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ドラスレ! 25
とーる
http://blacktail.blog.shinobi.jp/
2012年5月19日21時58分57秒


 




第二十五話





我に返ったシャブラニグドゥは、俺を振り返る。


「選ぶがいい! このままシャブラニグドゥに魂を食らい尽くされるか!
 あるいは自らのかたきをとるか!」

「おお……」 歓喜の声と――

「馬鹿な!」 焦りの声とが――


同時に口を突いて出た。


「剣よ! 紅き闇を打ち砕け!」


俺は剣を振り下ろす!
黒い光が、魔王に向かって突き進み――黒い火柱が天を衝いた。



ズヴゥン!



「リナ!」


柄の光が消え、俺はがくりと地に膝をつく。
流れ落ちる汗を拭えずに、火柱の中に蠢くものの姿を見つめた。


「く……くっ……くははははははっ!」


ゆらりと火柱から進みいでた魔王は嘲笑し、俺を見下ろす。


「全くたいしたものだ……まさか人間風情にここまでの
 芸があるとは――」


――駄目か……!
ぴしりと、小さい音がした。


「気に入った……お前こそ真の天才の名を冠するにふさわしい存在だ」


褒めてくれるのは嬉しいのだが、喜んでる余裕はない。
ギガ・スレイブのせいで魔力も気力も、俺はほとんど使い果たした。
地面にへたり込んで、肩で荒い息をするのがやっとだからな。


「しかし……残念だ……もう二度とは会えぬ。――いかにお前が
 稀代の魔道士と言えど、所詮は人間」


ぴしり。
また小さな音がした。


「歴史がどううつろうかは分からんが、お前の生あるうちに
 別のわしが覚醒することは、まずありえまいて……」


ぱきっ。


「え――」


俺は魔王の言葉に目を見開き、そして気がついた。
魔王シャブラニグドゥの体中を走る、無数の小さな亀裂に。
これは――。


「長い時の果てに復活し、もう一度お前と戦ってみたいものだが……
 それはかなわぬ望み――お前自身に敬意を表し、滅びてやろう……」

これで眠れます――


シャブラニグドゥの声と、赤法師レゾとの声が重なる。


――ありがとう――すまない――

「本当に……」

本当に――



ぱきん。

ぱりんっ。



笑いながら崩れ、風と砕けて宙に散っていく“赤眼の魔王”。
俺はただ呆然と眺めるだけしか出来なかった。
楽しげな哄笑だけが、いつまでも風の中に残っていた――。





「終わった――の?」


ぽつりとガウリイお嬢ちゃんが呟いたのは、シャブラニグドゥが
完全に消失して、かなり経ってからのことだった。

俺は頷いて、きっぱりと言う。


「――ああ、レゾのおかげでな」

「レゾの……?」


滅びたことが未だに信じ難いのか、魔王が最後に立っていた場所を
じっと見つめながら、ゼルガディスが問う。
俺はゼルガディスを見やり、もう一度頷いた。


「あれの中に、まだレゾの魂が残ってたんだ。長い年月をかけて
 魔王に蝕まれながらも残っていた、あの人のひとかけらの
 良心が――俺の生み出した闇を自ら受け入れたんだ……。
 本来、悪い人じゃなかったんだろ」

「そう……だったの」


ゼルガディスが溜息にも近い呟きを落とす。


「……それにしてもリナさん、さすが……」


俺の方を振り返るアメリアは絶句した。
ガウリイお嬢ちゃんとゼルガディスも同じく。
俺の栗色の髪が、まっさらな銀色に染まっているのを見て。

生体エネルギーの使いすぎによって引き起こされる現象なのだが、
まあ、あまり見られる光景ではない。


「リ……リナさん……その髪……?」

「ああ、これか? 大丈夫、ちっとばかり力を使いすぎただけだから。
 疲れてはいるが――あんたたちは?」

「私は――平気よ」

「少なくとも死んじゃいないわね」

「はい、僕も大丈夫です」


アメリアに支えられていながらも、くすりと笑うゼルガディスは
多少はしっかりとしている。
ただ、よろよろと身を起こしているガウリイお嬢ちゃんは、
とても平気には見えない。
とはいえ、思いきり地面に叩きつけられたんじゃ仕方ないか。


「そうか――ともかく無事で良かった」


俺は微笑んでそう呟くと、体が傾くままにまかせて大の字に寝っ転がった。
これだけ疲れたことってないんじゃなかろーかと思うぐらい、疲れた。

俺は心地よい睡魔にそっと身を委ね――。





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親記事: ドラスレ! 16-投稿者:とーる
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