◆-魔竜王外伝2-投稿者:弱小覇王(2/17-15:57)No.1448
 ┣┳Re:魔竜王外伝2-投稿者:松原ぼたん(2/17-18:01)No.1453
 ┃┗━松原さんへ-投稿者:弱小覇王(2/20-16:41)No.1515
 ┣━Re:魔竜王外伝2-投稿者:はづみ(2/21-11:50)No.1527
 ┣┳魔竜王外伝3・予告-投稿者:弱小覇王(2/26-16:13)No.1564
 ┃┗━い・い・わ・け。-投稿者:弱小覇王(3/1-14:36)No.1616
 ┗┳魔竜王外伝3・前書・-投稿者:弱小覇王(3/6-11:15)No.1650
  ┣━前編-投稿者:弱小覇王(3/6-12:36)No.1651
  ┗┳後編-投稿者:弱小覇王(3/6-15:31)No.1652
   ┣━まとめて感想です。-投稿者:さぼてん(3/8-13:04)No.1667
   ┗━Re:魔竜王外伝3-投稿者:松原ぼたん(3/8-13:29)No.1668


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1448魔竜王外伝2弱小覇王 2/17-15:57

あの・・・なんか画面に、なーんもないんですが・・・。
ま、とりあえず、しょーこりもなく、第二弾です。今回は、1の時よりちょっと、
昔のはなしです。なお、今回のガーヴ様は、女の子、しかも、16歳くらいです。

魔竜王外伝2


深い闇の中、俺は、足元にねらいを定めた。
そこで、無防備にゴロリと寝そべっているのは、一人の男。多分、もうすぐ俺に殺
される予定の。
年は・・・だいたい二十半ば、長く伸ばした金髪を、束ねもせずに背中に流してい
る。長身のわりには、意外とやせていて、軽装鎧を身に付けたそいつは・・・おそら
く、ライト=ファイターの部類に入るだろう
今の状態の俺にわ、少々てこずっても仕方のねえ相手だ。だが、こうして寝込みを
襲っとけば、確実に殺れる。そう思ったからこそ、こうやって木の上でじーーっと
待ち構えているのだ。そりゃあもう、気配も消し去ってな!

で、何でこの俺、魔竜王ガーヴともあろう者が、こんな追いはぎみてえな事(つー
か、追いはぎ以外の何モンでもねえんだが)をしてるかってーと・・・。
ズバリ、金稼ぎ。
人間のからだを持っちまった以上、人間としての生活をおくらなきゃいけねえ。ま
あ武器、防具、その他アイテム類は、まず必要無しと言っていいんだが、困ったの
が食い物!普通の人間と同じというわけじゃねえが、それでも一日一回くらいは食
わねえと、人間としてのからだ、器の方が弱って死んじまう。それはマズイ。だが
金は無え。となると、残された手段は・・・。
てなわけで、こうやって相手の寝首を掻いて金をいただいちまおうとしているわけ
だ。

俺は狙いを定めた。男の、無防備にさらけ出された胸元を狙って、剣を構え・・・飛
び降りた!
そのまま、男に向かって剣を振り下ろ・・そうとしたところまでは良かった。
ギィイイイイン・・・・・・
何と、男は飛び起きて、俺の剣を受け止めたのだ、それも、短剣で。
「な・・・・」
声のでない俺の目の前で、男の、片目に傷のある渋めの顔が、笑っていた。
「こりゃまた、えらく可愛い盗人さんだな。」
そう言いながら、男が軽く手を引く。俺も、おとなしくそれに従った。
互いに、剣を収めてから、しばらく黙ったままの状態が続く。それを破ったのは、
男の方だった。
「ま、見たところ、ただの小娘にも見えるんだが・・・お前さん、ひょっとして魔族っ
てやつかい?」
「!!?」
「おりょ、図星?」
あったりめーだ!!まさか、一目見られただけで、正体がばれるとは思わなかった
よ俺もな!
「しかし・・・何でまた魔族が、こんなしがねえ旅の傭兵の寝首かこうってんだ?言っ
とくけどな嬢ちゃん、俺は賞金首でもなけりゃ、そう懐が暖かいわけでもねえんだ
ぞ?」
どこか、人を小馬鹿にした声が頭上でする。・・・今の俺は、この男より頭一つ半背
が低いのだ。・・・まあ当然だな、何せ今回は、女に転生しちまってるんだ。
「で、何で俺を狙ったわけ?」
「食費稼ぎ。」
「へ?」
「だから、食うもんにありつける金ぐらいなら持ってんだろ!?」
一瞬キョトンとした男は、それから笑って、ポン、と手を打った。
「あーあー金ね。・・・無いぜ、これっぽっちも。」
「え?」
ひゅうううううう・・・・・・・
俺と男の間を、風が吹くような気まずさが駆け抜けた。
「なってめえ、無一文かあ!!」
思わず怒鳴る俺に、男はあくまでものんきに答える。
「だから野宿してんだけどなあーー。嬢ちゃん、わかんなかった?」
「嬢ちゃんじゃねえ!魔竜王ガーヴだあっ!」
と、おもわず本名を言ってしまった俺、だが。
「何だ?嬢ちゃんえらい魔族なのか?その、ナントカ王って。」
相変わらずのんきな男。
・・・ひょっとして俺、とんでもねえ奴と関わっちまったんじゃねえか?

「ほーう、それで人間に転生しちまったのか。」
「まあな。ついでに、今回は女だしな。」
結局、男と酒を飲んでいる俺。どうもこの男、物怖じしねえ以前に、魔道に関して
の知識は皆無らしい。まあ、魔族だの神族だのは知ってるらしいが。
「てえことは何だ、嬢ちゃん本当は男ってわけだ?」
「まあな。」
「もったいねえなあ。」
「は?」
「いや、何でもねえよ。」
金髪の男は、それからしばらく、俺と酒をのみ続けた。・・・まあ、結局、俺より先
に酔っ払って眠ったのだが。


「で、これからどうすんだ?嬢ちゃん。」
翌日、街道に出た俺達は、分かれ道に出た。
「そうだな、俺はこのまま、カタート山脈へでるつもりだ。おめえは?」
「ああ、このまま海沿いを行って、目的地はサイラーグだ。」
「たっしゃでな。」
笑い合って、互いに握手する。まあ、普通の魔族はこんな事はしねえんだが、こん
な変な奴相手だし、こういう事も一回くらいあってもいいだろう。
「そういや、嬢ちゃんの名前、まだ聞いてなかったな。」
「名前・・・人間の、か?」
「おお。」
興味津々といったふうの男に、俺は笑って、生まれてから、ロクに名乗ったことの
ない、今現在の自分の名前を告げた。
「ゼナ。ゼナ=ローランだ。」
「ごっつい名前だなあ、オイ。」
「ほっとけ。」
「俺はガル。ガルシア=ガブリエフだ。縁があったら、また会おうぜ、魔族の嬢
ちゃん!」
そう言うと、ガルシアは、海沿いの道を歩いて行った。手入れ知らずの長い金髪
を、風になびかせて。
「また会おう・・・か、無茶いうなっての。」
俺も、カタート行きの道へ進んでいく。
真夏の風が、ザア・・・ツと、辺りの草をゆらしていった。




お・・・終わりですうう。
こんなもん書いていいのか自分・・・。
と、いうわけで、カミソリはやめてくださいね。

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1453Re:魔竜王外伝2松原ぼたん E-mail 2/17-18:01
記事番号1448へのコメント
 面白かったです。

> 何と、男は飛び起きて、俺の剣を受け止めたのだ、それも、短剣で。
 を、器用。
>「もったいねえなあ。」
 うーん・・・・。
>「俺はガル。ガルシア=ガブリエフだ。縁があったら、また会おうぜ、魔族の嬢
>ちゃん!」
 って、あの人のご先祖って設定です?

 本当におもしろかったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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1515松原さんへ弱小覇王 2/20-16:41
記事番号1453へのコメント
というわけで、ネタばらしです。
> 面白かったです。
ありがとうございますう。1からですもんねえ。

>>「もったいねえなあ。」
> うーん・・・・。
ははは・・・ガルって、結構女好きですので。
>>「俺はガル。ガルシア=ガブリエフだ。縁があったら、また会おうぜ、魔族の嬢
>>ちゃん!」
> って、あの人のご先祖って設定です?
はいそうなんです。ゴルンノヴァも持ってます。
>
> 本当におもしろかったです。
> ではまた、ご縁がありましたなら。
一応あと3本くらい有りますので、気長にお付き合いしてくださいね。

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1527Re:魔竜王外伝2はづみ 2/21-11:50
記事番号1448へのコメント

> ま、とりあえず、しょーこりもなく、第二弾です。今回は、1の時よりちょっと、
>昔のはなしです。なお、今回のガーヴ様は、女の子、しかも、16歳くらいです。
・・・イカス!(笑)

> 年は・・・だいたい二十半ば、長く伸ばした金髪を、束ねもせずに背中に流してい
>る。長身のわりには、意外とやせていて、軽装鎧を身に付けたそいつは・・・おそら
>く、ライト=ファイターの部類に入るだろう
最初ガウリイかと。あはは、どうなるかと思いました。


> ズバリ、金稼ぎ。
> 人間のからだを持っちまった以上、人間としての生活をおくらなきゃいけねえ。ま
>あ武器、防具、その他アイテム類は、まず必要無しと言っていいんだが、困ったの
>が食い物!普通の人間と同じというわけじゃねえが、それでも一日一回くらいは食
>わねえと、人間としてのからだ、器の方が弱って死んじまう。それはマズイ。
ごもっとも。



>「てえことは何だ、嬢ちゃん本当は男ってわけだ?」
>「まあな。」
>「もったいねえなあ。」
何がですか?何がもったいないんですかー?!(笑)


>「俺はガル。ガルシア=ガブリエフだ。縁があったら、また会おうぜ、魔族の嬢
>ちゃん!」
彼がガウリイの子孫なのか、それともご先祖なのかとても気になります。

>お・・・終わりですうう。
>こんなもん書いていいのか自分・・・。
>と、いうわけで、カミソリはやめてくださいね。
とんでもないです。よかったですよ。では。

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1564魔竜王外伝3・予告弱小覇王 2/26-16:13
記事番号1448へのコメント
 次の話は、なんと、前編と後編に分かれてるんです。(だから、時間がないので、今回は予
告)主人公・・・というか、語り入ってるキャラは、ヴァルガーヴ。
 今回は、TRY終了から、約百年くらいあとなんです。
 一応、出演者は、ヴァルガーヴ、フィリア(ちょっとだけ)、ゼロス、ゼラス、そして、ちび
ちゃいガーヴが二人。
 話はもうできてるので、楽しみにしといてください。

・・・でも、今回の話、暗いんです。

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1616い・い・わ・け。弱小覇王 3/1-14:36
記事番号1564へのコメント
ツリーが落ちるかもしれないんです。
原稿はあるんです。しかし、時間が無い(すいません!!!)
というわけで、待ってて下さい、もうちょっとかかります。

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1650魔竜王外伝3・前書・弱小覇王 3/6-11:15
記事番号1448へのコメント
遅れてすみません。はじまりです。

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1651前編弱小覇王 3/6-12:36
記事番号1650へのコメント
夏の訪れを告げる風が、丘を駆け上がり、俺の頬を撫ぜていく。
この丘は、俺のお気に入りの場所だ。
俺はヴァル、本当はヴァルガーヴだけど、皆、ヴァルと呼んでいる。こう見えて
も、この夏が終われば100歳になる竜族だ。
俺を育ててくれたのは、黄金竜のフィリア、そして、この村に住む人達。
移り変わりの激しい人間達の中で、時が止まったかのような俺達を、村の皆は受け
入れてくれている。
今、フィリアは村の長老だ。理由は、一番年長で一番強いから(当然だ)
そして、今日も平和な時が過ぎていく・・・ハズだった。

突然、地面がゆれた。
「!?」
地震か、と思った時には、立っていられないほどのゆれになっていた。これでは、
竜形態をとって上空に逃げることも出来ない。
見ると、村の反対側にある山の一角が崩れていく。木々のしたの固い岩がむき出し
になっていく。
やがて、ゆれは止まった。だが、俺は、その崩れた山から目を離せないでいた。ふ
と、何かが光った。俺は、それにつられるように、光の元へと向かった。

あたりは崩れ落ちた木々や岩で、かなり足場が悪かった。俺は注意深く光へと進ん
で行く。赤い光を放つ、その、丸いものへと。
それは、何かの卵のようだった。中で、何か、生き物の幼生体のような赤い光を放
つものが、くるくると回っていた。
「なんだ・・これ?」
俺は、注意深く、それを手に取る。割らないように、壊さないように、そっと、両
手で包み込むようにして持った。掌に、それの心臓の、トクン、トクン、という音
が伝わってくる。
「生きて・・る?」
なんだか奇妙な感動とともに、俺はそれを、家に持ち帰ることにした。

「で、山で拾って来たんですね?」
フィリアが、生物図鑑をながめている俺に、紅茶を持って来てくれた。部屋に、
ハーブの良い香りが立ち込める。
俺が拾って来た赤い卵は、今、机の上に、小さなバスケットに入れられている。
「ああ・・でも、何の子どもだろう?ねえ、フィリア?」
生物図鑑を閉じて、俺はフィリアにたずねる。この生き物、どの生物図鑑を見ても
どこにものっていないのだ。フィリアも、俺の目の前で、じいーーっとその赤い卵
を見つめている。
「さあ・・・私も、こんな生き物は見たことがないわ。でも、卵の大きさは、私達
竜族のそれによく似ています。」
「竜族の卵?じゃあ、何かの亜種かもしれないぜ?」
うきうきしながら言う俺に、フィリアは少々苦笑いしながら答えた。
「何を言ってるの、竜族はそれこそ混血でもないかぎり、亜種なんて生まれません
よ。それに、竜族はよっぽどの事がない限り、同族でしか子どもを作らないのよ、
ヴァル?」
「へえーー、そうなんだ・・・。」
上の空で答えた俺に苦笑すると、フィリアは、部屋を出ていった。
・・・彼女は話さない、俺の生い立ちを。黄金竜とは全く違う、俺の黒い翼の理由
を。俺も、フィリアが話してくれるまでは尋ねない。それで良いと思ってるから。
フィリアを嫌いになりたくないから。

「無いなあーーーー」
俺は、十五冊目の生物図鑑を閉じてうなった。
昼過ぎから夜中までずーーっと調べているのに、全く、この赤い卵の正体がわから
ない。
「もういいや。」
そうだ、別に、何の種類だからどうするわけじゃないんだ。正体なんて、こいつが
生まれてからわかるかもしれないじゃないか。・・そう思って、俺は生物図鑑を投
げ出した。ふと、新しい考えが頭の中に浮かんで来た。
「お前の名前、考えなきゃな。
そうだ、名前をつけよう。男の子だったら?女の子だったら?どうせなら、どっち
でも通る名前が良い。赤いから・・・。
「ヴァーミリオン。お前の名前はヴァーミリオンだ。」
言って、俺はバスケットのはしをチョンとつついた。
「よろしくな、ヴァーム?」
卵が、その言葉に答えるかのように、光を増した。・・・その光が、だんだん大き
くなる。
「!?」
驚いている俺の目の前で、光はどんどん大きく、いや、卵自体が大きくなって、ふ
くらんでいく!ふくらんで、俺よりも大きくなる。その中心で、幼生体だった生き
物が、人の形を取りだす、やがて・・・・・。
ぱあん!!
軽い、ポップコーンか何かがはじけるような音を立てて、卵が割れた。
「・・・・。」
俺の目の前に、小さな子どもが立っている。人間でいうと、五歳くらいの、赤毛の
子ども。ボーっとしているその顔は整っていて、半開きになった瞳は、燃える炎の
ような髪とは対照的に、透き通ったエメラルド・グリーンだ。
子どもは、じーーっと俺を見ていたが、やがて、ぽつりと一言呟いた。
「・・・誰?」
生まれたばかりにしたはしっかりとした口調で話すその子に、俺は、自分がさっき
まで使っていたひざ掛け代わりの毛布をかけてやった。
「俺はヴァルガーヴ。ヴァルでいいよ、ヴァーミリオン。」
「ヴァーミリオン?」
「お前の名前だよ。」
その頭をなでてやりながら、俺は、フィリアに何と言おうか、と考えていた。



深い深い闇、そこは、闇で満たされていた。
海に浮かぶ孤島、人々に、「群狼の島」と呼ばれる場所。
その奥で、一人の子どもが、狼を従えて歩いている。
向かう先にいるのは、一人の青年。中背より、やや長身で、黒い髪をおかっぱにし
ている。その青年の瞳は、笑っているかのように細められていた。
青年は、自分に近づいてくる狼を連れた赤毛の少年に気づく。
「おや、どうしたんですか?」
少年は、青年の言葉に、まるで獲物を見つけた獣の様に笑う。
「いいものを見つけたんだ。」
見開かれた青年の瞳が、少年を問いただすかのように輝く。
「それは、どういう事ですか?」
その言葉に、少年の、エメラルド・グリーンの瞳が、いたずらっぽく笑う。
「俺の片割れのひとつ・・あれ、生まれたんだ。」
「そう・・ですか」
「ねえ、どうするの?あれ、邪魔じゃない?俺に殺させてよ。」
ねえねえとせがむ少年に、青年、獣神官ゼロスは苦笑した。
「そういそがないで、まずは獣王様に言ってからにしましょう。何もかも、それか
らですよ。ね?ガゼル様?」
「そうだね。ゼラスにはなさなきゃ、ねえ、ゼロス?」
少年の瞳が、ギラリと光った。




てなわけで、後編へと続きます。



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1652後編弱小覇王 URL3/6-15:31
記事番号1650へのコメント
後編です。どうぞ、読んでやって下さい。


「見てヴァル!魚こーーんなに取れたよーー!!!」
バケツいっぱいの魚を抱えて、ヴァームが俺の方に駆けて来る。その後ろから、手
に手にバケツを持った子供達も、ヴァームについて走って来る。
「ヴァームすごいねえー!」
「いっちばん魚取ったよーー!」
口々にしゃべる子供達の間で、少し照れながら笑うヴァーム。
「えらいえらい、良くやったな。」
その頭をなでてやってから、他の子の頭もなでてやる俺。
あれから一ヶ月ほどが過ぎ、ヴァーミリオンと、俺が名づけたその子は、見事に村
の子供達になじんでいた。元々素直な性格なのもあるだろうが、大人達にも人気が
あるし。
このまま、元通りの平穏が続くのだろうと、続けばいいと俺は願っていた。
この後、ヴァームに降りかかる災いを知らずに。

「よいしょっと。」
ヴァーミリオンは、川から汲んだ水の入ったバケツを、自分の足元に置いた。バケ
ツの中を見ると、小魚が二三匹入り込んでいる。
「あ」
そっと、小魚をてですくって、川に戻してやる。
「ごめんね。びっくりしたでしょ」
魚は、その小さなからだをくねらせて、川を上がっていった。ヴァーミリオンは、
そのながめを、興味深く眺めている。
どうしたら、あんな小さなからだで、この急なながれをあがっていけるのだろう?
わからなくとも、そう考えるだけでわくわくした。
ふと、向こう岸に人影があるのに気づいて、ヴァームは顔を上げた。
向こう岸に、人が2人立っている。一人は、神官服に身を包んだ黒髪の男。もう一
人は、ヴァームと同じ、赤毛に、エメラルド・グリーンの瞳をした男の子。
「始めまして、できそこない。」
赤毛の子供が、凶悪な笑いをその顔に浮かべる。それと同時に、ヴァームの足下に
あったバケツが、ぱあん、とはじけた。
「!?」
「へえ、俺と違って、何にも解らないんだ?お前。」
何時の間にか、二人はヴァームの目の前に立っていた。
「あ・・あ・あ・・・・。」
ヴァームの顔が、さっと青ざめる。
恐い。異常なまでの恐怖が、彼におしよせている。
どんっっ!!
いきなり、ヴァームの体が突き飛ばされた。誰の手も、そのからだには触れていな
いのに。
「・・つまんない。ねえゼロス、もう殺してもいい?」
赤毛の少年の隣で、青年、ゼロスは、にっこりと笑った。
「どうぞ、ご自由に。」
次の瞬間、ヴァームの目の前に、少年が立っていた。天に手をかざした少年に、
ヴァームの瞳が、恐怖で見開かれる。
「死ねえっっ!!!」
「うわあああああっっっっ!!!!!!!」
辺りに、絶叫が響き渡り、そして、途切れた。

ヴァームの悲鳴を聞いて、川辺にたどり着いた俺は、信じられないものを見た。
そこには、ヴァームと、黒髪の男がいた。男は、左肩を押さえ、苦悶の表情を浮か
べている。それと向い合って立っているヴァームは、虚ろな瞳で、俺を見た。
「どうして・・・?」
その手に、赤い刃を持つ、ヴァームの背よりも大きな片刃の剣が握られている。
「僕は・・・かったのに・・・・」
泣きべそをかいたような声で、何かを呟くと、ヴァームは消えた。
「ヴァーム!?」
俺は慌てて、今までヴァームのいた場所に駆け寄る。どこにもいない。ヴァームは
たった今俺の目の前に居たのに。
「お久しぶりですね、ヴァルガーヴ。」
何時の間にか、黒髪の男が、俺のとなりにいた。その体は、何故か左腕が切り取ら
れたようになくなっていて、その奥は、深い闇で満たされていた。
「あんた、魔族か!?」
驚く俺に、男は苦笑する。
「獣神官ゼロスです。あなたとは、昔お会いしたことがありますけど、覚えてない
ようですねえ。」
「俺は魔族の知り合いなんて持った覚え無いぞ!?」
「そうですか・・。あ、フィリアさんならわかりますね。ちょっと、連れていって
くれませんか?事情を説明しなくてはいけませんので・・・。」

ゼロスを連れてかえると、フィリアは、ひどく驚いた。
「何故あなたがここにいるんです!?」
「いやあフィリアさん、お久しぶりです。じつはちょっと、ヘマをやらかしちゃい
まして・・・。」
飄々としたゼロスに、フィリアは疑いの眼差しを向けている。
「まさか、あの子がここまで強いとは思いませんでしたので。」
「あの子って、ヴァームの、ヴァーミリオンの事か?」
俺の言葉に、ゼロスは、神妙な面持ちでうなづいた。
「実は、その事で説明しなくてはならないことがあるんです。」

それは、今から百年以上も前のことである。
かつて、「赤の竜神・スイーフィード」と戦った魔王「赤眼の魔王」、その五腹心
の一人である「魔竜王ガーヴ」が、同じ五腹心である「冥王フィブリゾ」によって
滅ぼされた。
それが、すべての始まりだった。
一見、完全に滅びたかにみえた魔竜王だったが、実は違った。彼は、滅ぼされる事
をあらかじめ想定した上で、自分の破片を、この世界の何処かに封印したのだ。そ
の破片は、全部で三つ。三つの破片は、封印した魔竜王本人すらわからない場所へ
とばらまかれた。
そして、その中の一つを、獣王・ゼラス・メタリオムが偶然発見したのだ。

「・・・破片の人格は、それぞれによって異なります。獣王様が見つけたのが、好戦的
で、残酷な、ガゼル様。ヴァルガーヴと、フィリアさんが見つけたのが、無邪気
で、温厚な、ヴァーミリオンです。そして、ヴァーミリオンは、ガゼル様よりも、
魔力において、オリジナルの魔竜王に、より近かったわけです。」
俺は、ずいと身を乗り出して、ゼロスに尋ねた。
「で、ヴァームは何処に行ったんだ?」
「その、僕の考えが正しければ、獣王様のところだと思います。」
フィリアも、俺に続いてゼロスに問い掛ける。
「教えて下さい、あの子は、何故獣王のところへ向かったんです?」
ゼロスは、沈痛な面持ちで答えた。
「おそらくは、獣王様を滅ぼすつもりでしょう、彼を目覚めさせたのは、他でもな
い、あの御方なのですから。」
さらに続けられたゼロスの言葉は、俺には信じられないものだった。
「三つの破片の中で、最も滅びを望んでいるのは、彼でしょうから。」

獣王は、ため息をついた。その脳裏を、一つの思いが過ぎる。
(私は、間違っていたのか?)
目の前に、赤い刃の長剣を持った少年が立っている。少年は、虚ろな、しかし、明
確な殺意を持った瞳で、彼女に問い掛ける。
「どうして僕を起こしたの?」
獣王は答えない。彼女の体は、その右半分が、すでに塵と化していた。
「僕は眠っていたかった。あの、冷たい岩の中で、永久に。」
最後の意識で獣王は、痛々しく響く、少年の叫びを聞いた。
「僕は生まれたくなんかなかったのに!!!」

やわらかな風が、時折肌寒さを連れて、俺の頬を撫ぜていく。
ヴァームは、夏が終わっても、帰っては来なかった。
ゼロスからは、獣王が滅んだという手紙が来た。奴は今頃、三つ目の破片を探し
回っていることだろう。
フィリアは、相変わらず何も言わない。俺の生い立ちも、俺とゼロスが、いつ何処
で出会ったのかも。
でも、俺はそれでいいと思っている。
昔、何があったとしても、今の俺は今の俺なんだ。それに、昔の事を聞いて、フィ
リアを嫌いになりたくないってのもある。
そして、また平穏が戻る・・なんていう古びた表現でも使えそうな丘の上で、俺は今
日も、少し長めの髪を、風になびかせた。




はっはっは、おわりです。
ヴァーム・・・どうなったのかは、皆さんの想像にお任せします。
次はどんな話にしようかなあ?三つ目の破片のキャラはあるんですけどね。
それでは、ご縁がありましたら、また会いましょう。

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1667まとめて感想です。さぼてん 3/8-13:04
記事番号1652へのコメント
弱小覇王さん
お久しぶりです。確か、一度レスを付けたのではないかなぁ
と思っておりますさぼてんです。覚えていらっしゃるでしょうか?

うちのパソはどうも読み込みが遅いみたいで、
今まで下まで見れなかったんですが、今日やってみるとちゃんと下まで
出たんです。
そしたら弱小覇王さんのがあったんで読ませていただきました。
面白かったです。
ゼラス様死んじゃったんですねぇ。(正確には滅んだ?)
ゼロス様はどうするんでしょう。
これからは主がいないんですから・・・
そこら辺かいてみても面白いかもしれませんね。
ちょっといらん事まで書きましたが、
とにかく面白かったです、楽しませていただきました。
それではまた。









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1668Re:魔竜王外伝3松原ぼたん E-mail 3/8-13:29
記事番号1652へのコメント
 面白かったです。ゼラス様滅んじゃいましたけど(;;)。

>今、フィリアは村の長老だ。理由は、一番年長で一番強いから(当然だ)
 たしかに・・・・・。
>俺は、十五冊目の生物図鑑を閉じてうなった。
 一五冊・・・・根気ありますねー。
> そっと、小魚をてですくって、川に戻してやる。
 優しいですよね。
>「僕は生まれたくなんかなかったのに!!!」
 悲しすぎます。

 本当に面白かったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。