-再掲示 宴の前座-鈴野 あや(3/22-17:26)No.1865
 ┣再掲示 宴の序曲-鈴野 あや(3/22-17:27)No.1866
 ┣再掲示 宴の中で-鈴野 あや(3/22-17:28)No.1867
 ┣再掲示 決闘の宴-鈴野 あや(3/22-17:29)No.1868
 ┣再掲示 宴の後で-鈴野 あや(3/22-17:31)No.1869
 ┣月夜の宴(前編)-鈴野 あや(3/22-17:32)No.1870
 ┃┗月夜の宴(後編)-鈴野 あや(3/22-17:35)No.1872
 ┃ ┗Re:月夜の宴(後編)-松原ぼたん(3/23-15:43)No.1888
 ┗月夜の宴-鈴野 あや(3/22-17:33)No.1871


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1865再掲示 宴の前座鈴野 あや E-mail 3/22-17:26

          第一話 宴の前座

 う、ウソだろ〜?
 あまりの変化ぶりに、オレは目を皿のようにしてリナを見ていた。
 今のリナのスタイルは、淡緑色の古風なドレス。腕には肘の上まである白い絹の
手袋。耳を彩るのはドレスに合わせた翡翠のイヤリング。胸元には目の覚めるよう
な鮮やかなガーネットのブローチ。うっすらと化粧もして唇には紅をつけている。
いつもと変わらないのは髪型くらい。
 そう言うオレもいつもの傭兵スタイルではなく、黒のタキシードを着て髪も首の
ところで一つに束ねている。
 それにしても化けたな〜。
 今日ばかりはいつものハチャメチャな雰囲気はどこにもない。
「なーによ、その顔は」
 あ、やっぱり中身はいつものままか。
「どーせ『らしくない』とか『似合わない』とか思ってんでしょ?」
 オレは慌てて首を振った。
 ああは言っているが、リナの方もまんざらではないらしい。
 ドレスの裾を持って歩いてみたり、裾を翻してみせる仕草が妙に楽しそうだ。
 こーゆーとこは、女の子なんだな。
 コンコン、
 ドアがノックされ、キュロスさんが顔を出した。
「二人とも、準備はできましたか?」
「ええ、一応」
 リナが答える。
「・・・・どうかしました?」
 キュロスさんがじっとオレ達を見てる。
「いや・・・、絵になるなー、と思って。さながら深窓の令嬢と思いを寄せる貴公
子、と言ったところでしょうか」
 『は?』
 一体何を言い出すんだこのにーちゃんは。
 オレとリナの声がハモった。
 オレはリナを指して、
「深窓の令嬢って、こいつが?」
 その瞬間、殺気が走る。
 どげしっ、
 リナのアッパーカットがオレに炸裂していた。
「やっかましい!大体あんただって貴公子ってガラじゃないでしょ!」
「ホント、仲がいいんですね」
 ニコニコしながら言うセリフか?
 オレはヒリヒリするあごをさすりながら起きあがると、
「今のでそう見えるんですか?」
「はい」
 ・・・・・・・・
 キッパリと言い切られると何も言えなくなる自分が恨めしい。
「さぁ行きましょう。下ではもう始まっていますよ」
「はーい」
 ドレスの裾を持ち上げて、キュロスさんの後についていくリナ。
 本当に大丈夫なんだろうな〜。
 上着を直してため息をつくと、懐に光の剣があるのを確かめる。
 これを使うようなことはまずないだろうが、この手のパーティーでトラブルが起
きないとも限らない。
 何かの弾みで転げ落ちたりしないよう、脇につるしたホルスターに固定し直す。
 これでよしっと。
 あれ、リナ達は?
 ドアの外を見ると、二人は既に遙か先を歩いていた。
 見失ったら確実に迷う。
「待ってくれ〜」
 オレは慌てて後を追った。



 話は三日前にさかのぼる。
 昼過ぎにこの街に入ったオレ達は、メシ屋を探して大通りをぶらついていた。
と、その時、
「どーゆーつもりなんだ!あぁ?!」
「お高くとまってんじゃねーぞ!おらぁ!」
 怒声のした方を見てみると、どこの街にも必ずいるごろつき達が一人の若い男に
因縁を付けていた。どーせちょっとぶつかったとか、目があったとかそんな程度だ
ろうが。
 ま、上物の服を着て下町を出歩けば、この手の連中にも出くわすわな。
 オレはリナを見て、
「どうする?」
「決まってるでしょ」
 いつもの調子で言うと、
「はーい、ちょっとどいてどいて」
 足を止めて騒ぎを見ている通行人達をかき分けて、ごろつき達のところに歩いて
いく。当然オレもそれについていく。
 リナはごろつき達に向かって、
「ちょっと、何があったか知らないけど、ちょっとひどすぎるんじゃない」
「うるせぇ!引っ込んでろチビ!」
 言うなり連中の一人がリナに殴りかかるが、リナはあっさりとそれをかわす。
 たまにいる。正論を言われるといきなり逆上する奴が。
 男が再度腕を振り上げる。
 そいつの腕を掴んで逆手に捻りあげてやろうと思ったとき、リナの呪文を唱える
声が聞こえた。
 まずい、多分切れてる。
 慌てて絡まれていた男の方へ行き、
「何なんだて・・・ガッ!」
 オレに向かってきた奴を裏拳一発で黙らせると、絡まれていた男の腕を掴んで、
「こっちに!」
 急いでごろつき達から引き離す。その瞬間、
 ちゅどぉぉぉぉぉぉん
 リナの呪文が炸裂した。


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1866再掲示 宴の序曲鈴野 あや E-mail 3/22-17:27
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第二話 宴の序曲


「どうもありがとうございました」
 焦げたままピクピクしているごろつき達を横目で見ながら、絡まれていた男がオレ達に
礼を言った。
 何となく口調が引きつって聞こえるのはオレの気のせいだろうか?
「んなもん気にしなくていいって。じゃガウリイ、行きましょう」
 リナがオレの腕を取る。
「ああ」
 歩きだそうとしたとき、
 ぐぐぅぅぅぅぅぅ、
 見事なまでに高らかに、オレの腹の虫が鳴った。
 ・・・・・何もこんな時に鳴らなくても・・・・
 男はプッと吹き出して、
「もしかして、昼食まだなんですか?」
「ええ、まぁ」
 頭をかきながら答える。
「じゃあ僕におごらせて下さい。先程のお礼もありますから」
「いや、いい・・・・」
「本当?!」
 断ろうとしたオレのセリフを遮って、リナが目の色を変える。
「ええ。いい店を知っていますから、そこに案内しますよ」
 リナの胃袋を知らないからそんなことが言えるんだよな。
 昔の人はよく言ったよな。知らぬが・・・・えーっと・・・何だっけ。
 ま、そんなことはどうでもいいか。
 破産しなきゃいいけど。


 キュロスに案内されたのは、オレ達がよく行く『安くてうまい店』ではなく、高級レス
トランだった。内装や給仕の感じからしてかなり上ランクの。
 キュロスというのはさっき助けたごろつきに絡まれていた男のこと。なんでも、この街
の領主の息子だそうだ。 
 ま、そういう地位にある人間ならいいところ、ってのはこういう所になるか。
 ちなみにオレみたいな傭兵は、護衛する人間に付き添うときや、依頼人との待ち合わ
せ、あるいはお偉いさんとの密会(汚れの仕事ではないので、念のため)等でもない限
り、この手の店には近づかない。
 店の品位を保つ、という理由でマナーにはうるさいわ、ハメははずせないわ、ついでに
支払も高い。
 そう言えばリナがこういう店に入ろう、というのは聞いたことがない。多分、オレと同
じ理由からだろう。
 キュロスが注文したのはフルコース・メニュー三人分だった。
 今回はおごって貰う立場上文句は言えないが、フルコースを注文されるとメニューの追
加ができなくなる。もっともおごる側としては、財布の残高を気にする必要はない。
 もしかするとこの兄ちゃん、相当な切れ者かもしれない。
  
 食事中は静かに当たり障りのないこと〜例えば世間話等〜をしていたが、デザートが運
ばれてきた辺りでキュロスが話題を変えた。
「ところで、お二人は傭兵ですよね?」
「そうだけど。あたしは魔道士だけどね」
 そう言ってリナはアイスを口に運ぶ。
「もしかして、仕事の依頼?」
 そう言って更に一口。
「ええ、そうですけど」
「どんな仕事なの?」
 キュロスはワイングラスを傾けてから、
「お二人に僕と一緒にパーティーに出てほしいんです」
「護衛としてか?」
 オレが訊くと、
「いえ、虫よけのためです」
 ・・・・・なんなんだそれは・・・・
「それって、どーゆーこと?」
 呆れた声でリナが訊く。
「そのパーティーは妹の十八歳の誕生祝いを兼ねたものなんですけど、年齢が年齢ですか
ら求婚者が出てきてもおかしくないんですよ」
「それで?」
 リナが続きを促す。
「その求婚も真面目なものならまだいいんですけど、政略的なものだったりする
と・・・・。その上、妹はこれまで箱入りだったものですから、人を見る目がないんです
よ」
 何となく、キュロスの言いたいことが解ってきたような気がする。
「ね、ねぇ、それってつまり、妹さんに悪い虫が付かないよう、・・・・・・ガウリイに
サクラをやれって言ってるの・・・・・?」
 そんなにこめかみをケーレンさせながら言うことかな?
 オレはそういう仕事は前にもやったことがあるけど。
「ええ」
 悪びれもせずに言う。
「リナさんもですよ。貴方の方は僕のパートナー役としてですけど」
 なぬ?
「あんたにも政略結婚を申し込んでくるような相手がいるの?」
 まだ怒ってる。
「そういうわけではありませんが、一人だと気の休まる暇がないんですよ」
 確かにキュロスのルックスは悪くはない。少しでも男を見る目がある『ご令嬢』なら
放ってはおかないだろう。
「それって贅沢な悩みじゃないか?」
 オレが言うと、
「文字通り休む暇がないんですから他人事みたいに言わないで下さい」
 キッパリと言い切られてしまった。気持ちは解らなくもないが。
「どうするリナ?ほっとくのもなんかかわいそうな気がするんだが」
「そうね」
 リナはキュロスに、
「でもさ、何であたし達にそんな事頼むの?自分の友達とかでもいいじゃない」
「それは・・・・色々と事情があるんですよ」
 即答を避けたってことは、何か裏があるのかもしれない。
「そう、わかったわ」
 リナもそれ以上の追求はしなかった。
「いいわ、その依頼、請けたげる」
「本当ですか?」
 キュロスがパッと顔を輝かせる。
「ガウリイもいいわよね」
 リナがオレの方を向く。
「ああ。ところで」
 オレはキュロスに、
「あんた、よく兄バカって言われたりしてないか?」
 キュロスは頭をかきながら照れたように、
「いえ・・・・よく言われます・・・・」


 とまぁこういうワケで、オレとリナはサクラとしてパーティーに出ることになった。
 パーティーまでの三日間、ダンスや作法の類をみっちりと仕込まれる事になったのは言
うまでもない。
 そして今日がその当日、というわけだ。
 ああ、やっと話がつながった。
 リナ達に追いついてから、広い屋敷を歩くこと約五分。
 大広間に近づくにつれて、人々のざわめきが大きくなる。
 かなりたくさんの人間が招待されているんだな。昔の知り合いに出くわさなきゃいいん
だが。
「ガウリイ、ドジ踏むんじゃないわよ」
 大きな扉の近くまで来たとき、リナがオレに念を押す。
「そっちこそ、裾踏んづけて転ぶなよ」
 言ってからどちらともなく微笑する。つられて笑ったキュロスさんが、
「それじゃ、リナさん、ガウリイさん、よろしく頼みますよ」
 彼が扉の前に立つと、ドアボーイが扉を開く。
 そして、宴は幕を上げた。



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1867再掲示 宴の中で鈴野 あや E-mail 3/22-17:28
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          第三話 宴の中で

 煌びやかな音楽が流れ、華やかな衣装に身を包んだ人々。
 ある者は曲にあわせて踊り、またある者はテーブルの料理を口にしながらお喋りに花を
咲かせる。
 そんな光景が広がる中、オレは本日の主賓であるキュロスさんの妹、リリア嬢とワルツ
を踊っていた。
 三日前から顔を会わせていた上、キュロスさんと一緒にいたというのもあって、彼女は
こっちが拍子抜けするほどあっさりとオレの誘いを受けてくれた。
「ずいぶんとお上手なんですね」
「そうですか?」
 オレとしては合わせるだけで精一杯なんだが。女性にリードされながらワルツを踊ると
いうのは、これはこれで結構恥ずかしいものがある。普通は逆だぞ。
 曲のテンポが速くなる。
 オレは彼女を腰に回した手で引き寄せる。
「しかし、いいんですか?」
 リリア嬢があどけない表情でオレに訊く。
「何がです?」
「わたくしの相手ばかりしていて」
 ステップを踏んでクルリと回る。
「先程から貴婦人方が羨ましそうにわたくし達のことを見ていますわよ」
 言われてみれば確かにそういう視線を感じる。刺すような妬ましい視線も混じっていた
が。
 彼女に言われるまで気付かなかったとは・・・・・・・、我ながら情けない。
 っと、今は仕事中、自己嫌悪に走っている時じゃなかった。
 気を取り直し、リリア嬢に微笑みかける。
「いいえ、かまいませんよ。今宵は姫の御相手をすると決めておりますから」
「そうですか」
 言ってからくさかったかな〜、と思ったが、なんの反応も返ってこなかった。
 その後もしばらく踊り続け、曲が終わるとオレはリリア嬢の手を引いて、人気の少ない
壁際に移動する。
 つ、疲れた・・・。ワルツがこんなに神経を使うものだったとは・・・・・。
 リナと練習したときはそうでもなかったのに。
 大きく息を吐くと、リリア嬢がオレの顔を覗き込んで、
「どうかなさいました?」
「いえ・・・・、少し疲れただけです。ダンスなど滅多にやらないものですから」
「そうなんですか。そうそう、お兄さまのこと、どう思います?」
「兄・・・じゃない、とても妹思いの方ですね」
「でしょう」
 嬉しそうに言う。
「わたくしのことをいつも可愛がって下さるんですけど、何故か殿方と話すときだけはい
い顔をされないんです」
「・・・・でしょうね」
 思わず破顔した。
 典型的な兄バカのキュロスさんのことだ。リリア嬢に近づく男はみんな害虫に見えるん
だろう。
「少し立ち話をするくらいならまだいいんですけど、長話をしていると、よく苦い顔をし
て止めに来るんですよ」
 そんなことまでやってたのか、あの人は。
「それなのに今日は何も言われませんのよ。見て下さい、あの上機嫌な様子を」
 リリア嬢の指す方向を見てみると、リナをパートナーに上機嫌な様子で踊るキュロスさ
んの姿が目に入った。
「い、一体何があったんでしょうねぇ・・・・・」
 少し声が引きつっていたかもしれない。
 あの様子だと悩み事が二、三片付いた、っていうふうに見えるんだが。
「もしかしたら、お兄さまはわたくしとガウリイ様の・・・・・・」
 周囲のギャラリーがざわめく。どうやらオレ達の会話に聞き耳を立てていたようだ。
「ストーップ!」
 先を言う前に止めた。うっかり爆弾発言でもされちゃ、たまったもんじゃない。
「どうかなさいました?」
 本日二度目のセリフ。
「わたくしは、お兄さまがガウリイ様との中なら認めて下さるんじゃないか、って言おう
としたんですけど・・・・」
 周囲が凍りついたのがハッキリとわかった。刺すような視線がオレ達に集中する。
 その気配を察したのか、キュロスさん達も踊りを止めてこっちを見ている。
 周りの連中が彼女の言葉をどんな意味で受け取ったのか・・・・・・、考えるまでもな
い。
 沈黙の中、ワルツだけが静かに流れていた。
 おいおいおいおい!どうなるんだよこの展開!
 


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1868再掲示 決闘の宴鈴野 あや E-mail 3/22-17:29
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          第四話 決闘の宴

 周囲に静寂が漂っている。
 そ、それにしてもこの人は何て事を・・・・・
 まずいことになった。何とかして誤解を解かないと。
「リ、リリア姫、オレは・・・・・」
「リリアさん!」
 オレが何か言おうとするより早く、宮廷武官のような格好をした銀髪の美丈夫が、リリ
ア嬢に詰め寄った。
 彼はオレを指して、
「この方とどういう関係なんですか!?」
「お兄さまの知人で、その縁で親しくして頂いているだけですけど・・・・・」
 何故か一斉に周囲がざわめく。
(まさか、あのキュロス殿が?)
(知人を妹君に引き合わせるとは・・・・)
(我々にまで黙っていたなんて・・・・)
(もしかしたらキュロス様はあの男とリリア様を・・・・・)
 ますます誤解を招いてしまったらしい。それだけキュロスさんの兄バカぶりが有名なん
だろう。
 リリア嬢が言いたいのは文字通りの意味なんだろうが、銀髪男はそうは取らなかったら
しい。
 顔を真っ赤にしてオレの方を向くと、おもむろに手袋を外す。
 ・・・・・まさかとは思うけど・・・・
 案の定、彼はオレの顔目掛けて手袋を投げた。オレはそれが当たる前に片手で払い落と
す。
「意味は解るだろう」
 殺気のこもった眼でオレを睨み付けながら、
「リリアさんを賭けて、君に決闘を申し込む!!」
 ・・・・・やっぱりそう来たか・・・・、古風な奴・・・・
 銀髪男はキュロスさんに向かって、
「キュロス殿もよろしいですね?」
「し、しかし、レティーオさん」
 レティーオ、っていうのか。
 思いっきりうろたえてるキュロスさんに構わず、
「よろしいですね?」
 キッパリと言ってのけ、再びオレの方を向く。全身から敵対心とも対抗心ともつかない
気をまき散らしている。
 か・・・勝手に煮詰まりやがって・・・・
 頼みの綱のリナを見ると、一体何が気に入らないのかツン、とそっぽを向かれてしまっ
た。
 きつい横顔が、
『決闘でも何でも勝手にやれば?』
 如実にそう語っていた。
 ど〜しろっていうんだよ〜、リナ〜。
「あのぅ、ガウリイ様」
 リリア嬢がオレの袖を引っ張る。
「何がどうなっているんですか?」
 ・・・・全っ然状況を理解してないよ、この人は・・・・
 思わず頭を抱えてしまった。
 ここで迂闊に決闘なんぞをやらかして、負けたりしようものならリリア嬢をレティーオ
のところに嫁がせるようなことになってしまう。それは非常にマズイ。かといって勝った
ら勝ったで、一歩間違えればこの場が婚約披露パーティーに化ける恐れがある。何しろ周
囲の連中は、キュロスさんがオレとリリア嬢の結婚を許している、と思いこんでいるのだ
から。
「さぁ・・・・、私にもよく解りませんが・・・・」
 適当に言葉を濁した。
 これ以上泥沼状態にされたらたまったもんじゃない。
 困り果ててキュロスさんを見ると、彼は大きく頷いた。
 戦(や)ってもいい、という事だろうか。
 雇い主が許可を出したならやるしかないか。後始末は向こうでしてくれるだろう。
「ちょっとよろしいですか」
 オレはリリア嬢から離れると、レティーオと対峙した。
「で、方法は?」
「その前に訊く。君の名はなんという」
 敵意をむき出しにして言う。
「人に名を訊くときは自分から名乗る、ってのが礼儀だろ?」
「・・・・っ、私はマイスーン領ユニオン騎士団長、レティーオ=カルチェだ」
 騎士団長、か。厄介だな、こういうタイプは。
「オレはガウリイ=ガブリエフだ」
 オレの名を訊いた途端、レティーオの表情が変わった。口元に不敵な笑みが浮かぶ。
「あのガブリエフ家の人間か。ならば相手にとって不足はない!」
 げっ、こいつ、もしかして実家のこと知ってるんじゃないだろうな。
「それで、方法は?」
 極力平静を装い、同じ問いを口にする。
「剣で勝負だ。それならお互い不足はあるまい?」
 無言で頷く。
「場所はここで行う。周囲の方々にはこの決闘の立会人をしていただく」
 ってことは、どっちにしても騒ぎは大きくなるわけか。
「キュロス殿、剣を二振りお貸しいただけるか」
 レティーオが顔だけキュロスさんの方を向けて言う。
「模擬刀でよろしいですか?」
 さっきまでのおろおろした態度はどこへやら。すっかり冷静さを取り戻している。
 キュロスさんの横にいるリナを見ると、まだそっぽを向いていた。
 一体何が気に入らないんだ?どうもよくわからんのだが。
「ええ」
 レティーオが首を縦に振ったのを見て、キュロスさんは近くにいた侍従に剣を取りに行
かせた。
 
 剣が届くとオレとレティーオはホールの中央に移動した。
 互いに剣を握り対峙すると、オレ達の殺気に気圧されたのかざわめいていた周囲が静ま
り返る。
「では・・・参る!」
 レティーオが先に仕掛けてきた。
 振り下ろされた一撃を受け流すと、懐に飛び込みんで胴に剣を叩き込んだ。
「がっ」
 倒れたレティーオの喉元に切先を突きつけた。
 周囲からどよめきが聞こえる。
 レティーオが弱かったわけではなかった。太刀に込められていた気の感じからしてかな
り使えるレベルだったはずだ。
「オレの勝ちだな」
 そう言って剣を引き、きびすを返す。
 さて、リナのことは気になるが、ボロが出ないうちにとっとと姿を消した方がいいな。
 剣を侍従に渡すとリリア嬢のところへ行き、周囲に向かって一礼する。
「ではこれにて失礼します。さっ、姫、まいりましょう」
「あ、あの・・・・」
 戸惑っているリリア嬢の手を取る。
 そりゃ、何気なく言った一言でいきなり周囲が騒ぎ出し、目の前で決闘なんぞをやられ
たら普通は戸惑うよな。
「事情は後で説明します。今は私と一緒に来て下さい」
 リリア嬢にだけ聞こえるように小さく言うと、そのまま彼女の手を引いてそそくさとこ
の場を後にした。

 

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1869再掲示 宴の後で鈴野 あや E-mail 3/22-17:31
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          第五話 宴の後で


 大広間を後にしたオレとリリア嬢は、そのまま屋上へ直行した。
 そこでオレは先程の事情を説明した。
「そうだったんですか・・・・・。わたくしの不注意な発言でああなってしまったのです
ね・・・・・」
 すべての原因が自分にあったことを知ったせいか、声が沈んでいる。表情が暗いのは月
明かりのせいだけではないだろう。
「そんなに気にする事じゃありませんよ。周りが勝手に誤解しただけですから」
「でも・・・レティーオ様は・・・・・」
 そう言って俯く。
 こりゃ相当気にしてるな。
「大丈夫ですよ。急所は外しておきましたし、使った剣も模擬刀ですからたいした怪我は
しちゃいませんよ」
「・・・・・・・」
 ・・・・しばらくほっといた方がよさそうだな。
「何故今日はこんな事になってしまったのですか?」
 唐突にリリア嬢が言った。
「男の方とつき合うことはそんなに重大な事なのですか?・・・・男の方とつき合う事
は、宴の場であっても争いの元になってしまう物なのですか?」
 彼女には何の罪もない。
 オレはリリア嬢を見ていった。
「その前に訊きますけど、姫の考えている「男性とのつき合い」って、友人として?」
「はい」
 ・・・・やっぱりな。そうだろうとは思っていたが。
「だとしたら、貴女の思っているようなことにはなりませんよ。さっきも言いましたけ
ど、周りが勝手に誤解しただけですから」
 リリア嬢がオレを見る。
「誤解って?」
「妹君へのガードが堅い事で有名なキュロスさんが、自分から貴女を私に会わせた」
 兄バカで有名な、とは口が裂けても言えない。
「つまり、キュロスさんが私と姫を結婚させようとしているのではないか、ってね」
「・・・・はぁ」
 きょとんとしている。ちゃんと解ってるんだろうな、この人は。
「もっとも、キュロスさんの方にはそんなつもりは全くありませんけどね」
「でも、仮にお兄さまがそう望んでいるのだとするのなら、わたくしはそれでもいいと
思ってます」
「へっ?・・・・それって・・・・」
 思わず間抜けな声が出た。
「そうする事でお兄さまが喜ぶのでしたら・・・・」
 もしかしたら、この人は自分というものを持っていないのかもしれない。
 自分を大事にしてくれるキュロスさんに依存しすぎて、自分の意志というものを自ら持
とうとしなかったのかもしれない。
 オレはリリア嬢の瞳を見て、
「・・・・仮に姫がそういう理由で結婚したなら、キュロスさんは喜びませんよ。彼は貴
女が幸せになることを心から望んでいるはずです。自分の意志ではなく、他人の意志でそ
んな事をしたって結果は見えているはず」
 言ってるうちにだんだん腹が立ってきた。リリア嬢の不甲斐なさにもキュロスさんの兄
バカぶりにも。
「何を怒ってるんですか?」
 ・・・・思わず片手で顔を覆った。
「オレ・・・・いや、私の言いたいこと、解ってます?」
「ええ」
「なら・・・いいんですけど・・・・」
 リリア嬢の返事を聞いてため息一つ。
 ま、ここから先は当人達の問題なんだし、オレが首を突っ込む事じゃないだろう。
「そこで何をしているんです?」
 後ろから掛かった声にオレ達が振り向くと、
「キュロスさん。会場の方はいいんですか?」
「ええ、一通り片は付きましたから。もう大変でしたよ。パーティーの主賓はいなくなる
し、その上リリアに関する招待客の貴公子達からの問い合わせ、ガウリイさん、及びガブ
リエフ家との関係について、その他諸々。
 何せ武芸百般で知られたレティーオ殿をあっさりとうち負かした上に、キザなセリフと
共にリリアを連れていってしまうんですから」
 苦笑混じりに言う。
 どうやらオレ達がいなくなった後、相当苦労したようだ。
「あっさりとうち負かした、って言いますけど、強かったですよ彼は。聞いたことありま
せんか。達人同士の勝負は一瞬で着くことがある、って」
「そういえば・・・・・そんな話もありましたね」
 言ってから、キュロスさんはリリア嬢の方を向く。
「リリア。先に部屋に戻ってなさい。後から私も行くから」
「わかりました。ではガウリイ様、お先に失礼します」
 ドレスの裾を軽く持ち上げて優雅にお辞儀をすると、彼女はこの場を後にした。
「さて、これでゆっくりと話ができますね」
 キュロスさんは手すりに組んだ腕を乗せるとオレを見た。
「話って?」
 オレも手すりに肘を乗せる。
「この三日間、私は今日のための準備にかかりっきりで、ガウリイさんはリナさんとダン
スの練習ばかりしてたじゃありませんか」
「そうでしたっけ。細かいことはすぐに忘れますからね、オレは」
「そうは見えませんけど」
「そうですか?そうだ、リナはどうしてます?」
「リナさんなら、私と一緒にホールを出ると、物凄い顔で部屋に戻っちゃいましたけど」
 ってことは相当怒ってるな。当分機嫌は直りそうもない・・・・か。
 手すりに突っ伏して、何回目になるか判らないため息をつく。
「いくら芝居だからってあんな演出をされたら、女性はフツー怒りますよ」
「へっ?」
 思わずキュロスさんを見る。
「ひょっとして、全く自覚がなかったとでも・・・・?」
 そう言って、キュロスさんは呆れたようにオレを見た・・・・・。




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1870月夜の宴(前編)鈴野 あや E-mail 3/22-17:32
記事番号1865へのコメント
 すいませーん、今月の上旬に載せるつもりが思いっきり学年末テストとダブり、中旬に
なってしまいました。
 それでは、大変お待たせしました。最終回月夜の宴(前編)をどーぞ。


 
「貴方ほど乙女心の解らない人も珍しいですね」
 キュロスさんが嘆息しながら言った。
「リナの様子・・・・、どんなふうでした?」
 恐る恐る訊いてみる。
「そうですね・・・・、チラチラとガウリイさんのことを見てましたね。リリアの爆弾発
言で周りが騒ぎ出してからはずっと、面白くなさそうにしてましたけど」
 ・・・・成程、そういうことか。
 言われてみれば確かにそうだ。パーティーが始まってからオレはリナの神経を逆撫です
るようなことばかりしている。呪文をぶっ放されなかったのが不思議なくらいだ。
「でもってトドメが決闘ですからね。リリアと一緒に出ていこうとしたときなんか呪文詠
唱を抑えるのに苦労しましたから」
 笑い事じゃないって。
「そ、そぉでしたか・・・」
 やっぱり〜、そんなことまでしようとしたのか・・・・リナのやつ・・・・
 声が多少引きつってしまったのはこの際よしとしよう。
「ところで、話って何です?」
 オレはさり気なく話題を変えた。これ以上聞くとリナに顔を会わせたとき立つ角がな
い。キュロスさんも察してくれたのか、
「リナさんといつから旅をしているのか、と思いましてね」
 オレはあごに手を当てて、
「確か・・・・そろそろ三年位になると思いますけど、それが何か」
 キュロスさんは何やら納得した様子。
「なら・・・大丈夫そうですね」
「大丈夫って、何が」
 さっぱり話が見えてこない。
「リナさんとの仲ですよ。僕のせいで取り返しのつかないことになったらどうしようかと
思ったんですけど」
「はぁ・・・・」
 やっぱり話が見えてこない。
「前にリリアのことをお願いしたときに、リナさんにもパートナー役をお願いしたじゃな
いですか。そのときリナさんは怒るしガウリイさんも嫌そうな顔をしてたじゃないです
か」「そうでしたっけ」
 言われてみればそんなこともあったかも。
「ええ。それで今日、あんな事になってしまって思ったんですよ」
「取り返しのつかないことをしたんじゃないか、って?」
「はい。でもさっきの答えを聞いて安心しました」
「その根拠は?」
「仲が悪かったら三年間もコンビを組むことは出来ないだろうと思いまして」
 何となくキュロスさんの言いたいことが解ったような気がする。
「ま、詳しいことは麗しの姫君に直接聞いてみたらどうです?」
 そういったキュロスさんは人の悪い笑みを浮かべていた。散々苦労をかけてくれた仕返
しだ、とでもいうように。
 彼はきびすを返すとオレの肩をポンと叩き、
「じゃ、そういうことで」
 呆然としているオレを後目に屋敷の中に消えてしまった。
  それってリナに直接訊けってことか。オレはこれからのことを思い、頭を抱えた。
 まだ怒ってるよなー、絶対。どうやって謝ろう・・・。
   
後編へ続く


  

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1872月夜の宴(後編)鈴野 あや E-mail 3/22-17:35
記事番号1870へのコメント
 これの上に入っている月夜の宴は操作ミスで入っちゃいました。ゴメンナサイ。
 では、つづきをどーぞ。




             最終回 月夜の宴(後編)

 思いを巡らせること約十数分。あれこれ考えてはみたものの、何も浮かんでこない。
 こうなったら・・・・・
「ダメで元々、玉砕覚悟で行ってくるか」
 腹を括って気合いを入れた途端、寒気が襲ってきた。
 さすがに春先とはいえ、長時間いると冷えてくるな。
 歩きながら両腕を抱え込んだとき、上着の下からカツンとホルスターの感触が伝わってきた。
 そういや、結局こいつを使うようなことにはならなかったな。心配していたトラブルもなかった
し。・・・・木刀握ってチャンバラはやったが。
 リナの部屋へ行こうと屋上の扉をくぐる。
「リナ!」
 扉の脇にリナが膝を抱えてうずくまっていた。
「部屋に戻ったんじゃなかったのか?」
 リナはうずくまったまま答えない。よく見ると小刻みに震えていた。
「もしかして、ずっとここに?」
 彼女は小さく頷いた。
 それじゃ寒くもなる。リナの着ているドレスはあくまでも屋内パーティー用。
 オレは上着を脱ぐとしゃがみ込み、
「とりあえず、これをはおってろ」
 上着をリナの肩にかけてやる。
「・・・・・」
「えっ、何だ?」
 リナがボソッと何か言ったが、聞き取れなかった。
「何でもない」
 リナは素っ気無く言うと、テラスの方に歩いて行く。
「リナ!」
 オレは慌てて後を追う。
 リナは手すりに身を預けて街灯の灯った街並みを見ていた。横に立つオレを見ようともしない。
 ・・・・怒ってるんだよな、やっぱ・・・・
「その・・・悪かったな、今日は・・・・」
「判ってるわよ、それくらい」
 街並みを眺めたままポツリという。
「でも・・・・」
 リナはキッとオレを見て、
「いくら仕事だからって・・・・」
 俯いて強く唇を噛む。
 リナにかける言葉が出てこない。もし、出てきたとしても言い訳にしかならない。
「な〜んてね♪」
 急に顔を上げて微笑む。
「り、リナ?」
 何なんだ、このかわりようは?
「そりゃ、あの時は本気で呪文ぶちかましてやろうかと思ったし、リリアさんと何かあったら即、
問答無用ではり倒そうかとおもってたけどね。ま、れーせーに考えてみたら、あの状況じゃああす
るしかなかっただろうし、ガウリイも悪かった、って思ってるみたいだから・・・・」
「だから?」
 リナはピッと指を立て、
「向こう一週間の食事代、ガウリイ持ちって事で勘弁してあげる」
「わかったよ」
 思わず笑みがこぼれた。
 一時はどうなることかと思ったが・・・・・。
「あと、盗賊イジメにも口を出さないこと」
「それだけはダーメ」
 笑みが苦笑に変わる。ったく、すぐこれだ。まぁその方がリナらしいが。
「なんでよ」
 不満そうに言うリナに、
「危ないからに決まってるだろ」
「あたしが盗賊ごときにやられると思ってんの?」
「そうじゃない!別口で襲われたらどうするんだよ。この前だって危なかったじゃないか」
 思わず口調がきつくなってしまった。
 二週間ほど前の話だが、夜に何とはなしに嫌な予感がしてが盗賊イジメに行ったリナを探しに
行ったことがあった。その時やたらと派手な爆音が聞こえてそこに行ってみると、リナが魔族と一
戦交えているところだった。
 その時はなんとか撃退できたからよかったものの、オレが着くのが後少し遅かったら片腕が取れ
る位じゃ済まなかったかもしれない。
「それは・・・・」
 リナもあの時のことは憶えているらしい。
「・・・・判ったわよ」
 半ばふてくされたように言うと、
「じゃあ行く時はガウリイも付いてきてねc」
 何でそうなる。
 にしても、それでこそリナというか、何というか。オレは苦笑しながら、
「・・・・考えとく」
「すぐ忘れるくせに?」
 ・・・・即座に反論できない自分が情けない・・・
 リナは嘆息しているオレを楽しそうに見ながら、
「ねぇ、踊らない?」
「随分といきなりだな。その前に寒くないのか?」
 さっきも述べたがリナのドレスはあくまでも室内用。いくら上着をはおっているからといっても
寒くないわけがない。
「少しね。だから体を動かすんじゃない。ついでに」
 リナは夜空を見上げ、
「ムードもあるしね」
「成程な」
 言ってからオレも空を見た。
 満天の星の中に満月が浮かんでいる。確かにこれ以上の物はそうそうないだろう。曲がないのが
残念だが。
 リナと一緒なら月光の下で、というもの悪くはない。
「では、姫君」
 昔憶えた騎士の礼に則り、リナに向かって一礼する。
「作法を知らぬ無骨者ですが、一曲御相手願えますかな?」
「よろこんで」
 おどけながら差し出したオレの手をリナが取る。 
 そのままリナを引き寄せてステップを踏む。その拍子にリナの肩に掛かった上着が床に落ちた。
 
 そして、月夜の宴が始まる。


後日、風の噂によるとパーティーの騒ぎを実家の方も知ることとなり、後始末にキュロスさんがえ
らい苦労をしたそうだ。
                                FIN.



 やっと終わりましたー。・・・・・長かった。そういえばガウリイの内面、もう少し書き込みた
かったな。リナへの思い、もう少し語ってほしかった。
 つたない文でしたが、お付き合いいただき、ありがとうございます。
 それでは。

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1888Re:月夜の宴(後編)松原ぼたん E-mail 3/23-15:43
記事番号1872へのコメント
 完結おめでとう御座います。面白かったです。

> 思いを巡らせること約十数分。あれこれ考えてはみたものの、何も浮かんでこない。
 たいへんですねー。
> 彼女は小さく頷いた。
 こっちも大変ですね。
>「向こう一週間の食事代、ガウリイ持ちって事で勘弁してあげる」
 ガウリイを信頼してるんだろうけど・・・・えらいなー。
> 満天の星の中に満月が浮かんでいる。確かにこれ以上の物はそうそうないだろう。曲がないのが
>残念だが。
 確かにムードありますよね。
> 昔憶えた騎士の礼に則り、リナに向かって一礼する。
 をを、ガウリイかっこいー。
> そして、月夜の宴が始まる。
 よかった、よかった。
>後日、風の噂によるとパーティーの騒ぎを実家の方も知ることとなり、後始末にキュロスさんがえ
>らい苦労をしたそうだ。
 ごくろーさま。

 本当に面白かったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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1871月夜の宴鈴野 あや E-mail 3/22-17:33
記事番号1865へのコメント
鈴野 あやさんは No.1865「再掲示 宴の前座」で書きました。
>          第一話 宴の前座
>
> う、ウソだろ〜?
> あまりの変化ぶりに、オレは目を皿のようにしてリナを見ていた。
> 今のリナのスタイルは、淡緑色の古風なドレス。腕には肘の上まである白い絹の
>手袋。耳を彩るのはドレスに合わせた翡翠のイヤリング。胸元には目の覚めるよう
>な鮮やかなガーネットのブローチ。うっすらと化粧もして唇には紅をつけている。
>いつもと変わらないのは髪型くらい。
> そう言うオレもいつもの傭兵スタイルではなく、黒のタキシードを着て髪も首の
>ところで一つに束ねている。
> それにしても化けたな〜。
> 今日ばかりはいつものハチャメチャな雰囲気はどこにもない。
>「なーによ、その顔は」
> あ、やっぱり中身はいつものままか。
>「どーせ『らしくない』とか『似合わない』とか思ってんでしょ?」
> オレは慌てて首を振った。
> ああは言っているが、リナの方もまんざらではないらしい。
> ドレスの裾を持って歩いてみたり、裾を翻してみせる仕草が妙に楽しそうだ。
> こーゆーとこは、女の子なんだな。
> コンコン、
> ドアがノックされ、キュロスさんが顔を出した。
>「二人とも、準備はできましたか?」
>「ええ、一応」
> リナが答える。
>「・・・・どうかしました?」
> キュロスさんがじっとオレ達を見てる。
>「いや・・・、絵になるなー、と思って。さながら深窓の令嬢と思いを寄せる貴公
>子、と言ったところでしょうか」
> 『は?』
> 一体何を言い出すんだこのにーちゃんは。
> オレとリナの声がハモった。
> オレはリナを指して、
>「深窓の令嬢って、こいつが?」
> その瞬間、殺気が走る。
> どげしっ、
> リナのアッパーカットがオレに炸裂していた。
>「やっかましい!大体あんただって貴公子ってガラじゃないでしょ!」
>「ホント、仲がいいんですね」
> ニコニコしながら言うセリフか?
> オレはヒリヒリするあごをさすりながら起きあがると、
>「今のでそう見えるんですか?」
>「はい」
> ・・・・・・・・
> キッパリと言い切られると何も言えなくなる自分が恨めしい。
>「さぁ行きましょう。下ではもう始まっていますよ」
>「はーい」
> ドレスの裾を持ち上げて、キュロスさんの後についていくリナ。
> 本当に大丈夫なんだろうな〜。
> 上着を直してため息をつくと、懐に光の剣があるのを確かめる。
> これを使うようなことはまずないだろうが、この手のパーティーでトラブルが起
>きないとも限らない。
> 何かの弾みで転げ落ちたりしないよう、脇につるしたホルスターに固定し直す。
> これでよしっと。
> あれ、リナ達は?
> ドアの外を見ると、二人は既に遙か先を歩いていた。
> 見失ったら確実に迷う。
>「待ってくれ〜」
> オレは慌てて後を追った。
>
>
>
> 話は三日前にさかのぼる。
> 昼過ぎにこの街に入ったオレ達は、メシ屋を探して大通りをぶらついていた。
>と、その時、
>「どーゆーつもりなんだ!あぁ?!」
>「お高くとまってんじゃねーぞ!おらぁ!」
> 怒声のした方を見てみると、どこの街にも必ずいるごろつき達が一人の若い男に
>因縁を付けていた。どーせちょっとぶつかったとか、目があったとかそんな程度だ
>ろうが。
> ま、上物の服を着て下町を出歩けば、この手の連中にも出くわすわな。
> オレはリナを見て、
>「どうする?」
>「決まってるでしょ」
> いつもの調子で言うと、
>「はーい、ちょっとどいてどいて」
> 足を止めて騒ぎを見ている通行人達をかき分けて、ごろつき達のところに歩いて
>いく。当然オレもそれについていく。
> リナはごろつき達に向かって、
>「ちょっと、何があったか知らないけど、ちょっとひどすぎるんじゃない」
>「うるせぇ!引っ込んでろチビ!」
> 言うなり連中の一人がリナに殴りかかるが、リナはあっさりとそれをかわす。
> たまにいる。正論を言われるといきなり逆上する奴が。
> 男が再度腕を振り上げる。
> そいつの腕を掴んで逆手に捻りあげてやろうと思ったとき、リナの呪文を唱える
>声が聞こえた。
> まずい、多分切れてる。
> 慌てて絡まれていた男の方へ行き、
>「何なんだて・・・ガッ!」
> オレに向かってきた奴を裏拳一発で黙らせると、絡まれていた男の腕を掴んで、
>「こっちに!」
> 急いでごろつき達から引き離す。その瞬間、
> ちゅどぉぉぉぉぉぉん
> リナの呪文が炸裂した。
>
>