◆−スレイヤーズ!−デジタルワールドの冒険!−5−雪月花(1/25-22:03)No.13288


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13288スレイヤーズ!−デジタルワールドの冒険!−5雪月花 1/25-22:03


あたしがガウリィとそんな馬鹿話をしていると、ここで太一くんが神妙な
面持ちで、
「あのさ・・・・リナさん達って、魔王を倒したんだよな」
一応頷いてみせるあたし。
「その・・・・・怖くなかったのか?」
「怖かったわよ」
きっぱりはっきり答えたあたしに、子供達は思わず絶句する。
「―――怖かったし死にたくなかった。だから――――」
しかし―――
そこで襲ってきた気配に、あたしはたちまち戦慄する。
「――――危ない!みんな逃げ――――」
しかしもう遅い!
にゅうっ!
焚き火で出来たみんなの影が形を変え―――いや、正確には影から触手が
生まれ、たちまち子供達とデジモン達を絡め取った!
『なっ!?』
無事だったのは、いち早く気配を感じ取っていたあたしとガウリィ、ゼルの
三人のみ。
そして慌てて短剣を引いた時には、もう遅し。
―――子供達はあたし達の見てる前で、あっさりと連れ去られてしまったのだった――――


《・・・・ようこそ我が領域へ・・・・・選ばれし子供達よ・・・・》
「う・・・・・。・・・・・・!?」
太一が目覚めると、いきなり目の前に広大な空間が広がっていた。
十字架に縛り付けられており、他のみんなも同じような状況だった。
「―――誰だてめえは!」
《なぁに・・・・ただの『預言者』とでも思ってくれればいい・・・・》
「預言者だと・・・・!?」
「どういうことよ!早くあたし達をここから解放して!」
ヤマトと空が交互に言う。
《・・・・・お前達は・・・無意味だとは思わんのか・・・・・?》
「な・・・何だよそれ!」
《ダークマスターズと戦うことがだよ・・・・・。
最初に会った時、手も足も出ず、今回だってあのリナ=インバースが現れなかった
ら死んでいるところだった・・・・。
そんな『負けるとわかっている』戦いに参加して、一体何の意味があると?》
「負けるとわかっている・・・・・!?
そんなのやってみなきゃわからねーじゃねーか!?」
《・・・・全員が全員、心の隅で『恐怖』を感じているのにか・・・・?》
―――これだけは否定出来ず、子供達は言葉に詰まる。
そして流れる、何かのお香のような香り。
《そんな恐怖さえも感じているのに・・・・一体何になるという・・・・?
戦って苦しみながら死に、無残に果てるか・・・・・?
それともこの場で、私の手により安楽死することを選ぶか・・・・?》
その香りを太一達が嗅ぐと同時に、彼らの瞳が虚ろになっていく。
―――つよ・・・・すぎる・・・・・恐怖も・・・・感じてる・・・・
―――ほん・・・・とうに・・・・勝て・・・・る・・・のか・・・・?
そんな思考が彼らの意思に関係なしによぎっていく。
「――――なぁにが預言者よ、子供を追い詰めるしか芸のない三流悪役のくせして」
―――呆れ返ったようなその声は、この時心強く耳に響いた。

「魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)!」
ぶどごぉぉぉん!
太一くん達に幻術をかけていた魔族に、あたしの呪文が炸裂する。
―――出発する時、あたしは万が一のために子供達に貼り付けておいたという
発信機の電波を受信するレーダーを、ゲンナイさんから貰っていた。
それを元にここへたどり着いた、という、結構芸のない話ではあるが、
流石に発信機なんぞ予想もしてなかった魔族にとっては意外や意外、だろう。
―――魔族が彼らを攫った理由は―――太一くん達が攫われたあの後、すぐ
理解出来た。
―――出発前夜、ゲンナイさんはあたしに言った。
―――子供達のうちに眠る『負の感情』が、魔族に狙われるかも知れないと。
確かに、あたしよりも何歳も年下の子供達が、世界を救おうなどとしているのだ。
そのプレッシャーも計り知れないことだろう。
そして今、この魔族はくだらないこと太一くん達に吹き込んで、存分負の感情を
搾り取ってから殺そうとしていたわけである。
しかし発信機あーんどあたし達の存在が、その正確を無に帰した、というところ
だろう。
・・・・ま、元々大した策ではない、という説もあるにはあるが。
《くっ・・・・くそぉ!》
半ばヤケクソ気味であたし達の方に向かってくる魔族!
しかぁしっ!
ざっ!
地を蹴る音が二重に響き、あたしとゼルは魔族を挟み撃ちにする。あたしとゼルはこの時、こいつを吹き飛ばすに充分の
呪文を唱え終えていたのだ。
「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!」「崩霊裂(ラ・ティルト)!」
ぶどごごぉぉぉぉん!
全く同じタイミングで放たれた呪は、魔族をあっさり無に帰した―――。

―――太一くん達を救い出し、場所は再びあの荒野。
幻術で何か見せられたのか、みんなあまり元気がない。
「・・・・リナさん達って・・・・すごいよな・・・・・」
いきなり太一くんが、落ち込んだ表情でそう言ってきた。
「―――どんな敵にだって・・・・恐怖の色さえ見せずに立ち向かって―――
きっと―――俺達じゃできねーよな・・・・」
―――今の一言で、一体何を見せられたのかは大体の察しがついた。
「それで?・・・・戦いをやめるの?」
あたしの問いに答えたのは、今度はヤマトくん。
「・・・・逃げるわけにはいかない・・・・・。俺達は何が何でもあいつらを
倒すって決めたし・・・・それに負けるってわかってても、最後まで抗って」
「っすとっぷ」
勝手なこと言うヤマトくんに、あたしは手を出して待ったをかける。
はぁ、と重いため息ひとつつき。
「―――あのね、今からンなマイナス思考でどーすんのよ。負けるって決まった
わけじゃないんでしょ?」
「・・・・それはそうだけど・・・・でも、未だにダークマスターズを・・・・
死ぬことを怖がっている僕らなんて・・・・・」
「それでいいのよ」
丈くんの言葉にそう返答したあたしに、みんなの目が点になる。
「――――へ?」
「だからぁ、死ぬことを怖がるのはいいことだっつってんの!
要するに『死にたくない』ってことなんでしょ?あたしだってそういう気持ちが
あったからこそ、ガウリィやゼルと一緒に魔王に勝てたんだもん」
『・・・・はぁ!?』
声もハモらせ言う八人ぷらす八匹。
あたしは構わずしゃべりまくる。
「あのねぇ、負けるつもりで戦うなんて馬鹿げてるわよ。
『負けるとわかっていても戦う』?何言ってんだか、負けるつもりで戦えば、
勝つ確率だってゼロになるに決まってんじゃない。
あたし達はね、死にたくないから、自分が生きるために戦った。
あんた達だって、元をたどればそうなんでしょ?だったら死ぬことを恐れて何が
駄目だってのよ?
―――死にたくないのなら、戦う時は必ず、勝つつもりで戦いなさい。
自分自身が生きるために」
言ってあたしはニッコリと微笑む。
ガウリィとゼルも気付いているだろう。
前ふたりに、あたしが同じ台詞を言ったということに。
子供達は、あたしの言ったことにただただデジモン共々ぼーぜんと突っ立って
いたりする。
「―――じゃ、あたしはもう寝るわね」
言ってあたしは寝床へと戻った。

「―――リナさん!もー朝だぞ――――!」
どえあっ!?
いきなり馬鹿でかい声が耳に響き、鼓膜が破けそうになった。
見ると、そこには太一くんがご機嫌な顔であたしの頭の近くにいた。
「さっきみんなで魚獲ってきたんだ!リナさんのよりおいしいって自信あるぜ♪」
「ちょっと太一、早く薪割りに戻ってよ!」
「へーへー、・・・・ったく、うるせーなー空は・・・・」
そして戻ろうとした時、こちらを振り向きとびっきりの笑顔で、
「――――昨日はありがと!」
そう言って、子供達の方へと向かっていった。
・・・・ったく・・・・
朝の気持ちいい空気を体に染み込ませながら、あたしはこんなことを考えた。
――――弟がいたら―――こんな感じかな―――――
と。