◆−「少しずつ勘違い」  ゼロス・獣王・フィリア中心−toto(2/4-16:48)No.13453
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13453「少しずつ勘違い」  ゼロス・獣王・フィリア中心toto 2/4-16:48


 大変拙文です。イライラさせる様でしたら申し訳ありません。
 スレイヤーズTRY設定−ゼロス・フィリア中心です。登場人物は、ゼロス・フィリア・想像上の獣王、リナ、ゼル、アメリア、ガウリィ、オリキャラで異世界の神族(敵役に困ってしまい)を付け足しました。(一部完結)


「1,神様と悪魔」

「…1000年のときを越えて、貴女だけ見つめてきた。貴女に会うためだけに…美しい貴女のためだけに…」

 フィリアはベットから起きあがる。変な声、度きざなセリフが夢の中で聞こえた気がした。しかし、この数日を思い起こし、そんなことはすぐに飛んでいく。リナ達はこの街の神器をさがす旅の途中、フィリアの家に立ち寄り、そのまま滞在している。しかし、初日、不覚にもネズミに驚いて気を失ったとき、「卵(ヴァル)」監視中のゼロスに助けられたがために、丁度お姫様抱っこをされたところを目撃されたために、みんなに誤解されたのだ。
 リナさん達まで酷いわ。私とゼロスなんて勘違いにも程がある。あの生ゴミ魔族は、私をからかってからかって、馬鹿にして、こけにしてと酷い仕打ちをしてくるというのに。他の魔族がどうかしらないけど、ゼロスだけにかぎってそんな甘い感情はずぇーたいない。中間管理職根性丸出しの事なかれ主義の魔族に、そんな甲斐性はなーい。
 台所で大所帯のための朝食の容易に取りかかる。大きな鍋に朝からミルクをそそぎスープを、ジャガイモを茹でる鍋を移動させ、今度はパンを焼こうとすると。
「重そうですね。手伝いましょうか?」
「ええ、有り難う」。
 フィリアは大所帯の誰かと思い答えるが…目の前には見たこともない男、まばゆい金髪の巻き毛、真っ青な瞳、白と金の高価な上衣。

「どなた様でしょうか?」
「火竜王の第一巫女殿。この私をお忘れですか?まあ、この姿であるの初めてですよね。私は『白銀の竜神』火炎王・将軍レキトスです。貴女をお迎えに上がりました。」
「はあ?」
 レキトスなる派手な美丈夫はいきなりフィリアの手に口づける。フィリアは悲鳴を上げた。
「…痴漢。」
「随分な言われ様ですが、話はわが宮殿でゆっくりと窺いましょう。」
フィリアはモーニングスターを突き出すが、あっさり押さえつける。
「では、参りましょうか?」
フィリアが激しく暴れると、その手に力がこもる。激痛が走る。
「やめてっ」
フィリアが声を荒げた瞬間、黒い影がわって入る。

「今度はなんですか。またネズミとか言わないで下さいよ。」
 ゼロスが、何事かと(卵に何かあったのかと思って)、精神世界面から声だけを頼りに飛んできたらしい。しかし、フィリアと目の前の派手な男を見比べ。

「これは?」
ゼロスの顔は急に変化した。
「魔族?何故、巫女のところに魔族が?」
 レキトスの顔にも緊張が走る。
 しかし、フィリアは連日に及ぶリナ達の疑いに過剰反応。わなわなして。
「初対面で、なんで下品な完繰りするんですか?」
 当然、レキトスはそういう意味で発言したのではない。
「ゼロスと私は何でもないんです、すごく反発しあってるんです。彼が家にいたとしてもそれは単なる居候なんです。同棲しているわけじゃないんです。解りましたか?解ったらとっととでてって下さーい。」
フィリアは男をドアの外に押し出す。

「もう、忙しいのに。ゼロス、そのお鍋運んでください。」
フィリアは自分が追い出しだ相手が高位神族を名乗ったことを忘れていた。しかも異世界の神族というレアな登場人物であったことも認識していなかった。(聞いたにもかかわらず)だから、彼を追い出し魔族を部屋に残しても全く気にもとめていない。ゼロスは唖然として、しかしとりあえず鍋を運ぶ。
「フィリアさん?いいんですか?」
と小さく言ってみたりする。
「リナさん達は朝から三人前食べるんです。これでもたりないくらいです。あなただって多少は食べるんでしょ?」
「そうじゃなくて…」
「朝からごちゃごちゃいわないで下さい。朝食の支度ができればそんなのどっちだってかまいません。」
フィリアはゼロスに怒鳴る。
「フィリアさん?もしもし、彼はどちら様ですか?。」
「しつこいですね。確か、『白銀の竜神』火炎王・将軍レキトスとか言ってましたけど、そんな方存じあげま…」
フィリアの目が大きく見開かれる。
「ってことは異世界の神族ですかねえ。」
「そんな…」
「いつ頃いらっしゃったんですか?」
「今です。たった今。まだ近くにいますか?」
フィリアはゼロスを見た。
「いえ、帰られたようです。」
その言葉を残してゼロスはふっと消えた。

「2,獣王様と獣神官」

 ゼロスは黒い岩に囲まれた宮殿に移動していた。が、途端に黒赤い光が飛んでくる。
「古代竜の卵の監視を四王協定(もう二王協定だけど。)の下で請け負ったそうね?何故ずっと黙っていたの?」
 ゼロスは攻撃を防御しつつ。
「はあ、一任されてきた仕事ですし、継続ということで敢えてご報告しなくてもと思いまして。」
と簡潔に答える。
「うそおっしゃい。私は遠巻きに成り行きを見守るるように言ったけど、かやの外で楽な仕事を引き受けて遊んでいろとは言ってないわ。お前の魂胆なんて見え見えなのよ。全くその無関心ぶりには辟易する。」
 ゼロスは無表情で頭を下げる。ばっちり読まれている。フィリアと卵のお守りほど楽な仕事はない。そのうち周りがしくじり出せば、いやがおうでも呼ばれるのだから最初くらい休ませて欲しい。
「それで、何?叱られにきたの?」
「いえ、異世界の神族の動きはどうなっているんでしょうか?」
「そんな、遠い国の出来事まで知るわけないでしょう。今の状況わかってるわよね。神封じの結界が破壊されかけているのよ。」
「はあ。」
 獣王は情け無い顔になって。
「頼むわよ。ゼロス。」
「はあ。」
「この500年全くしれっとしてきて、降魔大戦の時はあんなに素直で可愛かったのに…」
 獣王は部下の頬に細い白い指を突き立てる。
そしてあろう事かその唇を重ねた。獣王は両腕をゼロスの首に回しゆっくりと部下を堪能する。ゼロスは獣王の細い腰を軽く支えた。すぐ近くにいた女官と武官らしき下級魔族が目をそらした。しかし、ふいに獣王は手を離す。

「…随分甘い唇しているわね。何を食べたの?それに百合の花みたいな香りが髪に、身体に染みついている。」

(フィリアさんの残り香ですかねえ…あの人って百合の香りするんですよね。ここんとこ付きっきりで負のエネルギーを頂戴していましたし…これが結構美味しいんで病みつきなんですが…それとも、からかいついでにキスしたせいですかねえ、さすがに神族とキスするのは初めてですし。しかし、一回のキスでうつるものですか?ゼロスの頭にどうでもいい思考が行き交う。)

「…いえ。いろいろバカンスを。」
とりあえず答える。獣王は目を細めた。
「一体、どこで何をしているのやら?」
獣王は息をついた。
「今日は夜伽を命じようかと思ったけどやめた。」
「はあ?」
 何百年ぶりかに誘われてゼロスは愕然とした。昔は、生まれてすぐは確かに獣王様に全て教えられた。が、いい加減こんなに永い時を伴にすれば馴れ合いなどお互い馬鹿馬鹿しくてやっていられない。まあキス位しますが…ゼロスは、産みの母であり、絶対服従の上司であり、初めてのお相手だったりする獣王を見つめる。
「ああ、こんなんだったら部下二人にすれば良かった。」
「きっと退屈しないですみますよ。」
ゼロスはにこやかに返す。
「最近気づいた。部下の個体数が少ないほど、魔力は大きくなるだけならまだしも、おつむも良くなるのよ。結果可愛くなくなる。勝手する。」
「獣王様、私は忠誠を誓ってますう。」
とゼロスは焦りながら言いつくろう。
「あんたのは、忠誠じゃなくて、奉公。ものすごーく義務的。誠意がない。」
魔族に誠意といわれましても、ゼロスは息をつく。
「まあ、いいわ、後で部屋に来なさい。」
「ほっ本気ですか?」
と思わずゼロスはたじろぐ。
「本気よ。偶にはいいじゃない?」
うそでしょう?ゼロスは彼女の心理が読めずに狼狽していた。永いつき合い、獣王の出方は大体予想できたが、今日は全く解らない。ベットで殺されるやも知れない。こうして彼は上司からのセクハラにも苦しむのであった。

「3,異世界の神族」

「本当に、『白銀の竜神』火炎王・将軍レキトスって言ったのか?」
とゼル。
「はい。」フィリアはため息をつく。
「でも、自己申告でしょう?本当は単なる痴漢かもよ。」
とリナ。
「ゼロスが神族だって言っていました。」
「ゼロスもいたのか?」
とゼル。
「はい、すぐ消えましたけど。」
「ゼロスも一体何をしているのやら。」
リナは思案する。
「多分、卵の監視です。」
「だったらさっさと奪っていっていくはずじゃないか?」
とゼル。
「多分、ヴァルを育てるのがいやなんです。」」
とフィリア。日頃の言動を総合した結論である。
「なるほど、いくら獣王様の命なら何でもするゼロスでも、おしめは変えたくないのね。」
とリナ。
「赤ん坊しょって討伐にでかけるのもなあ。」
とゼル。
「ミルクの時間とかになると急に消えたりするんですか?」
とアメリア。
「しかし、レキトスとか言う奴、何が目的なのかしら。」

「目的は一つ、1000年ごしの願いを叶えるため。まあ、異世界の神族と友好関係を結ぶためという立て前で、まずは身近な愛をというところですが。」
 ふっと台所に人影が現れる。一同びくつく。先刻の派手な金髪の男はオーバーアクションとともにフィリアに近づく。
「ああ、火竜王の第一巫女殿。相変わらず美しい。」
レキトスはフィリアの手をうやうやしく握る。
「…何をいってるんですか?」
 フィリアはその手を引っ込めようとするが、案外しっかり握られている。
「さっきは通りすがりの魔族に驚いたりしてしまったけど、さて、行きましょうか、我が世界へ。」
「ちょっと待って下さい。」
フィリアは言うが、次の瞬間視界がぶれる。レキトスの腕に引き込まれ、そのまま空間の歪みに吸い込まれた。
リナ達が対処する間はなかった。

「大変ですう。どうしましょう。」
アメリアがうろたえたまま、2,3歩後ずさる。ゼルが軽く支えた。そのくらい彼が消える瞬間に働いた力は強大だった。早く言えばゼロスの全開時に近い力が発動された。
「何なの?」
とリナも呆然としていた。
「親交を深めるって言ってたな?」
とゼル。
「なわけないでしょーが。何か裏がある。」
リナは言ったが言葉は続かない。どうにも異世界の神族なんて知識がないのだ。ダークスターを召還した際現れたのといっしょかあ?

「何かありましたか?」
そこへゼロスがふっと現れた。文字通りど真ん中に突如。みんな声をあげる。
「化け物のような目でみられましても。」
とゼロスは言ったが、彼自身こういう唐突な現れ方は緊急時にしかしない。よくよく人間界適応型の魔族なのだ。
「激しい空間の歪みが精神世界面から見えたので来てみたのですが。」
「来るのが遅い。」
「それでも、正義の味方ですか?」
とリナ、アメリア。無論八つ当たり、責任転嫁である。
「す…すみません。」
理不尽な目にあったらとりあえず誤る、獣神官ゼロスの座右の銘だったりする。
「神族が現れたんだ。」
とゼル。
「で、去っていったんですねえ、空間を破壊せんほどにねじ曲げて。」
「ついでにフィリアを連れてね。」
とリナ。
「フィリアさんを?ああ、彼女を連れていたためにあんな大きな歪みをつくったのですね。竜は物体量は大きいですから。」
 ゼロスは一同の視線に気が付き、リナ達を訝しげに見返した。
「なんか知らないの?あんたが頼りなんだけど。」
「いえ全然。この件に関しては管轄外です。」
「相変わらず獣王さんの命でしか動かない訳か。模倣的な宮仕えだな。」
「期待もしてないけどお。」
リナは息をつく。
「っていうか、魔族全体がこの自体を把握していないんですよ。」
「うん?」 
リナはゼロスに視線を送る。ゼロスは珍しく不振顔でフィリア達が消えた位置を探るように空間を見つめていた。
「解っていることと言えば、奴は神族でありながら空間移動したことね。」
とリナ。
「そういうことですね。」
「どういうことだ?」
とガウリィ。話についてきていたらしい。
「つまり、異世界の神族は、ゼロス達と同じように精神世界面に属しているって事よ。」
「名前は違うけど、存在的には同じってことですか?」
とアメリアは目を丸くする。
「まあ、正のエネルギーを糧にしているのだろうけどな。」
とゼル。
「その上、存在に対して基本的な渇望を抱いているはずよ。」
「どうだ?そういう存在について。」
ゼルはゼロスを見る。ゼロスは即答せずに部屋を見回していた。
「…見当もつきませんが、何故フィリアさんを連れていったんでしょうか?」
「友好のため、愛のためって言っていましたけどお。」
とアメリア。
「友好ですかあ…」
「フィリアさん大丈夫ですか?」
アメリアはゼロスのマントをつかむ。
「…そう言われましても。」
「もし、ゼロスさんがフィリアさんを自分の世界に連れていったらどうしますか?」
とアメリア。
「はあ?」
ゼロスは、驚いてアメリアを見た。
「だって、ゼロスさんと同じ様な存在なんですよね。同じように精神世界面にいて、フィリアさんを捕まえたら何をするのかって参考までに。」
「…そうだなあ。ゼロスが一番気持ちは分かるだろう。」
とガウリィ納得したようだ。
「そういうものですかねえ…」
ゼロスはきらきらするアメリアの瞳を見て、ガウリィのぼうっとした蒼い目を見て。
「秘密です。」
とにっこりほほえんだ。
「では、ヴァルガーヴさんの卵お預かりしますね。」
「あっ」
一同硬直。しかし、ゼロスはそのまま空中に消えた。

「4,ノスタード教典」

「本当に、あてにもならない存在だな。」
とゼル。
「魔族な上に、ゼロスだもの。当然よ。」
リナは脱力しつつ答えた。
「獣王様の言うことしか聞かないのですね。」
とアメリア。
「とにかく、これだけ手掛かりないんじゃ、異世界に関する資料を集めからはじめるしかにわね。」
リナは気持ちを切り替える様に言った。
「えっ」
アメリアとゼル。
「仕方ないじゃない。全然何が何だか事情が解らないし、フィリアをほったらかすわけにいかないでしょうが。」
「いや、お前さんからそんな地味な意見が出るとは思わなかった。」
ゼルの一言にみんな頷く。
「どういう意味?私が何でも吹っ飛ばして生きてるとでも思っているわけ?私は英知を求める天才魔道士なのよ。」
「…」
一瞬寂しい沈黙が流れる。
「気長な作業だが、他にどうにもならんな。」
とゼル。
「何かコンタクトがあるかもしれないから、ここを動くわけに行かないわね。この都市ににある古文書からあたるか。ゼル先に行って、私は魔道士協会に問い合わせてみる。あと、アメリアはセイルーンに、異世界関係の資料を送ってくれるように手紙を書いて。」
「俺は?リナ。」
字が読めるのだろうか?一同に不安がよぎる。
「…ガウリィは留守番かな。」
リナは恐ろしい質問を迂回した。

 こちら、ゼロスは再び獣王の宮殿に戻っていた。彼は地下にある書庫をあさっていた。
「恐れていたことが起こりましたね。」
左手には『竜の卵のかえし方』、『竜族の幼児教育』、『竜族母の心得』等の書物が載っていた。そして、右手には『異世界伝説』、『神族体系』、『神族降臨』等の書が。
「弱りましたねえ。」
 ゼロスは2つを見比べた。水竜の雌をさらってきて育てさせるという手もあるが、裏切りは恐いですし。フィリアさんに育てて頂いた方が何かと良いような気がするんですよね。それに…
「彼女の負のエネルギーは美味ですからね、横取りされるのも…」
ゼロスは一人呟く。急にフィリアが火炎神・将軍を追い出し自分を家に残した時のかすかな動揺が蘇ってくる。あの人も相当変わっていますね。ゼロスは左手から書物の山が消える。
「やはり勝手にお持ち帰りされるのはしゃくですね…その上、そのせいで私が卵の暖め方に頭を捻るのは理不尽でしょう。」

ふいにうしろに気配を感じた。
「ゼロス、今日は読書?」
「ええ、まあ。」
背後の獣王に、ゼロスは平静を装いながら答える。
「随分脈絡のない選択ね。」
獣王は消したはずの書を手に持ち、ゼロスの持っている方と見比べた。
「…命令よ。暇そうだから。」
「え?」
(これからフィリアさん奪還に行かなくてはならないのですが。)
「海王の出方をさぐっていらっしゃい。」
「えっ。」
(そんな面倒そうな任務ですかあ?)
「何か文句ある。」
「とんでもない。」
(あるに決まってるじゃないですか。卵をどうするのです!)
「すぐに行きなさい。」
「はっ。」
(ああ、行くしかないですね。この年で未婚の父になろうとは。しくしく。)
ゼロスは闇に消えた。
「すっかり狸になって…何を考えているのやら。」

一方、リナ達は…
「ずぇーん、ずうぇーんわかんない。」
リナはソファーに倒れ込む。
「異世界に飛ことは魔族ですら出来ないことだろう?」
とゼル。
「出来たらどんどん行ったり来たりしているのじゃないのお?」
「でも、奴は来たんだ。」
とゼル。

「リナさん。異次元移動について解りました。」
アメリアがふいにセイルーンから戻ってきた手紙から顔を上げた。
「何、何?どういうこと?私にもできそう?」
「いえ、異次元移動についての記述のあるかもしれない本が解っただけです。ノスタード教典です。」
「で、どこにあるんだ?」
「セイルーンにあったんですが、盗まれました。」
「なんてタイミングの悪さなのお。」
「そうでもないですう。400年前に盗まれましたから。」
リナはソファーから落ちる。
「ちなみに、400年間の消息は解っていません。」
「最悪だな。」
ゼルもさすがに息をつく。
「とりあえず、魔道士協会に問い合わせるけど。ノスタード教典ねえ。聞いたことない…あれ、ノスタードって変な宗教結社じゃなかったっけ?」
「はい、いかがわしい儀式で有名な。アンダーグランドな宗教です。」
とアメリア。
「確か、創始者はホワイト・エンジェルの異名をもつ伝説的な神聖魔術の使い手だ。まあ、1000年以上前の話でどこまで真実かは解らないけど。」
とゼル。
「1000年以上…ってことは降魔戦争以前ねえ。」
とリナ。
「でも、余裕で生きてただろうな、ゼロス。」
とガウリィ。どうも彼の中では「ゼロスご長寿」という回路が開通しているらしい。
「結局、あいつか。」
とゼル。
「無理よ。ゼロスは卵を持ってったわ。もう戻ってくる気がないってことよ。よく考えれば、卵を育てるのはフィリアじゃなくてもかまわないわけじゃない?カタート山脈に少し残っている雌竜でもさらってくればすむことだわ。結局、フィリアを警護していたのは奴の余裕の産物。もしくはお茶目な趣味。」

「リナさんは僕の高尚な趣味を把握しているようですね。ノスタード教典…。キララ・ノスタード−「消えた魔道士」の書ですかあ。僕はあの当時忙しかったので面識はないのですが、神聖呪文を唱える不思議な魔道士だったらしいですよ。ちなみに、降魔戦争の直後、僕はノスタードの実態調査を正式に獣王様から承りましたが、既に姿を消してました。」
 ゼロスは精神世界面からリナ達の様子を確認しながら一人告げると、仕事へ向かおうとする…

「ゼロス…」
急に耳に飛び込む音。音波?ゼロスの意識、感覚が一瞬に探り出す。
「聞こえますか?」
「フィリアさんですか?…どこから、私の意識に働きかけているのです?」
「異世界の精神世界からです。こんなこと出来ると思わなかった。貴方が精神世界から人間界に具現化する瞬間が見えたんです。…」
声はぷつりと途切れた。
「フィリアさん?」
ゼロスはしばし次元の狭間に浮いて呼びかける。
「…回線が途切れましたか。しかし、これで原理が解りました。」

「次元と次元の合間、精神世界と人間界の合間、接線を破壊して声は入ってきましたから。ようは力技ですね。」
ゼロスの身体は黒い錘に変化しながら次元の境界に体当たりする。結界が崩れるような現象で空間が歪む。

 目の前にはフィリアが目を大きく見開いて立っていた。
「…やはり、声によって出来た亀裂を辿っただけありましたね。喉を掻ききるかと心配しましたが、多少ずれて良かったです。」
ゼロスは恐ろしくアバウトなことを言う。
「これは驚いた、この精神世界は人間界とまるで同じ景色ですねえ。」
白と金を貴重とした豪華な部屋を見回した。
「ゼロス、どうして?」
「まあ、何となくです。出来そうだったんで来てみました。」
ゼロスはにっこりほほえむ。
「この世界は貴方には危険です。」
フィリアは眉間にしわを寄せた。
「負のエネルギーが徹底的に排除された精神世界面なんです。」
「おやおや、理想郷の割には、そんなに美しい世界には見えませんね。」
「ええ、そんな美しいものではないです。生きること、存在することだけを切に願う心で精神世界に全てを具現化してるんです。そして相手を滅してでも、自分が存在しようと言うエネルギーがひしめき合っていてます。大丈夫ですか?」
フィリアはゼロスを心配げにのぞき込む。
「あまり気分の良いものではないですが。大丈夫ですよ。フィリアさんが不安そうだし。で、どうなってるんです?貴女の状況は?」
ゼロスはフィリアの腕にはめられた鉄の鎖を簡単に破壊する。
(精神世界に変わりないので力の原理は同じですね…)
「ここは火炎竜将軍レキトスの城です。」
ふいにゼロスの目が鋭く動く。
「とにかく、でましょう。」
とゼロスはフィリアを引きよせ空間移動する。

「5,獣王降臨」

「やっぱり、該当資料無し。」
リナは、魔道士協会からの手紙を投げ捨てる。
「一体、ノスタード教典って何なのよお。」
リナは逆さまになってばたつく。
「こっちも手掛かり無しだ、ノスタード教は単なるいかがわしい宗教団体でしかないぞ。アメリアに外で待って貰ったほどな。」
丁度外から帰ってきたゼルが言う。
「フィリアさん、今頃どうしているのでしょうか?」
アメリアは慣れない手つきでお茶を運びながら。
その時、お茶のカップがかたかた揺れる。部屋の中央に大きな闇が生じたかと思うと、一瞬一同の視界が奪われる。

 次の瞬間部屋に女の姿が、20代中頃の色っぽい美女である。深くスリットの入った黒いドレスを、紫色の宝石をあしらった高価そうな黒い皮べルトで絞り、白い細い指にはやはり紫色の指輪が光っていた。しかし、黒紫の髪、アメジストの瞳は、一同にはすぐにだれかさんを思い起こさせる。無論、彼女のただならぬ力とともに。
「もしや…」
リナはガウリィの背中をたたく。
「まさか。」
とゼルとアメリアの声がたぶる。
「わけーな、ゼロスのおふくろさん。」
リナはガウリィの頭をスリッパで叩く。

女は敢えて答えず質問に転じる。りんとした不思議な声が響く。
「ゼロス見なかったかしら?」
「はあ?」
 リナは呆然。この人があのどえらい獣王であるなら、もしそうだとしたなら、なんで腹心の居所をたかが人間風情に尋ねるのか。嘘ものか?といいたいが、その異様なオーラはそれを許さない。

「…なんで私達にそんなこと聞くのよ。」
「まあ、そうでしょうねえ。あの子を産みだした私が察知できない位置を貴方がたが知っているわけはないわ。ただ、何か知らない?」
「何か知らないって?ゼロスの事なんて、獣王神官で、とっても便利屋で、上司に逆らえない悲しい公務員魔族であることくらいしか。…ゼロス、どうかしたの?」
 獣王は静かにリナを見る。そして、ずうずうしく椅子に腰を下ろしたりする。しかもお茶に手をつけたりする。
「突然消えたのよ。」
美脚を汲みながら一言。
「滅びたって事?」
「そう察して、海王派の魔族が縄張りを侵して勝手し始めてるんだけど。でも、もし滅びたなら私が気づかないと思う?あの子のやられた瞬間を私が感じるわ。」
「ってことは?」
「文字通り消えたのよ。気配が。」
「…まさか、リナさん。」
アメリアが。
「異世界に行ったとか?」
「異世界?」
 獣王は訝しげにリナを見る。リナは躊躇しつつ、口を開いた。
「数日前に、ここに『白銀の竜神』火炎王・将軍レキトスとか名乗る奴がやってきて、火竜王の第一巫女といっしょに消えたの。」
獣王は無表情に頷く。
「うちのゼロスはそれに関与しているわけねえ?この忙しいのに。」
 静かな声音だが、その怒りがこっちにも伝わってくる。帰ってきたらゼロスは殺されるかも知れない。ご愁傷様。
「…ねえ、ノスタード教典って知らない?」
リナは圧倒的な力に気圧されながらも…
「キララ・ノスタード、通称「消えた魔道士」の書でしょ。神聖呪文を唱える魔道士だったらしいわ。降魔戦争の終結後、実態調査を私がゼロスに命じたときには既に姿を消していて何も解らずじまい。」
 リナは息をつく。ゼロスより年増の女が言うのだ。もはや…
「ゼロスがノスタード教典は手に入れたわ。400年くらい前かな。」
「ゼロスさんが泥棒だったんですね。」
アメリアがぽんと手を打つ。
「来歴に加筆するように連絡しなくては。」
この書は400年前に獣神官ゼロスに盗まれていますってか?
「で、その本には異世界につてとか異次元移動についての記述があるんでしょ?」
「そんなに興味あるなら、見る?」
 彼女の手に、ふっと、白と金の豪華な装飾ケースに入った書が載る。リナはおそるおそる受け取る。
 そして、なんだかんだいって博学なゼルガディス、こう見えても努力家のリナ、最高の教育を受けたセイルーンのお姫様アメリアの努力でその古代文字は次の朝には解読された。

「これは…」
ゼルがわなわな震える。
「とっても長かったですう。」
「いや、まだ暗号が隠されているはずよ。」
とリナもわなわなしつつ。
「そうだな。」
とゼル。
ガウリィは出来上がった翻訳に目を通し、
「これって、ラブレターじゃねえか。」

「−愛する、ミフィア・ウル・コブトへ
君の美しい金の髪、蒼い瞳、白い指先、僕はめろめろさ。君の瞳に首っ丈、君の笑顔に悩殺されっぱなし、君の声に煩悩が…
…中略…
…後略…
というわけで、ちょっと異世界なんかに里帰りするけど、必ず向かえに来るから。浮気しないで待つんだよ。
愛を込めて、キララ・ノスタード・レキトス、ちゅう。」


「そうなのよねえ。ラブレターなのよ。」
何故かずっと居候している獣王ゼラスが。
「あのねえ。知ってたんなら、早く言ってよ!!」
リナを獣王に食ってかかる。
「だって、聞かないし。」
ゼラスはぼうっとして。
「あんたたちと違って人間の寿命は短いのよっ。時間を有効に使いたいの!!」
「怒りっぽいのねえ。」
とフィリアのかっている猫を抱き上げた。
「変な動物。」
猫のことか?リナのことか?
「でも、このミフィア・ウル・コブトって、キララ・ノスタード・レキトスって、フィリアの一族と、あいつ本人が伝説の魔道士ってことじゃないのか?」
とゼル。
「つまり、ど派手な男が、フリィアの一族の誰かにあてたラブレターが、ノスタード教典の実体なのね。」
ゼラスはテーブルに頬杖をつき一同を眺めている。
「そのアホらしいそうな事にゼロスは関わっているのね。」

「6,異世界より」

「弱りましたねえ。」
「帰れないって事ですか?」
フィリアはゼロスを見上げた。
「はあ。すぐには。」
「ゼロスはどうやって来たのです?」
「フィリアさんの声を辿って空間と次元の接するところを荒技で破壊して来ました。しかし、さすがに、もともと亀裂の入ったところじゃないと無理みたいです。フィリアさんがどうやって声を私の精神の飛ばしてきたのかがキーポイントです。」
「…解りません。」

「うーん、これは気長に行くしかないですねえ。」
二人は町はずれの木の下に腰を下ろした。
「もし、帰らなくなったらどうするんです?」
フィリアは不安げにゼロスを見る。
「そうですねえ、でもそのうち帰れるんじゃないですかあ。」
「…何でそう呑気でいられるんですか。」
フィリアの避難とも驚嘆とも捉えられる顔を見て、ゼロスは微かに笑った。
「フィリアさん、リナさん達と一緒いすぎるから時間の流れが人間タイムなんですよ。貴方も僕も別に100年経とうと200年経とうが大した問題じゃないんですから。焦らないで下さい。」
「私にはヴァルがいるんです。貴方だってはお仕事があるんでしょう?」
「確かに獣王様のお怒りは免れませんねえ。でも焦ってもどうにもなりませんし。あと、ヴァル君ならここにいますよ。」
ゼロスは胸から卵をぬっと出す。
「…」
フィリアはうつむいたまま肩を震わす。
「あ、だって、主なき後は僕が引き受ける他ないじゃないですかあ?」
が、すぐに言葉をとめる。かわりにフィリアの顔を強引に上げさせる。
「そんなに喜ばれると、気分が悪いんですけど。」
 ゼロスは言うが、フィリアはふわっとゼロスに(卵)に抱きついた。
「良かった無事だったのですね。」
「あまり幸せそうな顔しないで頂けませんかね、他人の懐で。」
「ああ、御免なさい。ゼロス。」
フィリアは卵を抱きしめながら、不機嫌そうなゼロスから離れる。 

「さて、で、貴方の解ってることと言えば、あの火炎王将軍さんは貴方を恋人と勘違いしているということですね。」
「私、あの方を知りません。」
「そうでしょうね。なるほど、あの男がキララ・ノストラード・レキトスってわけですかあ。あんなふざけた手紙に、魔道書なみの保護結界を創った伝説のドアホ魔道士の正体が、異世界の神族だったとは。世も末です。」
「え?」
「いえ、大体、事の次第はよめました。きっと彼は貴方の曾曾曾曾くらいのおばあさんの恋人でしょう。本当に人騒がせですが、その力は本物な所が厄介です。」

「魔族。よくも、まあ、こんなところまで人の恋路を邪魔しに来たな。」
いつのまにかレキトスが立っていた。
「さあ、ミフィアさん帰りますよ。そんなゴミ袋の様な魔族から離れて下さい。」
フィリアは呆然とするが、ゼロスがかばうように前へ出る。
「キララ・ノストラード・レキトスなる魔道士が、まさか高位神族とは思いませんでしたねえ。しかし、1000年後のお迎えとは、些か遅すぎではありませんか?」
「別に今も変わらず美しいミフィアさんが手に入れば問題ないでしょう。」
「ええ、変わらず美しいですが、彼女は既に子供を産んでます。」
ゼロスはしれっと。フィリアは喉まででかかった反論を押しとどめる。
レキトスは卵を抱くフィリアを見て。
「ふらっ、あれだけ浮気はしないようにきつく言ったのに。」
「1000年ですよ。誰が待てますか?」
ゼロスは馬鹿にしたように。
「…で卵の父親は貴様か??」
今度はゼロスが喉元まできた反論を押しとどめる。
「…まあ、そういうことですねえ。」
若夫婦のはずの二人の顔は微妙に引きつっている。
「そっちの世界では魔族と竜の間に子供ができるんだったけか、くそっ…」
「そういうことです。1000年たてばいろいろ変わるんです。」
ゼロスは強引に言うが頭に血が上っているらしいレキトスは納得している。
が、レキトスは言い切った。
「…ミフィアさんは私がその子の父親になります。それがこのゴキブリの様に暗くてじめじめした気を放つ魔族の子であっても、貴女の子なら。」
「…私、この人が好きなんです。」
フィリアは明言する。

「がーん。」
ショックを受けたレキトスはフィリアのひくつく唇に気が付かなかった。
しかし、フィリアはふいにその落胆の表情に心を痛め、近づく。
「どうして、1000年も迎えに来てくれなかったのですか?どうして急に帰ってしまったのです?」
うずくまる金髪の美丈夫に近づく、やはり光り輝く髪をしたフィリアは対になった絵のようにお似合いだった。
「それは、変な結界が出来ていて戻るに戻れなかったんですよ。本来異世界移動は私の専売特許ですが、貴女のいる世界だけには飛べなかった。しかし1000年に1日の大次元変動期を利用して貴女を連れ戻しに。」
「…1000年に1日。」
ゼロスの眉間に冷や汗が滲む。
「でも、もう死んでしまったんです。」
フィリアは嘘をつききれず。
「え?」
「私は貴女の恋人のずっと先祖なんです。フィリアです。」
「ミフィアは死んだ?でも、竜は1000年くらいどうって事ないはずじゃないですか?」
 「でも、死んでしまったのです。貴女は本当に彼女を愛していたなら、離れてはいけなかったんですよ。」 
 恐らくゼロスが滅した。フィリアは、レキトスの髪を優しく撫でた。

「では、フィリアさん。もう離しません。」
レキトスは急にフィリアを抱きしめる。
「そっくりですから。貴女でOKです。私の対になる様に生まれてきたような姿。ミフィアさんの生まれかわりに違いありません」
「そんな勝手なこと…」
レキトスは力を込める。が、急にフィリアから飛び退く。丁度、彼のいたあたりの空間が裂けていく。
「フィリアさん、お勉強になりましたね。神も魔も本質は一緒なんですよ。欲望のまま世界を変革させる輩です。」
ゼロスが間に入っていた。
「魔族のくせに律儀な奴だな、恋人を売ってくれれば無駄な闘いをしなくてすむというのに。面倒な子育ても私が引き受けると言ってるんだ。一体どの辺が不満だ?」
 ゼロスもフィリアも一瞬固まる。
「異世界の神族の道徳観念とは末恐ろしいですね。」
しかし、会話はそこで途切れた。黒い闇と白い光、強大な力がぶつかり合ったと思うと一気にはじける。
「なかなかやるなあ。魔族。しかし、『白銀の竜神』火炎王・将軍レキトスのまたの名が「空間の魔術師」であることを知っているか?異世界移動は高等技術ゆえ、火炎王様とて私程には空間や次元を操ることは出来ない。わかるかな?力の序列は決まっている。しかし技の序列は決まっていない。おまえの闘い方は力にだけ頼っている。」
ふいに、空間が複雑に歪み出す。しかし、ゼロスは落ち着いて対処していく。
「力馬鹿ではない様だが、甘いな。」
レキトスは次々と空間を破壊し、歪ませ、新しい次元を呼び込む。
「ちっ」
ゼロスは肩にダメージを感じる。この世界ではもとの姿にはなることが出来ないようだった。具現化あっての精神世界?奇妙だが仕方ない。からくりを解いている暇はない。とにかく、レキトスの攻撃は力ではなく、純粋に空間や次元移動による破壊力を利用している。
 が、ふいに、レーザーブレス。レキトスは一瞬気をそがれるが、それを見逃すほどゼロスはぼけていない。一気に黒いエネルギーが彼を貫く。もともと、力自体はゼロスの方が上である。しかし、フィリアに白い矢が飛ぶ。ゼロスは攻撃をゆるめ、フィリアをかばう。
 そこへ空間が再び、弾ける。その瞬間ゼロスは攻撃を避けない。フィリアをマントに引き込むと、一気にその空間に体当たりする。
「しまったっ」
レキトスの声は一瞬でかき消された。

「7,帰還」

 フィリアはゼロスの胸にもたれたまましっかりかかえていた卵を見つめ安堵に息をつく。
「何とか戻ったようですね。1000年に1日が終わっていなくて、良かった、良かった♪」
はっとしてフィリアは身を離した。
「結局、あの方の空間破壊力を利用しない限り、異世界移動は出来ませんから。貴女の声も彼がしばしば空間破壊を行うために不安定になっていた領域(彼の城)だから通じたのでしょうね…」
 フィリアは上目遣いでゼロスの説明を聞いていた。ゼロスはその視線に気が付き見下ろすうち、吸い込まれるように顔を近づけた。素直に話を聞いていたため接近に気づくのに遅れたフィリアの腕を封じ、甘い負のエネルギーを貰おうと唇を重ねかけた瞬間。

「お帰りなさい。」
りんと響く声。
「っ獣王様。」
ゼロスはがたっと立ち上がる。
「何故、この様な場所に?」
「噂でゼロスが死んだって聞いたの。」
ゼロスの顔に余裕など全くない。
「いくら貴方でもね…」
ゼラスは前にゆっくりと手を伸ばした。

そこへフィリアが入る。
「…これは私のせいです。異世界からコンタクトがとれるのが精神世界にいるものだけなんです。精神世界にいる面識のある魔族はゼロスだけで、それで…」
「それで…」
ゼラスはフィリアの大きな蒼い瞳を見つめる。
「私が無理矢理呼び寄せたんです。」
「ゼロスを無理矢理呼び寄せる力なんてあるかしら?」
「…でも。」
フィリアは言葉を失う。獣王はフィリアの前にずいっと近づいた。
「…ゼロスの代わりに罰を受けるわけ?」
「はい。」
フィリアは小さく頷く。
「そう?」
ゼラスから黒い闇飛ぶ。

「獣王様っ。」
 ゼロスが錫を立ててフィリアを庇う。凄まじい爆風がぶつかりあって消滅する。
「ゼロスに罰を与えれば仕事が滞る。代わりにこの娘で気を紛らすわ。」
「彼女は竜を育てさせるために捕獲しています。それに今回の事を調べるのに役立ちます。」
「百合の香りの出所がか?」
ゼロスは答えずフィリアを背中にまわす。ゼラスは暫く見つめていたが、
「…早く仕事に戻りなさい。」
と残して消えた。

ゼロスは途端に冷たい視線をフィリアに向けた。
「貴女の馬鹿さ加減には呆れます。腹心を殺めるわけないでしょう?無駄死にしたいのですか?」
「…勝手に身体が動いたんです!!言われなくたって、馬鹿だって、きれい事ばかりだって、何も見えていないってくらい解ってます、でも…貴女みたいに冷静にはなれない。」
フィリアは目に涙をためて言うとそのまま逃げるように去っていく。ゼロスは後ろ姿を見送るが追うことはしない。

「8,大勘違い男」(すぐ終わります。)

「ラブレターは1300年前の火竜王の巫女さんに宛てたものだったのですね。」
とアメリア。
「…この巫女は、キララ・ノストラートなる、よこしまな魔道士につけねらわれ非常に苦労した。しかし、ある日、忽然とその男は姿を消した。これも火竜王様の起こした奇跡だろう…」
ゼルは本を閉じる。
「…奴の片思いかあぁぁぁ。」
リナは崩れた。

「9,ねぎらい」

「よく働いたわね、海王派の魔族の殆どを制圧し、公式条約を破った魔族を盾に海王に貸し付けてきたのは見事ね。」 
 ゼラスは職務室にいるゼロスに言葉をかけた。
「あと、異世界の様子を窺ってきたのも悪い事じゃないわ。神封じの結界が軋みだしてから異世界との次元境界にも影響が出ている可能性はあるからね。」
ゼロスは静かに話を聞いている。
「ただし、竜の小娘はどういうことかしら?何の躊躇いもなくあなたが数多肉塊と化させた竜よ。どうせ下等な虫けらとしか思っていない癖に。」
ゼロスは黙っている。
「…残酷な真似はよしなさいと言っているの。人間と違って竜は長く半永久的に生きるわ、傷を負わせたら私達同様にずっと引きずる。戯れるなら人間になさい。」
魔族とは思えない言葉。ゼロスはアメジストの瞳を獣王に向ける。
「あの娘の百合のような香りに、甘い唇に惹かれるのでしょ?」
ゼロスは魔族らしい笑みを浮かべる。
「それだけです。気が済んだら殺しますよ。」
獣王は頷いた。ゼロスはそれを確認するとふっと消える。
しかし、獣王はゼロスが姿を消すとゆっくりと目を閉じる。
「馬鹿な子…あの香りも甘さも幻想なのに。感じているのは当人だけ。愛するから味わう香り。いい歳をして気が付かないの?」

ふいにノックが響く。
「獣王様、ミフィア・ウル・コブトについてですが。」
中級魔族らしい武官が入ってくる。ゼラスはゆっくりと部下に目をやる。
「降魔戦争の際、最後の砦となった南宮殿を守護していました。確か子供の竜や卵をかくまっていた場所で…」
「その件なら、もういいわ…」

「…ミフィア・ウル・コブト、変わった巫女でしたねえ。」
ゼロスは執務室の窓から黒い闇の世界を見つめながら呟いた。追いつめた時彼女は言った。
「一瞬で滅しなさい。子供に恐怖を与えないで−」
「負のエネルギーを楽しむ魔族がそんな頼みを聞くと思いますか?」
「思いません…」
 彼女はそう答えると、自らの手で宮殿を、卵を、幼い竜を消し去った。力尽き、殆ど虫の息で地に伏した巫女をのぞき込んだ記憶がある。
「…確かに、フィリアさんに似ていましたね。顔も、髪も、蒼い瞳も、微かに漂う百合の香りまで…お望み通り一瞬で滅して差し上げましたっけ。」         
(終わり)


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13464初めまして。葵芹香 E-mail URL2/5-00:51
記事番号13453へのコメント

こんにちわ、葵芹香と申す者です。
久々に訪れてみたら「ゼロス・獣王・フィリア中心」という、ゼロフィリ好きな私の興味を引きまくったタイトルだったので、読んでみたらやっぱりゼロフィリv嬉しかったんで、思わずレスしちゃいました。

えっと感想なんですが、読み応えがあって面白かったです。
オリキャラさんもいい味出していて、ゼラス様はクールで本当に獣の王って感じがして。私も一応文章と呼ぶものを書き散らしているのですが、totoさんがお書きになられるようなゼロスとフィリアの関係が書けないので見習いたいです。
タイトルが「少しずつ勘違い」でしたが、私的には一番勘違いしてたのはレキトスさんだと思うのですが…完璧なまでの片思い…(笑)。
ゼロスはフィリアさんから漂う甘い香りが「恋」だと気付いてないんですね?いつか気付く日が来ると…いいなぁ(←個人的願望)。

それでは、あまりまとまってないのですがこの辺で失礼させていただきます。
ふぅ……これからはちゃんと毎回覗きに来るようにしよう。


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13469Re:初めまして。toto 2/5-11:31
記事番号13464へのコメント

  初めまして、感想を頂き有り難うございます。

葵芹香さんの小説は、ここで読ませて頂いていました!!
  何かの検索の際に、本当に偶然に発見し(?)はまりまくり過去記事を検索し て必死に読みました。(でも、既にレスできない状態で…)
  どれを読んでも外れ無しだし、「おおっ」タダで読んで良いのかというくらい 完成度の高い作品たちですね。特にゼロスの心情の表現とか細やかで、フィリア の愛くるしさとか、もう「光ってる」って感じで凄いです。(って私に言われて も困るでしょうが…)本当に葵さんの小説には楽しませていただき、有り難うご ざいました。また、素敵な小説を読ませて下さい。
               拙文にコメントを頂いたこと感謝しております。
 
              

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13511ありがとうございます。葵芹香 E-mail URL2/8-01:40
記事番号13469へのコメント

totoさんは No.13469「Re:初めまして。」で書きました。

こんにちわ、レスありがとうございました、葵芹香です。
あわわわ…私なんぞが書き散らした文章たちに感想をいただきまして、こちらこそありがとうございます(ぺコリ)。
当初インターネットを繋いだばかりで、ゼロフィリ検索をしていたんですがなかなか見つからなくて、誰も書かないなら自分が書いてしまえ!!と思って書き殴りさんにお世話になっていたんですね。おかげで沢山のゼロフィリストに出会えましたv
書き散らしているのは今はほとんど自分のHPなんですが、ネットデビューの場でもある書き殴りさんにも頑張って投稿したいと思います。totoさんも素敵な小説をどうぞ書き続けてくださいねv

それでは、この辺で…乱筆乱文失礼いたします。


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13477かっこいい・・・・ぞ。ゆえ 2/5-23:56
記事番号13453へのコメント

はじめまして、こんにちは。ゆえともうします。

一気に読んでしまいました。
ゼロス、よすぎです。かっこいい・・・・・

でも、一番そそられたのは獣王さまでした。
そうですか。そうなんですか。(なにがだ)
やはりこの方は侮れません。(笑)

今回異界の神族を出していらっしゃいましたが、
この設定といいますか、神族の存在理由に激震しました。
実は今書いている話で神族の事を考えていたのですが、totoさまの話で光明を得ました。
せっかくtotoさまの練り込まれた設定を、私なんぞが壊しかねないのですが、神族の「存在に対して基本的な渇望を抱いているはず」はなるほどと納得しきりです。
最後は暴走ぎみでしたが、レキトス。私すきです♪近くにいたら、ちと恐いですが(笑)


なんともなレスになってしまいましたが、読んでいて本当に面白かったです。
また、次のお話を読めることを楽しみにしています♪

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13482Re:はじめましてtoto 2/6-14:33
記事番号13477へのコメント

 拙文にコメント頂き本当有り難うございます。
 ゆえさんの小説、読ませていただいています!!
 ガウリィとリナさんの描き方が凄く上手で大好きです。私はガウリィさんかなり好きなんですが、自分ではどうしても書けません。(とらえどころのないキャラで難しい。)さらに、「オリキャラ主役」も、設定がしっかりしているし、文章も安定していて(羨ましい…)楽しませて頂いています。ここのガウリィさんも味があって、なるほどっと感心していました。

>今回異界の神族を出していらっしゃいましたが、
 魔族だと原作との兼ね合いが気になるから…「逃げ」てます。異界ならさらに逃げられるぞとか思ってしまい。つじつまがあってるのか怪しいです。
   誤字の多い拙文に最後までお付き合いくださって有り難うございました。

       ゆえさんのお話楽しみにして居るんで頑張って下さい。