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    タイトル : 白魔術都市狂想曲 113
    投稿者  : フィーナ
    投稿時間 : 2010年7月15日22時06分03秒


セイルーンの王宮にある神殿は、厳かな雰囲気で満ちていた。

ヴラがこの地にいるための影響なのか。

ほとんどの者が寝静まっているこの時間。

大祭司を始め、各関係者たちが神殿へとやってきた。

火竜王がいることは、暗黙の了解となってはいるが、やはりそう簡単に受け入れられない人間も多い。

一般の人には、そのことは伏せられている。

公開されることもある神殿だが、今回ばかりはそうもいかない。

神殿を取り囲むよう、警備の人間がびっしりと配置されている。

出入り口は言うに及ばず、神官と巫女の詰め所にも厳重な目を向けており、出てくる神官や巫女のチェックも怠っていない。

明かりがともっているとはいえ、まだ薄暗い神殿の中。

あたしたちは、アメリアたちの護衛という形でここにいる。

数人の文官たちと話しをし、耳打ちをして指示を飛ばすアメリア。

一礼をし、忙しそうに飛び交う人々。

その一角。数人の神官たちに囲まれて、マーシュ卿も顔を出している。

神官が数人がかりということは、彼は治療しながらの出席らしい。

手近な若い神官に声をかけ、腰に手を回し・・・・・・

おでこに唇を寄せられ、若い神官は慌てて身を引く。

長身でルックスもそれなりに整っている彼から、人目を気にして顔を背ける。

・・・・・・どーやら嫌がってるのではなく、単に照れてるだけみたいである。

顔を赤らめながらも、マーシュ卿からはなれていく様子はない。

他の神官たちの表情は、呆れるやら面白がるやら、リアクションはそれぞれ違う。

どうも、彼を取り巻くあの神官たち。

マーシュ卿のあのルックスだか色気とかに、免疫がついてしまったのか。

・・・・・・あるいは、彼の毒牙にかけられてしまったのかは定かではない。

彼が節操なしという説も、あるにはあるが。

・・・・・・もーすこし、人目を気にしろよ。

相変わらずだなーあの男も。

そんな彼に声をかける、ずいぶん年配の中年男性。

マーシュ卿はその男性――おそらく貴族か、仕事関係の人間なのだろう――その手をとって挨拶していたりする。

この辺は、さすがに貴族の端くれといったところか。

みるとその端々では、同じような光景が見受けられる。

招待された人間たちは、指定された席へと着席していく。

戴冠式など、国の儀式のとき、この神殿は使われる。

祀ってあるスィーフィードの像が、そこにある人々を見渡しているような気がした。

白々とした朝日が顔を出し始める。

新しい朝の始まり。夜明けである。

王宮の誕生を飾るステンドグラスが、日の光を地面に鮮やかな色を映しだす。







儀式は滞りなく始まり、滞りなく進んだ。

おかしなそぶりを見せないように、みせたら取り押さえられるように兵士が二・三人。

そして、佳境にさしかかろうとしたそのとき。

一人が立ち上がって叫んだ。

「王族を手にかけようとした罪人なぞ、さっさと死刑にしてしまえ!」

おそらく貴族の一人だろうか。

アレンを指差し、吐き捨てた。

「どうせもうそいつに明日はないんだ! さっさと失敗して恥を見るのが関の山だ!
我々のような王侯貴族や王族の忙しい時間を割いてまで、みせるものではないだろうがっ!」

事情を知らされていない何人か、不満を抱えた数人がそれに同意し始める。

「そうだ!」

「早朝に起こされる、我々の立場になってもらいたいものだな」

爆発しそうになった空気を収めたのは、ずいぶん年老いた老人だった。

「まあ。みなの怒りももっともじゃが、ここはこの老いぼれに免じて、その怒りをお納めくだされ」

「し・・・・・・しかしですなぁ」

「怒りを納めよ、といってるのじゃが?」

口調の温厚さとは裏腹に、『ワシのような』と表現したほうがしっくりくるような。

眼光の鋭さに、慌てて口を閉ざす貴族たち。

「処刑は明日。それまでは、最後の足掻きということで見守ろうではないか」

別の一人がそれに続ける。

「そうとも。死刑でもなんでも、我等が決めたことこそが正義となるのだ」

「何十人、何百人殺してもそれが国家のためならば、それは尊い犠牲と呼ばれるのだよ」

「まるで犠牲の上に立っていると聞こえるけど?」

そういったのはアメリア。

「いかにも。アメリア様や殿下。
あなたがた王に連なる方々のお言葉こそが意味となり、あなた方こそが正義なのです」

「我らはあなた様。王族の方の手助けをするもの。
それが国のためとなるのなら、我らはいかなる道でも歩きましょうや」

それは裏を返せば、地獄へ堕ちてもいいといっている宣告でもあった。

その手段はとにかく、国への忠誠は本物ではある。

「・・・・・・そのほうらの忠義。大儀ではある」

「もったいなきお言葉でございます」

深々と、頭をたらす。

「ならば誓って、わたしを陥れようとはしないか」

「滅相もございません。アメリア姫」

「我らは御身のみを案じることあれど、陥れようとは露ほどには思っておりませぬ」

「そうか。だがわたしは王族である前に巫女頭を務めている」

「存じておりますが」

「わたしは多くの巫女を抱える身でもある。
一時は我がおじの代理で、神官長とも兼任していたことはそなたらも知っているな」

「もちろんでございます」

「今は他のものが要職についてはおるが、それでもわたしと彼らに結ばれた信頼はたやすく切れない絆の糸となっている」

なにをいいたいのかわからず、首を傾げるもの。

アメリアはかまわず続けた。

「巫女たちが抱える悩みはわたしの悩み」

「違いありませんな。
巫女たちを統べるということは、その悩みを共有することで、少なからず道のりを示すことでもあるのですから」

「そしてまた、彼らを陥れることは、わたしを陥れるのと同意語だということでもありますよね?」

「そ・・・・・・それは」

一人が口ごもる。

よーやく気がついたみたいである。

アメリアがいったのは、つまりこう。

たわごとにしか聞こえないことでも、彼女と他人を結びつけることで、自分を疑っているのかと遠まわしにいっているわけである。

どう考えても、無茶な屁理屈。

・・・・・・こじつけにしか聞こえないが。

「それとも、わたしのいうことは正しくない。つまり正義ではないと?」

かわいらしく首をかしげ、無邪気に尋ねるアメリア。

・・・・・・アメリア。

なかなかキツい手段を使うなー。

どうも彼女。時々ドライな一面を見せる。

「め・・・・・・めっそーもございません」

アメリアの辛辣な発言に、すっかり萎縮する中年男性。

対するワシの目じーちゃんは、何を考えてるのかわからん細目で、じっとアメリアを見る。

「・・・・・・ほっほっほ。おいたが過ぎた子供にはしつけが必要です」

・・・・・・うーむ。伊達に年取ってないか。

そうはぐらかされては、追求は不利にはたらく。

「事実がある以上、罪人を裁くのは止められはしませんよ。
そうですな。アメリア様が死刑が駄目というのなら、矯正という形で、王宮の中で幽閉という形が望ましいかと」

「おお! それならば、神の御前を血で汚すこともないな」

「死刑以外の刑を提案なさるとは、なんと慈悲深い方なのか」

口々上がる賛同の声。

「しかし、再び危害を加えようとしたらどうする?」

「なーに。そのときは一思いに」

事情を知らされていない、情報を公開されていないほとんどの人間と。

事情を知っていて、神の力を利用しようとしている、王宮の人間たちの思惑が絡まりあう。

「・・・・・・なら、再び害を及ぼす前に、今後一切この国に立ち入らないようにすればどうだろうか」

そう発言したのは。

「しかしなぁ。フィリッツメイヤー卿。
国外追放して、もし復讐の刃を向けたらどうする」

「そうなったらそうなった時のこと。今度は切り捨てればよかろう?」

「ふむ。たしかに相手はたかが神官。恐れるに足りぬ相手だな」

マーシュ卿と貴族の会話を聞きとがめ、じーちゃんは険を強めた。

「王族を手にかけようとしたものを、野放しにするというのか!? そんな危険で大それたまね、許されるものか!」

「あの神官もこの国の民! いかに自分が愚かなまねをしたのか、懇々と説明し、国のために尽力を誓わせるのが国の為ではないのか!?」

慌てたように、口々に言うほかの貴族たち。

なかには、王宮関係者の姿も見える。

「だが誓わせるにしても、時間がかかるのが実情だろう。
ならてっとりばやく国外追放にしてしまえば、コストもリスクもそれほどかからない」

「危険な因子を野放しにすることが、いかに無謀なことか」

「だが必ず反旗を翻すわけでもないだろう。
現に国外追放して、反旗を翻した例は、それほどないだろう」

死刑か幽閉か。

あるいは国外追放か。

他にも意見は出たが、大まかに処刑内容の話はこの三つに分けられた。

自分の処遇が挙がっていても、彼は動じずに沈黙を保ったまま。

「静粛に!」

声が上がり、徐々に静まっていく声。

「準備はよいかっ!?」

密やかに議論が続く中、アレンは閉じていた目をゆっくりと開けた。

「・・・・・・はい」

彼はそっと、首のネックレスに手をかけた。

アレンは、視線をスィーフィードの像へ向ける。

「そのまえに、ヴラバザード様宛に伝言・・・・・・いえ。
ある方からの遺言を預かっているのですが、発言してもよろしいでしょうか」

「よろしい。許可しましょう」

「・・・・・・ヴラバザード様ご本人はいかがでしょうか?」

『いいぜ』

あたりに響いた見知らぬ威厳に満ちた声に、ざわめく民衆。

おまえの声かと尋ねる人々。

その声を初めて聞いた人間がほとんどだろう。

その存在がいることは知っていても、こうして声を聞くまでは、半信半疑だったのだろう。

依然として姿を見せないが、あたしはヴラがどこにいるのか、見当がついた。

アメリアをはじめ、ガウリイや神官など勘の鋭い人間は、ある一点を見つめていた。

――赤の竜神スィーフィードの像へと。


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