TERROR [i]

1.KAKINAGURI i
2.怪談

綾架るきあさんの話

 Aさんの通っていた中学校は明治時代に建てられた旧校舎と鉄筋コンクリートの3階建ての新校舎がありました。
 新校舎の2階の廊下のトイレの横に、幽霊がうつるという噂のある大きな鏡がありました。

 例えば友達がトイレに行ってるのを待ちながらその鏡を見て髪をとかしていると、誰もいないはずなのに鏡の端を誰かがすっと横を向いて通りすぎたり、
 鏡で自分の足を見ていると、自分の後ろに自分のではないスカートのひだと両足が見えて、振り帰っても誰もいなかったり。


 Aさんの友達のBさんは、自分が見たことや確かめたことでなければ信じようとしない人で、当然その話しも信じず、平気でその鏡の前に立っていました。
 ある日、AさんとBさんは学校が終わってから英語塾に行きました。もう周りはすっかり暗くなっていました。
 そんなときBさんが、学校に行かないか、と突然言い出しました。
「忘れ物でもしたの?」
「違うよ、あの鏡を見に行ってくるの。」
 Bさんは幽霊の正体をあばくつもりでしたが、Aさんは当然嫌がったので、Bさんは一人で行くことにしました。

 学校に行くと、非常口の戸が開いていました。
 Bさんは薄暗い中、鏡の前に行って暫く待っていましたが、何もないので鏡に向かって、自分のほかに、噂の女子生徒が写るのを待っていた、と言いました。
「ははん、なぁんにもうつらないじゃない。うつるわけないわよね。」
 Bさんは鏡の中の自分に笑いかけ、ゆうゆうと家へ帰っていきました。


 次の日の朝、クラスのみんなに何も無かったことを報告しようと、Bさんは学校にやってきました。
 ところが、2階の廊下で、ぎょっとして立ち止まりました。鏡がなくなっているのです。
「あの鏡はどこへやったんですか?」
 職員室に駆け込んで言うと、用務員のおじさんが言いました。
「2階の鏡のことかね。昨日男子生徒が掃除中にふざけあいをしていて割ってしまってね。取り外して片付けておいたよ。」
「昨日ですって?今朝じゃないんですか?だってゆうべはちゃんとあったのよ?」
「昨日だが・・・はて?わしが取り外したんだがな。割れた鏡は昨日、生徒たちがほとんど帰ったあとに片付けてしまったよ」
 ということは、ゆうべはすでに鏡はなかったということになります。
 鏡がないのに自分の姿が写って見えるわけがありません。
 暗い廊下でBさんが向かい合って見ていたものは、いったい何だったのでしょう・・・?

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