◆-分割しました-投稿者:みいしゃ(11/23-23:13)No.145
 ┣┳もう一つの夢の彼方15-投稿者:みいしゃ(11/23-23:14)No.146
 ┃┗━Re:もう一つの夢の彼方15-投稿者:松原ぼたん(11/23-23:33)No.149
 ┣┳もう一つの夢の彼方16-投稿者:みいしゃ(11/29-18:02)No.215
 ┃┗━Re:もう一つの夢の彼方16-投稿者:松原ぼたん(11/29-19:47)No.216
 ┣┳もう一つの夢の彼方17-投稿者:みいしゃ(12/1-07:32)No.235
 ┃┗━Re:もう一つの夢の彼方17-投稿者:松原ぼたん(12/1-10:00)No.236
 ┣━もう一つの夢の彼方18-投稿者:みいしゃ(12/12-20:11)No.344
 ┣━もう一つの夢の彼方19-投稿者:みいしゃ(12/12-20:12)No.345
 ┣━もう一つの夢の彼方20-投稿者:みいしゃ(12/12-20:13)No.346
 ┣━もう一つの夢の彼方(結末その1)-投稿者:みいしゃ(12/12-20:14)No.347
 ┗┳おわりに-投稿者:みいしゃ(12/12-20:20)No.348
  ┣━Re:もう一つの夢の彼方-投稿者:松原ぼたん(12/13-10:12)No.349
  ┣━Re:お疲れ様でしたぁ〜!-投稿者:あいる(12/13-16:24)No.354
  ┗━Re:おわりに-投稿者:ブラントン(12/22-16:57)No.412


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145分割しましたみいしゃ 11/23-23:13

分割しました。
後もう少しで終える予定です。
ラストは決まってるんですけどね・・・・・・・。
無謀なことをしようと思っております(汗)。
では、お楽しみください。

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146もう一つの夢の彼方15みいしゃ 11/23-23:14
記事番号145へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(15)〜


 近い
 近づいてきている

 永い眠りの終わりが近づく
 
 目覚めさせし者が
 来た



 灯りが揺れていた。
 この辺りは劣化が進み、明かりを灯す機能を失っている。
 ガーヴとカディスの持つ、人工の光のみが、頼れる光源だった。
「しっかし、だだっ広い遺跡だぜ。まだ奥がありやがるのか?」
「うーん。僕もここら辺は来たことがないから・・・・」
「50年も住んでてか?」
 ガーヴは不機嫌だ。
 先程からやたらとカディスにヤツ当たっている。
 理由は、単純明白。瞬間移動が出来ないことにある。表の砂漠だけでなく建物の中でも、空間のゆがみは存在していた。
「かったるいッッ!!!! このまま穴ぶちあけた方が早ぇ!!!!」
 そう言ったガーヴを何度カディスは泣いて止めたことか。
「・・・・・50年住んでたって分からないもんはしょうがないだろ・・・・・」
「・・・ちっ。しゃぁねぇ。ほら、次行くぞ!!!!」
 どかっっっっっ!!!!
「あああっっっっっ!!!!」
 ガーヴは目前に立ちふさがる扉をいとも簡単に蹴破る。
 止める暇もなかった。
 ----やっぱりこの人、破壊大魔王だ・・・・・。
 はう。
 カディスは深いため息を付いてガーヴの後に続き中に入っていった。
 そこは、いわゆる神殿と呼ばれた物だったらしい。
 見事な彫刻も永い時の流れには勝てず、ひび割れ、欠け落ちている。中央を突き抜ける通路の両側には整然と並んだ長椅子。通路の行き止まりには、何かが祀られていた祭壇があった。
 しかし、もうそこに主はいない。
 静寂が彼らを出迎える。
「神はいなくとも教会はあるってことかい?」
 ----信じるから神は存在する。人間あってこその『神』・・・か。魔族もまた同じだろうがな・・・・。
 マティは『魔族』も世界を維持するために必要な物だと言った。
 だが、
 では『世界』は何のために存在するのであろう。
 ----んなこと知るかッ!!!!!
 そう言うことはマティにでも語らせておけばよい。ガーヴは自分が思い悩むことではないと、その考えを一蹴した。
 ぐるりと見渡す。
 闇に閉ざされた神殿の中をサーチライトのように明かりがうごめく。
「上にも下にも横にも広がってやがるか。要塞って言っても過言じゃねぇ」
 この1ヶ月、地上の建物はあらかた探索し終えていた。残るは地下のみ。それも遺跡の中心にそびえる塔のこの地下は、他のどのものよりも広く深い造りになっていた。
 ガーヴは祭壇へ近づき明かりを当てた。
 教典らしき物がそのままの姿でぽつんと取り残されている。
 ぱさぁ・・・・
 手に取ったとたん、それは砂で出来た彫刻のようにもろく崩れ落ちた。
「ずいぶんと年季が入ってるな。・・・・カディス? 何してやがる?」
「ガーヴさん、これ、ちょっと・・・・」
 祭壇の奥でかがみ込んでいたカディスがガーヴを手招きした。
 少年の照らす光の先は何の変哲もない壁がある。しかしよく見ると、装飾にうまく誤魔化されてはいるが、うっすらと切れ目らしき物が入っていた。
 怪しんでくれと言っているような物だ。
 カディスは恐る恐る押してみたが、何も起きない。
「・・・・・」
「・・・・・」
 二人の視線が絡み合う。
「わっっっっっ!!!」
 ぐぅいッッッッ!!!!
 首根っこを捕まえて、カディスをどかすと、ガーヴは片方の手に気を集めだした。
「ガーヴさぁぁぁぁぁんっっっ!!! また何するんですかぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッッッ!!!!」
「黙ってやがれッッ!!!!!!」
「黙ってられませんっっっっ!!!! また門番のようなことになっちゃったらどーするんですかぁ゛ぁ゛ぁ゛っっっっっ!!!!!」
 宙づりにされたままカディスが暴れる。が、ガーヴは全く無視して集めた気を壁に向かって放った。 どばこぉぉぉおおおぉぉぉおおおおおんんんん!!!!!!!!!
 おおおおおおぉぉぉぉぉんんん・・・・・・・・・・・・
 おぉぉぉぉぉんんん・・・・・・・・・・・・
 んん・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッッッッッッ!!!!!!!」
 カディスの悲鳴と爆音がこだまする。
 びしぃぃぃッッッッッッッ!!!!!!!
「あん?」
 もうもうと立ちこめる砂ほこりの中、爆音とは別の音にガーヴは耳を傾けた。
 びししししいししいぃぃぃぃぃッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!
 二条の光しかない暗黒の部屋。響きわたる不気味な音。
「あ゛あ゛あ゛・・・・・やっぱりこうなるんだ・・・・・」
 ----こんな老朽化した所であんな力放出したら当然こーなる事分かり切ってるのにぃ・・・・・。
 頭を抱えるカディス。
「のわッッッ!!!!!!!!」
「ひっっ!!!!」
 次の瞬間、
 床が浮き上がったかと思ったら、二人は空中にいた。
「「うわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
 ガーヴとカディスは声をハモらせて、奈落の底へと落ちていった。


 ちかり。
 赤く灯る点。
 ちかちかと星の瞬きのように点滅する。
 パリパリパリ・・・・・
 乾いた音をさせて、次に青白い明かりが儚げについた。
「くっ・・・・・・おりゃぁッッッ!!!!」
 がっごぉぉん!!!
 巨大な瓦礫をはね除ける。そこから現れる赤い髪。
「ふう、俺としたことがドジッちまったぜ。・・・・おい? カディス?」
 しぃんと静まりかえる辺りからの返事はない。
 ----まさか・・・・・・埋まっちまってるってこたぁ・・・・・
 辺りに気を巡らし少年の気配を探る。どうやら、ここには落ちてこなかったようだ。
「ま、ぼちぼち探すか・・・・」
 瓦礫の破片をはたき落としてガーヴは立ち上がった。
 落ちてきたところはドーム状になった、広さおよそ10m四方の部屋だ。上を見上げると、今落ちてきた穴が遙か上空まで延々と続き、闇の中へと吸い込まれている。
 前方には明かり。
 ガーヴはそちらへ足を向けた。
 部屋を一歩出る。かなり広い通路だ。両側の壁と天井に整然と並らぶ四角いパネルが、青白い光を放つ。
 床も壁も天井も、前世界でも現世界でも見たことのない材質で作られている。壁に近づいて触ってみると、ひやりとした固い感触が返ってきた。
 ----放棄されてかなり経ってやがるのに、この新しさは何なんだ?
 淡い象牙色の壁は輝きを失ってはいない。今まで見てきた遺跡の建物とは明らかに違うことが分かった。
 ----もしかすると・・・・これが『竜人族』の遺産ってヤツか????!!!
 目的に一つ近づいた。
 ばしぃっっっ!!!!
 ガーヴは両手を叩き合わした。
「よっしゃぁ!! これが『雨降って地固まる』ってヤツだぁッッッッ!!!!」
 ガーヴ、それはちょっと違う。言うなら『災い転じて福となす』、もしくは『棚からぼた餅』か。
 この世界に『ぼた餅』が存在するかはさておき、ガーヴは通路に沿って歩き出した。
 静かな通路にガーヴの足音だけが響く。
 無人の廃墟。
 なのに建物だけはいかにも新しく、人々の雑踏が聞こえてきても良さそうだ。でもそれはない。このちぐはぐさが薄ら寒い何かを感じさせる。
 しばらくして通路は扉に阻まれた。
 壁とはちょっと違う、青白い金属光沢を持つ扉。取っ手やその類の見あたらないところを見ると別の方法であけるらしい。
 ----ちいッッ!! またこれかよッ!!
 扉の横には、この遺跡の入り口で見た四角いプレートとよく似ているものが付いていた。違うのは薄桃色の円盤ではなく、縦に一筋の溝が掘られていることだ。そこに何かを差し込むようになっている。
 ----カディスもいねぇことだしよ・・・・・。
 ガーヴは躊躇することなく扉に気の塊をぶち当てた。
 どごおおおおおぉぉぉぉんんんッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!
「ふっ。ちょろいもんよ・・・・・・いっ?」
 ガーヴは目を見開いた。
 扉は、わずかに凹んでいるだけでびくともしていない。
「なッ生意気なッッッッ!!!!!!」
 はぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!!!!
 赤い髪の毛が気の発生させる気流に乗って舞い上がる。
「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!」
 気合いを入れて連発。
 爆音が通路に轟き渡った。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 確かに、扉には放った気の数だけの凹みは付いている。
 が、それだけだ。
「・・・・・・・・・・・・」
 ----こっ・・・・・・この俺様の攻撃を受け付けないだとぉッッ???????!!!!!!!
 どんっっ!!!!!!!!!
 拳で扉を叩く。
「ふっ・・・・・ふふふふふふ・・・・・・・」
 ----高々、扉の分際で・・・・・生意気にも程があるッッ!!!!!!!!!!
 ぐわきっっっ!!!!
 ガーヴは扉と扉のわずかな隙間に剣を突き刺すと、ぐりぐりとねじ込み隙間を広げた。そして指を差し込み、腕に力を入れる。
「ぐっ・・・・・・・・が・・・ああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」
 ぐぐぐぐぐぐぐぐ・・・・・・・・・・
 腕の筋肉ははち切れんばかりに盛り上がる。
 僅かずつ、僅かずつ扉は左右に開いてゆく。
「お・・・おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」
 雄叫びと共に、扉は完全に開ききった。


〜ところがどっこい生きていた(16)〜へ続く

な・・・・なんかガーヴ様がだんだんと筋肉馬鹿になってゆく・・・・・。
いいのか? このままで????!!!!!

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149Re:もう一つの夢の彼方15松原ぼたん E-mail 11/23-23:33
記事番号146へのコメント
 面白かったです。で、マティさんは?(笑)

>な・・・・なんかガーヴ様がだんだんと筋肉馬鹿になってゆく・・・・・。
>いいのか? このままで????!!!!!
 ・・・・なんか今回はちょーっと否定できないものがありますね(笑)
 カディスは相変わらず不幸だし。旗から見てる分には楽しい類の不幸ですけど(笑)。

 後もう少しで終わるんですか? ラスト決まっているそうで。楽しみにしてます。
 続きを感張って下さい。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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215もう一つの夢の彼方16みいしゃ 11/29-18:02
記事番号145へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(16)〜

 扉の向こうはちょっとした広間になっていた。
 ほのかな明かりに中央の噴水の水が煌めいている。
 さらさらと流れる水の音が、心地よい。
 なのに。
 なのにこの薄ら寒さは何だろう。
 ----なんだ? ここは?
 特に変わったところは見あたらない。円形の部屋の中央に円形の噴水。室内にも関わらず緑の木々も生い茂る。
 ガーヴは用心深く噴水の周りを回ってみた。
「! 誰だッッッ!!!!」
 何かが、動いた。
 鋭い視線を投げかける。
 ----いない? いや! 確かに今、何かが動いたはずだ!!!!
 目を凝らして見つめる先には、まばらに植えられた木しかなかった。カディスかとも思ったが、どうも違う。それにこの感じは生きたものの気配ではない。
「まぁ、廃墟だからよ、亡霊がいたって不思議じゃねぇが・・・・・おいッッ!!!! 隠れてねぇで、出て来やがれッッッ!!!!!!!」
 ひっそりとした広間にガーヴの声がこだました。
 動きは、ない。
「ちぃッ!!!!」
 もう一度辺りに目を配るガーヴ。
 ぱしゃん。
 微かな音。
 ----今のは空耳じゃねぇっ!!
 音の方向へ駆け出す。
 林になった木々をすり抜けると、思わぬ光景が目の前に展開していた。
 ----ここは、地下・・・・・だよな?
 この砂漠の惑星で、決して見ることの出来ない光景。
 巨大な樹木は絡み合い生い茂る。
 間を流れる水のせせらぎ。
 緑。
 森。
「・・・・・・」
 しばし見とれる。
 忘却の彼方に置き忘れてきた記憶。
 ----違うな。
 ガーヴは鼻を一つ鳴らした。
 違う。
 違った。
 記憶にある光景とは違っていた。
 ----ここは死の世界だ。死んでやがる。憎しみもなけりゃ喜びもねぇ。ただのまがい物だ。
 止めていた足を踏み出して、せせらぎの辺に近づく。
 そこには「声」がなかった。
 鳥の声。獣の声。虫の声。木々のざわめき。
 ただ水のみが無機質に流れる。
 ぱしゃん。
「!」
 今度ははっきりと聞こえた。
 ガーヴは視線を移した。
「カディス?!」
 ----こんな所にいやがったのかっ!!!!
 大きな木の前に立ちすくむ少年を見つけ、駆け寄ろうとする。
 が、足を止めた。
 少年は一人ではなかったのだ。
『どうしても、協力していただけないのでしょうか?』
『誰があなたなどに!! 馬鹿を言わないで!!!! 我が一族を葬り去ったあなたに協力しろと???!!!』
 ----何もんだ?!!!
 カディスの視線の先に、2人。いや、3人、いる。
 こちらに向かって叫んでいるのは女だ。
 長い、薄緑の髪と琥珀色に輝く瞳。どこかで見たことのある顔立ち。彼女の足下にはまだ幼児と言っていいほどの子供がうずくまっていた。
『・・・・・・・協力していただければ、貴女と・・・貴女のお子さんも助けると言っても・・・ですか?』
 こちらからは背中しか見えない人物が言う。
 紫の衣に身を包み、腰までの髪を後ろで一つにまとめている。少しの癖もないその髪は限りなく黒に近い緑色であった。
『その言葉が信じられると思って??!!』
 女の瞳は憎悪に満ちていた。
 ----一体こりゃ何だ???!!!
 自分たちを無視して進む会話にガーヴは面食らった。と、同時に腹も立ってきた。
「おいっ! お前ら一体何の話してやがるッッ!!!!」
 どかどかと歩み寄って背を向けている人物の肩をわしづかむ。
 ----へ?
 すかり。
 つかんだはずの手は空を切った。
 いや。
 正確にはその人物にめり込んだと言える。まるで水の中に手を入れたように、何の抵抗もなく向こう側に突き抜けていた。
 ----・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なに?
 ガーヴの手が突き抜けたまま、彼は親子の方へ一歩足を踏み出した。
『近づかないで!!! 汚らわしい!!!!』
 こおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ・・・・・
 母親の全身から揺らめく気が立ち上った。
『おやめなさい。お子さんまで巻き込む気ですか?』
『あなたの道具として生き延びるぐらいならば、ここでこの子と共に死んでやるわっ!!!!!』
『・・・・・愚かなことを・・・・・』
 最後の言葉はそばにいたガーヴにしか聞こえない呟きだった。
 女の白い腕が青黒色に変化する。同じくして彼女の背中から現れたのは暗青色の翼。
 黒い羽が舞い散る。
 ざしゃぁぁっっ。
 風を切って彼女の爪が緑の髪の人物に襲いかかった。
 あわや!
 その爪はガーヴまでもを襲う。
「・・・・・・・・・」
 しかし、
 彼はよけなかった。
 女の体はガーヴの体をすり抜けていったのだ。
 体はなんともない。
 振り向いて戦う二人を眺める。
 彼らにとってガーヴとカディスは存在していないものであった。
「カディス! これはどーゆーことだッッ???!!!」
「・・・・・カルア・・・・」
「カルア?」
 少年の腕をとって問いただそうとしたガーヴ。
 その時。
 
 ひっく・・・・ひっく・・・・・・・

 子供のすすり泣く声が聞こえた。
 泣いているのは誰か。

 手の中の腕が固くなるのを感じて、ガーヴはカディスを見下ろした。
「なんで・・・どうして・・・・?」
「は?」
 カディスは目を見開いて凝視していた。
 僅かに震えがガーヴに伝わる。
 少年の視線の先に目をやると、辺りは一変していた。

 木々は黒こげ、立ちこめる煙。
 鼻につく臭い。

 赤いシミ。
 点々と浮き上がる。
 行き着いた先は、薄緑の髪の下。
 全身をずたずたに引き裂かれて、彼女は息絶えていた。

 びくん。

 カディスの体が大きくふるえた。
「お・・・おい? カディス?」
 ガーヴはカディスの目の前で大きな手を振ってみた。
 反応はない。
 彼には目の前の凄惨な光景しか映っていなかった。

 知らないはずの光景。
 だが、
 しかし、
 知っている。
 こちらに向かって歩いてくる人物。
 濃い緑の髪をほつれさせて、傷を負ってはいるものの、確かな足取りで。
 長いとき共に暮らしたひと。
 彼の視線は幼子に向けられていた。

 ピシッ!

 ----見つめられているのは・・・僕?

 涙をあふれさせながら彼を見る幼子。
 目を見張るカディス。
 二人が重なる。
『さあ、私と来なさい。あなたに残された道は他にはないのです』
 差し出される手。

 ----こいつ人間じゃねぇ!
 ガーヴは改めて近づいてきた人物を観察した。
 指は確かに人間と同じく5本ある。が、人には水掻きなどはあり得ない。彼の指の間には薄い膜のような水掻きが存在していた。
 肌の色もどこかぬめりとしていて青みがかっている。
 ガーヴがこの世界で見てきた中に、共通する生き物は思い当たらなかった。
「違う! こんなの違うっっ!!!!」
 カディスは腕をつかんでいるガーヴの手をふりほどこうとした。
「カディス! これは幻だっっ!!!! 惑わされるんじゃねぇッッ!!!!」
「幻・・・じゃない・・・・・・・・・違う・・・・・・」

 ビシッッ!

 額を押さえてカディスはうずくまった。
「カディス????!!!!」
「違うんだ・・・・だってカルアは・・・・僕を育ててくれてたんだ・・・・・・そんなはず・・・・・」
 ----そんなはず・・・・
『あなたはあなたの母親から卵を託されて、私が育てたのですよ』
 カディスに語ったカルアの言葉がよみがえった。
 ----あれは、嘘だったの? どうして? なぜ?
『私にはあなたが必要なんです』
 ----だから僕を育てていたの?
『私が・・・・・・・・・・・・る為に・・・・』
 ----何を? 何のために?
 ----僕は母さんなんて知らない! 覚えていない!! カルアが言ったように僕は卵から生まれて・・・・・・

 違う。

 心の片隅で何かが叫んだ。

 違う。
 僕は知っていた。

 パキィィィン!!
 少年の額にはめられた紅玉が砕かれる。
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」

 カディスからあふれ出す気。
 ガーヴの腕が弾かれた。
「ちぃっ! 何とちくるってんだッッ!! ・・・・・・・おい??!!」
 カディスの輪郭がぼやけはじめている。
「待てッッッ!!!!! カディスッッッッ!!!!!」
「よせ! やめるんだ!」
 ガーヴの言葉に被さる声。
 2人の言葉を聞くまでもなく、カディスの姿は煙のようにかき消えた。


〜ところがどっこい生きていた(17)〜へ続く

あーしんど。
今回もあのお方が出ず仕舞い。
ごめん。ぼたんしゃん・・・・・・。

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216Re:もう一つの夢の彼方16松原ぼたん E-mail 11/29-19:47
記事番号215へのコメント
 面白かったです。

 ををを、カディスの過去が明らかに・・・・・!?
 やっぱりろくな目に遭ってないんでやんの。
 彼は幸せになれるのだろーか。

>ごめん。ぼたんしゃん・・・・・・。
 いいえぇ(笑)。

 続きが気になります。頑張って下さい。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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235もう一つの夢の彼方17みいしゃ 12/1-07:32
記事番号145へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(17)〜


「マティ・・・・いつの間にそこにいやがったッッ!!!!」
 くるりときびすを返して、ガーヴは被さった声の主に向かい合った。
 マティがガーヴの入ってきたのとは別の方角から歩いてくる。
「ここに来たのはつい先程だ」
「どうやってッッ!!!!」
「向こうにちゃんとした入り口があったから」
 マティは後方を指さす。
 ----ちゃんとした入り口だとぉぉッッ??!!
「んなものあったんなら何で教えねぇッッ!!!!!! 今まで何してやがったッッッ!!!!!」
 思わずマティの襟首をひっつかむ。
「それを調べていたんじゃないか」
 そう。マティはここに来た当初からカルアの書斎だという部屋に入り浸って何かしていたのだ。
 だから、ガーヴとカディスのみで遺跡の調査をしていたのである。もちろん調査の内容はマティにも話してはいた。しかし、マティが何をやっているか、詳しいことは2人には分からなかった。
「教えろと言っても、それが分かるまでに君がおとなしく待っていられるかい?」
「うっ・・・・」
 ガーヴは言葉を詰まらせた。
 彼の手を襟から放し、すたすたと大きな木の根本まで歩み寄るマティ。
 その後ろ姿を見てガーヴは吐き捨てるように言った。
「見ていやがったんだろうッ?! アレをッッ!!!!!!!!!」
 びしぃぃっと今まで展開されていた光景に指を指す。
 だが、今はしんと静まり返り、水のせせらぎしか聞こえてこない。
 カディスが消えたと同時にあの光景もまたぷっつりと消えてしまっていた。
「最後の方はね。どうやらここら辺が空間のゆがみの発生源らしいな」
「発生源? どうして解るッ!!!!」
「ここまで来ると時空そのものが歪んでるからだ」
 ----また、『時空』ってヤツかよッッ!!!
 渋い表情のガーヴに、振り向くマティ。
「先程の光景はここであった事実だ。時空が歪んでるって言うのは『空間』だけでなく『時間』も歪んでいると言うことだよ。ガーヴ」
 つまり、あの光景は実際に現実のものであり、ガーヴ達は過去を見ていたと言うことだ。
「彼らにとっては現在。だが我々にとっては過去・・・・今見たのはそれだ」
「・・・・・・」
 ----あれがカディスの過去? そりゃ、人間に滅ぼされたっつーんだから、それ相応の暗ぇ過去があるこたぁ想像できるが・・・・親の仇に育てられていたのかよ。あいつ。それも道具として・・・・か?
 元魔族だったガーヴだが、ホンの少し先程のカディスの反応が解った気がした。
 ----おいおい、俺は相当、人間じみてきているらしいぞ。
 ガーヴは思った。
 それが良いことか悪いことか・・・・判断は出来ないが。
「一つ疑問だ。何であれが事実だと解る?」
「・・・・これだよ」
 マティは懐から古ぼけた手帳を取りだし、ガーヴに差し出す。
「何だこりゃ?」
「カルアの日記」
「・・・・・・・お前ぇ仮にも『導師』だろうが。人の日記盗み見ていいもんか?」
 そう言われてマティはガーヴをじっと見上げた。
 沈黙。
「何だ・・・・・何が言いたい・・・・」
 なぜか身構えるガーヴ。
 ふと笑い、マティは口を開いた。
「魔族だった君がそんなこと言うとはな。それに私は自ら『導師』と名乗ったことは一度もないよ」
「はっ、残念だったなッ! 俺は所詮純粋な魔族じゃねぇ。人にはばらしてほしくねぇ秘密ってモンがありやがる!!!! それをセコセコと嗅ぎ回るのは性にあわんッッ!!」
「良い心がけだ。しかし、日記を付けると言うことは『誰かに聞いてほしい』という心理の現れでもあるんだがね?」
 ----こいつは・・・・・・・・・・・トンでもねぇ妖怪だッッッッ!!!!!! 要するに自分を正当化してるだけじゃねぇかぁ???????!!!!!!!!
 彼のそんな思考をよそにマティは続けた。
「ま、この際、礼儀がどうのと言うことは棚に上げておくしかない。カルアという人物はすでにいないし、それにこの遺跡の調査報告書でもあるんだよ。これは」
 マティは手帳を掲げてガーヴに見せた。
 恐らくこの青年はそこからこの場所に通じる「正当な道」を知ることが出来たのだろう。
 そしてこの遺跡に秘められた謎も。
「・・・・・・」
 ガーヴ達はそれこそを探し求めていたのだ。
 だから言葉に詰まった。
「・・・・・・んなこたぁいい!!!! カディスはどうなったッッ???!!!」
 思い出したかのように、ガーヴは吐き捨てた。
 マティも腕組みをし、難しい顔をした。
「・・・そうだ、忘れるところだったよ。さて、どうしたものか・・・・・」
「・・・・・・・・どうしたものか・・・・って、おいっっっ!!!! おめぇ知ってるんじゃねぇのかよッッ????!!!!」
「・・・・知っているわけないだろう? このねじくれ曲がった時空間で、瞬間移動したらどうなるか解ったものじゃない」
 ----なにィィッッッ???!!!!! 俺はてっきり・・・・冷静に俺の相手なんぞしてるから知っているものとばかり・・・・・
「冗談じゃねぇッ!! んなことしてる場合じゃねぇッッ!!!! 早く探しださねぇと・・・・」
「どうやって?」
「どーーーーやってってなぁッッッ!!!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ----どーやって探すんだ?
 ガーヴははたと気が付いた。
「空間のみが歪んでいれば場所を探せばいいが・・・・・・時間まで歪んでるとなると・・・・下手をすると過去や未来に飛んでしまっていることもあり得る」
 それをどうやって探せと言うのだ、とマティの目は言っていた。
「だから、慎重に行動するようにと言っておいたのに・・・・」
「・・・・・・・てめぇがちゃんと説明しねぇからだッッッッ!!!!!」
 ため息を付いて頭を抱えるマティにどつくガーヴ。
 マティは彼を横目で見上げた。
「言わせていただければ、説明したところで君がちゃんと覚えていたかね?」
「・・・・・・・それは暗に俺が馬鹿だと言いてぇのか???!!!」
 ガーヴは拳を握りしめた。
 やれやれとマティはもうひとつため息を付いた。
「馬鹿とは言ってはいないよ。君は決して物覚えが悪いわけではない。ただ、性格が大雑把なだけだ」
 ----絶対ほめちゃいねぇーーーーッッッッ!!!! こいつはっっっっ!!!!!
 殴り倒したい衝動を辛うじて抑える。
「しかし、これで『竜人族』が本当に存在していたことがわかったな。もちろん彼らが支配したという『次元回廊』の存在も出任せではない可能性は出てきた」
「今はそれよりカディスの方が先だろッッ!!!!」
 ----こいつ絶対俺より魔族だッッッ!!!!!
「・・・・・・・とにかく建物の中から探すほかないだろうね」
 クスリと笑うと、マティはさっさと歩き始めた。
 ----な・・・なんだその、その笑いはッッッ!!!!!
 馬鹿にされたような、しょうがないと苦笑されたような、どちらともとれない笑み。
 反論する暇もなくマティは先を行ってしまっている。
 ちッと小さく舌打ちをしてガーヴは彼の後を追った。



 ----ここはどこだろう・・・・・・・・
 ぼんやりと思う。
 遠くに人に声が聞こえる。
『何故だ!!!! 何故動かない?!』
 ----だれ?
 両手の拳を機械めいたパネルに叩き付ける人物。暗緑色の髪の毛がさらりとなだれ落ちた。
 ----カルア?
『理論上はこれで良いはずなのに・・・・・・何が足りないのだ?!』
 少年はじいっと、眼下で頭を抱えている彼を見つめていた。
 やがて彼は疲れたように床に崩れ落ち、嗚咽を漏らしはじめる。
『なぜだ・・・・私は何故この世界に来てしまったのか・・・・・』

 ----帰りたい。

 想いが少年に伝わってきた。

 ----帰りたい・・・自分の世界に帰りたい。

『なのに・・・何故・・・』
 一滴。
 涙が落ちる。

 場面が変わった。

 ----僕がいる。
 それは20年前の映像だった。
 ベットの横たわるカルアに寄り添う自分を見下ろしている。
 少年は彼の手を取り悲しそうに黙っていた。
 節くれ立ち、もはや骨と皮だけになってしまった手。誰の目にも、もう先はないとわかるほど、彼は年老いている。
『もう・・・・だめらしいな・・・・私も・・・・・・・・・』
 深く刻みつけられたしわが笑みの形を取る。
 少年は首を左右に振り固く彼の手を握った。

 ----私はお前を利用しようとしていた・・・・・自らが故郷へ帰るために・・・・・・。
 ・・・・この世界で生き残るため・・・・人々の信頼を得るため・・・・お前の一族を滅ぼす手助けをし・・・・・・
 そして、偽りを教えて育ててきた・・・・・・・・。
 この遺跡は竜人族の存在なくしては動かない。だからお前が必要だった・・・・・・。
 だが・・・・・・・皮肉なものだ・・・・・・。
 そこまでして犠牲を払っておきながら・・・・・・私は、故郷へ帰ることは出来なかった。
 当然の報い・・・・・・なのか?
 元の世界へ帰りたいと思ったことは・・・・そんなにいけないことだったのか?
 私はまもなくこの地で生を終える。
 私のしてきたことは何だったのだろう?
 この少年の一族を滅ぼし、母親を死に追いやり・・・・・・そして今また彼を一人残して去ろうとしている・・・・・・私のしてきたことは・・・・。

 流れ込んでくる思念に、見下ろしている少年は当時を思い出した。
『すまない・・・・』
 彼はしわがれた声でぽつりとつぶやく。
 ----僕はこの言葉の意味を深く知ろうとしなかった・・・。ただ先に行っちゃうのを謝ってると思っていた。
 その言葉を最後に彼・・・カルアは永遠の眠りについた。
 ----・・・この人は母さんを殺した仇なんだ。・・・・・憎まなきゃいけないんだ・・・・でも・・・だけど・・・・
 目前に声を殺して泣く自分がいる。
 なにも知らなかったこの時は、彼は恩人だった。
 ----この人と暮らした50年間は確かに僕の中に存在してるんだ・・・・・・・今になって裏切られていたとわかっても・・・・・・・・・・・

 キュイイイィィィィィィィィィィン。

「うっ・・・・ああああぁぁぁぁッッッッッ!!!!!」
 カディスは頭が締め付けられるような痛みを感じた。
 それに伴う嘔吐。
 目の前の映像がぐにゃりとねじ曲がり渦を巻く。

『何故恨まないッ!!!!!』

 ----!!!!!?????

 ド  ン  ッ !!!!!

 カディスはいきなり放り投げだされ、床に転がった。
 

〜ところがどっこい生きていた(18)〜へ続く

どっひゃーーーーっっっ!!!!
カディスの過去なんて書くんじゃなかった・・・・・。
これじゃあスレイヤーズの世界からどんどん離れてゆくぅ〜〜!!!!
すんごく場違い(汗)。
ぼたんしゃん、マティさん少しだけど気に入ってくれる?
小説読んだよ。コメントもう少し待ってね。
加流ーん姐さーん、ガーヴ様、加流節うならせられないーーーーっっっ!!!!!

こんな私の年賀状で良かったら、貰ってやるって方。
「年賀状で貰ってやるよ!」な方は
 1:郵便番号 2:住所 3:氏名 4:ニックネーム(ペンネームなんだろうか?)
 5:希望キャラクター
 を
「住所なんか教えてやらん。CGで送れ!」な方は
 1:メールアドレス 2:ニックネーム 3:希望キャラクター
 を明記の上、メールくださーーーーい。

アドレスは CYC02032@niftyserve.or.jp です。
これで良かったんだよね?アドレスの書き方?
間違ってたらごめん・・・ですまないよーーーー!!!!
はらはらどきどき・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ガーヴ様が終わらないのにこんなことしても良いのだろうか・・・・・・・。
もしかして、正月3が日内に着かないかもしれない・・・・。
それでも良いって方はご一報ください。

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236Re:もう一つの夢の彼方17松原ぼたん E-mail 12/1-10:00
記事番号235へのコメント
 面白かったです。
 わーいマティさんだー(喜んでる)。

 しかしカディス不幸ですよね。
 この場合言ってるのはいつものように災難に遭う類の不幸ではなくカルアの存在ですね。
 単純に母親殺したヤツって恨めれば(一時的にかもしれませんが)ある意味救われるんですよね。
 けど、恩人であったのもカディスにとっては事実だった訳だし、おまけにどうしてそんなことを下の釜で分かってしまった。しかもむこうは後悔めいたことをしている。これはちょっと恨みにくい。
 ジレンマってのは辛いですから。

 続きを頑張って下さい。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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344もう一つの夢の彼方18みいしゃ 12/12-20:11
記事番号145へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(18)〜


 ----な・・・・なに???
 したたかにぶつけた肩を押さえて顔を上げた。
 しぃんと静まり返る部屋。
 かなりの広さがある。
 所々に点滅する光。
「・・・・・・・・・ここは?」
 カディスはとまどいながら起きあがった。痛みを感じて額を押さえる。ぬるりとした感触が掌に伝わった。
 血だ。
 手に付いた血をじっと見つめた。
 
 キイイイイイイイィィィィィィィンン・・・

「うわぁっ!」
 頭を押さえる。
 またもやあの締め付けるような耳鳴りだ。

『なぜ憎まない!!』

 頭の中で誰かが叫ぶ。
 カディスははっと顔を上げた。
 部屋の突き当たりにぼう、と光る何かがある。青白い光。
 少年の視線を感じたのか、球体だったそれは縦に細長くのび、所々をくびれさせて、次第に人の形へと変貌していった。
 さらり。
 長い、薄緑の髪がなびく。
 少年によく似た白色の女性が、そこにいた。
「か・・・あさん?」
 母親の形をしたその目が開く。
 琥珀の瞳が灯る明かりを反射し彼を見た。
『なぜ?』
「・・・・・・」
『なぜそんなやつをかばうの?』
「かばってなんか・・・・・・・」
 思わず返す。
 ----かばうもなにも・・・・カルアはもう死んでるんだ。仇なんて討てやしないよ・・・・。生きてたって・・・僕は・・・・。
 琥珀色の瞳に怒りが生まれる。
 ギリと奥歯をかみしめ、それはカディスの方へ歩み寄ってきた。
『憎みなさい!』
「・・・だって・・・」
『憎むのよ!! あいつらに私たちと同じ苦しみを与えておくれ!!!!』
「・・・っ!!!!」
 彼女から遠ざかるように後ろに下がる。
 どん。
 数歩も下がらないうちに背中に冷たい壁があたった。
『・・・私の息子・・・仇を討って・・・・・・・』
「いっ・・・」
 差し延べられた指が頬に触れる。
 ひやり。
 冷たい感触。
『仇を・・・うちなさい・・・・・・』
 近づけた顔が苦しみに歪む。
 いつの間にか、白かった彼女の肌が黒ずんできている。
 やがて腐臭が鼻につきはじめ、肉がどろりとこそげ落ちた。
「ひっ・・・・・!」
『怨め! うらめ! ウラメ・・・』

 ウラメウラメウラメウラメウラメウラメウラメウラメ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 腐った肉が床に落ちる。
 肉汁の池ができる。
 美しかった指も、肌も、髪も、
 今は、ない。
 肉の落ちかかった骨が、かたかたと顎をならしている。

 「それ」は、慈しむように、カディスを抱きかかえようとした。
 むっとくる腐った肉のにおい。
 少年は全身をこわばらせた。

「うっ・・・・・・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 骨さえも形をゆがめ、青白く光る燐光となったそれが、カディスの肢体を包み込んだ。



「!」
 ガーヴはふと顔を上げた。
「おい、マティ。今、何か聞こえなかったか?」
 扉のプレートを操作していた手を休め、マティは彼に振り向いた。
「・・・・・・君にも聞こえたようだな・・・・・・恐らく、カディスだ」
「なにィ????!!!!」
「良かったよ、同じ時間軸にいてくれて・・・・」
 良かったという割にはさらりとつぶやくマティ。
「つまり、あいつは無事だってこったなッッ????!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・『無事』・・・・かどうかは判断しかねるよ。どう考えても今のは・・・悲鳴だ」
「っーーーーーーーー!!!!!」
 ----どーしてお前ぇはそうもあっさり言い切るんだッッッッ!!!! 
 くーーーーっっ・・・あ、いや待て。・・・・・・・こいつを連れて帰ったら「おかっぱスットコ神官」と良い勝負じゃねぇか? 戦力にはなりそうだが・・・・・・、やめた! やめたッ!! 元の世界にまでこいつとの縁なんぞ持ち込みたかねぇ!!
 どん。
 磨かれた無機質の壁を叩く。
「どこにいやがる!!!! あいつは!」
「そこまではわからない。だが、見当はつく」
 ----見当? なんでんなモンがつく??!!
「時空回廊のある場所だろう」
「!」
 ガーヴは改めてマティの顔を見返した。
 ----やはり、あるのか、ここに!

 ウィン!
 パアアァァァァ・・・・・

「なにィッ??!!!!!」
「・・・・・・!」
 儚げな青白い光が一瞬瞬き、一斉に光度を増した。
 ガーヴとマティは明るさに手をかざす。
「くっ!!」
 象牙色の壁はその光を受けて反射し、辺りは目にしみるほど白く輝いた。

 パシュゥゥゥ・・・・・

 空気の抜けるような音がして、目の前の扉がいきなり開く。
 そして、
 遙か向こうまで続く通路を仕切っていた扉が、それ自体が意志を持ったもののように、次々と開いていった。
「一体何が始まったんだ???」
「永い眠りから覚めたってところか・・・」
「眠りから覚めた、だと?」
「カディスが・・・と言うより、この遺跡は『竜人族』と言う存在がなければ動かないらしい。恐らく唯一の生き残りである彼が、目覚めさせたのだろう」
 マティはかざした手を下ろして、通路の奥に目をやった。
 ウィィィィィンン・・・・
 低く、微かに聞こえる機械音。
 それしか聞こえない、通路。
 強さを増した照明は辺りを白く照らすが、その明るさ故にかえって心が落ち着かなかった。
「カディスがこの遺跡を動かす為の『鍵』・・・か。その為にあいつは育てられてたって事だな?」
「カルアもまた来訪者だったようだ・・・・自分の世界に帰るために・・・てとこだね」
 ----ふん! そう言うことか・・・・成る程? ・・・・・・俺も同類かもしれんな?
「・・・・・・・ちょっと待て。カルアってヤツが人生の大半を費やして研究したにもかかわらず、この遺跡は何故今になって動き出しやがった?!」
「・・・・・・・」
 腕を組み顎に指をかけて考え込むマティ。
「カルアがしていなくて、今回我々がしたこと・・・・・・・!」
 ぽむ、と両手を叩いてガーヴを仰ぎ見る。
「門番を倒したからではないのかね? それとも、あれを壊したためか? で、なければあの建物を粉砕・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 マティは指折り数えてガーヴの破壊したものを挙げ連ねる。自然とガーヴの手は拳を握りしめていた。
「ーーーーーーッッッ!!!! あーーーーっっっっ!!!! もういいッッ!!! 黙れッッ!!!! 
 んなこたぁどうでもいいッッ!! 要するにそいつが動いて使えりゃいいんだッ!!
 この先にあるんだろッッ??!! さっさと行くぞ!!!!!」
 ----しまったぁッッ!! 墓穴を掘った!! とはいえ、それでこの遺跡が動いたんならかまわねぇだろっっ????
 と、ガーヴは通路を走りだした。
「・・・・・・・ま、いいんだけどね・・・・・」
 ガーヴの背中を見て苦笑するとマティも後を追った。
 通路を突き抜け、さらに動く階段に乗る。
 行きついた先には、何の装飾もない、銀色の扉が待っていた。
「ここか?」
 ガーヴは隣のマティに聞いた。
「カルアの記録によるとそうらしい。この奥がきっと『次元回廊』の制御室だ」
「よし!」
 ぐっと、拳に力を込める。彼のその様子を見て、マティは軽く頭を押さえた。
「ガーヴ・・・・」
「あん? ・・・・何気にしてやがる」
 ガーヴはニイと唇をつり上げた。
「安心しろ。俺は性格は大雑把だが、頭は悪かねぇんだろ? だったら・・・・・」
「!」
 ぐいっとマティを前に押しやりガーヴが言った。
「さっさと開けろや」
「・・・・仰せのままに」
 目を細めてマティは苦笑した。
 意に反して、扉はすんなりと開いた。
 銀色に輝く扉がなめらかに動き、2人を中へ誘い入れる。
 通路よりは幾分か落とされた照明。
 数多くのパネルがちかちかと点滅している。
 中央には円形の舞台のようなものがおかれてあった。
「・・・・・・・・」
 ----これが『次元回廊』の制御室ってやつか?
 ガーヴは部屋の中に視線を走らせた。
「!!」
 はたと目を止める。
 パネルのつけられている、幾つもの台の間に、水色に光るものが見えた。
「カディス?!」
 ガーヴとマティが駆け寄る。
 確かにカディスだった。少年は額から血を流して気絶している。
 指で血をふき取ったマティが言う。
「大した傷ではない」
「おい! 起きろ!!」
 ガーヴは軽くカディスの頬を叩いて、彼を起こそうとした。
「・・・う・・・・・・・」
「おいッッ!」
 バシッ!!
 あくまで手加減してひっぱたくガーヴ。
「!!!! 僕はっ・・・僕にはできないっっ!!!!」
 がばっとカディスは跳ね起きた。
 見開かれた目から一筋、透明な雫が頬を伝い落ちる。
「僕はッ・・・・・・・・」
「カディスッ!!」
「・・・・・・・え?」
 少年の瞳に赤い髪が映る。
「え? え? えええ・・・と・・・」
 カディスはガーヴとマティが自分を見つめているのに戸惑い、そして見知らぬ景色に戸惑っていた。
「あれ? 僕なんで泣いてんだろ? ・・・あれ?」
「・・・・覚えてねぇのか?」
 あわてて涙を拭く少年の頭をくしゃりとなでてガーヴが言った。
 ----覚えてない? ・・・・・・ううん。覚えてる。覚えてるけど・・・・・
「おい? 大丈夫・・・じゃあねぇみたいだな。その様子じゃ」
 ----ま、当然だろうが。
 ガーヴはやれやれとため息をつく。こういう雰囲気は苦手だとマティに視線を送った。
 が、マティはいつの間にやら、中央に据えられている円形の舞台に興味を奪われていた。
「ちょっと任せる」
「は? おいッ!! 待てッッ!!!! 俺だってこーゆーのは・・・・・・・・」
 ガーヴの抗議も受け付けずにマティはその場を離れた。



〜ところがどっこい生きていた(19)〜へ続く


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345もう一つの夢の彼方19みいしゃ 12/12-20:12
記事番号145へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(19)〜


 ----ーーーーーーーーッッ!!!! 逃げやがったーーーーッッッ!!!!
「僕・・・」
「へ?」
 ぼそりとつぶやいた少年の言葉にガーヴが振り向く。
「僕・・・恨まなきゃいけないの? 僕の一族を滅ぼしたカルアや人間達を?」
 ----いけねぇこたねぇとは思うが・・・。
 うーむと頭を抱えてガーヴは沈黙する。
「おかしいのかな? そんなこと考える僕って・・・・そうだよね。カルアに裏切られていたって・・・恨んで当然だよ。一族を滅ぼされて黙ってられるって嘘だよ。・・・・・なんでそう思えないんだろう?」
「・・・・・・・じゃあ、何か? 今からでも遅かぁねぇ、カルアは無理だが・・・人間どもを滅ぼしにかかるか?」
 ----こいつは、あいつとは正反対だな・・・・。
「できない! そんなことできないっ!!!!」
 ぶんぶんと首を振るカディス。
「・・・・・だったらどうしたい? カディス?」
「・・・・・・・・・・・・・わかんない・・・・今更そんなこと言われたって、僕には何にもできない・・・・、今から人間に復讐したってどうなるの? 直接手を下した人たちなんて死んじゃってるよ・・・、その人達の子供を恨めって?」
 ふとため息をつく。
「偽善かな・・・・」
「・・・・・・・いいんじゃねぇのか? それで。『無理矢理憎まねぇといかん』なんて思いこむ必要はねぇ」
 カディスははっと顔を上げた。
「恨めねぇのはそれなりの理由ってモンがあるだろうしな。俺にはよくわからんが・・・」
 ----うー。頭がこんがらがる。ま、恨みなんてモンはそいつ自身のモンだしな・・・・、『他のヤツらが憎んでるから自分もとりあえず憎む』ってーのが正しいかって言われりゃ・・・首をひねるだろうよ。
「・・・・・・・・ガーヴさんって優しいんだね・・・・・」
 ----やさしいィ????!!!! この俺がぁ???????!!!!!!!
 唐突な言葉にガーヴは絶句した。
「やっぱり憎んで当たり前なんだよ・・・でも、そう思えない。・・・・・・・自分が憎まれるのがいやなんだ、きっと。僕は自分のことしか考えてないんだ。だから正直に憎めないんだ」
 ----どーしてそこまでひねくれて考えるんだぁッッ????!!!!!
 がしッッ
 ガーヴはカディスの胸ぐらをつかんで引き寄せた。
「いい加減にしやがれッッ!! 『氏より育ち』っつーだろうがッッ!! 僅かの間しか知らねぇ、それも恨み言しか聞いてねぇ母親よりも、そのずーと何倍もの時間を共に過ごしてきたカルアの方に、気持ちが傾くのは当然だっっ!!!!!」
「でも・・・・・」
「がーーーーーーッッッ!!!! そう納得しろッッ!!!! 少なくとも間違っちゃいねぇッッ!!!!」
 ----『一族を滅ぼされたから恨んでる』ヴァルガーヴの方が絶対素直だ!!!!! あいつだったら「恨まねぇ方がおかしい! 恨んで当然だ!!!!」っつってたきつけるだろうが、そう言ったらそう言ったで、こいつはまた「でも・・・」とか言いやがるんだろ???!!!!!
 迫力に押されて何も言えなくなっているカディスとヴァルガーヴがだぶる。
「!」
 二重写しになった2人の少年の輪郭がぼやける。

 キィィィィィィィィィンン・・・・・

「うわッ!!」
 ガーヴはいきなり襲いかかってきた耳鳴りに、頭を抱えた。
「ガーヴさん??!!」
「ぐッッ!!!!」
 ----なんだ! これはッッ!!!!
 そう思った瞬間、あたりは漆黒の闇に被われていた。

『・・・・・・・』
 ----なんだ? ・・・・声?
『・・・・・・・・・・がこの世界の・・・・・・・・・らく場所・・・・・・・・・・・・・・かばだ!』
 雷鳴が轟く。
 音しか聞こえない。
 いくら目を凝らしても何も見えない闇。
『これは・・・事?』
 ----この声は・・・あの女黒魔導師??!! 俺の世界かッ??!!
『・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・』
 ----何言ってやがるッッ!! 聞こえねぇぞ!!!!
 ガーヴは聞こえてくる声に集中した。
『・・・・・・・な話だと思わねェか・・・? この世界で覇権を争うスィーフィードとシャブラニグドゥの力で、ダークスターを召還するゲートが開かれる・・・。まさにこのくだらない世界の最後にふさわしい・・・』
 ----ヴァルガーヴ???????!!!!!!! どういうことだ??!! これは??!!
『私の名はフィリア・ウル・コプト。大神官ヴァザード・ウル・コプトの娘で、正一位の巫女』
『ほう? なかなか偉いじゃねぇか・・・』
『火竜王ヴラバザードの名の下に、汝に審判を下す。愚かな野心を捨て、今すぐ懺悔なさい。さもなくば・・・』
 ----火竜王の巫女だと? どういう状況設定だ???!!!
 戸惑うガーヴ。
 場面は進むが雑音がひどくて聞き取れない。
『やめてください!』
 次にはっきり聞こえたのは、先程聞いた巫女の、叫びにも似た声だった。
『例え何があったにせよ、その為に世界を滅ぼすなんて間違ってます!』
『間違い? そうさ。はなっから間違った世界だったのさ! 神も魔族も何もかもな! 間違いは正さなきゃなんねェ! そうだろ? 最初に間違いを正そうとしたのはガーヴ様だ。俺はその意志を継ぐだけだ。・・・・やり方は違うけどな』
 ----・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待て・・・ちょっと待てぇッッッ!!!!! ヴァルガーーーヴッッ!!!!!!!!!!!!! 言っとくがな!! 俺は「間違いを正そう」となんぞ思っちゃいなかったぞッ!!!! 世界が間違ってるとか正しいかなんぞ、誰も断言できやしねぇッッ!!!! それが神であろうが魔族であろうがなッッッッ!!!!! それに! 俺がダークスターを降ろそうとしたのは世界を滅ぼすためなんかじゃねぇッッ!!!! 俺が・・・・・・・・・・・
 カオス・ワーズを唱える声。
 そして、ヴァルガーヴの悲痛な叫び。
 場面は進んでゆく。
 爆音が聞こえたとき、周りの漆黒が僅かに身じろぎをした。
『・・・・まず俺を食らうか、哀れな魔王よ・・・・・・・・・・・いいだろう、くれてやるさ!』
「待てぇぇぇぇッッッッ!!!!!!!!!!!!!! ヴァルガーーーーーーーーーーーヴッッ!!!!!!!!!」
 その瞬間、
 暗闇の中にヴァルガーヴの姿が見えたような気がした。
 絶対見せなかった、すがすがしいとも言える笑顔をたたえた彼を。
 音は、そこでぷっつりと途絶えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・あんのォ・・・馬鹿野郎が・・・・・・・・・」
 闇の中で小さくつぶやく。
 ----俺が・・・鉱物野郎達と手ぇ組んでダークスターを召還しようとしたのは・・・てめぇを食らわせるためなんかじゃねぇ。世界を滅ぼすだと? それじゃあ普通の魔族と変わりゃぁしねぇぜ! 「すべて」の破壊の後には新しい世界が待ってるとでも思ってやがるのかッ?
 くっ。
 ガーヴは苦笑した。
 ----ンな訳ねぇだろうが・・・・・・何が間違ってたか覚えてなきゃぁ、正すことは出来やしねぇんだよ・・・。俺がダークスターを召還しようとしたのは、神、魔族・・・・ヤツらがどう反応するかを知りたかっただけだ。例えそのことで世界が滅びようともな。
 ・・・・・・・・・考えてもみろや、「神」は世界を守るためにある。必ずダークスターを何とかしなければ・・・と思うはずだ。方や「魔族」は世界を滅ぼそうとする存在。だが、てめぇが滅ぼそうとしている世界を、他の世界のヤツにみすみす渡しちまうほど彼奴らも怠惰じゃねーさ。この二つの利害が一致したとき、ヤツらは一体どういう行動をとるか・・・。
 で、結果はあれか? 笑わかしてくれるぜ。神族からは火竜王の巫女一人かよ? んで、魔族はまたもや例のリナ・インバースか。ま、ゼロスもいたようだし、少しうがった見方をすりゃ、リナ・インバースをつかって金色の魔王の力を暴走させて、あばよくば・・・って計算がなかっとも言えんがな・・・・・・・。
 ----ヴァルガーヴ。そこで死んじまったら犬死に以外のなにもんだ!!!! え? 冗談じゃねぇ! ったくお前ぇはよ・・・・・・・・くそ真面目というか・・・・どうしてそうなっちまったかわかんねぇ俺が言えた義理じゃねぇが・・・・・・。
 これは現か幻か。
 何故こんな幻聴が聞こえたのか。
 そう、思った矢先、
『それは現実だ』
「・・・・・誰だッッッ!!!!!」
 はじめて聞く声にガーヴは辺りを見回した。
『お前の世界は争いに満ちている』
 ----頭ン中に直接響いてきやがるッ!!!!
「てめぇ・・・・・・」
『それでも帰りたいか』
「うるせぇッッッ!!!! てめぇは誰だッッ!!!!」
 ガーヴは吼えるように誰何した。
 じいっとガーヴはあたりの気配を探った。
 ----どこにいやがる?
『そうまでして帰らねばならぬ程、すばらしい世界なのか』
「?!」
 突然背後に気配。
 ガーヴは振り向いた。
「お前ぇは・・・」
 ----カルア!
『お前と私は同じ・・・・・私の無念をわかってくれるだろう?』
 濃緑色の髪をした人物が、闇の中に浮かんでいる。
 驚くほど間近にいたのに気がつかなかった。
 カルアはガーヴへと手を伸ばす。
「お・・・い?」
『還りたい・・・・かえりたい・・・・・・・・』
 カルアの体は加速度的においてゆく。
 むしろぬめりを帯びていたはずの皮膚はかさつき、濃い緑の髪も淡い灰緑色へ。
 さしのべた手がガーヴを捕らえた。
『カエリタイ・・・・』
 ----つかんでやがる??!! 前とは違うかッッ??!!
 骨と皮だけとなった彼の手。その皮も干からび、ひび割れて骨が顔を覗かせてた。
 やがて骨も崩れ去り、彼の体は粉になって飛び散っていく。
 ----ちょ・・・ちょい待ちィッッ!!!! なんだッ! な・・・・・・・・・
『お前もか!!!!!』
「へ?!」
 また背後に声。
 とっさに振り向く。
 そこにいたのは薄緑の髪をなびかせた女性だった。
「カディスの・・・母親・・・?」
『私はお前達の言いなりにはならないッ!』
 その琥珀色の目に怒りを満たしてガーヴに迫り来る。
 突きだされた白い手が、一足ごとに黒ずみ、黒ずんだ部分から腐れ落ちてゆく。
 ----一体・・・何だって言うんだーーーッッ!!!! いくら元魔族とは言え、見てて気持ち良いもんじゃねぇぞッッッッ!!!!
『私の夫を返して! 私の家族を・・・・・・・・』
 ガーヴの袖を握りしめる。
「い・・・いい加減にしやがれッッッ!!!!」
 ベキッ!
 腕を振り払うと同時にイヤな音がして彼女の腕がもぎ取れた。とれた腕はガーヴの袖をつかんだままぶら下がる。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 ----おいッ! おいッッッッ!!!! まさかこりゃ精神世界面からの攻撃ッてーんじゃ・・・。冗談じゃねぇ! 物理的攻撃ならともかく! 精神世界面での攻防なんざ覚えてねぇーーーーーッッッ!!!!
『そうだろう』
 頭の中で声が響いた。
 ----はじめに聞いたやつの声だ!
「てめぇ! どこにいやがるッッ!!!!」
『その状態で帰ったとして・・・お前は存在を続けることができるか?』
「なに?」
 その言葉は彼の心の片隅にあった不安を掘り起こした。
『帰ることができても、元の世界がお前を受け入れるか? 元の世界で多くいた敵を蹴散らし、生き続けることは可能か?』
「・・・・・・・」
『お前は戦って生き続けることを望んでいる。・・・が、かつてより圧倒的に力の劣るお前が、生き残る確率はきわめて低い。敵もお前を虫けらのように見下しせせら笑うだろう』
 力。
 確かに今のガーヴでは、魔王の腹心の部下にさえかなわない。
 生き残るためには、それに見合うだけの力を持っていなくてはならぬ。
 ガーヴは「強いから勝つ」という理論を頭から信じているわけではない。それを信じていたならば魔王に反旗を翻すこともなかったろう。
 しかし、「強いから勝てる」と言い切れないことも事実だが、強くなければ勝って生き残る事が難しいのもまた事実である。
「くっ・・・・・」
『元の世界にお前の存在する場所はないだろう。帰ったとしても、元の敵に加えて、世界そのものがお前を排除しにかかる。・・・・世界とは一つの生物だ。己以外の異物を好まぬ。もし異物と判断されたら、世界のすべてがお前の敵となる。それでも帰ろうとするのか?』
 ぎり。
 ガーヴは奥歯をかみしめた。
 姿なき声の言っていることは間違っていはいない。・・・いや、むしろそれが現実だ。
「・・・・そう言うてめぇは何様だッ!!」
 ----好き勝手に人の頭ん中のぞきやがってッ!!!! 
『・・・・私達は流れてきた・・・・・様々な世界を渡り歩いて・・・・・・』
「誰がてめぇの昔話なんぞ聞きてぇっつった??!! え??!!」
『自らの世界を失いし者は流れてゆくしかない。己を受け入れてくれる世界が見つかるまで・・・・・・・』
「うるせぇ!!!!!! 訳わかんねぇことほざいてんじゃねぇッ!!!!!!!!!」
 全身に気を漲らせる。
 地下に潜むマグマのように、彼の体の奥底で何かがうねった。
 何かはわからない。

 その時、闇は光に反転した。

〜ところがどっこい生きていた(20)〜へ続く

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346もう一つの夢の彼方20みいしゃ 12/12-20:13
記事番号145へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(20)〜


「ガーヴ!」
 気づくととなりにマティがいた。カディスもいる。
「え? なん・・・」
 辺りを見回す。

 バシィィィィイイ!!!!!

 先程までの静けさは一変し、黒い稲妻が飛び交っている。
 その源は、中央にある円形の台の上。
 黒い球体が回転しながら稲妻を放っている。
「ありゃ何だ?」
「君が消えてから、いきなり現れた」
「俺が、消えた?」
「消えたといってもほんの数分だ。どこへ行っていた?」
「俺に聞くな! 俺にッ!!!」
 ----数分・・・だと? そんなに短かったのか?
「亜空間にでも行って来たんなら・・・戻れたのは運が良かったな。・・・・とにかく今は撤退しよう」
「何言ってやがるッ!!!!」
 マティはこの広間の中央で暴れまくっている黒い球体を見つめていった。
「どう見ても暴走しているんでね」
「なにィ!!!! するとこいつは壊れてるってぇか??!!」
「・・・・・まあ、かなり古そうな装置だしな・・・・」
 がしッ!とマティの胸ぐらをひっつかんでガーヴは言った。
「・・・直せるんだろ?」
「無茶を言うな。ここの空間や時間までも歪ませてる原因だぞ。おそらく、長い月日をかけて回廊を作り出すエネルギーが漏れだしていたんだろう・・・」
「いいや! てめぇになら・・・!!!!」

『何故帰ろうとする!』

「だれ?!」
 カディスが辺りを見回す。
 声は黒い球体の浮かぶ方向から発せられていた。
 ----あの声の主はこいつか??!!
「貴様ッ・・・・・・・・・・・!!!!!」
「知り合いか? ガーヴ」
「・・・・・・・・・・つい先程そうなったッ!!」
 ----落ち着き払っていってくれるなッ!!!!
 今の声はカディスとマティにも聞こえているらしい。
『赤い髪の男よ。何故だ』
「うるせぇ!! しつこいんだよッ!!」
 言うや否や、ガーヴは球体に向かって気を放った。

 ジャゥゥウウウウゥゥッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 水面を伝う波紋のように、それの手前の空間が揺れる。
 ガーヴの放った力は、見えない膜に阻まれ消えた。
「ちィッ!!」
「ある程度次元を自らの意志でねじ曲げることができるようだ」
「意志だと??!! 一体誰の『意志』だッッ!!!!」
「・・・・・・残留思念とでも言おうか。この遺跡に携わったものの悲しみや、憎しみ、そう言ったものが混ざり合って出来上がったものだろう」
「何でんなモンがッッッ!!!!」
「時間が歪んでるからだろうな。もしかしたら彼らは、何度も何度も同じ場面を繰り返し演じているのかも知れない。そして、悲しみや憎しみと言った強い思いだけが溜まってゆく。それらがこの装置を依代として取り付いているんだろう」
 ----怨念のかたまりィ???!!! うまそうに聞こえるが・・・・・そいつがこういう風に実体化して襲ってくるとなりゃ、話は別だッッ!!!!!
「そいつに取り付かれたから暴走してんのかよッ!」
「そうかもしれん・・・・・・・ガーヴ、何をする気だ?」
 彼は黒い球体の方へ一歩足を踏み出していた。
「そいつを落としゃぁ正常に戻るかも知れねぇだろうがッッ!!!!」
「無理を言うな! 本当にそうだとは・・・・・・・・」
 また一歩、ガーヴが足を進めた。
「っるっせぇ! 無理が大手を振って歩きゃぁ、道理なんつーモンは尻尾巻いて逃げっちまうんだよッッ!!!!!」
 ----それにさっきさんざん言ってくれた礼がまだだッッッ!!!!!!!!
 ガーヴはそれに向かって仁王立ちになった。
「おいッッ!!!! 俺が元の世界に帰ることがそんなにも不満かッッッ!!!!!」

 バシィィィィィッッ!!!!!

 黒い稲妻が彼めがけて降り注ぐ。直撃を食らった床が砕け破片が飛び散った。

「くっ!」
 巻き起こる爆風に耐えるガーヴ。
 そして、
 声が響いてきた。

『この世界で何故満足しないのだ。この世界はお前を受け入れてくれている。昔の記憶など忘れてしまえばいい。それでもまだ過去を振り返えるのか?』
「うるせぇッッッ!!!!!! 過去を振り返ってんじゃねぇッッ!!!!」
 ガーヴは吼えた。
「忘れりゃいい? 冗談じゃねぇ!! 
 魔族だったときも、人間の中で転生を繰り返してた時も、この世界に来ちまって過ごした10ン年間も! 
 すべて今の俺であるためにゃ、一つとしてかけちゃあならねぇものだ!!!!
 それを忘れて俺が俺と言えるかよッ!! え? 
 過去の一瞬一瞬に考えたこと、体験したこと、今のこの俺はその過去の土台の上に立ってンだ!!
 過去の俺を否定するこたぁ、今の俺をも否定することになるんだよッ!!」
 ガーヴは「かれ」に向かって拳を突きだした。
『自らの世界に消されてもか』
「けっ!! くだらねぇこと言ってンじゃねぇ! そんなこたぁ帰ってみなけりゃわかんねぇだろうがッッ!!!!
 やってもみねぇうちからびくついてどーする????!!!! 実際そうなっちまったら、そん時考えりゃぁいいんだよッ!!!!」
『・・・・おろかな・・・・!』

 ゴ オ !!!!!

 「かれ」が虚無を広げてガーヴを襲う。
「はっ! 愚かで結構!!!!! てめぇなんかに理解できねぇってこったッ!!!!!」
 ガーヴも持てる力を極限まで解放し、その力を受け止めた。

 反発し合う力。
 空気が震える。
 目に刺す白と、黒の稲妻。

「くッッッッッッ!!!!!!」
 彼の奥底で潜んでいた何かが動く。
 もどかしそうにうねりをあげ突き上げる。
 ----これは・・・・。
 ビシッ!
 空気が裂かれ、ガーヴの腕をかすめた。
「!」
 血。
 それだけではない。
 黒い、闇が、あふれる。
 血と、闇が二重に映る。

 ドクン

 ガーヴの体が一瞬震えた。
 ----この力は・・・かつての力か?
 突き上がってくる力。
 彼の中で、もどかしさにのたうち回る。

 ドクン、ドクン、ドクン・・・

「ぐッ・・・・」
 堪えきれない。
 とうとう、
 それは、堰を切った。

「う・・・・・・ぅがぁあああああぁああッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 雷鳴と閃光の中。
 ガーヴの雄叫びが響きわたった。
 吹き上がる炎が、床を、壁を破壊して「かれ」に迫りゆく。
『何故、そこまでして・・・』
 「かれ」はつぶやいた。
「がぁあああああぁああッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

「・・・・!」

 遠くでカディスの呼ぶ声が聞こえたような気がした。
 だが、今の彼は気にもとめなかった。
 今はただ、相手をねじ伏せるのみ。

 ガーヴは、あふれ出す力を惜しまず絞り出した。


 闇と炎と光が混じり合う。
 そして、
 すべては白い闇に飲み込まれた。



---------------------------------------------------------------------------

 ----雨・・・か?
 この世界に来てから、一度も見たことのない景色。
 一点の曇りもなかった空には雨雲が立ちこめている。
 砂漠に降る、雨。

「ガーヴさん・・・・・・」

 自分を呼ぶ声に、彼は振り向いた。
「よう、カディス! 無事だったか」
 少年の後に続いてマティも歩いてくる。
「派手にやらかしたね。ガーヴ」
「けっ! 小言なんざ願い下げだ!! それより」
 ぐいっとマティに自分の腕を突きつけるガーヴ。
 腕からは闇が滴っている。
「俺の体はどうなってやがる? おい、導師さんよ!」
「・・・・言っただろ? できうる限り再現したはずだ・・・と」
 マティは腕を組んで横目にガーヴを見上げる。
「『雛』を確実に育てるためには、頑丈な『殻』が必要だったわけさ」
 『雛』=精神体、『殻』=肉体。
 10年もの歳月をかけて、彼の精神体は元の姿を取り戻したのであった。
「・・・・・・・ま、いい! 俺は力を取り戻したんだからよッ!!!!! これで俺が元の世界に戻ることに文句は言わせねーぜッッ!!!!!! 誰にもなッッ!!!!」
「ガーヴさん!」
 カディスが、ガーヴを呼んだ。
「何だ? ・・・・・・どうした?」
「どうしたじゃないよ! これどーするんだよ!!!」
 カディスは両手を広げて周りを示した。
 確か、地底のそこだったはずなのに、雨が降っている。
 遺跡は跡形もなく吹き飛ばされ、残ったのは大きなクレーター。
 3人はそのちょうど中心に立ちすくんでいた。
「・・・・・・・あーーー・・・すまん。またやっちまった」
 濡れた髪を掻き上げて、ばつが悪そうにガーヴが言う。
 眉をしかめてカディスは見上げる。
「・・・・・・・ガーヴさん・・・本当に気付いていないの?」
「・・・・なにを?」
「何をって・・・『次元回廊』壊しちゃってどうやって前の世界に戻るの?????」
 見ると、その影すらない。
「・・・・・しッ・・・・・・・・・・・しまっっったぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 音響効果抜群の穴の中にガーヴの声がこだまする。
 がっくり膝をついて頭を抱えた。
「カディスは止めようとしてたんだけどね・・・・」
 マティがぽつりとつぶやく。
 彼は、あまりにも、本当に、落ち込んでるようだ。
 肩まで震えている。
「あ・・・あの・・・ガーヴ・・・・・・・さん?」
 おずおずとカディスが近づいた。
「その・・・あの・・・、ほら、まだこの世界に遺跡が残ってるかも知れないし・・・ううん、たぶん残っているから・・・僕も手伝うからさ・・・・・、・・・・・?」
「・・・・・」
「え?」
「ふ・・・・・・・ふ、ふ、ふ、ふ・・・・・・・・・・・・・・ったりめぇだ・・・・・・・」

 ガバァッッッッ!!

 いきなり身を起こす。
「こんな事ぐれーでこの俺様が諦めてたまるかーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!
 待ってやがれッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 俺は絶対帰ってやるからなーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 なーーーーーーーーーーーーーーーー
 なーーーーーーーー
 ・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・

 魔竜王の雄叫びは、
 いつまでも、いつまでも、
 雨の砂漠に響きわたるのであった。


〜ところがどっこい生きていた(結末)〜へ続く

びちびち! びちびちっ!
(↑まな板の上にのっかってる)
すまない。所詮私の想像力なんてこんなモンよ・・・・・・・

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347もう一つの夢の彼方(結末その1)みいしゃ 12/12-20:14
記事番号145へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(結末その1)〜


「・・・・・・・様ぁ〜」
 遠くから彼を呼ぶ声が聞こえる。
 しかし少年はその声を無視して、生い茂る林の中へと身を隠した。
 ----何で彼らぼくに『様』なんてつけるんだろ?
 自分は身分の高い家の子供でもないのに。
 少年は林を抜けて、お気に入りの場所へと急いだ。
 木々の木漏れ日が彼の水色の髪に反射する。
 小さい体に力を漲らせて、湖の岸を駆け抜ける。
 彼の秘密基地は、この湖の対岸にあった。

 ----誰?
 彼は足を止めた。
 湖の岸に人影が一つ。
 真っ赤な長い髪が風に吹かれてなびいている。
 人影は湖の方を向いて、腰を下ろしていた。

 懐かしい。

 懐かしさに襲われ、
 足が地面と同化したように動かない。
 少年が立ちつくして後ろ姿を見つめていると、不意に男が振り向いた。
「よう、坊主」
「・・・・・・」
 太く、低く、決して大きくはないが、よく響く声。
 少年は動けない。
 ----ぼくはこの人を知っている?
「突っ立ってねぇでここに座れや」
「・・・・・・」
 彼は言われるままに、男の隣に座り込んだ。

 ぽちゃん。
 水面をいくつもの輪が駆け抜ける。
 男の投げ入れた石が描く波紋。
 風が吹く。
 夏の訪れを知らせる風が吹く。

 どのぐらいそうしていたのだろう。
 男はおもむろに口を開いた。
「お前・・・・・今、生きていて幸せか?」
「え?」
 少年は男の横顔を見上げた。
 男はじっと水面を見つめている。
 ----幸せかって・・・。
 突然聞かれてもわからなかった。
「・・・・わかんない」
「・・・・・・・・わからねぇ・・・か・・・」
 ふと男は笑った。
「そう言えるって事は、案外、幸せって事かもしれんな・・・・」
「・・・・・・・」

「・・・・・・・!」

 遠くから、少年を呼ぶ声が聞こえてきた。
 澄んだ、女性の声。
「おっと・・・、俺はもう行かなきゃなんねぇ・・・」
「いっちゃうの?」
 立ち上がった男を見上げて、少年は思わず声を張り上げた。
 どうして、と瞳が訴えている。
「・・・・今度は、思うように生きりゃいい」
「・・・・・・・・まってよ! 名前は・・・名前なんて言うの?!」
 コートの裾を握る少年。
 見下ろした男は困ったような、照れたような苦笑を浮かべて少年の頭をくしゃりとなでた。
「そいつは言わぬが花ってやつさ・・・」
 男の手が離れる。自然と少年もコートから手を離していた。

「ヴァルガーヴ!」

 女性の声に、はっと振り向く。
「ヴァル! 一人で遠くに行ってはダメって・・・あれほど言っておいたのに!」
 金の髪がふわりと少年にかかる。
 ぎゅっとヴァルガーヴを抱いて、彼女は彼の髪をやさしくなでた。
「大丈夫だよ、フィリア。ここら辺はぼくの庭だし・・・今だって・・・・・」
 振り向いて見たときには、男の姿は消えていた。
「あれ?」
「何? 何かあったの?」
 不安そうにフィリアが聞く。
 ----ついさっきまでいたのに・・・。
 今はただ、木々と水面を震わせて、風がゆきすぎる。
「ヴァルガーヴ?」
「・・・・・・・・・・・ううん・・・何でもないや・・・」

『幸せか?』

 男の言葉が蘇る。
 泣きそうな顔で見つめるフィリア。
 そして、駆けつけてくる2人の獣人。
 ----わかんないけど・・・不幸じゃないよ・・・たぶん・・・・・・・・。
 もう一度、見えぬ後ろ姿を、彼は見つめる。
 いつか、懐かしいと感じた理由がわかるだろうか。


 いつか、きっとね。


 初夏のさわやかな木漏れ日が、
 微笑みをたたえて語りかけていた。


                        【 終 】

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348おわりにみいしゃ 12/12-20:20
記事番号145へのコメント
〜おわりに〜

長い。長かった……。
でも、これで一応終演です。実はこの段階で最後の20話を書いてません(汗)。
しかし、20話で終わらせると心に決めたので、あとがきを先に書いてます(汗)。
実を言いますと、この話はサイドストーリーとして考えていた話であります。
本編として『もう一つの夢の彼方(ヴァルガーヴ編)〜それでも俺は生きてやる〜』
が有ったんですよねー。この二つは対で同時進行してくはずでした。
が、絶対無理だと自覚したために、ガーヴ様の方一本に絞ることにしたのです。
加流さんの影響もその一因(笑)。
なので、そっちで書くはずだった内容も、こっちに取り入れてしまったために
この話は、こうも長くなってしまったんです。説明ばっかだし……。いやはや…。
ついで言うと、結末はもう2つ有ります。(その2)と(その3)が。
要するにマルチエンディングになるはずだったんですよ。
だけど、最終話を見てないことと(まだ21話なんだよーっっ・泣)、
時間のなさが(その1)のみの掲載になってしまったのであります。
もし書いたら、順次載せていきたいと思っているんですが、
今、この時期はちょっと……。他に書きたい物もあるし……読みたい物もあるし……。
やらなきゃいけないことも……というわけでありまして、
これにて一件落着!(していないってば……汗)
・・・無謀はできませんでした(泣)。


以降は、ちょっと補足(か?)です。
*ガーヴ様について
うちのガーヴにーちゃんは単純なのか、利口なのかよくわかりません。
@ あふれる知性を道化の仮面でコーティング。
A 根っから単純(あえて○鹿とは書かない)。
B 本能では悟っているが、表現しようとすると思考が停止。
どのタイプなんだろう。うーん。謎だ。

*カディス君について
上に書いたとおり、彼はヴァル編がポシャったために作られたキャラクターであります。
だから、彼の過去が暗いのも、ひとえにヴァルガーヴに引きずられたんですよ。
すまない、カディスよ。そーゆー訳だから、恨み言ならヴァルガーヴに言ってくれ。
ちなみに、カディスはヴァルガーヴより強かなのは確かだ(と、思う)。

*マティさんについて
彼とのつき合いは10ン年になります。
私が小学校3〜4年生ごろにできたキャラクターなんですね。
はじめは女性だったのがいつの間にやら男性に、今は中性体がほとんどです。
「マティス」は男性時の名前で、女性だと「マチルダ」になる設定(こちらはほとんどない)。
中性はそのまんま「マティ」。ややこしいね。
と、言うわけで長いつき合いの彼は、私のいろんな作品に登場してきます(友人の作品にも登場している)。
ちなみにどんな役柄だといいますと……
・サンフランシスコ在住の謎のホスト
・ニューヨーク在住の闇業者
・東京在住のビルのオーナー兼魔界医師な医者
・とある銀河の私立探偵(ここいらまで来るとずいぶん昔)
・謎の時空流浪人
まだあったが、忘れましたわ。はっはっはっはっ・・・。
言い忘れました。彼はESP能力者で、年齢不詳です。
この話の中ではその能力をほとんど出してはいません。
それをやってしまうと話にならないんですってば!

加流ーん姐さんへ
>「っるっせぇ! 無理が大手を振って歩きぁ、道理なんつーモンは尻尾巻いて逃げっちまうんだよッッ!!!!!」

>「無理が通れば、道理は引込め!!」
から頂きました。ありがとう!

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349Re:もう一つの夢の彼方松原ぼたん E-mail 12/13-10:12
記事番号348へのコメント
 おもしろかったです。とりあえず完結おめでとう御座います。

 なんか思ったの「やっぱりガーヴはガーヴだな」でした(笑)。
 結末その1なんか心にしみいる様でした。
 暇があったらその2とその3も書いてくださいね。マティさんは?(結局それかい・爆)。
 マティさんと言えば補足読んでちょっと笑っちゃいました。おもしろかったです。
 ガーヴはBだとあたしは思います(爆)。

 本当におもしろかったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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354Re:お疲れ様でしたぁ〜!あいる 12/13-16:24
記事番号348へのコメント
どうも、どうもです。
 永きに渡り‥お疲れ様でしたぁ〜。素晴らしい作品を、ありがとうございますっ!
  なかなかお返事書けなくて すいませんでした。
 結末その1 って事は‥続きがあるんですねっ !? (笑)
 本当にご苦労様でした。ありがとうです。
  また作品を書かれるのでしたら、ぜひ。
ではでは。

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412Re:おわりにブラントン 12/22-16:57
記事番号348へのコメント
 初めまして……かな? ブラントンといいます。
 昔猫南で『The Best of SLAYERS SONGS』という企画に携わっていた者です。
(といっても知りませんね……)

 皆様の小説は全部読んでいるのですが、本人の怠慢というか、今まで感想は書き込みませんでした。
ですが、このような長編小説に対しては読ませていただいた以上、ちゃんと感想を書かないと失礼かと思い、書き込みさ
せていただく次第です。
 多少批判的な部分もあるかもしれませんが、ご容赦を。

 まず最初に私がすごいと感じたのは、キャラクターがちゃんと動いている点です。
 オリジナルキャラなのに、ばっちり立ってるマティ。
 十数年のつきあいのようですが、いい味出しまくってたと思います。
 いやはや、やはり年季が入ってるんですね。

 ガーヴは加流様の影響を受けているそうですから、彼は流して……
 ついでにディオルも原作のキャラだから置いといて……
 となるとカディスですが、彼の性格付けの元がなんだか碇シンジ君入っていたような気がするのは私だけでしょうか。
(すみません、メジャーなキャラしか知らないんです)
 暗い過去を引きずっているのはヴァルガーヴのせいだそうですが、性格的には特にコミカル的シーンでの様子がどうも
そのような感じがしてしまったのです。
 たぶん違うよなあ……

 他にすごいといえば、なんといっても世界観の部分です。
 時空世界だの次元回廊だの死因子だの。
 そういう設定自体ならどこかの本にあるかと思いますが、説明の仕方がすごくうまいです。わかりやすいですし。
 マティさんがこういう部分ですごくいい味だしていたと思います。
 いちばんすごいと思ったのは雛と殻の部分。
 うまく説明はできませんが、ここの部分を読んだときに「あ、ここすごいな」と正直に感じました。

 ストーリー的には、本家スレイヤーズっぽいですね。
 起承転結がしっかりできていて、ストーリーに破綻がない。
 長編の場合はそこがすごく大変なんですよね……どんどん頭の中で変わっていって。
 結局帰れないというあたりは見事です。それであの結末がすごくいきてる気がします。

 ……では、最後になりますがちょっと納得いかなかった点を。
 ヴァルガーヴのダークスターに喰われる所なんですけど……
 あそこでのガーヴの苦笑した後の部分。あれは個人的には余計、というか触れない方がいい場所だと思うのです。長い
のも少し……
 外伝的なストーリーの場合、いかに本編との関わり合いを持たせるか、と言うのが重要だと思うのですが、ここまでは
っきりと訳を述べさせてしまうのは、逸脱しすぎ、というかなんというか……
 ご自分の世界をはっきりと構築されていらっしゃるのなら、それでいいんですけどね。

 いずれにせよ、ここまでちゃんと完結させたのは素晴らしいことだと思います。
 お疲れさまでした。そして、素晴らしい作品をありがとうございました。