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◆−白魔術都市狂想曲 111−フィーナ (2010/7/10 19:29:57) No.35153
 ┣Re:白魔術都市狂想曲 111−セス (2010/7/11 00:26:25) No.35155
 ┃┗Re:白魔術都市狂想曲 111−フィーナ (2010/7/12 16:46:05) No.35156
 ┣白魔術都市狂想曲 112−フィーナ (2010/7/12 19:08:49) No.35157
 ┣白魔術都市狂想曲 113−フィーナ (2010/7/15 22:06:03) No.35158
 ┃┗Re:白魔術都市狂想曲 113−セス (2010/7/17 22:36:33) No.35160
 ┃ ┗Re:白魔術都市狂想曲 113−フィーナ (2010/7/18 19:08:34) No.35162
 ┣白魔術都市狂想曲 114−フィーナ (2010/7/25 19:42:53) No.35172
 ┣白魔術都市狂想曲 115−フィーナ (2010/8/5 20:21:22) No.35179
 ┣白魔術都市狂想曲 116−フィーナ (2010/8/12 18:57:29) No.35181
 ┃┗Re:白魔術都市狂想曲 116−セス (2010/8/13 20:31:59) No.35182
 ┃ ┗Re:白魔術都市狂想曲 116−フィーナ (2010/8/14 22:55:09) No.35183
 ┣白魔術都市狂想曲 117−フィーナ (2010/8/23 22:16:14) No.35189
 ┃┗Re:白魔術都市狂想曲 117−セス (2010/8/26 23:38:42) No.35190
 ┃ ┗Re:白魔術都市狂想曲 117−フィーナ (2010/8/28 18:26:08) No.35191
 ┣白魔術都市狂想曲 118−フィーナ (2010/8/28 21:15:44) No.35192
 ┃┗Re:白魔術都市狂想曲 118−希 悠 (2010/9/3 23:57:39) No.35193
 ┃ ┗Re:白魔術都市狂想曲 118−フィーナ (2010/9/7 20:08:58) No.35196
 ┣白魔術都市狂想曲 119−フィーナ (2010/9/11 19:39:18) No.35198
 ┣白魔術都市狂想曲 120−フィーナ (2010/12/5 20:04:08) No.35209
 ┃┗Re:白魔術都市狂想曲 120−kou (2010/12/6 21:47:26) No.35210
 ┃ ┗Re:白魔術都市狂想曲 120−フィーナ (2010/12/26 16:21:54) No.35213
 ┣白魔術都市狂想曲 121−フィーナ (2011/5/8 20:25:02) No.35215
 ┣白魔術都市狂想曲 122−フィーナ (2011/9/21 18:24:13) No.35224
 ┣白魔術都市狂想曲 123−フィーナ (2012/4/28 19:09:47) No.35226
 ┣白魔術都市狂想曲 124−フィーナ (2012/5/7 19:25:08) No.35227
 ┣白魔術都市狂想曲 125−フィーナ (2012/10/3 13:25:14) No.35234
 ┣白魔術都市狂想曲 126−フィーナ (2013/3/31 16:31:56) No.35235
 ┗白魔術都市狂想曲 127−フィーナ (2013/9/25 13:04:26) No.35239


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35153白魔術都市狂想曲 111フィーナ 2010/7/10 19:29:57


あてがわれた部屋の一室には、すでにガウリイとゼルガディスの二人が来ていた。

「おそかったな」

あたしがアメリアの案内で地下牢に行っている間に、彼らには王室の動きを探ってもらっていたのだ。

むろんゼルは王宮への面識はない。

お家騒動のときに居合わせなかった彼が、王宮の中で探りを入れようとしても、関係者たちとは初顔合わせ。

警備兵たちからすれば、不審者として警戒されるのは目に見えていた。

そこで、面識のあるガウリイといっしょにいることで、すべての場所は無理だとしても、ある程度の情報は仕入れることができる。

ゼルは目深にかぶっていたフードを取り去って言った。

「思っていた以上に、情勢が動いている」

「聞かせてくれる? その口ぶりからすると、王宮内だけではないんでしょ」

ゼルはうなずいた。

「まずは王宮内の神殿に動きがある。いうまでもなく火竜王のことについてだ」

「ヴラね。なんとなく予想はつくけど。
おーかた、ヴラをこの地にとどまってくれっていう類か、その力を示してくれ・・・・・・とか?」

ゼルは軽く肩をすくめた。

「さすが察しがいいな。あんたが思っている通りさ。
これはまだ噂でしかないが、神殿の上層部には、これを機に内紛が続く地に、神の力をみせ争いを止めようとしているらしい」

「それって、戦争を終わらせようとしているんだから、いいことじゃないのか?」

「旦那。もしそれが実現したら内紛は収まるかもしれんが、新たな火種を生み出すとは考えられんか?」

「どういうことだ?」

「火竜王が争いを止めるために力を使ったとしよう。
それを他の人間が知ったらどう思う? 火竜王の力は強大だ。
我々人間など足元にも及ばないほどの力。もしそれを手に入れられたらどう思う」

「どうっていわれても・・・・・・普通は使うだろう?」

「そう。宗教などにも、神聖な存在として崇められているのが神だ。
なら神を巡っての諍いが起きてもおかしくはない。もしくは、神がついていてくれるから自分が正義だと思う連中もいるかもな」

「つまり・・・・・・どういうことなんだ?」

「つまりよ。内紛でおきる小競り合いなんかじゃ比較にならないほどの――殺戮ね」

あたしが簡潔につないだ言葉に、ガウリイは言葉を失った。

「・・・・・・けどよ。それって飛躍しすぎじゃないか?」

「皆がみんな、そう考えてはいないだろうけど。
・・・・・・起こりうる可能性の一つであることは事実ね」

これに関してはヴラではなく、人間のほうに非があるのだが。

それに本当にそうなるというわけでもない。

ただの推測や憶測の段階でしかないのだ。

「ほかには?」

「神官の詰め所で聞いた話だと、あの神官は七日に一回ほど、王宮の神殿に顔を出していたそうだ。
今回の逮捕のことにしても、同僚たちは表立ってはいないが、相当反発があったときく。
よく同僚や後輩から相談にのることも多かったらしいし、恨みを買うタイプではないからな」

「そっか。そういえばあんた護衛してたんだっけ」

「ああ。だが」

「だが?」

「これにはまだ続きがあってな。
反発して抗議したその同僚や後輩たちだが、王宮の過激派とも呼べる連中に拘束されたそうだ。
国に対して謀反の疑いあり、とな」

・・・・・・なるほど。

だからアメリアも、謀反がどーたらときにしてたわけか!

「ならその同僚たちは釈放されるでしょうね。アメリアが手続きをしに行ったもの」

ただし、しばらくは監視がつくだろう。

それも、きづかれないようこっそりと。

いくら同僚たちが無実でも、嫌疑をかけられた以上、世間は気にするだろう。

「今回あの神官が捕らえられ、王宮がどう扱おうとしているかは、聞き込みで大まかに分けて三つほどの勢力が判明した」

「・・・・・・三つ」

「先ほど出てきた過激派と、穏健派。どちらにも属さない中立派。
ただしこのことは、お家騒動のように誰でも知っているというわけではない。あの神官が神の力を使えるということを」

今あたしが貴族や文官たちに教えたとしても、一笑に付されるか、頭ごなしに否定されるか。

なんにせよ、余計な混乱を煽ることになりかねない。

アメリアに言ったのは、彼女が少なくとも、他の頭の固い連中とは違うからである。

でなければ、巫女頭なんぞつとまるはずがない。

アメリアが王族だということだけでなく、柔軟な思考だからこそ、できることである。

・・・・・・時々熱くなりすぎて暴走はするが。

「過激派の中には、国王に仕えている連中が筆頭になっている」

ゼルのセリフに、あたしは眉をひそめた。

「・・・・・・は? いま国王って」

「病に臥せっているエルドラン国王。フィリオネル王子が代行で、政務を取り仕切っていると聞くが」

「いや、あたしがいいたいのは、なんだってンな連中が過激派なんてぶっそーな」

「おれにいわれても知るか」

そりゃそうである。

しっかしエルドラン王は、ここ最近表には出てこない。

病の進行が早く、意識もない状態が続いているというのが、町の人々の噂であるが。

「そして過激派の中には、王位継承者はフィリオネル王子ではなく、アメリアを担ごうとしている動きがある」

「アメリアに?」

確かに彼女も、王位継承権を持っている。

貴族や他国の王子と婚姻関係を結び、そのあいだに子供が出来れば、その子供が次期王位を継承できる権利を与えられる。

「政務の経験は浅いが、フィリオネル王子同様、人望の厚いアメリアを王位につけようといったところだな」

「他の貴族にしても、アメリアと婚姻関係を結び、子供を王位につけたいってことでしょうね」

「だとすると、エルドラン国王が病に臥せっていることをいいことに、好き勝手に台頭しているのか」

現在の国王がそれで退位しても、侍従や仕官たちといったいわゆる重鎮とも呼べるエリートたちにとって、痛手になることはまずない。

次の王位に就くものの補佐を行い、目が届かないところで根を張る。

互いに足りないものを補うという意味では、甘い汁を吸う連中のことを肯定せざるをえない。

人間に限らず、完璧な存在などいない。

国に暗部とも呼べる汚れ仕事も、確かにあるのだから。

「・・・・・・でもそれなら、姉のグレイシアさんでもいいはずだけど」

「おれが聞きかじった話だと、グレイシア姫は多くの情報網を持っているそうだ。
貴族たちのなかには不安材料となる情報も握っていて、うかつに敵に回したら手に負えないとでも思われたんだろう」

・・・・・・ふむ。

となれば、貴族たちとグレイシアさんとの間には、互いに不干渉な部分とゆーのがあるのかもしんない。

「穏健派は逆に、フィリオネル王子を支援している連中がおおい」

「・・・・・・いやな構図ね。
下手すれば、フィルさんとエルドラン国王との対立とも取れるじゃないの」

政治的な謀略というのは、どこの国にも水面下で行われていることである。

沿岸諸国では、諜報員同士の駆け引き。

他国へもぐりこんでの不安定化工作も、公然の秘密となっている国もあるみたいだし。

「あんたのほうで掴んだ情報は?」

「ここへ来る前、手続きをしているアメリアから聞いたわ。
ヴラを長くここに留まらせているのは、外の侵略より中から内輪での揉め事で崩れ去る危険性が高いって」

「道理だな」

「神殿にいるヴラと、収容されているアレンを接触させるのは二日後。
過激派と穏健派。王宮からの強い要望で、処刑はその翌日――三日後に決まったそうよ」

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35155Re:白魔術都市狂想曲 111セス 2010/7/11 00:26:25
記事番号35153へのコメント

こんばんは、フィーナさん。
>「そう。宗教などにも、神聖な存在として崇められているのが神だ。
>なら神を巡っての諍いが起きてもおかしくはない。もしくは、神がついていてくれるから自分が正義だと思う連中もいるかもな」
>
>「つまり・・・・・・どういうことなんだ?」
>
>「つまりよ。内紛でおきる小競り合いなんかじゃ比較にならないほどの――殺戮ね」
>
>あたしが簡潔につないだ言葉に、ガウリイは言葉を失った。
>
>「・・・・・・けどよ。それって飛躍しすぎじゃないか?」
>
>「皆がみんな、そう考えてはいないだろうけど。
>・・・・・・起こりうる可能性の一つであることは事実ね」
>
>これに関してはヴラではなく、人間のほうに非があるのだが。
ヴラもうんざりしているでしょうね、人間のこういうところは・・・
>
>アメリアが王族だということだけでなく、柔軟な思考だからこそ、できることである。
>
>・・・・・・時々熱くなりすぎて暴走はするが。
・・・時々、といっていいんでしょうか?(笑

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35156Re:白魔術都市狂想曲 111フィーナ 2010/7/12 16:46:05
記事番号35155へのコメント


>こんばんは、フィーナさん。
こんにちは。セスさん。
>>「そう。宗教などにも、神聖な存在として崇められているのが神だ。
>>なら神を巡っての諍いが起きてもおかしくはない。もしくは、神がついていてくれるから自分が正義だと思う連中もいるかもな」
>>「つまりよ。内紛でおきる小競り合いなんかじゃ比較にならないほどの――殺戮ね」
>>これに関してはヴラではなく、人間のほうに非があるのだが。
>ヴラもうんざりしているでしょうね、人間のこういうところは・・・
ある種達観せざるを得ないかと思います。
私利私欲に走る人間を見るにあたって、冷徹に切り離さなければ破滅しかありませんからね。
>>・・・・・・時々熱くなりすぎて暴走はするが。
>・・・時々、といっていいんでしょうか?(笑
暴走の度合いが大事です。いつも暴走してたら、普通の人ついてこれませんよ。
アメリアの駆け引きうまく書けるかな。なかなか辛辣なこと言いそうです。目指せ原作四巻バージョンのアメリア。

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35157白魔術都市狂想曲 112フィーナ 2010/7/12 19:08:49
記事番号35153へのコメント

それからの王宮内での水面下での駆け引きは、熾烈を極めた。

情報操作や、陥れるための裏工作など表立っては出てこずとも、その暗い思念は、勘のいい人間なら感じ取れてしまう。

フィルさんのほうにしても、決定的な証拠がないといって慎重に行動するよう、勧告しても止まる気配はなかった。

過激派と穏健派の対立が、国王派とフィルさんの派閥との対立として捉える人間も多い。

事情を知らされていない貴族たちも、ひろがる派閥の噂を聞きつけ、落ち着かない様子だった。

病床で国王は不在であれど、今のフィルさんは国王の代理に過ぎない。

政務のほとんどをフィルさんが、できる範囲の政務の手伝いをアメリアやクリストファが補佐しているものの、国王お抱えの機関があるのもまた事実。

こういった機関は、国王でしか動かせず、機関独自の判断で動く場合もあると聞く。

なにもこれは、そんなに珍しいことではない。
                     エターナル・クイーン
あたしの郷里のゼフィーリアでも、 永 遠 の 女 王 が擁する、極秘部隊なんてのもあるぐらいだし。

裏で根回しされた情報操作の賜物か、幸か不幸かアレンのことはそれほど出回ってはいない。

だが神殿のほうでは、なんらかの圧力でもかけられたのか、最初のときのように擁護しようとする動きはみられなくなった。

彼の同僚や後輩たちも、過激派に拘束されて解放された今となっても、すっかり萎縮してしまい。

一般のひとからすれば無理からぬことだが、行く末をただ見守ることしかできなくなったようである。

このいきすぎた様子をフィルさんはいさめ、過激派はそれをうけ迅速に謝罪文を神殿に送り対処した。

この一連の謝罪に関しても、どことなく計算されていたかのような対応の早さがある。

あたしの推論だが、過激派は咎められることも、もとより想定していたのではないのだろうか。

早めに謝罪文を用意し、フィルさんに勧告を受けすぐに神殿に送るなど、想定していなければできないことである。

それに神殿側からすれば、こうも早くに対応されれば、そう強くも出れないだろう。

相手が王宮ならなおさらに。

セイルーン以外でも、王宮と神殿のつながりは深い。

特にこのセイルーン。白魔術の研究が盛んな町である。

あちこちにそのテの魔法医などの施設や、白魔術に関する研究所が隣接している地区もあるのだ。







波打つように感じられる力の気配。

火竜王が姿を見せずとも、その存在感は感じ取れる。

以前ディーと相対したときのような、凄まじいほどのプレッシャーは感じられない。

おそらくヴラは、自分の力と存在感を抑えているのだろう。

セーブしていても分かるほどの、巨大な存在を思わせる強い力の気配。

それでも、時々衝撃波のように波動が迫る。

覇王神官が、人の魂を喰らいあわせ、魔の因子と結合させ。
                           くさび
竜の肉体と属性を媒体に、ヴラに打ち込んだ 楔 は、はたして取り除くことはできるのだろうか。

ヴラがいる場所は、戴冠式も行われる神殿。

赤の竜神スィーフィードが祀られている王宮の神殿である。

陰謀と様々な思惑が交差した、激動の一日が終わりを迎え――

そしてその翌日。

たかが一神官が、神相手になにをできるという思いを隠そうともせず、それでも多くの人々が異様な雰囲気に呑みこまれ・・・・・・

王侯貴族やアメリアたち王族。

策略をめぐらせた、様々な機関の幹部たちの先に。

多くの人々が、固唾を呑んで見守る中。
                       かいこう
――アレンと火竜王ヴラバザードとの 邂 逅 をむかえた。

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35158白魔術都市狂想曲 113フィーナ 2010/7/15 22:06:03
記事番号35153へのコメント


セイルーンの王宮にある神殿は、厳かな雰囲気で満ちていた。

ヴラがこの地にいるための影響なのか。

ほとんどの者が寝静まっているこの時間。

大祭司を始め、各関係者たちが神殿へとやってきた。

火竜王がいることは、暗黙の了解となってはいるが、やはりそう簡単に受け入れられない人間も多い。

一般の人には、そのことは伏せられている。

公開されることもある神殿だが、今回ばかりはそうもいかない。

神殿を取り囲むよう、警備の人間がびっしりと配置されている。

出入り口は言うに及ばず、神官と巫女の詰め所にも厳重な目を向けており、出てくる神官や巫女のチェックも怠っていない。

明かりがともっているとはいえ、まだ薄暗い神殿の中。

あたしたちは、アメリアたちの護衛という形でここにいる。

数人の文官たちと話しをし、耳打ちをして指示を飛ばすアメリア。

一礼をし、忙しそうに飛び交う人々。

その一角。数人の神官たちに囲まれて、マーシュ卿も顔を出している。

神官が数人がかりということは、彼は治療しながらの出席らしい。

手近な若い神官に声をかけ、腰に手を回し・・・・・・

おでこに唇を寄せられ、若い神官は慌てて身を引く。

長身でルックスもそれなりに整っている彼から、人目を気にして顔を背ける。

・・・・・・どーやら嫌がってるのではなく、単に照れてるだけみたいである。

顔を赤らめながらも、マーシュ卿からはなれていく様子はない。

他の神官たちの表情は、呆れるやら面白がるやら、リアクションはそれぞれ違う。

どうも、彼を取り巻くあの神官たち。

マーシュ卿のあのルックスだか色気とかに、免疫がついてしまったのか。

・・・・・・あるいは、彼の毒牙にかけられてしまったのかは定かではない。

彼が節操なしという説も、あるにはあるが。

・・・・・・もーすこし、人目を気にしろよ。

相変わらずだなーあの男も。

そんな彼に声をかける、ずいぶん年配の中年男性。

マーシュ卿はその男性――おそらく貴族か、仕事関係の人間なのだろう――その手をとって挨拶していたりする。

この辺は、さすがに貴族の端くれといったところか。

みるとその端々では、同じような光景が見受けられる。

招待された人間たちは、指定された席へと着席していく。

戴冠式など、国の儀式のとき、この神殿は使われる。

祀ってあるスィーフィードの像が、そこにある人々を見渡しているような気がした。

白々とした朝日が顔を出し始める。

新しい朝の始まり。夜明けである。

王宮の誕生を飾るステンドグラスが、日の光を地面に鮮やかな色を映しだす。







儀式は滞りなく始まり、滞りなく進んだ。

おかしなそぶりを見せないように、みせたら取り押さえられるように兵士が二・三人。

そして、佳境にさしかかろうとしたそのとき。

一人が立ち上がって叫んだ。

「王族を手にかけようとした罪人なぞ、さっさと死刑にしてしまえ!」

おそらく貴族の一人だろうか。

アレンを指差し、吐き捨てた。

「どうせもうそいつに明日はないんだ! さっさと失敗して恥を見るのが関の山だ!
我々のような王侯貴族や王族の忙しい時間を割いてまで、みせるものではないだろうがっ!」

事情を知らされていない何人か、不満を抱えた数人がそれに同意し始める。

「そうだ!」

「早朝に起こされる、我々の立場になってもらいたいものだな」

爆発しそうになった空気を収めたのは、ずいぶん年老いた老人だった。

「まあ。みなの怒りももっともじゃが、ここはこの老いぼれに免じて、その怒りをお納めくだされ」

「し・・・・・・しかしですなぁ」

「怒りを納めよ、といってるのじゃが?」

口調の温厚さとは裏腹に、『ワシのような』と表現したほうがしっくりくるような。

眼光の鋭さに、慌てて口を閉ざす貴族たち。

「処刑は明日。それまでは、最後の足掻きということで見守ろうではないか」

別の一人がそれに続ける。

「そうとも。死刑でもなんでも、我等が決めたことこそが正義となるのだ」

「何十人、何百人殺してもそれが国家のためならば、それは尊い犠牲と呼ばれるのだよ」

「まるで犠牲の上に立っていると聞こえるけど?」

そういったのはアメリア。

「いかにも。アメリア様や殿下。
あなたがた王に連なる方々のお言葉こそが意味となり、あなた方こそが正義なのです」

「我らはあなた様。王族の方の手助けをするもの。
それが国のためとなるのなら、我らはいかなる道でも歩きましょうや」

それは裏を返せば、地獄へ堕ちてもいいといっている宣告でもあった。

その手段はとにかく、国への忠誠は本物ではある。

「・・・・・・そのほうらの忠義。大儀ではある」

「もったいなきお言葉でございます」

深々と、頭をたらす。

「ならば誓って、わたしを陥れようとはしないか」

「滅相もございません。アメリア姫」

「我らは御身のみを案じることあれど、陥れようとは露ほどには思っておりませぬ」

「そうか。だがわたしは王族である前に巫女頭を務めている」

「存じておりますが」

「わたしは多くの巫女を抱える身でもある。
一時は我がおじの代理で、神官長とも兼任していたことはそなたらも知っているな」

「もちろんでございます」

「今は他のものが要職についてはおるが、それでもわたしと彼らに結ばれた信頼はたやすく切れない絆の糸となっている」

なにをいいたいのかわからず、首を傾げるもの。

アメリアはかまわず続けた。

「巫女たちが抱える悩みはわたしの悩み」

「違いありませんな。
巫女たちを統べるということは、その悩みを共有することで、少なからず道のりを示すことでもあるのですから」

「そしてまた、彼らを陥れることは、わたしを陥れるのと同意語だということでもありますよね?」

「そ・・・・・・それは」

一人が口ごもる。

よーやく気がついたみたいである。

アメリアがいったのは、つまりこう。

たわごとにしか聞こえないことでも、彼女と他人を結びつけることで、自分を疑っているのかと遠まわしにいっているわけである。

どう考えても、無茶な屁理屈。

・・・・・・こじつけにしか聞こえないが。

「それとも、わたしのいうことは正しくない。つまり正義ではないと?」

かわいらしく首をかしげ、無邪気に尋ねるアメリア。

・・・・・・アメリア。

なかなかキツい手段を使うなー。

どうも彼女。時々ドライな一面を見せる。

「め・・・・・・めっそーもございません」

アメリアの辛辣な発言に、すっかり萎縮する中年男性。

対するワシの目じーちゃんは、何を考えてるのかわからん細目で、じっとアメリアを見る。

「・・・・・・ほっほっほ。おいたが過ぎた子供にはしつけが必要です」

・・・・・・うーむ。伊達に年取ってないか。

そうはぐらかされては、追求は不利にはたらく。

「事実がある以上、罪人を裁くのは止められはしませんよ。
そうですな。アメリア様が死刑が駄目というのなら、矯正という形で、王宮の中で幽閉という形が望ましいかと」

「おお! それならば、神の御前を血で汚すこともないな」

「死刑以外の刑を提案なさるとは、なんと慈悲深い方なのか」

口々上がる賛同の声。

「しかし、再び危害を加えようとしたらどうする?」

「なーに。そのときは一思いに」

事情を知らされていない、情報を公開されていないほとんどの人間と。

事情を知っていて、神の力を利用しようとしている、王宮の人間たちの思惑が絡まりあう。

「・・・・・・なら、再び害を及ぼす前に、今後一切この国に立ち入らないようにすればどうだろうか」

そう発言したのは。

「しかしなぁ。フィリッツメイヤー卿。
国外追放して、もし復讐の刃を向けたらどうする」

「そうなったらそうなった時のこと。今度は切り捨てればよかろう?」

「ふむ。たしかに相手はたかが神官。恐れるに足りぬ相手だな」

マーシュ卿と貴族の会話を聞きとがめ、じーちゃんは険を強めた。

「王族を手にかけようとしたものを、野放しにするというのか!? そんな危険で大それたまね、許されるものか!」

「あの神官もこの国の民! いかに自分が愚かなまねをしたのか、懇々と説明し、国のために尽力を誓わせるのが国の為ではないのか!?」

慌てたように、口々に言うほかの貴族たち。

なかには、王宮関係者の姿も見える。

「だが誓わせるにしても、時間がかかるのが実情だろう。
ならてっとりばやく国外追放にしてしまえば、コストもリスクもそれほどかからない」

「危険な因子を野放しにすることが、いかに無謀なことか」

「だが必ず反旗を翻すわけでもないだろう。
現に国外追放して、反旗を翻した例は、それほどないだろう」

死刑か幽閉か。

あるいは国外追放か。

他にも意見は出たが、大まかに処刑内容の話はこの三つに分けられた。

自分の処遇が挙がっていても、彼は動じずに沈黙を保ったまま。

「静粛に!」

声が上がり、徐々に静まっていく声。

「準備はよいかっ!?」

密やかに議論が続く中、アレンは閉じていた目をゆっくりと開けた。

「・・・・・・はい」

彼はそっと、首のネックレスに手をかけた。

アレンは、視線をスィーフィードの像へ向ける。

「そのまえに、ヴラバザード様宛に伝言・・・・・・いえ。
ある方からの遺言を預かっているのですが、発言してもよろしいでしょうか」

「よろしい。許可しましょう」

「・・・・・・ヴラバザード様ご本人はいかがでしょうか?」

『いいぜ』

あたりに響いた見知らぬ威厳に満ちた声に、ざわめく民衆。

おまえの声かと尋ねる人々。

その声を初めて聞いた人間がほとんどだろう。

その存在がいることは知っていても、こうして声を聞くまでは、半信半疑だったのだろう。

依然として姿を見せないが、あたしはヴラがどこにいるのか、見当がついた。

アメリアをはじめ、ガウリイや神官など勘の鋭い人間は、ある一点を見つめていた。

――赤の竜神スィーフィードの像へと。

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35160Re:白魔術都市狂想曲 113セス 2010/7/17 22:36:33
記事番号35158へのコメント

こんばんは、フィーナさん。
>
>「そうとも。死刑でもなんでも、我等が決めたことこそが正義となるのだ」
>
>「何十人、何百人殺してもそれが国家のためならば、それは尊い犠牲と呼ばれるのだよ」
そういうこと平気で言う人間って、自分がその『尊い犠牲』とやらになる可能性を綺麗に忘れ去っているようですが・・・
>
>「それとも、わたしのいうことは正しくない。つまり正義ではないと?」
>
>かわいらしく首をかしげ、無邪気に尋ねるアメリア。
>
>・・・・・・アメリア。
>
>なかなかキツい手段を使うなー。
>
>どうも彼女。時々ドライな一面を見せる。
原作4巻でもそういう一面がありましたよね。


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35162Re:白魔術都市狂想曲 113フィーナ 2010/7/18 19:08:34
記事番号35160へのコメント


>こんばんは、フィーナさん。
こんにちは。セスさん。
>>「そうとも。死刑でもなんでも、我等が決めたことこそが正義となるのだ」
>>「何十人、何百人殺してもそれが国家のためならば、それは尊い犠牲と呼ばれるのだよ」
>そういうこと平気で言う人間って、自分がその『尊い犠牲』とやらになる可能性を綺麗に忘れ去っているようですが・・・
まあ。そういう連中に限らず、自分のみに危険が及ばないように、いろいろ保険とかかけてますからね。
アレンもアメリアを手にかけようとした事実を、事実として認めているから。彼が呪いの事を黙っているのは、身内を守るためでもあります。
王宮が欲しいのは神の力であって呪いではありませんから。みてわかるように王宮は、様々な手段を用いて聞き出そうとしています。
同僚たちにいらぬ嫌疑をかけて陥れようとしたり、神の力を得るため、他国にいる弟を呼び出してトレードの材料にしようとしたり。
正直に申告なんかしたら、利用価値がなくなった&国の安定をまもるためってことでどうなるか。
国には諜報員をはじめとする暗部があるから、アレンだけでなく、関係ある人たちを闇に葬ることなんて造作もない。
>>「それとも、わたしのいうことは正しくない。つまり正義ではないと?」
>>かわいらしく首をかしげ、無邪気に尋ねるアメリア。
>>・・・・・・アメリア。
>>なかなかキツい手段を使うなー。
>原作4巻でもそういう一面がありましたよね。
あれー。あんまり駆け引きうまくかけてない。
アニメではアメリアのドライな部分って絶対できないから。書きたいことが多すぎる。

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35172白魔術都市狂想曲 114フィーナ 2010/7/25 19:42:53
記事番号35153へのコメント

「いったいどうしたというのだ。一点ばかりを見て」

「聞こえなかったのですか?」

マーシュ卿が一人の神官に声をかける。

「なにがだ」

「あの声です」

「声? なにもきこえないが」

その声が聞こえない人間のほうが多いらしく、しきりに怪訝そうな顔をする。

「空耳ではないのか」

「たしかに・・・声なんぞ」

アレンは小さく息を吐く。

「・・・・・・世俗の流れを見つめ、始まりと終焉を見届ける。
理念や思想の違いによる同族同士のいさかいほど、あなたはくだらないことだと思ってるんでしょうね。特に人間同士の価値観の違いによる対立は」

独り言のように、スィーフィードの像に向かってつぶやく。

「ですがね。火竜王。
誰だって妥協したくない部分があるからこそ、ぶつかるものなんですよ」

『わからねぇな。俺らがやってる、世界の生存をかけての争いというならわからなくはねぇが』

「あのひとがいえなかった遺言を言います・・・・・・・『そう思うなら、もう少し後先考えて動け』だそうです」

初代・・・・・・俺はあの世のメッセンジャーですかと、小声で突っ込むアレン。

『生を受けた存在は、いつか滅びを迎えるのは摂理であって理だ。俺たちの力をめぐって争う先にあるのが破滅なら、滅んでしまえばいい』

「・・・・・・そうさせたくないんですよ。俺は」

マジック・アイテムの首飾りに手をかけ、アレンは言った。

『ならこのまま、不当な死を受け入れるのか?』

どこか、面白そうな声色のヴラ。

アレンは静かに、首を横に振る。

「僅かにある可能性にかけて、限られた時間の中、できることをやるだけです。
受け売りですが。この言葉がなかったら、出会わなければ俺は死を受け入れていたでしょうね」

彼は、一瞬こちらに視線を向けた。

あたしは、しっかりと視線を受け止めた。

・・・・・・彼の決意を、後押しするように。

アレンはなぞるように、首飾りに手を添える。

慈しむように。どこか懐かしむように、祈るように。

「・・・・・・力を貸してください」

周囲の雑音を静まらせ、聞きほれさせるような旋律。



―― 悠久を吹き荒ぶ
    天翔ける竜よ  ――


今まであったどれよりも、深く。

喧騒が、波を打つかのように徐々に静まってゆく。

それが、彼から紡がれ始めた。





―― 汝の息吹 ――




アレンは目を閉じ、祈りを捧げるように詩を歌う。

王宮の数人は、ひそかにほくそ笑む。

あたしは見守る。

地下牢でアレンが言った言葉を信じ。



―― 闇を切り刻む ――



上座にいるアメリアは、アレンから紡がれる言葉を、一句も聞き逃さないように耳を澄まし。

数人の神官に支えられながら、マーシュ卿は旋律を紡ぐアレンを見て。

「・・・・・・変わらないな。根底のところは」




―― 旋風の刃と成せ ――




詠唱を終えたアレンは、閉じていた目を開ける。

そして、『力ある言葉』を紡いだ。

「・・・・・・ウィン・ディスカッター」

刹那――

ごぉうっ!

突風を思わせる、激しい螺旋状の風が神殿を突き抜けた!

風の抵抗に成すすべなく吹き飛ばされるもの。

防御結界を展開し、なんとか事なきを得ているもの。

悲鳴を上げようにも、轟風の音のみが吹き荒ぶ。

アレンは力ある言葉と同時、地竜王ランゴートの力が込められたマジック・アイテムを首から外し。

赤の竜神スィーフィードの像――火竜王がいる場所に投げ入れた。

スローモーションのよう・・・・・・まるで風が意思を持っているかのように吸い込まれる。







――閃光がほとばしった。

あまりの眩さに、ほとんどの人間が思わず目を閉じる。

太陽に匹敵するほどの、眩いばかりの閃光。

光が収まり、あたしは目を開ける。

当たりに注ぎ込む光は、不思議な暖かさを宿していた。

浴びているだけで、心が洗われるような光の洪水。

他の人たちも、めをしばたかせたりなんとか目を開ける。

さすがにすこしこたえたが、視力の回復はさほどかからないだろう。

あたしは、あたりをみわたした。

多少しぱしぱするが。

あたし、そして神官たちの視線がマーシュ卿に向けられた。

蛇のように、とぐろをまいた濃い闇の残滓が、光に追い出されていく感じで霧散した。

そして、次に現れたのは人の顔。

『彼』は、腕を伸ばすようにマーシュ卿に手を伸ばす。

声無き叫びを上げるように。

親を・・・・・・無償の愛を求める子供のように。

マーシュ卿は『彼』の名を呼んだ。

「・・・・・・カイル?」

重ねるように、手を伸ばす。

カイルは、安心したかのように笑った。

そしてそのまま、光に包まれ安らかに消えていった。

朝日を思わせる暁の光が、スィーフィードの像を中心にまばゆく照らす。

まるで、スィーフィードの像自身が、輝いているみたいである。

ひときわ濃い闇と、無数の人の顔がスィーフィードの像から湧き出した。

おおおぉぉ・・・ぉぉん・・・

死霊がうめきあうような不気味な声に、数人が怖気だつ。

『眠れ。行き場をなくした魂たちよ。
そして安らかに、輪廻に入り来世を生きろ』

声に導かれるように、無数の顔は天に昇ってゆく。

あるものは緩やかに。

またあるものは、どこか名残惜しそうに。

スィーフィードの像のまえに、ぽつんと残された淀んだような闇。

暁の光をまとい、ヴラは闇に手をかざし。

「消えろ」

暁が、淀んだ闇を吹き飛ばした。

なお残ろうとする闇に、光が容赦なく焼き尽くし、霧散させる。

暁をまとったヴラは、神々しいまでの存在感を放って闇を追い払う。

ひときわ強烈な閃光が、再度神殿を覆った。

鮮烈な光が収まったあと。

そこには、いつものヴラがいた。

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35179白魔術都市狂想曲 115フィーナ 2010/8/5 20:21:22
記事番号35153へのコメント

地下牢でアレンはあたしに言った。

「俺は明日。王宮の思惑に沿った行動を起こします。
ですが、彼等の望む思惑通りには動きませんよ」

そりゃそうだろう。

あたしは内心、つぶやいた。

もし断れば、アレンだけじゃなく、その周囲が今まで以上に巻き込まれるのは明白だ。

すでにじゅうぶん、彼やその周辺に対し、様々な圧力がかけられている。

アレン当人には、表向きに出ていた話し。

すなわち、アメリアのことに対する事情聴取という名目での、誘導尋問や拷問。

彼は、アメリアを手にかけようとした事実を認めてはいるが、動機や背後関係には一切口に出さなかった。

想像を絶する拷問に、口を割らないアレンに業を煮やした連中が仕掛けたのが、アレン周辺への揺さぶりである。

彼の身近な同僚たちに嫌疑をかけ、神殿にいる友人たちにプレッシャーを与え、追い詰めた。

「王宮があんたを利用しているように、あんたもこの状況を利用しようとしているんでしょ?」

あたしは口を開いた。

「あんたがさっきいってた、火竜王に他の竜王の力をあわせ、スィーフィードの力を導こうとするなんて発想。
実は前々から練ってた策なんじゃないの?」

「何故・・・・・・そうおもうんですか」

「あんたが後生大事そうにしている、首のマジック・アイテムよ。
前にあんたいってたでしょ。商人のオリヴァーさんと、魔道士協会の一部でそのマジック・アイテムを作ったって。
魔道士協会内部にも、ポイズン・ダガーに精通していた連中をごまかすため、表向きジュエルズ・アミュレットの製作と称して」

「・・・・・・ええ。
ポイズン・ダガーから気取られないように製作するのに、数年の月日を費やしました」

レイスン・シティでの騒動の際、このマジック・アイテムは実に多様な働きを見せた。

攻撃呪文や補助呪文のストックは言うに及ばず。
       ヴィジョン  メギド・フレア
各場所に 隔 幻 話 と 浄 化 炎 をストックしたそれを設置し、映像を中継して、組織の存在を知らしめ、壊滅の橋渡しをつないだことなど。

あたしが以前もらったストック・ジュエルは、呪文を一気に放出するタイプのものだった。

そのため、奇襲や相手の意表をつくといった戦術には優れているが、一旦呪文を放出してしまえば、次に術をかけてやるまで何の効果もない。

相手が放った小技を吸い取らせ、防御することはできるが。

ただ術のチョイスが威力の大きいやつだと、術の一部をストックするならまだしも。

そのままためて使用しようものなら、術の負荷に耐えられず砕け散ってしまう。

アレンの首にあるのは逆。

長期間微弱に放出し続けるタイプ。これはあたしがもらったものよりあと、魔道士協会で創られたものである。

たとえば足がもげたり深い切り傷など、大怪我をしての長期にわたる治療を余儀なくされたとき。
                    デュラハン
ポピュラーなもので言えば、 死 霊 騎 士 など、指差しでかけられた死の宣告の呪いの解呪。

ようするに、長期的な治療に向いているのである。

あたしがばかすか呪文ぶちかますには、この長期間熟成な治療オンリーなストック・ジュエルものよりも。

一斉放出のストック・ジュエルのほうが、ミもフタもないがはるかに相性がいいわけであるが。

「あんたまえに、そっちのほうを完成したっていってたわよね。
あんたはオリヴァーさんのように、それを復讐に使おうとはしていない」

もっとも、アレンはオリヴァーさんのように、くわせものでもキレ者でもないのだから、ああいった凄絶な復讐劇はどう考えてもできそうにない。

「・・・・・・交換条件だったんですよ。俺とオリヴァーとの。
便宜を計るから、長い茶番劇に付き合えと」

「あの人のことだから、飴と鞭を使い分けたんでしょうね」

「実際それに見合うだけのものでしたよ。オリヴァーには感謝しています」

アレンは、静かな口調で言葉を続けた。

「もう・・・・・・それほど時間があるわけではありません。
他の所有者たちの思いに翻弄され我を失う前に、自我が保てている今のうちに、火竜王を中心に他の竜王の力を束ねスィーフィードの力を導く」

「呪いを解く勝算は? ・・・・・・っていうまでもないか。
こればっかりは、いくら理論で実証したとしてもでたとこ勝負だものね」

スィーフィードとシャブラニグドゥの力はほぼ互角。七つに分かたれたといっても闇の王の二つ名は伊達ではない。

たいするスィーフィードもまたしかり。

導けたとしても一瞬。

火竜王のほうが人間よりも力は上だから、他の竜王の力を合わせてもかき消される可能性が高い。

だが短くても、たとえそれが一瞬であったとしても、かける価値はたしかにあるのだ。

「俺は・・・・・・王宮を尊重していても、身近な人たちに危害を加えた以上、決して服従はしません」

彼は、穏やかながらも苛烈な意志を秘めた声で言った。

マジック・アイテム複数に呪文をかけて導くよりも、はるかに高い可能性。

アレンはそれにかけたのだ。







暁の光が収まり、ヴラは悠然と佇む。

視線の先にいたのは、ダークブラウンの髪を白銀に染め上げ、かろうじてその場に立っているアレンの姿。

「まさか、王宮だけでなくこの俺までも利用するとはな。
豪胆でずるいが、嫌いじゃねぇぜ。そういう青臭くて必死なやつってのは」

アレンは、うつろなまなざしで虚空を見つめた。

「・・・・・・俺は」

伸ばした腕は空をかき、ちからなく勢いを落とす。

焦点の定まらない手を、彼は他人事のように眺め。

その場にへたりこむ。

数人の兵士たちが、彼を取り囲む。

その顔に浮かぶのは疑惑と――畏怖。

「俺は・・・・・・やれるだけの事はやりました。
後悔はありません・・・・・・ですが、ただ一つの心残り・・・・・・」

憔悴した様子で、アレンは細くつぶやいた。

「ただ・・・・・・もう一度だけ・・・・・・もう一度だけ、あの人に会いたかったです・・・ね」

アレンは、ゆっくりと前のめりに倒れた。

しばし流れる静寂。

異変に真っ先に気づいたのは、アメリアの護衛に立っていたガウリイだった。

「おいっ!」

取り囲む兵士たちを押しのけ、抱き起こす。

「おい!」

「貴様何をっ!?」

兵士たちの垂加の声には取り合わず、上体を揺さぶる。

表情を変え、胸倉を掴む。

もどかしそうに上体を揺らし。

ばしぃっ!

遠慮会釈のない張り手が飛んだ。

尋常でないその様子に、ざわめきが起きる。

ガウリイはアレンの胸倉を掴み、吠えた。

「おいっ! 息をしろっ!」

マーシュ卿は、反射的に顔を上げ――

弾かれたように声を出した。

「魔法医か医者をよべっ!」

にわかにあわただしく、その場は喧騒に包まれた。

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35181白魔術都市狂想曲 116フィーナ 2010/8/12 18:57:29
記事番号35153へのコメント


数人がかりで運ばれるアレンをよこめに、アメリアは言った。

「多くの方には、色々尋ねたいこともあるかと思います。
それにつきましては、後日。王宮にまで足を運んでください」

「恐れながらアメリア姫!」

貴族の一人。水面下での出来事を知らされていないのだろう。

戸惑いと興奮がないまぜになった様子で口を開いた。

「先ほどあの神官の詩! あれはいったいなんなのですか!?
なんといっているのかはわかりませんでしたが、旋律にも似たあの詩に、何か心当たりはあるのでしょうか!?」

「・・・・・・詳しいことはわたしにも。
ですが、一部の方々はそれを掴んでいた節があるのは確かなこと。それを踏まえ、後日王宮へ足を運んでいただければと」

「あれほど強大な力を、目の当たりにしたら是が非でも欲しい!」

遠くから別の声が追い討ちをかける。

広がる同意の声。

なるほど。扇動か。

この日まで隠蔽し、力を見せ付けられた人の心理をたくみについた作戦である。

しかしそれはアレンも想定していたこと。

「まってみんな!」

あたしは声を上げ、みんなの注目を集める。

「よく思い出して! 彼はその直後意識を失い搬送されたわ!
ならもしそれをあたしたちが使ったら、彼と同じようになるのが関の山じゃないの!?」

ざわっ・・・

不安げに揺れる空気を見逃さず、あたしは続けた。

「あたしたちが同じように使ったら、それが命を脅かす危険性があったからじゃない?」

むろんそんなわけはない。

アレンを蝕む魔王の呪いの力と、彼が使った神の力が反発しあい、その反動でアレンは倒れたのである。

あたしたちがそう遠くないうちに、神の力とやらを使える日がやってきたとしても。

魔力の行使による減退はあれど、意識不明になってぶったおれることはまずないだろう。

呪いのことを王宮の利用しようとした人間が、知らないことを逆手にとって。

知っているのは、あたしたちだけである。

とはいうものの、人のキャパシティで使える神の力というのは、竜族などに比べるとはるかに少ない。

まあ。それをこの先それを突き詰めていくのは、彼女たちが負う事になりそうだ。

あたしの言葉を受け、アメリアはまるであたしがそういうのを待っていたかのように、現在知りうる限りのことを説明していった。

神の力について。

その危険性の有無の確認。

アレンが何故それを知っていたのかというアメリアたちの疑問は、当然あがった。

・・・・・・あたしにお鉢が回ってきそうな予感がひしひしとしたんで、てきとーに言葉を濁したけど。

めんどくさい事情説明なんぞ、まっぴらごめんである。

王宮の肩こるような延々続く手続きを、なにが悲しゅうてやらなければならないのか。

アレンにしてみても、呪いの事を始め、正直に申告するほど愚かではない。

めんどくさそうな背景を、王宮に言ってやるほどの義務もないと思ったからこそ、さいごまで隠し通していたわけで。

王宮にしてみても、アレンを利用する気満々だったのだから、お互い様な感じがするのだが。

「さーてと。魔の因子と汚された魂。
まだ残り香程度あるが、これなら俺の中で消滅するのも時間の問題。
これで貸し借りはなしになったんで、俺もぶらり旅に戻るとしますかねぇ」

こっきんこっきん肩をならし、ヴラはのんきな口調で言った。

人々の喧騒を、煩わしげに聞きながら。

「んじゃあな」

ひらひら手を振り、踵をくるりと――

「お待ちください! 火竜王様!」

「うんわ目敏い」

一人が上げた声に、ヴラはヤな顔して立ち止まった。

逃がしてなるものかと、無謀なことに包囲網を狭めようとする貴族や兵士。

「どうかこの地に留まりください!」

「めんどい」

即答するヴラ。

その言葉に絶句する神官や巫女たち。

・・・・・・まあ。

神聖な存在として崇められている神が、こんなものぐさだとは普通は思わんわな。

「せめて一年。それがいやなら一ヶ月でもいいので!」

「ここは俺が治める地じゃねぇって、何度も言ってるだろうが」

耳をほじほじしながら、耳にタコができちまったじゃねぇかとぼやくヴラ。

・・・・・・何度も、つーことは・・・・・・

ヴラが治めている地でも、似たようなやり取りが行われたんだろーか?

「大体てめぇら人間が、俺を縛れるわけねぇだろうが」

「ご意見はごもっともです! ですが我等が国のため、どうか!」

「そんで戦争でもふっかけるつもりか?」

「とんでもない! 世界の平穏を望む志は同じです」

「長い目で見ればそうなる。清廉潔白な存在なんているか」

冷淡に吐き捨てるヴラのセリフに、食い下がっていた男も言葉を失った。

「人間誰しも、何らかの欲を持ってる。
別にそれが悪いわけじゃねぇ。欲望を願いと言い換えることもできるな。
欲がなければ、発展も進化もない。だが行き過ぎる欲は破滅につながる。歴史はそれを雄弁に語ってるだろ」

「では・・・・・・せめて、病に臥せっている陛下の病を取り除いていただきたい。勿論それなりの報酬を」

報酬の言葉に、あたしは心揺れた。

王宮のかなり上の人が提示するそれなりの報酬というもんが、どれほどのものなのかは推して知るべし。

「やなこった」

ぐらぐら揺れまくるあたしの心境など知るわけもなく、ヴラはばっさり切り捨てた。

・・・・・・いやまあ。

ヴラのことだから、そうくると思ったよ?

けどもうちょっと、あたしに報酬を前金で返金不可とかなんとかいって全部渡すようにいって。

あたしがありがたくお金をもらって、王宮からとんずらしたあと、断って欲しかったな・・・・・・。

堅実的かつ、実用的なプランを提供する前に断るんじゃない!(八つ当たり)

「人に限らず生を受けたものは、必ず終わりを迎える。
老いから来るのもあれば、病で倒れる者もな。この世にある当然の理を、何故俺が干渉し、捻じ曲げなければならない?」

「そんな!? 子供や敬愛すべき方。情のあるものを助けたいと思わないのですか!?」

「知識としては理解できるが、行動を起こすとなると納得できねぇな。
俺たちと魔族同様。俺たちとてめぇらの間に、あいまみえない部分ってのはどうしたってあるんだからよ」

「神とは我らを助けてくれる偉大な存在ではないのか?」

勘違いにもほどがあるその発言に、ヴラは皮肉そうに笑った。

「甘ったれんな。俺はてめぇら人間の『ママ』じゃねぇ」

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35182Re:白魔術都市狂想曲 116セス 2010/8/13 20:31:59
記事番号35181へのコメント

お久しぶりです、フィーナさん。

>
>「どうかこの地に留まりください!」
>
>「めんどい」
>
>即答するヴラ。
素敵(おい)
>
>その言葉に絶句する神官や巫女たち。
>
>・・・・・・まあ。
>
>神聖な存在として崇められている神が、こんなものぐさだとは普通は思わんわな。
『神』という単語に伴うイメージを、綺麗に打ち砕かれましたね、神官や巫女さんたち。
>
>「せめて一年。それがいやなら一ヶ月でもいいので!」
>
>「ここは俺が治める地じゃねぇって、何度も言ってるだろうが」
>
>耳をほじほじしながら、耳にタコができちまったじゃねぇかとぼやくヴラ。
>
>・・・・・・何度も、つーことは・・・・・・
>
>ヴラが治めている地でも、似たようなやり取りが行われたんだろーか?
心底、辟易しているでしょうね・・・

>けどもうちょっと、あたしに報酬を前金で返金不可とかなんとかいって全部渡すようにいって。
>
>あたしがありがたくお金をもらって、王宮からとんずらしたあと、断って欲しかったな・・・・・・。
>
>堅実的かつ、実用的なプランを提供する前に断るんじゃない!(八つ当たり)
それって世間一般では「単なる詐欺」って言うんじゃあ・・・
>
>「人に限らず生を受けたものは、必ず終わりを迎える。
>老いから来るのもあれば、病で倒れる者もな。この世にある当然の理を、何故俺が干渉し、捻じ曲げなければならない?」
>
>「そんな!? 子供や敬愛すべき方。情のあるものを助けたいと思わないのですか!?」
>
>「知識としては理解できるが、行動を起こすとなると納得できねぇな。
>俺たちと魔族同様。俺たちとてめぇらの間に、あいまみえない部分ってのはどうしたってあるんだからよ」
>
>「神とは我らを助けてくれる偉大な存在ではないのか?」
すがすがしいくらいに、ご都合主義的な勘違い・・・

なんつーか・・・
今回のお話を読んでいると、魔族のほうがある意味で純粋のように見えます。

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35183Re:白魔術都市狂想曲 116フィーナ 2010/8/14 22:55:09
記事番号35182へのコメント


>お久しぶりです、フィーナさん。
こんばんは。おひさしぶりですセスさん。
>>「めんどい」
>>即答するヴラ。
>素敵(おい)
人間同士のいざこざにつきあいきれんだろうが。(byヴラ)
>>その言葉に絶句する神官や巫女たち。
>>神聖な存在として崇められている神が、こんなものぐさだとは普通は思わんわな。
>『神』という単語に伴うイメージを、綺麗に打ち砕かれましたね、神官や巫女さんたち。
信仰の見方が変わりそうです。
>>「ここは俺が治める地じゃねぇって、何度も言ってるだろうが」
>>耳をほじほじしながら、耳にタコができちまったじゃねぇかとぼやくヴラ。
>>・・・・・・何度も、つーことは・・・・・・
>>ヴラが治めている地でも、似たようなやり取りが行われたんだろーか?
>心底、辟易しているでしょうね・・・
いいかげんにしろよと、内心うんざりしてるでしょうね。
>>けどもうちょっと、あたしに報酬を前金で返金不可とかなんとかいって全部渡すようにいって。
>>あたしがありがたくお金をもらって、王宮からとんずらしたあと、断って欲しかったな・・・・・・。
>>堅実的かつ、実用的なプランを提供する前に断るんじゃない!(八つ当たり)
>それって世間一般では「単なる詐欺」って言うんじゃあ・・・
地方によってはそう呼ばれるけど、リナは詐欺じゃないって押し通しそう。
>>「人に限らず生を受けたものは、必ず終わりを迎える。
>>老いから来るのもあれば、病で倒れる者もな。この世にある当然の理を、何故俺が干渉し、捻じ曲げなければならない?」
>>「そんな!? 子供や敬愛すべき方。情のあるものを助けたいと思わないのですか!?」
>>「知識としては理解できるが、行動を起こすとなると納得できねぇな。
>>俺たちと魔族同様。俺たちとてめぇらの間に、あいまみえない部分ってのはどうしたってあるんだからよ」
>>「神とは我らを助けてくれる偉大な存在ではないのか?」
>すがすがしいくらいに、ご都合主義的な勘違い・・・
>なんつーか・・・
>今回のお話を読んでいると、魔族のほうがある意味で純粋のように見えます。
魔族はまだ目的がはっきりしているんですよね。
人間の思惑、目的のために手段を選ばない人がどう動くか。

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35189白魔術都市狂想曲 117フィーナ 2010/8/23 22:16:14
記事番号35153へのコメント


ヴラは不愉快そうにはき捨てた。

「てめぇら人間の都合なんぞしったこっちゃねぇ。
なんで自分勝手で傲慢なことに、俺が付き合わなければならねぇんだ」

「しかし、あなたは我らに借りがある。
人の魂と混ざり合った魔族の因子を、誰が取り除いてやったとおもっておられる。我々人間だとわすれたとはいわないでしょうな」

「誰が? 取り除いてやった?」

ヴラは鼻で笑った。

「はっ! それを驕りっていうんだ。
俺が留まったのは、安定しているこの場所に、魔族によって汚された人間の魂を浄化させるのに適しているからだ。
でなきゃ動乱の元になりかねない地に、俺が留まるわけねぇだろうが」

貴族や文官。

国のお偉いさんと思しき連中がざわめく。

「他にも俺自身が、因子ごと魂を焼き尽くすって方法があったが。
害そうとするものを消滅させるのに、俺が躊躇する理由はねぇからな」

「詭弁を!」

貴族の一人が憤ったようにさけぶ。

「詭弁だろうがなんだろうが、俺はもうここにはこねぇよ」

「ヴラさん!?」

アメリアの訴えるかのような呼びかけ。

「観光はまあまあ楽しめた。世話になったな」

アメリアに向けて片手をあげるヴラ。

「逃がすな! 神を捕らえろ!」

一人の号令に、どこに隠れていたのか雇われた連中が包囲を狭める。

「俺が、人間ごときに捕らえられるか」

刹那――

あたしが瞬きする間もなく、何がどうなったのか分からないが。

傭兵たちは一瞬のうちに吹き飛ばされていた。

気がついたら、彼らは地に伏せられていた。

比喩でもなんでもなく、まさに目にも止まらぬ速さで。

状況からしてそうなのだろうが。

・・・・・・あたしはともかく・・・・・・

野生並の反射神経を持つはずのガウリイにも、その姿は見えなかったらしく呆然としていた。

「気絶させただけだ。
だがまだ道を遮ろうってんなら、気絶だけじゃすませねぇぞ。
どうしてもってんなら、それなりの覚悟で来るんだな」

ヴラを捕らえようと号令した人間は、あの一瞬で傭兵たちと共に昏倒させられていた。

「さーてと。次はどこへ向かおうかねぇ」

遠巻きに見ている彼らを歯牙にもかけず、ヴラはのんきにつぶやいた。

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35190Re:白魔術都市狂想曲 117セス 2010/8/26 23:38:42
記事番号35189へのコメント

こんばんは、フィーナさん。
>「しかし、あなたは我らに借りがある。
>人の魂と混ざり合った魔族の因子を、誰が取り除いてやったとおもっておられる。我々人間だとわすれたとはいわないでしょうな」
なんつー恩着せがましい言い方・・・
>
>「逃がすな! 神を捕らえろ!」
>
>一人の号令に、どこに隠れていたのか雇われた連中が包囲を狭める。
神を捕らえるって・・・身の程知らずにも程がある。
>「気絶させただけだ。
>だがまだ道を遮ろうってんなら、気絶だけじゃすませねぇぞ。
>どうしてもってんなら、それなりの覚悟で来るんだな」
>
>ヴラを捕らえようと号令した人間は、あの一瞬で傭兵たちと共に昏倒させられていた。
身の程知らずな発言の報いを受けましたね
人間のこういうところって魔族から見たらどう映るんでしょうね・・・

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35191Re:白魔術都市狂想曲 117フィーナ 2010/8/28 18:26:08
記事番号35190へのコメント


>こんばんは、フィーナさん。
こんばんは。セスさん。
>>「しかし、あなたは我らに借りがある。
>>人の魂と混ざり合った魔族の因子を、誰が取り除いてやったとおもっておられる。我々人間だとわすれたとはいわないでしょうな」
>なんつー恩着せがましい言い方・・・
この発言した人はまだ、浅い思考の持ち主。
>>「逃がすな! 神を捕らえろ!」
>神を捕らえるって・・・身の程知らずにも程がある。
身の程知らずでも、まだ明確にしている分ましです。
>>「気絶させただけだ。
>>だがまだ道を遮ろうってんなら、気絶だけじゃすませねぇぞ。
>>どうしてもってんなら、それなりの覚悟で来るんだな」
>>ヴラを捕らえようと号令した人間は、あの一瞬で傭兵たちと共に昏倒させられていた。
>身の程知らずな発言の報いを受けましたね
まだまだ、これは序の口。
過激で、さらに容赦ない思惑を王宮は持っています。
>人間のこういうところって魔族から見たらどう映るんでしょうね・・・
愚かしくも、付け入る隙のある存在だと。
神を捕らえることはかなわないけど、人間の欲は果てしないです。

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35192白魔術都市狂想曲 118フィーナ 2010/8/28 21:15:44
記事番号35153へのコメント


「浅はかなことを言い出しおって」

「まったく。人に神を捕らえる。ましてや支配することなど」

「定石では考えられん」

密かなざわめき。

「神が来られた以上、味方するものだと信じて疑わない愚か者よ」

「いい薬にはなっただろうよ。あの貴族にとっては」

倒れている彼らを、兵士たちが外へ運んでゆく。

「だが神は、気分を害しいってしまわれた」

「引き止めることはかなわぬとはいえ、惜しいことを」

その声には落胆はなく、どことなく薄ら寒く感じるものがあると思うのは、あたしの気のせいだろうか。

幕引きの声が上がり、各々が神殿から散り始める。

「・・・・・・リナ」

上座にいたアメリアは、あたしを呼び止めた。

「予定通り、アレンの処刑は明日。
これはすでに覆さないわ。今日の事で罪が多少軽減されてもね」

「そう」

短く返すあたし。

スィーフィードの近くに落ちているはずのそれを、探してみるも見当たらない。

「何を探しているの?」

「首飾り」

「それなら、物証として押収させたわ。
みるからにマジック・アイテムだったし。盗難防止もかねてね」

「・・・・・・どこにあるの」

「魔術の研究機関よ。
マジック・アイテムそのものではなく、込められている力の解析にむけて」

「あんたが許可したの?」

「・・・・・・アレンは、不利益になりうるような情報をむやみに言ったりはしないわ。
たとえ拷問されても、口を割ったりはしない。事実ではないことなら、わたしに反論してでもね」

「アレンの同僚や友人たちは?」

「すでに手続きを終え、解放されてるわ。
・・・・・・報告によると、査問も白紙に戻したらしいわよ」

「浮かない顔してるわね」

「物証が出た以上、わたしは判を押さざるを得なかった」

あたしの前につきたてられた、一枚の紙。

報告書として書かれている断片的な事実。

内容は、数年前から呪術に関する本を重点的に集めていたこと。

神官兼魔法医なら、呪術を解除するため読んでいてもおかしくないのだが。

薬草の類よりはるかに多く、集めていたということ。

他にも、唐突にそれをやめ、マジック・アイテムについて学び始めたことなど。

そのどれもが、すべて客観的な事由として書かれていた。

「裏づけは取れているわ。これは事実だと、本人も肯定していた。
自分の名を上げるために、今回の事件を引き起こしたんじゃないだろうかってのが、元老院たち古参の機関の見解」

「アメリア。あんたはそれを信じるの?」

「そういう見解もあると受け止めているけど、鵜呑みにしてはいないわ」

ざわめく会場の中、マーシュ卿とフィルさんが、話をしているのを視界の隅に捕らえた。

「それが事実であっても、機関の見解が誤りだってこともあるはずよ。
どうして、正義と愛と真実の人であるあんたが」

「彼らから、アレンのものとおぼしき自白書を見せられたから」

あたしは、言葉を失った。

「文字のはねとか、特徴がそっくりだった。確認する前に下げられたけど。
・・・・・・リナと一緒に、地下牢にいたアレンと面会する、少し前のことよ」

「・・・・・・それは、アレンが神の力を使えるって、本人から知らされる前?」

あたしの問いに、彼女は肯定の意味。

首を縦に振った。







「自白書の手配とは・・・・・・考えたな」

「神殿にある課題の論文。諜報員なら不安定化工作のため、要人の文字を複写することはよく行うからな。
他にも、同僚から頼まれた古代文字の翻訳など、あの神官の文字を複写することなど造作もないだろう?」

「たしかにな」

「アメリア姫も、実にうまく動いてくださった。
執行権は王族が握っている以上、複写した自白書に動揺している隙に、処刑日数の短縮を取り計らうこともできた」

「フィリオネル殿下だと、こうはうまくいかない」

「浅はかな思考の持ち主もいたものだ。
人が神を支配し、捕らえることなど無謀以外のなにものでもない」

「人が人を支配することは可能だがな」

「神の力の解析には時間がかかる」

「あの神官には、いくら詰問しても口を割らなかった」

「まったく強情な男よ」

「同僚や友人たちに査問を開けなかったのは痛いな」

「身近な人間を人質にしてやれば、こうも回りくどいマネをしなくてもすんだものを」

「金で雇うにしても、そこらのごろつきなら、嗅ぎまわっている人間たちに捕らえられた場合、口を割ってしまうかもしれん」

「煩わしいものよ。アメリア様と親交が深い魔道士と剣士。
そして、裏社会に精通し、こちらの動向を嗅ぎまわっている白の魔剣士」

「並みの相手なら、事故を装って消すこともできるが。
相手はかなりの手練。しかも悪名高いリナ=インバースときた」

「・・・・・・台風の勢力が通り過ぎるのを待つしかないか」

「明日の裁判が終わるまでだ」

「理由をつけて人知れず隔離してしまえば、おいそれと手出しはできまい」

「そのあとは、手段を問わず、じっくりと聞き出すとしよう」

「国の発展のために」

「神をこの地に呼び戻すために」

「正義のために」

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35193Re:白魔術都市狂想曲 118希 悠 2010/9/3 23:57:39
記事番号35192へのコメント

はじめまして!
こんにちは。希 悠と申します。
つい最近「書き殴り」さんにお邪魔し始めたばかりで、「初」感想投稿です。

著者別・過去ログを遡り、蒼の記憶から(こっそり)読ませていただきました。
しょーじき量的に結構ヘビーでしたが(笑)一気に読んでしまいました。

アレンさん受難の日々(苦笑)

白魔術都市狂想曲に入ってますます大変なことになって行ってしまいこの先どーなってしまうのか・・・ドキドキしながら読んでいます。

アメリアとゼルガディスも登場してきて「ヤッターvv」と心の中で叫びました。(この二人もかなり好きなので前作ではちょっと寂しかったです。)
アメリアは原作バージョンで結構ドライでシビア〜な感じですね。
ゼルはなにやらよーやく人間に戻る取っ掛かりが見つかったようでよかったです。でも、鍵を握るアレンさんがいなくなったらどうなっちゃうんだ?


聖王都といわれつつもかなり裏の部分では闇な動きがあるようで、勝手なことをいっている悪人(?)どもをなじりつつハラハラしています。


>「アメリア姫も、実にうまく動いてくださった。

−−−アメリア利用されてる!?

>執行権は王族が握っている以上、複写した自白書に動揺している隙に、処刑日数の短縮を取り計らうこともできた」
>
>「フィリオネル殿下だと、こうはうまくいかない」

−−−これは完全に利用されてる!!

>
>「正義のために」

そんな使われ方されて、正義が泣いてるぞー

とつっこみながら読ませていただきました(笑)

拙い感想でしたが、どうぞ広いお心で受けとってくださいませ。

続きを楽しみにしております。

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35196Re:白魔術都市狂想曲 118フィーナ 2010/9/7 20:08:58
記事番号35193へのコメント


こんばんは。はじめまして希 悠さん。
ここ最近パソコンに触れれる機会が少なくなり、返事を返すのが遅くなってしまいました。
希 悠さんからの初感想。とても嬉しく思います。
>著者別・過去ログを遡り
過去ログのほうからひろっていただいて・・・著者別のほう、蒼の記憶からしていませんね。そういえば。
>アレンの受難
この人の末路は、もう決まっていますが、人知れず秘めた願いというものがあります。
あるキャラの洞察で、おいおい明かされます。
>アメリアとゼルガディス
アメリアは王族としての視点で行動していますから、かなりドライにふるまっています。
彼女にしてみても、神の力は王族として、巫女頭としても無視できませんからね。かなり葛藤しています。

ゼルガディス登場の意味は、かなり大きいですね。完全ではありませんけど、人の姿に戻れる可能性。その過程にある状態ですから。
ゼルとアレンの意外な共通点がネックですね。彼の今までの行動の意味が明かされます。
>聖王都の闇
王宮では互いに利用したり利用されたり、複雑に思惑が絡まっています。
今のセイルーンの状態は、エルドラン国王の病状の進行とか、それをいいことに台頭している機関があるということです。
貴族としてのマーシュ卿の意見は、かなり核心をつきます。それが懸念でもあるんですが。
>>正義
>そんな使われ方されて、正義が泣いてるぞー
正義を叫ぶ分にはいいですけど。
それを他人に押し付けるのは。もはや正義じゃありませんね。ただの押し付け。
そうするとアメリアが普段やってるのは、はたしていかがなものかという結論に(苦笑)

希 悠さんからの初感想。本当にうれしいです。
良くも悪くも、期待を裏切ることがおおい作品ですので、納得のいくラストにつながるように。
どうか気長にお待ちください。

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35198白魔術都市狂想曲 119フィーナ 2010/9/11 19:39:18
記事番号35153へのコメント


「わたしもだけど、為政者ならあの力を一度目にした以上、手中に収めたくなるわ」

アメリアは、ぽっかりと大穴をあけた天井を見上げてつぶやいた。

「空が割れた・・・・・・と、表現したほうがいいわね。これは」

・・・・・・いつになく苦い笑みを浮かべて。

朝から曇り気味だった灰色の空が、ここ王宮の一帯だけ青が広がっている。
    ダム・ブラス
普通 振 動 弾 など、術で壁を破壊したら、すくなからず瓦礫ができるはずだが、それが一切ない。

さらさらと流れる白い砂のようなものが、あたしたちの頭や肩にかかっていたり、薄く地面に積もっているくらいである。

おそらくは、先ほどの術が天井を貫通した際、術の余波かなんかで瓦礫が粉々に粉砕されたとみたほうがいいだろう。

「大気を震わせ、曇天の空さえ吹き飛ばすほどの力。
ヴラさんのため、ディーが人々の魂から作り出した呪法を、わたしたちの手で取り除くのが目的だったはずなのにね」

王宮がアメリアに、執行権をつかわせる前に神の力のことを言わなかったのは、貴族たちを味方につけるため。

そして、彼ら王宮の利益につながっていることに他ならない。

貴族たちの多くは、いくつもの企業を抱えている。

絵画などの転売や、宝石商など様々。

そんな彼らにとって、これは格好のビジネスにつながると踏んだのだろう。

そして、それは王宮にとっても、魅力を秘めた事柄でもある。

白魔術都市として名高いこの大国で、先駆けて神の力を使うことができたなら。

国としての地位が上がるばかりか、他国に対して優位な立場を取れるばかりでなく。

神の力に関する技術や知識を、セイルーンが独占することだって可能である。

政治的な意味合いのほかに、魔族への対抗手段として、各神殿や他の町の魔道士協会に高値で売りつけたり、

どうあっても得にはなるが、損にはならないということである。

・・・・・・まあ、魔族にとって脅威となる知識を、人間の間で広がっていくことを、彼らが静観しているかどうかは疑問だが。

それに、アレンの呪いの進行は、あたしたちの現在の魔道技術では・・・・・・

ヴラとの接触で、アレンを蝕む呪いが急速に加速し、もはやランゴートの癒しの力だけでは。

呪いの進行を遅らせることはできても、取り除くことは不可能。

・・・・・・だからこそ・・・・・・

万が一のときのために、布石を打っておいた。







「・・・・・・ここか」

彼はフードを目深にかぶり、そびえたつ研究機関をみあげた。

厳重に張り巡らせた、見張りの兵士たちを眠らせて。

「正直に言ったところで、頭の固いお偉いさんは聞く耳を持たない・・・・・・か。
なるほど、たしかにリナの言うとおりだな」

術の影響から逃れ、突っかかってくる兵士を、ブロード・ソードの柄でうちすえ昏倒させる。
 エルメキア・ランス
「 烈  閃  槍 」

続けざま、別の兵士に術を叩き込む。

たまらず倒れる兵士。

「それとも、力を手に入れたことに狂喜した人間は、我を失うものなのか」

呆れともつかないため息を漏らす。

「・・・・・・でてきたらどうだ」

「ネズミにしてはやるほうだな」

音もなく彼の前に立ちはだかる男たち。

「養成施設・・・・・・いや、今は王宮の諜報部隊か。
情報操作などの諜報活動だけでなく、裏では暗殺をも請け負う隠密機関」

「貴様は・・・・・・容姿は大分変わったが、レゾの狂戦士か」

「その名で呼ばれるのも久しいな。あまり喜ばしいことではないが」

ゼルガディスは、ぴくりと片眉を動かし言った。

「何用だ」

「王宮が押収したあるものを取り返しにきた」

「・・・・・・例のマジック・アイテムか。
残念だが、そうはいかん」

「あの神官の所有物だ。返してもらおう」

「あれは王宮に捧げられた王宮のものだ」

じわりと、距離をつめる男たち。

「国が成り立つためには、なんらかの犠牲の上で成り立つ。
大事の前の小事ともいうが。裏家業に長年、足を漬かっていた貴様なら分かるだろう」

「たしかにおれも、昔汚れ仕事をしていた時期もあるから、わからなくもない。
だが、おれは今あの神官の護衛を依頼されている。そうおいそれとは頷けん」

ゼルガディスは、ブロード・ソードを正眼に構え、呪文を唱え始める。

「バックにいるものがアルベルトから変われど、我らのやることは変わりない。
――侵入者は排除する」

合図とともに散開する男たち。

「――ずいぶん盛り上がってるねぇ」

殺気が立ち込めるのをものともせず、能天気そうな声が上がった。

ゼルガディスと、男たちが振り向く先にいたのは一人の男。

毒を含んだその笑みで、男は言った。

「僕も混ぜてくれないかな?」

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35209白魔術都市狂想曲 120フィーナ 2010/12/5 20:04:08
記事番号35153へのコメント


王宮の近くにそびえたつ、大人数が入れるような一室。

離れにあるその場所では、戸惑いを隠せない様子のお偉いさん方がちらほらとみうけられる。

「ですから、今なんとおっしゃった?」

「先ほどもいったとおり、彼は意識不明の昏睡状態に陥っていて、到底起きる気配がないのです」

原因はいまだ不明ですが、とアメリアは難しい表情で続けた。

「だからこそ、ここにはこられないというわけか!? なら何故裁判のある明日ではなく、今日に我々を集められたのだ」

彼女は落ち着いた様子でいった。

「その理由は他でもありません。
魔法医たち数人がかりでも、どうにもできないほどアレンのコンディションが優れないんです。
脈拍も酷く弱く、予断を許さない状況で、生命の危険に常にさらされているような状態だから」

「・・・・・・なるほど。だからこそ早めに行おうというわけか」

別の一人のお偉いさんが、アメリアの説明に納得したように相槌をうった。

「最終的な裁きを下すのは父さんですけど、皆さんなら正しい裁きをしてくださると信じています」

「アメリア様にそこまで言われて、悪い気はいたしませんな」

相好を崩し、目上の者に対する最敬礼を、アメリアに行うお偉いさんたち。

「ではわたしは、まだやらなければならないことがあるので」

「おお。お呼び止めて長居までさせてしまって申し訳ない」

「では私も失礼させてもらうよ」

言葉を交わし、それぞれの席に着く彼ら。

ちなみにあたしは、いちおー弁護人兼アドバイザーとしてここにいたりする。

ガウリイはこういった作業には問題外なんで、もしもの時のためにアレンの傍に置かせている。

番犬としては、まさに適任である。








一方的に相手の非を挙げて、自分たちの優位に持ち込ませようとするのって、裁判としてどーよ? 的なのが現在のあたしの心情であったりする。

それに乗っかってるのが、利権に目が眩んだ貴族たちや高官だというのだから、始末が悪い。

まあ・・・・・・アレンもこうなると知ってて、実行に移したんだから同罪ではある。

もっともアレンの場合、苦肉の策で必死だったみたいだし、王宮の連中とは違い可愛げもあったからまだマシである。

・・・・・・意識があったとき、一発ぶん殴ってて正解だった。

「――そして彼の神官は、神に仕えし者として許しがたいことに、アメリア姫を手にかけようとしていたのを多くのものが目撃しており、それは本人は認めております」

ま、それは『事実』である。

「調査によると、無謀にもエルドラン国王陛下のお命を奪おうとしたらしく、数年前から呪術の研究に手を染め始め・・・・・・」

ずいぶんと脚色されてんなー。

「異議あり!」

友人の一人である神官がこれに抗議し、裁判長はそれを許可した。

証言によると、呪術の研究に手をつけたのは事実だが、それは解呪の類のものに使用されたものだということだった。

他にも薬草の調合など、神官としての腕は確かだったとアレンの上司である別の老神官もそう証言したところで、時間になったため裁判官の声が小休憩を告げた。

こういうピリピリした空気のなか大人しくしてるってのは、どーも性に合わない。

王族をはじめとするお偉いさん方がいる以上、いくらあたしでも気を遣わなければならないというのは、きょうび五歳の子供でも分かる常識である。

・・・・・・いつかガウリイに、たとえ他人がどうあろうと、絶対自分のペースで突っ走るといわれたこともあったが。

下手に暴れようもんなら、最悪のばあい指名手配されること請け合いである。

外に出て、大きく伸びをする。

あー。

肩が凝って仕方ない。

しかしこれで、狙いははっきりした。

彼等の狙いは、まず間違いなくアレンの王宮への幽閉である。

当初の予定では、おそらく『更正』の名目で入れるつもりだったんだろう。

ゆっくり時間をかけ、すべて聞き出してからどうするのかは・・・・・・

・・・・・・いらないことや知りすぎた者を、普通はどう思うだろうか。

過激な思想を持つものや、現状維持など数あれど。

良心的なものがいたのなら、良ければ監視つきの生活か一生幽閉。

しかし悪ければ・・・・・・あとは想像にお任せしよう。

沈黙を守ったままの勢力の狙いは、果たして何か。

さて、これからが本番である。

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35210Re:白魔術都市狂想曲 120kou 2010/12/6 21:47:26
記事番号35209へのコメント

 お久しぶりです! フィーナさん。kouです。
 続きを楽しみにしていたので、とっても嬉しいです!
>「最終的な裁きを下すのは父さんですけど、皆さんなら正しい裁きをしてくださると信じています」
 信じている。あえて言うなら、それは皮肉ですね。なんというか、彼らよりリナの方を信じているでしょうしね。まあ、場合によるとリナの方が信用できない状況もあるでしょうけれど……。
>「アメリア様にそこまで言われて、悪い気はいたしませんな」
>
>相好を崩し、目上の者に対する最敬礼を、アメリアに行うお偉いさんたち。
 どっちかというと、おべっか? と、いう気もしますけれど……。
>「ではわたしは、まだやらなければならないことがあるので」
>
>「おお。お呼び止めて長居までさせてしまって申し訳ない」
>
>「では私も失礼させてもらうよ」
>
>言葉を交わし、それぞれの席に着く彼ら。
>
>ちなみにあたしは、いちおー弁護人兼アドバイザーとしてここにいたりする。
>
>ガウリイはこういった作業には問題外なんで、もしもの時のためにアレンの傍に置かせている。
>
>番犬としては、まさに適任である。
 頭は帽子を乗せるための飾り。体は一人で小さな騎士団並の戦闘能力。その名は、ガウリィ! 
>一方的に相手の非を挙げて、自分たちの優位に持ち込ませようとするのって、裁判としてどーよ? 的なのが現在のあたしの心情であったりする。
>
>それに乗っかってるのが、利権に目が眩んだ貴族たちや高官だというのだから、始末が悪い。
 なんというか、身分が高い人間の中には、もっと身分がほしい。ほしい。と、望むやつが居るんですよね。そういうやつほど、器は小さいんだよな。これが……。
>まあ・・・・・・アレンもこうなると知ってて、実行に移したんだから同罪ではある。
>
>もっともアレンの場合、苦肉の策で必死だったみたいだし、王宮の連中とは違い可愛げもあったからまだマシである。
>
>・・・・・・意識があったとき、一発ぶん殴ってて正解だった。
>
>「――そして彼の神官は、神に仕えし者として許しがたいことに、アメリア姫を手にかけようとしていたのを多くのものが目撃しており、それは本人は認めております」
>
>ま、それは『事実』である。
>
>「調査によると、無謀にもエルドラン国王陛下のお命を奪おうとしたらしく、数年前から呪術の研究に手を染め始め・・・・・・」
>
>ずいぶんと脚色されてんなー。
 エルドラン国王……えっと、ああ。アメリアの爺ちゃんか……。影が死ぬほど薄いから忘れていた。きっと、三男の影が薄いのもそのせい……かな?
>「異議あり!」
>
>友人の一人である神官がこれに抗議し、裁判長はそれを許可した。
>
>証言によると、呪術の研究に手をつけたのは事実だが、それは解呪の類のものに使用されたものだということだった。
 と、いうか本当に解呪のために研究していたんだからな。つか、怪我を治すために怪我について調べる人も居るだろうが! と、叫びたいな。
>他にも薬草の調合など、神官としての腕は確かだったとアレンの上司である別の老神官もそう証言したところで、時間になったため裁判官の声が小休憩を告げた。
>
>こういうピリピリした空気のなか大人しくしてるってのは、どーも性に合わない。
>
>王族をはじめとするお偉いさん方がいる以上、いくらあたしでも気を遣わなければならないというのは、きょうび五歳の子供でも分かる常識である。
>
>・・・・・・いつかガウリイに、たとえ他人がどうあろうと、絶対自分のペースで突っ走るといわれたこともあったが。
>
>下手に暴れようもんなら、最悪のばあい指名手配されること請け合いである。
 そんな事になったら、姉ちゃんにしかられますね。 
 と、言うことを言うとリナに、「あたしは姉ちゃんにしかられないと思ったら指名手配されても良いと考えていると思っているのか!」
 と、怒鳴られそうですけれど……。
 アレン……。大ピンチですね。でも、まあ。半分は自業自得とも言えますけれど……。ようやっと、狙っていたところを両思いになれたと喜んでいる彼女も居ますし……。みんな笑えるハッピーエンドを期待しています。
 以上、kouでした。

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35213Re:白魔術都市狂想曲 120フィーナ 2010/12/26 16:21:54
記事番号35210へのコメント


> お久しぶりです! フィーナさん。kouです。
> 続きを楽しみにしていたので、とっても嬉しいです!
こんにちは。お久しぶりです。
>>「最終的な裁きを下すのは父さんですけど、皆さんなら正しい裁きをしてくださると信じています」
> 信じている。あえて言うなら、それは皮肉ですね。なんというか、彼らよりリナの方を信じているでしょうしね。まあ、場合によるとリナの方が信用できない状況もあるでしょうけれど……。
場合によりけりですね。
彼女の立場上の関係もありますから。
>>相好を崩し、目上の者に対する最敬礼を、アメリアに行うお偉いさんたち。
> どっちかというと、おべっか? と、いう気もしますけれど……。
ご機嫌取りとも、ゴマをすってるともいえるかも。
>>番犬としては、まさに適任である。
> 頭は帽子を乗せるための飾り。体は一人で小さな騎士団並の戦闘能力。その名は、ガウリィ! 
都合が悪くなったとき、暗殺されないための保険です。
>>一方的に相手の非を挙げて、自分たちの優位に持ち込ませようとするのって、裁判としてどーよ? 的なのが現在のあたしの心情であったりする。
>>
>>それに乗っかってるのが、利権に目が眩んだ貴族たちや高官だというのだから、始末が悪い。
> なんというか、身分が高い人間の中には、もっと身分がほしい。ほしい。と、望むやつが居るんですよね。そういうやつほど、器は小さいんだよな。これが……。
そういった権力者たちにとって、考えてみるとアルフレッドは扱いやすかったんでしょうね。
>>「調査によると、無謀にもエルドラン国王陛下のお命を奪おうとしたらしく、数年前から呪術の研究に手を染め始め・・・・・・」
>>ずいぶんと脚色されてんなー。
> エルドラン国王……えっと、ああ。アメリアの爺ちゃんか……。影が死ぬほど薄いから忘れていた。きっと、三男の影が薄いのもそのせい……かな?
>>証言によると、呪術の研究に手をつけたのは事実だが、それは解呪の類のものに使用されたものだということだった。
> と、いうか本当に解呪のために研究していたんだからな。つか、怪我を治すために怪我について調べる人も居るだろうが! と、叫びたいな。
アレンの場合、ある意味時間制限つきでの探求でしたからね。
いつ呪いに飲み込まれるか、本人の気力がもってたから目立ちませんでしたけど。
>>下手に暴れようもんなら、最悪のばあい指名手配されること請け合いである。
> そんな事になったら、姉ちゃんにしかられますね。 
> と、言うことを言うとリナに、「あたしは姉ちゃんにしかられないと思ったら指名手配されても良いと考えていると思っているのか!」
> と、怒鳴られそうですけれど……。
> アレン……。大ピンチですね。でも、まあ。半分は自業自得とも言えますけれど……。ようやっと、狙っていたところを両思いになれたと喜んでいる彼女も居ますし……
どちらかというと、それは彼の弟のほうなきもしますけど。
もうアレン自身は、やれることをすべてやり終わって、今は呪いに飲み込まれつつあります。
他の神官たちも食い止めようと頑張っていますけど、彼等の技術ではどうしようもできません。
一介の権力を持たない人間である彼が、王宮と言う巨大な力を持つ組織に対抗するのはどう考えても難しいです。
王宮編がもうすこしで終わり、エピローグ部分までまだ時間がかかります。もう少し気長にお待ちください。

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35215白魔術都市狂想曲 121フィーナ 2011/5/8 20:25:02
記事番号35153へのコメント


喧騒が続く王宮の中、あたしはロビーで待ち合わせをしていた。

思惑が渦巻くのが政治の常とはいえ、その渦中には巻き込まれたくないと思うのが、

―――貴族や王族とは無縁の世界で生きる、日々の日常に身を置く人々であろう。

小休憩が終わり、数人の文官たちが書類を持って部屋の中に入っていくのを尻目に、貴族たちは硬い表情を時折見せた。

物騒そうな雰囲気をうまく隠せているが、動揺まではごまかしきれなかったみたいである。

・・・・・・どうやら、ガウリイたちがうまく捌いたようだ。

シルフィールの親戚であり、王宮の神殿で働いていたグレイさんにも協力してもらっている。

会議が始まる前のグレイさん曰く、呪法のプロセスの構成が高度すぎる・・・・・・

―――というよりも、人の力では到底及ばない種類のもの。

そして、なんとか呪法の進行は抑えているものの、よくても夕方から今夜が峠だというお墨付きをもらった。

・・・・・・まあ、あの呪法は魔族。

それも魔王のだから一筋縄ではいかないわな。

むろん魔族といってもレッサー・デーモンあたりならともかく、高位魔族や魔王がいるなどいっても、いまだその存在たちのことを信じられない人間というのも多い中、バカ正直に言っても混乱するのが関の山。

他の神官たちにも、うまくごまかしつつ説明して見せた。

貴族や文官たちが部屋の中に入っていき、目の前の扉がゆっくりと閉められる。

静寂が訪れる王宮のロビー。

あたしの手の中に輝くマジック・アイテムを、手のひらで弄びつつ時間を潰す。

どれほど時がたっただろう。

静寂に包まれた空間を破るように、馴染み深い気配が近づいてきた。

こつこつと足音が響き渡り、あたしの前で音が止まる。

姿を見せた彼に、あたしは開口一発いってやった。

「か弱い乙女を待たせるなんて、男の風上にも置けないわね」

「・・・・・・あんたのどこが『か弱い乙女』なんだ?」

疲れた口調で憮然とした様子のゼルガディス。

「中に入らなくていいのか」

「大丈夫でしょ」

肩をすくめて言うあたし。

「動いている人たちもいたことだし、なにより中にアメリアもいるしね」

「そうか」

あたしの手の中に在る『それ』に、ゼルは視線を向けた。

「・・・・・・それが残りのやつか」

「そーゆーこと。急ぎましょう」

会議が決着つくまでには、まだしばらくのときがかかるはずだから。






「やあ。ひさしぶり」

軽く手を上げ、気楽そうに手を振る一人の男。

「ひさしぶりです。オリヴァーさん」

「やだなぁ。そんな堅苦しくしなくても、もっと気軽にしたらどうだい?」

軽く笑いながら言いながらも、その細められた目は彼が油断してはならない人種だとあたしに告げている。

以前知り合った商人で、マジック・アイテムを扱う一見人当たりのよさそうななりをしている。

・・・・・・が、その実態はこのあたしをして、感嘆させるほどの手腕を持つ、一癖も二癖もあるアクの強い人間である。

「なんだってオリヴァーさんがここに?」

警戒を表に出さず、あたしは彼がここにいる理由を尋ねた。

「んー。商売?」

「商売?」

オウム返しに聞き返すあたし。

「そう、商売。
王宮内で面白いことが起きてるって、伝手に聞いてね」

「伝手だと」

「そう、伝手だよ」

ゼルの声にそう返す。

こちらに視線を向け、笑みを浮かべる。

見透かすような視線の強さに、無意識のうちに構えた。

「そんなに警戒しなくても、君たちには何もしないよ」

あたしたちが構えたのを見て、彼は少し困ったように言う。

「・・・・・・それであんたは、どうしようっていうんだ」

「僕は別に、王宮や君たちと敵対しようなんて考えてないよ。
少しの労力で、最大限の利益を得られると踏んでね。ローリスク・ハイリターンってやつだよ」

いって取り出したのは、あたしが持っているやつと同種のマジック・アイテムであり、

そのなかに強大な力を秘めていることが分かる、地竜王ランゴートの癒しの波動。

私利私欲のため、浅はかな貴族たちが難癖つけてアレンから押収した、ひらたくいうと『ぶんどった』ストック・ジュエルである。

「それをどこから?」

「そこの彼に協力してもらってね。親切にも返してもらったんだよ」

ゼルの顔を見てみると、眉間にしわを寄せている。

その表情は『あれのどこが親切なんだ』と物語っていたりする。

・・・・・・どーやらかなり、無茶な目にあったよーである。

聞いたら胃が痛むこと請け合いなような気がひしひしとしたので、話を変えてみた。

「それで・・・・・・それをどうするつもりなんです?」

「どうするつもりもないよ。
まあ、しいていうならアフター・ケアかな」

オリヴァーさんは苦笑を浮かべた。

「本当はアレン君一人で全部やりたかったみたいだけど、ああみえてアホで抜けてるからね」

ずばりとバッサリ切り捨てながら、言葉を続ける。

「まあ商品作る際に、経験や知識を基にした、目の届かない穴のある構成のバックアップや、魔道士協会や神殿への強制パシリ・・・・・・雑用とか自発的にしてくれたからね」

うん・・・・・・力関係がよく分かる。

たぶん本人漠然とうっすら感じとっていたものの、こきつかわれてたこと・・・・・・あんまり気づいてなかったんだ。

「なんだいそんな微妙な顔して」

「あー・・・なんでもないです」

ぱたぱた手を振りつつ、こたえるあたし。

「なに考えてるのか分かるけどね、べつにいいようにこきつかってただけじゃないよ」

胡乱げな笑顔を浮かべつつ、説得力のない事を言う彼。

「それによく言うだろう? 『人事を尽くして天命を待つ』って。
アレン君がやってきたことのほとんどは、意味を持つことだったんだよ」

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35224白魔術都市狂想曲 122フィーナ 2011/9/21 18:24:13
記事番号35153へのコメント


気配の希薄な白を基調にしたその一室。

様々な薬草をブレンドした、あの独特のにおいがその部屋にはあった。

そこにいたのはあたしとガウリイ。

眠るように昏睡しているアレン。

・・・・・・そして・・・・・・

暁のようにまばゆい光を放つ。

灼熱の・・・・・・竜。


























少し前まで時間はさかのぼる。

オリヴァーさんに連れ添って、あたしたちは医療施設の一室―――

アレンのいる部屋にいた。

道中すれちがう神官たちと、挨拶がてらさりげなく情報を引き出してみたりしながら。

ゼルは何か思うところがあるらしく、別行動を起こしている。

「どうガウリイ。なんかあった?」

「ああ。そこそこ腕の立つやつらが色々かぎまわっていたぞ」

部屋にいたガウリイに、様子を聞いてみたが、やはり貴族たちの子飼いの密偵が動いているようである。

「不穏な動きを、誰かしてた?」

「んー・・・」

彼は少し考え込み、

「たいていのやつらが、静観してるか情報を集めてたが、時折殺気を滲み出してた奴らがいたな。
武器はともかく毒を持ち出してる奴がいてな。何かと物騒なもんだったから、縄でしばって役人に突き出しといた」

「そう」

やはりガウリイを、番犬代わりに置いといたのは正解だった。

暗殺の可能性も考慮に入れたのは、不利益な情報をもたらす前に殺してしまえという、短絡的な思考をしている奴が少なからずいるからである。

何故あたしがその考えにいたったかというと、答えは単純明快。

エルドラン国王の不在による、治安の悪化である。

ただでさえ、国王が病気で臥せっているときで、フィルさんが代行で政務を取り仕切っているとはいえ。

代行はあくまでも代行である。

大国というのは、大勢の人が集まり決断して動かしているもの。

いうなれば、時計の歯車のようなものだといっておこうか。

いくつもある小さな歯車が、噛み合いながら時を刻んでいるのと同じことである。

国王という動力によって歯車が何とかうまく機能していたが、もしそれが起動しなくなったとしたら?

以前あたしたちが、とある事情でお家騒動に巻き込まれたときのことを思い出してほしい。

お家騒動は、家督争いとも呼べる。

家督とは、相続すべき家の主人としての地位。またはその跡継ぎをさす。

お家騒動とは、すなわちそれを継ぐ跡継ぎたちによる相続争いとも呼べるだろう。

セイルーンは国であり、この場合は次期国王争いとも言うべきか。

次期国王というのは当然のことながら、大きな権力という野心家にとっては魅力的な要素もあり、それを巡っていくつもの派閥も存在している。

あの騒動の犯人はアルフレッドであったが、彼はフィルさんの暗殺未遂以外にも。

――第一王位継承者を支持する重臣たちの暗殺も確かに行われたのだ。

無論クリストファも、なんらか一枚かんでたみたいだが。

アルフレッドも、王位継承権を持っていた。親のクリストファは、第二王位継承者。

たらればの話になるが、あの時何らかの理由でフィルさんが亡くなり。クリストファが国王になり、退位した後王位に近いのはアルフレッドだったということになる。

そしてアルフレッドを王位に就かせ、次期国王にしようとした派閥もあってもおかしくはない。

あのアルフレッド。以前あったあたしの印象として、典型的な自己陶酔型だと評価したことがある。

あーゆータイプの人間は、男、女に関わらず付き合うと苦労するが、のせてやりさえすれば扱いやすいのだ。

王宮では常に腹の探りあいをしており、陰謀や暗躍の場数を踏んだ古だぬきと呼ばれる人種が横行闊歩している。

連中にとって見れば、アルフレッドはまさに御しやすい相手だっただろう。

国が機能している以上、派閥は決してなくならない。

利害関係がある以上、そういった連中は王宮とは切っても切れない関係なのだから。

「さてと。彼等の目の届かないうちに、終わらせようか」

オリヴァーさんは、昏睡しているアレンを横目に、マジック・アイテムを手に弄びつつそう宣言した。

刹那―――


こぉぉぉ・・・


無音にも似た圧力と共に、ストック・ジュエルから不意に放たれた閃光があたり一面を染め上げた!

あまりの光量に、とっさに目を閉じるあたしたち。

目をくらませるほどの光から、やっと目が慣れあたりを見渡すと。

・・・・・・そこに先ほどまでいたオリヴァーさんや、治療に当たっていた神官たちが姿を消していた。

かわりにいたのは・・・・・・

「よう」

気さくな感じで、こちらに声をかけるヴラの姿があった。

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35226白魔術都市狂想曲 123フィーナ 2012/4/28 19:09:47
記事番号35153へのコメント

「んー。やっぱ人間の作ったものが媒体じゃ、これが限度かねぇ」

「あんた・・・・・・もしかしなくても、ヴラなの?」

「おうよ!」

こきこき首を鳴らしながら、ベッドの上――正確に言うとアレンの胸の辺りでふんぞりかえるヴラ。

ただその姿がどう見ても、

「・・・・・・トカゲ?」

「トカゲだよなー」

そう。

あたしたちの目の前に現れたのは、体長十センチほどの赤いトカゲ(断言)である。

「トカゲいうな! わかってても腹立つわ!」

器用に尻尾をこちらにびしぃっ! と突き出し抗議の声を上げるヴラ。

「どうみたってトカゲじゃないか」

抗議の声も何のその。

ガウリイはのほほんと頬をかきながらそういった。

「竜王目の前にして、そーゆー酷い発言する人間初めて見たぞ」

「駄目よガウリイ、そんなにボロクソいっちゃあ。
こんなんでも、いちおーカミサマとか呼ばれてる存在なんだから」

「・・・引っかかる言い方だがまぁいっか」

「爬虫類の王様でもあるんだから、もうちょっと敬うフリとかしなさいよね!」

「前言撤回! てめぇの発言のほうが酷いわっ!」

ガウリイのフォローにはいったあたしに、なぜかヴラが噛み付いた。

・・・・・・ふむ。

せめてサラマンダーの上位種といったほうがよかったかもしんない。

「もうなんでもいいや。時間が押してるんでサクサク用件いくぞ」

「用件?」

オウム返しで尋ねるあたし。

「いまお前らの前にいる俺は、そのマジック・アイテムを媒体に具現化した分体みたいなもんだ」

「じゃあ本物のあんたは」

「とっくに他の地にいる」

ガウリイの問いに、ヴラはそう答えた。

「ってことは、いまあたしたちの前にいるあんたは、ヴラの残留思念ってこと?」
          俺                                                       この俺
「少し違うな。 本体 の意思や思考を同時に共有しているが、火竜王とは異なる意志を持つのが マジック・アイテムから具現した姿 だ」








ヴラはおもむろにアレンの頭のほうまで近づき、額同士を重ねるように合わせた。

「・・・・・・なにやってんだ?」

「巣くっている呪いの状態を検索してんだよ」

「一瞬でできないの?」

「本体ならできるが、そもそも力は使わないぞ」

「なんでだ?」

ガウリイの質問に、ヴラはその状態を維持したまま

「神の力はそれ自体が強大な力だからさ。湖に一石を投じてできる波紋のように、周辺に良くも悪くも影響を与えちまう――姿に関してもそうだな」

「姿って?」

「地上に降りる際は、様々な制約と多くの制限をかけて人の姿で降り立つ。理由は以下同文」

「大変なんだなー」

他人事のように言うガウリイ。

・・・・・・実際他人事だが。

「・・・魔族の力に対抗する力は何だと思う?」

唐突に放たれた問いに、あたしはしばし考えて、

「・・・・・・魔族の力を超えるには、それより高位の魔族か、神の力をもってするのみ」
                 クレアバイブル
以前ある事情で知りえた 異 界 黙 示 録 よりもたらされた知識を答える。

「そう。そして魔王の力に対抗できるのは、俺たち竜王と呼ばれる神の力あるいは――すべての混沌を生み出せし金色なる母なる存在」

アレンと額を合わせながらそういったヴラの視線だけは、射抜くようにこちら――あたしをみていたのだった。

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35227白魔術都市狂想曲 124フィーナ 2012/5/7 19:25:08
記事番号35153へのコメント

「そもそもこっちのほうに来たのは視察といったが、俺んところの眷属やらが魔族の脅威を実感せず過信してるんだよなぁ」

困ったことにな。と、ゆーうつそうに吐き捨てるようにつぶやいた。

「何か問題でもあるのか?」

「千年前からの交流が途絶え、忌まわしい神封じの結界に阻まれ、結界内と外――つまり俺らが統治する土地とで違いが生じた」

「違い?」

「技術の発展・・・まぁ、文化や環境における進化の過程だな」

あたしの問いに、ヴラはそうこたえた。

「あたしたち人間からしたら千年は長いわよ。
結界の中と外。別の過程をたどっても不思議じゃないわ」

「んー。そーゆーのとは少し意味合いが違うんだよなぁ。
この結界の中では、下っ端中の下っ端魔族による被害が俺らんとこより圧倒的に多い。割合で言ったら1:9だ」

「そんなにっ!?」

思わず声を上げるあたし。

にわかには信じられない話ではある。

「それには勿論いくつか理由がある。一つは俺ら竜王の存在」

「まあ、それは妥当な線ね」

「それとこれが大半を占めていた理由なんだが・・・・・・
物事や事象には、表や裏といったふうに、それに伴う二面性がある。
たとえば――壁についてはどう解釈する?」

試すような口調――いや、実際試しているのだろう。

「壁・・・ね」

「そう。壁だ」

「ここいらにある建築物とか、通路の壁とかじゃないよな」

ガウリイはそうはさんだが、それも一つの答えであり役割であることには違いない。

「質問の仕方を変えよう。壁の役割はなんだとおもう?」

あたしはヴラのセリフから、壁の役割についての表と裏。

すなわち、壁についての二面性をこう答えることにした。

「外的から身を守るもの。逆に危険なものを閉じ込めるもの」

「ほう・・・」

面白そうな、満足そうな様子で笑みを浮かべた。

「シャブラニグドゥの腹心たちが張った結界は、目には見えない『壁』の役割を果たした」

・・・・・・なるほど。

「魔族の視点から言えば、水竜王の顕在時は後者。それ以降は前者といったように壁の役割が変容したってことね」

「御明察。頭の回転も悪くない」

それは何の他意も感じられない、純粋な賞賛の言葉だった。

今の発言から、あたしはある確証を得た。

やはりヴラ――火竜王が結界の中へ入ってきたのは、観光の意味合いが強いといっていたが、ヴラ本人が言うように視察の意味も込められていたのだ。

「それで? あたしたちはあんたたち竜王・・・いえ、竜王の眷属からみてどう映るとおもう?」

我ながら意地の悪い聞き方をしてみる。

「・・・・・・あー。やっぱこの隔離された空間といい、あからさまだったか」

「ヴラが気にすることはないわ」

バツの悪そうな様子で言うヴラに、あたしはそういってやった。

ガウリイは話がつかめず、不思議そうな表情でこちらを見ている。

「ここにはいない火竜王本人も、どちらかというと放任主義者みたいだったし」

「まぁ。この空間は放っておいても、そのうち切れるから。
・・・・・・ああ時間のほうは、あちらのほうは全然経過してないから安心していいぜ」

「なあ、リナ。もしかしてここって魔族の結界のようなところなのか?」

「そうよ」
             アストラル・サイド
魔族と同じように、 精 神 世 界 面 。

そして物質世界に、その身を深く置く存在である以上、空間を歪め、あたしたちだけをここに招待するのはそれほど難しいことではないだろう。

「なんだってそんな、まわりくどいことしたんだ?」

「あー。尻拭いはてめぇでやれっつっても、きかねぇ若い連中が多いっつーか」

「・・・・・・中間管理職みたいなセリフね」

「否定はできんなぁ」

「つまりはどういうことだ?」

「ぶっちゃけていうと、トチ狂った竜族がケンカ売りに来るかもしんないけど、俺は一切ノータッチでノーコメントっつーことだっ!」

「なにぃぃぃぃっ!?」

「ぶっちゃけすぎだわぁぁっ!」

ガウリイの驚愕の声と、あたしのツッコミの声がその場に響いたのだった。

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35234白魔術都市狂想曲 125フィーナ 2012/10/3 13:25:14
記事番号35153へのコメント


「千年の時間ってやつは皮肉なもんで、多かれ少なかれ生ある存在を変質させてしまうらしい。
まあ、この世に生を受けた以上、変化があるのは当然の理なんだが。俺たちが治めている地は、こちらと違って魔族の脅威もほとんどなくてな」

ヴラは苦笑の色をにじませた。

「それによって人間たちの魔術は、衰退しているといったほうがいいな。それと併用しての新しい技術が発展した」

「衰退・・・ね。
その技術と魔術を組み合わせた新しい技法ってわけ?」

「いいや。魔術に代わりそちらの技術のほうが台頭している。
人が魔術を行使する際、呪文と『力ある言葉』を正しく発音できなければ発動しないし、魔術は魔力と、それを御することの精神力が求められるだろう?」

「そうなのか?」

「まあ・・・・・・ね」

ガウリイの問いにあたしは軽く頷いた。

人にとって千年は長すぎる。

水竜王が治めていたこの地に住まうあたしたちは、迫りくる魔族の脅威に備えるため。

あるいは自らを守る自衛のために、千年たった今でも魔術についての研究が盛んに行われている。

だがヴラたち竜王が治める地では、彼らが守護する土地ゆえ魔族が牙をむくことも少ないのだろう。
     カオス・ワーズ
また 混 沌 の 言 語 は、ヴラの言ったとおり発音の難しい部分がある。

あたしのように魔道を扱う人間ならともかく、一般の人で高度な攻撃魔術をビシバシ使う姿なぞ、みたこともない。

ならば千年たった今。ヴラたちの世界で、魔術が口伝などで伝えられたとしても、魔術を修得できるものは減少しているといっていいだろう。

「付け加えると、この地は神封じの結界によって、魔力の密度が濃い場所でもあったからな。
この地に住まう人の魔力総量は、平均しても俺らが治める人のそれとは比べようにならないほどだ」

・・・・・・ん?

あたしは、引っかかるものを感じ、ヴラに問いかけた。

「ちょっとまって。
この地にあった神封じの結界が解かれた以上、もう魔力の高い人間は生まれてこないってこと?」

「いいや。魔力の濃い場所に長い間居たんだ。
その環境に適応できるように積み重ねてきたものは、そう簡単には消えはしねぇよ」

数百年経ったらわからんがな。と、ヴラはそう言葉を重ねた。

あたしたちの会話を、ほけっと聞いてたガウリイは、ぽむっと手を打ってやおらこういった。

「そういや、こいつはトカゲのおっさんの力を借りたやつを使ってたような気がするんだが」

いって指差したのは、アレン。

「誰がトカゲだこのやろう」

「よくわからないんだが、リナが普段よく使ってるやつと違うやつだろ?」

なにげなくさらりといわれ、ヴラはうめいた。

「なんで、そう思う?」

「・・・・・・なんとなくなんだけどな。
無理やり引き出す感じじゃなくて、なんていうか流れに沿うような、そんな自然な感じがしたんだよ」

「・・・・・・なんつーか。おめぇほんとに人間か? それを短い時間で感じ取るとかどんだけだよ。
よっぽど感覚が鋭敏な類な人種だな。眷属やエルフでさえ、それを感じ取れるのは時間がかかるってのに」

呆れとともに、賞賛の言葉をガウリイにおくるヴラ。

要領の得ない彼の言葉に、あたしは怪訝な表情をしていたのだろう。

ガウリイに頭をぽんぽんと撫でられる。

「どういうことよ? あんたが言いたいことは、竜王の力を使った術と、あたしが使う魔術の規模が違うってことでしょ」

認めるのはちょいと業腹だが、アレンが使っていた魔術は威力や効果範囲など、今ある既存の魔術とは比較にならないほど強大なものが多い。

例を挙げると以前アレンが使用した、地竜王ランゴートの癒しの術。

その範囲は建物をすっぽりと覆いつくし、収容されてた怪我人の怪我や魔族の因子に苛むものの体力を癒し、そこに漂っていたはずの瘴気さえも浄化してしまうという規格外な力の一端を見せられているのだ。

補足させてもらうと、呪文の詠唱も短い。

いや。あれは呪文の詠唱というよりも――詩。

強弱のある聞き慣れないそれは、音に乗せて流れる旋律だった。

「根底から違うな。お前たちが魔術を行使する際使う呪文の詠唱。
魔とは、本来この世にあらざる力。詠唱によって世界の理の一部が崩れ、そこで初めて力は具現される。
この地に住まう人が使う魔術と、俺らの力を借りた術はその辺は同じだ。だが、その力の引き出し方が異なるものなのさ」

異なるもの。

力の引き出し方。

力のありよう。

魔術の行使。

精霊魔術などは呪文によって、世界の理を崩し具現された力。

では、竜王の力もまた世界の理を崩し・・・・・・

いや、まてよ。

竜王たちは、元は赤の竜神スィーフィードの分身と呼ぶべき存在で、世界が創られ、ともに存在した魔王と世界の存続をかけ覇権を競い合った。

・・・・・・世界の存続。

世界と共に在った存在。

世界と『近しい』・・・親和性のある存在。

「世界という、大きな力の流れ?」

「ほう?」

ヴラは、人知れずつぶやいたあたしのセリフを聞いて、にやりと笑った。

それは・・・・・・つまり。

「竜王の力は、精霊魔術のように力を『引きずり出す』のではなく、力の流れに『逆らわずにゆだねる』のが俺たちの力を借りた術の正体だ」

あたしの推測を裏付けるよう、ヴラはそう付け加えた。

水にたとえると、押し寄せてくる濁流に向かい合い抵抗して進もうとするのと、逆にその流れに逆らわずに居るのとは、断然違うことなのだ。

「その人間が俺たちの力を使えたのは、皮肉なことにシャブラニグドゥにかけられた呪いがあったことだといえる。
人間が物事を徐々に忘れるようになっているのは、脳の情報量がそれ以上入りきらない情報を処理しきれないからだ。
奴がラーディにかけた呪いは、奇しくもラグラディアがガーヴを人間に転生させたのと似てるがな。違うのは、強く残った記憶・感情がより濃く残されることか」

「強く残った?」

「怒りや悲しみといった負の感情だな。もちろんそれ以外の記憶もあるが」

「アレンがあんたたち竜王の力を借りた術を使えたのも、初代の記憶のおかげ?」

「大部分はそうだが、それを人間が使えるように改良したのは正直驚嘆したよ。
執念というべきか。知識はもちろん、それを活用させる知恵や度胸もなきゃできん芸当さ」

「それで、このあとこいつどうなるんだ?」

ガウリイの問いに、ヴラはそっけなくこういった。

「・・・・・・わすれる」

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35235白魔術都市狂想曲 126フィーナ 2013/3/31 16:31:56
記事番号35153へのコメント


すべてを赤く染める夕暮れが、聖王都と呼ばれる都市を照らす。

まるで焼き尽くす炎のように。

王宮の片隅にある、何の変哲もない一軒家。

兵士たちを退けさせて、あたしと彼女――アメリアは向かい合うように座っていた。

「・・・・・・それで、大体あんたの思惑通りってことでいいわけ?」

きりだしたあたしのせりふに、彼女はほのかに微笑む。

「単刀直入ね」

「そこがあたしの美徳なんでね」

互いに笑みを浮かべつつ、軽口の報酬を交わすあたしたち。

「それで? さっきの質問の答え、沈黙は肯定と取るけど」

「わたしとあなたの仲なら、先ほどのやりとりでわかるとおもうけど?」

浮かべた笑みを崩さないまま、そういう彼女。

・・・・・・ふむ。

「それにしても、ヴラさんが火竜王様だったなんて・・・しばらくはきづかなかったわ」

「それについては同感ね」

「今思い返したら、納得できる部分もあったのに」

「そういえば、ヴラにちょっかいかけた人たちは?」

あたしの投げかけた質問に、アメリアはしばし考えた後、

「ヴラさんと出会う前後の記憶が、スパーンと抜け落ちてるわ。
・・・・・・長期療養の名目で、避暑地に向かうことが議会で決定されたわ」

名目上の建前で、王宮の議会で決定だと断言した以上は・・・・・・

・・・・・・うん。

ちょっかいかけた連中。

社会的にしろ、身体的にしろ終わったな。

「王宮に顔出しできるころには、ついてた役職に戻れるのは絶望的ね」

「・・・・・・『ほぼ』ね。付け加えると」

訂正を加えるアメリア。

どちらにせよ、表舞台から退場いただくことに間違いないだろう。

「それで、議会のほうは?」

本題を切り出す。

「あの部屋にある書物の没収と、国外追放よ」

アメリアは淀みなくそう答えた。

「家の没収は控えたみたい」

「なんでまた」

「一部・・・いえ半数近くの貴族の人たち、期間限定でいて欲しかったみたいでね」

「期間限定の国外追放? それはまた・・・・・・」

眉間を寄せ、ため息をつく。

「キャッチ&リリースじゃあるまいし」

「いい得て妙ね」

感心した様子でつぶやくアメリア。

「厄介後とか面倒くさい話はいらないが、おいしい話は手放したくないって、子供のわがままか!」

「それだけの価値はあるのよね〜」

「あんたたちが欲しいのは個人じゃなくて情報だけでしょーが」

しみじみとうなずきながら言う彼女に、あたしは投げかけた。

「情報はもちろんだけど、アレンさん本人も捨てがたかったのは本当よ。
セイルーンで培った治療のノウハウとか、後任の育成に関してもわかりやすいと評判だったのよ」

「しんないわよそんなの」
      あの人たち
「だいたい 貴 族 、アレンさんが復帰できる以前にあんな状態なのに本気で戻ってこれると思ってるのかしら」

「さあ・・・・・・ね」

こちらに言葉を投げかけた彼女に、軽く肩をすくめてみせる。







・・・・・・あのあと。

切り取られた空間の消滅から、あたしたちが戻ってきて少したった後。

昏睡状態だったアレンの目がゆっくりと開かれた。

その知らせを受け、兵士たちや治療を受け持っていた神官。

物々しい厳戒態勢がしかれた。

帯刀していた剣を突きつけられ、アレンは不思議そうに剣を向けた兵士を見つめた。

・・・・・・まるで赤子のような、無垢な瞳で。

言葉を発するのも、「あー」だとかの発音のみ。

念入りに調べられた結果。

アレンの精神はなんらかの異常をきたし、赤ん坊レベルまで知能が低下。

そして今までの人格に戻ることはないだろうと診断され、協議の結果今に至るというわけである。

しかしあたしは言わなかった。

王宮にはもちろんのこと。

あたしの目の前にいるアメリアにもである。

理由は知られれば、まず間違いなく狙われるからだ。

それこそ国を挙げて。

あの空間の中、マジック・アイテムに宿ったヴラの残留思念と呼ぶべき存在はこういった。

『わすれる』と。

言葉どおりに受け取ると、ガウリイのように大事なことさえ忘れたままだという、人としてはなんともいろいろと本末転倒な可能性もある。

だがある魔道士の研究の中に、忘れたはずのことがふと思い出されたとき。

それは感情に強く残ったことが、押入れのようにしまっていた様々な記憶から連想させたものを引き出すからだと唱えた論文が発見されている。

・・・・・・その魔道士もミイラになって発見されたが。






閑 話 休 憩 
それはともかく。

アレンの場合も今は思い出せないだけで、何かの拍子で『おもいだす』可能性もないわけではないのだ。

あたしがなぜ言わなかったのかは、セイルーン王宮とことをかまえる可能性がいかに高いか考慮して。

組織の中には大まかに三種類の派閥みたいなものが存在する。

穏便に済ませようとする穏健派。

我関せず、あるいは様子見の中立派。

そんで壁があれば壊せばいいじゃないの過激派。

過激派の中で武力行使もいとわない好戦的な連中もいるわけで。

彼の知識の豊富さはまさに歩く図書館だった。

小競り合いを続ける国や、発展途上にある弱小の都市に、それが渡り急激に成長したら?

いつか自分たちを脅かすわからないものをほうっておくのを見ていられるか。

国のことを思うあまり、疑心暗鬼で暴走するなんてこともありうるのである。

要約すると『国家間のごたごたに付き合いきれん』

いかにあたしが天才的な魔道の使い手であり、頭の回転が速いといっても個人と組織でできる幅は大きく異なる。

盗賊団なら遠慮なくつぶせるが、それが大国ともなると。
 ドラグ・スレイブ
  竜 破 斬  ぶちかましても、伝言他国に知らしめて指名手配の出来上がり。

難易度の高さのほど、おわかりいただけるであろう。

いまのは無論たらればの、Ifのはなしである。


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35239白魔術都市狂想曲 127フィーナ 2013/9/25 13:04:26
記事番号35153へのコメント


王宮内にある不透明な部分は、決して表に出てくることなく、彼の身柄は身内のものが引き取ることになった。

そこでもまた、セイルーン内で養生させるべきだという意見が出てひと悶着あった。

(意訳)自国で監視し、手元においておきたい

ならば誰の手元に? と、争点がすりかえられ、ならば我も我もと名乗りを上げはじめ・・・・・・収拾がつかなくなりそうな論争が起きたようだが。

そこはフィルさんの「家族や身近なものの傍の方がリフレッシュできるだろう」と、いう一言でその場はなんとか収まった。

収まったものの、それはフィルさんの言葉に胸を打たれてという心温まる理由ではなく。

病状に臥せっている、エルドラン現国王の代理で政務をこなしている第一王位継承権の発言だったからに他ならない。

ほとんどの国が王制を敷いているのは、あたしたちこの世界の住人なら誰でも知ってる周知の事実。

フィルさんは代理とはいえ、国内で最大の発言権を持つ。

例えばの話だが、いくら公爵の位を持つ発言権の高い貴族であろうと、フィルさんの決定に真っ向から逆らう意見を発したらどうなるか・・・・・・

まあ・・・・・・碌な目にあわないわな。

ともあれ、アレンの引渡しは近いうち内密に行われる。

ゼルガディスは、不測の事態に備えその護衛として、しばらくセイルーンに留まるそうである。

アレンの他国への引渡しが、これほど早く決定されたのには理由がある。

そうするほどの事態が、これまでの過程の中であったからなのだ。







いくら国の決定とはいえ、不穏分子は排除すべきだという過激派はやはり存在する。

・・・・・・現に時折、刺客が送り込まれたし。

そのときのことを思い出すと、柄にもなく憂鬱な気分になった。

場所は人目がそれなりにある王宮の中。

談笑していた文官や貴族たちが次々と倒れていった。

どうやら飲んでいた香茶のなかにしびれぐすりが入っていたらしい。

暗殺者たちが殺到し、その場はからくも迎撃・撃退したものの、暗殺者の数名はあたしたちにはめもくれず、しびれて動けない彼らを手にかけようとしたのだ。

彼らはアレンを擁護していた派閥で、アレンの知識や応用力を高く評価していた。

一人ならともかく、彼ら全員をかばいながら戦うのは、さしものあたしたちも厳しく、防戦一方にならざるを得ない状況だった。

正規の兵士たちが機転を利かし、動けない彼らを一箇所に集めてくれなかったら正直危ない場面がいくつかあった。

襲撃の報せを受け、王宮は貴族たち暗殺の可能性の危険を重く受け止め、二の舞を踏まぬように出した結論がそれだった。
               ヴィジョン
王宮から魔道士協会に 隔 幻 話 によるつなぎをつけ、アレンの身内がいるレイスン・シティに連絡を取り。

そして、都合のついた更に数日後。

「そんじゃ、いこっかアレン君」

「う?」

にっこにこと、自然なほど人好きのする笑顔で、アレンに語りかける壮年の男性。

「うん。君が根回しをしてくれてたおかげで、僕も自由に動くことができた」

「うーあー」

わしゃわしゃとアレンの頭を撫で回し、彼は頬を綻ばせた。

「さて、ひさしぶりだね」

こちらに視線を向け、先ほどアレンに向けた柔らかな笑みとは違う。

不敵ともいえる笑顔を目の前の男は浮かべた。

「久しぶりですオリヴァーさん」

「どうも」

そう。あたしたちの前にいるこの人は、アレンの親戚でありマジック・アイテムを扱っている商人のオリヴァー・ラーズそのひとだった。


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