◆−子守唄を頂戴(ハンターハンター小説…いいですわ?)−浅島 美悠(10/28-22:13)No.12221


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12221子守唄を頂戴(ハンターハンター小説…いいですわ?)浅島 美悠 10/28-22:13


         子守唄を頂戴


歌が流れる。
低く、高く、包むがごとく。

クラピカは月を見ていた。
冷たい夜風が頬を撫で、金髪を揺らす。
何となく、眠れなくて。
「………」
感傷的になっている自分に、ふ、と嘲笑を送る。
眠れないのは、コワイ夢を見るから。
優しかった母。
強かった父。
みんなみんな、死んでしまった。
空洞の瞳が一斉にこっちを見やり、無念だと。
コワイ、夢。
けど、それは生きる目的を思い出させてくれる。
復讐。
「………」
なぜだろう。今だけ、どうしようもなく寂しい。

『お眠りなさい 力を抜いて 横になり』

思い出されるのは、母の歌声。

『聞きなさい 耳を澄まして 大地の鼓動を』 

眠れず、枕を抱いて来た時には、いつも唄ってくれた。
静かな笑みとともに。
完全に寝つくまで。
………手を、握って。

『小鳥も獣も 生きとし生ける存在(もの)すべてが』

そのぬくもりも、今は亡い。
四年前、総てが砕け散った。

「ナニ? その歌」
突如聞こえた声にびくりと身をすくませ、クラピカは振り向いた。
「…キルアか……」
「声、筒抜けだよ? ドアくらいちゃんと閉めとけよなー」
コンコン、と拳で叩くと、キルアはもう一度問う。
「ねぇ、さっきの歌、ナニ?」
断りもなく部屋に入って、ぽすんっとベットに腰掛けた。
「……子守唄だ。クルタ族に伝わる」
知らぬ間に、唄っていたらしい。
「ふ〜ん…。キレイだね」
クラピカを見上げ、素直な感想を吐く。
「あんたも、その歌も」
「……前者はいただけないが、後者は同感だな。私も気に入っている」
「あーちがうちがう。オレの言いたいのはさ」
ぱたぱたと手を振って、皮肉めいた笑み。
「歌唄ってるあんたが、すっげーキレイだってこと」
「え」
瞬く間に、クラピカの顔が完熟トマトへと変化する。
それを面白そうに眺め、キルアはまた問う。
「眠れなかったワケ? あんたも」
「あ、ああ…。お前もか?」
何とか早まる動悸を押さえ、クラピカがキルアの隣に座る。
二人分の重さに耐えて、ベットがきしんだ。
「まあね。ヤな夢見ちゃったから」
何でもなさそうに告げる。深くは追及しない。
何となくわかるから。
背負う闇が似ていると、おのずと互いのこともわかってくる。
「起きたら歌が聞こえてきたから、何だろって」
「それは……すまない…。うるさかったか?」
「? 誰もンなこと言ってねーじゃん」
きょとんとしてきっぱりと言い切る。
ネコのようなツリ目。
……実際、性格はネコ並みに意地悪いということを、クラピカは知らない。
いや、薄々は気付いているが。
「あ、そーだ」
ぽんっと手を打って、キルアがごそごそとベットに潜り込む。
「……キルア、何をしてるんだ?」
「寝る」
簡潔明瞭。
それ故に、クラピカはその言葉の意味を理解するまでしばしの時間を有した。
「ってちょっと待て! ここは私の部屋だぞ!!」
「知ってるよ」
「寝るんなら自分の部屋で寝ろっ!」
「一人で寝たら、またヤな夢見そうだし」
ころん、と横になって、クラピカの方に顔を向ける。
「一緒にねんね♪」
「なぜそーなるっ!!」
「のーぷろぶれむだってば」
「プロブレム(問題)ありすぎだっ!」
怒鳴り疲れて肩で息をするクラピカに、両手を差し出すキルア。
「……ダメ?(うるうる)」
「…………」
無言でため息をつき。
「……今夜だけだぞ」
言って布団の中に入る。
途端、ぎゅう、と抱きしめられる。
「キっ……」
「唄ってよ」
反論は、キルアの静かな願いにかき消された。
「あの歌。子守唄なんだろ? 
あれ唄ってくれたら、オレぐっすり眠れる気、するんだけどな〜」
それに、と続けて。
「あんたが唄ってくれた方が、オレとしても嬉しいしね」
くすくす。
無邪気な笑い声、願い。
遊ばれている、とわかっていても、突き飛ばせないのはなぜだろう。
「……今夜だけ、だからな」
さっきも同じような返事をしたな、とぼんやり考える。

『お眠りなさい 力を抜いて 横になり
 聞きなさい 耳を澄まして 大地の鼓動を
 小鳥も獣も 生きとし生ける存在(もの)すべてが
 あなたを見守り 愛しているのだから
 満天の星屑と 淡い月の光に 
 優しく優しく包まれて 夢を見なさい
 お眠りなさい 息を吸って 目を瞑り
 聞きなさい まどろみながら 天空(そら)の歌声を』

母の声は、もっと優しく、安心できた。
けど、私は母のようには唄えない。
「私は………汚れているからな…」
──こんな清らかな詩(うた)を口にする資格など、ない。
安らかな寝息を立てて眠ってしまったキルアの銀糸を、軽く指に絡ませる。
「にゅ…」
くすぐったそうに身をよじる。
それが可愛くて、くすりと小さく笑ってしまった。
やんわりと、背中に回された手を外す。
毛布をかけなおし、自分も寝ようと目を閉じた。
その時。
きゅ、とクラピカの手を、誰かが握った。
「…キルア……?」
起きていたのか? そう思って目を開けるが、少年は寝たまま。
「……無意識?」
呟くが、返事はない。
冷たいはずの小さな手は、暖かかった。
何年ぶりかのぬくもり。
求めていたもの。
嬉しかった。
「…おやすみ、いい夢を」

私がこいつを振り払えないのは、こういうことだったのかもな。

もう、悪夢は見ない。


おまけ。

「すかー…」
どがっ!
がんっ!
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!! 前思考撤回っ!」
キルアの素晴らしい寝相によって、ベットから叩き出されたクラピカは涙目で叫んだ。


                         どーしよーもなくえんど。