナは、さ………今は厄介なこと抱えてるからのんびりしてられないって言ったよね。リナの邪魔はしたくないし、足手まといにもなりたくないから引止めはしないけど………」
 そこでいったん言葉を止め、あたしの顔をまっすぐに見つめる。その視線のあまりのまっすぐさに、あたしは一瞬どきりとした。
 その動揺を隠すように、あたしはレイの言葉を待った。
「今、リナが抱えてるごたごたが終わったら………また来てよ。絶対に。その時はのんびりしていってよね」
 あたしは―――あたしが今抱えている問題は、きっと簡単に終わらせられるようなものではない。もしかしたら………いや、たぶんレイは、それに気付いているのだろう。
 死にたくはない。死ぬつもりもない。けれど………相手は魔族。それも、おそらくそうとう高位の。
 絶対大丈夫、などとは言えるわけはない。
 それでも………いや、だからこそ。
「………うん。約束する。いろいろあるのが全部片付いたら………また絶対ここに遊びに来るわ。みんなに会いに来る。
 そうしたら………そうね。またこの光芸、見せてもらおうかしらね?」
 そう言ってあたしはレイにウインク一つ。
 あたしの言葉に何故かレイはかすかに複雑な顔をしたが、それも一瞬のこと。すぐに安心したように笑顔を見せた。
「約束、だね。今度は忘れるなよ?」
 小憎たらしいことを言ってくれるのを軽く小突いて、あたしは夜空を見上げた。持続時間を調節して数分は保つようにしてあったのだろう虹色の光ももう消えかかっていた。消えかけた虹色の向こうに―――月のない、星空が見えていた。


 翌朝。出発するあたしたちをフロルさんと孤児院の子供たちが見送ってくれた。
 そういえば、意外な事実が判明した。一見そうは見えないが、ゼルガディスはあれでけっこう子供に好かれるのだ。今も何人かの子供たちにまとわりつかれている。
 ゼルもゼルで、一見鬱陶しそうにはしているが、実はそれほど嫌でもないようで、それなりに子供たちの相手をしていたりする。けっこぉ子供好きなのかもしれない。
 意外な新事実発見、とゆー感じである。
 そんな様子を眺めつつ、あたしはフロルさんと話していた。
「………でも本当にゆっくりしていければ良かったのだけれど」
「ええ、まあ………でも、今のごたごたが終わったら絶対また遊びに来ますね。レイと約束もしたし」
「………そう。その時はもっとゆっくりしていってちょうだいね。私たちはいつでも歓迎するわ」
 そう言ってにっこりと笑うフロルさんに、あたしは頷いた。
「おーい。リナ―。そろそろ出発するんだろ?」
「早く来ないと置いてくわよー」
「あ、ちょっとぉ!」
 ゼルガディスにまとわりついていた子供たちもいつの間にか離れ、気が付くと三人はもう建物から出て、まだ家の中にいるのはあたしだけになっていた。
「リナっ」
 慌ててみんなを追いかけようとしたあたしを呼び止めたのは、レイ。
 レイはあたしの前に片手を差し出した。
 一瞬あたしはきょとん、としてしまったが―――すぐに気付いてあたしはにっと笑みを浮かべると、同じように笑ったレイの目とぶつかった。
 あたしもレイと同じように片手を差し出し―――ぱぁんと景気良く手と手を打ち合わせた。
 三年前と変わらない―――それは、再会の約束。
「また、ね。リナ」
「ん。またね。レイ。みんなも」
 言って、あたしはくるりと背を向けると、小走りに仲間たちのもとへと向かった。
 あたしは死にたくない。だから、死なない。絶対に―――生き残ってみせる!
 このあたし、リナ=インバースにちょっかいかけたこと―――死ぬほど後悔させてやるわっ!
 決意も新たに、あたしはリステル・シティをあとにした。



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  《あとがきっぽいもの》


 ふぅ。ここまでお付き合いしてくださってありがとうございます〜。
 何故か前編のほぼ倍の分量になるとゆー怪奇現象が起こってしまいましたが無事終了です。
「てか怪奇現象じゃなくてあんたのミスでしょーが。どう見ても」
 はっ!? そんな言ってはいけないことを言うあなたは何者っ!?
「ほほぅ。あたしに誰と訊くわけ。あんたは。記憶力の向上のためにはちょっとした刺激が有効って聞いたんだけど、試してみようか?」
 いえそんなめっそうもないですわたしがおねーさまのことわすれるわけないじゃないですか。とゆーわけでその手に持った推定863ページのハードカバーの本を手放してくださるとありがたいんですけども。
「むぅ。まあ素直に謝ったから一応許してあげるわ。あ、自己紹介するのめんどくさいからやっといて」
 ええと………とりあえず私としても命は惜しいので紹介をば。柚乃とは4つ違いの姉のさとさんです。ちなみに大学生。以上。紹介終わり。
「………そんだけ?」
 いやでもだって他に何を言えと。
「………まあいいわ。ここであんたをシメても続かなくなるだけだし」
 分かってくれれば幸い。それはともかく何故さとさんがここにいるんでしょーか。
「うにゅ。珍しく早めに帰ってこれて、通りすがりにあんたの部屋覗いたらなんか面白そうなことやってたから。なんとなく」
 なんとなくですか。ところでこれ、一応あとがきなんですけども。
「うん。知ってる。だいじょーぶ。あたしにまかせなさい。さくさく進行してあげるから」
 なんかえらく不安なんだけど………いえいいです。
「ん。問題なっしんぐ。んでさっそくだけど、今回の話、要するにあんたは何が書きたかったわけ?」
 ええと。私、花火が好きで。でもスレイヤーズの世界って火薬があるかどうか微妙なところだろうから、んじゃあ『明り』で代用してみようかと。
「………平たく言うと、単に花火を出したかっただけだと?」
 いやだけ、とは………あとは………リナってけっこう子供に好かれるんじゃないかなーとか思って。そーゆーの書いてみたいなーと思ったんだけど。それと、リナにも駆け出しの頃はあったわけで、そんな頃はどーゆー風だったのかなぁ、とか自分なりに考えてみました。まあそれに関しては結局リナはリナだよなーとゆー結論に至ってしまったわけですが。
「ところでこれは訊かなきゃと思ってたんだけど、なんで孤児院なわけ?」
 ん。特に意味はない。
「まて。こら」
 だって。『子供に好かれるリナ』とゆーコンセプトのもとに書いてるわけだから子供がいっぱいいておかしくないところが舞台になるわけだけど、それで私が思いつくのって保育園か小学校か孤児院だったのですな。で、スレイヤーズ世界で保育園や小学校っていまいちピンとこなくて。消去法で孤児院。
「うわ行き当たりばったり」
 ほっとけ。
「まあいいわ。んー………そんなもんかな。とりあえず」
 うに。おしまい? んじゃあ最後の挨拶を………
 こほん。
 なんだかあとがきっぽくないあとがきになってしまったよーな気がしますが、ここまで読んでくれたような奇特な方。ありがとうございます〜。
「これからも柚乃を見捨てないでやってくださいね〜」


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23529Re:空に咲く花〈後編〉空の蒼 2002/11/29 16:17:43
記事番号23505へのコメント

こんにちは、そして初めまして。
空の蒼と申します。

『空に咲く花』、面白かったです〜♪
リナさんの一人称がとてもお上手で。
アメリアさんがリナさんに対しタメ口だったのも影響してか、原作っぽい雰囲気がバリバリに出ておりました。
原作好きな私としましては、とても楽しく読ませて頂きました。凄いです。

それと、レイ君を始めとしたちびっ子達のリナさんへの懐きっぷり、可愛らしかったですv
子供達にとってリナさんは、ヒーローみたいな存在だったんでしょうか(笑)
数年ぶりの宿題、真面目にやっていたんですね。
そして最後は「なるほどそれで『空に咲く花』か〜」というかんじで。
題名を付けるのお上手です。羨ましいです。

やたらと短いうえに支離滅裂ですが、ここらで失礼いたします。
それではまた。




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23548ありがとうございますっ!柚乃 2002/11/30 20:27:43
記事番号23529へのコメント

こんにちは。レスありがとうです〜。
感想いただき大感謝!です。
てゆーかこちらこそ空の蒼さんの大ファンです!
『BACK TO THE FUTURE』とても楽しみにしてます。
これからもがんばってくださいっ!

ではでは短いですけど。本当にありがとうでした。
それでは。



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23597空に咲く花 ANOTHER 〈前編〉柚乃 2002/12/3 21:08:53
記事番号23414へのコメント

 こんにちは。
 これは本編の裏側………とゆーか、何故か柚乃がみょーに気に入ってしまったレイファス君の救済企画みたいなものです。
 なんとなく気に入ってしまいまして………あれでけっこう悩んでるんです。彼。
 とゆーわけで。最後まで読んでくれれば幸いです〜。



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  空に咲く花 ANOTHE 〈前編〉


 ―――ねえ、リナ………俺もいつかリナみたいに旅をしたいな。
 ―――そうねぇ。魔法も剣もスジがいいし、何年かしたら一人で旅に出ても困らないくらいにはなれると思うわよ。
 ―――そう? じゃあさ、俺、リナと同じくらい強くなれるかな。
 ―――あっまーい。あたしとタメ張ろうなんて四万五千年早いわよっ! それに………
 ―――それに?
 ―――どーせ言うならあたしと同じ、じゃなくてあたしより強く、って言ったらどう? ま、どっちにしろ無理だろーけど♪
 ―――むっ。そんなの分かんないじゃないか。
 ―――そうそう、その意気その意気。
 ―――うぅ………決めたっ! 俺、絶対リナより強くなってやる! そうしたら、そうしたら、さ………


 それは―――幼い日の記憶。


 レイファスは懐かしい夢から目を覚ました。
 以前はよく見ていた、幼い頃の―――と言ってもほんの数年前のことなのだが―――夢だ。最近ではめったに見ることのない………しかし、懐かしく、大切な夢。
 そんな夢を見たからだろうか。今日は珍しく寝覚めが良い。
 普段のレイファスは寝起きがすこぶる悪い。時間どおりに起きられることなどはっきり言ってまれだし、かといって誰かが起こしに来れば、安眠を妨害された怒りでもって半分無意識なやつあたりが待っている。
 そのため、寝起きのレイファスにはこの孤児院の院長であるフロルでさえ近付かない。
 その辺りのことは自覚していたため、寝起きにもかかわらず、自分の頭がはっきりしており、なおかつ、気分も良いことにレイファスは自分でも驚いていた。
 レイファスはベッドから起き上がり、立ち上がった。部屋を見ると、同じ部屋のみんなはもういない。自分としては早い方でも、他のみんなはもうとっくの昔に起きているのだろう。そう思ってレイファスは苦笑した。
 しかし………
「………なんで今頃あんな夢見たんだろ………」
 着替えながら、レイファスはポツリ、と呟いた。
 あの夢をよく見ていたのは、もう何年も前のことで、ここ一年ばかりは一度も見ていなかったのだ。それが何故、突然………
 そんなことを考えながら、レイファスは鏡の前に立った。肩にかかるくらいのまっすぐな黒髪に、猫を思わせる切れ長な瞳の、整った顔立ちの少年がそこには映っていた。
 先程見た夢の当時より、背もずっと伸びて、未だ幼さは残るものの、精悍さも少しながら持ち合わせてきている。
 あと五年もすれば、道行く女性の十人に九人は振り返るくらいの青年になるだろう。
 身支度がきちんと整っていることを確認すると、レイファスは鏡から視線を外して窓から外を見た。自分の姿など毎日見ているのだ。じっくり見たところで別段面白いものではない。
 外は見事な青空が広がっていた。いい夢、いい天気―――今日は何か、良いことがあるような気がする。
 なんとなく心が浮き立つようで―――レイファスは勢いよく扉を開けて部屋を出た。


「お。レイ、今帰りか?」
 声をかけられたのは、魔道士協会からの帰り道だった。声をかけてきたのは宿の主人。夫婦で経営している、女将さんの作るおいしい食事が評判の宿である。
 ちなみにここの女将さんはやたら話好きなことでも有名で、『しゃべりはじめたら止まらない』とか『女将さんに話したことは次の日には町中に広まっている』などなど、いろいろな逸話があったりする。
 それはさておき、町の人間ならほとんどがそうだが、例にもれず彼もレイファスの顔見知りである。
「はい。………ところでおばさんはどうしたんです? いつもならおばさんが掃除してるのに」
「そうそう! それだよそれ! 会ったら言わなきゃと思ってたんだよ! リナちゃんがこの町に来てんだよ! 今!」
「えっ!? リナがっっ!?」
 レイファスの心臓がどくんっと跳ねた。
 ―――リナが………来てる? この町に?
「それって本当っ!? 人違いとかじゃなくて!?」
「ああ。間違いねぇって。なんてったってウチに来たんだから。ついさっき、な。もうちょっと早く来りゃあレイも会えたかもなー。
 あ、そうそう。レイんとこには家のやつが知らせに行ってるよ。
 それから連れがいたんだよリナちゃんに。女の子が一人と男が二人。一人旅ってイメージがあったから意外っちゃ意外だったな。
 それにしてもなあ………リナちゃんもずいぶん女の子らしくなってたよ。最後に見たのはもう三年前だっけか。あの頃はほんとまだ子供子供してたもんだがなあ………」
 なにやらしみじみと昔を思い出している様子の宿の主人の言葉をレイファスは最後まで聞いていなかった。
「おじさんっ! ありがとっ!」
 一言お礼を言うなり、レイファスはダッシュでその場を駆け出した。


 近道をして全速力で孤児院に帰ってみると、騒々しかった。………が、リナはまだ来ていないらしい。
「まだ着いてない、ん、だ………」
 レイファスが呼吸を整えながら広間に入ると、そこにはこの孤児院にいる子供たちがほとんどそろっていた。
 声をかけようとしたレイファスの機先を制すようにそこにいた子供が次々に声を上げた。
「レイ兄ちゃんっ! あのねっ! さっきねっ、宿屋のおばさんが来てっ………」
「リナお姉ちゃんが来てるんだって!」
「リナお姉ちゃん、僕たちに会いに来てくれるんだよっ!」
 口々にしゃべる子供たちに口を挟めず、レイファスはフロルに視線で助けを求めた。
 フロルはそんなレイファスの様子に苦笑すると、
「ほらほら、レイが困っているでしょう? しゃべるなら順番に、ね?」
 フロルの穏やかな言葉にやや静かになり―――それでも十分騒がしいのだが―――口を挟む余地が出来たとみるや、レイファスは勢い込んで、
「院長先生、じゃあやっぱり、リナこの町に来てるんだ!?」
「やっぱり、って………レイ、もう知っていたの? そういえば………いつもより帰りが少し早いようだけれど………」
「うん。帰りに宿のおじさんから聞いた。こっちに向かったって聞いたから急いで帰ってきたんだけど………まだリナ来てないみたいだね」
「あら………途中で追い抜かしちゃったのね。まあでも………リナさん、お友達と一緒らしいから、大通りの方を通ってきてるのかしらね」
「………友達………?」
 そういえば。宿屋の主人がリナに何人だか連れがいた、と言っていたような気がする。
 ………なんとなく面白くない。
 そんなレイファスの心の内を知ってか知らずかフロルはうきうきした様子で、
「お友達は男の人二人とリナさんと同じくらいの女の子なんですって。お客様がくるのも久しぶりだし、リナさんが来てくれるのなんてもう三年ぶりだし。楽しみだわぁ」
 どんどんどん。
 そんなことを話している時、玄関の方から聞こえてきたノックの音に、その場にいた全員がそちらを振り向いた。
「みんなはここで待っていてね。もしかしたらリナさんじゃあないかもしれないし」
 我先にと迎えに行こうとする子供たちの先手を打ってそう言ったのはフロルだ。お互いに抜け駆け禁止、と牽制しあっていた子供たちもフロルなら、と納得してあっさりと引き下がった。
 その様子に微笑むと、フロルは部屋を出て玄関へと向かった。
 その後ろ姿を見送ったレイファスは、ちょっとした(?)悪戯を思いついていた。
 リナがこの町に来ていることを知ってから100%上機嫌だったレイファスの機嫌だが、現在は60%ほどに下降していた。
 理由はリナに連れがいる、という事実。宿屋の主人や女将が嘘を言う理由はないから、それは本当のことなのだろうが………
 リナはずっと一人で旅をしているものだと思っていた。
 リナは自分と同じか、それ以上の実力の持ち主でないと隣に並ばせようとはしない。まあ護衛の仕事などで一時的に一緒にいることはあるだろうが、それはあくまでも仕事。『仲間』として一緒にいるわけではない。
 リナより強い人間なんてものがそうごろごろいるとは思えないから、リナが誰か他の人間と旅をする―――あるいはできるなど、考えたこともなかった。
 しかし実際今のリナには一緒に旅をしている存在がいる。それがレイファスにはなんとなく―――面白くなかった。
 だから。
 ちょっとぐらいの気分の向上のためにちょっとした悪戯をするくらい、たいしたことではない。
 そうレイファスは判断し、間もなく来るだろうリナたちを迎えるために、未だざわざわと騒いでいる子供たちに向き直った。
 ―――リナは怒るだろうけど。
 結果が分かっていてやるあたり、レイファスも実は意外と大物なのかもしれない。


「こぉいう悪戯はやめなさいっ! レイっ!」
 やっぱり怒られた。
 容赦のよの字もないこぶしを見舞われ、涙目で抗議するレイファスを怒鳴りつけたリナは、幾分背が伸び、以前よりはやや子供っぽさが抜けてはいるものの、頬を紅潮させ肩を怒らせるその姿は、レイファスの記憶にあるリナ、そのものだった。


***********************************


 レイファスはぼんやりとその光景を眺めていた。レイファスの前では、リナと旅をしているという二人の男―――ガウリイとゼルガディスが薪割りをしている。
 リナたちが孤児院を訪れた後、少し話をして、そのあとは女性陣は夕食の買出しと調理、男性陣は薪割り、他の子供たちは掃除など、仕事を割り振られてそれぞれ真面目に働いている。一部に例外はいるが。
 その例外の一人であるレイファスは、ついさっきのリナたちとの話を思い出していた。
 一緒に旅をしているメンバーは三人で、名前はガウリイ、アメリア、ゼルガディス。それぞれ剣士、巫女、魔法剣士らしい。さらに、アメリア、という女の子はセイルーンの王女さまなのだという。とてもそうは見えないが。
 三人ともリナが認めるほどの実力者らしい。確かに、アメリアはあまりそうは見えないが、他の二人はそうとう強いだろうな、ということはレイファスにもなんとなく分かる。
「おーい」
 そんなことをつらつらと考えていたレイファスだったが、自分に向けられたのんびりした呼びかけに思考の海から脱出した。
「お前さんもあんまりサボってないでちったあ真面目にやらんと、まぁーたリナにどやされるぞ?」
 困ったような表情でそう言ったガウリイの横には、ガウリイが割った薪が山と積んである。はっきり言ってレイファスが真面目にやってもほとんど焼け石に水、とは言わないが、その半分もできないだろう。
 それを見てやる気をなくしている、というのも無論あるのだが、もともとレイファスは薪割りをそうそう真面目にやるつもりなどなかった。
 ならば何故普段絶対にやりたがらないようなことを今日に限って自分からやると言い出したのか。
 他でもない。
 たんに二人と話がしてみたかったのである。
「ねえ。ガウリイさんとゼルガディスさん、だったよね」
「ん? なんだ?」
「二人はなんでリナと一緒に旅してるの?」
 その問いかけにガウリイとゼルガディスはきょとん、とした。
 確かにちょっと唐突な質問だったかも、と思いつつもレイファスは引く気はまったくなく、二人の答えを待った。
「俺は見てのとおり合成獣(キメラ)だ。今はこの身体を元に戻す方法を探している。
 まあまともな方法で戻せるとは思ってない。その点、リナといると『まともじゃないこと』に遭遇することが多いんでな………まあそういうことだ」
「オレは………そうだなぁ。リナのやつはオレが持ってる剣が欲しい、って言ってたけど………」
「剣? ………ってどんな?」
「光の剣………って名前ぐらいなら聞いたことあるんじゃないか?」
「光の剣っ!? 本物のっ!?」
 思わず大声を上げたレイファスに、ガウリイは苦笑してああ、と頷いた。
 それは………確かにリナだったら絶対に欲しがるだろう。
「最初に絶対やらん、とは言ったんだけどな。今でも時々思い出したように『貸して』だの『くれ』だの『売って』だのと言ってくるからなー………」
 貸したら最後戻ってはこないだろう。たぶん。リナだし。
 そんなことを考えて―――レイファスははた、と気付いた。
「そうじゃなくて。リナがガウリイさんと一緒にいる理由、じゃなくて、ガウリイさんがリナと一緒にいる理由、を訊いてるんだけど」
 ゼルガディスは答えた。しかし、ガウリイは答えていない。少々苛立たしげに言うレイファスに、ガウリイは困ったようにポリポリと頬を掻いた。
 そんなガウリイをゼルガディスが面白そうに眺めている。
「いやなんでって言われてもなぁ………そうだな………ほっとくと何しでかすか分からないから、かな。
 それに………」
 そこでガウリイはいったん言葉を止めた。その瞳がやや翳りを帯びる。見ているのはここではないどこか、あるいは今ではないいつか。おそらくは―――過去。
「光の剣、っていってもあんまり役に立つものだとは思ってなかったんだ。以前は。レッサーデーモンくらいなら普通の剣でも十分倒せるし、光の剣じゃないと倒せないようなやつに会うことなんてそうそうないからな。
 だから………ってわけでもないが、昔ははっきり言ってあの剣のことは好きじゃなかった。
 でも今は違う。リナは光の剣を必要とするようなやつらを相手にすることが多いからな。
 あまり好きじゃなかった光の剣も、好ましく思えるようになってきた。………リナのおかげで、な。
 だからオレはリナと一緒にいる。………これでいいか?」
 先程までの翳りが嘘のようにひどく穏やかな眼を向けられて、レイファスは反射的に頷いた。
 そんなレイファスを見て、ガウリイは心持ち照れくさそうに笑った。レイファスの普通の人間よりは性能のいい―――リナほどではないが―――耳が、なんでこんなこと話しちまったんだろうな、というガウリイの呟きを聞いた。
 そのガウリイを、ゼルガディスが驚いたような、感心したような表情で見つめていた。
「あんた、そんなふうに思ってたのか………だが、それにしてもよくあのリナに付き合ってられるな。いくらリナのおかげで光の剣が嫌いじゃなくなったとか言っても、あいつといると命がいくつあっても足りんだろうに」
「それはゼルガディスだって一緒だろーが。まともじゃない厄介ごとに巻き込まれまくることを承知でリナに付き合ってるお前さんも十分酔狂だと思うぞ?」
「俺の場合は目的があるからだが………そうだな。まあたしかに人のことは言えんかもしれんな」
「ねえ! 二人はどれくらい強いの?」
 レイファスはやや強い口調で二人の話に割り込んだ。それ以上………聞いていたくなかったから。
「あ、ああ………そうだな。剣でならガウリイに勝てるやつはそうそういないだろうな。俺は剣ではガウリイに勝てんが、魔法も使えば互角に戦う自信はある。………リナに対してもな」
 レイファスの剣幕に目を丸くしながらもゼルガディスが答えた。
 ゼルガディスの答えにレイファスは少なからず驚いた。この人は、リナよりも強いのだろうか?
 ………いや、違う。この人は自分がリナより強い、などとは一言も言っていない。ただ互角に戦う自信があると言っただけ。そして剣の腕だけなら自分よりガウリイのほうが上だと、そう言っただけだ。
 そもそも、それくらい強くなければリナが一緒に旅などしているはずがない。
 リナが今、なんらかの厄介ごとを抱えているのはレイファスも分かっていた。それが本気でシャレにならないことで―――この町に長く滞在しないのも、自分たちを巻き込まないためだということも。
 なのに彼らがリナと一緒にいるということは、彼らをその厄介ごとに巻き込んでも大丈夫だと、それだけの実力をリナが認めているということなのだ。
 ―――悔しい。
「………ガウリイさん、強いんだ? 俺も剣はけっこう使えるんだ。………一度、手合わせお願いしていい?」
 そう言って立ち上がると、レイファスはその辺に転がっている木の枝からちょうど良さそうなものを二本選び、拾い上げた。そしてその片方をガウリイに渡す。
 困ったような表情のガウリイを尻目に、レイファスは建物の壁から離れ、広いところに出る。
 そして真っ向からガウリイをひた、と睨みすえると、
「手加減はいらない。木の枝じゃあ当たってもかすり傷程度だし。俺、『治癒(リカバリィ)』使えるし。
 ………そう時間はかからないから大丈夫だよ」
 おそらく敵わないだろうことは分かっていた。ただ―――確かめたかったのだ。リナが認めた人物の、実力を。


 決着は、やはりと言うべきか、あっさりとついた。何合か打ち合った後、レイファスの予想を超えたスピードで打ち込まれた一撃をなんとか受け、即座に来た二撃目を後ろに跳んでかわし―――着地した瞬間、首に木の枝をつきつけられていた。
 悔しそうに見上げるレイファスの前で、しかしガウリイは感心したような表情だ。横目でちらりと見てみればゼルガディスも似たような表情である。
「やるなぁ、お前さん。言うだけはある。たいしたもんだ」
「ああ。ガウリイの打ち込みを二撃目までかわせるとはな………」
 木の枝を引きながら言うガウリイにゼルガディスも同調する。手加減するな、って言われたからな、けっこう本気でやったんだぞ? と言うガウリイの言葉も、しかしレイファスには慰めにしか聞こえなかった。
 負けは負け。しかもたったの数合で決着がついてしまった。圧倒的な力の差を見せ付けられたようで、レイファスは唇を噛んだ。
「………だがお前さんの年でそんだけできればたいしたもんだ。そうだな………リナが相手だったら負けないんじゃないか?」
「………分かってるよ、それくらい。リナになら、剣でなら負けない自信はある。三年前でだって十本に一本は取れてたんだから」
 そう。剣でなら。しかしそれではダメなのだ。
「なるほど。自分の実力を正しく見定める目も持っているようだな」
 リナになら、という言葉にゼルガディスがなるほど、と頷いた。
 剣だけでならリナに勝つことはできる。でも魔法も使ったら? ………答えはノー。
「………それじゃあ意味がないんだ………」
「ん?」
「俺はもっと………リナより強くなりたいんだ。剣の腕だけならリナより上、ってだけじゃ………意味がないんだ」
 そう言ってその場から走り去ったレイファスに、ガウリイとゼルガディスは顔を見合わせた。


**********************************************************************

 後編に続きます。




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23598空に咲く花 ANOTHER   〈後編〉柚乃 2002/12/3 21:32:04
記事番号23414へのコメント

 続きです。

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  空に咲く花 ANOTHER  〈後編〉


 ―――俺、絶対リナより強くなってやる! そうしたらさ、リナ。俺と一緒に旅しようよ。
 ―――あんたとぉ?
 ―――うん。だってさ、リナって揉め事に自分から首を突っ込んでくじゃないか。そんな時のために誰かフォローできる人が一緒にいた方がいいんだよ。
 ―――フォローねぇ………たとえそうだとしてもレイにフォローされるほど落ちぶれてないわよ、あたし。
 ―――おちぶ………って失礼な。
 ―――だって本当のことでしょ? あんたあたしといくつ年が離れてると思ってんの?
 ―――それは………だって………そんなのは………
 ―――ま、それはともかく。前提条件として強くならないとね。あたしは誰かに護られるのも、誰かを護るのも嫌いなの。………まあ依頼なら別だけど。ならまずは。あたしと肩を並べられるくらい強くなってみなさいな。
 ―――リナはこれからもずっと一人で旅をするの?
 ―――さあ? 先のことなんてあたしにも分かんないわよ。気が合って、実力もあるやつと会ったらもしかしたら一緒に旅することもあるかもね。
 ―――そっか………でもそんな人そうそういないよね。
 ―――そうね。ま、確かにそういう意味でいけばレイと一緒に旅する、なんてこともないとは言い切れないかもね。
 ―――そう………だね。そうだよね。
 ―――はいはい。分かったらまずは強くなる努力をする! 昨日教えた精霊魔法の基礎理論、覚えてるわね? 説明してみなさい。


「遠いよ………リナ………」
 ポツリ、と呟いたその言葉は―――風に吹かれ、消えた。


 夕食を早めに済ませ、レイファスは外に出ていた。他のみんなはまだ広間で食事をしている。
 リナがいるのは今晩だけ。だから本当はもっと話もしたいのだけど。
 レイファスは空を見上げた。今日は月が出ていない。星明りはあるものの、月が出ている夜に比べたら格段に闇が深い。
 今晩リナに見せるもののシチュエーションとしては、闇が深いというのは良いことだった。
 光は闇が深ければ深いほどより鮮やかさを増すものだから。
 三年前にリナがやってみせた光芸。次にリナが来る時までにできるようになっておくと約束をした。そしてリナが基礎はしっかりと教え込んでいたおかげもあって、リナがこの町を出て行ってから一ヶ月ほどでできるようになった。
 でもそれを見せるべき相手―――リナがいなかった。
 だから、リナが来た時にはもっとずっと驚かせてやろうと、リナがやったような本来の『明り(ライティング)』の色である白一色でなく、他にも何色もの色を出せるようにした。最近では色彩を虹色に変化させたり、形を自由に変えたり、オーロラのように空いっぱいに広げたり、といったようなことまでできるようになっていた。
 レイファスは今夜のことに意識を集中しようとした。しかし―――できない。どうしても考えてしまうのは―――
「何してるんだ?」
 唐突にかけられた声に、レイファスは驚いて振り返った。
 振り向いた先には、いつからいたのか、ガウリイがいた。―――たった今、レイファスが考えていた人物の一人が。


 今、ガウリイはレイファスにとって一番会いたくない人物だった。いや、ガウリイだけではない。ゼルガディスも、アメリアも………リナも。今は会いたくなかった。
 会えばきっといらぬことを言ってしまう。
 自分では、リナを助けることはできない。だからせめて、とレイファスは思う。
 せめて、足手まといにはなりたくない、と。
 だからこそ、リナが認めている………リナを助けることのできる、彼らが羨ましくて、悔しかった。
 そしてその中でも、ガウリイは別格だった。
 アメリアは、いい。リナも同年代の友人と一緒にいるのはきっと楽しいだろうし。ゼルガディスも、いい。彼は自分の目的があって、リナと一緒にいるのだから。けれど。
 では、ガウリイは?
 昼間聞いた理由。理由であって理由ではない。きっと彼は理由がなくてもリナと一緒にいるのではないか、と漠然と思う。
 リナもきっとそれは認めている。いくら光の剣が目当てだと言っていても、嫌いな相手と一緒にいられるほどリナは寛容じゃない。
 そんなの。
 間に入り込めるわけがないではないか。
 悔しい。リナと出会ったのは自分の方が先なのに。
 もし、リナと出会った時、自分がもっと強ければ。もし、光の剣を持っていたら。
 そうしたら。
 ―――リナは………俺と一緒にいてくれた………?
 問いかけられるはずのない問い。
 訊いてみたかった。でも訊きたくなかった。否定されるのが怖くて。
 だから。違和感なく、その位置にいられる彼が。ガウリイが―――レイファスは、無性に憎らしかった。
「何か用?」
 言葉がいささか刺々しくなってしまったのはまあ………だから致し方ないと言えよう。
 そんなレイファスにガウリイは苦笑すると、
「いや、気付いたらお前さんがいなかったからな。今、みんなでデザートを食べてる。早く戻らないと全部食われちまうぞ?」
「いらない」
 そっけなく答えるレイファスに、ガウリイは困ったようにポリポリと頬を掻いた。
「いや、そう言われてもなー………」
 困ったように言うガウリイの様子に、レイファスも自分の態度がずいぶん悪かったと反省し、言葉を継いだ。
「………今日のデザートってコレットの実でしょ? 俺、コレット嫌いだから」
 誰かに聞かなかった? と言うレイファスにガウリイはそうか、と頷いた。
 そのまま特に会話もなく、しばし無言の時が過ぎる。
 その沈黙に耐え切れなくなったレイファスが、あなたの方こそ戻らなくていいのか、と言おうとした時だった。
「昼間のこと、気にしてるのか?」
 唐突に言われたガウリイの言葉に、レイファスは驚いてガウリイの顔を見た。
 その様子を見てガウリイは軽く笑った。不思議と―――腹は立たなかった。
「その様子だとやっぱり、みたいだな。でも言っとくが、俺はお前さんは強いと思うぞ?」
「………この年にしては、ってこと?」
「まあそれもあるが………そう言えばいったい誰に剣術なんざ習ったんだ? ずいぶん実戦慣れもしてるようだし」
「最初の手ほどきはリナから。リナがいなくなってからは時々町に来る傭兵の人とかに………それと、実戦ってほどじゃないけど、近所にあった盗賊団のアジトをいくつか潰したくらいなら」
 おかげでこの辺りには盗賊団はいない。一日で行ける範囲に盗賊団のアジトでもできようものなら即座にレイファスがしばき倒しに行っている。
 もちろんお宝を奪うのも忘れない。ちなみに奪ってきたお宝の半分以上は孤児院の運営に回されている。そのため、この孤児院にはあと100年くらいは余裕でまかなえるくらいの蓄えがあったりする。余談だが。
「リナみたいだな………あ、いやそれはともかく………
 ええと、ああそうだそうだ。俺が言ったのはそういう物理的な強さもまあもちろんあるけどな、そういうのだけじゃないんだ」
「………何、それ」
「お前さんはなんのために強くなりたいんだ?」
「それは………」
 決まっている。リナと一緒にいたいからだ。リナと肩を並べられるくらい、リナを助けられるくらい、そして―――リナを護れるくらい、強く。
「お前さんにはそれがあるんだろう? 強くなりたいと思う、理由が。それはある意味強さだと思うけどな? オレは。
 それに、お前さんは自分の実力をきちんと分かってる。自分にできること、できないこと、ちゃんと分かってる。
 自分の実力が分かってなくて、突っ走って自滅するようなやつよりもお前さんはずっと強いよ。身体が、じゃなくて精神がな」
 そうだろうか。レイファスは思う。自分はそんなに強いだろうか。彼が言うほどに? 
 誰よりも精神が強い人をレイファスは知っている。どんな時にも決して諦めず、前を向いている人を。そしてどんな状況でも、最後には引っ繰り返してしまう、そんな強さを持つ人を―――リナを。
 複雑そうな顔をしているレイファスに苦笑を向けると、ガウリイはぽん、とレイファスの頭に手を置いた。
 むっと顔をしかめたレイファスを気に留めず、ガウリイは言う。
「それに………あんまり自分には何もできない、って決め付けるもんじゃないぞ。
 リナは確かに強いけどな、それでもまだ16歳の女の子なんだ。いつも張り詰めたまんまじゃあいつか破裂しちまう。まあそこら辺はあいつも分かってるだろうけどな。そんな時、ここやお前さんのことを思い出せば少しは気が休まるだろ? 現にここに来てからあいつ、ずいぶんリラックスしてるしな。
 ―――そんなもんなんだよ」
「そう………かな………」
「そうさ。
 だいたい、まったく怖くないはずなんてないんだ………ほんの一ヶ月前に殺されかけて、今も魔族に命を狙われてる………そんな状況で、まったく不安がない、なんて言い切れるほどリナは無神経じゃない」
「魔族………? リナは、魔族に命を狙われてるの………?」
 バツの悪そうな顔でああ、と頷くガウリイを見て、レイファスの背筋に冷や汗が伝った。
 魔族。レイファスも一度だけレッサーデーモンに会ったことがある。その時は一匹だったためさほど苦労せず魔法で倒すことができたが、あの背筋が凍るような独特の雰囲気は忘れられない。
 しかもガウリイの言い方は、レッサーデーモンのような甘い相手を指しているようには思えない。
 すなわち―――純魔族。それも、おそらくザコではない。
 そんなやつらを―――相手にしているのか!? リナは!?
 自分たちを巻き込まないように、とリナが思うのは当然だ。
 そんなやつらを相手にしたケンカに首を突っ込もうものなら、レイファス程度の実力では足手まといにしかならない。
「お前さんが弱いわけじゃない。要は質の問題なんだ。リナやアメリア、ゼルガディスは魔法が使える。俺は魔法は使えないが光の剣を持ってる。魔族に対抗できる手段を、な」
「う、ん………それは、分かってる………」
「だからな、これはしょうがないんだ………でもな、しょうがないって言ってもそれは別に諦めるってわけじゃない。お前さんのするべきことがそれじゃないってだけなんだ。
 お前さんにできること………いや、お前さんにしかできないことがきっとあるんじゃないか?」
「そう………か。そうなんだ………うん。そうだね」
「だろう?」
 そう言うと、ガウリイはレイファスの頭に乗せていた手をどけて、ぱぁん、と景気のいい音とともにレイファスの背中を叩いた。
 痛みに顔をしかめて文句を言おうとガウリイの顔を見上げたレイファスは、ガウリイの表情を見て、のどまで出かかった言葉を飲み込んだ。
 ガウリイは微笑んでいた。それは子供に対するものではなく、対等な存在に向ける、笑み。
 その笑顔を見て―――ああ、この人は強いんだな―――とレイファスは実感した。
 この人に敵うはずない、と思い―――そして同時に、いつかこの人に勝ちたい、とも思った。
 もしかしたら、リナに勝つよりも難しいかもしれないけれど。
「よし。んじゃ納得したところで戻るか。デザートな、コレットの実だけじゃなくてリナ特製のケーキのあったぞ。残しといてくれるとは言ってたが………リナがいるからなぁ。全部食われちまうかもしれん」
 言ってレイファスの返事も待たずにすたすたと玄関に向かうガウリイをレイファスは慌てて追いかけた。
「できることは一つじゃないさ。ましてや同じじゃない。オレも、レイファスもな」
 レイファスが追いついたのを見計らって言われた言葉にレイファスは驚いて隣の顔を見上げた。そしてふと気付く。ガウリイがはじめてレイファスの名前を呼んだことに。
 レイファスは一瞬戸惑ったような表情を見せたが、すぐにほころぶような笑顔でうん、と頷いた。
 レイファスは意識していなかったが―――それは、リナたちがここを訪れてからはじめて、ここの住人とリナ以外の相手にレイファスが見せた笑顔だった。


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 リナたちの背中を見送った後、レイファスはいつものように魔道士協会へと向かっていた。
「お、レイ。おはよーさん。
 そうそう。リナちゃんレイんとこに行っただろ?」
「おはよう、おじさん。
 うん。リナ、昨日来たよ。………でも急ぎだからってもう出発しちゃったんだ」
「そうかい、そりゃー残念だなぁ。もうちょっとゆっくりしてきゃあいいのにな」
「うん。でもまた来るって約束したから」
 さばさばした様子でそう言うレイファスに、宿の主人の方が怪訝な顔になった。
「………えらくあっさりしてるな。いいのか? それで」
「………うん。そりゃあさ。残念じゃないって言ったら嘘になるけど………」
 リナは約束したのだ。今抱えている厄介ごとが片付いたらまた遊びに来る、と。あくまでもその相手が『みんな』で、自分もみんなの中の一人でしかないことには少々複雑なものを感じてしまったが、それでも。
 約束したのだから。
「リナは約束破ったことないから。来るって言ったからまた近いうちに来てくれるよ………絶対」
 穏やかに言うレイファスに、驚いたような表情で、
「なんかあったのか? なんて言うか………強くなったな、レイ」
「俺にもできることがあるって分かったんだ」
 自分にできることは待つこと。信じること。またここに来る、という約束が、リナが諦めない理由の一つになるのなら。
 それで、いい。
「それにね」
 悪戯っぽく笑ってレイファスは言葉を継ぐ。
「新しい目標ができたんだ。
 もしかしたら、今までよりもっと難しいかもしれない目標が、ね」
 きょとん、とした顔の宿の主人に、じゃあ遅刻しちゃうから、と言葉を投げかけてレイファスは通りを駆け出した。
 空は快晴。雲ひとつない、晴れ渡った空と同じ色の瞳を持つ青年に―――レイファスは心の中で宣戦布告を叩きつけていた。
 ―――そう簡単に、諦めないからなっ!!
 そんなレイファスを包み込むように、穏やかな風が―――舞った。



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 終わりました〜。
 ここまで読んでくださった方。大感謝!です。
 レイファス君のことですが。彼のリナに対する感情はまあ恋愛感情といってもさしつかえはないと思いますけど………どっちかというと『憧れ』に近いかもしれません。
 ちなみにリナのほうはレイファス君のことをそーゆー対象とはまったく見てないです。そりゃもう欠片も。はっきりきっぱりと。言うなれば弟、みたいな感じで。
 ちなみにレイファス君、性格はけっこうリナに似てます。だから………ってわけでもないですけど、まあ幸せにはなるんじゃないかなーとは思います。少なくとも主観的には。
 
 ではでは。こんなところまで読んでくださってありがとうございました。




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23616はじめましてエモーション E-mail 2002/12/4 21:05:14
記事番号23598へのコメント

こんばんは。
普段は2の方に出没して、やたらと長文の投稿ばかりしている、
エモーションと言います。はじめましてm(__)m

「空に咲く花」「空に咲く花 ANOTHER」読ませていただきました。
レイファス君、かわいいですね。ガウリイに対するライバル意識が何とも。
何気にそれに気づいているから、なガウリイの言動もかっこいいです。
レイファス君のリナへの思いは、いわゆる淡い初恋というものでしょう。
そのうち「綺麗な思い出」に昇華するタイプの。

それにしても……きっちり、リナの影響を受けているのが(笑)
これはもう、立派に弟子と言っても良いのでは。
レイファス君なら、弟子と名のってもリナは認めるでしょうし。
しかし、末恐ろしいような(笑)

読み終えて、ほんわかとした気分になりました。
次に書かれたときも読ませていただきますね。
では、短めですがこれで失礼します。