◆−金と銀の女神13−神無月遊芽(1/21-07:20)No.13239
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13239金と銀の女神13神無月遊芽 E-mail URL1/21-07:20


 神無月です。
 うーん…2,3週間の期限に間に合ったかなあ?
 とりあえず、金銀の2部でございますです(ますです?)
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            金と銀の女神
          〜世界が始まるとき〜


 勇者は覚醒した。
 だが、それは大きな犠牲のもとの、半覚醒に過ぎなかった。
 それでも、勇者は涙を流すことも忘れ、土に還った妹に、ただ、祈りを捧げる。
 まるで、世界なんて、どうでもいいとでも言うかのように。


  第2部 痛みと優しさ
  13章 枯れた涙

 gold 力と心の取引
   心と命を犠牲にして得たもので、貴方は何をするの?

 髪が、風になびいて空に舞い上がる。
蒼い瞳は目の前の石をじっと見つめ、ふと微笑むと、抱えていた花束をそっと降ろした。

              ―レイラ・クリム 14歳―
                   ―ここに眠る―

こんな墓石なんて、壊したくなるけれど、そんなことしたって妹に怒られるだけだから。
「……レイラ、行ってくるよ」
絶対に帰って来るから、世界なんて救いたくないけど、絶対に帰って来るから。
独りになんて、しないから。
「勇者がこんなことを考えるなんて、バカみたいだよな……」
そう自嘲気味な笑みを浮かべると、セリオスは、静かにその場を立ち去った…。



 今はもう誰もなき、セリオスの家。
サリラは力なく壁にもたれかかり、座っているクロスに、必死に話し掛けていた。
「私…セリオスにかける言葉がないわ…」
レイラと仲の良かったサリラ。心の中が空っぽになって、その部分が涙で満たされていく。
クロスは、昨夜涙が枯れるほどに泣いたせいか、少しは落ち着いているようだった。
アリアはテーブルをはさんでクロスの向かいがわに座り、何とも言えない辛い顔をしていた。
「セリオスは、真面目で、優しくて、強い人だわ。
 ご両親が死んだ時も、泣きはしたけれど精一杯に生きようとしていた。
 だけど、それはレイラがいたからだわ。
 レイラがいたから、セリオスは悲しみにも負けず生きてこれた。
 だけどレイラが死んだ今、レイラが死んだ悲しみと両親を失った時の悲しみが完全に重なってしまっている」
サリラは深く溜息を吐くと、窓の前まで歩き、まだ天に登りきれていない太陽を、目を細めて見つめた。
「少しずつなら、耐えられたかもしれない。
 傷が出来ても、乗り越えられたかもしれない。
 だけど一度に大きな傷を負ってしまったら、どうすればいいの?
 抉り取られた心に、悲しみに負けてしまって、何をすることも出来ない。
 心の傷は、深ければ深いほど、治らないものなのに……」
「サリラ…」
アリアがサリラに手を伸ばしかけるが、すぐに引っ込める。
解っているのだ。自分が慰めたって、誰も元に戻れないことを。
 だけど、悩んでいる二人に、信じられない言葉が飛び込んできた。
「……何が言いたいのか解んねえよ」
「………え?」
戸惑う二人の瞳を見もせず、クロスはすっと立ち上がった。
手は、テーブルの上に置かれたままだ。
「セリオスが傷ついたなんて誰でも解るだろうが!
 たった一人の妹をわけのわからん奴に殺されて。
 どうすればいいだ、だって?バカなこと言ってんじゃねえ!!」
「クロス!?」
アリアが悲鳴のような声をあげた。
クロスはそれを聞いて顔を俯けると、やっとのことで聞き取れるほどの小さな声で、言った。
「俺達が、セリオスの支えになればいいだろうが」
サリラが驚いたようにクロスを振り向き、そして瞳が見開かれる。
「けっ。そんなことも解らない奴と旅なんかしてたくねえ。
 サラなんかこの田舎で終生過ごしてやがれ」
視線を反らし、柄悪く言うが、それは優しさの裏返しのように見えた。
 セリオスは俺達が支えてやる。だからサラは自分のことで精一杯になっていいと…。
「……そうね。一人で考え込んでてバカだったわ。
 一番バカにも解るようなことが解らないんじゃ、この先行っても死ぬだけね」
「え…?」
アリアがサリラに戸惑いの瞳を向けるが、サリラはそれをウィンクで返した。
クロスはそれを見て笑むと、椅子から立ち上がり、この部屋を出て行った。
 アリアに、サリラが近寄っていく。
「アリア。私気付いたの。
 誰もいない家でも、私の家なんだって。
 家で私を迎えてくれる人がいなくても、この村が私を大切にしてくれてるって」
そっと胸に手を当てながらそう呟くサリラは、なんだかいつもより幼く見えた。
そして少し伏せ目がちに言葉を続ける。
「それに、旅をしているとどこか不安だった。
 いつ死ぬか解らなくて、いつ終わるのか解らなくて…。
 ……貴方とセリオスを、見ているのが辛くて……」
サリラが弱音を吐くなんて、初めて聞いた気がした。
いつも頼りになって、頭が良くて。それは少ししか付き合っていないアリアも解る。
だからなのか。サリラが少しだけ小さく見える…。
「安心して。私、この旅をして本当の居場所を見つけただけ。
 それに、壊れた神殿の再建も手伝わなくちゃいけないし、
 故郷を護る為に、たたかっていくわ。だから……」
アリアの手を取り、両手でぎゅっと握り締める。
だが痛いとは感じなかった。
「こんなことを頼むのは迷惑かもしれないけれど、セリオスをお願い。
 あの人は今戦うことが出来るかも解らない。
 支えになって、しかも傷を癒してあげられるのは貴方しかいないと思うの」
「でも…私は……」
誰であるかも解らないのに。
そう紡ごうとした言葉は、サリラの指で防がれた。
「貴方が誰であろうと関係ないわ。貴方は貴方だもの。
 セリオスを、癒してあげて……」
そう言ってすっと背を伸ばしたサラは、いつもの表情に戻っていた。



 苦悩。セリオスの顔に浮かんでいるものは、それだけだった。
絶望と悲しみに押し潰されそうになりながら、必死に耐えている状態。
闇に紛れた魔物達に、糸もあっさりと引き裂かれてしまいそうな。
木の葉の陰から差し込む月光すら、彼を壊してしまいそうで。
少女は少しだけ勇気を出すと、その白い指を彼の手に置いた。
「…アリア。どうしたんだ?こんな夜更けに」
「眠れなくて、外に出てみたの。そうしたら、セリオスの姿が見えたから…―」
消えてしまいそうな貴方を、見ていられなくて。
「そうか。僕も眠れなかったんだ…」
そう言ってセリオスは数歩歩き、その場に座ると、アリアを手招きした。
アリアはゆっくりと、セリオスの隣りに座る。
「…綺麗な星だね」
その言葉に上を見上げると、もう林からは抜けていたらしく、満天の星空が目に入った。
「…ええ、本当に。星も空も綺麗……」
澄み切った、少しだけ冷たい空気を胸一杯に吸い込んで。
それでも心は満ち足りない。まだ空っぽの空洞。
「…サリラに言われたの。貴方の支えになってあげてって」
アリアの言葉に、セリオスは驚く様子も見せず、苦い顔をした。
「サリラのことだから、言ってるんじゃないかと思ったけど」
セリオスは立ち上がると、2,3歩、前に出た。
まだ傷も完治していないせいか、本調子ではないのだろう。歩き方さえ危うかった。
「…僕は勇者じゃない!妹一人護れないただの男だ!
 わけの解らない力を抱えているくせに、大切な人を助けることが出来なかった!
 僕にもっと力があれば、妹を救うことが出来たのに!」
「違うわ!」
アリアが後ろから、セリオスに抱きつく。
もう、彼の言葉を聞いていたくなかった。彼の言葉が刺さるのは、紛れも無く彼の心にだから。
「自分を責めないで。レイラさんは、セリオスにそんなことを望んではいないわ…」
抱きとめるアリアの腕が震えている。
だが、セリオスも、手が痙攣するのを抑えることが出来なかった。
「でも、僕のせいだ。アリアにしたように、レイラにも護ってやると約束したのに。
 出来なかったんだ。僕の目の前で…レイラは……」
目頭が熱い。心が悲鳴をあげる。
 アリアは首を振ると、セリオスの背中に頭を預けた。
「貴方のせいじゃない。それに、貴方は間違いなく勇者よ。
 魔族にさらわれた私を助けてくれた」
セリオスは震える手を握り締めると、空を見上げた。
「…思うんだ。レイラが来た時、僕は手を差し伸べた。
 だけど、相手の手を求めて取った方は、どっちだったんだろうって」
レイラは安らぎを探して。
セリオスは不安を忘れたくて。
知らない色と、知らない力に追い立てられた少年達は、お互いの手を求めた。
握り締められた手は、セリオスの両親が死んでから一層力強いものとなり、そして最後、レイラは自分から手を離した。
「…セリオス。貴方の心は貴方にしか変える事が出来ない。
 それでも言える事は、貴方が旅に出ていなかったら、私は貴方に会うことも出来なかった。
 自分を信じて。
 貴方は間違いなく、少なくとも私にとって、勇者なんだから……」

   優しさにすがってもいいですか?
   使命も全て忘れてもいいですか?

「レイラ……」
セリオスはアリアの手に自らの手を重ねると、一粒だけ、涙を流した。
アリアはただ、悔しさのような、申し訳ないような気持ちで一杯で。
アリアの涙が、セリオスの傷跡をなぞっていく。
 星々は、2人の涙を知る由も無く、ただ、輝いていた。

 裏というか作者の本音?
 *セ=セリオス。サ=サリラ。ク=クロス。ア=アリア。(だといいな)
サ・ク・ア「「「じ〜ん」」」
セ「…どうしたの?」
サ「自分に酔ってるの」
ク「くぅっ。俺ってかっこいいぜ!」
ア「きゃー!私って優しいー!!」
セ「……レイラ。僕、負けそうだよ…」
サ「っていうか貴方、女々しい」
セ「ぐさっ」
ク「そうだよな。世界がどうでもいいなんてよく言うぜ」
セ「ぐさぐさっ」
ア「情けない」
セ「………もう許して(泣)」

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13310金と銀の女神14神無月遊芽 E-mail URL1/27-09:06
記事番号13239へのコメント

 神無月です。
 やっと14話…先が長いわ…。

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                金と銀の女神
              〜世界が始まるとき〜


   14章 新たな出会い

 silver 暗き夢背負いて 太陽のごとく輝く
    私にも出来たのかしら?

 セリオス、クロス、アリアの3人は、当てもなく彷徨っていた。
周りは見渡すばかりの木、木、木で、どれほど歩いたのかも解らなくなった。
「セリオス〜…まだ人は見えないのかよ…」
「喉…渇いたわ……」
2人の弱音に耳も貸さずに、セリオスは黙々と歩き続けた。

 始まりはこうだ。

 出発の日、セリオスは荷物を背負うと、心配そうにしている少女に笑いかけた。
「じゃあサラ。行ってくるよ」
「ええ…これは、渡しておくわね」
サリラはすっと自分の指から指輪を抜き、セリオスに手渡した。
 真っ赤な宝石から、2枚の翼が生えているデザインだ。色からしてプラチナだろう。
セリオスは無言で、そのどこか不思議な雰囲気の漂うそれを自らの指にはめ、後ろにいる2人に目で合図をした。
「行って来る」
「行ってらっしゃい。私、待ってるわ」
それは、妹をなくしたセリオスへの、ささやかな気遣い。
そうしてセリオス達は、旅立った。

 港町までの道のりには特に事件というべきものもなく、船に乗ってからも順調だったと言えよう。
ただ。航海3日目のあの嵐を除いては。
 その日は恐いほど綺麗な蒼い空が広がっていた。
雲ひとつない穏やかな気候が、一つの雷の音と共に急激にその顔を変えた。
台風の中にいるかのような悪天候に、船はばらばらにされ、皆海の藻屑と消えていった。
海へと投げ出された3人はなんとか一命を取り留め、離れ離れにはなることもなかったのだが、そこは目的地とは大きく違う、見知らぬ大陸だったというわけだ。


 …ということがあり、今彼等はあても無く彷徨っているというわけだ。
「それにしても…なんて暑さだ…」
クロスが独り言のように呟いた。
 その通りだった。ギラギラと、全ての者を焼きつくさんとばかりに輝く太陽。
まるで熱帯雨林かとでもいうように、むしむしと地面からこみ上げる熱気。
太陽の光は、空高く伸びている木がいくらか軽減してくれているとはいえ、今にも倒れそうだった。
 そしてとうとう。
「セリオス…私…もう……っ」
アリアが、よろけたかと思うと音も立てずに静かに倒れた。
そしてそれがきっかけになったのか、クロスも耐え切れず地面に突っ伏す。
「2人とも…大丈夫か!?」
それに気付いたセリオスが2人に駆け寄るが、同時によろめいた。
ただでさえこの暑さ。それに加え、セリオスは傷が完治していない。
体力が減っているせいで、立っている事すらままならなかった。
「くそっ…僕も……」
その時、茂みが揺れ、そこから魔物が飛び出した。
 赤く醜い肌を持ち、小柄な肉体なのにその背と同じくらいの高さの棍棒を握っている。
ゴブリンと呼ばれる、この世界で最も有名な魔物だ。
大して強くは無いが、地域によってはかなり賢いものもいるらしく、軽視は出来ない。
 セリオスはふらつく身体に鞭打って、剣を構えた。
だが、視界が霞む。
「くぅ……こんな……ところ…で……」
セリオスの手から剣が音を立てて落ちた。
必死に耐えようとするのだが、意識がどんどん暗転していく。
「…レイラ……アリ…ア……」
視界が、紅く染まった。
セリオスがばたりと倒れた。
意識が、無くなっていく。

   ―ここで、死ぬのだろうか?
   ―そんなの…嫌だ!

だが、セリオスの意識は、そこで途絶えた。
その耳で、遠く聞こえる少女の声を聞きながら。



 優しい声。
常春の国の太陽のように明るくて、秋の夜空の月のように柔らかく輝く。
聞き覚えのある、優しい雰囲気の声。
暗い闇の世界で、眩く輝く光に、必死に手を伸ばして……。

『お兄ちゃん…』

「あ、目が覚めたんだ」
目を覚まして一番に目の中に飛び込んできた少女に、セリオスは驚いたように瞼を開き閉めする。
 長く柔らかな黒髪を三つ編みにして、まだ幼さの残る顔立ちで、無邪気な笑みを浮かべる。
覗き込んだら吸い込まれてしまいそうなほど透明な黒い瞳が、セリオスを見つめていた。
「私、ルナっていうの。あ、まだ動かない方がいいよ」
ベッドから身を起こそうとしたセリオスに、ルナが慌てて忠告する。
確かに、少しだけ身を起こすと、体中に激痛が走った。
セリオスは大人しくベッドに身を戻し、少女を見つめた。
「ルナさん…だっけ。君が助けてくれたのか?」
「うん。応急処置はしておいたから、今日一日安静にしてればすぐ動けるようになると思うわ」
恐らく、傷も癒えぬ身体で無理をしたために、まだ治りきれていなかった傷が開いてしまったのだろう。
倒れる前に感じた血の匂いはそれだったのだ。
 傷の状態が気になったが、一日で動けるようになるというので今はおとなしくすることにした。
「ありがとう。僕はセリオス」
「セリオスっていうの?いい名前ね」
そう無邪気に微笑まれ、少し気まずくなったのか、首だけを動かして辺りを見回す。

 見慣れない景色が広がっているというのは当たり前として、家の作りが自分の村のとあまり変わりがないことに驚いた。
外観は解らないが、床や内壁は木で出来ているためかほとんど変わらない。
それでも微妙に違うため、違和感というものは隠せなかったが。
 少しだけ身体を動かし、真横を見ると、クロスの姿があった。
夢でも見ているのか、顔を歪めて寝ている。
だが、アリアの姿が無かったため、ルナに視線を戻す。
「ルナさん。あの…蒼い髪の女の子見なかったか…?」
「あ、あのお姉さんは私のベッドで寝てるの。大丈夫だよ」
ということは、ここは親か何かのベッドだろうか。
 それよりも、アリアがお姉さんと言われることに違和感を感じた。
どちらかと言うと護ってやらなくては、というタイプだからか、自分の事でもないのにそう呼ばれることに抵抗を感じている。
だが、それも少女を見ると納得できた。
 少女はまだ14、5歳がいいところだろう。妹のレイラがそのくらいの年齢のためか、よく見ればすぐに解った。
そのためだろうか。明るくて屈託のなさそうな性格も手伝って、少しだけレイラとダブって見える。
妹は、もう存在していないのに。
 表情で何か悩んでいると解ったのだろうか、ルナが困ったようにセリオスを横目で見ている。
セリオスは引き攣りながらも笑みを浮かべ、瞼を閉じた。

 闇の中で思い出すのは、レイラの最後の言葉と焦りばかり。
苦痛に涙を流しながらも、心配をかけまいと必死に笑みを作っていた。
そんな少女を、護ってやれなかった。幼い頃悲しみばかり植え付けられていた少女を、救うことが出来なかった。

「……ルナ。あいつらは目を覚ましたのか?」
その声にはっとして、思わず首をそちらにまわす。
 一瞬黒髪と見間違うほどのダークブルーの髪は腰に届くほどに長く伸び、それを後ろで一つに束ねている。
クロスと同じ翡翠の瞳は、まるで輝きをなくした宝石のように鈍く、だが、どこか隙のない輝きを見せていた。
格好からするとセリオスのような冒険者らしかったが、それにしては軽装過ぎる。
 声が、妹を殺した魔族のあの低い声に似ていたので驚いたのだが、敵意は見られないようだ。
「あっ、ソード。えっと、一人だけ目を覚ましたよ」
ルナがあまえる子猫のような声でソードと呼ばれた男に話し掛けた。
「(こんなところもレイラみたいだな…)」
喧嘩をして、泣き出して。こちらから謝っても意地を張って強がって。結局寂しがって自分のベッドに潜り込んできたことが多々あった。
最初の頃は追い出していたが、入ってくることに慣れたのか、それとも言っても無駄だと思ったのか。何時の間にか抵抗のようなものはしていなかったが。
「(レイラに似た少女と、レイラを殺した奴に声が似ている男か)」
無論、別人だとは解っている。それでも。
「(ここに長居するのは、辛そうだな…)」
セリオスがそう苦笑した時に、男がセリオスの顔を覗き込んできた。

「……お前がセリオスか?」
「ああ」
いぶかしげにその問いに答える。
男はそれを気にもせず、邪魔そうに長い前髪をかきあげた。
「俺はソード。どうしてここにいるのか理解は出来るか?」
少し言葉にトゲを感じながら、セリオスは素直に返事をした。
「解らない。だがこの状況ならソードさんとルナさんが助けてくれたんだろうと予想はする」
「そうだろうな。正解だ」
ソードは無表情のままそう言いのけると、数歩下がった。
「傷はどうだ?まあルナの応急処置ならすぐよくなると思うが」
「……ルナさんがしてくれたのか?」
セリオスは正直、驚きを隠せなかった。
せいぜい、ルナは手伝いか何かまでで、他に医者か何かがいてその人が治療してくれたのだと思ったのだ。
「ルナさん。ありがとう」
「えへへ。いいよ、別に」
また、だぶる。
あの黒髪の後ろに、金色の髪が見える。
何故、こんなにも似ている気がするんだろう。
「…えっとセリオス。どうしてあんなとこで倒れてたの?
 あ、倒れた理由じゃなくって、それまでの事情ね」
「ああ…」
セリオスは話した。
 自分が『勇者』ということ、ルシェルのことを除き、

  故郷の神父に言われ旅を始めたこと。
  その旅の経過。
  そして、妹の死…。
  旅路に、嵐にみまわれ船から投げ出されたこと。
  現在に至るまで。

 それら全てを話し終わると、ルナの顔が歪んでいた。

「…だから、教えてくれないか?ここはどこなんだ?」
ルナは表情を元に戻すと、言いにくそうにいった。
「……ここはトゥルー・ダルク。隔離された大陸」
「隔離された…?何故……」
ルナは顔を少し俯かせ、窓へと歩いていった。
そして一瞬の間の後に、カーテンがそっとひらかれる。
「……!?」
セリオスは傷みも忘れ、起き上がった。
 暗い空。荒れた大地。
暗雲が立ち込め、雷が何度も遠くに落ち、これが夢でない証明をする。
 セリオスは見たことも無い光景に、しばし呆然となった。
「この大陸…島と言った方がいいのかな…は…うーん。説明が難しいなあ。
 えっと、呪われてる…といえばいいのかな?」
「呪われてる…!?」
説明しにくそうなルナに代わって、今度はソードが口を開いた。
「この大陸は、元々どこぞの成金の所有物だったらしい。
 だがそいつから売られて買われてとどんどん持ち主が代わっていった。
 その時。この大陸を買った奴が、礼拝堂のようなものを作った。
 そして『血塗れのルビー』という指輪を、女神の像の指にはめた」
ソードは付け足して、そいつはどこかの国の王子とかで、得体の知れぬ物を幾つも持っていたと言う。
「…それで?」
「……その指輪を女神像につけた意図は解らない。
 金持ちのやることだから、ろくでもない理由なんだろうが。
 …とにかくだ。その指輪をはめた途端。女神像は悪魔に姿を変えてしまったんだ」
そして、この大陸は壊れた。
以前女神だった悪魔に、呪われて。
「そしてその『血塗れのルビー』を持ち込んで女神像の指にはめた張本人はすぐに逃げた。
 でも、元から住んでいた人々は逃げることも出来ない。そいつが船という船全部持っていってしまったの。
 悪魔は礼拝堂を活動拠点にしてるらしいんだけど、遠い上に道のりが厳しいから誰も何も出来ない。
 皆、暗雲の晴れぬ街で、悪魔に脅えながら暮らしてるの。
 もう3ヶ月にはなるかな…」
「…そうだったのか……」
セリオスは自分の悪運を呪った。
 助かったはいいが、こんな大陸に流れ着いてしまうなんて。
「…そういえばルナさんって、髪が黒だな……」
「うん。私はナーサ国で産まれたの。やっぱり解っちゃうかな」
髪の色。この世界では比較的重大なことだった。
 大昔、2人の女神が生み出した天使と魔族。その2つは人々の生活にも変化を与えており、事実上の交友は無くても人間にとって密接なものだ。
そして、純粋な天使や魔族になると、髪と目の色が金と銀になる。
そのため、魔族の色となる銀色の髪、瞳で産まれた者はすぐに捨てられ、金の髪、瞳で産まれた者は貴族に迎えられ、運がいいと王族にもなれるらしい。
だが、蒼や紅という髪、瞳を持つ物が多い中、黒というのは稀だ。
もちろん産まれない事はないのだが、圧倒的に数が少ないのだ。
ナーサ国では、それが当たり前のようにいる。皆、黒髪と黒い瞳。逆にセリオスのような色の髪をしたものは全くと言っていいほどいない。
クロスは産まれたときにいいか悪いか解らないことに運を使い果たしたらしく、黒髪だ。
瞳は緑色なので、ナーサ国の者ではないと解るが。
「ちょっと旅をしてた時にソードに会ってね、それから一緒にいるの。
 ソードの家がここにあって、それでこの大陸に寄ったとこだったんだけど、閉じ込められちゃって」
「そうか…大変だな……」
セリオスはその明るい笑顔に気付かない。
ソードの眉がぴくりと動き、少女の笑顔が少しだけ引き攣っていることに。
「…セリオス、とにかく今は休んでよ。ここから出る方法は一緒に探すから、ね?」
「……そうするよ」
セリオスは布団に潜り込むと、まだ疲れが残っていたのかすぐに眠りについた。
金とも黒とも知れぬ、少女の笑顔を瞼の裏に焼き付けて…。

 裏というか…もうここのタイトル思いつかない〜(泣)
 *セ=セリオス。ク=クロス。ア=アリア(サリラはパーティーから抜けたため以後後書きに出ません)
ク・ア「俺・私達の出番は!?」
セ「今回はずっと気絶しっぱなしだったみたいで、出てないんだ」
ク「ったく。新大陸だぜーとか燃えてたらいきなりこれだぜ!?嫌になっちまう」
ア「そうそう。セリオスってレイラが死んでから冷たくなったし」
セ「…ごめん」
ア「ま、いいけど。でもこの少女何なのかしら。レイラに似てるって…」
ク「でも顔が似てるわけじゃないんだろ?」
セ「…でも、似てるんだ。雰囲気が…レイラ……うぅっ……」
ク・ア「あ、いじけた」