◆−ラ・トリステ(前編)−CANARU(3/14-09:52)No.14264
 ┣筒井筒(くすっ)−P.I(3/14-23:48)No.14286
 ┃┗行き遅れ(汗)−CANARU(3/15-11:29)No.14297
 ┗ラ・トリステ(後編)−CANARU(3/16-00:17)No.14314
  ┣こんばんは。−みてい(3/16-00:49)No.14317
  ┃┗有難うございました〜♪−CANARU(3/16-10:46)No.14328
  ┗ガウリイに強敵現る!?(笑)−P.I(3/16-23:50)NEWNo.14349
   ┗やはり趣味で(笑)−CANARU(3/17-09:59)NEWNo.14355


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14264ラ・トリステ(前編)CANARU 3/14-09:52



今回は久々の前、後編でっす。
時代は16世紀のスペイン、ポルトガルとなってます。
余談ですが「イザベッルラ(皇太后)」「イザベル(女王)」
「イザベッラ(王女)」と話の最中には出てきますが・・。
実際の歴史上は三人とも同じ「イザベル」という名前です。
紛らわしいので適当に変更したので・・・とりあえず・・・。

***********************************
マケーダの荘厳な美しい城。
住むものがなくなった今でもその美しい外壁は未だに変わらない。
何時しかの国王の宰相にして時の王妃の政敵であった男・・・。
確か、デ・ルーナといっただろうか?
その男の持ち物であり・・・彼の処刑、失脚によりそのときの王妃に国王から
与えられた城であった・・・・。
いわばそれは・・・時の王妃の「戦利品」だったのだ・・・。
無論、そんな事を年齢の離れた兄に手を引かれ、この城に入城した幼い
ガウリイが知るはずも無い事なのだが・・・。
「くく・・・・くくく・・あ〜〜ははははははははははははは!!!!」
今では使われる事すら無くなった、石造りの玉座にボロボロに成り果てたカーテンに
カーペット・・・。
しかし、壁を刳り貫いて作られた採光用の窓から燦然と放たれるカステリィーヤ・レ
オン王国独特の荒々しいまでに眩しい太陽・・・。
そんな光がこのくらい一室・・・。
そして・・年のころなら40〜50の間と言ったところだろうか?
淡い、亜麻色の髪に・・線こそは太い印象を与えるが・・透けるように白い肌に・
・。
角度によっては青ともエメラルドグリーンともとれる瞳の色を持った一人の女。
年齢を感じさせない美貌を保ち、彼女は其処に佇んでひたすら笑う・・・。
狂ったような・・正気をもはや取り戻す事は不可能な・・・。
『狂気』・・・・・・・。
その言葉が初めて少年ガウリイに身をもって実感できる光景・・・。
美しい初老の女はそんな少年の存在に構う事無くひたすら高笑い・・強いて言えば勝
ち誇ったような・・恐ろしげな笑い声を上げ続ける。
「・・・皇太后様・・・・」
そんな狂乱の美貌の王者・・・そう・・・・。
何時しかの宰相を処刑にまで追い詰め・・そしてこの城を奪った・・・。
かつては栄光に満ちていた一人の老女・・・。
今では『皇太后』の名で呼ばれるその人物に兄は初めて声をかける。
「・・・・・・・はは・・・ははははははは!!!!」
しかし、皇太后・・イザベルラ未亡人は高笑いを止めようともしない・・・。
「・・・これが・・・・・」
狂気・・・・・・・・。
それが・・・ガウリイの脳裏に焼きついた生まれてはじめての『遣えるべき者』・
・。
スペインはカステリィーヤ・レオン王国、トラスタマラ家の王族の姿・・・。


「ったく・・・なんでこんな目にあわんといけないのやら・・・」
ブツブツと文句を言いながらガウリイの隣で馬を進めるのは同僚のゼル。
「しょ〜がね〜だろ・・・イザベッラ王女様が今度目出度く・・あれ。何処の国の
王子と結婚するんだっけ・・・・?」
不満そうな同僚を宥めるつもりが・・・・。
「阿呆か?ポルトガル。隣国だ・・・ったく・・・」
「そうだった、そうだった・・・」
逆にモノを教えてもらう立場にたってしまうガウリイ。
「『そうだった』じゃない!!別に俺は王女の結婚の支度を面倒くさがっているわけ
じゃ
無い!!まあ・・スペインの豪族(ヒダルゴ)として当然なことだ・・・。しかしだ
な。
なんでお前の課せられた仕事に『同行』せねばならね〜んだって事を不満に思ってる
んだ!!俺は!!」
「マケーダの城は俺・・・いんや・・・。強いて言えばカステリィーヤの貴族には・
・。あんまり良いもんじゃね〜んだよ・・・・」
何時ものようにお茶を濁すような回答を予測していたゼルには理由までは言わないが
ガウリイが真情を吐露したのは少々面食らった思いにならずるおえなかった。
「・・・・お前にしては・・珍しく・・・」
「ま〜・・アラゴンから来たばっかりのお前が知らないだけ・・って言う説のほうが
正しいけど・・・知らないほうが『幸せ』って事も世の中にはあるんだぜ?」
苦笑しながら・・しかし視線は遠くに向けるガウリイを確認したためだろうか?
「・・・ご忠告に従わせて・・突っ込んで聞くのは遠慮しておく・・」
大人しく引き下がることにするゼル。
このスペインはほんの数十年まえまでまったく別の国同士だった。
なるほど、確かに人種、言語・・そして王朝も同じトラスタマラ家であるが。
アラゴン、カステリィーヤとしてまったくの別の国家だったのである。
しかし、アラゴン国王フェルナンド、カステリィーヤ女王イザベルの結婚により
国家は劇的な統一を遂げたのであった。
国土、人口共にアラゴンよりも勝るカステリィーヤに宮廷は存在し、アラゴン国王も
カステリィーヤ女王と共に此方の国に住んでいる。
そんな訳で、このヒダルゴ(騎士)はアラゴンもカステリィーヤも同僚・・と
言う事になるのだった。
「感謝するよ・・」
簡単にそう言ってのけ、ガウリイは更に馬のスピードの拍車をかけ、さっさと目的地
に急ぐようにする。
少年時代・・・・。
現女王の母親・・・。
イザベッルラ皇太后の恐ろしい狂気に満ちた笑い声がともすれば未だに頭の中に
響いてくるような気がしてならなかった。


「おかなが空いたわ・・・・」
不満そうにリナはリスボンの町で姉のルナに言う。
「我慢しなさい。今日から貴方がお遣えするスペインの王女様・・・。ポルトガル
の皇太子妃となられるお方が来るのよ?」
「そりゃ〜、ま・・・。そうだけど・・・・・」
朝から叩き起こされ、何も言わずに聞かされずに連行された首都。
無論、朝食もまだの10歳の少女にそんな状況を理解しろ・・と言うほうが少々無理
だったのかもしれない・・・。
そう思うに至って姉のルナはため息を一つつきながら・・・。
「屋台で何か買ってくるわ。祝宴ムードなのはわかるけど・・アタシのいない間に
ハメを外しすぎないように・・いいわね?」
念を押すようなその言葉に・・・。
「お腹がすいてそれどころじゃないわよ!!」
「・・・それもそ〜ね・・・・・」
先程から隣にいてリナの腹は慌しげに音を立てていたし・・・・。
苦笑しながらルナは人ごみに消えていく。
「あ〜、あ。本当に。お腹すいた・・・・・・・・」
ぐきゅ〜〜〜ぐるるるるるるるるるるるるる・・・・・・・・・・・・。
悲しいまでに見事な腹の音に・・人ごみの最前列に立っていたことも災いしたのだろ
う・・・。
「・・・・・!!?」
王女、イザベッラの護衛の一人だろうか?
年のころならリナよりも5〜6歳くらい上・・・。
金髪に長身、透けるように青い瞳にの整った顔立ちのヒダルゴの一人がまともに
リナを振り返り・・・・更に・・・・。
ぐきゃ・・・・・ぐるるるるるるるるるるるるるる〜〜〜〜〜〜♪
ますます派手に鳴ってくれた腹の虫の音・・・。
あ・・・やっぱりお前さんの腹の虫の音かあ〜〜♪
目が・・完全にそう言って・・笑っている・・・・・・・。
そんな屈辱的な一瞬を味わいながらも行列は更に進み、青年はリナに『可笑しくて仕
方が無い』という一瞥を送りながらさっさと前列に去っていく・・・。
ぐきゃるるるるるるるるるるるる・・・・・・・・・・・・・・。
そうこうしている間に・・・更に激しい腹の虫の音に・・・・。
クスクスクス・・・・・・・・・。
今度は女の人の声・・・・・・・・。
次の瞬間リナの視線に入ったモノは・・・・・・・・・・。
儚げな印象からはかけ離れてこそいるが・・・優しく美しい顔立ち・・。
亜麻色の長く、甘い髪の色に・・・角度によっては青とも緑ともとれる瞳を持った、
18〜9歳くらいの高貴な女性・・・。
『・・・このお方がイザベッラ王女??』・・・。
幼いリナが直感的にそう悟った瞬間だった。


「やれやれ・・・やっと笑える出来事があった気分だよ・・・」
隣を進むゼルに笑いを堪えながらガウリイ。
「小娘の腹の虫の音がそんなに可笑しいか・・・。しっかしまあ・・お前の『知らな
いほうが幸せ』と言った事を余計なおしゃべり大好きなアメリアが教えてくれたが・
・・。フアーナ様といい・・・・」
「まあ・・・な・・・・」
イザベッラ王女がこの婚姻の為に故国、スペインを旅立つ数日前の事である。
「フアーナ、フアーナよ!!」
女王の声が宮殿中に響き渡る。
「如何したのですか?女王様・・・?」
貴族の娘、9歳のアメリアがそんな女王の様子を心配したのだろう。
宮殿中を歩き回ってきたのであろう女王に声をかける。
「ああ・・・アメリア・・・。そなた、フアーナを知りませんか・・・?」
カステリィーヤ女王イザベルの侍女、フアーナ王女。
「・・・・見かけませんでしたけど・・・・」
「・・・はあ・・・そうですか・・。フェルナンドの王女に対する放任主義も困った
ものです・・・もう少し・・フアン王子とイザベッラ以外の娘達にも気を配ってくれ
ても良いものの・・・・」
思わず女王の口から漏れる愚痴。
娘のイザベッラ王女・・しいて言えば母親のイザベッルラ皇太后にそっくりな線こそ
太いが、透けるような白い肌、印象的な瞳に亜麻色の髪を持つ美しい女性である。
そんな女王とアメリアの様子を近くの部屋の窓越しにガウリイとゼルは偶然
目撃していたのだが・・・。
その時である・・・・・・・・・。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
けたたましいフアーナ王女の悲鳴が聞こえてきたのは!!!
「台所の方だ!!」
真坂そんな場所に王女が居るとは女王自身も思いもよらなかったのだろう。
咄嗟に女王を伴ったアメリア、そしてゼル、ガウリイも其方の方向に駆け出して行く



「いや・・・火が・・・不吉だわ・・・お姉さま・・お母様・・いや!!いやあああ
ああああああああああああ!!!!!!!!」
落ち着かせようとする台所の使用人たちの手を払いのけ、ひたすら狂ったように絶叫
し続けるフアーナ王女が台所の床に座り込み、狂ったように雄たけびをあける。
「・・フアーナ、フアーナ!!如何したのですか!!」
大慌てで女王は次女、・・・イザベル女王や第一王女、イザベッラにはあまり似ない
・・。白色の肌こそ共通すれども、黒い髪に黒い瞳・・・。
線の細い神経質そうな顔立ちの背の高い娘であるフアーナ姫を女王は大慌てで抱きし
める。
「・・お母様・・・お姉さま・・・・火よ・・不吉よ!!いやああああああああああ
ああああああ・・・来ないで、誰も来ないで!!いやああああああああああああ!!
!」
常軌を逸した言動に怯えきった瞳・・・・。
少年時代に目にした『狂気』の様が痛々しく心に蘇ってくる・・・。
「少し・・眠りなさい・・フアーナ・・・・・・・・・」
半ば焦り、半ば恐怖を含んだ声でイザベル女王は娘に語りかける。
そんなこんなのゴタゴタの中、ようやっとのことでリスボンまでイザベッラ王女を
送り届けたのだった・・・。


あの日、リスボンにイザベッラ王女の護衛で出かけた事など忘れ去っていた頃。
ガウリイに今度は正式な貴族としての宴の出席依頼がポルトガル側からやって来たの
は。
と、言っても任務はスペイン国王、女王の護衛にある・・・・。
「ま、気軽に行ってきたらどうです?」
「そうだな・・・・・・・」
アメリアの一言に今回ばかりは少しばかり安心した口調で頷くガウリイとゼルだっ
た。


「お姫様!!」
亜麻色の髪の王女に一人の少女が近づいていく。
「ああ・・リナ・・・。その花は?」
「今日のお姫様のご両親の王様と女王様をお迎えするときのものです」
笑いながらリナは・・姉のように慕う美しい皇太子妃の質問に答える。
ポルトガル王子アフォンソとこのイザベッラ皇太子妃は非常に仲睦まじい。
アフォンソと談笑しつつもイザベッラは優しくリナに語り掛けてくれる。
「そう・・そうね・・・では・・円卓の中心に飾ってくださいな。きっと父上も
母上も喜んでくれますわ」
「分かりました!!」
10歳のリナにとって・・姉のルナ同様、この皇太子妃は憧れだった。
5つ年上の18歳・・あと数年もすれば自分もこんなになれるだろうか?
密かにそんな期待を抱きながら優しい皇太子妃を見遣るのがリナは好きだった。
「で、貴方も狩には参加なさるの?アフォンソ・・・?」
「ええ・・・・で・・・」
去り際に後ろ目でそんな二人の会話を耳を傍欹てさせながらリナは花を大事そうに
抱え・・・・・・・ドン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
見事に堅い金属・・いや・・・かなり背の高い男だろうか?
一人の人物に思いっきりぶつかってかなり痛い思いをする・・・・。
「いった・・たたた・・って・・ああ〜〜〜・・・。大事な王女様のお花が
あ〜〜〜」
半ば泣き出しそうな声でリナはぶつかった人物・・・。
金髪長身・・・青年と少年の中間といったところだろうか?
とはいえリナよりも彼は大分年上であることは確か・・である。
そんな一言を口に出して言ってみる。
「あ・・・悪かった・・けどな・・お嬢ちゃんだって余所見してただろ?」
う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
見事に痛いところを突かれてしまった・・事は事実。
「仕方ないでしょ?あ〜もう・・。最低最悪・・・・」
ぶつくさ言いながらもリナは散らばった花束を再度手の中に集め始める。
「・・・手伝う・・・」
「・・・常識・・・・・・・・・・・」
ガウリイが手伝いを申し込む前にさっさとリナはそう言ってのけてやる。



「おやおや・・ガウリイは子守りに徹しているようだな・・・」
面白くて仕方が無い、といった口調でアラゴン国王、フェルナンドがリナの
隣に居るガウリイを見遣りつつ口にする。
黒い髪、がっちりした体格の若々しさを失わない鋭い眼光の壮年の男である。
成る程。確かに傍目からすれば小さなリナを連れた大柄のガウリイは・・・。
間違いなく『子守り』でもしているようにしか見えない。
「ま・・・奴も暇なのでしょう・・・・」
あまり他人の干渉をしない性質のゼルが軽く君主の国王に言う。
「まあ、良いではありませぬか、貴方。それより、ジョアンポルトガル国王がお呼び
ですよ?」
微笑みながらイザベル女王が夫である国王を娘の舅に引き合わせる。
「そうですな・・・我らのこれから生まれるべき孫、ポルトガルの王位継承者に乾杯
しようではありませんか!!」
笑いながらフェルナンドに声をかけるポルトガル国王ジョアン。
「はは・・・何をおっしゃる!!若いアフォンソ殿とイザベッラにはもう少し待って
貰わねば。我らも30代の若さで『祖父』となるものしゃくであろう!!」
とは言うものの嬉しそうに語りかけるフェルナンド。
「ああ・・・それもそうだ・・・ともあれ!!未来に乾杯だ!!」
「未来に乾杯を!!」
明らかにリナはイザベッラ王女に心酔している・・・。
このお転婆な餓鬼がねえ・・・そう考えながらもガウリイはリナの視線に釘付けにな
る。
「・・・あのねえ・・子守りは必要ないわ。さっさと席に戻ったら?」
未だに不満そうにリナはガウリイに言う。
「・・・そ〜はいっても・・・・」
多分、自分でもお転婆な妹を放っては置けない兄の心境・・なのかもしれない。
ふっとアフォンソが席を立つ・・・。そして・・・。
『狩に出かけてくる』・・・と気恥ずかしげに一同に告げ・・・・・・。
そして・・・それが・・王子の最後の言葉であった・・・・。


狩の最中の、アフォンソ王子が不慮の事故で亡くなった・・・・。
「アルフォンソ・・・・アルフォンソ・・・・・・!!!」
我を忘れてスペイン語で泣き叫ぶイザベッラ王女・・・。そして・・。
彼女は一刻も早くこのリスボンを離れ、故国に帰ることを望み・・・・・。


「リナ・・・・・???」
あれからどのくらいしただろうか・・・?
転がり込むようにスペイン宮廷にやってきたリナが倒れこむようにガウリイの傍に
やって来る。
10歳のリナにはお供と護衛を連れた旅とはいえ・・とても辛いものであった事は
一目瞭然である。
「・・・ガウリイお兄ちゃん・・・・王様が・・・ジョアン王様が・・・誰かに暗殺
されたの・・・・」
「ナンだって・・・・????」
すっかりあの事件以来、スペインから離れる意思も無くし・・更に言えば
再婚など考えもしなくなってしまったイザベッラ王女。
次女フアーナ、三女マリーア、そして末っ子のカタリ−ナ王女とすぐ下のフアン王子

結婚、婚約が着々と進む中、である。
「そうっか・・・・・・・・・」
今はリナを安心させる事だけを考えたい・・・。
しかし、そんなガウリイの考えもリナの次の一言でものの見事に打ち砕かれる。
「・・・犯人は・・もともと王様と仲が悪かった王妃様かもしれない・・・。しかも
・・・王妃様の弟のマヌエル様が・・今度ポルトガルの王様になるらしいわ・・・
・」
10歳の少女とは思えない醒めた声。
何時しか知った『狂気』・・・それと同じぐらいの衝撃がこの年齢にも達したガウリ
イの
心に痛々しいほど残るのだった。


「リナ!!!」
あれから何年経過しただろうか?
あの時と・・まだ18歳の少女であったイザベッラ王女の護衛をして歩いたこの道。
今、ガウリイはまたあの時と同じように『イザベッラ王妃』を連れて再び歩く。
代理結婚式を済ませ、彼女は今、新たにポルトガル国王となったマヌエルと再婚をす
るのだった・・・。
そうだ・・・丁度あれから9年が経過している。
何てことは無い。当時は単なる一貴族でしか無かったマヌエルが・・・。
皇太子妃であったイザベッラに道ならない恋心を表に出さなかったとはいえ心に描い
ていたのだった。
『出来すぎていない?彼は国王になって恋した王女様は既に未亡人なんて・・・?』
あの先王暗殺以来、リナには会っていない。
あのときの10歳の子供の姿が・・あまりにも痛々しかったから・・と言う事もある
のだが、時々お互いに手紙のやり取りは続いていた。
その一枚にリナは皮肉っぽくこんな一言を書いて遣してきたのだ。
「これだけの皮肉を書くようじゃ・・かなりあの子供、強かな娘に成長してるだろう
よ。心配する事は無い、あってきたらどうだ?」
そんなゼルの勧めでガウリイはやっとリスボンの地を踏む決心をしたのだが。
「・・・・王妃様・・・・」
一人の栗色の髪の毛の女が恭しく、やっと笑顔を浮かべた王妃に近づいて来る。
「・・・リナ・・・久しぶり、もっと良く顔を見せて頂戴!!」
久々に見知った者に出会った安堵と古傷の痛み。
それが・・・イザベッラの複雑な心境であったのだろう。
「・・・・眠そうね・・・・???」
そんなリナの顔をまじまじと眺めた後のイザベッラの感想・・・。
「ええ。まあ・・・・・・・・」
ふっと顔をあげたリナの顔が一瞬ながらガウリイの視線でも確認できる。
子供時代の柔和の線は消え去り、何処と無く憂いを含んだが鋭い視線・・。
綺麗ではあるが・・・どこか猜疑心を含んだ表情。
ガウリイのようなヒダルゴだからそこまで読心したのかもしれないがイザベッラには
それが『眠たそう』と映ったらしい。
が、リナは・・・。
「ええ・・・まあ・・・・」
ととびっきりの笑顔をイザベッラに向けなおす。
そう・・それは嘘偽りの無い・・本当の笑顔である事だけは確かである。


「お久しぶりね、ガウリイおに〜ちゃん」
これまたちびっきりの笑顔をガウリイに向けながらリナが隣で進む。
「・・・その『おに〜ちゃん』っての・・やめてくれないか・・・?」
苦笑しながらさしものガウリイも抗議の声をあげる。
「・・・だって・・おに〜ちゃんはおに〜ちゃんでしょ・・・?」
ふぁぁ・・と欠伸をかみ殺したような気の無い返答。
まあ・・実際欠伸をリナは噛み殺しているし・・それはそれで仕方が無いのだが。
「眠そうだな・・・・・」
「ま〜〜ね・・・毎日資料とにらめっこ・・・合間を縫っておに〜ちゃんに手紙書い
て・・でもって・・友達との付き合いもあるし・・・で、家に帰ってまた資料と睨
めっこ。ここ数年、ロクに寝てないわ」
どうやら・・リナは未だにアフォンソ王子、ジョアン国王の死の真相を突き止めよう

心を砕いているらしい。
「お前。エマニエ国王を・・・・・?」
恋した先皇太子の妃、そして王位をアッサリと手に入れたのはこの人物である。
「真坂・・まあ、容疑者リストに入れていないと言えば嘘になるけど。自国の国王を
悪く言うつもりは毛頭無いわ」
「・・・もう8年か・・・?」
「・・・9年よ・・・・・・・アタシももう19よ?」
目をこすりつつ、リナはガウリイにそう言う。
手紙にはいつも事件の事や国の情勢の事しかリナは書いては寄越さなかった。
時々「コイツ・・俺より国政分かってるんじゃないだろうか・・・?」と
思わされた事がたびたびあったほど・・である。
「結婚は・・・・?」
不意に頭に浮かんだ言葉を何気なくガウリイはリナにかけて見る。
イザベッラ王女とて初婚は18歳のとき・・無論、今時では遅いほうだ。
「・・・に〜ちゃんこそ・・・・・・・」
その返答にあっさりとリナの現状を見て取ったガウリイは・・・。
「・・・行き遅れだな・・・・・」
「・・・・・そ〜ゆ〜に〜ちゃんこそどうなのよ・・・?あ、貧乏暇なしってか?」
かなり性格の悪い言い草に笑いをリナはガウリイに送り・・・。
「おい・・・・・・・・・・・・・・・」
まともに気にしてる事をリナに指摘され、かなり機嫌の悪そうな声と視線を
リナに送り返すガウリイ。
「ま〜・・ジョークはさて置き。敬愛するイザベッラ様が・・アタシの目の前であん
な目に会われえたのよ?そして・・今でも寂しい生活をお送りになっている。とても
じゃないけど・・・話はあったけど結婚なんてする気にはならなかったわ・・。おか
げでもう19よ、19!!」
少々自嘲気味にリナは行列、そしてガウリイを眺める。
「・・・・資料と睨めっこ・・・か・・・・」
そんなことを考えると・・ガウリイまでため息が出る思いがする。
「まあ、ね・・・。同じ年齢の友達と息抜きはしてたけど、ね」
一本気でありながらもその辺りはリナらしい、かもしれない。
「とにかくさ、俺もイザベッラ王女が国王と結婚後・・スペインに里帰りなさるとき
の護衛に選ばれた。暫くは・・協力するよ・・・」
「アリガト・・・・・」
これが事件の始まりから・・今日に至るまでの出来事・・・・である。






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14286筒井筒(くすっ)P.I E-mail 3/14-23:48
記事番号14264へのコメント

CANARUさん、こんばんは!
予告通りの歴史サスペンスものですね〜!
暗殺者の正体は・・・・わくわく♪
さっそくPもスペインの歴史の本読んで勉強しなくっちゃ(笑)

10歳の少女に惚れたか、ガウリイ!(爆笑!)
行き遅れ同士ちょうどいいじゃない。スペインに帰るときにはしっかり嫁さんも
連れていくのよ〜♪
頭脳派リナと肉体派ガウがこの後どんな活躍を見せるのか、二人のその後(笑)
共々期待しつつ続きをお待ちしています!!

余談ですけど、明日発売の「週刊世界遺産」はナポリの歴史地区特集です〜♪
「気まま」シリーズの舞台♪絶対げっとするぞ〜!!
それではまた!


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14297行き遅れ(汗)CANARU 3/15-11:29
記事番号14286へのコメント

>CANARUさん、こんばんは!
>予告通りの歴史サスペンスものですね〜!
はい〜〜!!
「女王イザベル、栄光と悲劇」という本の一説に惹かれて
早速書き始めました!!
絶対フアーナとイザベル(イザベッルラ)皇太后は出そう!!
と心に誓った話だったりします〜!!
>暗殺者の正体は・・・・わくわく♪
>さっそくPもスペインの歴史の本読んで勉強しなくっちゃ(笑)
はい〜〜!!
このイザベル女王とフェルナンド王の結婚はスペインの歴史の中で
一番大好きな話だったりします〜!

>10歳の少女に惚れたか、ガウリイ!(爆笑!)
>行き遅れ同士ちょうどいいじゃない。スペインに帰るときにはしっかり嫁さんも
>連れていくのよ〜♪
ですねえ・・・(汗)
しっかし・・自分も笑えない単語です〜〜(汗)
今後はガウリイに任せますわ!!リナちゃんは頼んだぞ!!
>頭脳派リナと肉体派ガウがこの後どんな活躍を見せるのか、二人のその後(笑)
>共々期待しつつ続きをお待ちしています!!
はい〜〜!!
時間が出切次第続き、書きますね!!

>余談ですけど、明日発売の「週刊世界遺産」はナポリの歴史地区特集です〜♪
>「気まま」シリーズの舞台♪絶対げっとするぞ〜!!
>それではまた!
おお!!今日本屋にいくので・・チェックしてみますねえ〜〜〜!!
ネタになったら幸せでっす!!
では〜〜♪

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14314ラ・トリステ(後編)CANARU 3/16-00:17
記事番号14264へのコメント

「如何されたのですか・・・?国王???」
イザベッラ王女とマヌエル新国王との再婚の式典の最中。
侍従の耳打ちに顔を一瞬強張らせ、しかし直ちに取り繕った笑顔をつくる
フェルナンド国王に一人の少年が声をかけた。
「・・・フェリーペ!!」
慌てたように少年を取り押さえるリナ・・・。
良く観れば・・赤っぽい髪に大きな瞳・・・。
イベリア半島の住民にしては色白の肌に華奢な雰囲気がリナにとてもよく似ている
10歳くらいの男の子・・である。
そういえば。
性別の違いこそあれども9年前のリナの生き写し。
そんな下らない考えに一瞬頭を支配されたガウリイだが、思い直して国王の
方を再度振り返るに至る。
「・・ああ・・・少し野暮用が出来まして・・・。この宴を中座するご無礼、なにとぞ
お許しを・・」
かすかに微笑を残しつつ席を立つ国王にイザベル女王も続こうとするが・・。
「・・・お前はここに残れ・・フアンの病状は逐一報告させる。お前はお前の
義務を果たしてくれ・・・」
小声で女王の耳元に呟く言葉が、僅かながらもガウリイの耳にも届く。
「・・・分かりました・・一刻も早いフアンの回復を願います・・・」
その女王の一言がリナにも聞こえたのだろう。
少年の口を押さえつつ、リナはガウリイに不思議そうな視線を送ってくる。
「・・・・フアン王子は最近ブルゴーニュの姫君と結婚したんだが・・・。
もともと病弱なんだ・・・・今回も・・」
「・・・具合が悪くかっちゃたの?皇太子様は!!?」
「こら!!フェリーペ!!」
小さな少年、フェリーペはリナの手を口から外し、尚もガウリイに質問する。
「ああ・・・まあ・・な・・・」
そんな子供もに苦笑しながら答えるガウリイ。
「・・・で・・・・病状は・・・?」
はあ・・・っとため息をつきながらリナもガウリイに質問する。
「あまり・・・芳しくは無い、で、リナ。その少年は・・・?」
先程から気になったことを今度はガウリイがリナに聞き返す。
「・・・アタシの従弟、フェリーペよ・・・・」
はあ・・・とため息を漏らすリナの膝の上、彼女に良く似た少年は無邪気な・・・悪意の無い・・・だからこそなお更性質の悪い笑みを浮かべる。
なるほど・・・・・・・・・・。
リナの婚期が遅れたというのは・・・この悪がきが大いに関与しているのかもしれない。
『敵に回さないほうが得策』・・・。
それが、ガウリイの下した判断であった。
そんな思いをガウリイが密かに抱いたその時である・・・。
「リナ・・・・私は・・てとも嫌な予感がします・・・」
不意に今まで沈黙していたイザベッラ王女が口を開く。
「・・・イザベッラ様???」
「・・・・前も・・アルフォンソの死も・・・このような宴の最中でした・・・
私は・・・・・」
ふっと遠い目をするイザベッラ王女・・・・・・。
今までに見たことも無い・・彼女らしくない視線をしている。
この眼差しは・・・・???
ガウリイが思いを巡らせるうちに・・・である。
「・・・・スペイン皇太子フアン殿、重病にて死去」の報告が入ったのは・・・。


「あまりにも悲惨すぎるわ・・・・」
あれから数ヶ月が経過する。
ポルトガルの王妃となったイザベッラにスペインのカステリィーヤ、アラゴンの
女王、国王から『里帰り』を願う手紙が到着したのは。
「でもよ・・・お前さあ・・・イザベッラ様もご両親のもとに帰ったほうが少し
落ち着くんじゃないのか?」
あのフアン皇太子死去の一件以来、ガウリイは自分から志願してここ、ポルトガル
に駐屯している。
「そんな甘いモンじゃないわ・・。王位継承が絡むだけに・・。事態は余計に複雑化しているわ・・・」
チっと舌を鳴らしながらリナは遠くを眺める。
「ね〜ちゃん・・・コレ、何処に置く?」
リナにそっくりなこの少年・・フェリーペも『ジョアン国王暗殺』・・・。
もしかすればと言う事ながらも『アフォンソ王子暗殺』の調査の手伝いをしているらしい。当時の資料、調書、状況証拠を書き留めた書類を頻繁に彼女の机に運んでいる。
「窓辺においといて・・・」
既に綺麗な石造りの出窓は紙の束で埋め尽くされている・・・。
「甘くないって・・ど〜ゆ〜事だ・・・?」
リナの言いたい事が今一つ分からずガウリイは首をかしげる。
「ええっと・・・アフォンソ王子暗殺の最大の疑わしい人物は・・・・
言いにくいけどやっぱり現国王マヌエル様・・・・・・・・。けど、単なる事故と
言う線が消えたわけじゃなしに・・・でもって・・確実に『毒殺』なのは
先王ジョアン様・・・容疑者としては不仲だった先のお妃、エレオノーラ様に・・・その弟ぎみの・・・やっぱり今の国王マヌエル様・・・ねえ・・・・」
「なあ・・・リナ・・・・・」
尚もイザベッラ王妃の里帰りについての説明をしてくれないリナのマントを
ツンツンと引っ張りつつ、しつこく尋ねるガウリイ。
「あああ〜〜〜!!もう!!煩い!!良いこと!!イザベル女王とフェルナンド国王様には一人息子のフアン様しか王子様は居ないの!!そうなると・・王位継承権は誰のもの!!?」
「・・・・血縁の男子・・・ってのが普通だろ?」
「ええ・・『普通』はね・・。けれどもね、アラゴンはさておきカステリィーヤでは
『女』も王位継承権を持っているのよ。実際イザベルさまがカステリィーヤの女王様で・・・フェルナンド様は『アラゴン』の王様であれども『カステリィーヤ』では何の権限もお持ちにならないでしょ?」
「・・・・言われてみれば・・・」
・・・言われてみなくてもそ〜なのだが・・・・・まあ、良い・・・・。
「問題はそのアラゴンとカステリィーヤの関係よ!!王子様が亡くなった今、年齢の順番から考えて・・・当然イザベッラ様が女王様となられて当然の状況なんだけど・・・。
カステリィーヤでは女子の王位継承権が確実だけど・・・アラゴンではソレは認められない事なのよ!!」
「・・・・それって・・・つまり・・・・」
「イザベッラ様はカステリィーヤ女王になれてもアラゴンの女王にはなれない!!
つまりは・・言いにくいけど『スペイン』はイザベル女王様とフェルナンド王様のご結婚によって統一されたけど・・『分裂』する可能性が生じると言う事なのよ!!実際にフェルナンド王様の血縁に当たるエンリケ公が虎視眈々とアラゴンの王位継承権を狙っているとの事じゃない!!」
半ば苛立ったような声でリナ。
「・・・それって・・・ヤバくないか・・・・?」
「・・・ヤバいわよ!!下手すれば内乱よ!!ソレを防ぐために・・・そうね・・。
アラゴン議会にイザベッラ様の王位継承権を認めさせるための帰国よ・・・。
もっとも・・・・」
これだけ言ってリナは口ごもる・・・。
「イザベッラ様のおなかには赤ちゃんが居るんだって!!」
従姉が口を噤んだのをいいことにいけしゃあしゃあと声を出すフェリーペ。
「へ?そ〜なのか・・・・?」
さしものガウリイもこの一言には面食らった様子である。
「・・・まあ、ね・・・。でもって・・そのおなかのお子様が王子様なら・・・。
その王子様をアラゴン王国の『王位継承者』に仕立て上げる事も可能・・そして・・・その王子様は将来的にも『ポルトガル王』となられるお方・・・。つまり・・・」
奇しくも『イベリア半島』が『一人の国王』によって統一される・・と言う事である。
「内部でも外部でも・・己の権力の為にこの事態を阻止しようという奴が居るはず。
だから・・あんまり良いもんじゃないって言ったのよ、アタシは・・・。下手すれば
ますますイザベッラ様を不幸にするだけだわ・・・」
またもや視線を資料に戻しながらガウリイのほうを見向きもせずリナ。
「・・・ああ・・・・そうかも・・・しれないな・・・」
良くは分からないが・・・。
何にしてもこれ以上の不幸を招かないために。
9年前の事件を解決させねばならない・・と言う事だけは確かだった。


「容疑者リスト的に一番アヤシイのは・・・エレオノーラ元王妃様だよ」
分かっているのかいないのか。
偉そうに歩いているガウリイに声をかけてきたのはリナの従弟、フェリーペだった。
「ああ・・・そ〜だな・・坊や。リナもそんな事言ってたしな・・・」
苦笑しながら頭をクシャクシャと撫ぜてやる。
「馬鹿にしないでくれないか?スペインのに〜ちゃん。アンタが居ない間も、リナ姉ちゃんの世話したの、俺なんだけどな・・・」
不満そうにガウリイを見上げてくる少年。
「・・・・そりゃ〜ま・・・そうなんだが・・・」
流石にこう来られたらガウリイとて言い返す言葉は見つからない。
確かに夫とは不仲であり・・弟は国王になった挙句、ずっと恋し、慕ったイザベッラを
妃とした。
疑う要素は大いにある・・・のだが・・・・。
どうせリナの言っていることの受け売りだろう。
その時点ではガウリイとしてもこんな子供に言われればそう思わずおえないのだ。
「信じてないだろ・・・?」
しかし、さすがリナの従弟と言ったところか。
半信半疑、どころか半ば「受け売りか?」とさえ思っているガウリイの考えを
完全に見抜いてしまっているらしい。
「・・・・御見それ入りました・・・・」
その場は大人しく誤っておく事にするのだが・・・少年はグイグイとガウリイの
手を引き、ある場所に連行するに至る。
「・・・コレ・・・・・・」
クイっと高いポプラの木の幹に突き刺さったような傷を残す一ヶ所の点を指差す。
「・・・・矢傷か・・・・?」
流石はヒダルゴ。武器の伊呂波は一通りは知っているつもりである。
「そ。9年前の事件をかぎまわり・・リナね〜ちゃんを狙って・・ね・・・」
そう軽く言うもののフェリーペの声は、あくまで暗かった・・・・。


「元王妃、エレオノーラ様の派閥は確かにあるわね・・・・」
庭の一角に陣取り、太陽の光を浴びながらもリナは尚も本を読んでいる。
「・・・何の本だ・・・?」
「毒薬の本・・・。恐らくジョアン前国王さまは・・皮膚に異常が無かった事から考えて・・食事による毒の投与が考えられるけど・・う〜ん・・わかんないわ・・」
ここからは良くエレオノーラ元王妃、そしてその侍女たちが中庭を散歩する様子が
良く見える。
「・・・・なあ・・リナ・・・・・・・」
以前リナは命を狙われた・・と言っていた。
その事を聞きべきか、聞かざるおくべきか・・・?
ガウリイが考えを巡らすその時、姉であるエレオノーラに国王、マヌエルが近づいて
行く姿が良く見えた。
「・・・・姉弟で悪巧みしてるのかなあ・・・?」
何時の間にかひょこりと現れたフェリーペが生意気な口を挟む。
「滅多な事を言うものじゃ・・・・・・」
リナが言葉を言うより早く・・である・・・・。
シャ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
一筋の『何か』が通り過ぎた気配がここまで感じ取れる!!
「・・・伏せろ!!リナ!!」
リナとフェリーペが状況を理解し得ないうちに、ガウリイは二人をその場に屈ませ、
自分は剣を抜き放つ!!
「ガウリイ!!」
リナが声を発した時には既に彼の姿は国王とその姉の間近にまで迫り・・・・。
ガイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンン!!!
何処からとも無く、『二人』・・国王とエレオノーラに向かって放たれた矢を剣だけで
払いのける!!
「な・・・・???」
あまりにも一瞬の事ながら国王もその姉も、自分たちが『何者』かによって狙われて
いたことをようやく理解する!!
「・・・・ガウリイ殿・・・・・」
エレオノーラ、そしてマヌエル共々・・自作自演とは思えない。
成る程、確かに放たれた矢は・・到底この二人に直撃する軌道ではなかった。
意図的に外したか・・さもなければ・・・・。
「・・・同じです・・ジョアンの時と・・・何者かが・・・王家の血の抹殺を図っているとしか・・・・」
恐怖に満ちた声でエレオノーラ。
「・・・・・ガウリイ!!」
既に安全と見て取ったのだろう。フェリーペを連れたリナも此方にやって来る。
「リナ・・・・・」
言うべきか・・言わないでおくべきか・・・。
あの放たれた弓矢は確実に『素人』・・・まったくもって『武芸』の経験の
無いものが放った矢である。
しかもソレが災いしてだろうか・・・かなりの『至近距離』からの・・・。
恐らく国王とエレオノーラが『自作自演』を目論むのなら・・・。
いかにも自分たちはジョアン王・・ないしはアフォンソ皇太子の殺害に関与しつつ・・そして自分たちも狙われているように見せかけるのなら・・・。
少なくとも素人を使ってまでこんな危険な賭けに出る事はないだろう。
「・・・王と・・・エレオノーラ様も狙われている事は・・確かだ・・」
意味深なガウリイの口調にさしものリナも頷くしかなかった。
「そう・・・ね・・・・・」
もともと国王とその姉を疑うつもりはリナとしては毛頭もなかった事だし・・・。
事件が多少ながら白紙に戻った。それだけのことだろう・・・。


「リナ・・ガウリイ、少しお願いがあるの・・・」
先程の事件の事をポルトガルの大臣に適当に説明している二人の所にイザベッラが
現れた。
「はい?なんでしょう?」
先程までの深刻ぶった顔がたちまちのうちリナの表情から消え、柔和な笑みが生まれる。
よっぽど・・・このイザベッラのことを慕っているらしい。
「少し・・護衛をお願いしても・・よろしいでしょうか・・?」
かすかな微笑と共に二人を導くイザベッラ。
「一体全体何処へ・・・・・???」
そんなリナの疑問にイザベッラは答えなかった。


「どうしても、スペインに帰る前にここに寄って行きたかったのです・・」
そっと木と木の根の間に花を供えるイザベッラ。
「ここは・・・・・・」
辺りを見回しながら呟くガウリイの足を思いっきりリナが踏みつける!
「・・馬鹿ね・・・アフォンソ王子様が亡くなった場所よ・・・」
ぼそりっとイザベッラには聞こえないようにリナはガウリイに言う。
「・・・悪い・・・無神経だった・・・かも・・しれん・・・」
弟フアン王子、アフォンソ皇太子・・そしてジョアン王。
このイザベッラは・・『ラ・トリスト』・・『悲しみのイザベッラ』と呼ばれるに至っている・・・。
「ここにね・・義母上・・エレオノーラ様が・・苗木をお植えになられたの・・。
今は・・枯れて消え去ってしまったよう・・ですね・・・」
悲しみを押し殺したような震えた声でイザベッラ。
「・・・明日は早いです。イザベッラ様・・・・・・・」
「そうね。戻りましょう・・心配をかけてごめんなさいね・・・帰りましょう・・二人とも・・・」
淡く、はかない笑顔を残し、馬車に乗り込むイザベッラ・・・。
「・・・なア・・・リナ・・・・・・・」
「何よ・・・・・・・・・????」
「・・・何でもない・・・・」「そう・・・・・・」
それが・・今の二人が唯一できる会話だった。


「助かったわ、フェリーペ・・・」
スペインのアラゴン、サラゴーサに滞在しながらもリナは9年前の事件の資料に目を
通している。
「リナさ〜〜ん・・・無理は禁物ですよ・・・・」
早速リナの助手に任命され、張り切りながらもアメリアは心配そうに彼女に
話し掛ける。
「で・・・この資料・何時の間に見繕ったんだ・・・?」
イザベッラ王妃の世話で忙しく、リナがこんなものをスペインのアラゴンまで持ってくる
暇はないとガウリイも踏んでいたのだが・・・・。
この紙の山はリスボンのリナの部屋とまったくもって変わらない・・・。
「ああ・・。フェリーペが見繕ってくれたのよ。もう遊びにいっても良いわよ?」
従姉のその言葉に不服そうな顔をしながらも部屋から出て行くフェリーペ。
「まったく・・・・生真面目なんだか・・・・・」
「ガウリイさん!!正義の決着をつけるためにも!!このことは絶対に必要不可欠な高位です!!」
はいはいはいはい・・・・・・・・・。
正義通ればそれで良し・・・のアメリアにガウリイもゼルも苦笑しながら
一応頷いてみせる。
「へえ・・・ジョアン王に・・スペインからイザベッラ様がお送りになった手紙・・ねえ・・・」
二枚重ねになった紙に見られる文章の羅列・・・。
しかし、敬愛する女性の国王に書いた手紙を無闇に見てしまうのはあまり好い気がしない。そんなことを思いながらリナは膨大の資料の山の一つにそっと手紙を戻す・・・。
トントン・・・トントントン・・・・・・・・・・・・。
リナが資料の山に手紙を戻し終わったと同時の頃。
「・・・・イザベッラ様!!?」
大慌てで目を通していた資料から顔をあげたアメリアが声をあげる。
「ああ・・いいのよ・・そのままで・・。でも、ガウリイ殿、少し・・リナをお借りしてよろしいかしら・・・?」
そっと・・儚げな笑いをイザベッラは部屋の中の一同に向けるのだった。


「・・・不安・・・なのです・・・」
既にイザベッラの出産は間近・・と思われた。
「何を弱気な事をおっしゃるのですか?大方の王女様は遠い異国で・・一人でご出産なさると聞きます・・。アラゴンの王位継承についての議論も既に大詰めです。それに、貴方様は何よりも。お母上のイザベルさまの元でご出産できるのですよ!!お気を強く!!」勇気付けるように言うリナに対してイザベッラは・・・・。
「・・・・ポルトガル・・・スペインの王位継承者・・・・けれども・・わたくしは・・・・」
何処か・・この世界を見ていないような光を青とも緑ともとれる彼女の瞳は映し出す。
「不安・・・なのです・・・・・・」
見れば・・・彼女の手は・・少し傷ついている・・・????
「イザ・・・・・・」
リナが女主人に声をかけようとした瞬間・・・・・。
「リナ!!大変だ!!!」
不意にガウリイの声が耳に届く。
「・・・長く・・貴方をお借りしすぎた様ですね・・緊急の事の様子です・・。
直ぐに行ってあげなさい・・」
ハっと我に帰ったようにイザベッラがリナに言う。
「わかりました!!」
何かが起こった・・そう直感しつつ、リナはガウリイが自分を探しているであろう方向に駆け出して行った。


「・・・酷い熱でしたけど・・もう・・大丈夫です・・・・」
はあはあと息を切らし、寝台に横たわるフェリーペの額を冷やしながらアメリア。
「・・・解毒が早かったことと・・毒の効果が弱まっていた事が幸いだった」
状況をゼルが端的に説明する。
「ったく・・・・この子は・・やんちゃすぎるもの良いけど・・・。毒見を済ませていない料理をつまみ食いしたのね!!」
フェリーペが病人でなかったら殴りかかりそうな雰囲気でリナは従弟を睨む。
「・・・つ・・つまみ食いなんか・・してないよ!!」
大慌てでフェリーペはガウリイに助けを求めるような視線を投げかけた。
「・・・オイオイ・・リナ・・相手は病人だぜ・・?」
「・・・分かってるわよ・・・ったく・・。で、フェリーペ・・言い訳は?」
ふっとリナは自分の指先を眺める・・・・・・・。
・・・・・・・?変色している・・・・?紫色に・・・・・・?????
「リナね〜ちゃんに頼まれたとおり・・・俺は・・箱に詰めた資料煮解きして・・・。で、好奇心で・・その・・・イザベッラ様が先王様に宛てた手紙を発見し・・・・。その・・・」
「・・・読んだのね・・・・・」
感情の篭らないリナの声に怯えつつ・・・。
「ご免・・・で・・・手紙と手紙の紙がくっ付いてたから・・。
指を舐めて・・・・紙を捲ろうとして・・古い紙で腹壊しちゃったのかな・・俺・・変な味も微かにした・・・・」
思い出すように呟くフェリーペ・・・・。
「・・・イタリアのフォルリの伯爵夫人の話を・・聞いた事があるわ・・・」
不意にリナの脳裏に蘇った事件・・・。
手紙の紙に、毒薬を塗りつけ・・・そして・・・敵を暗殺する手段。
「けど・・・リナさん!!」
アメリアも信じたくない・・そのような口調でリナに訴えかける。
「・・・・リナ・・あの弓矢は・・素人の放ったモノだ・・。断言できる・・」
沈痛な面持ちでガウリイ。
自分の半ば壊死したかのように紫になってしまった指先・・・。
あの手紙によくよく触れたのは・・・。
『舐める』という行為によって指先の毒は拭い去られ、跡形も無く証拠は消え・・・。
そして毒は全身にまわるだろう・・・・。
そして・・イザベッラの手に見受けられた・・見かけない線上の傷跡・・・。
「イザベッラ様に・・聞いてくるわ!!」
このまま・・・誰よりも慕っている女性に・・・・・・・!!!!


「・・・アフォンソ・・貴方を殺したのは・・小さな一本の苗木だった・・・。
そうよ・・あれさえなければ・・貴方の馬が・・・躓くようなことは無かったんですもの・・貴方が馬から落馬する事も・・無かったのよ?????でも・・・・・。あの手紙は・・苗木を植えた人には届かなかったみたい・・・・ふふふ・・ふふふ・・」
そう・・・・・・・。
あの毒を塗った手紙は・・・ジョアン王に届けられたものではなく・・。
『苗木』を植えた張本人・・『エレオノーラ』王妃に本来は送られるべモノであったのだ。「あんな・・あんな苗木・・私が・・この手で・・・・」
尚も一人で呟き続けるイザベッラ。
「・・・この目は・・・・・」
ただ青ざめるリナの隣、そっと支えるように立ちながら・・ガウリイは思い出す。
・・・・あのスペインの城・・・・。
狂ったように・・勝ち誇ったように笑い声をあげる狂気の皇太后・・・。
神経質で黒い瞳・・華奢で・・そして怯えきった瞳のフアーナ王女・・・。
そして・・・目の前のこのイザベッラ王妃も・・・また・・・・・。
が。
やがて王妃は正気を取り戻し・・・・・。
「・・・リナ・・貴方は・・幸せになりなさい・・・。私のこの手は・・既に・・・」
そして・・・。
「分かりました・・イザベッラ様・・・」
この時・・確認こそ出来なかったが・・リナは泣いていたのかもしれなかった。
そして。
何かを感じ取っていた事もまた事実なのかもしれなかった・・・。
その後・・イザベッラ王妃は王子を産み落とし・・・世を去った・・・・。


「悲劇だな・・・・・」
宮廷を去り・・共にスペインで暮らす事になった最愛のリナ・・・。
一日も早く彼女の微笑を取り戻させたい。
「そうね・・・・・」
イザベッラ・ラ・トリステ・・・・・・・・悲しみのイザベッラ・・・。
『幸せになって・・・』それが・・・。
優しい一人の女性の最後の望みだった。
「・・・笑えるようになったら・・きっと・・・・」
まだまだ本当の笑顔ではないが・・ガウリイの隣、リナはぎこちなく微笑みのだった・・。

(おしまい)


スミマセン・・・・。
書いててあたしも滅茶苦茶悲しかったです(涙)
もともと決めてたラストとは言え・・いざ書くとすっごく辛かったです・・・。
では〜〜〜・・。
次ぎはもっと明るい話で・・・(汗)

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14317こんばんは。みてい 3/16-00:49
記事番号14314へのコメント

こんばんは。始めましての気がひしひししますのではじめまして。
2月頃から小説1をうろうろしているみていと申します。

CANARUさんの話を読ませていただくと、リナとガウリイには中世も似合うんだなぁとしみじみ思います。
ちょこっとずつ登場人物の名前を覚えていったりしてます。

次回作、楽しみにしてます。
すごく短いレスですが、まずはこれにて。また寄らせてください。
みていでございました。

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14328有難うございました〜♪CANARU 3/16-10:46
記事番号14317へのコメント

>こんばんは。始めましての気がひしひししますのではじめまして。
>2月頃から小説1をうろうろしているみていと申します。
どうもお声を掛けてくださった有難うございます〜♪
此方にはゲリラ的に小説を投稿させていただいているCANARUです!

>CANARUさんの話を読ませていただくと、リナとガウリイには中世も似合うんだなぁとしみじみ思います。
>ちょこっとずつ登場人物の名前を覚えていったりしてます。
アリガトウです〜!!
かなり趣味の入った話に成ってしまいましたが(汗)
楽しんでいただければあたしとしても何よりです〜♪

>次回作、楽しみにしてます。
>すごく短いレスですが、まずはこれにて。また寄らせてください。
此方こそ今後ともなにとぞよろしくです!!
>みていでございました。
ではでは・・・本当に有難うございました!!

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14349ガウリイに強敵現る!?(笑)P.I E-mail 3/16-23:50
記事番号14314へのコメント

CANARUさん、こんばんは〜♪
うみゅ、タイトル通りとはいえ、後半は悲劇だったのですね〜。
9年間がんばってきたリナちんの努力を思うと、このラストはあまりにも哀しい
です・・・。
せめてガウりんにめいっぱい優しくしてもらいたいものですわ。
従弟のフェリーペくん、リナちんがスペインに移っちゃったら彼もきっと
くっついてスペインに居残っちゃったでしょーね。
「リナねーちゃんの面倒はオレがみる!」
とか言って(笑)頑張れガウリイ!ヤツは強敵だ(^0^)
次作ではゼヒ明るく元気なガウリナを読ませてくださいね♪

ところで、「週刊世界遺産」最新号げっといたしました♪
リナちんが喜びそーな王宮の図書館とか、ガウりんが泣き叫びそーなカタコンペの
写真等々、すっかり「気まま」変換して楽しんでますわ〜♪カタートの本部は
どの辺だろう?(←地図を見ている)

それではまた〜!

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14355やはり趣味で(笑)CANARU 3/17-09:59
記事番号14349へのコメント

>CANARUさん、こんばんは〜♪
>うみゅ、タイトル通りとはいえ、後半は悲劇だったのですね〜。
う〜ん・・・。
「意外な人物」を犯人にしよう・と決めてはいたんですが・・・。
やっぱりイザとなるとかなり書いていて辛かったです(涙)
実際イザベル(イザベッラ)王女様事態悲劇的な人だったので(涙)
>9年間がんばってきたリナちんの努力を思うと、このラストはあまりにも哀しい
>です・・・。
>せめてガウりんにめいっぱい優しくしてもらいたいものですわ。
ですねえ〜!!
あとはすべて!!ガウリイ君にかかっているですね〜♪
>従弟のフェリーペくん、リナちんがスペインに移っちゃったら彼もきっと
>くっついてスペインに居残っちゃったでしょーね。
>「リナねーちゃんの面倒はオレがみる!」
まったくです・・・(汗)
そ〜やって何度もリナちゃんの婚約話を破棄に追い込んだのは
コイツだったりします・・・。
ううう!!
凄まじいお子様ですわ〜〜〜!!
>とか言って(笑)頑張れガウリイ!ヤツは強敵だ(^0^)
さあ!!
ガウリイ!!どう勝負にでるのでしょうう!!
>次作ではゼヒ明るく元気なガウリナを読ませてくださいね♪
はい!!
多分次回はギャグになるかな〜〜〜?と思います!
>ところで、「週刊世界遺産」最新号げっといたしました♪
>リナちんが喜びそーな王宮の図書館とか、ガウりんが泣き叫びそーなカタコンペの
>写真等々、すっかり「気まま」変換して楽しんでますわ〜♪カタートの本部は
>どの辺だろう?(←地図を見ている)
ははは〜〜〜!!
ゼロス君の趣味でかなりの外れにあります!!
曰く!!
「市街地は空気が汚い!!歴史地区は観光客が多い!!
海の近くは津波が起こったら死ぬ!!山の近くはポンペイのよ〜な目に
あうからヤダ!!」
だそうですうう!!
今度アタシも写真みて決めようかな・・・と思います〜♪

>それではまた〜!
でっは!!