◆−勇者冒険ブレイカーV−アヤメ桜(3/14-22:08)No.14284
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14284勇者冒険ブレイカーVアヤメ桜 3/14-22:08


勇者冒険ブレイカーV

―――『絶対悪』グランダーク、そして魔王バルドーによる危機も、勇者達によって防がれた。
だが、勇者達は思いもよらなかった。
―――自分達のこの行動が、邪悪な存在を引き動かすことになろうとは―――。


 第一話「新勇者覚醒!」
(すいません、いきなりですが、主人公の名前変えました・・・)
(リオ・一人称)
―――陽射しがぎらぎらと照りつける真夏。
そんな暑さにも負けず、私は平気で重いダンボールを乗せた自転車を走らせている。
だってお仕事だもん、暑い位でへこたれない!
・・・あ、私?
私の名前は神岸理緒(かんぎし りお)―――って主人公が話の冒頭で自己紹介すんのって
ありがちだよなぁ。
とにかく二ヶ月前、私はここからはちょっと離れた距離にある『海浜都市』と呼ばれる場所で、
今私が住み込みで働いてる届け屋さん『ゆかり便』のおじさんに拾われた。
『拾われた』、というのは他でもない。
―――私は記憶喪失だったりするのだ、これがまた。
気がついた時には海浜都市の浜辺に打ち流されて、一般常識以外に覚えていることは何もなかった。
そう、『名前』すらも覚えていなかった。
―――ならば何故、私が『神岸理緒』と名乗っているのかというと、その時私は中身のない封筒を
握り締めていたらしい。
で、そこに書かれていたのが『神岸理緒さま』だったのだ。
一応私と似た行方不明者がいないかどうか、警察で調べてくれているらしいけど、残念ながら
今のところなし。
まあ、いつかは記憶を取り戻したいとは思っている。
―――いつか全部の真実を受け入れて生きていくためにも―――
・・・あ、辛気臭い話になっちゃったよね。
ともあれ私は、町内のお届け先へと自転車を走らせていた。
そしてそのお届け先が見えてきた時、キキィッ!とブレーキをかけ、ダンボールを両手で抱え、
ピンポーン、とベルを鳴らす。
出てきたのは私達ゆかり便のお得意さんの樋口さんの奥さんだ。
「あらリオちゃん!暑いのにお仕事ご苦労様!」
「いえいえ、大丈夫ですよこの位の暑さなんて。お届け物は迅速に届けるのが届け屋さんですから」
パタパタ手を振り答える私。
「あ、そういえば今スイカ冷やしてあるんだけど・・・休憩ついでに食べてかない?」
「え・・・いいですよそんな・・・」
「・・・とかいって行動は正直みたいだけど?」
私はこの時、厚かましくも堂々と玄関から入ってしまっている。
・・・・ま、まあ人の好意にはちゃんと答えきゃいけないっていうのも、届け屋さん――じゃない、
人間としての義務だもん!


『・・・つい昨日、巨大ロボットが海浜都市を襲撃、その時現れた別のロボット達によって
激戦の末倒されるということがありました。
尚、現れた三体のロボット達に関しては、以前から住民の目撃情報があったようで、警察は――』
スイカをしゃくりっ、とかじりつつ、私はテレビのモニターに目を奪われていた。
「へー、巨大ロボットなんていたんですねー」
「・・・って・・・前からいたわよ?」
「え!?そうだったんですか!?」
「だって随分前からあんなのが現れたりしてたんだもの、知らない方がおかし・・・」
とそこで、樋口さんはハッ、と口をつぐんだ。
思い出したのだろう。
―――私が現在記憶喪失だということに。
「ご・・・ごめんなさ・・・」
「―――いいですよ、気にしてないです」
私は平気な顔で言う。
本当に気にしてないのだから仕方ないだろう。
確かに記憶を取り戻したいとは思っている。
けど私としては、記憶がないということが悩みのタネとなっているというわけではない。
―――言ってくれたのだ。おじさんが。


『―――最近色々あって疲れたでしょう。しっかり食べてゆっくり寝て下さいね』
そう理緒に笑顔で言いながら食事をテーブルに並べるのは、穏和そうな風体をした眼鏡の中年男性。
『ゆかり便』の主人である、浅月義人氏だ。
リオは、気まずそうに義人を見つめている。
この時は記憶を失ったばかりで、何かと情緒不安定だったのだ。
『さあ、ご飯にしましょうか!』
善人は手を合わせているが、しかし凪はテーブルにつこうともせず、不安げな眼差しで義人を
見つめている。
『あの・・・何で私を預かってくれたんですか?迷惑なだけなんじゃ・・・』
『そんなことはありませんよ!むしろ家族が増えて楽しくなります』
義人の表情や口調には、哀れみや同情の色はなかった。
『・・・・・・』
それでも理緒はその表情を変えず、下を向いてうつむいている。
そんな彼女の様子を見て、義人は自分の顔を指さし、
『あの・・・・僕は『ゆかり便』という名の届け屋をしています』
湊は変わらず不安げな表情だが、ちゃんと義人の言葉に耳を傾けているようだった。
『『ゆかり』には人の縁とかつながりという意味があるそうです。
・・・・巡り会えた人とのつながりを大切に、そして決して忘れてしまわないように、僕は
この名前をつけました。
あなたとの出会いはそのゆかり便がもたらしてくれたものなんです。
僕はそんなあなたとの『ゆかり』を大切にしたいと思ってるんですよ』
やや面食らったような感じで、理緒は義人を見つめている。
『だからそんなに遠慮しないで下さい。それに―――ご飯は一人で食べるよりも二人の方が美味しい
ものですから』
やや戸惑い気味な、複雑な表情を顔いっぱいに表現し―――
そして理緒は微笑んだ。


―――記憶がなくたって、これだけは言えるから。
今こうして、おじさんや近所のみんなと毎日を過ごしている私は、決して嘘じゃないと。
「んじゃ、ごちそーさまでしたー♪」
呑気にぶんぶか手を振り、私は自転車を走らせていった。

(三人称)
「ほう・・・・『例の戦艦』の封印場所がわかったのか?あの総理大臣(でくのぼう)にしちゃあ
早えじゃねえか」
暗室の中、男は言った。
白髪だが、シワの少なさからしてそれ程年はとっていないように思われる。
恰幅のよい腹を黒い着物を包んでおり、目つきも鋭い剛毅な顔立ちは、この男の底知れなさを
現していた。
「―――いかがなされます?すぐ出発しますか?」
専属SPである黒服の男の問いに、老人はさも当然というかのように、
「当たり前じゃねえか!何としてでも『あれ』を掘り返さねえとどうなるかは―――充分
わかってるだろう?」
SPの男は真剣な顔で頷くと、そのまま部屋を出て行った。
そして、老人はカーテンを開け、暗室に光を灯す。
(―――何せ―――下手すりゃあ地球滅亡なんてことになりかねないんだからよぉ・・・)


「―――次元から奇妙な生物達がこっちに向かって流出していくのを見た?
じゃあ、昨日のあいつもあれの仲間だと?」
唐突に放たれたシズマの言葉に、愛美は眉をひそめた。
海浜ドームのVARS軍地下本部。
―――つい昨日、シズマが『方舟』のみんなの前に現れると同時に、謎の怪物が海浜都市を
襲撃してきた。
ちなみに会議室に集まっているのは、シズマ、瞬兵、ヒロ、愛美の四人。
他の勇者達にも召集をかけようとしたのだが、何故か昨夜から電波の調子が悪く、連絡が
取れなかったのだ。
「ああ。―――俺は今まで、別の次元を旅してきた。
だがつい最近、何か不吉なエネルギーを纏った奴らが、こっちに向かって大量に流出してくのを
見た」
「―――新しい敵かも知れない―――そういうこと?」
その言葉に、シズマは無言で頷く。
「どこの次元からの奴らかはわからない。だが―――これだけはハッキリ言える。
・・・あんなエネルギーを纏った奴らが、地球に害を成さないはずがない」
―――『あんなエネルギー』がどんな物なのかは瞬兵達にはわからない。
しかし、このシズマの様子からすると―――かなり不吉な存在だということは、ハッキリ理解
出来た。
「・・・また・・・始まるんだね・・・戦いが・・・」
沈痛な表情でうつむく瞬兵に、シズマ達はかける言葉を探し出せなかった。
ここで―――
「大変ですお姉さま!」
ひろみの声が辺りにモニター越しに響く。
「次元のひずみから―――巨大生物が出現し、上空を飛行、現在御神楽山脈方面へと向かって
います!」
声が終わると同時に、モニターに『それ』の姿が映し出される。
―――全長は約四十メートル。
顔と思われる白い仮面のようなものには感情のかけらもなく、そこから黒い部分がダルマのように
丸く突き出ており、胴からの部分は茶色いアーマーで守られている。
―――これが、昨日海浜都市を襲撃してきた巨大怪物だった。
「・・・・敵の方からこんな早いお出ましか・・・・?」
ヒロの言葉が終わると同時に―――
「―――『方舟』、御神楽山脈方面に向けて緊急発進準備!あと他の勇者達に何としてでも連絡を
とって!」
愛美の声が、朗々とその場に響き渡った。


―――薄暗い、ドーム状の空間。
日の当たるような所はおろか、光源さえ見当たらないのに、しかし何故か周囲をおおざっぱに確認
出来る程の光があった。
その中央に、一人の男が立っている。
年の頃なら二十代後半、ゆったりとした黒いローブを纏った青い髪の美形だが、その目に宿る
氷のような鋭さは、この男の荘厳さを表現していた。
彼―――ラグナは、水晶球に映る、御神楽山脈へと向かう『方舟』を見つめている。
「―――ふむ、敵の正体さえわからないのに、姿を見ただけで素直に乗ってくるとは・・・・
流石に『勇者の魂』を持つ勇者達だけある。
―――これならば―――」
そして―――部屋を支えているように見えるクリスタル―――いや、埋め込まれた小さな結晶に
目をやって、ラグナは言う。
「―――グラウドゥクから『魔力』を取り出す『生け贄』として充分価値がある―――」
そして彼は、口元に小さな笑みすら浮かべたのであった。


―――とまあこんな風に、三つの勢力が何やら動き出そうとしている時―――
本編の主人公リオはといえば―――

(リオ・一人称)
「・・・・純一さ〜ん、無事ですか〜〜・・・・?」
「・・・・おー・・・・」
私の言葉に投げやりに応答したのは、『ゆかり便』で働く勤労青年・氷室純一さん。
堅実で冷静、おまけに優しくて近所の女の人達がファンクラブまで結成しちゃうんだよね。
私にも優しいけど、ロマンがなくて現実主義なのが玉にキズなんだよなぁ。
ちなみに今―――
私達は届け物をトラックの荷台に運んでいたが、ダンボールの上へ上へと積んでいくにつれ、
ダンボールはバランスを失い、あわや生き埋めとなってしまったわけである。
「ああっ!大丈夫ですか、二人共!」
音を聞きつけたか、おじさんが側へ駆け寄ってくる。
「な、何とか・・・・」
多少後遺症が残りながらも、何とか気力を振り絞って立ち上がり、力ない苦笑いを浮かべて私は
言う。
「あっ・・・!リオさん、純一さん、大丈夫ですか!?」
鈴が震えるような少女の声は、後ろから聞こえてきた。
そちらを振り向いてみれば―――
「―――雪花ちゃん!」
―――黒い巻き毛がふわりとたなびく。
水色のワンピースを着たこの可愛い女の子は兎羽雪花(とば せっか)ちゃん。
私のご近所馴染みの小学六年生で、大おもちゃ会社『兎羽トイズコーポレーション』社長令嬢の
凄いコなんだけど、ただ大人しくて優しいだけじゃなくて、こう見えて何回もVARS(ヴァルス)
の公式大会で優勝しているらしい。
あ、ちなみにVARSっていうのは、人間の思考パターンを読み取って稼動する小型ロボットの
事だっておじさんが言ってた。
結構私って、記憶を無くした代わりに一般常識は知り尽くしてるつもりだったけど、色々知らない
こともあるもんだなぁ・・・。
ま、とにかくそんな雪花ちゃんと私は、私が彼女の家に届け物を届けに行った時に知り合って、
年齢の差を越えて何かと気が合うのだ。
「あー、別にこんなの大したことないって」
フェミニストの純一さんが、パタパタ手を振り答える。
と―――。
「こらぁぁぁっ!雪花――――っ!」
いきなり耳にキーン、とくるような怒声が響いてきた。
「・・・・あ!雄大くんも一緒だったんだ!」
「お、リオじゃねーか久しぶりー・・・ってそーじゃなくて!雪花!今日こそ俺と決着つけようぜ!」
「まあ困りましたわ、わたくしのVARS、先月他の方と練習していた時に壊れて使えないん
ですの・・・」
彼女は心底残念そうに言う。
「・・・・ってあのなぁ・・・・お前がピアノとかコーラスとかのレッスンのない時間見計らって
来たんだぞ俺は!修理なんてさっさと終わらせろっつーの!」
―――この男の子は春日雄大(かすが ゆうだい)くん。
雪花ちゃんと同じくVARSをやってるんだけど・・・・
二年前に出場した全国大会で彼女にコテンパンにボロ負けしてから、何かと雪花ちゃんをライバル視
し、ちょくちょく決闘を申し込んでいるらしい。
まあ『ちょくちょく』といっても、雪花ちゃん自身ピアノやコーラスのレッスンで忙しいため、
戦う時間は限られてるんだけどね。
で、今雄大君は三十戦三十敗の敗北記録更新中。
・・・それで雪花ちゃんが三十戦連勝を記録した時言った台詞―――
『がんばって下さいね』
あれがどーやら、敗北者から見ればイヤミ以外の何物でもなかったらしくて、それ以来、雄大君が
彼女にケンカ腰以外で接したことは一度もない。
・・・・後で聞いた話では、ただ彼女は純粋に『次の挑戦を待っている』みたいな気持ちで言った
らしいのだが。
・・・・けど雄大君、他の女の子には優しいくせに、どうして雪花ちゃんにだけこんな態度なん
だろう・・・・。
まあそんなこんなで、私は二人のやりとりを見ながら、ようやくおじさんや純一さんと共に、荷物を
トラックの荷台に戻した。
「ふいー・・・終わったー・・・」
「二人共、今回は僕も手伝いますよ。これだけの荷物大変でしょうし・・・・」
『本当ですかっ!』
目を輝かせて言う私と純一さん。
「そう言ってもらえると助かりますよ義人さん・・・」
純一さんが、ほう、と安堵のため息をつく。
流石に私も、今回ばかりは同意見である。
この暑い中これだけの荷物をえっちらおっちら届けて回るなど、いくら何でも疲れる。
「ったく・・・とにかく!修理なんてさっさと終わらせろよな!」
「はい、その時はがんばりましょうね」
雄大君と雪花ちゃんのそんな会話をBGMに、私達三人は車に乗った。

(三人称)
―――大気が、震える。
海も、大地も、地球の自然全てが、新たな『希望』の生誕を喜んでいる。
彼らは、感じ取った。
かつて地球に大きな傷を残した戦いを呼んだ、邪悪なる存在の再来を。
だが―――
同時に、祝福していた。
その邪悪を打ち滅ぼす『希望の光』が、今覚醒の時を迎えようとしている事を―――。

「・・・・地球・・・・が・・・・」
桜小路蛍が、青空を見上げながら小さく呟く。
「・・・・!どうした!?また地球が泣いてるのか!?」
高杉星史の言葉に、しかし彼女はゆっくりとかぶりを振り、
「・・・・地球が・・・・祝福している・・・・新たな希望の生誕を・・・・」


《―――ふむ、あれが『ゼロの半身』か》
地球全体が『彼女』の存在を祝福しているというのに、『彼』が『彼女』の姿を見てからのその
台詞は、さしたる感慨もこもっていなかった。
《・・・・今『装重甲(メタル・ブレスト)』達を追って勇者達も御神楽の方へ進んではいるが、
あの『混沌の逆十字(カオス・クルセイド)』がもうすぐ突き立ってしまう・・・・。
ならば・・・・やはり今引き合わせるしかないか・・・・》

そして―――その日、世界中の人々は見た。
―――燦然たる輝きを放ち、天を翔ける流星の姿を。


(リオ・一人称)
「―――は・・・・?」
私は、今起きている出来事に目を見張った。
純一さんがキーを差し込んだその瞬間―――
いきなし流星がこちらに向かって突っ込んできたのだから。
『―――うわぁぁぁぁぁっ!?』
声もハモらせ絶叫し、慌ててシートベルトを外して逃げようとする私、おじさん、純一さん。
しかし―――
流星がこちらに突っ込んでくる方が異様に早い!
ばぢいっ!
プラズマが弾けるような音と共に、流星の光は私達のトラック、そして近くの雄大君と雪花ちゃんを
包み込むと同時に、いきなり宙に舞い上がる。
「な・・・・な・・・・・!?」
―――これってどうなってるのぉ!
私がそう叫ぶ暇すらなく。
流星―――いや、いまや光の玉と化したそれは、私達を運ぶようにその空間から消失した。

(ここでCM)

(三人称)
―――御神楽山脈。
日本でも古くから伝わる有名な霊峰で、その美しい自然からかつては観光客などで賑わっていたよう
だが、ゴミを捨てたりして汚れ始めた頃、異常発生し始めた霧のせいで遭難者が続出し、結局政府
から立ち入り禁止が申しだされた。
かつて一部のホラーマニアの間では、『あの山には『龍王』が住んでいて、山を汚したらその怒りに
触れる』などという話題で盛り上がったらしい。
―――とまあそれが―――
シズマ達、謎の太っちょ着物男、怪物達、そして理緒達が向かっている(つーか連行されてる)
山の大まかな説明であった。


「―――お姉ちゃん、あの怪物いないよ?」
霧で満ちた周囲を見回しつつ、瞬兵が隣に佇む愛美に告げる。
「・・・・あいつを追っかけて中には入ったけど・・・・こう霧が深いと見つけにくいわね・・・」
「それどころか、気をつけないと俺達自身が遭難するぞ?これじゃあ・・・・」
よくこんなに霧があるもんだ、とでも言うような口調でシズマが言う。
『方舟』で山の周囲を探索しようとしても、霧は山の周りにまで広がっているため危険極まりない。
結局直接山へ降りて調査する事になったのだ。
「―――ほう、俺以外にもこんなトコに入る物好きがいたのか」
『!?』
いきなり聞こえてきた声に振り向くと、そこには黒服の男二人が左右に佇む、黒い着物を身に付けた
恰幅のよい白髪の男がいた。
『白髪』なのに『老人』という形容詞で表さないのは、そのシワの少なさと恰幅のよさ、そして
その眼に宿る鋭い光が、そう呼ばせることを拒否していたのだ。
「・・・・・・・・?」
「あんた、VARS軍司令官の芹沢愛美だろう?」
「・・・・・!」
―――世間的にVARS軍の存在は秘密とされている―――
その一言は、彼が只者ではないという事の証明であった。
「・・・・あなたは・・・・?」
瞬兵達と共に、警戒は崩さぬそのままで、愛美は男に問う。
「俺か?俺は―――」
が、その刹那―――
びびびぢばぢぃっ!
いきなり辺りにプラズマが発生する!
『なっ!?』
流石にこれには瞬兵達、そして男の方も声を上げる。
そして―――
『うわぁぁぁぁぁぁっ!?』
ずごがしゃぁぁぁぁぁん!
―――瞬兵達と男とを結ぶ延長線上。
理緒達のトラックは、ものの見事に落下したのだった。

(リオ・一人称)
「・・・・たた・・・・ジェットコースターより迫力あるよーな・・・・」
「・・・・そーいうレベルじゃないと思うよ・・・・リオちゃん・・・・」
運転席のハンドルにもたれ掛かり、無気力にツッコむ純一さん。
ちなみに一緒にあの光に包まれた雄大君と雪花ちゃんは、荷台の方に必死で掴まっていたお陰で
何とか事なきを得ている。・・・・ちょっと失神してはいるけどね。
・・・・いきなり光に包まれたかと思ったら今度は何か霧でいっぱいの変な所に来ちゃうし・・・・。
一体何がどうなって・・・・いや、何か理屈があるんだとしても、今の現象は絶対私の理解範囲を
ぶっちぎってると思う・・・・。
「痛たた・・・・おや?」
横倒しになったトラックのドアからようやく這い出たおじさんが、何やら突然、訝しげに眉を
ひそめた。
「・・・・?どうしたんですかおじさん?」
「・・・・あそこに誰かいるようなのですが・・・・」
・・・・はえ?
言われておじさんが指差す方に目をやれば―――
そこには青年一人に少年二人、若い女性一人に中年の男一人という珍妙なメンバー(こっちも人の事
言えないかも知んないけど・・・・)が、呆然とこちらを見つめていた。
「あ、あの・・・・?」
私の言葉に我に返ったか、女性の方が何か口を―――
開く間もなく。
『・・・・あ―――っ!芹沢愛美!
                さん!』
いきなり雄大君と雪花ちゃんが、声もハモらせ叫ぶ。(雪花ちゃんは『さん付け』してるけど)
「え・・・・知ってる人?」
「知ってるも何も、この人VARSの開発責任者なんだぜ!」
かなり興奮した様子で解説を加える雄大君。
「・・・へー、そうなんだー・・・」
適当に相槌を打つ私。
・・・・それ程興味が持てない事なのだから仕方ないではないか。
「私、こんな所であなたに会えるなんて感激です!」
瞳を潤ませ、雪花ちゃんは雄大君と共に、その女性―――芹沢愛美さんの元へと駆け寄る。
と同時に―――
『・・・あ―――っ!『疾風の雪花』に『雷光の雄大』!』
先程の二人と全く同じリアクションで、赤いジャケットの少年と、水色のパーカーを着た少年が、
雄大君と雪花ちゃんを指差し叫んだ。

(三人称)
何がどうなってるのか、瞬兵達には理解出来なかった。
いきなりトラックが落下してきたと思ったら一般人としか思えない人々が現れて、更には瞬兵と
ヒロは、いまやこの二人なくてはVARSは語れないという凄腕VARS使い、兎羽雪花と春日
雄大に遭遇したのだ。
今思えば、最初バーンが現れる前、この二人が風邪で休んでいなければ、決勝進出は果たせなかった
だろう。
二年前の全国大会以来、ありとあらゆる大会で勝負することになっては大会を熱狂させる、『疾風の
雪花』と『雷光の雄大』なのだから。
「くおら!何で雪花の方が先なんだよ!」
どうやら雄大は、言う順番が気に入らなかったらしい。
びしぃっ!と瞬兵とヒロを指差し、抗議の声を上げる。
「・・・・あの、雪花ちゃん、疾風に雷光って・・・・?」
枯葉色の長い髪を三つ編みにして、背中にたらした年の頃十五、六位の少女が、雪花に問いかける。
「ああ、VARSをやってきて、いつの間にかそんな通り名がついていたようで・・・・あら?」
すると雪花は、何かに気づいたように瞬兵とヒロの方へと歩み寄る。
「まあ・・・芹沢瞬兵君に坂下洋君ではないですか」
「えっ・・・!俺達のこと知ってるんですか!?」
同じ小六だというのに、思わず敬語を使ってしまうヒロ。
「それはまあ、今年の全国大会で決勝戦に進出したお二人ですもの、ねえ雄大くん」
「お・・・そーいや確かこういう二人だったんだよな」
ポン、と手を打ち、思い出したように雄大が言う。
「お二人のファイト、素晴らしかったですわ。あそこで宇宙海賊さん達が現れなければ更に展開
しそうでしたのに・・・あの時は本当に残念でしたわ」
「い、いやそれ程でも・・・・」
何となく顔を赤らめてしまう瞬兵。
「そうですわ。宜しければ今度みんなで模擬戦闘をしませんか?」
「お、それいいな!雪花との決着もつけられるしな!」
「あ!それなら僕達の家の近所に丁度いい空き地があるんだ!そこで・・・」
「・・・あのー・・・」
気まずげに話し掛けてきたのは、眼鏡をかけた穏和そうな中年の男だった。
「何か・・・話があさっての方向に飛んでるような気がするのですが・・・」
『・・・・・・・・・・・あ』
その一言で一同は、よーやく本来の状況を思い出したのだった。


(リオ・一人称)
おじさんの勇気あるツッコミで、私達はようやく我に返った。
「あの・・・ここはどこなんですか?」
「どこって・・・・御神楽山脈じゃない」
私の問いに、愛美さんが今更何を、といった風に答える。
『ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
私を除くみんなの絶叫が、辺りの森に響く。
「あ、あの・・・どしたのみんな?」
「『どしたの?』じゃないよ凪ちゃん!僕らとんでもない所に来たんだぞ!?」
かなりエキサイトした様子で答える純一さん。
「・・・とんでもない所・・・って?」
訝しげに眉をひそめる私に、純一さんは呆れたようにハァ、とため息をつき、
「・・・・ここは日本でも有数の、遭難者が数多く出る危険地帯なんだ」
「そっ、遭難!?・・・・へ・・・・?」
ふと、ある疑問が頭に浮かび、くるっ、と愛美さん達の方を向く。
「あの・・・・なら何でそこのみんなはこんな所に・・・・?」
「それを聞きたいのはこっちだ。・・・・お前らは何者だ?何でいきなりここへ現れた?」
赤いジャケットの青年に、警戒と敵意のこもった口調で言い放たれてしまう。
・・・・あの・・・・何かエラくとんでもない勘違いしてるよーに思えるんですけど・・・・。
「や、やめてよシズマさん!この人達、悪い人じゃないよ!雄大君や雪花ちゃんもいるんだから!」
彼の心中を察したか、これまた赤いジャケットの少年―――瞬兵君が慌てて制止の声をかける。
「いや・・・まあ起こった事をそのまま端的に述べるとですね・・・・」
困ったような表情を浮かべながらも、おじさんはポツポツとさっきの出来事を語り始めた。


「―――乗っていたトラックが流星に当たって、そのままここへワープしてきた・・・ねぇ・・・」
後からやって来た外人の女の人、ロンロンさんが私達のいきさつを聞き、考え込んでいる。
「あの・・・言っておきますけど、本当にそれしか起こりませんでしたよ?」
純一さんに釘を刺されながらも、彼女は至って平然と、
「・・・・んー、そういう話は聞いたことないしねー・・・何かの超常現象の一種として考えるっきゃ
ないわね」
・・・・まー例え説明のつくことだとしても、どっちにしろ非科学的な現象には変わらないし、
そー考えるしかないだろう。
向こうの事情の方は、何だかえらくウソくさい話で打ち切られてしまったけれど、雪花ちゃんの
『どのみち聞いたって答えてはくれないでしょうし、それに悪いことをしようとしている風にも
見えません。あそこまで必死に隠しているのだから、こちらも聞かないでおきましょう』という
言葉で、みんなあえて聞かないことにした。
「あのー・・・それでどーやって帰れば・・・」
「あー大丈夫よ。ちゃんと『方舟』で・・・・」
そこでハッ、となって口元を押さえるロンロンさん。
・・・・・・方舟?
「ち、ちゃんとみんなを『運ぶ通行手段』があるって意味よ!この人妙な言い回しが好きで・・・」
愛美さんが、何か取り繕うように慌てて言う。
・・・・まあいいか。追求しないってさっき決めたもんね。
・・・・・って・・・・・?
「あの・・・・何ですか?」
ふと気がつくと、白髪の男の人がじろじろと私を見つめていた。
「いや・・・・ちょっとあんたが知ってる奴に少しだけ似てるもんでな・・・・」
「世の中には『似た人が三人いる』といいますから・・・・」
雪花ちゃんも笑顔で相槌を打つ。
「・・・・じゃ、ちょっと連絡を・・・・」
しかし、ロンロンさんの言葉が終わるより早く。
ごごごががあっ!
いきなり爆音が辺りを揺るがした!
「え・・・え!?」
「だー!何なんだ今日は次から次へと―――っ!」
純一さんがいい加減にしてくれ、という風に叫ぶ。
・・・・なまじ現実主義者だからなぁ・・・・。
そして、いきなり霧が晴れてきた!
・・・・・ふえ・・・・・?
霧が晴れて見えたその先には――――・・・・・へ・・・・・?
―――顔と思われる白い仮面のような部分には感情の欠片もなく、そこから黒い皮膚が頭を
ダルマのような形に形成しており、胴からの部分は茶色いアーマーで守られている。
―――そんな感じの全長約四十メートルの巨大な怪物が、山のてっぺんの辺りを攻撃していた。
「―――しまった!『封印場所』が!」
「ち、ちょっと待って下さい!今行くのは危険です!」
言って駆け出そうとする白髪のおじさんを、慌てて止める愛美さん。
「放せ!もしあそこに封印されてる『もの』が壊されてしまったら―――地球を救う手立ては
完全に費え去る!」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・は・・・・・・・・・?
私達は目を点にして白髪のおじさんを見つめているが、しかし、愛美さんや瞬兵君達は真面目な顔で、
「な・・・・それどういうことですか!?」
「地球を救う手立てがなくなるって・・・・!あの怪物が壊そうとしているものが、そんな大事な
ものなんですか!?」
「・・・・ああ!地球の―――いや、『全次元の生命達』にとってな!」
「・・・・あなたは一体・・・・?」
愛美さん、瞬兵君、白髪のおじさんの一連のやりとりに、私達はリアクションに困って立ち尽くす。
・・・・本気で言ってるのか・・・・?この人達わ・・・・・?
呆然とする私達の視線の迎撃を受け、瞬兵君達は困ったように顔を見合わせ、そして、ここで愛美さん
が思い切ったように、
「―――瞬兵!バーンと一緒に彼らを山の外へ避難させて!」
「ええ!?で、でもお姉ちゃん・・・」
「この際機密事項なんて気にしてられないわよ!『方舟』のスピードじゃ時間かかるし・・・
とにかく早く!」
そして、瞬兵君は私達をじーっ、と見つめ―――そして力強い意思を宿した表情で、
「――――ブレイブチャージ!バーンガーン!」
刹那、いきなり彼のつけたブレスレットが輝き始め―――ってえ・・・・?
―――それから起こった事は、どうリアクションしてよいのやらわからない。
ただ、これだけは言える。
すなわち―――
いきなり瞬兵君のポケットから飛び出したVARSが巨大化したロボットと、どこからともなく
現れた消防車とが合体して、胸にドラゴンの顔がある、青い巨大ロボットになったという事実。
それが起こった今の状況は、現実なのだということ。
「な・・・・な・・・・!?」
さっきの光に攫われた時よりもこっちの方が驚いた。
『さあ、私の手に乗ってくれ!』
言ってそのロボットは両手を私達の方へと差し出してくる。
「あ、あの・・・・あなたは・・・・?」
雪花ちゃんの問いに、ロボットは一瞬沈黙したあと―――
『―――バーンガーンだ。差し支えなければ『バーン』と呼んでくれ』
言いながら私達を乗せ、そのロボット―――バーンガーンは空を飛ぶ。
「・・・・一体何なんだよ・・・・本当に・・・・」
純一さんは頭を抱えてうずくまる。
「・・・・純一君、信じられないかも知れませんが―――これは現実です」
諭すようにおじさんも言う。
・・・・ちょっと疲れたよーな表情ではあるけどね。
そしてふいに、下の方へと目をやると―――
「―――!」
私は、思わず絶句した。
先程のような驚きが、また現れたからではない。
―――空を飛び、上から見えるその山の景色は、さながら国家機密にしたっていいんじゃないか、って
思う位、綺麗だった。
―――私は今、初めて知った。
ヘリコプターさえ乗らず、生身で空を飛ぶことの素晴らしさを。
・・・・ま、私の力じゃないんだけどね、これは。
「すごい・・・・飛んでるんだ・・・」
思わずそう呟いてしまう。
そして、その時―――。
―――ズキィッ!
――――え!?
いきなり私の頭を、激しい激痛が襲った!


―――ばしゃあん!
・・・・周囲がどうなっているのかは、意識が朦朧としているためよくわからない。
だが、背中の冷たい感覚からすると、どうやら水に浮いているようだった。
わからない。こんな場面知らない。何も、何も―――わからない。
そして、段々と意識が明白になってきた。
顔に当たる、嵐による強い雨と風。心臓さえ揺るがしそうな程の音を立てる稲妻。
そして―――波と風とに大きく揺らぐ、大きな遊覧船。
そしてそこの展望台から、男が顔を出す。―――明らかに、『私の方を』向いて。
―――風と雷の音で耳がギンギンしているというのに、男のこの言葉だけは、聞き違いなんてないと
ハッキリ確信出来る程、しっかり聞き取れた。
『―――忘れるんだ、何もかも―――』
―――誰―――?
『全て忘れるんだ――――』


「―――リオさん!」
雪花ちゃんの声で我に返り、その彼女やみんな、そしてバーンガーンがどんどん遠くなって――――
・・・・って・・・・?
―――風が全身に当たって、ハッキリわかった。
―――今、私はバーンガーンの手から落ちた。
「っなぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ちょっとぉぉぉぉぉぉっ!
何か思い出しそうになったのに・・・っつーかこの若さで墜落死はやだ―――っ!
「お姉さんっ!」
バーンガーン・・・・じゃない、その中にいる瞬兵君が声を上げ、私の体を再び掴もうと慌てて下降
する。
しかし、それより前に。
―――スッ。
いきなり私の視界を、黒い『何か』が覆った。
「・・・・へ・・・・?」
私が言葉を発するよりも早く。
『馬鹿野郎!何落ちてんだ、気をつけろ!』
ロボットの中からあの赤ジャケットの青年――シズマさんの怒声が、鼓膜を突き破りそうな程
耳にがんがん響いた。
どうやら私は、このロボットが受け止めてくれたお陰で助かったらしい。
「す・・・すいません・・・」
余波に多少ふらふらしながらも、何とか言葉を出す私。
「ふう・・・・」
みんなや瞬兵君も、ホッ、と胸を撫で下ろす。
と、その時―――。

ヴ・・・・・ヴヴヴヴ・・・・・・
いきなり、虫の羽音のような音と共に、空でブラックホールのような空間が現れ、ねじれ、そして、
そこから『何か』が現れる。
「な・・・・何!?」
そして、青年の乗るロボットの手の上で見たのは―――。
「・・・・な、何なんだ・・・・あれ・・・・!?」
雄大君が、声を振り絞り呟く。
―――全長は約六十メートル程だろうか。
漆黒の金属で作られており、形は十字架が逆さになったような―――そう、『逆十字』なのだ。
そんな物が、ブラックホールの中から、うじゃうじゃごまんと出てきたのだ。
・・・・い・・・・一体・・・・!?
その内一本が私達の近くに突き立ち、そして他の逆十字も、それぞれあらぬ方向へと飛んで行く。
そして―――
『ぐっ!?』
いきなり、バーンガーン達ロボット軍団が、胸を押さえて苦しみ始める!
「ど・・・・どうしたヴァリオン!」
シズマさんも、流石に慌てて問いただす。だがその時―――。
カァァァァァァッ!
いきなりロボット達の体が発光し始め、そして―――
がいんっ!
合体する前の姿―――つまり『今程大きくなる前』の姿に戻ってしまう!
『うわぁぁぁぁぁぁっ!?』
ロボット達はもちろん、手に乗っていた私達も中に乗っていた瞬兵君達もまっさかさまに落ちていく!
だがしかし!
ぼふっ!
――――いきなり出現した巨大なジェット機の右翼の辺りにボンネットのようなものが出現し、私達を
受け止めてくれた。
た・・・・助かった・・・・?
「―――大丈夫かいお嬢ちゃん方に勇者さん!」
そして、ジェット機の運転席から顔を出したのは、さっきの白髪のおじさんだった。
「あ・・・・!ありがとうございます!」
「いーってこった!」
私の言葉に気楽に答える白髪のおじさんだが、一転して真面目な顔と口調で、
「しかし・・・こうもあっさり『混沌の逆十字(カオス・クルセイド)』が運ばれきちまうとは・・・
敵さんの実力も、こっちが思ってるよりずっと大きかったってえわけか・・・・」
「―――おいお前!何か知ってるなら教えろ!一体あれは・・・・!」
シズマさんの問いにも、しかしおじさんはきっぱりと、
「今教えてる暇はねえ。俺はこれから一刻も早く『あそこ』へ行ってやらなきゃなんねえ事がある
しな、それに―――VARS軍の勇者さん。狙われてるのはあんたらだ、早く『方舟』に乗って
逃げな」
―――シズマさん、瞬兵くん、そしてヒロ君の表情が驚愕に凍りつく。
・・・・ヴァルス軍?勇者?
・・・・何か・・・・私達来ちゃいけないとこまで深入りしちゃったんじゃあ・・・・?
そんな私達の様子を知ってか知らずか、状況は更に加速していく。
―――ひあぁぁぁぁっ!?
ふと後ろを見てみれば、そこにいたのは巨大な戦艦だった!
『みんな!すぐこっちに戻って!』
聞こえてきたその声は―――愛美さん!?
「な・・・・!どうしてだよ!」
『みんなの合体が解けたのは、あの逆十字から発せられる特殊な電波のせいよ!』
「え・・・・!?」
驚愕に小さく呻く瞬兵君。
『具体的な事はまだよくわからないけど、今あいつとサシで向かい合うのは危険よ!
ここはひとまず体勢を立て直してから・・・・!』
しかし、愛美さんの言葉が終わるより早く。
ずごぉぉぉぉぉん!
爆音が轟いてきた方に目をやれば、そこにはふもとの街に攻撃を仕掛ける怪物の姿があった!
『なっ・・・・・!?』
爆風が舞い、街はたちまち人々の叫喚が渦巻いた。

(三人称)
―――『方舟』のブリッジでは、慌ただしいクルー達の声が溢れ返っていた。
「謎の怪物、付近の街を破壊し続けています!自衛隊の戦車による応戦もあるようですが・・・
・・・・!太刀打ち出来ません!」
ひろみの言葉に、愛美はただただ歯噛みするばかりだった。
「・・・・こんな時に、何も出来ないなんて・・・・!」

(リオ・一人称)
びしゅぅぅぅ・・・っ!
空気の抜けるような音と共に、バーンさんは地面に降り立った。
「くっ・・・!やはり合体出来ない・・・!」
「バーン・・・・」
瞬兵君は心配そうに、バーンさんの顔を覗き込む。
私達は、最初怪物が攻撃を仕掛けていたあの山へと降り立った。
あれからロボットのみんなは、幾度か合体作業を繰り返したのだけれど―――
みんな、結果は今のバーンさんと同じだった。
どうしよう・・・・このままじゃ、あの街が・・・・。
「―――まあ待て。うまく行けば何とかなるかも知れんぞ」
『!?』
そう言ってきたのは、あの白髪のおじさんで、何やらノートパソコンを開いてカタカタやっている。
「ここに埋まるものさえ掘り出せれば、後はどうにでもなる。
・・・・あんたらは早く避難しな。合体出来ねえんじゃあ話にもならんだろう。
それにさっきも言った通り、狙われてるのは勇者なんだ!」
「あの・・・だから勇者って・・・?」
ついに堪えきれず問う私に、白髪のおじさんは悪戯っぽく笑ってみせて、
「・・・ま、一息ついたら教えてやるさ」
はぐらかされ、困惑顔のおじさん(作者注・すいません、ようやく出番が出た義人さんです)と顔を
見合わせる私。
だが―――
シズマさん達は、街が無残に破壊されるその光景を見て―――
そして、顔を見合わせ、ロボット達と共に力強く頷くと、そこから走り出す!
「おっ、おい!何やっとる!お前らが飛び出してったらあいつらの思うツボ・・・!」
「―――それでも、このまま街を破壊させるわけにはいかない!」
『一体どういうことなのかは知らないが、ここまでされて黙ってられるか!』
交互に言うヒロ君と赤いロボット―――スペリオンさん。
「僕らが―――僕らが今出来ることをしなきゃいけないんです!」
『―――駄目よ!ここはひとまず対策を立てないと―――!』
愛美さんの言葉にも、しかし六人(ロボットさん達を入れて)はかぶりをふり、
「―――可能性は、ゼロじゃねえだろ!」
シズマさんは、決然とそう言った。
・・・・・信じられない。
この人達―――自分達が滅茶苦茶不利だっていうのは目に見えてるのに―――
―――どうしてこんなに雄々しくいられるの―――?
「―――あ、そういえばそこの!」
言って私を指差すシズマさん。
「・・・・へ?」
「―――さっきは―――怖い思いさせちまって悪かったな」
彼は、苦笑混じりにそう呟いた。
・・・・・・・・・・
「―――それじゃあ、行くぜみんな!」
『おうっ!』
そして―――彼らは駆けていった。
「・・・・あの方々は―――まるで『勇者』のようですね―――」
ポツリ、と雪花ちゃんはそう呟いた。
「いや、確かに『勇者』さ」
白髪のおじさんが、キーボードに指を躍らせる手は止めぬまま、その呟きに答える。
「―――だがこれだけはちゃんと覚えときな。
『勇者』ってのはな、『勇気ある者』って書くんだよ。
―――力を持っていようがいまいが、誰かを守るために真っ向から困難と戦うような『勇気』を
持った奴らのことを言うんだ―――」


(三人称)
『・・・・瞬兵』
「何?バーン」
『・・・・例え合体は出来ぬとも、私にありったけの『勇気』を注いでくれ。
それは、きっと力となるはずだ・・・・』
バーンの言葉に、瞬兵は笑顔でこう言った。
「―――わかってるよ、バーン!」
そんな二人を見て、シズマとヴァリオンは無言で、しかし口元に笑みを浮かべつつ顔を見合わせ、
そしてヒロとスペリオンも、
「―――俺もありったけの『希望』をお前に注いでやるよ、スペリオン。瞬兵に負けない位に、な!」
『―――感謝する』
そして今―――彼らは真っ向から睨み合う。
『魔族』の兵器である、邪悪なる魔の甲冑―――『装重甲(メタル・ブレスト)』と。
『バーンマグナム!』ずどむ!
戦いの火蓋を切ったのは、バーンの一撃だった。
しかし、弾丸は装重甲(メタル・ブレスト)の腹をわずかに黒く焦がしたのみ。
そして―――
―――じゅがぁぁぁぁぁっ!
放たれた光弾は、まともに勇者ロボ達の体を呑み込んだ!
『うおぉぉぉぉぉっ!!』
「ヴァリオン!」
「バーン!」
「スペリオン!」
シズマ、瞬兵、ヒロが叫ぶ。
アーマーがずたずたにされているものの、見た目程ひどい傷ではないようだ。
だが―――軽いわけでもない。
恐らく全力投球で戦うのは、不可能と相成っただろう。
『・・・・・このっ!』
スペリオンがその剣を振るおうとするが、しかし。
しゅびびいっ!
飛び来た触手によって、近くのヒロもろとも体の自由を奪われてしまう!
「うわぁっ!」
「ヒロッ!・・・・わぁぁぁっ!」
しかし、彼らに目を奪われた一瞬が命取りとなり、瞬兵とバーンも触手に捕らわれてしまう。
シズマとヴァリオンの方は、何とか自分達の方の触手を払いのけるのに手いっぱいだ。
「くそっ・・・・!」
触手を通り抜ける『隙』を見つけ出し―――そしてシズマとヴァリオンは地を蹴った!
「シズマさんっ!」
触手の中の瞬兵が叫ぶ。
「―――てめえっ!俺達の仲間を放しやがれ!」
装重甲(メタル・ブレスト)は尚もシズマとヴァリオンに向かって触手を繰り出してくるが、
彼らは避けるか、それぞれの武器で薙ぎ払うかして切り抜けていく。
ザシュッ!
「瞬兵!ヒロ!」
正面からやって来た触手を尚も薙ぎ払い、シズマは瞬兵達を助けようとする。
が―――
びしゅっ!
「ぐあっ!」
シズマは短く叫ぶと同時に、今起こった事―――切り離したはずの触手が、そのまま地面に落ちよう
としていた時に近くの触手とくっついて再生し、自分の体を絡め取ったという出来事に驚愕した。
『シズマっ!』
救出のために駆けつけようとするヴァリオンだが、しかし。
ずどっ!
『なっ・・・!?』
地中から飛び出てきた触手により、やはり体の自由を奪われてしまった!
そして―――装重甲は顔と同じく、感情の欠片もない声で、厳かに呟いた。
『―――捕獲完了。これより、本部・アレントへ帰還する』

(リオ・一人称)
「あの・・・・そういえばおじさんは・・・・」
「銀十郎だ。斑鳩銀十郎」
さっきからキーボードに指を躍らせる手を止めていないせいで、額に汗の玉すら浮かべている
その白髪のおじさん―――銀十郎さんは答えた。
「あの・・・・何でこんな事してるんですか?何するつもりなんですか?」
「―――世界の救済―――っつったら信じるか?」
不敵な笑みと一緒に返答する銀十郎さん。
私は、みんなと一緒に顔を見合わせ、
「―――からかってるのか、本気で言ってるのかどっちなんでしょーね・・・・」
こっそりおじさんに耳打ちする純一さんに、おじさんは苦笑を浮かべ、
「―――両方―――なんじゃないでしょうか?先程のあの人の顔を見ればわかりますよ」
・・・・そーいうもんなんだろーか・・・・って!?
「み、見て下さいあれ!」
私が指差した方向を見やるみんなの顔に、刹那、衝撃と驚愕の色が走った。
あの怪物が、シズマさん達を捕らえたままどこかへ去ろうとしていたのだ。
「そ、そんな・・・・」
「―――くそっ!やはり駄目かっ・・・!」
銀十郎さんの顔の焦りが色濃くなり、ノートパソコンを打つタイピングのスピードが加速される。
「―――『勇者の魂』を奪わせる訳にはいかねえ!
何としても復活させるんだ・・・・!『時雨』を・・・・!」
―――しぐ・・・・れ・・・・?
何故だろう―――
その言葉が、ひどく懐かしく思えてならなかった。
それも、記憶ではない―――もっと別の何かの『懐かしさ』のような―――
シュオォォォォッ!
「な・・・・何だ!?」
そんな感じの―――
「リ・・・・リオちゃん!あれ――――!」
純一さんの声で我に返り、私はようやく、足元で、巨大な魔方陣が輝いているのに気づいた。
「・・・・えっ・・・・?」

(三人称)
「な・・・・!」
触手に体の自由を奪われながらも、瞬兵は山から伸びる巨大な光の柱を見て、愕然と呟いた。
「何だ・・・・あれは・・・・!?」
呟くシズマの声も、かすれていた。

(リオ・一人称)
オオォォォォォッ!
光の唸りは、未だおさまらない。
それどころか、輝きと共に音量が増していく。
「な・・・・何なんだよ一体・・・・!?」
雄大君も、耳を押さえて力無く呟く。
そして―――えっ!?
圧倒的な光量から目を守るのが精一杯だというのに、私は思わず手を目から離してしまった。
―――いきなり魔方陣から、すぅっ、と『何か』が突き出てくる。
顔は人間のフォルムと似たようなものだが、白いボディーには青のラインが目立ち、そしてその
上背は軽く小さな一軒やさえ追い越しそうな程にまである。
ロ・・・・ロボット?
『なっ・・・・!』
彼(?)はいきなり私を見るなり、口調に驚愕の色をにじませ、
『そんな・・・・!このような少女が・・・・私の『半身』!?』
・・・・・はい・・・・・?
私絡みの事なのか・・・・?今度は・・・・。
「し、知り合いなのか『あれ』と!?」
「そんなわけないでしょー!?」
信じられないといった風な表情の純一さんに、きっぱり答える私。
そして、ロボットはあの怪物の方を見て、
『あれは・・・!装重甲(メタル・ブレスト)!?それに・・・・捕まっているのはまさか!』
「―――あんたの想像してる通りさ、『ゼロ』」
言いながら、そのロボットに歩み寄ってきたのは、銀十郎さんだった。
「―――成る程、あんたの言葉からすると、そこのお嬢ちゃんが『半身』ってわけかい」
「あの・・・だから一体何なんですか?」
不安げな顔で問う私の肩を鷲掴みにし、銀十郎さんは、力強い調子の声で言った。
「―――お嬢ちゃん、名前は?」
「・・・?か、神岸理緒・・・・です」
「―――あんた―――『あいつらを助けたい』って意思は・・・あるか?」
そして、怪物―――いや、捕まっているシズマさん達の方へと視線を移す。
あの人達を―――助ける?
「私にも―――出来るんですか?」
「あんた次第だがな。かなり苦労すると思うが、『本気の意思』があるんなら、必ず出来る」
―――今日、たまたま出会っただけの人達だった。
いきなりこの山にワープさせられたのは説明がつかないけど、少しの間一緒にいて、少しだけ
話をして、そして、助けてもらった―――
・・・ぎゅっ・・・・
私は、片手で握りこぶしを作り、そしてゆっくりそれを解くと、
「―――チャンスがあるなら―――やります」
刹那、おじさんや純一さん、雄大君や雪花ちゃんから、短い驚愕の声が上がる。
「―――よし!その心意気、見事だぜ、『リオ』!」
銀十郎さんは、ばん!と私の背中を叩き、そしてロボットの方へと向き直り、
「―――だ、そうだ」
ロボットは、私と目線を合わせしばし私の顔をじーっと見つめ―――
『・・・・本当に・・・・いいのか?』
私は、迷うことなく頷いた。
大して話をしたわけでも、触れ合ったわけでもない。
ただ―――自分でもよくわからない感情に突き動かされ、『今度は私があの人達を助けたい』―――
そう思ったのだ。
そしてロボットは、私を見て何か感じるものでもあったのか、やがてゆっくりと立ち上がり、
『―――ありがとう、私の名はゼロ。君の『勇気』に感謝する』
ロボット―――ゼロは、言葉が終わると同時にどこからともなくブレスレットのようなものを
取り出し、私に手渡した。
『これはブレイカーブレス。私達が戦うために必要なものだ。』
私がそれを腕に装着したのを確認すると、続いて何か青いカードのような物を出す。
『そしてこのカードをブレスに差し込んで叫んでくれ、『召還(サモン)、スピリッツ・オブ・ブレ
イブ』と!」
そして、私はブレイカーブレスをじーっ、と見つめる。
―――出来る出来ないなんて考えない。
・・・・何が何でも助け出す、ただそれだけの事!

「・・・・召還(サモン)!スピリッツ・オブ・ブレイブ!」

しゅいっ!
私が叫びながらカードを差し込んだその刹那、青白い光がほとばしる!

『ドラゴンライナー!』
そして、どこからともなく、ひとつのトレーラーがこちらに突き進んできた。

『龍王合体!』

叫んだ刹那、ゼロは宙に浮かび始める。
と、同時にトレーラーが変形を始めた。
前面の部分が左右に分かれ、サイドに伸びると、それは肩と腕になった。
後部部分の先端が立つとそれは爪先になり、伸び始めて足になった。
それが終わると、トレーラー自体が立ち上がり始めた。
完全に立ち上がると、トレーラーは上半部分が反転し、丁度胸にあたる部分のカバーが開いた。
そしてそれを確認し、ゼロは胸の部分に向かい飛び出した。
やがて、胸の部分にくるっ、と反転し、足は背中に折りたたまれ、肩のパーツと両腕はサイドに
おさまった。
その状態で胸の部分にドッキングすると、背中からウイングが展開し、両腕から手が現れた。
そして、胸のカバーが閉まると、そこから真っ赤なドラゴンの顔が現れた。
その後ゼロの顔が首の辺りに突き出てくるのとほぼ同時に、上からはヘルメット、下からはマスクが
出てきて顔を包む。
これが・・・・

『ドラグゥゥゥゥブレイカァァァァァッ!!』

私の視界に映るのは、白を主体としたボディーに青と赤のラインが彩られ、胸には赤いドラゴンの
顔がある巨大ロボットだった。
そして―――
ぴしゅぅぅぅぅっ!
「うわわっ!?」
私はドラグブレイカーの額のクリスタルに吸い込まれ、コックピットらしき場所に入り込んだ。
何ともいえぬ不思議な空間で、全てがオーロラ一色、私を守るように存在する白く細いリングが
この空間ではよく目立つ。
【聞こえるか?】
「ゼ・・・・ゼロ!」
【これから装重甲(メタル・ブレスト)の撃破、及び勇者救出に向かう】
「・・・・メタル?」
【あの怪物の事だ。空を飛んで速攻で追いつくぞ】
「そ・・・空を!?」
【驚く事はない。私は今お前を包む『鎧』と化している。
先程ウイングが見えただろう?お前が望めばそれで空を飛べる】
・・・・私が・・・・望めば・・・・?
頭の中で、『飛翔』のイメージを思い描いてみる。
と―――
ぶわっ!
肉体の一部のような感覚で、ウイングが広がり、辺りに風を巻き起こす!
「・・・・リオさん!」
雪花ちゃんの心配するような声が届いたものの、私は飛翔し、装重甲(メタル・ブレスト)の元へと
向かう。
―――風が、気持ちいい。
ロボットの中にいるように思えるのに、どうやらドラグブレイカーの感覚とかは私に直通している
らしい。
私は、ただ今の状況とは裏腹に少し夢見ごこちだった。
今―――ロボットの手の上に乗っかっているわけでもない、自分の力で空を飛んでいる。
・・・・こういうのを『自分の力』と言っていいのかどうかは知らないが。
このまま飛んでいけたら、と思ったりもしたが、現実はそんなに甘くはない。
何せ、目の前に倒さなくてはならない敵がいるのだから。

(三人称)
ぎゅごぉぉぉぉぉっ!
風を切り裂くその音は、あの山の方から聞こえてきた。
『・・・・・っ!?』
驚愕に目を見張る六人。
飛来してきたのは、一体のロボットだったのだ。
『―――空覇斬!』
ずざぁぁぁぁぁぁっ!
放たれた真空の刃は、シズマ達と装重甲(メタル・ブレスト)とを繋ぐ触手のことごとくを
断ち切った。
『うわぁぁぁぁぁっ!?』
まっさかさまに落ち行く一同。しかし―――
間一髪で、そのロボット―――理緒の駆るドラグブレイカーは、両手でシズマ達を受け止めていた。

(リオ・一人称)
「ま、間に合った・・・・」
コックピットの中で、私はふぅ、と嘆息した。
とりあえず、シズマさん達を救出出来たのはいいのだが―――しかし、ここからが一番の問題点だった
りするのだ、これが。
すなわち―――あの怪物、装重甲(メタル・ブレスト)を倒す事。
うーむ・・・・どーしたものか・・・・
「あ、あの君は・・・・・?」
瞬兵君が、戸惑いを宿した瞳で問い掛けてきた。
『―――私はドラグブレイカー。そして私に乗って君達を救ったのはリオだ』
「・・・・・リオ?」
シズマさんが眉をひそめる。
・・・・あ、そーいえば名前なんて教えてなかったっけ・・・・って?
「そういえばゼロ、私まだあなたにも名前教えてなかったよーな気が・・・・」
【ああ、さっきのあの黒い着物の男性が君の名前を尋ねた時の君の返答をたまたま聞き取って
いただけだが】
・・・・抜け目がないとゆーか何とゆーか・・・・
ちなみに向かっている合間に聞いたのだが、ドラグブレイカーの中にいた状態では、私の声は
外に出ないらしい。
そして―――私はふと、あの装重甲(メタル・ブレスト)に目をやる。
・・・・・さーて、どーやって倒したもんかなー・・・・・。
装重甲(メタル・ブレスト)は、私―――正確にはドラグブレイカーをじーっ、と見つめ―――
『―――危険因子確認。危険因子確認。これより消去作業に入る』
きっぱりはっきりそう言うと、触手をドリルのように鋭いものへと変え、私の方へと向かってきた!
げげっ!
ずがあっ!
何とか回避出来たものの、ドリル型触手が地面に直撃したその後には、大きなクレーターが残るのみ。
こっ・・・・!これはけっこーたまらん!
【早く逃げるんだ!】
ゼロの声で、シズマさん達は心配そうな顔をしながらも立ち去っていく。
そして、私は向かってくる装重甲(メタル・ブレスト)と向かい合う。
・・・・こんなのとどーやって戦うの―――っ!?
【―――落ち着け、リオ!さっきやったものをもう一回だ!】
・・・・さっきやったもの・・・・空覇斬?
あの時・・・・シズマさん達を助けたくて、無我夢中で放った技なんだけど・・・・
こちらへ突進してくるドリル型触手に―――
ドラグブレイカーは、長剣をかざして再度『それ』を放った!
『空覇斬!』
しゅざあぁぁぁぁぁっ!
真空の刃は、まともに触手の大半と、装重甲(メタル・ブレスト)の腹を薙ぐ。
触手がなくなり、道が開けたその瞬間、ドラグブレイカーは低空飛行で敵の方へと向かい―――
『ドラゴニックナックル!』
ぎゅがぁぁっ!
ただの鉄拳ではない、腕の関節にクローが装備されたナックルは、回転しながら装重甲(メタル・
ブレスト)の顔にめり込んだ。

(三人称)
「すっ・・・・すげえ!普段ボケーッとしてる割りにやるじゃねーかリオの奴!」
「そ・・・・そう・・・・だね・・・・」
「ビデオカメラを持ってくれば良かったでしょうか・・・・」
雄大、純一、雪花の三人が口々に言う。
そして、その場を離れている最中のシズマ達も、呆然とした目線で戦いを眺めていた。

(リオ・一人称)
だが、その刹那―――
だがあっ!
いきなり切り離したはずの触手に吹っ飛ばされ、ドラグブレイカーは地面に転がる!
「痛っ・・・・!」
ドラグブレイカーの痛みが私にも伝わってきて、途端に全身が軽い痛みに襲われる。
【大丈夫か!・・・どうやらあの触手はいくら斬っても再生してしまうらしい・・・】
「う、嘘ぉっ!それじゃキリがないよ!」
【必ず切り抜ける方法はあるはずだっ!】
そ、そんなこと言ったって―――
言いかけた刹那。
私はふと、ある事に気がついた。
・・・・古典的だけど・・・・ひょっとしたら・・・・
そして、私の意思でドラグブレイカーのウイングが再び広がり飛翔する!
【上から攻撃する気か!?しかしそれでも―――】
ゼロが言うが、違う。
私の狙っているのは『それ』ではない。
びゅっ!
触手が向かってくるが、しかしドラグブレイカーはあっさり右の方向へと避けて、また次の攻撃からも
左の方向へとよける。
そんなことを幾度か繰り返し―――
やがて、流石に少々疲れが出始めた頃。
しゅるるっ!
一本の触手が、真正面からドラグブレイカーめがけて突き進む!
しかぁしっ!
びん!
触手はドラグブレイカーに触れる寸前で、ぴたっ、と糸が伸びるような音を立て動かなくなる。
いや―――動けなくなったという方が正しいだろう。

(三人称)
「あ・・・・」
「あの・・・・ドラグブレイカー・・・・」
瞬兵とヒロが交互にかすれ声で呟き、そしてシズマがポツリ、と一言―――。
「―――あの触手を結んじまった・・・・・」
そう―――
彼らの視線が向かう先には、ドラグブレイカー、そして先程からドラグブレイカーにちょこまかと
攻撃を避けられ、そのため触手があらぬ方向へと行き交ってお団子状になった装重甲(メタル・
ブレスト)の姿があった。
そして純一達の方も、今起こっている出来事に脱力していたりする。
しかし、雪花だけは何やら思い当たったように、
「あら?これは―――」

(リオ・一人称)
これぞ必殺、この間雪花ちゃんに話を聞かされたヤマタノオロチ討伐伝をヒントにした
『スサノオノミコト戦法』っ!・・・ちょっぴし古典的なのがキズだけどね。
【・・・・・・・】
「おろ?どしたのゼロ?」
【い、いや・・・・何か納得のいかないものを感じたような・・・・】
・・・・そうかな?
私は納得いってるんだけど・・・・ま、いいか。
「とにかくあいつにトドメ刺さなきゃ!」
そして私は、地上に降り立ち、天高く剣を振りかざし、そして―――
剣に、オレンジ色のオーラ―――私の『闘気』が結集されてゆく。
そして―――ドラグブレイカーは、一歩歩み大地を踏みしめ、

『――――ファイナリティブラストォォォッ!!』

ずどおおおおおおおおん!

放たれた『闘気』は大地を削り、装重甲(メタル・ブレスト)は無に帰した。
・・・・・やった・・・・・んだ・・・・・
【―――どうしたリオ?】
「・・・・ほへぇ〜〜、疲れた・・・・」
安心のあまり、脱力してへたり込みそうになる私だった。

(一人称)
「・・・・ドラグ・・・・ブレイカー・・・・」
シズマは、その名をポツリと呟いた。
そして山の頂上、呆然とする一同のなか、銀十郎は不敵な笑みを浮かべ,
「・・・・ったく・・・・これじゃあこの先何仕出かすかわかったもんじゃねえな・・・・」
―――ま、それ位の無茶さ加減がなきゃあ、やってられねえんだけどよ、『地球を守る』
なんて・・・・
言葉の後半は、彼の心中で囁かれた。

(リオ・一人称)
―――私は、この時はまだ、自分が一体どういう戦いの渦中に飛び込んでいったのかを、充分
理解しきれてなかった。
―――これが、世界の運命をかけた戦いだという事を―――


あとがき

初めまして、連載予告から一週間近く経ってようやく投稿したアヤメ桜です(ぺこり)。
この度がこのような駄文を掲載させていただき、本当にありがとうございます。
では、ここで主人公と主役ロボを紹介しておきましょう。

神岸理緒

通称、カタカナで『リオ』(つっても漢字の時と何ら変わりませんが・・・・)。
二ヶ月前に記憶喪失だったところを、届け屋『ゆかり便』の義人に拾われ現在に至る。
神界の勇者『ゼロ』から分離させられた魂の半分が生まれ変わったらしく、ゼロの魂の力を
全開させるために彼に乗り込んで戦う事に。
外見と同じく少しボーッ、とした感じの性格で、一言で言い表すならば『とぼけた少女』。
時折(いやしょっちゅうかも)ガウリィのようなとんでもないボケを放ってしまう度、シズマの
ツッコミの一撃を受けてしまう、いわゆる『どつかれ主人公』。
忘れてもいいだろうと思った事は本気で忘れてしまうらしく、倒した悪役がまた復活した時に
『知ってる人?』なんぞとボケをかますのはしばしば。
希望CV・林原めぐみ


ゼロ
神々が、『混沌の力』を操る魔族に対抗するべく創り上げた『ブレイカーロボ』で、
唯一『混沌』に属さない『魂の力』で合体するため、混沌の逆十字(カオス・クルセイド)が
あっても戦える。
人類発祥以前の地球における魔族との戦いで、魔王を打ち滅ぼしたのだがダメージが
大きかったため原動力とする魂が分離してしまい、パワーが半減して眠りについてしまう。
優しく生真面目な部分は歴代の勇者ロボ達と同じだが、『全ての生命ある者を守れ』という命令を
元に稼動しているため、自分の命を大切にしない一面がある。
しかし、理緒や勇者ロボ達と触れ合っていくうちに、己の命の尊さについて学び取ってゆく。
正式な合体はドラグブレイカーだが、他の仲間達とそれぞれ能力別の合体を果たす事が出来る。
額には魂の力を具現させるブレイカーブレイン、略して『Bブレイン』がある。
技・ゼロブレード、レイソニックブレード、バスタースラッシュ
希望CV・伊藤健太郎


ドラグブレイカー

ゼロとドラゴンライナーが『龍王合体』した姿。
とにかく攻撃力を重視しており、一撃一撃がかなり強力である。
基本的な備え付けの武器は『フレイムセーバー』という剣だが、ドラゴニックナックルなど、
それ以外のものを利用した技も扱える。
技・空覇斬、ゼロスラッシャー、吼竜破、ハリケーンスラッシュ
必殺技・ファイナリティブラスト

・・・とまあこんな感じなのが主役の二人です。
連載は不定期ですので、いつになるかわかりませんが、第二話のあとがきにはサブキャラの紹介も
載せようと思います。それではごきげんよう。
・・・・後、勝手に主人公の名前変えられて不満を感じたり、あとブレイブサーガを知らなくて
専門用語ばかりで理解出来なかったりした方々には、すいません(再び、ペコリ)。

次回予告
ええっ!?
日本中であの装重甲(メタル・ブレスト)が暴れてるぅ!?
戦ってるロボットさん達がいるみたいなんだけど、合体出来なくて大ピンチだって・・・・。
合体出来ないのは属性を打ち消す『混沌の逆十字(カオス・クルセイド)』のせいで、
でもゼロは『魂の力』を使って、私と協力して合体出来るんだって。
でも私、世界を救えるのかな・・・・。
次回、勇者冒険ブレイカーV
『守りたいもののために』
よーし、とにかく次回もファイト!

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14338勇者冒険ブレイカーV第二話「守りたいもののために」(第一章)アヤメ桜 3/16-21:57
記事番号14284へのコメント

   勇者冒険ブレイカーV

私の名前は神岸理緒。
記憶喪失だということを除けば至って普通の民間人・・・・のはずだったけど・・・・
いきなり変な山にワープさせられて、おまけに怪物が出現して、私は突然現れた謎のロボット
『ゼロ』が合体したドラグブレイカーに乗ってそれを倒す事になっちゃったし・・・・。
もう一体どーすればいいのぉ!?


  
第二話「守りたいもののために」(第一章)

(リオ・一人称)

「―――ええ!?またあれみたいなのが各地で暴れてるんですかぁ!?」
愛美さんに言われた一言に、私はもちろん他のみんなは仰天した。
―――あれから、私はシズマさん達から全てを教えてもらった。
シズマさん達は、『ヴァリアント・アタック∩レスキュー・スタッフ』、略称『VARS軍』
という、愛美さんによる私設地球防衛組織の勇者で、これまで地球の危機を救うために何度も
戦ってきたという事。
そして再度地球に危機が訪れ、そしてその原因たる『何か』を倒そうとしている事―――。
ちなみに今私達がいるのは、そのVARS軍が所有する戦艦『方舟』のブリッジ。
あの後、ドラグブレイカーから降り立った私は、シズマさん達によってみんなと共にここへ連れて
来られたのだ。
「―――ぐだぐた言うな!とにかく、これから俺のする事に関しては一切口出しすんな、
わかったか!?」
『で、ですが斑鳩さん・・・・』
怒鳴り声のした方を見やると、『方舟』の通信モニター越しに、銀十郎さんが何やら男の人に
怒鳴り散らしていた。
・・・・はて、どこかで見たような・・・・?
と、その時、純一さんはびびくぅっ!と後退り、
「な・・・・内閣総理大臣・・・・!?」
見ると、他のみんなも唖然とした様子で二人のやり取りを眺めていた。
「そ、総理大臣って・・・・・あの人けっこー偉かったんだー・・・・・」
『『結構』どころじゃないっ!』
私の言葉に、何故かそろってツッコミを入れるみんな。
「しかし・・・・あいつ一体何者だ・・・・?」
「・・・・!―――そういえば―――聞いた事があるわ。
日本のあらゆる政治・経済に口出し出来る『陰の総理』がいるとかいないとか・・・・」
「まさか・・・こいつが!?」
シズマさんと愛美さんのそんな会話が終わると同時に、丁度銀十郎さんと内閣総理大臣さんの会話が
終局を迎えたようだった。
『―――わ、わかりました。では詳しい情報が入り次第、そちらに連絡致しますので・・・』
そして内閣総理大臣さんはうやうやしく一礼し、その姿はモニターから消えた。
銀十郎さんはそれを確認すると、下駄のが鳴る音も軽やかにこちらを振り向き、
「―――さて、そっちのお嬢ちゃん達以外の奴らには自己紹介が遅れたな。
俺の名は斑鳩銀十郎。『神魔大戦』の研究を陰で進めていた」
―――神魔大戦?
「・・・・昔のお伽話ですわ。国家遺産とされている世界の自然は、人類が発祥する以前、
神と魔の争いが原因で作られたものだと―――」
眉をひそめた私の心中を察したか、雪花ちゃんが親切な解説を加えてくれた。
「―――まあ最も、詳しい話を知っているのはゼロだがな」
そして、みんなは私―――いや、私の腕のブレイカーブレスに目をやる。
『―――まずは、私の素性と敵について話しておこう』
そしてブレイカーブレスから、ゼロの声が流れ出てきた。
そうそう、ゼロってあのままだと目立ってしょうがないよねって事で話をしていたら、いきなり
ゼロの体が光に包まれ―――いや、光そのものになって、ブレイカーブレスの中に入ってしまった
のだ。
何でもゼロは、普段このブレイカーブレスの中に入っていられるらしい。
一体あんな大きな体がどうやってこんなブレスレットに納まってるのか疑問ではあったけど、
次元がどうとか、精神体のアストラル何とかとあからさまに私の理解を超えた理屈なので、追求して
みるのは諦めた。
・・・・まあ、私としてはいつでも話したい時に話せるんならそれでいっか、って事で自己完結
しちゃってるけど。
『私はゼロ。神々が魔族に対抗するために創り上げた『ブレイカーロボ』の内一体だ』
「魔族だって!?」
真っ先に声を上げたのはシズマさんだった。
「バルドーの奴は神と戦ってたのか!?」
『―――君のいう『魔族』と私の言う『魔族』は別のものだ。『剣の一族』の生き残りよ』
刹那、シズマさん達の顔がハッ、と強張る。
・・・・剣の一族?
『長い間眠りについてはいたが、この世界で起こった出来事はちゃんと伝わってきた。
君達の戦いも知っている』
「・・・・そうか」
何故だろう、声の調子にあまり力が入っていなかった。
『―――勇者達にも『属性』というものがあるだろう?』
ゼロの言葉に、無言で頷く『方舟』の人達。
『私達のいう魔族とは、全ての『属性』の源となる『混沌の力』を操る事が出来る。
『属性』はいくらパワーが強くとも、『混沌の力』で打ち消されてしまい、さっきのような事態が
起こったのだ』
「じゃあ、あの逆十字は・・・・」
愛美さんの視線の先には、あの黒い逆十字が遥か遠方に突き立っていた。
『『混沌の逆十字』といって、その名の通り『混沌の力』を含んでいる。
あれがあるから、勇者達は力が出せずに合体出来なかったのだ』
「くそっ・・・・!」
『しかし、まだ方法はある』
その言葉に、シズマさん達から短い驚愕の声が漏れた。
「な・・・何なの!?その方法って一体・・・!」
『―――私達神界側の陣営は、ある時魔族の混沌の力に苦戦していた時、ある事に気づくと同時に、
有効な手立てを考案した』
「・・・・ある事?」
「有効な手立て?」
交互に言う雄大君と雪花ちゃん。
『混沌の力に含まれていない『力』があったのだ』
「・・・それで、その力って?」
『魂の力だ』
愛美さんの問いに、ゼロはこう答えた。
『魂の力のみが、『混沌の力』に含まれず、打ち消される事もない唯一の力だった。
そして、神々は考えついたのだ。
―――精神の力を具現させる力を持った神界の鉱石、『ブレイカー・ブレイン』―――略称『Bブレイン』
を利用し、魔族への対抗手段となるロボット生命体達を作り出す事を』
「・・・・そして作り出されたのがあなた達、ってわけか・・・・」
「じゃあ、君がさっき合体出来たのはそのせいだったの?」
愛美さんの呟きと同時に、瞬兵君がブレイカーブレスのゼロに向かって話し掛ける。
『そうだ』
『しかし・・・・』
瞬兵君の肩の上で、直径十五センチメートルのヴァルスとなっているバーンさんは、私の方を見やり、
『先程この少女が合体した君に乗り込んでいたのはどういう事だ?』
『私の生まれ変わりだからだ』
ふえー、成る程・・・・・・って・・・・・・!?
『何ぃぃぃぃっ!?』
私はもちろん、シズマさん達やおじさん達は思いっきり絶叫した。
銀十郎さんは平然としているが。
「お、おいちょっと待て!じゃあ何であんたはここにいるんだよ!」
シズマさんの言葉に、ゼロはさして慌てた様子も見せず、
『―――言い方が悪かったな。正確には私の『魂の半分』の生まれ変わりなのだ』
・・・・魂の・・・・半分?
『―――人類が発祥する遥か以前の話だ。
私は仲間と共に、魔族との決着をつけるべく大戦争の中に身を投じた。
地球に大きな傷跡を残す程の激しい戦いの末―――
私達は魔族の支配者、グラウドゥクを打ち滅ぼす事に成功した。
それが―――この地で『神魔大戦』と呼ばれた戦いの記録だ」
一同の中に、短い驚愕の声が走る。
『―――だが―――私は戦いによるダメージがかなり激しく、結果、Bブレインにヒビが入った私は、
魂が二つに分かたれてしまったのだ』
・・・私が・・・『この人だった』・・・?
「じゃあ―――魂の力を原動力としているなら、魂が欠けてしまったらパワーが減少する、ってこと?」
愛美さんの指摘に、ゼロは厳かな口調で、
『その通りだ。―――そして、眠っている間に神界からの報告が寄せられてきた。
当時グラウドゥクを除けば他に比肩しうる者すらいなかった高位魔族、『ラグナ』が部下の大半を率いて
魔界から動き出したというものが』
「・・・まさか、今更になってそのグラウドゥクを復活させるつもりなのか?」
『いや、違う。グラウドゥクは完全に消滅したからな』
シズマさんの言葉に、しかしゼロはきっぱりと否定の言葉を口にした。
『奴の目的は―――グラウドゥクの残骸に残された膨大な魔力を己のものとすることだ。
―――『勇者の魂』を捧げてな』
『なっ!?』
全員から漏れる、驚愕の声。
「そ・・・それってどういう事よ!?」
『神々はラグナのこの行動を先に予想し、神魔大戦で勝利をおさめた折グラウドゥクの残骸から
魔力が抽出出来ぬようにプロテクトをかけた。
だが―――
ラグナ達魔族は見つけ出したのだ。
神々の力にも匹敵する輝きを秘めた『勇者の魂』を生け贄として捧げる事で、プロテクトを解除し
魔力を抽出する、という方法を。
そして―――ラグナが『勇者の魂』に相応しいと判断したのが、『絶対悪』グランダーク、そして
魔王バルドーをも打ち破った、VARS軍の勇者達だ』
―――シズマさん達は、信じられないといった表情で立ち尽くした。
「・・・じゃあ・・・今地球が危なくなってるのは・・・僕達のせいなの・・・?」
かすれ声で呟く瞬兵君の声に、しかしゼロは答えようとしない。
しかし、それは瞬兵君の言葉が、ある意味で核心をついている、という事を認めた証明でもあった。
・・・けれど、私は瞬兵君達の心中を察するよりも、自分に降りかかったとんでもない命題に、不安や
戸惑いを感じるばかりだった。
『―――リオ。いきなりこんな事を言って、無理に引き受けろとはいわない』
今度は、いつもと声の調子が違い、優しく感じられた。
『だが―――真剣に考えてほしい。戦うか、それとも別の道を選ぶか―――。
自分の中で、よく考えてみてくれないか』
―――その時、『よく考えてみてくれないか』の一言は、私の耳にしばしリフレインするのだった・・・。


・・・・頭の中を渦巻いていた疑問が一気に解けると、逆に疲れてしまった。
『方舟』の外の方で、私はただただボーッと、ついさっきまで怪物が暴れていたとは思えない
程に穏やかで綺麗な空を眺めていた。
ここのエリアはドラグブレイカーが敵を撃退した事によって魔族の侵攻は防がれたらしいが、
他の場所では魔族達が暴れまくっているらしい。
ゼロいわく、『魔族は生き物の悲しみや絶望などといった負の感情を食らう。今現在も人々のそれを
食らっているから、絶好の『食事』である彼らを殺す事は考えないそうだ。
けれど―――今のままでは勇者さん達が―――
けれど、『私なんかに出来るのか』という、その一言が私に迷いを与えていた。
あの時は、とにかく『何が何でも助けなくては』と思って無我夢中になってて、あまり他の事を考えて
なかったから何とかなったのかも知れない。
けど、こうしてとんでもない真実を知ってしまった以上、それに目を背けずに戦いをどうにかしていく
事など、無理だろう・・・。
どうして―――私だったんだろう。
自分の事さえわからないのに前世だの何だのって、それだけで私とあのゼロしか頼みの綱がいなくて。
けど世界の危機だからって『はいそーですか、じゃあやります』など、言えなかった。
色々な考えが頭の中をぐるぐると駆け巡る。
・・・・・ハァ・・・・・
空を眺めたそのままでため息をついていた、その時だった。
「おい」
いきなりヌッ、とシズマさんの顔がどアップで視界に飛び込んできた。
「うひゃあぁぁぁぁぁっ!?」
いきなりの事に、私は思わず後ずさる。
「そこまでオーバーなリアクションする必要ねーだろ!」
怒鳴るシズマさんの傍らには、よく見ると瞬兵君やヒロ君もいた。
「あ・・・あはは、すいません・・・」
頭をポリポリ掻きつつ空笑いする私。
そんな私の反応を見た後、シズマさんは嘆息して、
「・・・・確か・・・・リオっていうんだよな、お前」
「ふえ?そ、そうですけど・・・・」
「―――さっきは助かった。一応礼は言っとく」
・・・・・・・・・・・
「・・・・何だよ」
呆然と突っ立った私を見て、シズマさんは不機嫌な声を上げる。
「・・・・い、いや、意外と素直にお礼言うキャラだったんだなー、と・・・・」
「おい・・・・?」
流石にこれには黙ってなかったか、険悪な目つきでこちらを睨む。
し、しまったつい本心を―――っ!
「シ、シズマさん落ち着いて・・・・・」
瞬兵君がヒロ君と一緒にシズマさんをなだめながらこちらを見て、
「・・・・僕達からも本当にありがとうリオさん」
言ってにっこりこちらに微笑んだ。
「あ、いや私だってゼロが来なかったらあんな真似出来なかったと思うし・・・」
あまりにもストレートにお礼を言われて、私は何となく照れてしまう。
と、ここで―――ふと、ある事に思い当たる。
「―――ねえ」
「ん?」
シズマさんが反応しても、私はやはり迷っていたが―――
ようやく言葉を口にする。
「あの・・・・みんなはこれまで世界の危機を何度も助けてきたんだよ・・・ね?」
「・・・・・言っとくが、相談には乗れないぞ」
・・・・うっ・・・・!
見透かされたのは何でもないけど、こーもあっさり断られると・・・・・
「ち、ちょっとシズマさんそういう言い方は・・・・」
流石に抗議の声を上げかけた瞬兵君を片手で制し、シズマさんは厳かな口調で、
「―――こういう事は他人の意見を参考にするんじゃない。自分の意志で決めるんだ」
・・・・・シズマさん・・・・・
「確かに、お前がいきなり『世界を守れ』なんて言われて迷う気持ちもわかる。
けど、お前はどうしたいんだ?
自分の意志を一般常識で理由づけてごまかすのはやめろ。
―――考えて願って、そして動け。大事なのはこの三つだけだ」
・・・・考えて願って・・・・動く・・・・
「へーえっ、流石に伊達に歳とってないじゃん!」
「・・・・おいヒロ、俺の年齢忘れたのか?」
「わかってるって、十六だろ?」
怒気をはらんだシズマさんの言葉に、ヒロ君は気楽に答え・・・・て・・・・?
「・・・・えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
私は思わず絶叫する。
「じ、じじじ・・・・じゅーろくさい!?」
「・・・・悪いかよ」
ぶっきらぼうに答えるシズマ・・・・さん・・・・。
「い、いやあの・・・未成年者の割にはみょーに威厳があるなーと思ったっつーか何つーか・・・」
「・・・どうせ年齢も近いんだろ?呼び捨てでも構わねーぜ」
「・・・・・じゃあ・・・・・」
私はしばし考察し―――
「・・・・改めて自己紹介するね!神岸理緒、一応届け屋『ゆかり便』の店員だよ!
よろしくね『シズマ君』!」
「・・・・シズマ・・・・」
『・・・・『君』・・・・?』
言葉の前半はシズマ君、後半は声もハモらせ瞬兵君とヒロ君が呟いた。
「別にいーでしょ?『シズマ君』でも」
「・・・・い、いや、それは別に構わんが・・・・」
言うシズマ君の口調は、何故かしどろもどろだった。
・・・・こーいうので呼ばれ慣れてないのかな?