◆-ここにいるから お知らせ-投稿者:あいる(12/1-22:45)No.264
 ┣━Re:ここにいるから 1-投稿者:あいる(12/1-22:55)No.267
 ┣━ここにいるから 2-投稿者:あいる(12/1-23:01)No.268
 ┣━ここにいるから 3-投稿者:あいる(12/1-23:08)No.269
 ┣━ここにいるから 4-投稿者:あいる(12/1-23:14)No.270
 ┣━ここにいるから 5-投稿者:あいる(12/1-23:20)No.271
 ┣┳ここにいるから 6-投稿者:あいる(12/1-23:25)No.272
 ┃┗┳あいるさんへ-投稿者:にふな(12/10-15:12)No.327
 ┃ ┗━Re:ありがとうございますぅ。-投稿者:あいる(12/10-23:43)No.330
 ┣┳再掲示お疲れさまでした-投稿者:松原ぼたん(12/2-00:03)No.273
 ┃┗━ありがとうございますぅ〜!-投稿者:あいる(12/3-18:09)No.289
 ┣┳Re:ここにいるから お知らせ-投稿者:まっぴー(12/2-10:29)No.276
 ┃┗━ありがとうですぅ。-投稿者:あいる(12/3-18:12)No.290
 ┗┳感想です-投稿者:みいしゃ(12/17-18:06)No.389
  ┗━Re:みいしゃさん、ありがとうございますぅ〜!-投稿者:あいる(12/20-22:02)No.398


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264ここにいるから お知らせあいる E-mail 12/1-22:45

どうも、どうもです。
 以前、猫南の方で掲載させて頂いたものを アップさせて頂きます。
  その時のタイトルは‥愚か者のタワゴト‥だったと思います。(多分)
 よろしければ、お読み下さいませ。(礼深)
ではでは。

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267Re:ここにいるから 1あいる E-mail 12/1-22:55
記事番号264へのコメント
第一部 出会い

「フッ‥どうした、この程度か。リナ=インバースも、たいした事ないな」
  そう言って、その魔族は笑った‥と思う。顔に表情がないから、どうだか分かんない。
  あたしはリィン。リナ=インバースはあたしのオリジナル。そう、あたしはリナ=インバースのコピーだった。だった、
 って言うのは、今はもうそうじゃないって事。あたしはあたし。そう生きるって強さを、あの人達がくれた。
  でも、行く先々で間違われるのよね、実際。似てるのは当たり前だけど‥あの人の噂は、内容が普通でないから 
 困る。知名度もかなり高いし、盗賊なんかは顔も知ってたりするからタチが悪い。何か、魔族にも知り合いがいるって
 話だし。
   ガツッ
「うっ…!」
  そいつはあたしの体を掴むと、やすやすと持ち上げた。ぎりぎりと締め付けられ、あたしは、たまらず声を上げてい
 た。
  あたしだって、そこそこの実力は持ち合わせているが、こいつは結構高位の魔族らしい。一人で相手するには少々
 キツかった。ちょっとした油断が、今の結果を招いていた。
  ここは街道を少し入った林の中。めったに人が通らないわけじゃないけど、そんなに人が通るわけでもない。要する
 に、助けは望めない、って事よ。まぁ、過ぎた事をうだうだ言ってても始まんない。
「そろそろ終りにするか」
  そう言って、そいつは腕を振り上げた。
  やばいっ! こんな至近距離から攻撃されたら、いくらあたしでも無事じゃ済まない…! あたしは思わず目をつむ
 った。
「ブラム・ブレイザー!」
   シュギュァァァーー‥ン
「うおぉぉぉぉーー!!」
  突然上がったそいつの悲鳴と共に、あたしは地面に落とされた。お尻が痛い…。
  それにしても、今の呪文は…?
「おいおい、リナ。こんな所で何やってるんだ?」
  あたしの考えるよりも早く、その声の主は林の奥から現れた。この人は確か‥あの時一緒にいた…。
「ゼ、ゼガルディスさん…?」
「ゼルガディスだ」
  木を伝って、よろよろと起き上がり言うあたしに、彼は溜め息まじりで答えた。何か‥ショック受けてるみたい。気に
 してたのかなぁ…? ま、言っちゃったもんはしょーがない。
「き、貴様、何者だ」
  そうこうしてるうちに、そいつも体制を立て直し、彼の方を睨んでいた。彼は別に慌てる風でもなく、静かに言った。
「答える必要はない。理由は分からんが、魔族が絡んでる以上、放って置くわけにもいかんしな」
「ほぉう‥では、どうすると言うのかな?」
「こうするのさ! アストラルヴァイン!」
  余裕しゃくしゃくで言うそいつに、彼は呪文を唱えながら走り寄る。これは・・魔力剣? そいつは腕を振り上げて、
 これに構える。でも、あたしもそれを悠長に眺めてるわけじゃない。
「はぁっ!」
   ッギィン
  彼が剣を振り下ろし、そいつが受けたその瞬間を狙って、あたしは呪文を放った。
「ダイナスト・ブラス!」
「っな…! うぉぉぉぁぁぁぁーー!!」
   … … …
  そして、辺りに再び静寂が戻った。
  あたしは服の埃を払うと、ペコリと彼に頭を下げた。
「危ない所を、ありがとうございます」
「打ち所、悪かったのか?」
  キョトンとした顔で、彼が言った。どうも、あたしをリナ=インバースその人だと勘違いしているらしい。まぁ、あたし
 の格好はあの時のまんまだし、見分けはつかないと思うけど。
「あの、あたし、リィンです。リナ=インバースじゃありません」
「リィンっていうと‥あぁ、あの時の」
「えぇ。それじゃ、あたしはこれで。本当に、ありがとうございました」
  そう言ってもう一度頭を下げ、あたしはそそくさと歩き出した。別に彼がどうと言うのではなかったが、あたしの過去
 を知っている分、彼も対応しにくいだろう。
  あたしが彼の横を通り過ぎようとした時、彼があたしの腕を掴んだ。
「血、出てるぞ。怪我してるんじゃないのか?」
「え? あぁ、カスリ傷ですから。自分で…」
  あたしの言葉を待たず、彼はリカバリィを唱えていた。
「‥す、すいません」
「いいさ。じゃ、行くか」
  そう言って、彼は歩き始めた。あたしは完全に、抜け出すダイミングをハズしてしまった。
  こうして、あたしと彼ーゼルガディスさんは、しばらく行動を共にする事になったのだった。

 (第二部へ続く)

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268ここにいるから 2あいる E-mail 12/1-23:01
記事番号264へのコメント
第二部 不吉な予感

   カチャ カチャ カチャ…
  ここは、とある村の食堂。あたし達ーあたしとゼルガディスさんーは今、食事中だった。あの後なぜか、一緒に食事
 って事になったのである。
  小ぢんまりとしてはいるけど、料理の味はなかなかいける。今はお昼を少し過ぎたところなので、客は少なかった。
  正直言って、あたしは、彼とあまり話をしたくなかった。‥あの頃の事を、思い出すから。あたしはあたしで、気楽に
 楽しんでるんだけど、やっぱりあの時のショックは大きかった。
「ごちそうさま」
  そう言って立ち上がると、あたしはマントをはおり、テーブルの上に代金を置いた。
「お勘定は、ここに置いておきます。色々‥ありますので、これで失礼します」
「‥あぁ。悪かったな、付き合わせて」
「いいえ。それじゃ」
  あたしは彼に軽く会釈し、出口へ歩いて行った。ヤな奴、って思われたかも知んないけど、ま、いっか。
  小さな村だったが、大通りには結構人通りがある。人にぶつからないように歩きながら、あたしは気付いていた。
 食堂を出てからずっと、同じ気配があたしの後をつけている事に。あの時の魔族クラスの奴じゃなきゃぁ、いいんだけ
 ど…。
  町外れまで来て、あたしは立ち止まって振り返り、気配に向かって言った。
「いいかげん、隠れてないで出て来たら? こっちも、ずっと後つけられてるっての、嫌だし」
「ふぅむ‥気付いておったか。さすがは、かの有名なリナ=インバース殿、とおほめしておこうかのぅ」
  年よりくさい話し方のそいつは、傍らにある植木の陰から、音もなく現れた。姿格好こそ普通の村の老人風だが、
 その目は、とてもそういう風には見えない。
「せっかくほめてもらったとこ悪いんだけどさぁ、あたし、リナ=インバースじゃないわよ」
  身構えて言うあたしに、じいさんは気持ちの悪い笑みを浮かべて言った。
「ふぉっふぉっふぉ。お前さんこそ、何を今更とぼけておるんじゃい?」
「とぼけてるんじゃなくて、本当に違うの!」
  そう言ってあたしは、少しずつ間合いを取った。このじいさんが魔族だったら、ここは近すぎる。仕掛けてきて、何と
 か呪文一つ放ったところで、次の呪文の詠唱が間に合わない。
「ふぅむ‥しかし、それにしては似てるのぅ。双子のようじゃ」
「と、とにかく、あたしはリィン。似てるかどうか知らないけど、人違い、別人よ!」
  あたしが強く言うと、じいさんは困ったような顔をして、考え込んでしまった。あのねぇ…。
  このまま放っといて行こうかとも思ったが、後ろから攻撃なんぞされたら、たまったもんじゃない。しょうがなく、あた
 しはじいさんの行動を待った。
  うす灰色の上下に、短い暗い緑色の貫頭衣をまとい、腰の所を帯で結わえている。腰は曲がっているわけではな
 いが、背の低い、60くらいのこのじいさん。ここまでいかにも村人然としてると、かえってアヤシイというものである。
「そうじゃ」
  思い出したように顔を上げると、じいさんはあたしに近付いて来た。じいさんが何者か分からない以上、油断するわ
 けにはいかない。あたしは身構えた。
   さわっ
「キャッ」
「ふぅむ‥本当に、違うようじゃのぅ」
   どげしっ!
「な、何すんのよっ!」
「こ、これ、年寄りに乱暴はいかんぞい」
「うるさいっ!」
  そう言って、あたしは一歩後ろにさがった。
  事もあろうにこのじじい、あたしの胸を触ったのだ。うむむ、許せん! 一発くらわしちゃる! ‥って、もう蹴ったけ
 ど。しっかし‥それで何が分かるっての?
  そんな事を考えているうち、じいさんは、あたしに背を向け歩いて行っていた。あたしは、文句の一つも言ってやろう
 かと思ったが、やめておいた。君子危うきに近寄らず、ってね。こんなアヤシイじいさんと、好き好んで関わりあいに
 なりたかない。
  じいさんが見えなくなると、あたしは、町の外へと続く道を歩き始めた。

 (第三部へ続く)

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269ここにいるから 3あいる E-mail 12/1-23:08
記事番号264へのコメント
第三部 不幸中の災い

「ディル・ブランド!」
   ドッグワァァァーーン!!
  術者の周りの地面を、ドーナッツ状に吹き上げるこの呪文。今のはちょっとアレンジしてあるので、任意の場所で起
 こす事が出来る。
  数人の盗賊達は、今のであっさり片付いた。あたしは素早く、盗賊達の持ち物を調べ、少しばかりの金貨を頂戴し
 た。こんなあてもない旅をしてると、やっぱり先立つ物が必要になるのである。あの人の知名度(しかも、良くない方
 の)が高いもんだから、ろくな仕事受けらんないし。おまけに今みたく、いわれのない恨みを晴らされそうになるし…。
 まぁ、ちょこっとは、あたしに原因があるかも知んないけど。
  金貨を懐にしまい、あたしが歩き出した、その時だった。
「待ちな」
「まぁた来たぁ…」
「なっ、何だその言い方はっ! こ‥この俺を、誰だと思ってやがる!?」
  知らないって、んな事。そう、また盗賊なのである。別にたいした事ない相手だが、いい加減うんざりしてくる。盗賊
 に襲われるのはいつもの事だが、今日はやけに多かった。
「いつぞやの行為、忘れたとは言わせねぇぜ! リナ=インバース!」
「だから、あたしはリナ=インバースじゃないの。あんたにも、会った事ないし」
  面倒臭そうに言うあたしに、一人盛り上がっている盗賊は、余計腹が立ったらしい。腰に下げた剣を抜き放つと、そ
 の切っ先をあたしに向けた。
「へ、へん。口では何とでも言えらぁ。だがな、俺のこの目は…」
「ディル・ブランド」
   ドッグワァァァーーン!!
「‥お‥のれ‥卑怯…」
「えぇい、うっとおしいっ!」
   げしっ!
  まだ何か言っていたそいつに蹴りをくらわし、あたしはさっさとその場を後にする事にした。いつまでもここにいたら
 また盗賊の相手をするハメになりかねない。
  あたしが顔を上げると、土煙の中に人影が浮かび上がった。
「久しぶりじゃのぅ、娘さん」
「うぅん‥と、誰だっけ、あんた?」
「ひどいのぅ、もう忘れてしもうたか? わしじゃよ、わし」
  そう言って姿を現したのは、例のあのじいさんだった。あたしはもちろん覚えていたが、わざと言ってやったのだ。
  このじいさん、やはりかなり出来るようである。あたしも、いつからそこに立っていたのか分からなかった。あたしは
 嫌な予感がしていた。大抵、嫌な予感ってのは、当たるのがお約束なのだ…。
「あたしに何か用? あたしは、用なんてないわよ」
「ふぉっふぉっふぉ。そう冷たくなさるな。こちらも、少々事情が変わりましてな」
  そっけなく言うあたしに、気持ちの悪い笑みを浮かべ、じいさんが言った。
  ふと、風の唸る音が聞こえ、あたしは慌てて後ろへ飛んだ。
   シュゥン‥カシッ!!
  さっきまであたしがいた地面に、何かが飛んで来たらしい。あたしには全く見えなかったが、地面には、細い針金を
 叩き付けたような跡が残っていた。どうやったのかは知らないが、どこかに隠し持っていて、それを投げつけたのだろ
 う。
「ふぅむ‥なかなかやるのぅ」
  そう言って、じいさんは、じりじりとあたしに近寄って来た。あたしは身構え、呪文を唱えた。
「ライティング!」
「ぬぉぉっ!?」
  じいさんも、ここであたしがライティングを唱えるとは思ってなかったようだ。目を押さえ、かがみこんでいる。今あた
 しが使ったのは、光量最大、持続時間ゼロのライティング。こういう風に、目潰しに使うのにはもってこいの呪文だっ
 た。
  あたしは、道の左に広がる森に駆け込んだ。
   ザザッ ザザッ ザザッ…
  森の中を走るのは、じいさんのあの針金攻撃を避けるためだった。真っ直ぐな道を走ったのでは、後ろがガラ空き
 になってしまう。森の中なら、木々が邪魔になって、そう簡単にはあたしを狙えないだろう、というわけである。
  あたしは振り向きざま、後ろの気配に向かって呪文を放った。
「フレア・アロー!」
「フリーズ・アロー!」
   ッパヒュゥゥ‥ン
「‥!?」
  変な音をたて、あたしとじいさんの放った術は、跡形も無く消えてしまった。一体、どうなってんの?
  あたしが一瞬動きを止めていると、気持ちの悪い笑みを浮かべ、じいさんが言った。
「ふぉっふぉっふぉ。驚いておるようじゃのぅ。呪文の、相互干渉じゃよ」
「相互‥干渉‥?」
「そうじゃ。ふぅむ‥コピーのお前さんは、知らなんだか」
  じいさんのその言葉に、あたしはまた動けなかった。どうして、それを知っているのだろう? 最初会った時は、リナ
 =インバースその人だと思ってたくせに。
  けど今は、そんな事考えている暇なんてない。あたしは再び呪文を唱えようとして、また風の唸る音を聞いた。
   シュゥン チィッ
「痛っ…!」
  あたしはとっさに見を低くしたが、右の頬に痛みが走る。くっそぉ‥イキナリ攻撃するなんて、何て奴なのっ。まぁ、
 あたしも、さっきの盗賊にやったかも知んないけど‥過ぎた事は忘れたわ。
「あたしを、どうするつもり?」
  じいさんとの間合いを取りつつ、あたしは言った。
「殺しはせんよ。‥命令じゃからな」
  そう言うと、じいさんは両腕を横に広げた。何をするつもりだろう? それに、命令 って誰の…。
  そこまで考えた時、あたしの全身を、激しい衝撃が貫いていた。
  徐々に薄れゆく意識の中、あたしは、誰かの呼ぶ声を聞いた気がした。

 (第四部に続く)

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270ここにいるから 4あいる E-mail 12/1-23:14
記事番号264へのコメント
第四部 心の傷

  気が付くと、あたしは薄暗い部屋の中にいた。
  あの後どうなったのか分からないが、どうやらあたしは、あのじいさんにつかまって、どこかへ連れて来られたらし
 い。手を縛られ、天井から吊るされていた。
  暗さに目がなれてくると、ぼんやりと辺りが見える。何かの研究室だろうか? わけの分からんもんがごちゃごちゃ
 置いてあるが、それでも、かなりの広さがあった。
「気が付いたかね」
  突然、奥の暗闇から声がした。目をこらしてみると、大きなテーブルの後ろに、誰かが座っているようだ。顔は、暗く
 てよく分からない。
「誰? あたしに、何の用があるの?」
  あたしは声を低くして、ゆっくり尋ねた。
「名などありはしない。お前を、どうするつもりもない」
  抑揚のない声で、そいつは言った。
  しっかし、人をさらっといて、「目的はない」だなんて、おかしな奴である。あたしは、もう少し何か尋ねてみる事にし
 た。
「どうするつもりもない、って‥じゃぁ、何であたしをさらったりしたわけ?」
「我が下に置いておくためだ」
  相変わらず感情のない声で、そいつは言った。
  声からするに男のようだが、いくらあたしがかわいいからって、こういう過激な行動に出られては困る。
「ねぇ、ちょっと、そう言われても、あたし困るんだけど…」
「お前の意志は必要ない。お前は、ここに在ればよい」
「在れば、って、人をモノみたいに言わないでほしいわね」
  あたしがそう言うと、男はあたしをあざけ笑うような口調で言った。
「お前は本当に、自分が人であると思っているのか? ふん‥愚かな。我々につくられた、ただのコピーの分際で」
  あたしは言葉に詰まった。締め付けられるように、心が痛むのを感じる。震える声を抑え、あたしは言った。
「我々につくられた、って…」
「そうだ。お前は、我等がつくった。その数ある試作品の中で、唯一生き残った、製造No.32のリナ=インバースの
コピー。それがお前だ。つまり私は、お前の創造主、親というわけだよ」
  そう言って、男は笑った。あたしは男を睨みつけ、強く言った。
「あたしはもう、つくりものじゃない! ‥確かに、あたしはあの人のコピーだった。でも、今は違う!」
「何が違うね? お前が、そう思っているに過ぎん。しょせん、ただの独り言だ。お前には過去も未来もない、ただの人
形なのだよ」
「違う! 違うっ!」
  そう叫んで、あたしは唇を噛んだ。悔しさと悲しさに、涙が出てくる。
「ふん‥泣いておるのか? くっくっく‥これはおもしろい」
  笑いながら、男は立ち上がってあたしの方へ歩いて来る。
「お前は今まで、戦ってばかりいたのであろう? 自分の存在を守るために。自分を、認めさせるために。しかし、お前
が一人の人間として生きようとしても、周りはそうさせてはくれなかった」
  今、男はあたしの目の前に立っていた。
  真っ黒い服に身を包み、長い黒髪を後ろで一つに束ねている。年は20代後半くらいだろうが、その目には、何か
 異様な光を秘めていた。
  確かに、今まで、あたしが戦っていない時はなかった。いつも、魔族や盗賊、どこぞの魔道研究者なんかに狙われ
 ていた。でも、それはみんな、あたしという一人の人間のためじゃない。リナ=インバースかそのコピー。それが、普
 段のあたしの姿だった。
  涙に濡れるあたしの顔を、軽く指で上げ、男は続けた。
「コピーは、人になどなれん。私が、お前に休息を与えてやろう。そうすれば、お前はもう戦わずにすむ」
  あたしは何か言おうとしたが、声にはならなかった。
  男は笑みを浮かべ、あたしの耳元で囁いた。
「心配はいらぬ。私と共に、ここに在ればよいのだ」
   ドッグワァァーーン !!
  突然、あたしの横を赤い光弾が過ぎ、爆風があたしの髪を乱した。黒髪の男は、今ので吹っ飛ばされたらしく、そこ
 に姿はなかった。壁か何かの破片が、粉々になって床に飛び散っている。
「大丈夫か?」
  そう言って、あたしの後ろに生まれた気配。その声に、あたしは聞き覚えがあった。
「ゼルガディスさん? どうしてここに…」
「話は後だ。じっとしてろ、今、縄を解いてやる」
  あたしの言葉を遮って、彼はそう言うと、剣を抜いて一閃した。
   シュィィン…! トサッ
「あ‥ありがとう…」
  床に座り込み、痛む手をさすりつつ、あたしは彼に言った。丁度その時、あの黒髪の男の笑い声が、まだ埃の立つ
 瓦礫の山から聞こえた。

 (第五部に続く)

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271ここにいるから 5あいる E-mail 12/1-23:20
記事番号264へのコメント
第五部 決意

「くっくっく‥この私も、今のは少し驚いたよ…」
  男はゆっくりと立ち上がると、彼の方を見た。
「リィン、さがってろ」
  そう言って、彼はあたしをかばうように立った。男は何の反応も見せず、ただじっと彼を見ている。
  服は埃だらけだが、傷一つない。おそらく、とっさに防御結界をはったのだろう。だとしたら、この男もかなりの実力
 者である。油断は出来ない。
「ここは、私めが」
  急に声がしたと思ったら、男の横に、例のあのじいさんがひざまずいていた。一体どこからわいてきたんだろう?
  しかし男は、じいさんを見もせずに言った。
「いや、その必要はない」
「‥ずいぶんと余裕だな。よっぽど自信があるのか‥それとも、もう降参か?」
  構えを崩さず、緊張した面持ちで彼は言った。あたしは立ち上がり、彼の横に並んだ。
「それは私の物だ。どうしようと、私の勝手だろう」
  そう言うと、男はあたしの方に視線を移した。あたしは拳を握り締めると、何も言わずに身構えた。体が震えている
 のが、自分でも分かった。
「そういうわけにもいかんな。俺も一応、こいつの仲間なんでね」
「仲間‥? くふっ‥仲間‥くっくっく…」
  男は初めて感情をあらわし、口を歪めて笑った。
「何がおかしい?」
「くふっ‥おかしいとも。そんなものの、仲間だなどとはな」
  そう言って、男はまた笑った。彼が口を開くより早く、男は続けた。
「だって、そうだろう? それはコピーだ。オリジナルの服製品、単なる動くオモチャなのだよ。それとも君は、それに愛
着を感じているとでも言うのかね?」
  なお続く男の言葉は、あたしにはもう聞こえていなかった。力が抜ける。もう何も考えたくなかった。
  そう、あたしはコピーなんだ…。誰かにつくられて、ここに在る、ただのコピーなんだ…。あたしの心に、闇が満たさ
 れていく。
「ふざけるなっ !!」
  彼の声が、部屋に響き渡った。あたしは顔を上げ、彼を見た。
「こいつは、ここにいる。ここで生きてるんだ! 貴様が何者か知らんが、そんな事を言う権利はないっ!」
  怒りに燃える目で、彼は男を睨んでいた。どうして、そんなに怒っているの? あたしの‥ため?
  ふと、あたしは彼の前に進み、男を正面から見つめていた。心に、強くあたたかい光を感じる。
「そうね。あたしはコピーよ」
「リィン‥お前…」
「違うの。そういうんじゃなくて…」
  驚いた様子で言う彼に、あたしは背を向けたそのままで言った。
「いつもね、あたし、考えないようにしてた。自分が、コピーなんだ、って。考えたくなかったの。自分がさ、なくなっちゃ
うような気がして。‥怖かったわ。あたしはコピーなんかじゃない、普通の人間なんだ、って、思い込もうとしてた」
  言いながら、あたしは一歩、また一歩と男の方へ歩く。
「でもね、今、分かったの。それじゃ何にもならないんだって。そうやって思い込むのは、単に事実を認めたくないだけ。
結局あたし、逃げてたのよね。事実から」
  男はあたしをじっと見ている。その顔は、なぜかとても穏やかだった。
「あなたの言うように、あたしはいつも戦ってたわ。リナ=インバースとか、そのコピーだとか言われてね。その度にあ
たし、それは皆んな誰かのせいだ、って思ってた。オリジナルがいなければ‥なんて思った事もあったわ」
  そう言って、あたしは今、男の目の前まで来ていた。
「コピーは、人にはなれないのかも知れない。だからって、あたしは人形のように生きたいとは思わない。それはあた
しの考え、意志だもの。他人がどう言ったって構わない。あたしはあたしを信じてるんだから」
  言って、あたしはニッと笑ってみせた。
「‥そうか。お前は‥不思議な光を持っているな」
  男は、あたしに微笑み返す。あたしが何か言おうとすると、男は手で印を切り、呪文を唱え始めた。
   ‥全ての力の源よ…
   ‥輝き燃える 赤き炎よ…
  これは・・バースト・フレア !? あたし達ごと吹き飛ばすつもり !? ここからじゃ、外に出る前に爆風で…!
  その行動とは裏腹に、男から、敵意は感じられなかった。
「ねぇ、どうして…」
「どけっ! リィン!」
  あたしが尋ねるのと同時に、彼の声が聞こえた。振り返ると、彼が、剣を抜いて走って来るのが見えた。
「待って! これは…」
   ドンッ!
「キャッ」
  突然背中を押され、あたしは、前につんのめってコケてしまった。顔を上げるあたしの横を、彼が通り過ぎる。
  あたしが振り向いたその瞬間、彼の剣が、男の胸を深々と貫いていた。まるでそれを望んでいたかのように、男は
 優しい微笑みをたたえている。

 (第六部へ続く)

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272ここにいるから 6あいる E-mail 12/1-23:25
記事番号264へのコメント
第六部 旅立ち

「‥私はお前に‥救いを‥求めていたのかも‥知れん…」
  冷たい床に横たわり、男は言った。
「‥お前をつくった魔道士は‥私の‥オリジナル‥私はその‥コピーなのだよ…」
  そう言って、男は自嘲的に笑った。
  あたしは、男の横に膝を付いていた。彼は、あたしの後ろにいて腕を組んでいる。例のあのじいさんは、無言のま
 ま、男の後ろに控えていた。
「‥私は‥悔しかった‥自分が‥コピーである事に‥そして‥怖かった…」
  男はあたしをじっと見つめ、一つ呼吸を置いてまた言った。
「‥私は‥お前のように‥強く…ありがとう‥最後に‥会え‥よかった…」
  男は瞳を閉じ、深く息をはき出した。眠っているような、安らかな表情。しかしもう一度、目覚める事はなかった。
  あたしは男の腕を胸の前に組ませると、そっと立ち上がった。
   … … …
  一時の沈黙を破り、彼が口を開いた。
「あんたは‥どうする?」
「わしはここにおるよ。わしの行く所は、他になぞありゃせんわい」
  そう言って笑うと、じいさんは男の側へ来て、ひざまずいた。
「そう‥か。じゃ、行くか」
「‥えぇ。それじゃぁね」
「お前さん達も、達者でな」
  その会話を最後に、あたし達は屋敷を出た。正門を出て、何となく屋敷を振り返った、その時だった。
   ドッグワァァァォォォーーーン !!
  突然、屋敷が赤い炎を上げて爆発した。まさか‥あのじいさんが…?
  戻りかけるあたしの肩を止め、彼は首を横に振った。その意味は、あたしにも分かっていた。
  青く晴れ渡る空を赤く焦がし、屋敷は、瓦礫と煙にその姿を変えたのだった。
  辺りに小鳥達のさえずりが戻る頃、あたしは彼に言った。
「助けに来てくれて、ありがとう」
「いやなに、ちょっと、その‥何だ」
  彼はあさっての方向を見て、わけの分からない返事をした。テレてるんだろうか?
「あの時‥嬉しかった。本当にありがとう」
  そう言って、あたしはニッコリ笑った。彼はテレながらも、差し出したあたしの手を握り返してくれる。岩で出来てい
 るはずの彼の手は、不思議とあたたかかった。
「それじゃ、あたしはこれで」
「あぁ」
  そう言うと、あたしは彼に背を向けた。
  歩きかけてクルッと振り返り、あたしは彼のもとへ走り寄った。背伸びをして彼の頬に唇を触れ、そっと囁く。
「また、どこかで‥ねっ」
  パッと離れ走りながら、あたしは大きく手を振る。彼は笑顔で、軽く手を上げて言う。
「また、どこかで‥きっとな!」
  爽やかな風が、あたしの髪をなびかせ、彼のもとへと吹いて行く。弾む胸を抱き、あたしは走り続ける。
  今‥あたし、最高に幸せ!

 (おしまい)

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327あいるさんへにふな 12/10-15:12
記事番号272へのコメント
こんにちわ☆にふなです

読ませていただきましたー!
なんかコピーの苦悩って重いテーマみたいですけど、(あ、違います?)
そこはそれ、リィンちゃんの誰かさんを思わせる性格で
問題なしですね。
よかったですぅ☆

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330Re:ありがとうございますぅ。あいる 12/10-23:43
記事番号327へのコメント
どうも、どうもです。
 ご感想、ありがとうございますっ! 遅くなって、申し訳ありません〜。(謝)
 コピー‥重いテーマ‥そうなんです。自分なりに色々な考えが交錯して、
  悩みました。アレでも一応。(汗笑)
 にふなさんのツリーの方には、クダラナイものを付けさせて頂き 本当に
  ありがとうございました。
  ボクが考え付きました 他のものが、小猫南の方にアップしてあります。
   もしよろしければ‥どうぞ。(宣伝ですぅ〜すいませんっ)
 ありがとうございました。
ではでは。

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273再掲示お疲れさまでした松原ぼたん E-mail 12/2-00:03
記事番号264へのコメント
 再掲示お疲れさまでした。

 いや、実はあたしもうっかり保存せずに沈めてしまいましてね。
 また見えてらっきい(笑)。おもしろいもん。

 ではまた、ご縁がありましたなら。 

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289ありがとうございますぅ〜!あいる E-mail 12/3-18:09
記事番号273へのコメント
どうも、どうもです。
 ちょっと手を加えましたので、再掲示‥としませんでしたが
  お読み下さってありがとうですぅ〜! (感激)
  レス遅くなりました、すいませぇ〜ん。
 あ、いえ、これにはお返事下さらなくとも 結構ですよぉ。
  どんどん 続いて行っちゃう。(笑)
 ありがとうございましたっ。(礼深)
ではでは。

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276Re:ここにいるから お知らせまっぴー E-mail 12/2-10:29
記事番号264へのコメント
あいるさんは No.264「ここにいるから お知らせ」で書きました。
>どうも、どうもです。
> 以前、猫南の方で掲載させて頂いたものを アップさせて頂きます。
>  その時のタイトルは‥愚か者のタワゴト‥だったと思います。(多分)
> よろしければ、お読み下さいませ。(礼深)
>ではでは。

承知しましたーーーー☆
まっぴーーーーーーーよりぃ

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290ありがとうですぅ。あいる E-mail 12/3-18:12
記事番号276へのコメント
どうも、どうもです。
 お返事下さって、ありがとうございますっ! (感涙)
  遅くなって、申し訳ありませんでしたぁ〜。
 これからも、よろしくですぅ。
ではでは。

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389感想ですみいしゃ E-mail 12/17-18:06
記事番号264へのコメント
あいるさん。私の小説の感想をありがとう!
あいるさんやほかの皆さんの反応がなかったら書き切れませんでした。
本当にありがとうございます。
それではリィンちゃんの話の感想をば・・・。
「リィン」って読んだとき私、道原かつみ先生のジョーカーシリーズを
思い出していまいました。
主人公が「リィン・六道」で若い男の刑事さん。知ってるかな〜?
でも、あいるさんのリィンちゃんはか弱き乙女なんだよね。
オリジナルがアレでも(笑、ごめんリナ)。
アメリアには申し訳ないけど、ゼルとリィンのカップルはいいと思うよ。
ゼルアメはどちらかというと兄妹って感じがするし・・・でもそのカップルも好きなんだけど、私(笑)。
TRYの4話か5話でリナがゼルに抱きついたのを「あ゛っ・・・」って感じで見てたアメリアが何とも・・・。
で、だ。
私はゲームの方やっていないからリィンちゃんをつくった例の男が何者かは知らないけど、コピーさん、死んじゃったんだねぇ。惜しい人を・・・。コピーレゾさんが思い出されました。
無印、レゾさんよりコピーさんの方がくらっと来ました。私には。
もっとも最後の方で、でしたけど(笑)。
なにも同じように殺すことは・・・と言ってもそれはお話の流れって奴ですね(笑)。
自分が本物かコピーかって悩むってことは、すでに自我意識があるってことで
もうりっぱに一つの人格を持った生物ですよぉ。
「我思う故に、我あり」です。
リィンちゃんのように新しい人生を踏み出せたらよかったのにねぇ・・・。
ところでコピーにはクリスタルがはめ込まれていたんですよね?
リィンちゃんにはどこにあるの? まさかあのリナの二つのほくろ?
もしや、魔族が混ぜられててクリスタルが必要ないとか・・・。
リナは魔王1/7かもしれないって話だし・・・。
わからないけど、もしかしたらリィンちゃんで年賀状行くかもしれません(笑)。
住所は・・・一坪さんに聞こうっと(年賀状大作戦、参加したんですよね?)。
わからなかったらイラストギャラリーに載せときます。
ではでは(あいるさんの真似・笑)〜、これからもよろしく〜!!!!

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398Re:みいしゃさん、ありがとうございますぅ〜!あいる 12/20-22:02
記事番号389へのコメント
どうも、どうもです。
 ご感想、ありがとうございますぅ。
 ガーヴさんの小説‥いえいえ、貴女様のお力のたまものですよ。
  こちらこそ、ありがとうございました。

 ジョーカーシリーズ? うぅん、ちょっと分かりません〜。少女漫画系列ですか? (違ったらスイマセンッ)
 リィンちゃん、ボクも気に入ってます。アメリアさんも大好きです。ゼルガディスさんも。レゾさんも。(爆)
  もちろん、例の男 も。スレイヤーズが大好きなんですね。(って、自分で言うか?)
 同じ様に殺しちゃって‥すいません。実は、「ここにいるから」例の男オリジナル時代から の話が
  あったりします。トツゼンとち狂って、どっかにアップするかもしれません。(汗笑)
 コピーのクリスタル‥ゲーム版で それがあったのか、ボク 知らないんですよ。あったんでしょうか…。(ドキドキ)
  あれはその、操るためにあったものですから‥おそらく、リィンちゃんには なかったのでは、と…。(←言い訳)

 年賀状大作戦? 何ですか、ソレ?
  ボクの住所は‥どこにもお知らせしておりませんが…。
  め〜るあどれす でしたら、お教えできますけど。

 長々と、失礼しましたです。ご感想、本当にありがとうございましたっ。(嬉)
ではでは。