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    タイトル : 白魔術都市狂想曲 118
    投稿者  : フィーナ
    投稿時間 : 2010年8月28日21時15分44秒


「浅はかなことを言い出しおって」

「まったく。人に神を捕らえる。ましてや支配することなど」

「定石では考えられん」

密かなざわめき。

「神が来られた以上、味方するものだと信じて疑わない愚か者よ」

「いい薬にはなっただろうよ。あの貴族にとっては」

倒れている彼らを、兵士たちが外へ運んでゆく。

「だが神は、気分を害しいってしまわれた」

「引き止めることはかなわぬとはいえ、惜しいことを」

その声には落胆はなく、どことなく薄ら寒く感じるものがあると思うのは、あたしの気のせいだろうか。

幕引きの声が上がり、各々が神殿から散り始める。

「・・・・・・リナ」

上座にいたアメリアは、あたしを呼び止めた。

「予定通り、アレンの処刑は明日。
これはすでに覆さないわ。今日の事で罪が多少軽減されてもね」

「そう」

短く返すあたし。

スィーフィードの近くに落ちているはずのそれを、探してみるも見当たらない。

「何を探しているの?」

「首飾り」

「それなら、物証として押収させたわ。
みるからにマジック・アイテムだったし。盗難防止もかねてね」

「・・・・・・どこにあるの」

「魔術の研究機関よ。
マジック・アイテムそのものではなく、込められている力の解析にむけて」

「あんたが許可したの?」

「・・・・・・アレンは、不利益になりうるような情報をむやみに言ったりはしないわ。
たとえ拷問されても、口を割ったりはしない。事実ではないことなら、わたしに反論してでもね」

「アレンの同僚や友人たちは?」

「すでに手続きを終え、解放されてるわ。
・・・・・・報告によると、査問も白紙に戻したらしいわよ」

「浮かない顔してるわね」

「物証が出た以上、わたしは判を押さざるを得なかった」

あたしの前につきたてられた、一枚の紙。

報告書として書かれている断片的な事実。

内容は、数年前から呪術に関する本を重点的に集めていたこと。

神官兼魔法医なら、呪術を解除するため読んでいてもおかしくないのだが。

薬草の類よりはるかに多く、集めていたということ。

他にも、唐突にそれをやめ、マジック・アイテムについて学び始めたことなど。

そのどれもが、すべて客観的な事由として書かれていた。

「裏づけは取れているわ。これは事実だと、本人も肯定していた。
自分の名を上げるために、今回の事件を引き起こしたんじゃないだろうかってのが、元老院たち古参の機関の見解」

「アメリア。あんたはそれを信じるの?」

「そういう見解もあると受け止めているけど、鵜呑みにしてはいないわ」

ざわめく会場の中、マーシュ卿とフィルさんが、話をしているのを視界の隅に捕らえた。

「それが事実であっても、機関の見解が誤りだってこともあるはずよ。
どうして、正義と愛と真実の人であるあんたが」

「彼らから、アレンのものとおぼしき自白書を見せられたから」

あたしは、言葉を失った。

「文字のはねとか、特徴がそっくりだった。確認する前に下げられたけど。
・・・・・・リナと一緒に、地下牢にいたアレンと面会する、少し前のことよ」

「・・・・・・それは、アレンが神の力を使えるって、本人から知らされる前?」

あたしの問いに、彼女は肯定の意味。

首を縦に振った。







「自白書の手配とは・・・・・・考えたな」

「神殿にある課題の論文。諜報員なら不安定化工作のため、要人の文字を複写することはよく行うからな。
他にも、同僚から頼まれた古代文字の翻訳など、あの神官の文字を複写することなど造作もないだろう?」

「たしかにな」

「アメリア姫も、実にうまく動いてくださった。
執行権は王族が握っている以上、複写した自白書に動揺している隙に、処刑日数の短縮を取り計らうこともできた」

「フィリオネル殿下だと、こうはうまくいかない」

「浅はかな思考の持ち主もいたものだ。
人が神を支配し、捕らえることなど無謀以外のなにものでもない」

「人が人を支配することは可能だがな」

「神の力の解析には時間がかかる」

「あの神官には、いくら詰問しても口を割らなかった」

「まったく強情な男よ」

「同僚や友人たちに査問を開けなかったのは痛いな」

「身近な人間を人質にしてやれば、こうも回りくどいマネをしなくてもすんだものを」

「金で雇うにしても、そこらのごろつきなら、嗅ぎまわっている人間たちに捕らえられた場合、口を割ってしまうかもしれん」

「煩わしいものよ。アメリア様と親交が深い魔道士と剣士。
そして、裏社会に精通し、こちらの動向を嗅ぎまわっている白の魔剣士」

「並みの相手なら、事故を装って消すこともできるが。
相手はかなりの手練。しかも悪名高いリナ=インバースときた」

「・・・・・・台風の勢力が通り過ぎるのを待つしかないか」

「明日の裁判が終わるまでだ」

「理由をつけて人知れず隔離してしまえば、おいそれと手出しはできまい」

「そのあとは、手段を問わず、じっくりと聞き出すとしよう」

「国の発展のために」

「神をこの地に呼び戻すために」

「正義のために」


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