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    タイトル : 三流魔道士に憑依? したと思ったら目の前に魔王がいた件について
    投稿者  : フィーナ
    投稿時間 : 2016年3月31日23時19分56秒

まず一言だけ言わせてほしい。

……ごめん。

なんぞこの状況?










気がついたら、っといったほうがいいのか。

それとも『思い出した』というべきか。

強い風にさらされた後、唐突にこみ上げてきた吐き気の中――おそらくは瘴気だろう――

死んだはずの『自分』がなんでこんな森の中にいるのか。

死因はわからないが、死んだことははっきりと自覚している。

自分自身のことはなぜかあいまいで、家族や友人といった親しかった人々の姿は霞がかったかのようにぼやけて霧散して。

自分が誰だったかわからない状況に混乱して。

自分が動ける肉体があることに困惑して。

思わず手を見たら記憶にある私の手とはちがう、筋のあるゴツい男の手。

……あれ?

感じた違和感に首をかしげる。

もしかして、いやいやまさか。

ひょっとして私って女だったのかっ!?

愕然としながら他にも何か情報がないかと周りを見渡せば、知らないはずなのに知っているような既視感のある面子。

まず私の横にいるのは、騎士のように中世っぽいかんじの鎧を着込み、でっかい槍に斧がついた重量のありそうな武器――多分ハウルバードだろう――をかまえている中年男性。

その少し前に白いフードをかぶり何かつぶやいて――いや、これは唱えているのか――険しい雰囲気で前方をにらみつけている、体型からしておそらく男性だろう。

その更に前。

……うん。

現実逃避したくなってきた。

私自身やその周辺の人々に関するものは薄れてきているというのに、以前住んでいた国や雑学。

それに、生前の私が趣味嗜好の赴くまま集めた数々のグッズや雑誌など黒歴史のものはどうしてこんなにも鮮明に覚えているのか!

羞恥といたたまれない気持ちでのたうちまわりたい!

……周囲に人がいるからできないけれど。

悶え苦しむ内心を何とか抑え、問題の人物たちをうつろに眺める。

長い金髪がなびき、すらりとした長身でほどよく鍛えられた体躯。

かまえているのはロング・ソード。

ただ『それ』が普通の剣でないことは私も知っている。

服装は…といっていいのか、物々しい装備をしているところをみるにあたり。

やっぱりという、どこか諦観した気持ちが生まれてくる。

先ほど述べた中年男性のような、中世西洋で使われていたようなブレスト・プレート。

生前の私がいた国では、コスプレかよ! と、一笑にふすのだが……

小さくかぶりを振る。

現実逃避もここまでのようだ。

物質的な力を伴った、強烈な瘴気の中心地。
                                  ・ ・ ・
たまらない吐き気に口を押さえながら、前方にいる そ い つ を睨んだ。

高らかに哄笑し続けている赤いローブをまとった男。

……そう。

私はこいつを知っている。

そして、私が『誰』に憑依してしまったのかを。

……どうやら私、三流魔道士のゾルフに憑依してしまったよーです。

先ほどから私と違う記憶というか意思が統一・流出されて融合を果たしているような、殴りつけてくるような瘴気とは別の不快感がこみ上げてきてつらいとです。

ゼルガディスに対する忠誠心も、積み上げてきた魔道に対する自信も……って、まてまて!

昔買い漁った参考書の説明文とゾルフの解釈の仕方がおかしい!

本当に三流だったんだな。

そういや原作でリナがゾルフに三流いったとき周囲は大爆笑してたっけ。

あのゼルガディスさえ肩を震わしてたし。

やーい三流三流ゾルフの三流はっはっはっっ!

……って、今私がゾルフじゃねーですか!?

……どちくしょう……

そういえば、『私』はこんなにノリのいい性格だったのか?

なんとなく、なんとなくだが……まさかゾルフと意思の統一でこんな面白おかしい思考回路になっているのか!?

私が脳内突っ込み満載中のなか、事態は着々と進んでいた。

「シャブラニグドゥ!」











その声を認識したとき、認めたくなかった。

私が置かれている状況に。

私がいるのはスレイヤーズの世界。

そして憑依してしまったのはゾルフという三流魔道士。
            ルビーアイ
そして目の前には 赤眼の魔王 シャブラニグドゥ。

……もうしばらく現実逃避させてくれ。

ナンデヨリニヨッテコノバメン。

高笑いする金髪ねーちゃんの姿が不意に脳裏に浮かんだものの、それ以上考えると、精神衛生上とてもよろしくないので頭を激しく振って思考をリセット。

……うん。

私ナニモオボエテナイヨー。
  それはともかく
……閑 話 休 憩。

記憶の統一がもう少しで終わるという確信がある。

私が知り得る知識と、ゾルフ――わしの魔道技術。

これから起こり得る最悪の可能性をさせないための一手。

さきほどの声の主を見つめる。

この戦い。それから先へのキーパーソンであり主人公。

高らかに響く、凛とした少女特有の高い声。

おそらくこの場においての(外見的性別的意味合いで)唯一の紅一点。

外見的特徴からいえばまず美少女ではある。

大きくつぶらな瞳。

愛らしい顔立ちで、華奢な体つきはある種の男の庇護欲をそそるだろう。

……但し書きで、黙っていればと注釈がつくだろうが。

栗色の髪に、意志の強さを宿した瞳。

外見だけはいいのだ。

……性格がアレだが。

たとえば舌先三寸で相手を丸め込み、憂さ晴らしで盗賊団を壊滅させて溜め込んでた宝を根こそぎ強奪し。

魔道の実験と称して、森林破壊にいそしむ。

実績より悪名がとどろき、悪人はおろか一般人も恐れ慄くその名は――

――リナ=インバース――

……うん。

傍観者として遠目から見る分にはいいが、かかわりたくない人物ではあるわな。

今の状況客観的に問われたらこう答えるしかない。

……もうガッツリ関わってますがなにか?












さあ、そろそろ現実逃避は終わりにしよう。

これから私がとる行動は、ある種の悪あがきだ。

「選ばせてやろう。好きな道を」

静寂を破ったその声にひるみそうになる。

それでも決めたのだ。

死を経験し、何の因果か再び肉体を得た意味を。

「このわしに再び生を与えてくれたそのささやかな礼として。
――このわしに従うなら天寿を全うすることもできよう」

知りえた未来でわしが消され、殺される未来。

私もわしもその情景を思い浮かべ強く願った。

――死にたくはない!

魔族の王の言葉が続く。

「しかし、もしそれがいやだと言うのなら仕方ない。水竜王に動きを封じられた『北の魔王』――もう一人のわしを解き放つ前に相手をしてやろう。――選ぶがいい。好きな方を」

死への恐怖と同時に沸き起こる純粋たる生への渇望。

そしてそれ以上に沸き起こる魔王に対する怒り。

北の魔王を解き放つ。

それはすなわち世界の破滅を意味する。

彼女の知識から得た情報は、この場において圧倒的なアドバンテージを誇る。

なにしろ彼女が集めた媒体の中のげえむというもののなかで、呪文の詠唱をしゃべるものがあるのだ。

スレイヤーズろいやる2だ。

そして、あにめと呼ばれる媒体では、多くの呪文の詠唱が登場し、羊皮紙とは違う質のいい紙で綴られた物語では、魔道に対する考察など興味深いものが数多くあり、今まで停滞していた魔道技術に多大なる貢献を……

話が脱線した。

ともあれ、私がすべきことは決まった。

すなわち――
 ドラグ・スレイブ
「 竜 破 斬っ!」

宣戦布告である。



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