◆−ゼルアメで連作開始です−深海ゆら (2001/10/10 08:47:28) No.17469
 ┣始まりはいつも…(前編)−深海ゆら (2001/10/10 08:51:12) No.17470
 ┗始まりはいつも…(後編)−深海ゆら (2001/10/10 08:54:48) No.17471
  ┗あ、これって・・・・・・・・・・・・・・・・・−紫嵐 (2001/10/13 21:48:38) No.17532
   ┗そうで〜す−深海ゆら (2001/10/14 10:28:12) No.17540


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17469ゼルアメで連作開始です深海ゆら URL2001/10/10 08:47:28


こんにちは。まともな創作の投稿は2ヶ月ぶりになります(汗)
今更ながらですが、ゼルとアメリアのTRYその後を、自分なりに書いていこうと思い立ちまして、ようやく第1話が完成しましたので、投稿させていただきます。
最後はいつになるやら、それまで一体いくつ書くことになるか、全然わかっておりませんが(最後のお話だけはすでに決めてあるのですが(-_-;))、読んでやっていただけると嬉しいですm(__)m

ちなみに今回投稿の作品の前振りが1本ありまして、それは個人サイトの方にひっそりおいてあります(汗)ので、興味のある方はそちらも見てやってくださいませm(__)m

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17470始まりはいつも…(前編)深海ゆら URL2001/10/10 08:51:12
記事番号17469へのコメント

「にじゅうく、さんじゅ…」
アメリアは自分のベッドの上で、指折り数を数えていた。
その光景はこの数ヶ月間、アメリアにとって毎日の習慣となっていた。
「今日…で丁度1ヶ月ですね」
両手の指を3回ずつ折ってから、うふふふと笑うアメリア。…端から見ると、すごく怪しい人である。
「…早く来ないかなー、ゼルガディスさん(はぁと)」

ダークスターとの戦いから、既に1年が過ぎていた。


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ダークスターとの戦いの後、ゼルガディスはアメリアを置いて一人旅に出た。だが現在、1ヶ月周期でセイルーンに戻ってくる生活を続けている。

本当は目的を達成するまで、ゼルガディスはアメリアには会わないつもりだった。だから、戦いの後すぐにセイルーンを立った。
だが、アメリアに会えないこと。それはゼルガディスにとって予想以上の重圧となり、別れて1ヶ月後、耐えきれなくなりついついセイルーンに立ち寄ってしまった。
一度寄ってしまえば後は言わずもがな、『会わない』と決めた意志は、ガラガラと音を立てて崩れ去った。

以来セイルーンに居つくことはないものの、1ヶ月ごとに1夜だけ、アメリアの部屋を人目を忍びながら訪れていた。
遠い国に行っているときは1ヶ月で帰ってこなかったこともあったが、アメリアはゼルガディスが戻ってきてくれると信じて、毎日日数を数えながら楽しみに待っているのだ。


前回ゼルガディスが戻ってきてから1ヶ月。遠い土地まで行ってなければ、そろそろ顔を見せてくれるに違いない。
アメリアは昨日あたりから落ちつかず、そわそわしていた。


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その頃ゼルガディスは、セイルーンの人気のない郊外で、一人たたずんでいた。
その拳には何かが握られており、視線は遠く、夜でもかがり火が焚かれてその姿がわかる、セイルーン王宮に向けられている。
「本当だろうと、嘘だろうと、俺は…。…くそっ、ゼロスの奴…!」
歯軋りをしながら、ゼルガディスはつぶやいた。


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事の始まりは1週間ほど前。
ゼルガディスがセイルーンから普通の人の足で10日程度離れた町で、そろそろセイルーンに向かおうかという頃だった。

ゼルガディスは人気の少ない図書館で本を広げていた。
(ここにもめぼしい情報はないようだし、次の場所に移るとするか…。その前に、セイルーンに立ち寄るかな…)
そう思って、今まで読んでいた本を閉じ、元の本棚に戻す。
普通の人間の足で10日の距離でも、ゼルガディスならその半分近くで突破できる。今日1日この町で休んだとしても、約束の期日までにセイルーンまで行けるだろう。
「以前1ヶ月を少し超えただけでも、あいつは泣きそうな顔をしてたからな…」
そう独り言を言いながら、ゼルガディスは自分の大切な女の子の泣き顔を頭に浮かべた。

−アメリアの涙

ゼルガディスにとって、一番苦手とするものだった。


前回はセイルーンよりかなり離れた公国の山奥まで出向いていたため、さすがにゼルガディスの足でも、往復だけでも1ヶ月を要した。目的地の神殿で文献をあさること数日。どうしても1ヶ月以内に、再びセイルーンに戻ることは無理だった。
ようやく戻った時のアメリアの表情は、ゼルガディスの瞳の中に焼きついて離れない。
すごく嬉しそうな顔もしていたことも事実だ。だが、その中に大きな不安が隠しきれないように混在していた。
…ただ、不安で泣かれるよりも、ゼルガディスの心にはずっと奥深くに突き刺さった。

自分勝手な思い…人間に戻るまで彼女とは会わない、と、初めに決めていたことが馬鹿らしく思えた。そんな自分の考えなど、彼女を不安にしてしまうことから見れば、取るに足りないつまらないことのように思えた。
だからそれ以来は、彼女が不安にならないよう、定期的に戻ることにした。

…何より自分も、そうすることを望んでいたのだ。心の底では。


色々と以前のことを思い起こしながら、ゼルガディスは図書館を出ようとしていた。
そのときだった。
一瞬空間がゆがみ、妙な違和感に襲われる。
「何だ…!?」
この感覚には覚えがあった。…そう、1年ほど前までは、嫌というほど何度も味わった感覚だ。

−魔族が空間をゆがめて現れる瞬間…!

「誰だ!!」
ゼルガディスはすぐに自分の腰に吊るした剣に手を掛け、襲撃に備える。そして辺りを見回し、感覚を研ぎ澄ませる。

「…嫌だなあ、ゼルガディスさん。そんなに殺気立たなくてもいいじゃないですか」
のんきな声と共に、宙に黒い影が現れる。
その声には覚えたくもなかったが、聞き覚えがあった。
「ゼロス…!」
「お久しぶりです、ゼルガディスさん」
ご丁寧にお辞儀までしてきたのは、かつて共に戦った獣神官・ゼロスだった。

「…何の用だ」
「久しぶりにお会いできたのに、そんなに今にも噛みつきそうな態度はやめてくださいよ」
「……」
ゼロスの台詞に、ゼルガディスがますます殺気を放つ。
こんなのんきな台詞を吐く態度に騙されてはいけないということを、ゼルガディスはよく知っていた。
「お前が現れると、ロクなことがないだろうが。それに俺はお前が嫌いなんだ」
ゼルガディスは嫌な感情を隠そうともせず、そう言い捨てた。
「そこまで嫌わなくてもいいじゃないですかぁ」
「俺じゃなくとも、魔族が好きな人間はそういないと思うがな」
「まあ、そうかも知れませんけどね。とにかく僕は、今はあなたと争おうなんて思っていませんから、ロクでもないことが起きるっていうことはないと思いますけどね」
「今は、ね…。だいたいお前に会ったこと自体が、ロクなことじゃあないんだが」
「…そこまで言わなくても…」
ゼロスが傷ついたように、地面にしゃがみこんでのの字を書き始める。
「だー!うっとおしい真似すんな!!」
今は魔族の結界を張っているわけではないので、図書館の前の往来には、普通の人が普通に歩いている。
全身真っ白い服の妖しげな男と、全身真っ黒なこれまた妖しげな男が言い争って、おまけにいい大人(?)が地面にしゃがみこんでいれば、これほど怪しい光景はないだろう。人々がうさんくさそうに、2人を避けるように歩き、振り返ってはこそこそと話しこんでいる。
「ちっ…やっぱりロクなことがない」
ゼルガディスは舌打ちをし、いじけるゼロスを放ってその場を離れる。
「あ、待ってくださいよ、ゼルガディスさん〜!まだ僕、1つもお話してないんですけど〜」
後ろから慌ててゼロスが、ゼルガディスを追う。
ゼロスが大きな声を出してしまったので、また何事かと人々が2人に目を向ける。ますます悪循環になってしまい、ゼルガディスは怒りの頂点に達する。
「俺が話すことは1つもない!」
「ま、ま、そう言わずに。…聞かなければ後悔するかもしれない情報ですよ?」
「何…?」
ゼロスの台詞に、ゼルガディスがぴくりと反応する。
「うーん、僕ってばとっても親切なことをしようとしてるんですよね〜。ま、あなたが聞く耳持たないなら、わざわざ教えてあげるような義理はありませんし、別にいいんですけどね」
「…おい」
そう思わせぶりな台詞を言って、ふいっと背を向けたゼロスに、ゼルガディスが無視しきれなくなって声を掛ける。

今までも何度もゼロスの情報に痛い目を会わされてきたが、確かにゼロスは嘘はつかない。実際にクレアバイブルの写本のありかの情報には、いつも嘘はなかった。
…ただ、ゼルガディスが見る前に、ゼロスが焼き捨ててしまって、ゼルガディスが見ることができなかっただけだ。
そういう情報であったなら、今度こそ自分が先に手にいれてやる!と、固く心に誓いながら、ゼルガディスはいやいやながらもゼロスの話を聞くことにした。

「一応話は聞いてやるから、早く言え。今すぐ言え。そしてとっとと失せろ」
これほど尊大な態度はないというほど、偉そうにゼルガディスは言い放ったが、当のゼロスは特に気にも留めた風もなく、嬉しそうに頷いた。
「相変わらずですねえ、ゼルガディスさん」
「どーでもいいからとっととしゃべれ」
「いや、あの、さすがにそこまで邪険にされると、僕としてもちょっと…」
さすがにあまりの扱いの悪さが気になり始めたのか、ゼロスの口元がひきつる。
「クレアバイブル関係の情報なら、真面目に聞いてやる」
「ざーんねん!今回は違うんですよ」
「そうか。じゃあいい」
「あああ、待ってください!どうしてそう、人の話を最後まで聞かないんですかねぇ、この人は。…アメリアさんに関係する情報、なんですけ…」
「とっとと言え!!」
手を振ってすたすたと歩き始めていたゼルガディスだったが、ゼロスの口から『アメリア』という単語を聞いた瞬間、ものすごい勢いで戻って来、ゼロスの首を締め上げた。
「ぜ、ゼルガディスさん、ぐるじいです…」
その勢いにゼロスは身をかわすことができず、あっさりと締め上げれて音を上げる。
「アメリアに関係するとは、どういうことだ!!?」
ゼロスを下ろし、怖い表情のままゼルガディスは問い詰める。
「げほッ…全くこの人、他の人はどうでもいいと言ってる割には、アメリアさんに関してだけは完全に別人ですねえ。実に面白いです」
ゼロスは咳き込みながら、ゼルガディスに聞こえないよう小さな声で独りごちた。そして息を整えながらようやく本題に入る。
「あのですね、極秘情報なのであまり詳しくは言えないんですが…」
「前置きはいい」
「はいはい。じゃ、要点のみ言いましょうか?…セイルーンにまた魔族の手が、そのうち入るかもしれません。それだけですよ」
「何…!?」
あまりに要約しすぎな1文のような気もしたが、ゼルガディスを驚かせるにはそれで充分だった。
「どういうことだ!!?」
「あくまで可能性、ですよ。さすがに僕も、まだはっきりしたことは言えないんです」
「またガーヴかヘルマスターの手下の生き残りでもいるというのか!?」
「そこまではちょっと申し上げられません。ただ少なくとも、ガーヴ様側の配下はもう居ないはずですよ。ヴァルガーヴさんで最後でしたから」
「…お前んところか!?」
すっかり据わった目のゼルガディスに睨みつけられて、ゼロスは慌てて手を振って否定する。
「嫌ですねえ、違いますよ!僕達はそんなせこいことしませんって」
「セイルーンに入りこんで、何をするつもりだ!?」
「さあ、そこまではちょっと…。僕も知らないんですってば。…まあ、以前入りこんだカンヅェルさん達のことを思い出していただければいいかもしれませんね。ただ今回は、あの方たちのように、明らかに失敗するような下策を取るようなことはなさそうな相手ではない、と申し上げておきましょう」
「お前の言うことが事実だという証拠は!?」
「あるわけないじゃないですか」
のほほんと答えるゼロスを、ゼルガディスがものすごい形相で睨む。
「俺にお前の言葉をそのまま信じろっていうのか?」
「あなたが信じようと信じまいと、僕はかまわないんですけどね。その計画が実行されたとすれば、上からの命令ですから潰しにはかかりますけど、僕にはセイルーンを救う義理も義務もないわけです。ですから、王族の方々がどうなろうと知ったことじゃありません」
ゼロスは肩をすくめながら言った。
「……」
「ま、僕がこの情報を持ってきて差し上げたのは、別の目的があってですから、本当にあなたがどうしようとかまわないんですよ」
「…どういうことだ」
「いつものことですよ。…あなたが悩み、苦しむ感情は、僕にとって、非常においしい食事だからです」
そう言いながらゼロスは、人差し指を自分の口元に当てて、左右に振った。ゼルガディスからすれば、それは人を馬鹿にしたような行為にしか見えない。
「貴様…!」
即座にラ・ティルトの詠唱の構えを見せるゼルガディス。対するゼロスは、全く効かないとわかっていつつも、ふっと身体を宙に逃がす。
「おお、怖い。じゃ、僕はこの辺にて退散します。一応僕は情報を伝えましたからね。それをどう生かすかは、あなたの自由です」
「俺にどうしろってんだ!?」
上空に逃げたゼロスを、ゼルガディスは下から睨む。
「別に。ただ僕は、あなたがどういう行動を取ってくださるか、楽しみにしてるだけですよ」
その瞬間、ゼロスの身体は空に消えた。

『差し上げられそうな情報がありましたら、またお邪魔します。それまでアメリアさんをちゃんと護ってあげてくださいね。僕としても彼女には危害が及んで欲しくありませんので』

そう声だけが響き、気配も完全に消えた。

ゼルガディスは詠唱が間に合わなかったラ・ティルトの呪文を、やつ当たりするように、先ほどまでゼロスが居た場所に叩きつけた。


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その後ゼルガディスは、急ぎセイルーンに向かいながら、今後の自分の行動をどうすべきか考え続けていた。
「こんな不確実な情報持って、どうすりゃいいってんだ…!」
ゼルガディスはずっと走りながら、歯軋りのしっぱなしだった。

危険な情報。でも信用できない。
アメリアを放っておいて、本当に奇襲されたら…?自分は知っていたのに、彼女を守れなかったら…?
『後悔』なんて生ぬるい言葉で、自分の感情は表せないほど、自分の決断を呪うことになるのは間違いない。
だが…このまま確かな情報もないまま、いつまでそうしていなければならないまま、ずっとセイルーンに留まっている訳は…。人間の身体は取り戻せない。
アメリアの傍に居るために、人間に戻りたい。でも、人間に戻ったとしても、そのときにもしアメリアが居なくなっていたら…?これほど無意味なことはない。

色々考えることはある。そしてちっともまとまらない。
だが、ただ1つだけ、何があっても絶対に譲れないものははっきりしていた。

『アメリアだけは、絶対に護る』

絶対にそれだけは間違いがなかった。

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17471始まりはいつも…(後編)深海ゆら URL2001/10/10 08:54:48
記事番号17469へのコメント

夜には弱いアメリアだが、この時ばかりは楽しさと期待で、いっこうに眠くならなかった。
だが今日は、もうすっかり夜は更けて、日付が変わろうという時間になっていた。さすがにこの時間になっても現れないところを見ると、どうやら今日は来ないだろう。
アメリアはため息をつき、仕方なく布団の中に入ろうと思ったその時、ベランダにつながる窓が、音を立てて開いた。
「ゼルガディスさん!」
「…久しぶりだな、アメリア」
暗闇の中から白いマントが現れ、低い声が響く。
アメリアはベッドから飛び降り、ゼルガディスにしがみついた。
「おかえりなさい、ゼルガディスさん…!」
「こんなに遅い時間になって、すまん…」
しがみついてくるアメリアをしっかりと抱き留め、ゼルガディスは謝罪を述べた。だがアメリアは、頭をぶんぶんと横に振り、ゼルガディスを見上げる。
「そんなの気になりません!ゼルガディスさんが帰って来てくれたなら、私はそれだけで嬉しいんですから!」
「そうか…」
ゼルガディスはアメリアの嬉しそうな顔に、思わず笑みを浮かべた。


2人はベッドに腰を下ろし、アメリアがしきりにこの1ヶ月の出来事をゼルガディスに尋ねた。そしてゼルガディスから話を聞いた後は、今度はアメリアが周りであったことを話し始める。
そうして時を過ごした。これも毎度のことである。
月に1度、しかも夜の間だけ。一緒に過ごせる時間は少なかった。だからこそアメリアは、ゼルガディスと沢山話をしておきたい、そう思っていた。

「…どうしました?ゼルガディスさん?」
そう口数が多い方ではないゼルガディスだが、今日はいつもにも増してあまりしゃべろうとしない。おまけに半分上の空である。
始めは疲れているのかと思って口には出さなかったが、もう外は白くなり始めていて、残り時間が少ないことを、嫌がおうにも自覚せざるを得ない。
最後までいつもと様子が違うゼルガディスに、アメリアは話を止めて尋ねた。
「ああ、ちゃんと聞いてる…はずなんだがな。すまん、少し考え事をしていた」
「何を考えていたんですか?」
アメリアの問いに、ゼルガディスは一瞬躊躇したものの、自分の懐をがさがさと探り始める。
「これを…返そうかと思ってな」
そう言いながらゼルガディスが差し出したのは、ダークスターとの戦いの後、セイルーンでの別れ際、アメリアがゼルガディスに差し出した、あのアミュレットだった。
先ほどまでゼルガディスが、自分の手で握り締めていたものだ。
「これ…ゼルガディスさん…」
アメリアはなぜゼルガディスが急にそれを出してきたのか理由がわからず、一瞬息を飲んだ。そして嫌な考えが頭に浮かんでくる。
「私の代わりに…旅に連れて行ってくださいって…。もう…いらない…ってことですか…?」
アメリアの目は涙に潤み、その目は「いらなくなっちゃったんですか?」と悲しそうに物語っている。
「勘違いするな」
涙をいっぱいに貯めたアメリアに慌てたゼルガディスは、否定の言葉を発してから、アメリアの身体を抱き寄せる。
「これは…お前の代わりとして預かったものだ。でも…これじゃダメなんだ」
そう言いながら、ゼルガディスは抱き寄せる腕に力を込める。

「俺は…代わりなんかいらない」

「え…?」
ゼルガディスの胸に顔をうずめる恰好になっていたアメリアが、その言葉に驚いて顔を上げる。
「代わりじゃなくて、お前を連れて行きたい」

ゼルガディスのまっすぐな瞳が、アメリアの心に刺さる。

「ゼルガディスさん…?」
「俺に…ついてきてくれないか?あてのない旅だ。どこまでお前を引っ張りまわすことになるかわからない。でも俺にはお前が必要なんだ」

そして発せられた言葉の内容も。


いつまでセイルーンでアメリアを守って、魔族を撃退しなければならないのか。その前に本当に魔族が仕掛けてくるかもわからない。
そんな不確実なことで時間を費やすことも、ゼルガディスにはできなかった。
そしてようやく決断した一つの道−−『アメリアを自分と共に行動させること』

だが、本当の理由はアメリアに伝えられない。こんな…身勝手な自分の欲望のために、アメリアを振り回す、自分の本当の理由を知られたくなかった。
だから理由は言えなくとも、自分が本当に思っていること、アメリアといつも共に居たい、自分にはアメリアはもう絶対に必要な存在なのだと思っていることを、今まで足かせとなっていたものを捨てて、せめて伝えようと思った。


アメリアの瞳に溜まっていた涙が、一気に溢れ出す。
「…って、おい!」
誤解を解こうとしたのに、逆にますます泣き始めたアメリアに、ゼルガディスはますます慌てた。
「…がう…違うんです、ゼルガディスさん」
アメリアは詰まりながらそう言って、ゼルガディスが息を飲むほど、いつもとは違った笑顔になった。

目には涙が溜まっているけれど、嬉しそうな、それでいていつものにこにこした笑顔とは全く違った雰囲気。何とも言えない表情だった。

「ゼルガディスさん、いつも何でも一人でしようとしてるから…私なんか必要ないって、逆に足手まといになるだけだと思ってました。でも、ゼルガディスさんが私を必要としてくれて…そう思ってもらえてることが嬉しいんです」
そう言ってアメリアは、いつもの明るい笑顔に戻る。
「いつもゼルガディスさんに助けてもらってて…嬉しいけれど何だか寂しかった。だけど私でも、ゼルガディスさんを助けれることはできますか…?」
「…俺はいつも、お前に助けられてるさ。どんな時も…な…」
ゼルガディスは一瞬詰まりつつも苦笑しながら答えた。そうしてアメリアの頭を撫でる。
「俺の旅は危険もある。だけど…俺の全てを持って、お前を守ることは誓う。それは絶対だ…!だから…」
「もちろん!ゼルガディスさんの危機は、私がお助けしますッ!」
すっかり沈みシリアス気味(?)になっていた雰囲気を、アメリアがガッツポーズを取って吹き飛ばした。
ゼルガディスはものすごく恥ずかしいセリフを言っているのを自覚していたが、今日は本当の本心をきっちりと伝えようと、かなりの決意の元に切り出したのだ。それをあっさりとアメリアは中断してぶち壊し、ゼルガディスはがくっと肩を落とした。

(こいつと居ると、どうもシリアスにはなりきれんな…)

だけどそれにいつも自分が救われているのも事実。
特に今回は…。アメリアの代わりの『モノ』よりも、アメリア自身が自分の傍にいてくれたら。そう思う心は本当の本心だった。だが…。
ゼルガディスは罪悪感との狭間で悩んでいた気持ちが、アメリアの一言によって、少し癒された気分だった。

言いたいことが全て言えなかったゼルガディスは、とりあえずごほんと咳払いをして気を取り直す。
「それはまあありがたいんだが…いいのか?セイルーンを一時的とは言え、捨てることになるんだぞ?」
「それは…」
さすがのアメリアも、先ほどまでの勢いはどこへやら。一瞬言葉に詰まってしまう。
「確かに責任から逃れることは嫌、です。でも、もっと嫌なこともできたんです」
「アメリア…」

旅に出るということは、自分の責務を放り出すということ。
責任感の強いアメリアの心には、それはかなりの痛手であった。
以前はまだ良かった。まだ幼かったし(今もあまり変わっていないような気もするが)、結局この世界を救うという旅になったので、王族としての責務を果たせたということもあったかもしれない。
だけど今回はどう考えても、個人的なわがままとしか捉えられない。

「確かに私は、自分の責任を果たしたいと、そう望んでいます。でも私は、自分の心に嘘をつくのももう嫌なんです。…自分が一番したいことを、ずっと我慢するのは…」
そう言いながら、アメリアは悲しそうな瞳をゼルガディスに向けた。

それを見てゼルガディスは、苦しさを感じると同時に、嬉しさも感じた。
自分のことで悩ませるのは嫌だけれど、アメリアが自分のことを考えてくれている、という事実に。

「ちょっと無責任なことかもしれませんけど、まだ取り返すことができるものだから…。だからッ!今しかできないことをしたい」
アメリアはぎゅっとゼルガディスのマントを握り締めながら言う。
「私は『今』一番自分にとって大切なこと、やりたいこと。…ゼルガディスさんが、それを許可してくれるなら…」
「…って、許可を求めなくても、元々俺が言い始めたことなんだが」
ゼルガディスは、力説しながらも悲しい目を向けるアメリアに、苦笑しながら答えた。少しでもアメリアの罪悪感が薄れるように願いながら。
「あぅ…そうでしたね」
アメリアははっと気がつき、顔を赤くする。
「でもまあ、俺が言い出したことではあるが、アメリアがそう思ってくれたことは…」
ゼルガディスはそこで一旦言葉を切る。見る間にその顔が紫色に変色していく。そして、沈黙の後に口を手で覆い、顔を背けながらぽつり、と言った。
「お前が『今』俺と一緒に行きたいと…。一番大切に思ってくれたことは、嬉しい、と思う…」
珍しく自分の感情を外に出したゼルガディスを見て、アメリアの顔が見る間に笑顔に変わる。
「だったら、私は『今一番したいこと』を大切することにします!だから…連れてってくださいね?今からもうダメだなんて言っても、遅いですからね?」
赤い顔のままで、アメリアがにぱっと笑う。照れまくっていたゼルガディスもそれにつられて、思わず笑みを漏らす。
「…ああ、お前は一度決めたら、絶対に動かないからな」
「当然です!一度口に出したことは、成し遂げないといけませんよ!不肖アメリア。ゼルガディスさんを無事、人間の身体に戻すとお約束します!」
「心強い限りだな」
ゼルガディスはそう言いながら、喉の奥で笑う。
アメリアさえいれば、神に祈りを捧げるよりも、人間の身体を取り戻せる確率がはるかに高いのではないか。少なくとも自分には、確実に効果があるだろうなと、ゼルガディスは思った。

そしてふと笑いをおさめ、何か思いついたような顔に変わる。
「ゼルガディスさん、どうしました?」
「ああ、もう一つ考えなきゃいけないことがあった、と思ってな…」
「?何ですか??」
「フィルさんにどう説明するか、だ。少なくともフィルさんにはきちんと…俺が話をつけないといけないと思ってるが…」

アメリアに言うのはまだたやすい。そしてアメリアの返答を聞くのも、実はそんなに怖くはなかった。
だがフィリオネルに対する説得には、あまり自信がなかった。いくら普段は温厚で平和主義な人でも、目に入れても痛くないほどかわいがっているアメリアを、ようやく腰を落ち着けたと思ったのに、またうさんくさい自分が連れ出そうとしたら…。
反対しないはずがない。本来ならアメリアは、外に出れるような身分ではないし、とっくに結婚していてもおかしくない年齢なのだ。
フィリオネルの説得自体は、アメリアに任せるという方法もある。かわいい娘の懇願なら、彼も最終的に折れることは明白だからだ。いざとなれば、攫ってでもいけばいいのだ。
だがそれらはしてはいけないことだ、とゼルガディスはわかっていた。…無責任なことはしたくない。フィリオネルには自分の決意をきちんと伝えるべきだと、そう思っていた。
それに、『あの情報』もアメリアには言えなくとも、彼には伝えなければならないから。

「だいじょーぶですよ、ゼルガディスさん」
難しい顔をして唸っているゼルガディスの手を、アメリアがぎゅっと握りしめる。
「私も一緒に行きます。だって…旅に出たいというのは、私の意思でもあるんですから。『今回は』ちゃんと父さんに話してから出たいです」

『今回は』。

「…そう言えば、前回も、前々回も確かリナたちの騒動に巻き込まれて、旅に出るハメになったんだったかな」
以前の出来事をゼルガディスは思い出しながら、アメリアと共に苦笑する。
「たまにはドタバタせずに旅に出てみたいもんだ」
「今回はきっと大丈夫ですよ。…ある意味別の騒動が起こるかもしれませんが…」
「…そうだな」
アメリアが普段、宮殿外に出ることにすらいい顔をしない大臣達の、苦い顔を思い出しながら、2人はため息をつく。
「今回は別に父さんを怒らせたからと言って、出かけるわけじゃありませんから。少なくとも父さんは許してくれると思います。……ちょっと後ろめたいところがないわけじゃないですし、あまり長くは…無理かもしれませんけどね」
最初は自信ありげに胸を張っていたアメリアだったが、最後の部分だけはつぶやくように沈んでいった。

王族としての務め−−結婚し、世継ぎをもうけること。
王族としては既に婚期を迎えているアメリアは、最近とみに大臣達から見合い話を聞かされていた。だがアメリアは、それをことごとく蹴飛ばしている。
でも、それもいつまで持つか、不安な状態にまで来ていた。アメリアは自分の心はどうであれ、最終的にはその務めを受け入れざるを得なくなるだろう。…たとえゼルガディスを想い続けているとしても。

「でも、だからこそ!」
アメリアは急に顔を上げて、ガッツポーズを取りながら叫ぶ。
「『今』しかないんです。今一番大切なときだと思うんです!だから私は行きます。…急ぎましょう、ゼルガディスさん」
アメリアの言葉にゼルガディスは驚く。だが驚きながらも、自分の心と同じ事をそのまま持っていてくれたアメリアに、嬉しさを感じていた。
そして一瞬遅れて、頷きながら答える。
「…そうだな。ここでとやかく言っていても始まらんな」
「そうです。善は急げです!朝になったら、早速父さんに話に行きましょう!ついでにそれまでに私、出る準備しておきますね!」
「…えらい早い決断だな。出させてもらえなかったら、どうするんだ?」
「強行突破に決まってます!」
「をい…」
「その場合のために、手が回されないうちに出れるよう、準備万端で臨みましょう!」
「…いいのか?」
すっかりやる気になったアメリアは、いつものペースに戻って恐ろしいことを平気で言う。そしてベッドを飛び降り、早速クローゼットの中をがさがさと漁り始めた。

「いや、確かに俺が言い出したことではあるんだが…」
ゼルガディスはすごい勢いで荷物をまとめ始めているアメリアを眺めながら、自分が危惧していたこととは違う意味で、話を切り出したことを少しだけ後悔していた。
「…ちょっとまづかったかもしれんな…」


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朝−−…と言っても、まだ王宮が機能し始めていない早朝、2人は密かにフィリオネルの部屋を訪ねていた。
「何じゃ、アメリア。こんな朝早くから。ん?他に誰かおるのか…?」
「久しぶりだな、フィルさん」
「おお、ゼルガディス殿か!久方振りだ。で、何故おぬしがここに…?」
フィリオネルはさして驚くこともなく、アメリアとゼルガディスの顔を交互に見比べた。
フィリオネルはゼルガディスを見た時点で、どういう用件なのか既に察しはついていた。だが、自分から言い出すべきことではない。そう判断して、アメリアたちの言葉を待っていた。
先ほど前は、即決断し意気込んでいたアメリアも、いざとなるとなかなか言い出しにくく、下を向いて沈黙していた。

「父さん、私…もう一度旅に出てきたいんです!我侭であることは分かってるけど…。ごめんなさい、やっぱり私は…ゼルガディスさんと一緒に…」
アメリアはようやく顔を上げて、ちゃんと考えておいたセリフを言おうと思っていたのに。それを上手く口に出せず、最後の辺りはそのもどかしさにうつむき加減になってしまう。それ以上、言葉がつながらなくなってしまった。
フィリオネルも、じっと考え込む顔になり、何も言い出さない。
まずは自分が話すとアメリアが言っていたため、ゼルガディスは口を挟むまいと思っていたのだが、このままでは話が進まないと、仕方なくアメリアのフォローに入る。
「フィルさん、今回のことは元々俺が言い出したことなんだ。俺がこんなことを頼めるような立場じゃないのはわかってるが…それでも、アメリアを俺に貸して欲しい」
フィリオネルはゼルガディスの、思いの外はっきりとした主張に、意外に感じ、驚いていた。

今までの彼の言動からすれば、こんなことを言うような青年ではなかったはずだ。
確かに冷たい態度や辛辣な言葉の数々も、その裏には別の感情が隠されているとは感じていた。
そしてアメリアを好いていてくれるのも薄々知っていた。だが、強烈な意思は持ち、はっきりと物を言う性格であっても、この手のことは一切口を出すのも嫌がっているように見えた上、感情を顔にすら出さないような人物だったのだ。
…そしていくら望んでいても、アメリアを欲するような態度は全て押し殺しているらしい、ということを、リナ=インバースからも聞いていたのだ。

どんな心境の変化があったのだろうか。
それは今の彼の表情からは伺い知ることはできなかった。だが、その言葉と瞳の中には、いつものように強い意志が含まれているように見えた。

「…何か理由でもありそうじゃの」
フィリオネルの、静かなそのたった一言で、ゼルガディスはびくっと身体を震わせた。
(やはりな…)
フィリオネルはそう思った。

アメリアは何のことかよくわからず、ゼルガディスとフィリオネルを交互に見比べている。
ゼルガディスはじっと押し黙っていたが、すっと顔を上げた。その顔にアメリアが驚く。
…いつもとは違った意味で、真剣な顔だった。

「ゼルガディスさん…?」
「すまない、アメリア。先にフィルさんと2人で少し話したいことがある」
先ほども真剣な声ではあったが、明らかにまた違った調子のゼルガディスのそれに、再びアメリアは驚いた。
「…私には言えないことなんですか?」
「ああ、悪い。これは…男同士のけじめってやつに近いかもしれん」
少し表情を和らげて、ゼルガディスはアメリアの頭をぽんぽんと叩いた。
その様子にアメリアは、何か言いたそうに首をかしげながらも、ドアの外で待ってますね、と言って、ぱたんと扉を閉めた。


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「どうしたのだ?ゼルガディス殿」
フィリオネルもアメリア同様、ゼルガディスの様子をいぶかしみながら尋ねた。
「…フィルさん。今回俺がアメリアを連れ出そうと思った、本当の理由を先に言っておかねばならない」
ゼルガディスは言いにくそうに、話を切り出す。
「ただ、これはアイツには聞かせられない内容だ。…本来なら、あんたにとってもいい話じゃないんで、あまり言いたくないことなんだが…」
そこで言葉を切り沈黙するが、フィリオネルは先を続けるように促す。
「…して、おぬしがそこまでためらう内容は?」
「…魔族に怪しい動きがある、という情報をつかんだ」
「何ッ!?」
思わずフィリオネルが立ちあがって大きな声を上げた。
「信用できないというか、個人的に信用したくない奴が言ったことなので、相当怪しいもんなんだが…」
ゼルガディスは憎きゼロスの笑った顔を思い浮かべながら、話を続ける。
「でもそれでも、そいつは腐っても魔族だ。俺たちよりも魔族の情報には詳しい。それに前例があるからな。あながち嘘でもないと、俺は判断した。もし撹乱することが目的であっても、嘘であっても…警戒するに越したことはない」
「うむ、その通りじゃ」

2人は、数年前にここセイルーンで起こった事件を思い出す。
苦い記憶だった。ゼルガディスにはそうでもなかったが、フィリオネルは実際に命を狙われ、甥を失ったのだ。何より、宮廷内に王族自らの意思で魔族を招き入れ、王宮を危機に陥れた。いい記憶であるあはずもない。

「そいつの話では、また魔族がセイルーンで何か起こそうとしているようだ。いつ、どんなものかまでは全くわからない。…が、もし起こるとすれば…」
「わしらを必ず狙ってくるであろうな」
フィリオネルがゼルガディスの言葉に続けて、唸るように言った。
そして、先ほどからのゼルガディスの表情に、ようやく合点がいった。
「そしてゼルガディス殿は、アメリアがここでその標的とならぬよう、アメリアを守るためにおぬしの旅に連れて行く。そう決断したというわけじゃな?」
「…そうだ」
フィリオネルのストレートな言葉に、今度はゼルガディスが唸る番だった。
さすがは一国の聡明な指導者。少しの言葉で自分の言いたいことを把握し、推測する能力。そして更に、自分の行動理由までも見抜かれていることに対して、感嘆すると共に、既に自分の一人勝手な気持ちに気付かれているという、苦い思いからだった。
「すまない、フィルさん。本当なら『ここ』で生活するアメリアを守ってやりたいと思っている。だが…」
「おぬしにはやらねばならぬことがある。だからここに留まるわけにはいかぬのだろう?」
「……」

今度は返事をすることもできなかった。


アメリアも大切なのだが、自分が人間の身体を取り戻すことも、絶対に捨てられない。
自分の欲望を満たすために、アメリアを引っ張りまわすこと。アメリアだけ守れれば、セイルーンはどうでもいいとさえ思っていること。
そして自分が選んだ答え。
それは、本当に自分勝手な道だった。それは、明らかに自分よがりの我侭だった。


「すまない…」
今のゼルガディスには、そう言うのが精一杯だった。

他に何も言うことができないまま、しばらく沈黙の時が過ぎる。
「…確かにゼルガディス殿の言い分だけなら、ワシは反対せねばならぬところだ」
再び沈黙を破り、フィリオネルは静かにそう言った。その声は怒りが含まれているのか、そうでないのか、ゼルガディスには判別することができなかった。
「…それは、当然のことだし、覚悟していたことだ」
「…だがな、ゼルガディス殿」
フィリオネルがゼルガディスに歩みより、そっと肩に手を置いた。
「アメリア自身が望んだのだ」
「…!」
「ワシは今までも、アメリアの意思を尊重してきたつもりだ。ただ、今まであれが大人しく王宮に留まり、責務を果たし続けているのは、アメリア自身がそうしたからに過ぎない。本当はワシは、あの子にはこんな窮屈でない、自由な生活をさせてやりたかった。…そして今、アメリアはそれを望んでおる。…はじめて、ではないかな…」

フィリオネルの顔は、はっきりとは出ていないものの、明らかに悲しみに包まれていた。
アメリアが自分の手元から飛び立とうとしていることに、ではない。今までやりたいことを我慢し続けてきた、アメリアの優しい心と苦しみに対し、フィリオネルは悲しんでいた。

「だからワシは許そうと思う。体面や大臣達の押さえのこともあるゆえ、いくらワシが許可しても、そう長期間は難しいかもしれぬ。だが可能な限り、アメリアが望む限り、好きにさせてやりたい」
「そうか…」
そこでフィリオネルの表情が、ふっと変わった。悲しみが消え、代わりにいつもの『指導者』としての表情が色濃くなる。
「それにな、ゼルガディス殿。おぬしにここに留まってもらったとしても、アメリアは守ってやれるかも知れぬが、おぬし一人の力ではこの国全てを救うことはできぬだろう。…ならば、どこにいても同じだと思うのだ」
「フィルさん…?」
「アメリアを守ってやってくれ」
そう言ってフィリオネルは、じっとゼルガディスを見つめた。
ゼルガディスはその視線から逃げず、フィリオネルを見つめ返す。そして頷いた。
「…わかった。アメリアはいつか必ず、無事あなたにお返しすると約束しよう」
「あまり期待はしていないんじゃがな。…どうせ最後には、おぬしが取って行ってしまうのじゃろうが?」
フィリオネルは今度はアメリアに見せるような砕けた顔になり、笑いながら少しからかうように言った。
対してゼルガディスは、その意味に気がついて、さっと顔色が紫になる。
そうしてそっぽを向きながら言い放った。
「そ、それは置いておいてだ!これは契約だ。俺はアメリアを借りる代わりに、彼女の命をこの身に変えても必ず守る。…それでいいな!?」
「あいわかった。…そろそろアメリアを呼んでやらんと、しびれを切らすころじゃな」
フィリオネルはそんなゼルガディスの様子に笑みを漏らしながら、手元にあった鈴を振った。
するとアメリアが、恐る恐る部屋の様子を伺うように覗き込んできた。
「お話…終わりました?」
「ああ、アメリア。外で待たせて済まなかったの」
フィリオネルが手招きすると、アメリアはほっと安心したように部屋の中に入る。
「アメリア」
「はい、父さん」
「ゼルガディス殿と旅に出ること、後悔はせぬな?」
「…はい」
アメリアは急に訊ねられたことに戸惑いながらも、すぐにはっきりと首を縦に振る。
「…わかった。なら行くがよい。この国のことは気にせず、世に正義を広めてくるんじゃぞ?」
「父さん…!?」
驚くアメリアの両肩に、フィリオネルがそっと手を置く。
「気をつけて行ってこい。ゼルガディス殿にあまり迷惑をかけぬようにな」
「ありがとう、父さん…!」
アメリアは一気に瞳いっぱい涙を溢れさせ、フィリオネルの身体に抱きついた。


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「ところでゼルガディスさん」
「何だ?」
2人はフィリオネルの部屋から出たその足で、出仕してくる人間が増える前にと、宮殿を後にし、セイルーンの街中を歩いていた。足の長さが違うゼルガディスの隣で、少し小走りになりながら、アメリアがゼルガディスに声を掛ける。
「父さんをどうやってあんなにあっさりと、説得したんですか?」
「……」
ゼルガディスは回答に困った。アメリアの疑問はもっともなことながら、これはアメリアには言わないと決めたことなのだ。
…言えばきっと、アメリアはまた、セイルーンを、父親を捨てきれず、迷うことだろう。
そして何より、自分のエゴに気付かれるのが嫌なのだ。

「…たいしたことは言ってないさ。お前をちゃんと守る。それを約束しただけだ」
「えー?本当ですか?」
「ま、理由は何より、フィルさんが許してくれたんだ。それをありがたく思っておけ」
「むー、それはそうですけど…」
まだ納得行かない、という表情で、アメリアは唸っていたが、すぐに嬉しそうに頷いた。
「そうですね。何よりもゼルガディスさんと、またこうして旅することができるんですから!」
そう言ってアメリアが、細い腕をゼルガディスの腕に回した。
「お、おい!」
早朝とは言え、街の通りには人がいないわけではない。ゼルガディスはただでさえ人目を気にしながら歩いていたのに、急にアメリアに腕を組まれて慌てた。
周りをきょろきょろと見回ながら、ため息をついた。

(確かに気を抜くことはできないし、罪悪感もある。でもま…理由はどうあれ、またアメリアと共に旅ができる。俺にとっても、同じことが言えるのかもしれんな…)

今は素直に喜ぶこともしよう。
アメリアと一緒に居る。彼女が楽しそうに笑っていることに、嬉しいと素直に感じよう。
これからのことは、今から何とかすればいい。

そう考えると、ゼルガディスの気持ちも少しだけ楽になった。
そしてアメリアが回した腕をそのままに、再び歩き始める。
「さて、次は元・『外の世界』にでも向かうかな。誰かさんのせいで、俺は1年ほど離れた土地には探索に行けなかったからな」
そう言ってからかうような瞳で、アメリアを見つめる。
「むぅ、私のせいですか?」
「他に誰がいる?」
「ゼルガディスさんは…どうして行かなかったんですか?私のことなんて放っておいて、行けばよかったのに」
ぷぅっと頬を膨らませたアメリアの台詞に、からかうつもりだったゼルガディスの方が、うっと言葉に詰まる。やぶへびだったか。
「お、お前に泣かれると、困るからだ!…もう行くぞ!!」
今度は腕を振り解いて、早足で歩き出す。後ろから慌ててアメリアが走って来る気配を感じながら。
「ああっ、待ってください!ゼルガディスさん〜〜!!」


そして今度は、2人だけの新しい旅が始まる−−−

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17532あ、これって・・・・・・・・・・・・・・・・・紫嵐 E-mail 2001/10/13 21:48:38
記事番号17471へのコメント

これって確か…
ゆら先生のHPにも掲載されていた物ですよね?
いや・・・俺の小説をアップされたとメールが来て、びっくりし、慌ててHPにいったところ、載せられていたので・・・
それついでにゆら先生のHP見学させていただき、見つけて読みました!
こっちにも投稿されたのでレスをしました!!
さっすがゆら先生!
絵も上手ですけど小説も素晴らしいです!!
見て感動。俺もこう言う者を書いてみたいです・・・・・・・・・
あう、叶わぬ夢・・・・
イマイチ感想になってませんね(汗)すいません!!では、紫嵐でした!!

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17540そうで〜す深海ゆら URL2001/10/14 10:28:12
記事番号17532へのコメント

しーちゃん、こんにちは。
レスくださって、ありがとうございます(^^)

この作品、自分のサイトにアップしたあとに、こちらにも投稿させていただいたという、不届きな行為をしております(汗)<あんまり本数書けないので…。短文でもチェックを入れ続けるので、えらい時間がかかります(T-T)

元々が絵に頼ってきた人間ですので、文章表現技術はまだまだですが、精進していきたいと思っています。また読んでやってくださいね(^^)